「ポケモンリーグの歴代優勝者は、マサラのトレーナーって話だったわね」

「やっぱり今年も、そうなるみたいだな。何しろ俺とお前、どちらもマサラのトレーナーなんだから」

 ポケモンリーグの決勝戦。
 向かい合う少年と少女は、どちらもマサラタウンを出身とする11歳のトレーナー。

 しかし、育ちは大きく異なる。
 一方はトレーナーとなるまでマサラで暮らし育ち、一方は幼少よりマサラの地を離れて育った。
 なので同じ出身地とはいえ、お互い全く知らない存在として半年前に出会い、そして現在に至る。

 一時は共に旅をし、協力し合って危機を潜り抜けたこともあった。
 だが今この場においては、競い合うべき対戦相手に他ならない。

「準備はいいか、ブルー?」

「ホホッ。誰に言ってるのかしら。レッドこそ負けた後で、言い訳するんじゃないわよ♪」

 

 

 

第15編「最終決戦(ファイナルバトル)」

 

前回までのあらすじ:
 マサラタウン出身のポケモントレーナー、レッド。
 彼がタマムシシティを訪れた際、ブルーという名の美少女と出会った事から、物語は始まった。

 始めは金づる目的で、レッドを騙すべく近づいたブルーだったが、やがて惹かれるようになっていく。
 そんな中、2人は謎のポケモン、デオキシスとの戦いに巻き込まれる事に。
 戦いのたびにパワーアップをしていくデオキシスを、2人は辛くも退けるのだった……。

 やがて、ポケモンリーグが開催。
 準決勝ではブルーがオーキド博士を破り、そしてレッドがグリーンとのライバル対決を制した。
 同時にレッドは、ブルーがかつてはマサラに住み、幼少期にさらわれた女の子であったと知る。

 ……そして今、ついに決勝戦の幕が上がるのだった!

 

 

 

 戦いは熾烈を極めた。
 いや、ポケモンリーグの決勝である以上、それは至極当然のことである。

 ……だが。
 その割には、今ひとつ会場内の盛り上がりに欠ける。

「もっとも、盛り上がってないという訳ではないのじゃが」

 オーキド博士の言葉も、正しかった。
 別に静まりかえってる訳ではない。
 仮に今、初めてここに訪れた者がいたならば、圧倒させるぐらいの熱気は存在した。

 それでも、何かが物足りない。

 理由の1つに、昨日のレッドvsグリーンの戦いが白熱し過ぎたせいもある。
 力と力のぶつかり合い、それでいて張り巡らされた戦術の駆け引き。
 あれ程の名勝負はそうお目にかかれるものではなく、相対的に決勝戦を見劣らせてしまっていた。

「力量で、ブルーが劣っている訳ではない……がな」

 と、グリーンが補足する。

「バトルスタイルの違いもあるからのぉ。裏をかく奇襲戦法も立派な戦術じゃが、レッドやグリーンのようなパワーが伴っている方が、どうしても観客の目は向いてしまうものじゃ」

 オーキド博士の言う事も分かる。
 民衆が派手な方に惹かれがちなのは、世の常だ。

「無論、それが悪い訳ではない。ブルーはブルーなりの戦い方で、ここまでやって来たのじゃ。勝負の世界で、勝敗以外のことを求めるというのは無粋というものじゃよ」

「あぁ。あの女が、それで納得すれば……だがな」

 

 

 

 ある意味、グリーンの危惧(?)は的を射ていた。

「(…………。あたしじゃ、グリーンの代わりになるのは役不足だっていうの?)」

 そう、ブルーは妙にムカムカした態度でいて、あんまし試合に身が入っていない!(ぇ)
 ポケモンリーグ決勝たるハイレベルバトルともなれば、それが致命的な劣りとなるのは明らかで……。

「(? 気のせいか、ブルーの気迫が薄いような……)」

 始めこそ接戦であったものの、徐々に差が開きつつある状況に、レッドは不思議な手ごたえの無さを感じていた。

「ピカ、10万ボルト!」

「くっ……カメちゃん、ハイドロポンプ!」

 バチバチッ!! バシャシャァッ!!
 強烈な電撃が、水の弾丸を一瞬で霧散させる。
 急激に視界が悪くなったバトルフィールドだが、その向こうにブルーが潜んでいるのは明らかだった。

「(本気……だよな? ブルー)」

 もしブルーが今、力の限りを尽くしているというのなら、それを問いただすのはあまりに無礼。
 信じるべきは、彼女の心の内か、あるいは実は奥底に隠されているかも知れない真の力か。
 優勢を確立しつつあったレッドの勢いにも、徐々に曇りが見え始めていた。

「(……あたしは、本気でやってるわよ)」

 一方ブルーは、無言のまま訴えていた。

 だが、口に出さずとも、その言葉は紛れもなくレッドに向けられたものだった。
 本当に本気でやっているのなら、心の中のみでといえども、訴える必要などない。

 訴える必要があるとするなら、レッドが物足りなさを感じていることを表情から読み取り、それに対して苛立ったからか……?

 ……そうではない。
 少なくともブルー自身、自分のバトルの組み立てが、上手く回ってないことを自覚していたのだ。

「…………」

 彼女のポケモン達は、よくやってくれている。
 だからこそ、司令塔であるブルーの指揮が半端な状態であろうと、ここまでレッドと渡り合えてきた。
 けれども、ぼちぼち限界も近い。
 このままのペースで戦い続けていけば、ジリ貧となってレッドに押し負かされるのは明らかだった。

「……私は、何を恐れているんだろ。レッドの目の前に立つ事を……怖がっている?」

 そこへきて、ようやく彼女は1つ気づいた。

「そっか、あたし……。今、初めてレッドの『正面』に立っているんだわ……」

 もちろん、顔を合わせるという意味で、彼の前に立ったことは幾度もある。
 最初に出会った時は詐欺にハメようとしていたので、いささか争ったりもした。
 デオキシスという敵が出現した時は、助け合ったりも……。

 だが、真正面から立ち向かっていく、文字通りの真剣勝負はこれが初めて。
 それは何も、レッド相手に限ったことではない。
 仕方なかったとはいえ、これまでのブルーの行動全てが、騙し討ちに特化し過ぎてしまっていた。
 そこにある、予選では何ら気にならなかった脆さが、決勝にしてようやく眼前に突きつけられている。

「(……ふっ、なんだ)」

 ブルーは、かすかに唇を噛んでいた。

「(どうせあたしに出来る事なんて、『それ』しかないんじゃない)」

 

 

 

 レッドは、ブルーの様子を伺いながら戦っていた。
 手ごたえがあろうと無かろうと関係ない、相手には全力で挑むのが礼儀だ。
 ……そう、自分を言い聞かせつつも、どこか引っかかるものを感じていたからだ。

「(ブルー……?)」

 すると、どうしたことか。
 途端にブルーは、足を崩してその場に座り込む。

「!! ブルー!?」

 驚いて駆け寄るレッド。
 だが、それをブルーは、手を掲げる形で制止した。

「駄目よ、レッド。勝負中なんだから」

「っ!」

「ただ……はぁっはぁっ……。ごめんね……あたしじゃ、ポケモンリーグの決勝戦で、あんたの相手を務めるのには役不足だったみたい」

「……ブルー」

 彼女の目は、涙で潤んでいた。
 思わずレッドは、その場で立ち尽くして動きを止めてしまう。

「……だから」

 ドサッ!!
 不意に後ろで、鈍い音が聞こえてくる。

「ごめん。やっぱあたし、『こういう戦い方』じゃなきゃダメみたい」

「え゛」

 慌てて後ろを振り返る。
 いつの間にいたのか、そこには歌を歌うブルーのプリン、そしてすっかり眠りこけるピカチュウの姿があった。

「……ぐっ。泣いたふりして油断を誘っただけでなく、お前……プリンの歌で、俺まで……」

 この歌による睡魔、レッドの意識も容赦なく奪いにかかる。
 恐らくブルーは耳栓をしているのだろうが、会場にいる観客までも巻き込み、眠気で襲っていた。

「ホホッ。あたしが、どんな手段で来るか分からないってこと、今更教えてあげるまでもないでしょ。最後に勝つのはココなのよ、レッド!」

 自分の頭を人差し指でさし、勝ち誇った笑顔を浮かべるブルー。
 そんな彼女に対し、眠そうながらも観客席から一言。

「き、きたねー……」

 ぼそっとだが、そんな言葉が聞こえてきた。

「そっ、そうだぞお嬢ちゃん! 準決勝の時は同情したけど……このポケモンリーグの大舞台の決勝で、泣いたふりまでしてそんな事……Zzz……」

「あ、寝た(汗)」

 たぶん、最初から限界だったのだろう。
 たくましい観客だったなーと、レッドはちょっぴり感心(?)する。

「ふんだ。ポケモンリーグの決勝戦? そんなの、知ったこっちゃないわよ!」

 観客から何を言われようとお構いなし、と言わんばかり。
 ブルーはびしっとレッドを指さし、宣言する。

「勝負は所詮、勝ったもんが勝ちなのよ。どんな手を使ってもね!」

「ブ、ブルー……お前……」

 ピカチュウは完全に眠りにつき、プリンがとどめをさすべくトライアタックを放とうとする。
 何しろ予選全てをこの一発で勝ち上がってきたというのだから、プリン自体は小柄であってもパワーは強烈。
 無防備なピカチュウに、打つ手はない。
 ポケモンリーグ公式試合のルール上、手持ちポケモンのうち1体が倒されれば、それで試合終了となる。

「卑怯な攻撃が悔しいのなら、あんたの実力でねじ伏せてみなさいよ。その方が盛り上がるかもね。ホホッ♪」

「…………。何?」

 不意に、レッドは違和感を感じる。
 ブルーの言葉に、どこか引っかかるものを感じたのだ。
 ぎりっと、レッドは歯を食いしばる。

「そう言う事か……フッシー、行け!!」

 ボコボコッ!!
 地中から、いきなりフシギバナが姿を現した。

「なっ、いつの間に潜んでたの!?」

「フッシー、葉っぱカッター!!」

「やばっ。ぷりり、戻って!」

 これは間一髪だった。
 葉の刃がプリンの眼前に迫った瞬間、ブルーはボールに引っ込めたのである。

「お……おおおっ、すげぇ!!」

「あの兄ちゃん、あんな汚い手を使われても、平気で対処したぜ。さすがだ!」

 眠りの元凶であったプリンの退場もあって、場は再び活気を取り戻した。
 ブルーの卑怯な戦術を破ってみせたとあって、たちまちレッドは英雄的に祭り上げられている。

「ちっ、さすがに一筋縄じゃいかないわね。こうなったら、もっと他の手で……!」

「させるかよ、もうこんな事。どうせこれが狙いだったんだろ?」

「……なっ」

 レッドは1人、納得のいかない表情で立っていた。
 次の手を仕掛けようとしたブルーだったが、思わず手が止まる。

「お前が汚い手を使っても、俺がそれを破ったら、きっと場は再び盛り上がる。お前が汚い手を使えば使うほど、それを破った時に俺はヒーローになるんだ」

「…………」

 ブルーは、顔をうつむけた。
 表情は読み取れないが、構わずレッドは話す。

「つまり、お前のやろうとしていることは、そういうことなんだろ? 1人だけ悪役に回って、ポケモンリーグ決勝戦の引き立てに徹する気かよ」

「……そうよ。レッドなら、あたしがどんな汚い手を使っても、破ってくれると思ったから」

 顔を持ち上げ、ブルーは笑った。
 されどその笑顔も、どうにも哀しげに見えてならない。

「しょうがないじゃない……あたしじゃ、役不足なのよ。会場の盛り上がり具合で痛感できた。どうせなら、レッドとグリーンで決勝戦をやってた方がよかったんじゃない?」

「ブルー、お前……」

「でも、だからって勝負を捨てたつもりはないわよ。騙し打ちはあたしの得意分野なんだから、いくらレッド相手でも、全てを破られる気はしてないもの」

 ブルーが、胸元に拳を作る。
 そして一筋、誰も気付かないのではないかと思えるほどに小さなしずくが、目からこぼれおちるのが見えた。

「……だって……だってあたし、そういう生き方しか知らないんだもの!」

 レッドには、確信が持てた。
 それはさっきの偽りの涙目とは違う、彼女の本心の表れであると。

「今までそうやってでしか生きてこなかったんだから……いきなり変える事なんてできないわよ! レッドに本気で挑むってのは、あたしにとってはこういう事なのよ!」

 いつの間にか、会場は静まり返っていた。
 ブルー本人、どうして今こんな事を叫んでいるのかと、自問しているのだろう。
 震えたまま、後には何も言えずに立ち尽くしているのが、レッドにはよく分かった。

「ブルーさ。お前は、一体どうしたんだ?」

「…………」

「どうすれば本気で戦えるのか……じゃ、なくてさ。お前がどう戦いたいのかを、教えてくれよ」

「……どう、戦いたいか?」

 きょとんとしたブルーの見る前で、レッドはニョロボンを繰り出した。
 彼にとっては初めてのポケモンであり、これまで最も長く、苦楽を共にしてきた仲間である。

「マサラから、ずっと一緒に戦ってきたニョロだ。俺はこれからお前に、最後の一撃をぶつけて決着をつけるつもりだ」

 堂々と、大振りな攻撃を放つ宣言をしてみせた。
 先に手を明かした以上、ブルーが回避に徹すれば、避けることは難しくもないだろう。
 そのまま隙だらけのところに横から攻撃を受ければ、敗北は免れない。

 それでも……あえてレッドは、そんな不利な行動に出ていた。
 レッドにとっては、それが今やりたい戦い方。
 ブルーに対して、先に自らが示してみせたのである。

「だから、答えろよ、ブルー! お前がやりたい事はなんだ? お前は俺やグリーンと一緒に図鑑を貰って、同じマサラ出身のトレーナーとして旅立ちたかったんじゃなかったのか!?」

「……! あ、あたし……」

「今からだって遅くはないんだ。お前のやりたい、お前の望む戦い方で、答えてくれよ! ブルーっ!!」

「っ……」

 彼女は、1つのモンスターボールを手に取る。
 カメックス……それがそのボールに入っており、そして今繰り出されるポケモンだ。

「カメちゃん……」

「……よし。ニョロ、行くぜ……」

 緊迫する、決勝戦最後の瞬間。
 2人は同時に、同一の攻撃技名を宣言した。

「ハイドロポンプっ!!」

 直後、莫大な水しぶきが、最大攻撃衝突の激しさを物語っていた。

 

 

 

「……それが、お前たちの答えか」

 会場内、観客席の最後部。
 出入り口のすぐそばで、1人の男がきびすを返していた。

「まだまだ青臭い、そして戦術も荒削りだ。俺に言わせれば、な」

 トキワジムリーダーにして、ロケット団首領サカキ。
 いつの間にか試合に釘付けとなった観客たちは、誰1人として彼の存在に気付かなかった。

「とはいえ、あの攻撃、あの威力はお見事。真っ向から挑んで、果たして捌ける者がいるのかどうか……」

 サカキは試合の結果を見るまでもなく、会場を後にした。
 どちらが勝つなど、彼にとっては二の次。
 それよりも重要なことが、彼にはあったのだ。

「レッド、ブルー……。俺にもまだ、力は足りないのか」

 グっと、サカキは悔しげな表情で、拳を作っていた。

 

 

 

 ポケモンリーグ閉会式。
 それは歴代の中でも有数の盛り上がりを見せ、戦いの祭典を締めくくろうとしていた。

「やっぱ、勝てなかったわね……」

 最後の攻防、立っていたのはレッドのニョロボンだけだった。
 あの光景は、思い出すだけでも悔しい気持ちでいっぱいになる。
 ただ負けたからではない。
 レッドに、自分の心の内まで見透かされたのが、どうにもやるせなかった。

「分かんないぞ? ブルーがもっと策をろうしてたら、俺でも勝てたかどうか〜」

「……レッドのいじわる」

 ぷくっと、ブルーは頬を膨らませる。
 けど、すぐに笑みで崩れてしまった。

 確かに悔しかった。
 しかし同時に、それで救われたのも確かだったから。

「(ようやく分かったわ……。あたし、あなたの事が好き)」

 心の中で、そっと彼女はつぶやいた。

 集まった人々に対して元気に手を振り、レッドは彼女の気持ちなど気づく様子もない。
 でも、今はまだそれでも構わないと、ブルーは勝手に自分を納得させていた。

 せめて今は、横から彼の顔を覗き見るのみ。

「(……そう。好きよ、レッド。だから……これからも、あなたの隣に立ってていいわよね?)」

 

 目指していた目標、ポケモンリーグは終わった。

 本大会の優勝者はレッド。
 準優勝ブルー。

 

 

 

 第一部・終わり

 

 

 

 と言う訳で、レブルストーリーも晴れて終了となりました。
 厳密にはまだ伏線がいくつか残ってますし、この先の構想もまだまだあります。

 けれども一旦ここで区切る意味で、第一部完結という事にさせていただこうかと。
 続きをすぐ書くか、まだ先になるかは分かりませんが、その内やろうとは思ってます。

 それでも今はとりあえず一段落。

 

 前回と大分間があいてしまって、覚えてないかも知れません。
 僕はポケスぺ第一部のポケモンリーグ決勝戦、最後がレッドvsブルーのがよかったなぁと思い、こういう話にしてみました。

 が、いざやってみると、レッドvsグリーンよりも派手なバトルって難しいんです。
 同じ事のなぞりをやっても仕方がないし、やはりライバル対決が熱さとしては最高潮だったのでしょう。

 ならばいっそ、それ以上に熱い戦いを求めない方向にしようと。
 バトルに固執しないで、もっと別の要素を含んだ最終決戦であってもいいのではないかと。
 せっかくのレブル小説ですし、レッドvsブルーの最終決戦は、そういう意図で書いてみました。
 出来がよかったかは不明ですが(ぁ)。

 

 全15話のレブルストーリー第一部、完結までお付き合い頂きありがとうございました。
 また続きを書く日が来ましたら、再びご覧いただければ幸いです。

 

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