オ前ハ知ラナイダロウ。
自分ノ中ニモウ1人ノ自分ガイルコトニ
オ前ハ知ラナイダロウ。
俺ガオ前ヨリモ全テノ点ニオイテ勝ッテイルコトヲ
オ前ハ知ラナイダロウ。
俺ガオ前ヲ乗ッ取ッテ俺ノ思ウガママニ動ク日ガ来ルコトヲ
全テハオ前ガ弱イカラ
全テハオ前ガ許セナイカラ
ダカラ、俺ハオ前ヲ消シ去ッテヤル
SEVENTEENTH
53:パワー対決
ポツポツ……
「うん?」
鼻に水滴が落ちたとき、ラグナは目を覚ました。
まだ少し暗く、夜明け前のようだ。
その暗くしている原因は一筋の光も差し込まないほどの雲の量と空から降ってくる天使の涙だろう。
「ちっ、雨か……。ん……?」
辺りをラグナは見回すが、エアーがいないことに気がついた。
どうせ、木登りとか、1人でポケモンバトルの修行をしているのだろうと思っていた。
だが……
「アルゥッ―――!!」
大きな声が聞こえた。
しかし、野生のポケモンにしてはどこかで聞いたことがあるし、特徴のある語尾だと思っていた。
「エアーの悲鳴か?」
そう思い、ラグナは駆け出していた。
鬱陶しい木々と草木を掻き分けて、進んだ先に、エアーとゴウカザルが倒れているのが見えた。
「エアー!てめぇ……何をやっていやがる?」
「ラグナ……たん……」
「オメーもこいつの仲間か?」
「あ゛?誰だてめぇ」
男の声がして振り向くと、そこには太ったスポーツ刈りでゆったりとした『Gravity』という黒い文字が入った白いTシャツにラフなグリーンのハーフパンツを穿いた少年が立っていた。
年齢はエアーよりと同じくらいか幼いくらいだと認識した。
「俺が誰でもいいだろうが。俺が聞いているのは、オメーがこいつの仲間か?って聞いてんだよ!!」
「こんな奴、仲間じゃねぇ。ただの知り合いだ」
「そうか……じゃあ、オメーも打っ倒す」
少年がボールを投げると、覆いかぶさるようにケッキングが襲い掛かってきた。
「ケッ……」
ズドンッ!!
硬い牙でケッキングのおなかを捉えた。
しかも、向かってきた力を利用してそのまま投げ飛ばして、木にぶつけた。
ケッキングにぶつけられた木は数本を巻き込んでなぎ倒された。
「……俺と戦うなら相手してやる。だが、覚悟を決めやがれ」
「へぇ!!やるもんだな」
「ラグナたん……気をつけるアル……」
「エアー……てめぇは寝てやがれ」
エアーをちょっと見た後、ラグナは少年を見据える。
少年は余裕だった。
その証拠に倒れた木の中から、ケッキングが姿を現した。
「てめぇもちっとはやるようだな!クチート!本腰で行くぜ!!」
ケッキングがのしのしと重量感たっぷりの音を立てながら走って接近する。
「(スピードはたいしたことねぇ)クチート!!『マウスバッド』」
クチートの頭の方の口を振り回して、殴りつける。
「そのケッキングの……パワーは……」
エアーのうわ言がラグナの耳に届いた頃には、クチートとケッキングの攻撃が衝突した時だった。
ズギャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! ズシャンッ!! …………
ケッキングのパンチはクチートの攻撃を押しのけて打っ飛ばした。
先ほどの攻撃のお返し……いや、それ以上だ。
木を十数本なぎ倒してしまった。
「オラ!どうした?これでしまいか?」
「ハッ!おもしれぇ!パワーで俺のポケモンを上回るなんて、てめぇ、上等だぜ!」
ラグナは笑っていた。
「行くぜ!ダーテング!!『リーフスラッシュ』」
団扇のような手の葉っぱに風をまとった。
「ケッキング!!ぶちかませッ!!」
シュバッ!! ズシンッ!!
ケッキングとダーテングが交錯して、ダーテングが振り向いた時、ケッキングが膝をついた。
「『裂水(れっすい)』!!」
そのまま、手の葉っぱから繰り出す凄まじい風の斬撃を繰り出し、ケッキングに強烈な一撃を叩き込んだ。
衝撃の音とともにケッキングは木にもたれるようにして気を失った。
それを確認して、少年は丸いポケモンを繰り出した。
いや、そのポケモンを丸いと言うにのは間違っていた。
「ケッ!せっかちな野郎だ。出した瞬間からすでに『転がる』のトップスピードとはよ!」
そういいながら、ラグナとダーテングは紙一重でかわした。
「だが、ドンファンでいいのかぁ?一撃で倒してやるぜ!」
「一撃で倒すだって?オメーは相性で物を言っているのか?」
「相性?そんなの関係ねぇな!」
「そうか。ということはオメーもパワーに自信があるトレーナーなんだな!?」
ラグナは先ほど繰り出したダーテングの風の斬撃、裂水を繰り出す。
少年のドンファンは、自信を持ってダーテングへと突っ込んでいった。
ズドンッ!!
ダーテングの攻撃は決まった。
しかし、ドンファンは倒れずに転がって向かってきた。
「もう一発!!」
ズドンッ!!
連続して二撃目を命中させた。
それでも、ドンファンを倒すのには十分とはいえなかった。
「くっ……」
だが、舌打ちをしたのは少年の方だった。
二撃目の裂水での衝撃で吹き飛ばされて、転がる攻撃をキャンセルされてしまっていたのだ。
「オラッ!!食らいやがれ!!『葉っぱカッター』!!」
瞬時に接近して、葉っぱを繰り出す。
しかし、その攻撃を鼻先で弾き返してきた。
返されたカッターをまともに受け、ダメージを負ったダーテング。
「舐めるなよ!転がっていなくてもこいつの力はつえーんだぜ!」
「悪かったな。ちょっと舐めてたぜ。『エナジーボール』!!」
「そんな攻撃が効くか!!」
緑色のボールを繰り出すもあっけなく打ち返そうとする。
「こんな攻撃で倒そうなんざ考えてねぇ!」
「っ!!まさか、ドンファン!!回避を……」
エナジーボールの威力は、葉っぱカッターの威力を遥かに下回っていた。
それは、ボールの見た目と実際に打ち返してみた感想である。
もしかしてそれは手加減して撃ったからという少年の予測が浮かんだ。
そして、同時に何故そんなことをしたのか?と思う。
それは、ドンファンがエナジーボールを返すのと同時にドンファンが返すことの出来ない強力な攻撃を繰り出して、次の初動を遅らせるためだった。
無論、ラグナはダーテングに裂水を指示して、エナジーボールを打ち抜き、ドンファンを吹っ飛ばした。
「どうした?次来いよ!」
ラグナは親指でクイッと自分を指差し挑発した。
「なら、コイツでどうだ!!」
次に繰り出したのは、岩・鋼のノーマル技ではほぼ攻略不能のボスゴドラだ。
「チェンジだ」
一旦ラグナはダーテングを戻して、ピクシーを繰り出した。
「なんだ?そいつで俺の鉄壁を誇るボスゴドラを倒すってか?」
「ピクシー!『コメットパンチ』!!」
ガギンッ!!
とっても硬い金属音が響く。
ボスゴドラが2メートルくらい後ろに下げられた。
「へぇ。まさか、ピクシーの攻撃力がこれほどあるとは思わなかったぜ!だが……」
「…………」
「決定力不足だぜ!!」
少年の言うとおりだった。
ピクシーの攻撃は完璧に決まったのだが、強固な体のせいでダメージは全くと言っていいほどなかった。
「ピクシー!!『メロメロ』!!」
「効くかッ!『メタルクロー』!!」
腕を振りかざし、ピクシーを捉えた。
いとも簡単にピクシーは上空に飛ばされて、地に伏せた。
「一撃だ」
「ちっ、一撃か……(カウンターさえもさせないほどの威力か)だが、次でそいつを倒す」
「やれるもんならやってみやがれ」
「レントラー。『雷牙(ライガ)』!!」
接近し、ボスゴドラに噛み付く。
「そんな攻撃で、倒せるものが……なっ!?」
少年の思惑とは裏腹にレントラーのキバがボスゴドラの体を噛み砕いた。
ボスゴドラは一撃でダウンしてしまった。
「なんだ!?今の攻撃は?ただの『かみなりのキバ』じゃねーのか!?」
「あ゛?『かみなりのキバ』も『雷牙』も同じだろ!」
「(……だが、おかしい!それにしたって、この攻撃力は尋常じゃない!何か秘密があるはずだ)」
「俺のレントラーはな、極度の男嫌いなんだぜ。だから、その分だけ攻撃力が増すんだ」
「(……何だ?もしかして、そのからくりはただ特性が『闘争心』だけだからってか?)」
最初にピクシーを出したのも、ただ無謀にかかってきただけでなく、ボスゴドラの性別を確認するためだった。
しかし、ラグナは十分にピクシーでも戦えると考えて出したのではあるが。
「(そんなのどうでもいい!パワーでねじ伏せるだけだ!)」
少年の繰り出しポケモンはハリテヤマ。
ラグナはそのままレントラーで行く。
「捻じ伏せろッ!!」
「『10万ボルト』!!」
電撃を飛ばし、ハリテヤマに命中させるが、さほど効いていない模様。
そして、強力な張り手が振り下ろされるのを見て、レントラーは思い切って後ろに跳んだ。
ズシンッ!!!!
地震級の揺れが巻き起こる。
地面にはハリテヤマの手の跡が残っている上に、半径5メートルくらいの窪みがボコッと出来ていた。
「そいつのパワーは洒落になんねぇな」
「うらっ!『つっぱり』!!」
一撃一撃をレントラーに向けて無理おろす攻撃は、確実に地面や周囲の木に手形として残っていた。
その攻撃をレントラーは紙一重でかわしていた。
しかも、凄まじい威力のせいでツッパリをしたときに生じる衝撃波にも当たらずである。
「当たれば……一撃で倒せるんだ!!」
「当たらなければ意味ねぇんだよ!レントラー!!」
指示を受けて跳びつくようにフットワークを使って接近する。
だが、ハリテヤマはレントラーの動きを読んでいた。
着地する地点を狙って、つっぱりを繰り出したのだ。
「(捉えた!!)」
少年はそう思った。
ズシンッ!
「!?」
しかし、攻撃は当たらなかった。
「(レントラーの尻尾か!?)」
ハリテヤマが攻撃を繰り出した瞬間に尻尾で横から腕を弾いて攻撃の軌道をずらしたのである。
「やれッ!!」
地面を蹴り、体当たりするように回転しながらハリテヤマの腹に噛み付いた。そして、
ヴァリッ! ヴァリッ!! ヴァリッ!!! ヴァリッ!!!!
強烈な電撃とともにハリテヤマを木にぶつけていった。
その力はまるでミサイルのごとく重い一撃だった。
やがて、立派な神木と思われる木にぶつかったと思うと、さらに電撃が炸裂して燃やしてしまった。
「当たれば一撃?そんなのこっちも同じことなんだぜ?」
少年のポケモンとラグナのポケモンの破壊力はほぼ同等かラグナのほうが少し劣っていた。
だが、それでも違うことは命中率だろう。
ラグナは確実に少年のポケモンにダメージを与えた。
そして、風はラグナの方に吹いていた。
「(ヤベーな……。あのヤローがここまでつえーとは)」
「『10万ボルト』!!」
危機を感じながら、ラグナの攻撃をかわす。
「(残ってんのは後二匹……ヤローの余力を考えると、勝ち目は薄い)」
「何だ?逃げてばっかりか?」
「(俺から手を出した手前……逃げ出すわけにはいかねー!)」
覚悟を決めて少年はボールを取り出した。
だが、その前に草むらから飛び出した、ポケモンがレントラーを攻撃した。
「なっ!?」
突然の攻撃にラグナは驚いたが、それほどダメージはなかった。
「邪魔すんじゃねぇ!!『10万ボルト』!!」
飛び出してきたポケモン……クロバットに向けて攻撃を放つ。
しかし、クロバットは消えるように移動し、楽にかわす。
「ちっ!これならどうだ!『回転雷牙(カイテンライガ)』」
地面を蹴り、回転しながらクロバットに襲い掛かる。
先ほど、ハリテヤマを一撃で倒した技だ。
だが、当たらない。
クロバットのスピードが明らかに上回っているのである。
かわしたクロバットはヘドロ爆弾を繰り出して、レントラーを倒してしまった。
そして、クロバットは姿をくらましてしまった。
「(……野生のポケモンにしてはスピードも技のキレもつえぇ。ってことは、どこかにトレーナーがいやがる!!)」
「そうか!!」
少年はそのポケモンがなんなのかわかったようだ。
ラグナを見たかと思うと、ハガネールを繰り出してきた。
「2対1だろうが、ぶっ潰してやる!!オーダイル!ダーテング!」
トレーナーが近くにいると思い、2匹のポケモンを繰り出すラグナ。
思ったとおり、今度は茂みからハクリューが飛び出してきた。
先にハクリューを倒そうと考えて、ダーテングにハクリューへの攻撃を集中させた。
しかし、ハクリューのスピードもとにかく速かった。
ダーテングの攻撃をかわしながら、オーダイルにヒット&アウェイを繰り出した。
ハガネールを倒すのに集中していたオーダイルは集中力を削がれて、ハガネールにまったく攻撃できない。
「『ギガインパクト』!!」
「!!」
少年のハガネールの攻撃力も例外ではなかった。
全てのポケモンの攻撃力が桁違いで、オーダイルは一撃で負けてしまった。
オーダイルに気をとられていた一瞬の隙を狙って、ハクリューがダーテングを攻撃。
瞬く間に、ラグナのポケモンは倒されてしまった。
「ちっ!誰だ!出てきやがれッ!!」
ラグナは痺れを切らして、森の中を叫んだ。
すると、ガサゴソと茂みから音がした。
「やっぱり、兄貴だったんですね!」
茂みから出てきた男を兄貴と呼ぶ。
そしてその後ろからひょっこりとテンガロンハットを被った子が出てきた。
「プレス君。大丈夫?」
名前を呼ばれた少年は「ああ」と頷いた。
「あいつは……」
バンダナの男はラグナを見て呟く。
「お兄ちゃん……知り合い?」
「てめぇ……また会ったな」
ラグナはその二人を見て言った。
だけど、実際に話しかけたのは、プレスと呼ばれた少年が兄貴と慕い、テンガロンハットを被った子がお兄ちゃんと呼んでいたバンダナの男だった。
「……誰だったかな?」
「な゛!?てめぇ!!俺のこと覚えてねぇのか!!」
「……どこかで会ったかもしれないが」
「とにかく、兄貴!一気に片付けるぜ!」
「ああ」
プレスの呼びかけで、兄貴と呼ばれる男は頷きハクリューに破壊光線を指示。
ハガネールがストーンエッジを繰り出した。
「(やべぇ!ヌケニンをッ!!)」
ラグナはモンスターボールを構える。しかし、そのときに後ろにいる存在……エアーがいたことに気付いた。
「くそっ!!」
エアーに手を伸ばすラグナ。
ズドンッ!!!!
その攻撃はラグナもろとも巻き込んで大破したのだった。
「……いない」
攻撃で巻き起こった煙が晴れると、そこには倒れていたエアーもラグナも姿を消していた。
「……ん?何であいつがここにいるんだ?」
バンダナの男は思い出したようにふと呟いた。
「お兄ちゃん……やっぱり知っているの?知り合い?」
「……いや、なんでもない」
「でも、バッチリだよ!さすがお兄ちゃん!『トキワの力』を使いこなしてきたね!」
「……そうか?まだ、俺にはこの力にはまだ何かが隠されているような気が知れないのだが?」
「……!!! さすがお兄ちゃん……そのことに気がつくなんて……。でも、その力は自分に大きな反動を与えるものなの。だから、まだ教えられなかったんだよ」
「……そうか」
「そんなことより、ジョカ」
暇そうに懐に入れていたリンゴを取り出し、かじりながらプレスが言う。
「あの二人はどーすんだ?このまま放っておくのか?」
「大丈夫だよ。このまま放っておいても。さて、戻ろう。ミナノが心配しているんだよ?」
「またドジしていると困るからな。早く帰らねーとな」
こうして、彼らは森の中へと消えていった。
54:スパイ
空から一匹のドラゴンポケモンが降りてきた。
鋭い爪と威圧感を持つそのポケモンはボーマンダ。
そして、その背中に乗っていたのは、険しい顔つきに少し目じりを上げているハルキだった。
「…………」
ライトが修行を始めて5週目になろうとしていた。
ハルキは手持ちのボーマンダから降りて、TCの入り口に入っていった。
「おかえりなさい。ハルキさん。どこへ行かれていたのですか?」
穏やかな口調でハルキに話しかけるのは、モトキの妹のハナだ。
彼女はハルキの正面に立って、見上げるように話しかけている。
何せ、ハルキとハナでは身長が20cmほど違うので、そうなるのは必然だった。
「…………」
しかし、ハルキはハナに何も語ろうとはしなかった。
ロケット団のルーキーズに所属していたときも、ハルキはユウナたちとあまり会話をかわそうとはしなかった。
喋るのはいつも必要最低限のことだけ。しかも、何も言わずに1人で行動に出ることが多い。
だから、彼を協調性のない人間とか、自己中心的な人間とレッテルを貼られてしまうのである。
実際、ここに着てから4週間の間に、TCのメンバーはハルキと距離を置いていた。
ただ1人を除いては。
「……(ズズッ)」
彼女はまたどこから取り出したのか、お茶を飲み始めた。
そして、遠くから見守るようにハルキを見ていた。
カレン……どこにいるんだ?
ずっと側にいて守ると決めたのに……
俺が見つけ出すまで、無事でいろよ……
ハルキは椅子に腰掛けて、手を組んでその上に額を置いた。
そして、幾時間か彼は眠りについた。
「ハルキさん」
「……?」
ハナに肩をゆすられて、ハルキは目を覚ました。
「招集をかけられました。行きましょう」
いつもの大広間に集められて、TCのメンバーが集合した。
今集まっているのは、リーダーのテツマ、カンナ、シラフ、ハルキ、ハナ……。
メンバー全体の半分の人数にも満たなかった。
「どうしたのですか?(ズズッ)」
正座をしてハナは首を傾げつつ、湯飲みを手にしながら言った。
ハナとハルキ以外の3人は非常に険しい顔をしていた。
「実は、シラフがこんな手紙を発見したのじゃ!」
テツマがそう言って、手紙を取り出した。
その手紙には以下の事が記されてあった。
”あなた達の基地の場所は調べさせてもらいました。数日後にあなた達を逮捕します。覚悟しなさい。by:SG”
「(差し押さえの予告……?)」
「SGの予告ですね。でも、どうしてこの場所がわかったのでしょう?」
きょとんとハナは首を傾げる。
その姿は純粋な可愛さで溢れていた。
だが、そのハナの胸倉に掴みかかった。
シラフである。
「お前らの仕業なんじゃねえのか?お前らがSGにこの場所を教えたんじゃねえのか?」
「おい。やめろ」
ハルキが言うと、シラフはハナを突き放した。
「いたっ」と地面についた瞬間に顔を歪ませて声を上げたが、すぐに笑顔に戻って立ち上がった。
「俺はもともとお前らを信用していない!何より、お前らが入ったあたりから、周りで怪しい動きが多くなったと俺は考える!だから、お前らの仕業なんじゃないのか?」
シラフが声を荒げた。
彼は実質、TCのナンバー3であり、実力もリーダーのテツマに匹敵する力を持っていた。
「本当はお前ら……SGのスパイなんじゃねえか?」
「…………」
「…………(ズズッ)」
ハルキは何も言わない。そして、ハナはやはりお茶を啜っていた。
「特にハルキ……手前が一番怪しいんだよ!毎日毎日、俺たちに何も言わずにどこへ行っているんだ?」
「…………」
「オラ!答えろ!」
「シラフ!その辺にしなさい!」
深く追求するシラフの肩をつかみ、今までずっと話を聞いていたカンナが止めた。
「ハルキがSGのスパイだという証拠はどこにもないわ。それに、今すべきことはそのSGと戦うために準備をすることじゃないのかしら?」
「カンナ!お前は甘いぞ!」
カンナやテツマの方が年上のためにいつも敬語で話すシラフだが、熱くなると見境がなくなるようだ。
「もしSGのスパイだったらどうする?仲間だった奴が敵だとわかったとき、対処できるって言うのか?」
「そ、それは……」
「スパイだったら今のうちに倒しておくのが上策なんだよ!!」
「やめんか!バカモン!!」
テツマの雷が落ちた。
シラフはビクッとして、我を取り戻した。
「スパイがいたときはそのときじゃ。じゃが、我輩は仲間を信じておる。ここにおるのは、SGのやり方に不満を持った13人なのじゃ」
「……はい……」
シラフは蚊の鳴くような声で答えた。
「とりあえず、話はそれだけじゃ。いつSGの連中が攻めてきてもいいように準備を怠るな!以上じゃ!」
そうして、散らばる。
ハルキも自分の部屋に戻ろうとしていた。
しかし、彼は奇妙に感じた。
「(…………なんだ?この違和感は…………?)」
カンナは本を読み始め、シラフは舌打ちをして部屋へ戻る。
テツマは日課の筋トレを始めていた。
そして、ハナは笑っていた。
だが、ハルキにはハナのその笑いがとても不気味に思えた。
まるで何かを知っているかのように……。
55:3人のエレキ
―――「さ、”三重人格”?」―――
修行を開始してから2週間経った時、エレキは修行に行き詰まっていた。
ポケモンたちの強さはモトキが認めるほどに随分成長したのだが、トレーナー自身がそれほど強くなっていなかった。
それを睨んで、モトキはエレキを1人で修行をさせていたのだが、さほど大きな変化は見られなかった。
そんな時、モトキが呼び寄せたハナが一言、エレキに指摘したのである。
―――「そうです。三重人格です(ズズッ)」―――
相変わらず、ハナはお茶を飲んでいた。
―――「さ、三重人格って、あの、一人の中に三つの性格を持つ人のことですよね……?」―――
―――「はい。そうです」―――
にこりと微笑んでハナは頷く。
―――「そ、そんな……僕にそんな人格なんて……」―――
―――「私にはわかります。今のエレキさんの中には2種類の願望を持つ人格があります」―――
エレキが気弱に言うのに対し、ハナは話を続けていく。
―――「全てを消し去るという強い破壊願望。そして、全てを守り留めたいという強い守護願望……」―――
エレキは自然とゴクッと唾を飲み込んだ。
―――「つまり、突き進む矛と防ぐ盾を同時に持っているのです」―――
―――「……そ、そんな人格が僕に……?」―――
―――「でも、今、エレキさんの人格達は眠っています。いえ、実際は片方の力が徐々に強まりつつあると思います」―――
―――「か、片方の力……?そ、それって、どっちなの?」―――
―――「全てを消し去るという欲を持つ矛の方です。そして、その矛の力は恐らくエレキさんの精神を侵食していきます」―――
―――「!?」―――
―――「だから、エレキさんがもう一つの人格……盾の人格を完全にコントロールするのです。すると、矛の人格もコントロールすることが出来るでしょう」―――
―――「ぼ、僕は一体何をすれば……?……えっ……あれっ?……体が……?」―――
バタッ
音を立ててエレキは地面に倒れた。
ハナの傍らにはチリーンが浮いていた。
―――「エレキさん。自分を強く持ってください。そうすれば、きっと自分自身に打ち勝つことが出来ます。そして、何のために戦うのか。何のために強くなるのか。そのことを自分の力で見出すことができれば、もしかしたら、本当の力の封印を解くことも……」―――
ハナはあらかじめ用意した毛布をエレキにかけてあげた。
そして自分は、虚世界を出て行った。
―――「(どれだけかかるかわからないけれども、この催眠術は自分に打ち勝つまでは解けないようになっています。もし、負けたら今のエレキさんの人格がいなくなり、もう1人のエレキさんが代わって出てくるかもしれない。……だけど、私はエレキさんが戻ってくるのを信じています」―――
「ヒィッ!!」
エレキは夢の中にいた。
いや、夢の中というにはあまりにもリアル過ぎて、痛みも感じていた。
そして、目の前では攻撃から守ってくれているエレキと本能のままに傷つけていくエレキの2人が戦っていた。
「へたれナオ前ラナンカ消シ去ッテ俺ガ本当ノえれきニナル!邪魔スルンジャネェ!!」
「マスター……しっかりしろ」
この場にエレキは3人いた。
1人は自分の本能に従い暴れるエレキ。いわば矛のような存在。
1人は自分の理性に従い冷静に答えを導き出すエレキ。盾は彼である。
そして、マスターであるエレキ……自分だった。
ハナに催眠術をかけられて大分経つ。
マスターエレキにはどれくらい経ったかなんて正確に把握ができなかった。
その間に、理性である盾のエレキを見つけて仲間にすることが出来た。
しかし、もう一つの本能である矛のエレキは決してマスターを慕おうとはしなかった。
結果、こうやってケンカ……いや、戦いになってしまったのである。
メリッ!!
「ぐっ!!」
盾のエレキは矛の凄まじい右ストレートを食らって、膝をついた。
その隙に乗じ、くるりと一回転しまわし蹴りを顔に叩き込んだ。
吹っ飛ばされて、地面に転がる盾。
盾を飛ばしたのを見て不敵に笑う矛。
「俺ハイツモオ前ニ不満ヲ持ッテイタ」
「え、え!?」
「ぽけもんばとるハ俺ノ数十倍下手糞デイツモぽけもんタチニ迷惑ヲカケテバッカリ。TCノ活動デハ仲間ノ足ヲ引ッ張ッテバッカリ。ソシテ、気ニシテイタ”えあー”ニハイイヨウニアシラワレテバッカリ……」
「え、エアーは関係ないよ!!」
「関係ナイダト?ばかナ。俺ハ前ダ。オ前ノ考エテイルコトハワカル。ソシテ、オ前ハ考エナガラ何故、彼女ヲ奪ワナイ?彼女ノ心ヲ。彼女ノ体ヲ。彼女ノ全テヲ……。オ前ハ消極的過ギンダ!俺ガオ前ノ一部ダト考エルト腹ガ立ツンダ!ダカラ、俺ガますたーニナル!」
矛と本能のエレキ。
それは歯止めの効かない理性。
エレキのネガティブである性格とは別物である。
しかし、それをポジティブと呼ぶ者はいない。
ただ、我欲の為に突き進む矛である。
「ぼ、僕はエアーを大切に思っている。だ、だから、お前には指一本も触れさせない!」
ズゴッ!
「うっ……」
「誰ニ指一本モ触レサセナイッテ?」
右脇腹が痛打した。
マスターはあっけなく仰向けに倒された。
「力ガナイ奴ガ守ルナンテ戯言ヲ抜カスナ!以前、”力が欲しい”トイウ言葉ヲ聞キ、一度ダケ力ヲ貸シテヤッタコトガアルガ、アレハオ前ガクタバルノガ俺ニトッテ不都合ダッタカラ。ソシテ、ドレダケ俺ガ”俺自身”ノママ外ニ出ラレルカ試スタメダ!ソレ以外ノ何物デモナイ!」
矛は倒れているマスターを見下ろす。
マスターは息を荒くして矛を見た。
「俺ハモウ嫌ダ。オ前ヲ消シ去ッテ、俺ガオ前ニナル」
「い、い……や……だ……」
「!?」
マスターはふらふらしながら立ち上がった。
「ぼ、僕は他人と比べて何も自信が持てない。も、物事を慎重に考えすぎて失敗する。だ、だから、仕方がないと思っていた」
「…………」
「こ、このまま、人格が変わって僕が消えてしまうのもいいかなって考えてみた。で、でも、そんなの嫌だ。他の誰に負けても、自分に自信が持てなくても、自分自身には負けたくはない!そ、それに……やっぱり、お前にエアーを渡せない!!」
立ち上がってマスターは拳を振りかざす。
「ソレナラ、俺ヲ一発デモ殴ッテミロ!……ナッ!?」
矛のエレキが焦った。
後ろから羽交い絞めにされたのである。
そう、先ほどまで倒れていた盾のエレキに。
「ずっと私はこの機会を待っていたんだ。お前が隙を見せるこの瞬間をな」
「クソッ!!」
「てりゃぁぁぁぁぁ!!」
バキッ!!
矛の右頬にマスターの拳が入った。
マスターの懇親の一撃。
「はぁはぁ……」
エレキは自分の右拳を抑えて、矛を睨んだ。
「え、エアーは……ぼ、僕が守る」
「フン、二人ガカリカ」
矛のエレキの姿が徐々に透明化してきた。
「少シハオ前ノ力ヲ認メテヤル。ソシテオ前ノ力ノ一部ニナッテヤル。ダガ、一ツダケ聞ク」
「な、何を……?」
「オ前ハ一体何ノタメニ戦ウ?」
「ぼ、僕の答えは決まっているよ!み、みんなを守るために……」
「守ルタメニ戦ウノカ?」
冷たい笑いを浮かべる矛。
「な、何がおかしいの!?」
「本当ニ戦イハ守ルタメニヤルモノダト思ッテイルノカ?」
「……?」
「マアイイ。オ前ニトッテ戦イノ本当ノ意味ヲ知ラナイ限リ、”俺ノ人格”ハ消エルコトハナインダカラナ」
「ど、どういう意味!?」
しかし、矛は答えず、マスターであるエレキの中に吸い込まれていった。
「う、うわっ!?」
エレキは尻餅をついて、自分の体を見る。
しかし、なんとも無かった。
「大丈夫だ。”あいつ”はお前なんだからな」
「で、でも、何でこんなに僕の人格がいくつもできちゃったの!?」
残った盾のエレキに尋ねるマスター。
「…………それは……私にはわからない。まるで大きな力が働いているのではないかと思う」
「お、大きな力?」
「そう。まるで、力を封印するかのような……」
「ふ、封印って……僕の中の?」
「…………。とりあえず、”あいつ”は”お前”を乗っ取ろうとしているが、私は再び、一つの人格に戻れるように協力する。それまでよろしく」
「う、うん……」
盾がマスターエレキの中に入っていった時、エレキは気を失った。
大体同時刻。
迷いの森。
「はぁはぁ……くっ……」
頭からツーっと血が流れ落ちる。
しかし、彼はそんなことお構い無しに1人の少女を背負い、歩き続けていた。
「くっ……あいつ……今度会ったらただじゃおかねぇ……」
ラグナはエアーを背負いセリフを吐き捨てた。
あの強力な攻撃の中で、ラグナはエアーを背負い逃げることが出来た。
だが、ラグナは右足と頭をケガして引きずっていた。
やがて、体力がそこを尽き、膝ががっくりと折れた。
「…………ち、畜生…………」
ドサッ
倒れるラグナ。
エアーもまだ目を覚ますことはなかった。
何時間経っただろうか?
ラグナとエアーはまだ気絶したまま動かなかった。
そんな2人に近づく3つの影があった。
「見つけた」
淡々と青髪で黒いマントを羽織った男はラグナを見つけるなり、それだけ言った。
「『見つけた』って……怪我しているじゃない!手当てをしてあげないと!」
ブルーのタイトスカートに赤と白のチェックのシャツの女性が慌てた表情で黒マントの男を叩いた。
「とりあえず、本部まで運ぼう!」
緑髪の男の提案に二人は頷いて、飛行ポケモンに二人を乗せた。
そして、彼らは飛び上がった。
to be continued
キャラデータ
エレキ(16歳)……ジョウト地方のワカバタウン出身の少年。
とてもネガティブで自分に自信が持てない性格。
しかし、その中に自分の新たな人格があることを発見する。
また、彼には封印されし力があると、矛のエレキとハナは言っているが……?
手持ち……エテボース(♂) ムウマージ(♂) ワニノコ(♂) パチリス(♂) キマワリ(♀) ルージュラ(♀)
オリジナル技
ラグナ
『マウスバッド』……クチートの技。クチートの偽りの口で殴りつける。
この技を鍛える時、ラグナはボールを撃つことで鍛えているという。
『リーフスラッシュ』……ダーテングの技。手に風をコーティングして相手を切りつける技。
『裂水(れっすい)』……ダーテングが最も使う攻撃かつ強力な技。風の斬撃。
『回転雷牙(カイテンライガ)』……レントラーの技。『雷牙』(かみなりのキバ)を発動中に相手に回転しながら跳びかかり、ダメージを与える。
アトガキ
う〜ん、某マンガのネタの重複がチラホラ見られる17話。
当初はもっと単純に考えていたんですけど、いろいろ考えたらややこしくなってしまいました。
エレキって、アクジェネで言ったらシクー的存在と最初は考えていたんですけどね……あんま似てませんね。(爆)
エレキの話もそれなりにしたけど、バトルはラグナが中心でした。
ラグナの相手は……ぼちぼち明かされるでしょう。……いや、もう明かされているも同然なんですけどね。
次回は、ラグナとエアーを助けた謎の3人が明らかになります。
[一言感想]
力と力のぶつかり合いなバトルでしたが、そんな中にも読み合いがあったりしましたね。
けど、途中からの乱入者によって、酷い状況に……。
エレキの方は、自分の別人格に打ち勝つことができるのでしょうか?
もしシクーだったら、負けるでしょう(オイコラ)。
個人的には、ハナの笑いが気になります……彼女の真意ははたして?