☆前回のあらすじ

 トキワの森でライトとミナノがエースをめぐってバトルを繰り広げた。
 ライトがバトルに勝利したものの、エースはライトを拒み、2人の関係は険悪なものとなってしまった。

 

 

 

TWENTY SEVENTH

 

 

 

 84:悩み多き朝


 蛇口を捻ると冷たい水がシャワーの口から噴き出した。
 捻りすぎたらしく、強くかつ冷たい水が彼女に降りかかる。
 慌てて、シャワーの口を排水溝へと向けて、一呼吸した。

 お湯が出るようになって、初めて自分の体に当てる。
 頭を濡らして、体を撫でるようにゆっくりと胸元を洗い、徐々に下へ下へとシャワーのお湯を当てる。

 頭から足の指先までお湯で濡らし、火照リ始めたところで蛇口を止めて浴室を出ていった。

「(ここにいるのもあと1日ね。それまでにライトやオトハの問題を解決しないと……)」

 風邪を引かないようにするため、すぐに備え付けのタオルで体を拭いた。
 深呼吸をしながら軽くストレッチをしてから、服を着て、髪を整える。
 そして、すっきりとした顔で食堂へと向かおうとしていた。

 しかし、同じ部屋の彼女がまだ寝ていた。

「オトハ?朝ご飯食べに行かないの?」

 そんなユウナはベッドを揺すってオトハを起こそうとする。

「……んっ……ショウスイネフシト……」

「え?ショウスイネフシト??」

「その、魔方陣には触れてはなりません……どうか、お願いです……エクソシスト様……どうか、神の反逆者……ルシファーさんを……」

「(一体この子……何の夢を見ているの?(汗))」

 ちょっと面白そうなので、ユウナはもうちょっとオトハの寝言を聞いていることにした。

「絶対に……許せません……私は……コウ君とネス君のラーメンを……食べたかったのでs……」

「(コウとネスってだれ?しかも、ラーメンの恨み?)」

 少しするとオトハは寝言をやめて落ち着いたと思われた。

「(そろそろ起こそうかしら?)」

 と思って、オトハに触れようとしたが、ふと彼女の目から涙がスゥーっと流れてシーツにしみこんだ。

「……なぜ? ……あなたはそこまでして、孤独を貫こうとするのですか?……私じゃ……力になれませんか……?」

「(オトハ……)」

 その言葉を聞いて、ユウナは起こすのを止めた。
 夢の中できっと”彼”に言っているのだと思ったからだ。

「私じゃ……ルシファーさんを止めることはできませんか?」

「(えっ!?まだ夢の続きなの!?)」

 どうやらそうらしい。ユウナはずっこける。

「(やっぱり……放っときましょう)」

 ユウナは部屋のドアノブに手をかける。

「ダメ……です……ユウナさん」

「え、何?」

 自分の名前を呼ばれて、ユウナはふと振り向く。

「……そんなところは……あぁ……や……やめてください……そんなことされたら……私……あぁ」

「…………(汗)」

 ユウナはちょっと顔を赤くして部屋を出て行った。
 オトハがどんな夢を見たか、読者の想像にお任せします(ぁ)





 ユウナが食堂へ向かうと、そこそこの人数がそこに揃っていた。

「おはよう!ユウナさん!」

 元気よく挨拶をしてきたマサトに対してユウナもおはようと返す。
 そして、カスミとエレキ、ハナも遅れてユウナに挨拶をした。
 その4人は一緒に食べ始めたらしく、テーブルの上のパンや果物の減り量が同じくらいだった。
 ふと、ユウナはもう二人、座った形跡がある様子を見つけた。

「後の2人は誰?」

「あ、あとの二人は……」

「私よ」

 エレキが答える前に、ナダデココフルーツを持ってアクアがやってきた。

「あ。ユウナ」

 そして、おにぎり一つとオレンジジュースを持ってきたのはヒロトだった。

「(アクアとヒロトだったのね)」

 ヒロトは座って早々、おにぎりを食べ始め、アクアはエレキの隣に座った。
 ユウナはバスケットに一杯パンが入っていたので、そこからとって食べることにした。

「ユウナさん。オトハさんは?」

 マサトがその質問をすると、ヒロトはおにぎりを詰まらせて蒸せた。
 そして、オレンジジュースが入っているコップを片手に、ゴクッと3分の1ぐらいになるまで飲み干した。

「オトハなら寝ているわ。……いつものことだけど」

 今日くらい早めに起こそうとユウナは思ったのだけど、彼女の睡眠はかなり深い。
 起こすのはかなり骨が折れるのである。

「寝ているといえば、サトシはいつまで寝てるのかしら?」

「ヒロトさん、サトシは?」

「サトシなら、俺が起きた時まだぐっすり寝てたよ。まぁ、俺が起きるのがちょっと早かったせいもあるからな」

 オレンジジュースを全て飲み終えると、ヒロトは立ち上がった。

「散歩してくる」

「あ、ヒロトさん!僕もいく!」

 ヒロトの後を追うようにマサトも食堂から去って行った。

「そういえば、モトキを知らない? 昨日から見当たらないんだけど」

 アクアがパンを千切って食べながら、この場で尋ねる。
 ユウナとカスミは首をかしげた。

「モトキお兄さんはユウコさんとデートに行きました」

「デート?これからの組織の話をしようと思っていたのに……」

 ハナの言葉にアクアはがっくりとする。
 TCで動けるのは、今のところ、ケガで動けないテツマとカンナを除くと、年長者はアクアとモトキになる。
 だから、少しでも今日、話しておきたいとアクアは思っていた。

「ご……ごちそうさま……」

 やや落ち込んだ感じのエレキは、気の抜けた声で言うと、そのまま外へといってしまった。
 何かあったらしい。

「私もそろそろやることがあるから行くわ」

 と、アクアもエレキの後を追うように食堂を後にした。
 この場に残っているのはユウナとカスミとハナだけになった。

 なんか、共通点のない組合せになったなぁ(ェ)

 ちなみに、トキワグローブ一家(シルバー、イエロー、ジョカ、エース)は自分達の家で。
 ファイアとリーフはトキワグローブ邸に泊めてもらっています。
 ミナノとプレスはどこに泊まっているかわかっていません。

「やっぱりお茶はシズオカですねぇ」

「ハナ、シズオカってどこのこと?」

「え?シズオカってマッサーラのことですよ」

「だから、それどこよ?」

 カスミとハナはハナの飲むお茶で盛り上がっていた。
 ユウナはその話を黙って聞きながら、パンを少しずつ千切って食べた。
 途中で、コーヒーが飲みたくなり、ブラックコーヒーを持ってきて飲んだ。



 お腹が満たされて再びコーヒーをおかわりしたころでだいぶ時間が経ったのだが、それでもまだハナとカスミはお茶について熱く語っていた。

「(どうしようかな?)」

 ユウナが3杯目のコーヒーを迷っている時だった。
 丁度、白髪の男……ハルキが食堂へと姿を現したのだ。

「あらハルキ、随分遅いわね」

「……ずっと起きてた。外へ行っていただけだ」

「外へ?どこへ行っていたの?」

 外から帰ってきたハルキに向かってユウナが尋ねる。
 しかし、彼は語らず、そのまま席に座ってパンを頬張り始めた。

「何をしたのって聞いているのよ?」

 ユウナは語尾を強めて、ハルキに尋ねる。

「別に」

 そっけなく、ハルキはパンをむしゃむしゃと食べ続ける。

「その態度は……何かあったのね?」

「何もない」

「その割には、いつもより、食が進んでいるじゃない?」

「…………」

 黙ってハルキは食べ続けるが、ユウナが痺れを切らして、ハルキの腕を引っ張った。

「おい……何するんだ?」

「ちょっと来なさい」

 ハルキはユウナに引っ張られ……いや、半ば連れ去られるように食堂を後にした。

「本当ね。このお茶上手いわね」

「そうでしょう?」

 カスミとハナはまだ、お茶の話をしていたと言う。
 ハルキとユウナの話は聞いていなかったらしい。(ぁ)





 バタンッ!

 ドアを勢いよく閉めて、ハルキが逃げないようにとドアの前に仁王立ちになった。

「……あんまり話したくなかったんだがな……」

 右手で頭を抑えてヤレヤレとハルキ。
 ユウナの目を見て、喋るまで帰す気はないということを悟ったようだった。

「エースがライトのことを突き放した」

「え?どういう意味?」

 朝、カレンと一緒に見た出来事をユウナに話した。
 しかし、ハルキはあまり説明するのが上手でないらしく、伝えるまでに10分くらい要したとか。

「……ミナノのことを好きになり、ライトのことを突き放した……?」

「ああ」

「……ライトはそれでいいと思ってるの?」

「あいつの気持ちなんて俺には興味ない」

 ハルキの問いに、ため息をつく。

「あなたに聞いた私がバカでした」

「これで話は終わりだ。俺は事実を話した」

「とりあえず、話してくれてありがとう」

 ドアを開けると、ハルキはそそくさと部屋から出て行った。

「……とりあえず、エースがライトと一緒にいたくないって言うなら、ライトに諦めてもらうしかないわね……。できることならエースも一緒に戻ってもらおうと思っていたけど……」

 ハルキに続いて自身も部屋を出た。
 今度はゆっくりとドアを閉める。

「(それにしても、オトハはよく目覚めないわね……)」

 部屋を出てからふと気付く。
 ずっと頭から布団をかぶっていたために彼女の存在に気付けなかった。

「それじゃあ、ライトを連れて私達の世界に戻るしかないわね」





 一方、先に部屋を出たハルキはロビーで黙り込んでいた。
 ミナノの一言を思い出していた。

―――「私にはわかります。エースさんは私を見ていない。ライトさんだけを見ているんです」―――

 その後、プレスが来て、一緒にとっとと行ってしまったため、ハルキはその場に取り残された。

「(そんなにライトの事を心配するなら、何故エースはライトから離れようとする?)」










 85:彼の成長


「もしかして、落ち込んでいるの?」

 トキワシティの郊外に流れる川をずっと座ってたたずんでいたエレキは彼女の声を聞いて振り向いた。

「あ、アクアさん……」

「そんなに離れたくなかったのなら、泣きつけばよかったじゃない。ずっと側にいて欲しいって」

 そういわれて、苦笑いをするエレキ。

 エレキはSGでエアーと再開したときのことをふと思い出した。
 それはエレキがエアーとアクアの戦う場所へ戻って、エアーが気を取り戻した時のことだ。

―――「エレキたん!久しぶりアル!」―――

 彼女は心のままにエレキに語りかける。
 そんな純真無垢で天真爛漫な彼女にエレキは惹かれていた。

 やがて、スティックとハシラとのバトルが終わり、アクアが他のみんなを探しに行ったときのことだった。

―――「私、エレキたんに話したいことがあるアル!」―――

 その言葉を聞いてエレキは緊張した。
 まさか、エアーからの告白なのでは?と思っていた。

―――「私、エレキたんのことをほっとけない”弟”だと思っていたアル!!」―――

―――「え、えぇ?」―――

 ちなみに、エレキとエアーは同い年です(何)

―――「てっきり、エレキたんのことが好きかと思ったけど、ラグナたんに言われて心の整理をしたアル。そしたら、そういう結論に達したアル!」―――

 その言葉に、エレキは何の反論もできなかった。

―――「だから、これからも友達で宜しくアル!」―――



 エレキはアクアを見る。

「そ、そんなことできないよ。か、彼女は僕にそんな気はないって言っていたんだから……」

「あら、諦めるの?」

「…………」

 エレキはうつむく。

「自分の気持ちを伝えてないんでしょ?未練があるなら、伝えればよかったじゃない」

 昨日の夕暮れ時、エアーはエレキに別れを告げてトキワシティを旅立っていった。
 エレキは何も言わなかったのである。

「……ううん。こ、答えならわかってるよ」

 立ち上がってズボンについた土を払う。

「か、可能性が1%でもあるならと思っていたけどエアーちゃんにその気はないよ」

「ふうん。0%だから、諦めるって言うんだ」

「ぼ、僕はくじけないことにしたんだ。わ、割り切って前へ進もうと思うんだ」

「…………」

「な、何!?」

 アクアにじっとつめられて、赤くした。

「出会った頃と比べたら、成長したなって思ったの」

「そ、そうかな?」

「でも、女の子と付き合うことに関してはまだまだね」

「うぅ……」

 でも、実際エレキは少し成長したという。

「(前に進むという気持ちがヒロトにもあればいいんだけどね……)」

 エレキの姿を見てアクアはふと思った。










 86:断ち切ろうとする人、想いを知る人、真実を知る人


―――「エースがライトのことを突き放した」―――

 まだユウナに起こされたくなくて彼女……オトハは布団をかぶって抵抗を試みたら、聞こえてきたのはハルキの一言だった。
 オトハはにわかに信じがたかった。
 ハルキにその真実を確かめたかったけれども、聞き出すタイミングがつかめなかった。
 もたもたしているうちに、ハルキもユウナも部屋を出て行って結局聞けず仕舞いだった。

 このままではいけないと思って、オトハは起きて、身支度を整えて、急いでトキワグローブ邸へと足を運んだ。
 中からはシルバーが出てきたので、エースを呼んでもらった。
 彼は帰ってきたようで、シルバーが呼んでまもなくして顔を見せてきた。
 オトハは迷わずエースの腕を掴んで外へと飛び出した。

 そして、エースを近くの森へと連れてきた。

「一体何の用だ?俺はオトハさんに言われる筋合いなんて何もないぞ」

 言い方からして、ライトの話のことだと彼もわかっているなと思った。

「何でですか?何でライトさんの傍にいてあげないんですか?」

「それをあなたに説明する必要があるか?」

「説明して欲しいです」

「なら言う。俺はライトよりもミナノのことが好きになった。ただそれだけのことだ」

「待ってください!それなら、あの時どうしてライトさんをハナダシティに残して一人で旅立って行ったのですか!?」

「……それは、6年間付き合って……ライトに愛想が尽きたから……」

「嘘です」

 エースが目線を逸らして迷いながら言うのに対して、オトハはしっかりと目を見てはっきりと断言した。

「あなたはライトさんのことを求めていたはずです。一人で居た時もライトさんのことを忘れたことなんてなかったんじゃないですか?」

「……!?」

 普段ポーカーフェイスのエースの顔がかすかに狼狽を見せた。

「エースさん。本当はライトさんと一緒に居たいのでしょう?何かワケがあって、こんなことをしているのでしょう?」

「…………」

「エースさん!!ヒロトさんの二の舞にはならないでください!後悔をしないためにも大切な人の傍にいてあげてください!!」

「うるさい!!」

 エースが珍しく声を張り上げる。

「エース……さん?」

「そんなこと、お前の知ったことじゃない。大体、俺がそんな風にライトを想っていたなんて、あんたの想像だろ?証拠なんてどこにもない」

「そ、それは……」

 やや顔を赤くして戸惑うオトハ。
 それに、次に続く言葉が見つからなかった。

「俺は”雑草”みたいにはならない。それに、もうライトとは赤の他人だ」

 エースの背中がどんどん遠のいていく。
 何かを言わないと思っているのだが、言葉が見つからない。
 やがて、彼の背中は森の茂みの中へと消えていった。

「(どうして……?どうしてですか……?)」

 ふと、思い出されるのは1年前のこと。
 エースは覚えてないだろうけど、オトハははっきりと覚えている。
 彼が倒れて、苦しみながらライトと呻いていた事を。

「(せっかく、ライトちゃんに会えたのに……どうして素直になれないんですか……?)」

 その場に座り込んで呆然とする。
 ライトの気持ちやエースの気持ちを考えると彼女の目からふと、涙が零れ落ちた。

「(そんなの……悲しすぎるじゃないですか……?)」

 ただ、彼女は涙した。



「(……俺だって……)」

 しかし、オトハの言葉を思い出すとエースは深く迷っていた。

「(一緒にライトと居たい……だけど……)」

「♪違う世界の者たちは〜結ばれてはいけない〜とでも言われた〜?」

「……!?」

 ふと声がして、後ろを振り向くと、エレキギターを背負ったモトキの姿があった。
 しかし、何故か彼は頭に大きなたんこぶと頬に絆創膏が張ってあった。
 何かあったのだろうか?

「(こいつ……いつの間に?まったく気配なんて感じられなかった……)」

「♪だいじょ〜ぶだよ〜!君達は結ばれても何の問題もないよ〜。そんなこと言われたら〜俺とユウコも〜ダメになっちゃうじゃないか〜」

「……どういうことだ?俺は確かに”奴”に言われたんだ」

「♪だいじょ〜ぶ、だいじょ〜ぶ!俺を信じろって〜」

 軽い口調で言われても、説得力はまるでない。
 エースも信じることはできなかった。

「”奴”の言葉はまるで俺を締め付けるような威圧感があった。絶対的な束縛力を持つような強烈な威圧感が……。その言葉に背いたら、ライトの身に何かが起こるんじゃないかという不安が俺を襲ったんだ」

「♪だから〜君は〜彼女と別れることを選んだの〜?」

「…………」

 黙り込むエース。

「アハハッ♪」

 そのエースをモトキは笑った。

「何がおかしいんだ」

「♪もしそんなことがあっても彼女は〜君と一緒に居たいんじゃないかな〜?」

「…………」

「♪だけど〜最終的に決めるのは〜君さ〜」

「…………」

 モトキの言葉はエースの心を軽くしてくれるような気がした。
 普段は信用できない奴だけど、このときばかりは何故かモトキを信用する気になった。

「(自分の心に嘘はつきたくない……)」

 ふと、後ろを振り向くエース。
 しかし、もうそこにはモトキの姿はなかった。





「モトキ!遅いでヤンス!」

「♪わりィ〜わりィ〜」

 トランの言葉に平謝りする。
 口調を聞く限りでは、本当に軽い感じで気持ちがこもっていないように聞こえる。

「モトキお兄さん。大丈夫ですね?」

「♪あぁ〜!一応、ユウコに別れを告げてきた〜。寂しいけど〜」

 やはり軽い口調に聞こえるモトキの声。
 しかし、今のはちょっと陰りのある声だった。

「……それと、わかっているよな?ハナ」

「ええ」

 急に真面目な口調になって聞くと、ハナは頷いた。

「♪それなら〜任せたぜぃ〜」

「はい。いってらっしゃい、モトキお兄さん、トランちゃん」

 モトキの背負ったギターの先端にトランが乗り、モトキは妹に手を振って歩き出そうとする。

「ちょっと待ちなさい」

 しかし、一人の女性の声が彼の足を止めた。

「ずっと探していたというのにどこへ行く気なの?これからTCのこの後のことを話さなくちゃいけないのに」

 チェックのシャツで青色の髪を持つアクアだ。

「♪アクアさんごめ〜ん!俺たちTCを抜けるから後はがんばってねぇ〜」

 モトキはアクアに向き直るとあっけらかんと言った。

「それはどういうこと!?2人とも、カントー地方を安定させるために力を貸すといったのは嘘だったの!?」

 ハナがモトキの顔を見る。
 アクアさんに説明をお願いしますとモトキにアイコンタクトしているようだ。

「♪ごめんなさい〜。実は俺たちは別の目的のためにTCを利用していたんだ〜」

「利用していた!?」

「♪そ〜。”この世界”の情報を集めるためさ〜」

「情報を集めるため?」

「♪”この世界”に紛れ込んだと思われる”影人”を探すためさ〜」

「”影人”?何よそれ?」

「ドッペルゲンガー……みたいなものです」

 モトキの代わりにハナが言う。

「ドッペルゲンガーって、自分とそっくりな人で見たら死ぬという……あの?」

「はい。でも、本当に死ぬというわけではないですよ?」

「オイラはその影人を追っているでヤンス。そして、手掛かりを見つけたでヤンス。だから報告に行くでヤンス」

「どこへ?」

「♪アクアさんの知らないところさ〜。じゃ〜俺は行ってくるよ〜」

「ヤンス」

「ちょっと!!」

 モトキの腕を掴もうと手を伸ばした。
 しかし、掴んだと思ったのだが、次の瞬間にはモトキは消えていた。
 一瞬のうちに姿を消したのである。

 驚くアクアを尻目にハナは笑顔だった。

「あんたたち……一体何者なの?」

 相変わらずハナは、マイペースでお茶を啜っていたという。










 87:死神


―――「え?僕ならどうするって?」―――

 マサトは尋ねてきたヒロトに聞き返した。

―――「そんなの決まっているじゃないですか!オトハさんと一緒に居るのがいいですよ!」―――

 散歩中にマサトに尋ねたけど、返ってきた答えはヒロトの予想通りだった。
 誰もがオトハの願いがかなうことを望んでいる。
 勿論オトハの願いはヒロトといっしょにいること。
 しかし、ヒロトはそれを拒む。

 それにしてもアレだよなぁ。誰もがうらやむ美女を拒絶するなんて、もてない男の敵だよなぁ(ぁ)

「(ユウナもマサトも同じことしか言わない……。誰も俺の心なんて知る奴なんていないんだ……)」

 日はもう高く昇って、傾きかけていた。
 マサトと別れて、森の中を散歩していた。
 今はポケモンたちを鍛える気分ではなく、もやもやとした気分が彼の中を渦巻いていた。

「(何もやる気がしない……。リュウヤもどこへ行ったんだ……?)」

 何も言わずにどこかへ行ってしまったリュウヤ。
 彼を助けるためにここまでやってきたというのに、肝心の彼は行方不明だった。

「(俺……なんでこんなところにいるんだろうな……)」

 ふと、まっすぐ前を見たときだった。
 暗く深い森の中に人の姿が見えた。
 暗くてもヒロトが人の姿を発見できたのは、丁度よく木漏れ日が人を照らしていたからである。

 倒れていると思って、急いで近づいてみる。
 そして、彼は誰だか気づく。

「オトハさん……? どうしてこんなところに倒れて……?」

 ふとオトハの様子をうかがっていると……

「……zzz……」

「……何でこんなところで寝てる?(汗)」

 しかし、ただ寝ているだけではなかった。
 彼女は目に涙を浮かべて泣いていた。

 ヒロトは迷った。
 起こそうとすれば、必ずオトハと喋る羽目になる。
 しかし、オトハをこの場所に放置しておくことなんてヒロトにはできなかった。





「(……揺れている?)」

 オトハがふと気がついたのはヒロトが見つけて5分も経たないころだった。
 そして、彼女は何かにしがみつくようにしていたことに気がつく。
 自分の胸が温かい何かに当たっている。

 目がはっきりと冴えるまで、自分が置かれた状況を把握できなかった。

「ここは……?」

「目が醒めたかい……」

「(え?ヒロトさんの声?)」

 そして、周りを見る。
 自分の体が宙を浮いていて、運ばれていた。
 しかし、それはエスパーポケモンによる力でないことは把握できる。

「(この状態は……)」

 オトハはようやく自分の置かれている状態に気がつく。
 自分の胸が当たっていた温かい何かは、ヒロトの背中だということを。
 そして、顔を赤くする。

「ヒロトさん……?」

「あそこで倒れていたみたいだから、街まで連れて行こうとしたんだ。迷惑だったかな?」

「あ……いえ……でも……私……大丈夫です……」

「あそこで倒れていたってことはケガでもしていたんだろ?無理するなよ」

「でも……私……重いでしょ……?」

 湯気が出るほど顔を赤くして、ヒロトに尋ねる。

「思ったほどじゃないさ」

「……そうですか……よかった……」

 ケガはしていなかった。
 しかし、何を言ってもヒロトは降ろしてくれそうに無かったから、オトハはヒロトの好意に甘えて、彼の背中の温もりを味わっていた。

「……オトハさん……」

「なんでしょう?」

「どうして……どうして俺なんかを好きになったんだよ……」

 ヒロトが震える声で呟く。

「俺なんかじゃなくても、カッコイイ男や頭がいい奴なんてたくさん居るじゃないか……なんで俺なんだよ……?なんで……?」

「ヒロトさんだからです」

「……?」

「ヒロトさんがありのままのヒロトさんであるから私は好きになったんです。好きになるのに理由なんて必要なのでしょうか?」

「…………」

「ヒロトさんがヒカリさんを好きになったのもそうなのでしょう?好きになったものは仕方がないのです」

 オトハの問いに沈黙のヒロト。

「私はヒロトさんについて行きたいです。ダメですか?」

「俺はリュウヤに協力しなければならない。危険なところにオトハさんを連れて行きたくなんてない。だから、d」

「嫌です」

 はっきりとオトハは言った。

「ヒロトさんについていけるなら、この先どんなことがあっても……まして死ぬことになっても後悔なんてしません」

「もし俺がオトハさんに好意がないとしても……?」

「それでも……それでも私は、あなたについて行きます」

「…………」

 それから、ヒロトは何も言わなかった。
 その問いに肯定もしなければ否定もしなかった。

 そのヒロトの態度をオトハは汲み取った。
 それを見て、この先自分がどうするかなんて考える必要はなかった。



 ヒロトがオトハを背負って歩いて10分は経とうとしていた。
 彼らがいた場所は森の深くだったようでまだまだ出口は見えてこない。

 ふと、不思議な音楽が聞こえ始めたのはヒロトとオトハが森のせせらぎを味わっていた時だった。

「この音、なんだ?どこから聞こえるんだ?」

 ヒロトはこの音に不思議な心地よさを感じていた。
 しかし、そう思っていたのはヒロトだけだった。
 ヒロトの背中で彼女は震えていた。

「……オトハさん?どうかした?」

「……この音……怖い……」

「怖い?」

「……まるで……魂を吸い取られるような……不気味な音です……」

「そうは聞こえないけどな」

 謎の音を聞いていると、ふと彼らの前にグレンのフードを被った旅人の男が楽器を持って立っていた。

「誰だ?」

「始めまして。いや、久しぶりと言うべきかのう?」

「……?」

 グレンのフードを取ると男の顔がはっきりと見ることができた。
 黒い顎鬚に精悍な顔付き。
 口調からは老人と判断しがちだが、30代……いや、20代くらいの男だった。

「その声……どこかで……?」

「わしはずっとお主に夢で語りを告げていたものじゃ。そういえばわかるじゃろ?」

「!!」

 ずっと昔に見た夢の記憶……
 トキオだけに話した未来予知……

 この男の声を聞いてヒロトははっきりと確信した。

「お前が……俺にあの夢を見せたのか……?」

「どうじゃ?わしの見せた夢は役に立ったかのう?」

 ふぉっふぉっふぉ……と老人みたいに高笑いする男を見て、硬く握りこぶしを作る。

「ヒロトさん……?」

「お前が……お前があんな夢を見せなければ、ヒカリは死なずに済んだんだ!!」

「それは八つ当たりというものじゃ。お主は自らの道を選んで、自らの破滅を選んでしまったのじゃ。わしの出した試練を乗り越えられなかっただけの話じゃ」

「……お前が出した試練だと!? お前……何者だ!?」

「わしは運命を詠う者だ。もしくは試練を与える者とわしは呼ばれている」

「……!!」

 ヒロトは完全に激怒していた。
 冷静さを失い、怒りが彼を支配していた。

「ヒロトさん……落ち着いてください」

「オトハさん!黙っててくれ!俺は、こいつを……」

「わしとポケモンバトルするというのか?ふぉっふぉっふぉ。やめとくんじゃ。今のお主じゃわしには勝てんよ。それにわしとバトルするからには命を懸けてもらわないとな」

「……命を懸ける?どういう意味だ?」

「わしとバトルをして負けた者は10年以内に死ぬという運命を科せられる……そういうことじゃ」

「そんなの聞いたことない……お前一体何者だ?」

「何度言わす気じゃ?わしは運命を……」

「いいえ。あなたは運命を詠う者でも試練を与えるものでもありません」

 男の言葉を遮ったのは少女の声だった。
 それはオトハよりも幼く、しかし、ゆったりとした声だった。

「『死神のバブル』……それがあなたの異名ですよ?(ズズッ)」

「誰じゃ?何故わしの名前を知っている?」

 いつも笑顔の顔で彼女は名乗り出る。

「私の名前はハナです。バトルの相手なら私がしますよ?」

 彼女はモンスターボールを既に持って、バトルの準備は完了していた。

「お前!バトルは俺がするんだ!邪魔をするな!!」

「ヒロトさん……落ち着いてください……」

「落ち着いてなんか居られるか!!俺はヒカリの敵を……」

 ハナは笑顔を崩さずに言った。

「ヒロトさん。この人を倒すのは私の役目なのです。”影人”を倒すために私達はここまで来たのです」

「……役目?……”影人”?」

「それに、今のヒロトさんの精神状態ではあの人には敵いません」

 そういいつつ、ハナはトゲキッスを繰り出した。

「何故わしの名前を知っているかわからんが、命を懸ける覚悟はあるのじゃろうな?」

 バブルはプテラを繰り出す。

「平気です。私は負けませんから」

 波動弾と破壊光線がぶつかり、強力な衝撃を生んだ。
 ぶつかった中心が弾けて、あたりの全てを吹き飛ばした。

「くっ!!」

「きゃっ!!」

 ヒロトとオトハも例外ではなかった。
 だが、二人とも近くの木に捕まってその場に留まった。

「凄まじい攻撃でした」

「いきなり何て攻撃をするんだ!?」

 上空ではプテラとトゲキッスがぶつかっている。
 一方の地上戦では既に別のポケモンたちがバトルを進めていた。

「ラッキー、『卵爆弾』です」

「バクフーン、『螺旋炎』じゃ!!」

 二つの技が激突するものの、威力は遥かにバブルのほうが上。
 卵爆弾は炎に包まれてラッキーをも包み込んだ。

「ラッキーは終わりじゃな」

「ふふっ。そう簡単にはいきませんよ?」

 炎に包まれても、ラッキーは何故か体力を減らしている様子はない。

「どういうことじゃ!?」

 一方のプテラとトゲキッスのバトルはプテラがやや押していた。
 ストーンエッジや鋼の翼の打撃攻撃で押すプテラに対し、トゲキッスはエアスラッシュやマジカルリーフなどの特殊技で応戦している。
 命中精度はスピードで上回るプテラの方に分があり、与えたダメージもプテラの方が大きい。

「ラッキー、『ホーリーエッグ』です」

 まっさらな卵を取り出したかと思うと、トゲキッスに向けて卵を放った。
 ラッキー自身にも放つと、なんと傷が回復をしていった。

「なんじゃと!?」

 すると、体力を回復させたトゲキッスが一気にプテラを攻め立てた。

「それなら、そのラッキーを倒すまでじゃ!」

 バブルは攻めを急いでギャロップを繰り出す。

「『角ドリル』じゃ!」

「『吹き飛ばし』です」

 ギャロップを繰り出すほぼ同タイミングでハナもバタフリーを繰り出していた。
 接近するギャロップをバタフリーは凄まじい風で押し返してしまった。

「トゲキッス、今ですよ」

 神速でプテラの背中を取ったと思うと、そのまま地面に向かって急降下し、プテラを地面へとたたきつけた。

「!?」

「バタフリー、お願いします」

 羽ばたきにのせてキラキラと粉がギャロップとバクフーンに振りかかる。
 あっという間に、二匹は深い眠りへと陥ってしまった。

「……!?」

「どんどん行きますよ。覚悟はよろしいでしょうか?(ズズッ)」










 to be continued










 キャラデータ


 ハナ(13歳)……『アロマのお姉さん』を自称する女の子。モトキの妹。
          とっても天然かつ穏やかな口調で話し、ペットボトルのお茶や湯飲みは欠かさず持ち歩く。
          そして、どんな時も笑顔を絶やすことはない。
          だが、笑顔でたまに怖いことを言うために、彼女は『腹黒』の性質を持っているのではないかと囁かれている。(ぁ)
          果たして……彼女の実力とは?

 手持ちのポケモン……ラッキー(♀) リーフィア(♂) バタフリー(♂) チェリム(♀) チリーン(♀) トゲキッス(♂)





 オリジナル技


 ハナ
 『ホーリーエッグ』……ラッキーの技。次回のオリジナル技参照。

 バブル
 『螺旋炎』……バクフーンの技。炎の渦を螺旋にしたような技。威力は高い。





 アトガキ

 いろんな伏線が解放される第2弾(ェ)
 その前に、地味にエレキとエアーのCP破錠が決定していました。(ぁ)

 さて、本題。
 オトハとエースはこの話の1年前に実は会っていました。
 その時のエースは雨にうたれてすごい熱を出していました。それを見つけたのがオトハでした。
 しかし、オトハはエースをポケモンセンターに連れて行って休ませました。が、エースはまったく覚えていません。
 実はそんなことがあったというエピソードがDOCの9話にもちょっとだけちらついています。気付いたかなぁ?(ぁ)

 死神と呼ばれるバブルが登場!!……てゆーか、絶対このキャラを覚えている人はいないでしょ!?(何)
 WWS系の作品で過去に2回ほど出たキャラなんですが、忘れている人も多いはずです。

 とまー、”影人”という謎の言葉が登場して、次回は最大の展開が待っています。多分(ェ)

 

[一言感想]

 ……気づいてるかも何も……(ry
 バブルってどっかで名前聞いた記憶はあるんですが、どこでだったか忘れてしまいました。
 しかしながら、ヒロトもエースも頑固ですね(苦笑)。
 それはそれとして、次回はハナの活躍が見られそうです。
 敵ではなかったものの、別の目的が彼女やモトキにはあったようですね。

 

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