数年に1度、ポケモントレーナーの頂点を決める大会が開かれる。
 場所はカントー地方北西端の地、セキエイ。
 老若男女のトレーナー達が憧れる、その大会の名は『ポケモンリーグ』。
 今年はそれが行われる年であり……ついにその日は訪れる。

 

 

 

第12編「ポケモンリーグ」

 

前回までのあらすじ:
 出会って以来、様々な出来事の中で互いに想いを寄せていくレッドとブルー。
 2人は次に開かれるポケモンリーグを各々で目指し、その時に再会する約束を交わす。
 ……そして半年が経ち、いよいよそれは開かれるのだった。

 

 

 

『Aブロック通過者は、ブルー選手に決定!』

 アナウンスの後に、会場は盛大な歓声に包まれる。
 その熱気は、正しく最強のトレーナーを決める式典として相応しいものだった。

「しかし……可愛いな、あの女の子」

「俺、あの娘(こ)応援しちゃおっと♪」

 一部、ちょっと違う気もするが……。
 たった今、ブロック通過者決定戦を制したブルーは、長方形の石造りがなされたバトルフィールドより降り立つ。
 彼女の瞳には、明らかに以前とは異なる輝きが宿されていた。

「さ〜てとっ。レッドはきっと他のブロックよね。どこにいるのかしら?」

 

 

 

 彼女は別会場とをつなぐ廊下を、弾むような足取りで歩いた。
 半年ぶりに会えるであろうレッドへの想いが、そうさせるのか?
 ブルー自身は無自覚だったかも知れないが、その様は誰が見ても嬉しげである。

「まさか、予選落ちしてるなんて事は無いでしょうねぇ〜。もしそうだったら、優勝はこのあたしがもらっちゃうけど♪」

 やがて廊下は、CブロックとDブロックのバトルフィールドのある会場の入り口をもって終点を迎える。

 ポケモンリーグは4ブロックに分かれてリーグ戦を行い、一位となった者が予選通過。
 ベスト4に進出した者達で決勝トーナメントに参加し、チャンピオンの座を決めるのだ。
 1つの会場に2ブロックごとの予選が行われ、A・B両ブロックでレッドの姿を見なかったブルーは、もう一方の会場にレッドがいると踏んでやって来たらしい。

「……あっ」

 案の定……ブルーは会場に来てすぐに、彼の存在を発見する。
 グリーンと話をしているレッドの姿を、確かに確認できた。

「……知っているか、レッド」

 それは、グリーンの声である。
 近づくブルーの耳へ自然と入ったそれに、彼女は思わず足を止めた。

「トレーナーの頂点を決める大会、ポケモンリーグ。この歴代優勝者には、ある法則が存在する」

「法則……?」

「ふっ。全員が、マサラ出身のトレーナーなんだよ」

「……!」

 グリーンの話に、レッドは気の引き締まった顔となる。

「そして……今回の優勝者も、マサラのトレーナーとなることだろう」

「俺か、お前……。そういう事だな」

「そうだ。決勝、楽しみにしてるぜ」

 そして、彼はレッドの前から去って行く。
 様子を見ていたブルーに、気づいた様子はないようだ。

「…………」

 こんな賑わった会場内において。
 ただ1人……ブルーという名の少女が、暗い顔になっていたのに気づく者はいなかっただろう。
 大体彼女にしたって、つい先ほどまではこんな顔などしてはいなかった。
 理由は、マサラのトレーナーであるレッドとグリーンのどちらかが優勝すると、はっきり言われたからか?
 ……いや、それだけだったらブルーのことだ。
 自分の実力で見返してやろうとするハズである。

 本当の理由……。
 それは彼女の心の、より奥深くに眠っていた。

「……レッド!」

 ドンっと、不意をついてレッドの背を押してみた。
 彼は何とも予想通りに、よろけた体のバランスを取りつつ、驚いた様子で振り返る。

「っ!? ブ、ブルー……」

 もはや彼女の顔には、先ほどわずかな時にだけ見せた表情の暗さは、残っていない。
 ブルーは胸を張り、クイクイっと親指で自分の後ろ方向にあるモニターを指した。

「!! Aブロック通過者、ブルー……」

 モニターに書かれたメッセージを、レッドはほとんど棒読みで述べた。

「ホホ♪ 予選は軽かったわね」

 そう言うときびすを返し、去り際に一言。

「それじゃレッド、次は決勝で会いましょ。あたしだって、『マサラのトレーナー』だもの!」

「……え」

 タタタっと、ブルーはあっという間に走り去った。
 一瞬ぼーぜんとしたレッドは、時間を置いてからブルーの言葉を理解していく。

「えっ……ええ!? ブルー、それどういう事だ!」

 いくら呼びかけても、すでに彼女は姿を消している。
 久しぶりに再会したのもつかの間、レッドは謎を残したまま、決勝会場へ行くほかなかった。

 

 

 

――……そう、あたしはマサラのトレーナー。

――だからこそ、レッドやグリーンがちょっぴり羨ましくて、悔しい。
――でも、もういいわ。
――あたしはあたしの力で、ポケモンリーグを勝ち抜いてみせるもの!

 

 

 

 そして、決勝会場。
 レッドは観戦席に座り、先ほどブルーが言い残した言葉を未だ考えていた。

「(おっかしいなぁ。ブルーがマサラ出身なら、俺と同じ町で暮らしてたってことだろ? あんな小さな町で、同じ年頃だったら知らないハズは……)」

 ……ところで、決勝進出を決めたレッドは、どうして観戦席で悠長に座っているのか?
 実は決勝トーナメントの組み合わせがすでに決まっており、レッドは後のバトルの参加となっていたのだ。
 組み合わせは、準決勝第一試合がブルーと見知らぬおじさん、第二試合がレッドとグリーンの対戦だ。
 当然、これらを勝ち抜いた2人で決勝となるのだが……問題は、ブルーの対戦相手。

「…………。何だ、あの人。」

 黒い帯をぐるぐる巻きにして顔を隠した、得体の知れない初老の男性だった。
 名前は『ドクターO』と言うらしいが、何ていうか怪しい人物である事は間違いない。
 ……と、そこへレッドの隣の席に、グリーンが腰を下ろした。

「あ、グリーン。あの、変なおじさんなんだけどさ……」

「…………」

「……? グリーン、どうかしたか?」

 元々口数の少ないグリーンだが、今この場では特に無口な様子である。
 そして彼は、レッドにこう一言。

「……俺に聞くな」

「え? あ……あぁ」

「…………(ったく、何考えてんだ?)」

 どういう訳か、グリーンはドクターOの姿を見るなり、深々とため息をついていた。

 

 

 

 こうして、ついにポケモンリーグ決勝トーナメントの幕が上がる。
 ブルーとドクターOは、バトルフィールドの上で向き合い立つ。

『それでは、試合開始!』

 会場内に響いたアナウンスを合図に、両者はポケモンを繰り出した。
 ブルーはプリン、そしてドクターOは……

「オ、オニスズメ……?」

 驚いた様子で相手ポケモンの名を口にしたのは、他ならぬブルーである。
 オニスズメは飛行ポケモンだが、いかんせん進化前ではパワー不足のハズだ。
 それを、あえて決勝に出してきている……。

「(驚く程でもない……か。あたしだってプリンを、レッドだってピカチュウを決勝に出すでしょうし。けど……)」

 ブルーにとっての問題は、彼女自身が抱くトラウマである。
 鳥に対してどうしても拒絶する精神を拭い去れない彼女には、やりづらい相手と言えた。

「(……まぁ、いいわ)ぷりり!」

 ブルーはプリンを繰り出し、先手必勝と言わんばかりに速攻をさせる。
 片手にエネルギーを溜め、トライアタックの光線をぶつけたのだ。

「あたしは、この一撃で予選を勝ち抜いて来たんだから!」

 ……ちなみに、ポケモンリーグの公式ルールは少し特別である。
 通常のフルバトルでは、ポケモン全員がダウンした方が負けというルールだ。
 しかし今回は、ポケモン1匹が倒れた途端に勝敗が決する。
 それまでどんなにダメージを受けていても、相手のポケモンをただ1匹を倒せれば勝ちなのだ。
 つまり手持ちの各ポケモンの疲労やダメージ状況から退き際を見定め、的確に交代させることが重要となる。

「準決勝といえど、相手がオニスズメじゃ何ともあっけなかったわね。オ・ジ・サ・マ♪」

「……ふふ、それはどうかな?」

 ドクターOの言葉の直後、いきなりオニスズメがこちらに飛びかかって来た。

「!? 倒れてないじゃないの」

「みだれづき!」

 ズガガガっ!!
 オニスズメが、くちばしを用いて四方八方に連続突き攻撃を放つ。

「うわたたたっ」

「ブルー!」

 一気に窮地に立たされたブルーを、レッドはすかさず呼びかけた。

「何やってんだ、相手に上を取られちゃ分が悪いぞ。早く空中戦に切り替え……」

 と、言いかけてレッドははたと気づく。
 以前、彼女が鳥に対して異常な恐怖を示していたことを。

「(……そうか。ブルーには、鳥ポケモンがいない!?)」

 そうなれば、ブルーのが確実に不利だ。
 空中からの立体的な攻撃に対しては、こちらが地上にいたままでは明らかに戦いにくい。

「くぅぅ〜……!」

「諦めるな、ブルー! 空中戦が無理なら、電気で痺れさせるか冷気で凍らせるかして、とにかく相手の翼を封じろ!」

「シツレーね、諦めてなんかいないわよ。けど、あいにく電気も氷もないけどね!」

「……だ、だったら岩だ! 岩落としみたいに、上からの攻撃ならきっと……」

「岩タイプだって無いわよ」

「じゃ、何ならあんだよ!!(怒)」

「うっさいわね!! 外野は黙っててちょうだい!!(怒)」

 何だか、バトル場と観客席とで痴話ゲンカとなったが……(何)。
 いずれにせよ、ここで負けたくないのはブルー本人も同じ気持ちだ。

「だったら……カメちゃん!」

 ここでブルーは、カメックスにチェンジ。
 すかさずブルーがつかまると、地面めがけてハイドロポンプを放たせた。

「ガゥゥゥっ!」

「む?」

 カメックスに頭と手足をコウラに引っ込ませると、両肩に備わる大砲だけを出し、ロケット噴射のように活用したのである。

「ハイドロポンプの逆噴射……これならあたしにだって、空中戦ができるわ」

 あっという間に、彼女はオニスズメの上を取った。
 そこから今度は、ブルーの方が水の大砲による攻撃に移ったのだ。

「さぁ、今度こそ観念しなさい!」

「くっ……なかなかやりおるのぅ、ブルーよ」

「!? 何で、あたしの名前を……」

「じゃが、これならどうかな。オニスズメ、オウム返し」

 直後、オニスズメの方からカメックスのと同等の水流が襲いかかる。

「きゃっ!? こ、これは……」

「相手の技を、そっくりそのまま返す技……オウム返しじゃよ」

「あわわわわっ」

 バランスを崩し、そのままカメックスとブルーは墜落。
 ドシャ……!

「うぅ……はぁ、はぁ……」

「残念じゃが、君に勝ち目はない。……盗んだポケモンに頼っておる限りはな」

「っ!! ……あぁ、そういう事だったの」

 するとドクターO、しゅるしゅると顔に巻いた黒い帯を解き始める。
 そして、その素顔をとうとう表したのだった。

「……オ、オーキド博士!?」

「…………」

 顔を見て、驚きの声をあげるレッド。
 そして、複雑そうな表情のまま結局無言でい続けるグリーン。

「まさか、そんな……」

「ふっ。レッド、最後までわしの正体に気づかんかったのか?」

「……オーキド博士が、まさかそんな趣味だったなんて」

「どういう意味じゃ!」

 くわっと、怒りながら拳を振り上げるオーキド博士だった……。

「……まぁ、ええわい。それよりブルー」

「っ!」

「まだ試合を続けるつもりなら、相手はするが……。ここで降参するなら、それも1つの手じゃぞ」

「…………」

 何も言わず、ゆっくりブルーは立ち上がる。
 追い詰められはしたが、彼女の瞳はまだ負けていない。

「……続けるわよ。あたしもカメちゃんも、まだ戦えるわ!」

「ブ、ブルー……」

「レッド……ごめんね。さすがに気づいてるでしょうけど、確かに博士の研究所からゼニガメを盗んだのは、このあたしよ」

「…………」

「けど、そうだけどッ! あたしがこれまで、カメちゃんと共に過ごしてきた旅は、決して偽物じゃないわ。今のカメちゃんは、あたしの友達なんだから!」

 カメックスも、ブルーの言葉が嘘ではないことを、行動で示す。
 彼女の気持ちを汲んで、渾身のハイドロポンプを放った。

「ほう。ならば、このわしを倒してみる事じゃな。オニスズメ、オウム返し!」

 バシャアアッ!!
 両者の水攻撃がぶつかり合い、凄まじいしぶきが辺り一帯を包み込んだ。

「(見えとるぞ、ブルー。右じゃ)」

 水しぶきの中、オーキド博士は右側へカメックスの影が駆け込んで行くのを確認する。
 当然オニスズメも、そちらへ攻撃を定めた。

「さぁ、これで最後……むっ?」

 だが、オーキド博士は攻撃の手を止めた。
 確かに影は、カメックスに見えたのだが……その姿がドロドロと溶け出してしまったのだ。

「(しまった、メタモン!?)」

「こっちよ!」

 逆にブルーと本物のカメックスは、反対側に回って完全にオーキド博士の後ろをとる。

「行っけぇ、カメちゃん!!」

「ガゥガゥゥ〜!!」

 最後の力を振り絞っての、両肩の大砲より放つ強力なハイドロポンプ。
 それがオニスズメの真後ろから直撃した。

「ぬぉっ」

 背後からの攻撃では、オウム返しをする暇もない。
 オニスズメは、明らかに今の攻撃で力尽き……そして倒れた。

『き、決まりました! ブルー選手、決勝進出です!』

 壮絶な攻防に息を飲んでいた観客たちも、一気に盛大な歓声を湧き上がらせた。
 一方、当の勝者であるブルー本人は、疲れ果ててヘタリとその場に座り込んでしまう。

「か、勝った……」

「やったぜ、ブルー!」

 レッドも身を乗り出して、ブルーに声をかけてくれた。
 自然とブルーの顔にも笑顔が戻り、手を振ってそれに答える。

「……よくやったのぅ」

「!」

 と、そこへオーキド博士が近づき、ブルーに話しかけた。

「最後の攻撃は、君とカメックスとの信頼関係が無ければ、決してできぬ事じゃったろうな」

「…………」

「なるほど。君とカメックスとの絆が、偽りではない事はよく分かった。……じゃが」

 ポンっ。
 オーキド博士は、ブルーの頭の上に手をおく。

「やっぱり、泥棒はいけない事なのじゃ。たとえ、どんな理由があろうとな。それだけは覚えておきなさい」

「…………。ごめん……なさい……」

 顔をうつむけ、ブルーはか細い声で謝った。

「博士。ブルーのカメックスは……」

「あぁ、レッド。心配はいらぬよ」

「!」

「ブルーがポケモンを間違った育て方をしてない事、それは十分に分かった。カメックスはこのまま、彼女のポケモンとしてやろう」

 

 

 

 試合が終わり、控え室にてブルーは椅子に腰掛けていた。
 その場にはレッドとグリーン、そしてオーキド博士の姿もある。

「私……悔しかったの」

「え?」

 不意に口にしたブルーの言葉に、レッドは尋ね返した。
 しかしブルーはなかなか次を言うことができず、代わりにオーキド博士が彼女に尋ねる。

「ブルー。君は6年前、マサラで行方不明になった女の子……じゃな?」

「…………」

「博士、どういう事?」

 話が見えないといった感じのレッドが、博士に質問する。

「6年前のマサラタウンで、1人の少女が大きな鳥に連れ去られる事件があったんじゃ。わしにも同い年の孫グリーンがおった事で、他人事とは思えなくてのぅ。ずいぶん捜索したんじゃが、結局見つけ出す事ができんかった」

「それが、ブルーだったのか……」

「彼女が鳥に恐怖を覚えるのも、その時の後遺症なのじゃろう。6年間、どこでどうしておったかは分からぬが、何にせよ無事でよかったわい」

 ブルーの過去をようやく知り、レッドはどう声をかけていいか分からなくなってしまう。
 そうしてまごついていると、ようやくブルーの方から口を開いた。

「……でも、それなければあたし、きっとレッドやグリーンと一緒に旅立ってた」

「え?」

「レッドとグリーンは、フシギダネとヒトカゲ、そしてポケモン図鑑を貰って旅立ってたのに……あたしは……」

「そっか。それが悔しかったんだな」

 コクリと、頷いてブルーは答えた。

「……君の気持ちは分かる。じゃが先ほど話した通り、泥棒はいけない事じゃ」

「…………」

「君がもし、もう泥棒も詐欺もしないと誓えるのならば……!」

 オーキド博士は、話しながら懐より1つの機械を取り出す。
 それは、まぎれもなく……!

「! ポ、ポケモン……図鑑……?」

「こいつを、君にあげよう」

「…………。ぅ……うわぁぁぁん!」

 ブルーは博士に抱きつき、そして小さな子供のように泣きじゃくった。
 考えてみれば、レッドは気丈に振る舞うブルーの内側に、心の脆さを幾度となく垣間見てきた。
 ようやく……彼女の中で張り詰めていたものが無くなったのだろう。

「……おい、レッド」

 そこへ、グリーンが声をかける。

「そろそろ俺達の試合だ。行くぞ」

「あ、あぁ!」

「……レッド……」

 グリーンの後について行こうとした時、まだ泣きの声色が若干混じった様子のブルーが、彼の名を呼んだ。

「絶対……決勝に来てね……」

「! ……分かってる」

 

 続く

 

 原作で、ブルーとオーキド博士の試合はブルーが負けてしまいます。
 けど個人的に、ぜひとも1度レッド対ブルーのガチンコ対決を見てみたかったんですよね(何)。
 それもポケモンリーグ決勝で。
 なので、この話ではブルーが勝ち、決勝進出となりました。

 次回、第13編「好敵手(ライバル)対決」。
 お楽しみに。

 

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