セキチクシティには、サファリゾーンという1つの名所が存在する。
 町の北部に位置する動物園と、その先にあるポケモン捕獲用特別公園。

 また最近、この2つを合わせたような企画が持ち上がったという。
 動物園と同じで、基本的には見るだけ。
 しかし森林の広がる公園内を自動進行するイカダに乗る事で、通常の動物園よりも生活観のある野生ポケモン達を生で見られるという、迫力も兼ね備えた観覧サービスなのだ。

『この野生ポケモン観覧ツアーでは、他では見れない珍しいポケモンがいっぱい! お手持ちのポケモンを預けた後、順次イカダにお乗りくださーい』

 スピーカーの声に従い、ワンピースを着た少女……ブルーがイカダの上に立つ。
 備え付けの手すりを握ると、イカダはゆっくりと前進を始めた。

「さーて、楽しみ♪ 普通に捕獲の為のサファリゾーンに入ると、狙ったポケモンには案外出会えないものなのよね」

 彼女の言う通り、サファリゾーン内のポケモンにも種類によって出現率のバラツキがある。
 下手をすると目的にポケモンに1度も出会う事が出来ず、制限時間を終えてしまう事も。
 一方観覧ツアーであれば、従業員が確認しているポケモンの棲家近くまで運んでくれるので、珍しい種類のものでもより確実にお目にかかれるのだ。

「(ホントはモンスターボールは置いて来なきゃいけなかったんだけど、こっそり持って来ちゃったわ。目ぼしいのがいたら、内緒で捕まえちゃおっと♪)」

 

 ……ポケスペ原作を知る、当小説の作者はふと思う。
 何となくレッドとブルーって、似通った発想の持ち主なのかも知れない。

 

 

 

第11編「狩猟体験地(サファリゾーン)

 

前回までのあらすじ:
 デオキシス・Lv3との激戦の中……。
 一度、鏡の障壁を破った事のあるブルーは、目の前のレッドを救うために再び試みる。
 その結果、ブルーの助力でどうにか戦いに勝利した2人であった。

 

 

 

 目を覚ますと、まず見えたのは小さなメモ書きだった。
 机に上に置かれたそれを手に取ると、「せっかくだから町を見物してくるわね♪」とだけ書かれているのが分かった。

「……ケガ人を置いて、それかよ」

 レッドは右手でポリポリと頭をかきながら、このメモを書いた主であろうブルーに対して述べる。
 左腕は、骨折したとき用のギブスで固められた状態だ。

「つか、あいつどうやって俺の部屋入ったんだ? 夜、カギかけてから寝たよな……」

 場所は、セキチクシティにある宿の一室。
 隣の部屋に泊まっていたハズのブルーが残した、不気味(?)な謎の1つだった。

 

 

 

 外に出ると、いつもと変わらぬ日の光で照らされていた。
 普段の活発なレッドならば、その辺の人に早速ポケモンバトルを挑んでゆくのが常である。
 しかし一応、骨折中という身の上なので、さすがにいつも通りとはいかない。

「まっ、町の中を歩いてみるか」

 だが骨折と言っても利き腕である右手は無事だし、両の足もしっかりしている。
 そこまで、大きな不自由がある訳でもないのだ。
 さすがにいきなりバトルをしに行くなんて事は無かったが、もし途中で他の誰かがバトルをしていたら、やっぱり彼ならその中へ入っていってしまうだろう。

「……ん?」

 町を歩いて、少しした時……。
 レッドは、とある建物の前で騒ぎになっているのを見つけた。

「何か、あったのか?」

 試しに彼は、その中にいた歳の近そうな少年に尋ねてみる。

「あぁ。サファリゾーンで、事故があったらしいんだ」

「事故……?」

「何でも観覧ツアーに来ていた女の子が、行方不明なんだって。詳しくは分からないけど、イカダがニドキングやニドクインの生息地付近に来た辺りで、突然襲われたって事らしいんだ」

「……まさか、な……」

 レッドの脳裏に、嫌な予感がよぎった。

 

 

 

 サファリゾーン、モニター室。
 施設内全域に備えられたカメラの映像が全て集まる、管理室である。
 事故とあっては、当然ここはよりいっそう慌しくなっていた。

「最後にこの女の子を確認できたのは、この場面ですね」

 1人の男性が、無数に並べられたモニター画面の1つを指した。
 画面には、少女が奥で暴れるニドキングに対して、ボールを投げているシーンが伺える。

「どうやら、空のモンスターボールを隠し持ったまま、ツアーに参加していたようです」

「ニドキング同士の争い合いの中、どさくさに紛れて捕獲しようとしたのでしょう。それが相手の逆鱗に触れ、襲われてしまったものと思われます。残念ながら、少女の安否は確認できませんね……」

「うーむ……何て事だ……」

 サファリゾーンの責任者らしき年配の男性が、腕を組みながらうなっていた。
 その後ろから、ひょっこり顔を出したのがレッドである。

「うわっ、やっぱりブルーじゃんか……」

「……む、君は?」

 呆れ半分に言ったレッドの声を聞き、責任者の人が尋ねて来る。

「君は、この少女を知っているんだね?」

「あ、はい……まぁ……。でも、彼女もポケモントレーナーですから、そう簡単には……」

「いや、それがだね。この観覧ツアーでは、ポケモンを全て預けてから参加する事になっているんだ」

「……え!?」

 すると何かが、レッドの背後から近づいて来た。
 カメール、プリン、ピッピ、タッツー、メタモンと……ブルーが連れていたポケモン達である。

「ガウゥ……」

「ぷりゅ〜……」

 みんなが困った顔で、レッドを見上げるのだった。

「ほ、本当だ……」

「こうなったら、一刻も早く少女を見つけ出さんといかん。至急、捜索隊を編成しよう。わしも行く!」

「あっ、俺も行きます!」

「……いや、君はここで待っていたまえ」

 責任者の人が見る視線の先にあるのは、ギブスで固められたレッドの左腕。
 レッドも相手の表情から、その人が言いたい事を察した。

「さすがに危険を伴う事に、ケガ人は連れていけないよ。少女は必ず我々が連れ帰るから、君は少女のポケモン達の面倒を見てあげていなさい。いいね?」

「(くっ……こんな時に!)」

 相手の言い分はもっともだった。
 レッドが腹立たしく思ったのは、むしろ自分の折れた腕。
 満足にブルーを助けに行けない事が、何よりも悔しかった。

 

 

 

 ……が。

「園長達が出発して、もうすぐ30分って所だな」

「あぁ。無事である事を祈るしかないな」

 ドタドタドタっ!
 待機組がそんな会話をしている中、モニター室に駆け足の音が聞こえてきた。
 そして突然ドアが開いたかと思うと、走って来たらしき従業員が開口一番にこう言い放つ。

「大変ですッ! 少女の知り合いだという、例の少年がいなくなってます! 少女のポケモン達も!」

「……!? な、何だって!!」

 

 

 

 その頃レッドは、サファリゾーン内にひしめく木々の間を、悠々と歩いていた。
 やっぱしこの辺り、レッドとブルーは似ているかもしんない……。
 彼の後ろからは、ゾロゾロとブルーのポケモン達もついて来ている。

「ブルーの事だから、大丈夫だとは思うけどなぁ。けどやっぱ、もしもの事があったら……」

 ……ズドドドドッ……!!
 そんな時、いきなり聞こえて来たのは地響き。

「な、何だ!?」

「ガゥガゥ!」

 カメールが、腕を伸ばして何かを指し示す。
 見るとその方角から、凄い勢いでニドキングが突撃して来るではないか。

「グオォォォォッ!!」

「うわっ!?」

「ぷりゅう!」

 すかさずプリンが前に出ると、トライアタックを放ち迎撃を行う。
 ところが攻撃は、いともたやすくニドキングの振るった腕で弾かれてしまった。

「ぷりゅ……!?」

「頑丈な奴だな、こいつ! ゼニガメ、相手は地面タイプだ。ここは水タイプのお前が……」

「グオァァッ!!」

 ズドォンっ!!
 突如、大きく揺らぐ大地。
 ニドキングの放った凄まじい威力のパンチが、地面に叩き付けられレッド達の足場を揺らしたのだ。

「うわ、しまった……」

 よろめくレッドに、今度は直接ニドキングの拳が叩き込まれようとする。
 しかしその寸前、ガツっと何かがニドキングの頭部にヒット。

「……石?」

「こっちよ!」

 更に聞こえたのは、間違いなくあの少女……ブルーの声だった。
 石をぶつけられたニドキングは、当然怒りの矛先をブルーへと変える。

「ブルー、こんな所に……!」

「レッドこそ、そんな体で何しに来てるのよ。早く逃げないと、ヤバイわよ!」

「って、俺はお前を助けにだなぁ!」

 だが、そんな言い争いもゆっくりさせてくれる時間はもらえない。
 ニドキングはところかまわず両腕を振り回し、周囲にそのパワーを存分に見せ付けた。
 無茶苦茶に広がる攻撃が、森の木や岩などを次々と殴り砕いてゆく。

「きゃっ!?」

「暴れる……か! しかし、本当に凄いパワーだな、あいつ」

「だから捕まえようとしたんだけど……失敗しちゃったのよね」

「それで、こんな状況になってんだろ! 少しは自覚しろよ!」

「……ごめんなさ〜い……」

 いまいち反省の色が見られなかったが、一応ブルーは謝った。

「(……でも、俺でもやっぱり捕まえようとするかもなぁ。こんな立派なニドキングなら)」

 などと考えている内に、ニドキングの暴れる攻撃はますますエスカレート。
 そのままこちらに近づき、まとめて攻撃の渦に巻き込もうとしてくる。

「おい、ブルー。何とかしないと……」

「わ、分かってるわよ。ピッくん、鳴き声よ!」

 どうやらブルーは、相手の攻撃力を下げる作戦に来たらしい。
 その効果を持つ技の中でも、鳴き声は言わば基本中の基本。
 ……しかし。

「……グオォ……!」

「え?」

 低く唸ると、ニドキングはまたも暴れる攻撃を発動してきた。
 再び辺りは、がむしゃらな攻撃で破壊され続けてゆく。

「おいっ、あんま効いてないぞ!?」

「そ、そんな事言ったって……」

 その時。
 ニドキングの腕が、レッドの体に触れた。

「うおっ!?」

「レッド!」

 かすめただけでも、強大なパワーに吹っ飛び倒されるレッド。
 と、そこでレッドの手荷物から、1つの小さな石が転げ落ちた。

「……!」

「いててっ……こいつ〜!」

「……レッド、その石は?」

「へ?」

 ブルーの質問に、一瞬戸惑いながらもレッドは答える。

「あぁ、月の石だよ。何でも、特定のポケモンをパワーアップさせる事ができる石とかで……前に手に入れたんだ」

「…………。お願い、レッド。それ、あたしにちょうだい!」

「え……!?」

 ……一方ニドキングは、二度目の暴れる攻撃を終えていた。
 さすがにここまでフルパワーで攻撃していただけに、やや疲労が溜まっているようにも見える。

「グルルゥ……!」

 だが血走ったニドキングの目からは、もはやまともには止められそうも無い事が十分伺えた。
 そんな彼の瞳に映ったのは、レッドとブルーが一緒に佇んでいる姿。
 まとめて倒してしまおうと、改めてニドキングの照準が定まる。

「グルッ……グオォォォ!!」

 ありったけの力を込めて、ニドキングは突進してきた。
 ところがその時……レッドとブルーのいる所から、パっと光がほとばしる。

「……グォッ?」

「今よ、ピッくん! 指を振る!」

 ブルーのピッピが、勢いよくニドキングに向かって飛び出した。
 ……いや、それはもうピッピではない。

「ピッピの進化形、ピクシーか! 月の石の効果で、進化を……?」

 指を振るは、ランダムで様々な効果を発生させる技だ。
 電光石火でニドキングとの距離を詰めたかと思えば、連続パンチで相手をよろけさせ、続いて至近距離からの破壊光線をぶつける!

「グオォっ!?」

 ズドドドドッ!!
 強力な光線を受けて、ニドキングの巨体は10m近くもぶっとんだ。

「すっげぇ……。進化した事で、パワーが格段に上がってるのか」

「いいわよ、ピッくん。レッド、アシストをお願い」

「……! 分かった。フッシー、行け!」

 右手でモンスターボールを取ると、彼は前方へ投げつけた。
 ボールから現れたフシギソウは思いっきりツルを伸ばして、仰向けに倒れて一時的に動きが止まっていたニドキングの四肢を縛りつける。

「今だわ。ピッくん、最後の一撃よ!」

 今一度、指を振るを発動するブルーのピクシー。
 発現した技は、捨て身タックルだ。

「ピィィィっ!!」

 ドゴォッ!!
 ピクシー渾身の一発が、ニドキングの腹部にめり込んだ。

「グォッ……オォォォ〜……」

 ばったり……。
 そのままニドキングは、気絶してしまうのだった。

 

 

 

 とまぁ、そんな感じで危機を脱したレッドとブルーであったが。
 その後2人揃って園長ならびに従業員達から、散々叱られたのは当然の話。
 自業自得とはいえ、そんなこんなですっかり疲れ果てた2人であった。

「やれやれ……今日は散々だったな」

「わ、私だけのせいじゃないわよ」

「…………。ところで、俺があげた月の石だが。あれって、結構貴重品なんだよな〜」

「うっ……。何が言いたいのよ」

「別に〜。けどもし立場が逆だったとしても、お前は絶対そう言うだろなーと思って」

 それは確かに、ブルー本人も反論するすべが無かった。
 しばらく無言を通した挙句、ブルーは不意にレッドに向けて何かを放り投げた。

「!? うわっ」

 レッドは、慌てて右手でキャッチ。

「あ、危ねぇな……。何だよ、いきなり!」

「……あげる。それでチャラよ」

「何ぃ……?」

 見れば、投げ渡されたのは鈍い黄金色の光を放つ石。
 透き通ったその中には、小さな虫のような何かが入っている。

「この前、ちょっとした事から手に入れた石なの。綺麗だから取っておいたんだけど……そんなに言うなら、月の石貰った代わりにそれあげるわよ。しょうがないし」

「…………。ありがとな」

 あえて普段通りの明るい口調で、レッドはそう言った。
 ブルーが第8話で手に入れた『秘密のコハク』は、こうしてレッドの手へと渡ったのである。
 もっともこの時点で、2人がその石の持つ秘密を知る由は無かったが。

「なぁ……。ブルーは、これからどうするんだ?」

「どうするって、何がよ?」

「いや……」

 突然振った話題を、ブルーは素で言い返した。
 レッドは少しためらい気味になりながらも、彼女への言葉を続ける。

「俺はこれから、南に進んでグレンタウンを目指そうかと思ってるんだ。ブルーの方は、どこか行く予定でもあるのかと思ってさ……」

「……考えてない」

「そ、そうか」

 ブルーは「考えてない」と言ったが、実はこの解答、間違いではないが正しいとも言えなかった。
 元々ブルーは、レッドを追いかけてセキチクシティに来たのである。
 今この後、どうするかを考えていないのは確かだ。
 だが結局の所、ブルーはまだレッドに会っただけで、何もしていない……。

「(素直な気持ちでレッドと会う……そう決めたのに……)」

 彼女の表情がわずかに暗くなるのを、レッドは見逃さなかった。

「……良かったら、一緒に旅してみないか?」

「!」

 ブルーの目が、大きく見開かれる。
 それだけ彼の言った言葉は、彼女の心を揺さぶったのだ。

「あ、いや……ブルーが嫌じゃなければって話だけどな」

「…………」

「ブ、ブルー?」

 彼女は急に、何も言わなくなってしまう。
 話を持ちかけたレッドは、やや不安になりつつ彼女を呼んでみる。

「…………。レッドは、ポケモンリーグを目指してるのよね……」

「え? あぁ、そうだけど」

 無言のままかと思えば、突然返って来たブルーの声。
 レッドは平静を装って答えたが、正直心の中ではどぎまぎしていた。

「…………。なら、決めた。あたしも、ポケモンリーグを目指してみる!」

「…………。は?」

 帰って来たのは、最初のレッドの質問に対する、直接の答えにはなっていないブルーの解答。

「次のポケモンリーグに、レッドは必ず来るんでしょ? あたしもそこに行けば、また会えるって事じゃない」

「そ、それはそうだが……」

 このブルーの言葉が、暗にレッドとは一緒には行かない事を意味していた。

「だからそれまでは、ポケモンリーグの頂点を狙うライバル同士よ。あたしは絶対、レッドにも負けないからね」

「は、ははは……」

 思わずレッドは、苦笑い。

「……だけど、それが終わったら……その時はレッドと……」

「……え?」

「…………。考えといたげる♪」

 不意に、ブルーは駆け出した。
 まるで、そのままレッドの前から走り去ってしまいそうな……っていうか本当にそのつもりっぽい。
 彼女は駆け足のペースを落とす事無く、んべっと舌を出す顔を見せながら走って行く。

「……何だそりゃ」

 またレッドは、思わず苦笑い。
 されど、どこか気持ちはスッキリした様子だった。

「バイバ〜イ」

 いつの間にか、すっかり遠くの位置で小さくなったブルーの姿が、こちらに向けて手を振る様子が見える。
 レッドもごく自然に、右手を振り返した。

 

 その半年後。
 カントー地方セキエイにおいて、ポケモンリーグは開かれる……!

 

 続く

 

 今回はサファリゾーンの話でした。
 でも個人的には、終盤のレッドとブルーの会話の方がメインっぽい気がしなくもない(ぁ)。
 第8話同様に、サファリゾーンで遭難するのをブルーの方にしてみました。
 しかし第8話とは違い、そのブルーを探すレッドの方にむしろ重点を置いた話です。
 されどバトルシーンを始め、所々でブルーのが重点置かれてるシーンもあったのはご愛嬌(待て)。

 次回、第12話「ポケモンリーグ」。
 お楽しみに。

 

第12編へ   小説メニューへ