光―――目に明るさを感じさせる物理的対象。

 美しい色を彩り、希望を導いてくれるイメージのあるモノ。

 闇―――光の差さぬ鎖された物体的空間。

 人を不安に追い込み、希望を挫く光の対照的なモノ……。

 光の未来と闇の未来。

 人は一体どちらを望むのだろうか……?



 どちらが良いかなんて、おそらく人によって違うだろう。

 この世の善悪と同じように正しいものなんてきっとない。

 例えば、時代が違うと戦争こそが正義……力こそが善だという考えもあったほどだ。



 今、光の未来と闇の過去が入り混じっている。

 光が正義、闇が悪とは、一概に言えない。

 そう。

 強き意思とそれ相応の力を持った者が、正義となり、時代を導いていく。



 しかし……



 今起ころうとしていることは、光と闇がぶつかるだけではなかった。

 その根本と成るモノがなくなろうとしていた。

 人はそれをこう呼ぶ。

 “破滅”と……。










 ざっ ざっ ざっ

 砂を踏みしめる音が鳴り響く。
 この場所は、現在砂嵐が吹き荒れて、目を開けて進むことなど容易ではない。

 ざっ ざっ ざっ

 だが、あろうことかその砂嵐の中を足音が微かに聞こえるではないか。
 外から見ると、一つの人影が見える。
 それ以上、詳しく確認することはできないが。

 ズボッ!!

 そのときだった。
 砂嵐がさらに規模を増した。
 いや、砂嵐と言うよりも、砂の竜巻と言った方が正しい気がする。

 グォォォッ!!!!

 砂嵐の主の咆哮が聞こえてきた。
 体は岩のように硬く、いかにも狂暴そうな目付きに体格を持ったそのポケモンの名はバンギラス。
 しかし、ただのバンギラスがこのような尋常な砂の竜巻を起こせるわけではない。
 明らかにこのバンギラスは様子がおかしかった。
 目は血走っていて、顔つきもいかにも悪そうな表情をしていた。
 何よりも異様だったのは、バンギラスの手の光だった。
 黒く光って、威圧感を醸し出していた。

 グオォォォォォォォォォッ!!!!

 そして、そのバンギラスは砂嵐の中にいる人影に向かって、拳を振りかざした。
 光った手は、まるで意思を持っているかのように伸びて、砂の竜巻ごと一刀両断した。

 ガウッ!

 砂の竜巻は、ハタと止まり、バンギラスが望む誰もいない砂漠に戻った。

 ……と、バンギラスは思った。

「オーゥオーゥ。ジャリジャリする不味い砂を俺に食わせておいて、さらに不意打ちまでしといて、楽しいか?」

 ボコッと、砂の中から這い出るように上半身が剥き出しの男が現れた。

「オーゥオーゥ……怖そうな目をしてんな。やんのか、このスペシャルな俺様と?」

 ゆったりとしたパンツを穿き、上半身は灰色のシャツを羽織り、頭にはブラックの手拭いを括りつけていた。
 そして、歳は決して若いとは言えない。
 だが、高齢とも言いにくい。
 肉体はまるで若者のように溌剌とした皮膚をし、露出した上半身は逞しい筋肉を見せびらかしていた。
 顔は酷いくらいの老け顔ではあるが。

 よって、年齢を推測するに30代〜50代と予想されるだろう。

「砂嵐は止んだ。ついでに体動かして、テメーのストレス発散に付き合ってやっか?」

 その男は1つのモンスターボールから目つきの悪い間接が自在なサソリのようなポケモンを繰り出した。
 そのポケモンは、出てくると、バンギラスに突撃していった。

「ドラピオン。『アイアンバッド』!!」

 両手の腕を硬化させて繰り出す、アームスイング。
 バンギラスは咄嗟に両手でガードに出るが、その技の威力に押されて吹っ飛ばされる。
 ドンッ、ドンッ、と地面をぶつけた後に、足でバランスを取って体勢を立て直す。
 反撃の際に、手から岩の破片を飛ばしてきた。
 『ストーンエッジ』だ。

「ケッ、叩き落とせ」

 まさかの両腕でバンギラスの打ち出してきた、岩を次々と砕いていく。
 それを見たバンギラスは、力を溜めて向かってきた。

「『竜の舞』か……それなりにハリのある技を使ってくるじゃねーか。ドラピオン!」

 わかっているように頷いて、『剣の舞』で対抗する。
 そして、二匹が衝突すると、地面の砂が吹き飛んだ。

「ヌォッ!こらっ!テメーら!」

 ドラピオンたちに怒るが、そんなことをポケモンたちが気にする余裕はない。
 数秒、鍔迫り合いで拮抗していた。
 しかし、先に動いたのはバンギラスだ。
 噛み砕くでドラピオンの頭に噛みついてきた。
 流石にドラピオンは痛がり、ダメージは蓄積されていく。

「吹っ飛ばせ!」

 男に指示されて、ドラピオンは目が覚めたように体をギュンと回転させた。
 まさかその遠心力だけで、バンギラスは振りほどかれるとは思っていなかっただろう。
 体勢を崩されて、ゴロゴロと地面を転がっていった。
 そして、追撃に出るドラピオン。
 ジャンプをして体をグルングルンと回転させる。

「やれっ!『エリアルドライブ』!!」

 男の指示と共に、急降下した。
 バンギラスは黒く光る手でガードしようとする。
 しかし、それでも攻撃は止められない。

 ボゴッ!!

 地面が……いや、砂漠が陥没した。
 バンギラスは断末魔をあげて、気絶した。

 そのバンギラスに向かってモンスターボールを投げつけ、捕獲をする。

「…………。こいつが最近聞く怪しいポケモンか?一昔前のダークポケモンとは違うのか?まぁいいか」

 そういって、ズボンにバンギラスのモンスターボールを仕舞った。
 無造作に自分が埋もれていた砂の中から、ボクサーバッグを引っ張り出すと、左手で背負い上げて、その場を後にする。

「とりあえず、あのバカはどこだ?ここにいるって話を耳したんだが……」

 サクサクと歩いていく。

「…………。まーオーレ地方を散策していけば、そのうち見つかるか。……とりあえず腹減ったな。どっかで腹ごしらえでもすっか」

 そうして、謎の男は歩いて立ち去っていった。



 この男は何者なのか?
 そして、一体どのような話に絡んでくるのか?
 その情報は当分明かされない。

「薄セかしやがれよ」










 場所はうってかわってここは、どこかの建物の中。
 いや、はっきり言ってしまうと、ここはCLAW<クラウ>の秘密のアジトの中。
 つまり、場所はオーレ地方の廃れた工場である。

「うぅ〜ん……暇」

 そういって、部屋の中をうろうろする女が一人。
 鈴のついたチョーカーをした子生意気そうな女だった。

「後はアルドスとボスのシファーがやるから待機しろって……暇ったらありゃしないじゃないの!!」

 何もない空間で、おかしいほど両腕をブンブン振って暴れる。
 だが、すぐに疲れてやめて、背もたれ突きの椅子に腰をかける。

「はぁ―――……た い く つ……退屈で死にそう……」

 ギーギーと後ろに体重をかけていく。

 トントン

「ん?誰よ?……ってわっ!」

 扉の音に気をとられていた女は、体重をかけすぎて椅子ごと体を倒してしまう。
 しかも頭を打ったようで、後頭部を手で押さえていた。

「何をやっているんですKA?」

「うるさい……黙ってなさい……」

 ノックして入ってきた男を睨みながら、唇を噛み締めて痛みをこらえる。
 やや涙目を浮かべていた。

「随分暇そうですNE」

「そうよ。暇よ!暇なのよっ!!わざわざあたしの様子を見るためだけにあんたはあたしの部屋に来たの?ナポロン!」

「OYAOYA……言いようですNE。それだけの理由でここに来てはいけませんKA?」

「そのような理由で来たって言うのなら気味が悪い!それにその喋り方、気色悪いわよ」

 喋り方というのは、ナポロンの語尾が鈍っていることだ。
 それがどうしてもベルにとって嫌らしい。

「ベルさん、そんなことを言われても仕方がないじゃないですKA」

 FUFUFUと笑い声を上げるナポロン。
 その様子を不快そうに睨むベル。

「別に用も無しにベルさんの部屋に来たわけじゃありませんYO」

「じゃあ、何?」

「もっと、暴れたいと思いませんKA?」

「暴れたいわよ。こんなところでじっとしているなんて、耐えられないわね!」

 その言葉にナポロンはニヤッと唇を緩ませた。

「それなら、一緒について来てくださいYO」

「どこへ?」

 半分めんどくさそうに、半分は不信感でナポロンを見る。

「ベルさんが楽しいと感じてくれる所へですYO」










 ベルの部屋は三階のFフロアにある。

「……うん?ここは……どこ?」

 そして、白いワンピースの女の子が目を覚ました場所は二階に存在していた。

「……う……手が……」

 大体10歳くらいの女の子。
 水色の髪にすらっとした手足を持つ女の子だ。
 しかし、彼女の両手は背中の辺りで拘束されていた。

「そうだ……アイは……怪しいタキシードのおじさんに負けたんだ……」

 そういって、立ち上がってしゅんと俯く少女アイ。
 拘束されているのは手首だけで、他は自由だった。
 モンスターボールや道具などのかばんは、没収されて部屋の隅にある。

「ブイブイの葉っぱカッターでロープを切れば……」

 ブイブイはリーフィアの事である。
 拘束から脱する思案をめぐらして、隅のカバンに近づいていくが、体がガクンとし、引き戻された。

「……! 何かに括りつけられている?」

 よく見ると、ロープは緩く下の方に垂らしてあるが、結び付けているのは天井だった。

「これじゃ……どうしようもないよ……」

 ペタンと冷たい地面に足をつけるアイ。

「……アイのケライはどうしているんだろう……。ジュンキお兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 そして、アイは壁にもたれて、じっと自分のモンスターボールが入っているバッグを恨めしそうに見ていたのだった。










 ショップ・GIAのメンバーは主力3人が欠けて、壊滅状態といっても過言ではなかった。
 リーダーであるユウナもCLAW<クラウ>のアジトで捕まり、ラグナは行方知れず、バンにいたっては風霧のボスの“王翼のバドリス”にやられてフェナスシティでダウンしている。
 他のメンバーも裏切りや復旧作業などに追われていて、大変な事態だった。

 そして……この場所でも……





“ぐ……”

 ラルガタワーの頂上。
 つまり、ラルガタワーのメインコロシアムである。
 しかし、今は人っ子一人観客はおらず、その中心では、一匹の荘厳なポケモンが息を切らして、地面に降りていた。

“が……はぁはぁ……うぅ……”

 そのポケモンを細身の体で黄色い派手なマントを羽織った男が見上げていた。
 ニヤリと笑みを浮かべている。

「『じこさいせい』で粘っていたようだが、もはやここまでのようだな、ホウオウ!」

 男……バドリスはモンスターボールを構えた。
 そして、投げつけるが、ボールは当たらなかった。
 懇親の力を振り絞って、ホウオウは飛び上がったのである。

「無駄なことを。いい加減、地面に這いつくばれ!」

 一旦はしまったモンスターボールからポケモンを繰り出すと、その鳥ポケモンは強力な電撃を放った。

“っ!!!”

 モンスターボールを避けられはしたものの、鋭い電撃攻撃をかわすことまでは出来なかったホウオウ。
 直撃し、そのまま地面へと落下してしまう。
 大きくバタンと音を立てる。

“まさか…………私があなたに屈することになるなんて…………”

 一度は首を起こしたものの、ホウオウは喋り終えると気絶してしまった。

「やはり、相当苦戦したな。だが、これで小生の夢のパーティが完成する……」

 後はモンスターボールをホウオウにぶつけるだけだった。
 バドリスの野望達成は目前に迫っていた。

「さぁ、行けっ!モンスターボールっ!!」

 右手から放たれたモンスターボールは、一直線にホウオウへと向かっていく。
 軌道から言って、これはもうホウオウは完全に避けられなかった。

 ……しかし……

「ヘルガー」

 声が聞こえたかと思うと、バドリスのモンスターボールは炎に煽られて、吹っ飛んでしまった。
 当然、何事かと思い、火炎放射が飛んできた方向を見る。
 そこを見ると、一人の少年とヘルガー、女性の姿があった。

「……何者だ?」

 睨みを切らすバドリス。
 しかし、その視線にも屈せずに少年はあくびをした。

「ふぁ?」

 首を傾げる少年。

「正義の味方だよー☆」

 そう言葉を発したのは、隣にいたナイスバディな女性だった。
 ニンマリとロリロリな笑顔をバドリスに向けて放つ。
 ……バドリスに効果はないようだが。

「答えになってない。何者だ?」

「私、ミナミ!こっちの男の子がケイだよ☆」

 あくびをして眠そうなケイに代わって、ミナミがバドリスに向かって自己紹介をした。

「おかしいな。下でハヤットたちが見張っていたはずなのに」

「えー?そうなの?知らないよー☆」

「うーん……居たかなぁ……?」

 2人とも首を傾げる。

「…………。まぁいい」

 そして、バドリスは両手にモンスターボールを取った。

「誰が来ようと、邪魔する奴は小生が翼をもぎ取ってやる」

「ふぁ?」

「私に翼なんてないよー?」

 やっぱり2人とも首を傾げる。

「さぁ、行けっ!我がしもべども!!」

 そういって飛び出してきたのは、炎を纏った鳥ポケモンと電気を纏った鳥ポケモンだ。

「なんか凄そう……」

「……ふぁ!?あのポケモンは、サンダーとファイヤー!?」

 2匹のポケモンを見て、一気に眠気が吹き飛んだみたいなケイ。

「やれっ!!」

 その2匹は同時に炎の渦と10万ボルトを叩き込んできたのだった。










 第55話 vs王翼のバドリス@ ―眠たげな少年と童顔の女性― 終わり










 ラルガタワーの最上階で、ホウオウを死守せよ。

 第56話へ続く。

 

[アットの一言感想]

 退屈は魔女を殺す(違)。
 ふとしたきっかけでナポロンにそそのかされた(?)っぽいベルですが、どこへ連れて行かれるのでしょう?

 過去の戦いが終結し、舞台が再び第一部の続きへと戻ってきました。
 捉えられし高飛車少女、巨悪に落とされし七色の鳥、そして正義の味方を自称する能天気女御一行←
 ……つか、これだけ見るとバドリスの手下が職務怠慢っぽい(ぇ)。
 ともあれ、第三部開始早々いきなりバドリスとの戦いとなりましたが、対決の行方は果たして?

 

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