―――「ふふっ、ログはいつも元気よね」―――

 口を抑えて大人しく控え目な笑顔。
 それを見るだけで、僕はいつも元気にはしゃぐことができた。

―――「凄いよ!ログ、レンジャーランクが9になったんでしょ?かっこいいじゃない!」―――

 何かを成し遂げれば、彼女は僕を褒めてくれた。
 それが僕にとっての喜びであり、力の原動力だった。

―――「メモリー!?どうしたの!?」―――

―――「なんでもないの。ただ、足を挫いただけなの」―――

 ある時、フラフラと歩く彼女の足には何かに噛み付かれた後があった。
 野生のポケモンだとわかったとき、僕は仕返しに行ったりもした。
 そうでもしないと、僕の気が晴れなかったから。

―――「もう……ログ。心配しすぎよ」―――

―――「そんなこと言われても仕方がないじゃないか。僕はメモリーのことが心配なんだ」―――

 たまに僕が行き過ぎた行動を取ると、膨れっ面で怒ることもあった。
 そこがまた可愛くて放っておくことなんてできなかった。

 メモリーが居たからこそ、僕はフィオレ地方でポケモンレンジャーをやってこれたんだ。
 メモリーこそが僕の生きるすべてなんだ。



―――「先生!?メモリーは!?メモリーは……!?」―――

 1つの事件がキッカケだった。
 珍しい花を手にしようとメモリーは一人でジャングルの奥まで入って行ってしまった。
 僕はそのときレンジャーのミッションをこなしていて、メモリーについて行ってあげることができなかった。

 だからこそ、彼女がジャングルの奥で生死を彷徨う大怪我を負ったと知ったとき、僕は自分を責めた。
 どうして、この時任務に行ってしまったのかと。
 この任務で成果を上げた僕は、レンジャーのランクが10になったが、彼女は笑顔を見せてくれることはなかった。

―――「…………。残念ですが、彼女は目を覚まさないかもしれません」―――

―――「ウソ……だろ!?メモリーが目を覚まさないってどういうことだよ!?メモリーの目を覚ます方法はあるんだろう!?」―――

 僕は医者の肩を揺すって方法を問いただした。
 けれども、医者は僕から目を逸らしてただ体を揺すらされているだけだった。

 やがて僕はメモリーの眠る部屋で彼女を見つめていた。
 ただ目をつぶって、酸素マスクから送られてくる空気を摂取しているだけ。
 いわゆる植物状態だった。

―――「絶対……諦めない……。方法があるはず……そうだ。お金だ。お金さえあれば……お金さえあれば、メモリーの目を覚まさせることができる……。絶対に……!!」―――

 この時僕は誓った。
 メモリーの目を覚ますために金を集めること。
 金を集めるためならどんなことでもすると。





 例え……世界が滅びようとも、メモリーが僕の傍で微笑んでくれるなら、それでいいんだ。










 第73話 コールドペンタゴンD










「ケホッ、ケホッ……」

 そのとき、リクの体が大きく後ろに仰け反って、背中を地面に叩きつけた。
 ドンッと大きな音を立ててから、無意識のうちにリクは転がっていく。
 同時にログは右手に持っていたキャプチャスタイラーを放してしまいカンコンと地面を転がって、最終的にフィールドから外れて火口へ落ちていった。

 ログが写真に気を取られている間にリクは絞められた首を押さえながら、必死に酸素を取り込んでいた。

「……っ!! っ……!!」

「……ログさん……ごめんなさい……」

 右手に握っていた写真を見ると、大人しい女の子の写真がある。
 片やログの左手にはまだレンジャーだった頃だと思われるログの姿が映っていた。

「僕の写真を……よくも僕の写真を……!!」

 ログの気持ちに反応したのか、トゲキッスがドードリオを振り切ってリクに一撃をぶちかます。

「ぐはっ!」

 『神速』で吹っ飛ばされて、その写真を手放してしまう。
 それを見てログは、リクが手放した写真をダイビングキャッチした。
 その形相はまるで鬼のようで、必死さが滲み出ていた。

「許さない……絶対に、許さないよっ!!」

「つぅっ!」

 追撃で襲ってくるトゲキッスに対して、リクは最も頼れるポケモンのニドキングを再び繰り出した。
 体全身で体当たりする『神速』で襲ってくるトゲキッスに爪を強化した『どくづき』をぶちかます。

 ドゴォッ!!

 二匹は拮抗した力を見せて、一旦間合いを取った。

「(キャプチャスタイラーを捨ててでもあの写真を取り戻そうとした……そんなに大事なものなのでしょうか……?)」

 ニドキングとトゲキッスは肉弾戦を繰り広げ、ぶつかり合っていた。

「(……もしかして、あの写真の女の子がログさんの金を集める原因なのでしょうか……!?)」

「ムクホーク!」

「っ!ドードリオ!」

 ログもフィールドに二匹目のポケモンを投入してきた。
 直接リクを『燕返し』で狙ってきたのだが、ドードリオが攻撃をガードする。
 『守る』という防御技だ。

「本気の『ブレイブバード』!!」

 ムクバードから赤いオーラが滲み出てきて、ドードリオとリクに襲い掛かる。
 その際に空気を切り裂く轟々とした音が伝わってくるのを感じられる。

「ニドキング!」

 ズドォンッ!!!!

 ムクホークのタックルを顔で抑えて何とか防ごうとする。
 しかし、凍りついた(といっても本当に凍っているわけではない)摩擦がやや少ない地面をずるずるとどこまでも滑っていく。

「受け流してください! ドードリオは……」

「トゲキッス、『エアスラッシュ』!」

 空気の刃が2匹とリクを襲う。
 ドードリオが自分の体力を使って身代わりを繰り出した。
 そのおかげで、トゲキッスの攻撃を防ぐことに成功すると、今度はニドキングに向かって攻撃を仕掛けた。
 ログの目には仲間割れに見えたため、転回して戻ってきたムクホークに攻撃を仕掛けさせる。

「ドードリオ、『じたばた』です!」

「回転するんだ」

 最大技のブレイブバードから、くるりくるりと回転させてインパクトの威力を上げていった。
 しかもその効果は威力を上げるだけにはとどまらなかった。

「っ!」

 ドードリオのじたばたをほぼ無効化してダウンさせたのである。
 そのままリクに向かってムクホークは威力をあまり落とさないまま襲い掛かっていった。

「ニドキング、『かみなりパンチ』です!」

「……!」

 ドゴォッ!! バリバリッ!!

 ログの作戦は予定通りだった。
 ただ、最後にニドキングに返り討ちにされる以外は。

「さっきのドードリオの『ツボをつく』で攻撃力と防御力を強化しました。ログさん……」

 リクは細々と俯いて呼びかける。

「もう……やめてください……。金を集めるのは写真の女の人の為なんですよね!?そんなことをされても、その人は絶対に喜びませんよ」

「…………」

「まして、ログさんがどうやって金を集めたかなんてその人が知ったら、どれだけ悲しむと思っているのですか……?」

「……さい」

「え?」

「うるさいっ……!!」

 ドガバキッ!!

 トゲキッスが接近し、燕返しでニドキングに接近戦を挑んできた。
 防御力を強化しているニドキングだが、ログの想いに応えているトゲキッスの力はそれを凌ぐ勢いだ。
 防戦一方だった。

―――「…………ロ…………グ…………」―――

 ふと頭の中に過ぎる彼女の声を思い出す。
 いつの日だったか、彼がショップ・GIAの有給を取った時のことだった。
 全ての仕事をキャンセルして、フィオレ地方に戻り、その病院でログは彼女の手を取って見守っていた。

―――「……メモリー……」―――

 自分の名前を呼んでくれたのは嬉しかった。
 しかし、その声は自分に向けられたものではないただの言葉。
 この日も彼女は目を覚まさず、数時間同じ部屋で時を過ごし、フィオレ地方の病院を後にした。

 後日、ログはラグナにぶつくさと文句を言われた。

―――「てめぇがいなかったせいで、めんどくさいレンジャー専門の任務をやる羽目になっちまっただろ!」―――

 討伐系の依頼が専門のラグナにとって、初心者用のポケモンを探し出すという仕事は性格に合わなかったようだ。
 だが、そんなラグナの文句など耳に入りなどしなかった。
 彼がそのとき考えていたのは、いかに金を集めてメモリーを目覚めさせるかを考えること。
 ただ、それだけだった。

「メモリーが悲しむ……?それがどうしたっていうんだ?」

 トゲキッスがニドキングをエアスラッシュで吹っ飛ばした。

「……『それがどうした』……って……ログさんはその人を喜ばせたいんですよね?」

「リク……君は勘違いしている」

「……どういうことです……?」

「トゲキッス」

 竜巻のような風の渦を繰り出したトゲキッス。
 それを見てリクは、顔をしかめる。「まずい」と。

「『スパイラルショット』!!」

 『風の渦』と『吹き飛ばし』による螺旋風遁。
 空間を捻じ切る風の砲弾は、ニドキングとリクを捕らえて吹き飛ばす。

「うわあぁぁぁっっ!!」

 リクの絶叫と共にニドキングが同時に地面に力なく倒れる。

「うっ……」

 傷ついて動けないリク。
 いや、動けても意味はないだろう。
 既にアイテムは尽き、ポケモンたちもすべて戦闘不能になってしまったのだから。

「(喜びも悲しみも……今のメモリーにはない。できるなら喜んで欲しいけど、目を覚ましてさえくれれば、どっちだっていい)」

 ログはジリジリと破れた写真を繋ぎ合わせた。

「(ただ僕は、生きている彼女の姿が見たいんだ)」

 そして、写真をポケットにしまって倒れているリクを見下すログ。

「リク。残念だけど、火口に落ちてもらうよ」

「ぐっ……」

 そして、トゲキッスが再び『スパイラルショット』を繰り出したのだった。



 ダメです……動けません……



 バシュッ!!

「……!?」

「…………?」

 しかし、攻撃はいつまで経っても襲っては来なかった。
 恐る恐るリクは目を開けていく。

「君がなんでここに居るのかな?」

 ログは口調からして少し驚いたようだが、表情はあまり変わってなかった。
 むしろ、口元のスカーフがあるために、微妙な表情の変化は読み取れないが。

 そして、ログに対峙するその人物を見る。
 健康的で可愛い感じのキャミソール。
 ミニとまでは行かないが、膝丈よりやや上の丈まである花柄のスカートに白のショートソックスと黒のローファー。

「え……?」

 服装と体型、そして茶髪のショートカットの後姿を見たとき、リクは声を失った。
 自分の想っていた人が目の前にいたのだから。

「ナルミ……さん?」

「リクくん。これってどういう状況なの?」

 バトル山の頂上。
 その場所に現れたのは、ノースト地方のオートンシティのジムリーダーナルミだった。

「ほ、本当にどうしてここにいるのですか……?」

 ただリクは驚くしかない。

「たまたまショップ・GIAに顔を出したら、ボロボロのトキオくんがいて、シファーって奴にミライさんとカズミちゃんが攫われたって言うから来ちゃったの」

 というか、ジムはいいのかよ?(ぁ)

「うん。たまには息抜きも必要でしょ?」

「……ナルミさん?誰と話しているのですか?」

 ナレーションのツッコミに反応しないでください(汗)

「トキオさんがボロボロ……トキオさんは大丈夫だったのですか?」

「うん。心配ないわよ。いっつもルーカスさんにしごかれているだけあるもの」

 別に深い意味もなくにっこりとそう言ってのけるナルミ。
 その素直な言葉に、なるほどとリクは納得した。

「でも、どうしてこのバトル山に?」

「そうなのよ。まったくリクくんに連絡が取れないから、適当にここに来てみたのよ。そしたら、このバトル山でリクくんが居たってワケ!」

「ぐ、偶然というわけですか……?」

「きっと女の子の勘ね!」

 ドガッ!!

 そのとき、トゲキッスが神速でナルミに向かって攻撃を仕掛けてきた。
 だが、先ほどスパイラルショットも防いだ赤いボディのポケモンが、はさみで攻撃を防御した。

「ナルミさん……実は……」

「ううん。リクくん、何も言わないで。……これでなんとなくわかったわよ」

 ナルミはキッとログを見た。

「初めて会った時からこうなるんじゃないかと思っていたの。いつかログくんはショップ・GIAに大きな事件を巻き起こすんじゃないかって。できるのなら、杞憂であってほしかったわよ」

「…………。君はやっぱりリクにつくんだね。それなら、君も僕の敵だよ」

 ドゴッ!!

 ハッサムとトゲキッス。
 2匹の攻撃がぶつかった。
 そして……

 ドガッ!! シュパッ!! ズドゴォンッ!!!!

「……!!」

「え?」

 トゲキッスはダウンした。

「今のは一体……?」

 リクの目には速くてよくわからなかった。
 ただ、2回交錯し、それだけでトゲキッスが倒れたというだけだった。

「…………」

 ログは黙ってポケモンを戻す。

「(メモリー……僕は絶対に負けないよ。例え悪魔に魂を売ったとしても……!)」

 一気にログは3匹のポケモンを繰り出した。
 格闘タイプのオコリザル。
 水タイプのオクタン。
 毒タイプのマタドガス。
 しかも、いずれも黒いオーラを纏っていた。

「……っ! ナルミさん!気をつけてください!あの3匹はダークポケモンかわるいポケモンです! (あんなポケモン……ログさんは持っていなかったはずなのに……!?)」

 ログの手持ちはリクの知っているかぎりでは、ムクホーク、トゲキッス、エテボースの3匹だけだった。
 なのに、新たに3匹を持っていて、さらによくわからない不気味なオーラを滲ませていた。

―――「この3匹はわるいポケモンだ。使うといい」―――

「(シファー、遠慮なく使わせてもらうよ)」

 オコリザルが通常の5倍くらいの大きさの拳で襲い掛かる。
 ハッサムはひょいとそれをかわし、後ろに回りこんだマタドガスの『大文字』を『影分身』で回避した。

「ハッサム、こっちに『真空波』よ!!」

 ナルミは自分自身に攻撃をするように指示をした。
 その指示にハッサムはまったく躊躇がなかった。
 全力の『真空波』をナルミに向かって放った。

 ズバッ!!

 ナルミが地面に伏せたときに攻撃が当たったのだ。
 接近でナルミに破壊光線を繰り出そうとしたオクタンに。

「両サイドよ!」

 右からはオコリザル。
 左からはマタドガスがそれぞれ接近して攻撃を仕掛けてきていた。
 それに対し、ハッサムは両手のハサミをそれぞれ二匹に向けた。

 ドゴォンッ!!

 鋼の砲弾、『ラスターカノン』が2匹にダメージを与える。
 相当のダメージを負ったようだが、2匹はまだ倒れない。

 オコリザルが力をこめて『インファイト』を繰り出してきた。
 次いでマタドガスが『悪の波動』で間髪居れずにハッサムを叩いた。

「止めだ」

 オクタンの黒い『バブル光線』がハッサムにクリーンヒットした。
 一撃一撃が当たるごとに爆弾のように破裂し、ハッサムにダメージを与えた。

「ナルミさん……?」

 3匹の攻撃を受けて横たわっているハッサムと指示を出さないナルミを見比べるリク。
 彼は少し不安になった。
 そして、オコリザルとマタドガスがナルミを包囲した。

「ナルミさん!?」

「ナルミ……さっき僕のトゲキッスを倒したのはまぐれか?」

「……1つ聞かせて」

「うん?」

「ログくん。本当にどうしてショップ・GIAのみんなを裏切ったの?このチームに不満でもあったの?」

 ただシンプルな質問だった。

「不満なんてないよ。ただ、僕は自分の目標を達成するためにチームを変えているだけだよ。そのためだったら、なんだってやる」

「そう……。じゃあ、ショップ・GIAを敵に回すこともするんだ……」

「当然だよ。あの時から決めたんだ。手を汚してでも僕は手に入れるって!!」

「…………。わかった」

 ドガッ!!

 オコリザルが不意に吹っ飛ばされた。
 ハッサムの『バレットパンチ』が炸裂したのである。

「(ハッサムの『はねやすめ』……!?)」

 ナルミを取り囲んでいた一匹のマタドガスがナルミに向かってヘドロ爆弾を放つ。
 だが、ハッサムは高速移動でナルミの前に立つと、ヘドロ爆弾を受け止めた。
 そして、マタドガスに『ラスターカノン』が炸裂し、撃破した。

「(ナルミさん……凄いです!?)」

 リクはただ彼女の戦い方に息を呑むばかりだった。

「ログくんがその考えを押し通すのだったら、私も自分の考えを押し通すわ。ショップ・GIAに仇為す者は私の敵ってね!」

「オクタン!」

「ハッサム!」

 同時に2匹は射撃体勢に入った。
 オクタンは口から、ハッサムは両手を重ねて手からエネルギーを打ち出した。
 両者の最大パワーの『破壊光線』が炸裂した。

 メキメキメキッ!!

 破壊光線がぶつかり合う中心が徐々に膨れ上がって凍りついている地面を削っていく。

「オクタン……負けるなっ!」

「ハッサム!」

 その結果……

 ドゴォ―――――――――ンッ!!!!

「うっ!!」

「あっ?」

「っ……!!??」

 ただ、状況を把握できたのは一人だけだった。
 他の二人は破壊光線が激突した煙で、どうなったのか数秒の間、戸惑っていた。

「(あぁ……僕の負けか……)」

 ログは宙を舞っていた。
 しかし、彼の体はフィールドの上になかった。
 ふと、ログは自分の下を一瞥する。

「(別に……怖くない。だけど、ただ心残りはあるかな……)」

 やがて重力にしたがってログの体はスピードを上げて落ちていく。

「(最期に……メモリーの笑顔を見れなかったこと……それが……悔しいよ……)」

 目の前にエアームドの姿が見えたが、ただ見えただけで次の瞬間、その映像は途絶えたのだった…………。





「勝ったのですか……!?」

「…………」

 リクは煙が晴れてフィールドに立っているナルミに尋ねる。

「ナルミ……さん?……勝ったのです……か?」

 疑問符を浮かべてリクはナルミに再び尋ねる。
 しかし、ナルミはなかなか口を開かなかった。

 一分の間、ナルミは黙っていた。
 リクはその間キョロキョロと見回していたが、ログの姿が見当たりませんと呟いていた。

「ねぇ、リクくん」

「な、なんですか?」

「これで……本当に良かったのかな……?」

「ナルミさん?」

 ペタンとナルミはその場に座り込んだ。
 そして呆然とした表情をしていた。

「私……ログくんを……」

「え……?(まさか……?)」

 改めて言うが、フィールドの下は凍りつく現象の影響を受けなかったマグマ。
 落ちたら命はない。

「私……私……」

「な、ナルミさん……」

 リクは慌ててポケットに入っていたハンカチを差し出した。

「ナルミさんに非はありません。絶対に」

 最後の“絶対に”をリクは強調して言った。
 その言葉に、ナルミは不安そうな表情でうんと頷いたのだった。










 ―――フィオレ地方のとある病院。

“先生……メモリーさんが!!”

“何!?”

 このとき、ぴこんぴこんと無機質な機械の警告音が響き渡る。
 それが何を意味するか、メモリーのベッドを忙しそうに動き回る医師や看護師達を見れば容易に想像つくだろう。

 彼らは必死に治療を施した。
 その数時間後……

“…………”

 看護師たちは俯いていた。
 1つの命がここで鎖された事を黙って受け止めていた。

 やがて、その部屋には誰もいなくなり、彼女は一人残されていた。
 そして、その彼女を見た看護師が言った。

“彼女……最期に笑ったのよ”

“それって、本当なの?”

“いろいろな意味で残念だわ……。この事実をどう彼女の弟さんに話すべきか……”

 部屋の中の彼女は幸せそうだった。
 まるで別の世界で、誰かと幸せそうに暮らしているようだった…………。










 第73話 コールドペンタゴンD ―ログとメモリー― 終わり










 記憶が蘇りしとき、戦況はややこしき状況へと移り行く。

 第74話へ続く。

 

[アットの一言感想]

 ……あー、ナルミってその頃からの情報が無かったのか。
 ジェネレーションギャップに近いものを見た気分でした(オイ)。
 戦いの結果、ログは結局大切なものを取り戻せないまま終わりました。
 救われる者もいれば、救われない者もいるのは、仕方のない事なのでしょうか……。

 

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