「ラグナ、大丈夫?」

 急いでラグナに駆け寄るオトノ。
 その表情はとても心配そうに、ラグナの傷を確認した。

「うん……。ケガはない!よかった……無事で……」

「……あ、あぁ……」

 安心して息をつくオトノ。

「…………!!」

 しかし、ハッとした。
 無意識のうちに、ラグナの両手を握っていたのである。
 そのことに気付いた彼女は、慌てて手を放して、さっと顔を赤くした。

『そうか、お前がヒワダタウンのオトノだな』

「……!」

 振り返るオトノ。

「あんたが町を破壊したのね……」

 視線の先にいるのはブーバーン。
 先ほどの赤くなった様子はなく、ハキハキとした女の子がそこにいた。

『その通りだ。俺はお前を倒して褒美を貰う。喰らえッ!!』

 大きく息を吸って火炎放射を吐き出す。
 炎は一直線にオトノとラグナに向かって行った。

「あぶねぇ!」

「え?」

 手を掴んでオトノを抱え込むようにラグナはかわす。

「大丈夫かよ?」

「ちょ、ラグナ……別にこんな事してもらわなくてもかわせたのに……」

 微妙にラグナがオトノを押し倒しているようなシュチュエーションになっているため、オトノはやっぱり顔を赤くする。

「あいつ、強いんだぜ?俺が全く歯がたたねぇ。ピクシーでさえあのブーバーンと互角だった」

「(互角だった……?)」

 オトノは首を傾げる。
 しかし、とりあえず、ラグナを押しのけて起き上がり、オトノは前に出た。

「ラグナ、あたしに任せて」

「オイ。オトノ……戦うつもりか?」

「故郷をこんなメチャクチャにさせられて黙ってなんていられない!それに、こうなったのはあたしが村をほっといて買物に行ってしまったため。責任は全てあたしにあるの!」

「だからって、てめぇ……」

「いいから、あたしに任せてって言ってるでしょ!」

「う……」

 オトノの剣幕に、ラグナはたしろぐ。
 そして、オトノはモンスターボールを取り出した。

『ようやく、戦う気になったか。お前の力、見せてもらう!オトノ!』

「絶対許さないわよ!!」

 オトノのモンスターボールから出てきたのは、緑色をしたトカゲのようなポケモン。
 名前をジュカインと言った。

「行くわよ。ジュカイン!」

「(……あれは……!)」

 ラグナは気付いた。
 オトノも懐から男と同じくトランプケースのような長方体の物を取り出した。
 そして、ジュカインに翳すと、男と同じようにジュカインに憑依した。

『先手必勝だっ!!オラッ!!』

 ジュカインに向かって強力な炎が放たれる。
 炎はジュカインを飲み込んで轟々と竜巻を起こした。
 草タイプのジュカインには効果は抜群である。

『終わったな……。後は、倒れたオトノを生け捕りにしていけば…………あれ?』

 火炎放射を止めてみると、そこには誰もいなかった。

『どこへ行った!?』

『『リーフブレード』!!』

 ドシュッ!!

『ぐぉっ!!』

 まるでテレポートのように、ジュカインはブーバーンの横に姿を現した。
 そして、斬撃の一閃で吹っ飛ばした。

「(今の動きは……!?)」

 ラグナはジュカインの動きに少し見覚えがあった。
 しかし、どこで見たか、あまり良く覚えていなく、軽く頭を抑えた。

『……油断した……。今度はそうは行かない!!喰らえッ!!』

『そんなの、効かないわ』

 大文字を放つブーバーン。
 しかし、ジュカインはある構えをする。
 手を前に差し出すと、大文字が消滅してしまった。

『何っ!?ならば……接近戦だ!』

 走ってジュカインに向かって炎のパンチを繰り出す。
 
 ズドンッ!!

 ジュカインは何の抵抗もせずに、攻撃を受けてしまった。

『一撃だな』

『『月舞踊:受風』……』

 しかし、ジュカインはくるりと身体を回転させて、地面に着地した。

『……から『月舞踊:朔凪』!!』

 大気中から発生する真空波がブーバーンを切り裂いた。

『ぐぅ!!……な、何ィっ!?』

 身体をよろめかせて、膝をつくブーバーン。

『何故だ?さっきの炎のパンチが効いてないのか……?』

 ブーバーンが疑念にとらわれる中、ジュカインは動き出していた。

『一気に行くわ!』

『させるかよ!!』

 ブーバーンは火炎放射を放って近付けさせないつもりだった。
 だが、すでにジュカインはブーバーンの射程距離に入っていた。

『馬鹿な!!速い!?』

『『リーフブレード』!!』

『ぐぼぉっ!!!!』

 身体を捻って、そのまま一気にブーバーンを顎をかっ飛ばした。
 壁に激突して、首を垂れて、ダウンしたのだった。
 その瞬間、ブーバーンと男は分離した。

『……ふう……』

 すると、ジュカインが消えるとモンスターボールとトランプケースの様な物を持ったオトノが現れた。

「どうなってんだ、一体……」

 見たことある技を使うオトノ。
 ポケモンに憑依するトレーナー。

 ラグナは困惑してそのバトルを見ているだけだった。





『あの女がヒワダタウンのオトノか……』

 遙か上空でオトノの様子を見つめる女が一人。
 ……いや、女という表現は間違っていた。
 そこにいたのは、一匹のてんとう虫のようなポケモンのレディアンだった。

『“彼女”の言うとおり、スムーズに事を進めるには邪魔な存在ね。そして、思ったよりも強い。やっぱり、あの手を使うべきだわね……』

 そう呟くと、レディアンは一旦ウバメの森の方へ降りて行ったのだった。





 ラグナとオトノはオトノの家に戻ってきた。

「ケガはなさそうね」

「ああ。さっきも確認しただろ?」

「そ、そうだったね」

 深呼吸をして、オトノは部屋を見回す。
 部屋ではヤドンがのっそりと徘徊していた。

「よかった。家が破壊されてなくて」

「そうだな。破壊されたら作り直すのが大変だしな」

「……うん。それもあるけど……」

 しゅんとオトノは俯いて寂しい顔をした。

「ここは、大切な家だから……」

 オトノが何かを言いかけて口を噤む。
 その様子をラグナは見ていたが、さほど気にしなかった。
 話したくないものを無理に話してもらう必要はないと思ったからだろう。

 オトノは部屋に飾っているゼニガメドールを取って、ベッドに腰を下ろした。
 ドールを抱きしめると、ゼニガメの甲羅の部分が彼女の柔らかそうな胸に当たる。

「(本当に大きいよな……ユウナくらいはありそうだな)」

 ユウナとはショップ・GIAでリーダー格の責務を担当している女性。
 彼女とはロケット団時代からの仲である。
 ゆえに、ラグナは数度ユウナの入浴を覗いている。
 任務先の休憩で温泉に入っている時を覗き、リフレッシュ時のプールの着替えの時で覗き、自室で着替えをしている時に覗く。
 その度に、ユウナから制裁を受けてボロボロにされていた。

 話がずれました(苦笑)
 要するに、ラグナの女の子の胸の大きさを見る目は確かなのである。(ぁ)

「……ラグナ?」

「あ゛?」

 視線を胸から顔に上げると、オトノがちょっと顔を赤くしていた。

「どこ見ているの?」

「あぁ。大きな胸だと思ってよ…………ぶっ!!」

 言い終わると、自分の顔にゼニガメドールがヒットした。
 しかも、そのゼニガメドールは甲羅の部分が非常に硬くできていて、その部分に当たったラグナは、顔を抑えて地面に転がった。

「ラグナのえっち……」

 胸を両手で押さえて恥ずかしそうにオトノは小さく呟く。

「いつつ…………。そうだ。そんなことより、気になることがあるんだがよ…………」

 まだ痛む顔を抑えつつも、立ち上がるラグナ。

「さっきの“あれ”はなんなんだ?」

「“あれ”?……ラグナ、知らないってことはないよね?」

 首を窄めるラグナ。
 その様子を見てオトノは驚きを表した。

「今、あいつらのせいで世界が大変なことになっているのに知らないなんて……ラグナって何者!?」

「世界が……?」

 ラグナはゼニガメドールを片手に抱えたまま、近くの木造の椅子に腰掛けた。

「とにかく今、“マイデュ・コンセルデラルミーラ”が世界を滅ぼそうとしているの」

「マイデュ・コンセル……?聞いたことねぇな……」

 首を傾げるラグナ。

「組織名が長いから、あたしは“マイコン”と読んでいるけどね」

「自分のゲームのコントローラーかよ?」

 My controller(ぁ)

「あたしだけじゃなくて、他の人もそう呼んでいるわよ?」

「迫力ねぇな……」

「でも、奴らは圧倒的に強すぎるの。あたしがさっき倒した男は、下っ端だったからよかったけど、幹部クラスになったらとてもじゃないけど太刀打ちできないと思う……」

「なっ!?あれで、下っ端だと!?」

「そう。下っ端がいて、幹部がいて、大幹部がいて、頂点<ボス>がいるの」

「…………」

 ギュッと拳を握りつつ、オトノの話を真剣に聞く。

「頂点<ボス>の狙いは世界の根絶と人間の撲滅。今、幹部全員が下っ端を従えてそれぞれの地方に襲撃をかけているわ。フィオレやアルミア地方はすでに滅ぼされてしまったわ」

「滅ぼされたって……抵抗はしなかったのかよ?」

「聞かなくても、あの男と戦ったラグナならわかるでしょ?」

「…………」

 自分の手持ち最強のピクシーの『アンリミテッドブレイク』でも勝てなかった。
 それがどういう意味を持つか、ラグナにはわかっていた。

「今、“マイコン”と互角に戦える人なんて指で数えるほどしかいないの。まして、幹部や大幹部となると……敵う人なんていないのかも……」

「(一体いつの間にこんなことになったんだ……?)」

 オトノの言ったことが嘘ではないことは納得した。
 だが、自分が気絶している間に世界がこんなことになっているなんて急すぎるとラグナは感じていた。

「(……でも、奴らの強さを考えれば、至極当然のことか……?)」

「奴らのせいで……街が壊滅したところがあれば、砂漠と化したところもある……もうメチャクチャよ……」

 立ち上がって、フシギダネドールを掴んで抱きしめるオトノ。
 その様子は、悔しそうでもあり、そして何故か寂しそうだった。

「(……オトノの奴……何かあったのか……?)」

 オトノを見て、酷く孤独そうにラグナは見えた。

「オトノ」

「何……?」

 顔を上げるオトノ。
 潤んだ目で見るオトノにラグナはちょっとドキッとした。

「あぁ。事情はわかったけど、俺が聞きたかったのは……」

 ガタンッ

「お姉ちゃんー……ぶっ!!」

「あ゛?」

 突然、ドアを開けて何者かが飛び込んできた。
 小さなスモックを着た女の子だった。
 しかし、ラグナの足にぶつかって転がり、お尻を押さえている。

「うぅ……痛い……。きゃあっ!」

 女の子はラグナを見て驚き、慌てふためく。
 そして、オトノを見つけて、彼女の脚に飛びついた。

「あ、マホ!無事だったのね!!」

「お姉ちゃん……この怖いおじちゃんは誰?」

「おじちゃんじゃねぇ!!まだ21歳だ!」

「21歳……?おじちゃんだー」

「な゛ぁ!?」

 ラグナに389のダメージ。(ぁ)

 精神的ダメージを受けたラグナは、ショックで膝をついた。
 そこへヤドンが現れて、じーっとラグナに視線を送っていた。
 きっと哀れみを送っているのだろう。
 その様子を見たオトノは、口を押さえて笑いをこらえていた。

「この人はね、ラグナって言うの。旅の人みたいよ」

 オトノは本当のお姉さんみたいにマホを優しく撫でつつ説明してあげた。

「へー……。お姉ちゃんの恋人?」

「へ? ち、違うよ!? ら、ラグナとはなんでもないのよ!?」

 手を思いっきり振って、否定するオトノ。

「そうなんだー……ねぇ、お話してよー」

「えぇ!?ら、ラグナとの出会いの話!?」

 思いっきり声が上ずるオトノ。

「えー?いつものお話の続きだよー」

「あ。え?あ、あぁ……そうよね。そうだったわね……」

 酷く動揺しているオトノであった。

「お話しするのはいいけれど……その前にマホちゃん、お母さんは無事なの?」

 つい数時間前までヒワダタウンはマイコンの男によって、建物を破壊されていた。
 その影響で、多数のケガ人が出てしまった。
 幸いは、死者が出なかったことであろう。

 マイコンの下っ端を倒したオトノは、その男のポケモンを没収して、ヒワダタウンの警官に引っ張っていった。
 ヒワダタウンの襲撃はこれが初めてのようで、まだ警察の戦力は残っている。
 しかし、オトノが言うにその戦力もマイコンの前には塵に等しいのだという。

「うん……。ケガはないよ!」

 ヒワダシティの現状にもめげずに、マホは元気に答えた。

「それならよかった。でも、マホちゃん。お母さんが心配するといけないから、今日のところは帰ってくれないかな?ちょっと、ラグナとお話したいから」

「えー。マホもお話聞きたいー」

「ゴメンね。大事なことだから……」

「ぷぅ〜……。わかった……」

 不満な表情をしながらも、マホは外へ出て行ったのだった。

「あのガキは?」

「ガキって口が悪いわね……。あの子はマホ。隣に住んでいる女の子よ」

「お隣さんって訳か」

「うん。妹みたいで可愛いでしょ?」

「さぁな。俺はガキには興味ねぇ」

 そうぶっきら棒に話すラグナ。
 持っていたゼニガメドールを元の場所に戻してやった。

「で、なんだっけ?」

「あ゛?」

「ラグナが聞きたかったと言う話」

「あぁ……」

 マホが来てしまったためについ聞きそびれたことをラグナは聞こうとする。

「俺が聞きたかったのは……」

 だが、間が悪かった。
 ラグナが質問をしようとしたそのときだった。

「きゃーぁっ!!」

 女の子の悲鳴が響いた。

「え?今の声は……!!」

 フシギダネドールをベッドに置いて、立ち上がるオトノ。

「さっきのガキの声か!?」

 家から飛び出すラグナ。
 オトノも続いて飛び出して、周りを見渡す。
 しかし、マホの姿はどこにもない。

「マホ!!一体どこにいるの?マホっ!!」

「おねーちゃんー!!助けてー!!」

「!!」

「上だ!」

 ラグナが上を指すと、マホはレディアンによって連れ去られていた。

「くっ……マホっ!!」

 そして、瞬く間に、レディアンは東の方へ去っていった。
 とても速いスピードにラグナとオトノは走っても追いつけなかった。

「ちっ!!……ん?」

 パサッとラグナの顔に紙が張り付いた。
 しかめっ面で剥がして、読んでみるとこう書いてあった。



 オトノへ

 あんたの可愛い妹分は預かった。

 返して欲しければ、一人でつながりの洞窟に繋がるアルフの遺跡へ日没までに来なさい。

 もし来なかったら、どうなるかわかっているでしょうから言わない。

 ミントより



「……ミント……?何者だ、コイツ?」

「(ミント……まさかあのミント!?……くっ……)」

 オトノはラグナから手紙をひったくって、ビリビリと破り捨てた。

「オトノ……?どうした?ミントって誰だ?」

「マホを助けに行くわ!」

 ラグナの質問に答えず、オトノは走り出す。

「俺も行くぜ」

「駄目よ」

 真剣な目つきでオトノはラグナを制する。

「手紙には1人で来なさいって書いてあるじゃない。もしあんたが来たら、あいつはマホを殺すかもしれない!!」

「だがよ……」

「第一……ラグナが来たところで足手まといになるだけよ。ここで待ってて」

「おいっ!」

 そして、オトノはマホを助けるために、ラグナをおいて東のつながりの洞窟へと走っていった。










 第24話 マイデュ・コンセルデラルミーラ 終わり










 赤い閃光が煌く時、一つの命が鎖される……

 第25話へ続く。

 

[一言感想]

 オトノは予想通り(?)強かった!
 しかし敵も相当手強く、少なくとも今のラグナでは太刀打ちできそうにありません。
 彼、いったいどのぐらい眠っていたのでしょうか……。
 ていうか、ほんとに眠ってたのか?(ぇ)
 相変わらずラグナは、女性の体にしか興味なさそう。
 でも、オトノ自身は彼に対して、まんざらでもない様子かも。

 

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