ザザーン

 ここは海の上。
 本日の波は穏やかとは言えず、絶えずうねりをあげて進み行く船を押し戻そうとする。
 とはいえ、この海に出ている船は一隻しかないが。

「はぁ……なんで私がこんなことに……」

 甲板でため息をつく少女が一名。
 どうしてこんなことになったのか、納得いかないようだ。
 少女は、まぁそれなりに可愛く、それなりにおしゃれで、それなりの身なりをした、それなりの女の子だった。

 ようするに、どこにでもいるモブキャラのような女の子、それがナルミである(ェ)

「仕方がないのかな……。みんなケガで戦えないんだし……」

 やっと今の状況を嘆くのを止めて前向きになろうとするナルミ。

「でも、このメンバーはどうなんだろう……」

 後ろを振り向くと、目的地へと一緒に向かうメンバーの姿がある。

「ふぁぁぁ……すぅ……すぅ……」

 一人はヘッドバンドに赤い髪の男の子。
 オーレ地方でハルキとカレンと同列で英雄と呼ばれているケイである。
 2年前、オーレ地方をシャドーの魔の手から救ったことは、ほとんどの者が知ることである。
 だが、知られているのは名前だけで、ケイがどんな少年かはあまり知られていない。
 事件終結後にONBS(オーレ地方のテレビ局)の取材メンバーがケイを取材しようとしたが、間が悪いというべきか、いつも寝ていたり、どこかへ行ったりで、取材をしたことがないのだ。
 ゆえにケイは、噂ではとっても美系とか、長身でカッコイイとか、尾ひれがついているのである。

 実際はまだ年上の女の子から可愛いと言われるような、ねぼすけ少年なのだが。

「よく船の上で寝ていられるよね……(汗)」

 どこでも寝れると言うのは、ケイの特技である。

「あー。まだつかねーのか?」

「っ!!」

 上半身裸で手拭いをした男が横に現れて、さっと身構える。
 ナルミはこの男を非常に警戒していた。

「オーゥオーゥ。そんなに警戒しなくていいじゃねえか」

「それなら、服を着なさいよ!そして、なんでそんなに汗を掻いているのよ!?」

 ナルミの言うとおり、親父はやや汗を掻いていた。

「筋トレしたからに決まってんだろ。軽く腕立て千回」

 そういって、腕を曲げて筋肉を隆起させる。
 まぁ、軽く腕立て伏せを千回やる筋肉はありそうである。

 ナルミと一緒に行動しているもう一人と言うのが、この上半身裸体の男。
 何を隠そうラグナの実の父親というコズマである。
 確かにどこか似ている感じはするとナルミも思ったりしていた。

 ラグナのエロいところもきっと遺伝子なのだろう(苦笑)

「ところでよ」

 コズマが真剣な顔をしてナルミに話しかける。

「何……?」

「バカ息子はどこに行ったかしらねーのか?」

「私が知りたいわよ!」

 やや怒り気味でばっさりと言い捨てる。

「知らねーなら悪かったな」

「…………」

 横目でナルミはコズマを見る。
 そして、1つの疑問を感じた。

「……ねぇ」

「なんだ?」

「船酔いとかしないの?」

「あ゛ー?船酔い?そんなのは未熟者がなる症状だろうが」

 そういって、カッカとコズマは笑う。

「未熟かどうかは関係ないと思うけど……」

 ポツリとナルミはそう漏らす。

「おっ。あの島だろ?」

 コズマが指を指す。

「……きっとそう……」

 怪しい雰囲気に包まれた彼らが目指す島は、ニケルダーク島。
 今回のオーレ地方凍結事件の主犯、クロノがいると言われている場所である。

 ザバッ!!

「っ!?」

「殺気!?」

 島が見える逆方向に何かの気配を感じて、コズマとナルミはそちらを見る。
 すると……

 GYAOOOOOO!!!

「こんなにたくさん!?なんでいきなりこんな奴らが!?」

 現れたのは、十数匹のギャラドス。
 しかも、目の色がおかしい。

「どうせ、わるいポケモンかなんかだろ。ここはスペシャルな俺様に任せとけ!」

「あっ!?」

 颯爽とジャンプをするコズマ。
 その跳躍力はなかなかのもので、ギャラドスの頭よりもさらに頭上を取った。
 ナルミもコズマの跳躍力に息を飲んだ。
 ギャラドスたちは見上げてコズマに狙いをつけようとしていた。

「キングラー!」

 上を向いたままモンスターボールを更に上へと投げる。
 出たと同時に、キングラーは力を蓄えていた。

「のしてやれ!『エリアルハンマー』!!」

 両手のハサミを合わせて、振りかぶり、降下して行った。

「あっ!?ギャラドスたちが破壊光線を!?」

 ナルミの言葉通りに、ギャラドスたちは破壊光線を打とうとした。
 だが、打とうとしただけにとどまった。

 ドッパ―――――――――ンッ!!!!

「きゃあっ!」

 キングラーのエリアルハンマーが一匹のギャラドスに決まった瞬間、凄まじい水飛沫が起こった。
 爆発とも言っていいだろう。
 その影響で船は一気に前に押し出された。

「な、何このスピード!?」

 そして、信じられないスピードで船はニケルダーク島に無事到着した。

 チュド――――――――――――ンッ!!

 …………。
 いや、無事じゃないかも(汗)

「うぅ……」

 3人の乗っていた船は、岸の岩場にぶつかって木っ端微塵に粉砕してしまった。
 ナルミは呻くもののすぐに意識を取り戻す。

「(ん……?)」

 なんだろうと彼女は不思議な感覚を覚える。

「(…………)」

 と言うよりも、何かがのしかかっているような、そんな感触だった。

「……ひゃっ!!」

 そののしかかっているものは、もみゅっと彼女のある部分を掴んでいた。
 慌ててナルミは自分の胸をつかんで来た者を平手打ちで叩き飛ばした。

「ふぁ!?」

 彼は宙を舞って、ドサッと仰向けに寝転がった。

「ふぁぁぁ……?……あれ?着いたの?」

 そして、何事もなかったかのように、ケイは起き上がった。

「……っ!!け、ケイくん!?」

「ふぁ?どうしたの?」

 あくびをしつつ、いまだ眠そうな目でナルミを見る。

「顔が真っ赤だよ?」

「……ケイくん。ワザとじゃないよね?」

「……ふぁ?」

 何のことかわからず、ケイは首を傾げる。

「ふぁ、じゃなくて……その、触ったでしょ!?」

「……うん?何を……?」

 ケイの頭上には幾つものクエスチョンマークが浮かんでいた。

「な……何をって……」

 口ごもるナルミ。

「……もういいわよ」

 諦めて立ち上がるナルミ。
 そんな彼女を不思議そうに見ながら、彼女の後についていくケイ。

「そういえば、あいつはどこに行ったの?」

「ふぁ?コズマさん」

 コズマは更に内陸に飛ばされていた。
 そして……

「うおっぷ……」

 なんか、のたうち苦しんでいた……

「え?何やっているの?」

「コズマさん、酔っているの……?」

「酔ってなんか……」

 しかし、明らかに気持ち悪そうだ。

「船酔いとかしないとか言って、船酔いしているじゃない!バッカじゃないの!?」

 ここぞとばかり罵るナルミ。

「船酔いじゃねぇ!空酔いだ!」

「何それ」

 コズマ曰く。
 空酔いとは、高いところに上がると酔う症状である。

「……呆れた……」

「ふぁぁ……コズマさんが回復してから行った方がいいね……zzz……」

「って、ケイも寝ないでよ!」

 ケイとコズマに振り回されるナルミ。

 しかし、3人はまだ気付いていない。

“…………”

 空から一匹のヤミカラスが彼らを見ていた。
 やがて、ナルミが2人に呆れて座り込むのを見ると、建物のある空へと飛んでいったのだった。





 ナルミ、コズマ、ケイの3人はニケルダーク島の中心へと進んでいった。
 この島は、緑が溢れているといった安全な島ではなく、溶岩が山頂から溢れ、足場は悪く、人為的に作られた装置がいくつも置かれた島だった。
 例えば、地面が鉄板で舗装されていたり、マグマの川で容易に渡れない所では橋が掛けられていたり、上や下へ行く為のエレベーターが設置されている。

「ふぁぁ……2年前に来た時とあまり変らないかも」

「そうなの?」

「トレーナーの姿が見当たらない所と渦発生装置が破壊されている所を除けば、変わってないよ」

 渦発生装置とは、シャドーが2年前にこの地への侵入を防ぐ為に開発した装置である。
 しかし、ケイはメカ・カイオーガというものを使って、渦をものともせず、この島に潜入し、シャドーを撃破したのである。

「オーゥオーゥ、もしかしたら、もうクロノって奴の部下はみんな倒れたんじゃねえのか?」

「それなら、楽なんだけどね……」

 ナルミが不安そうな表情を浮かべる。

「おう、嬢ちゃん。心配要らないぜ。このスペシャルな俺様が、クロノなんて小僧を一撃でのしてやっからよ」

 右腕を掲げて、筋肉を誇示するように左腕で右腕をパンパンと叩く。

「ケイくん、大丈夫?」

 それに返事をせず、ナルミは寝ぼけてふらふらしているケイのあとをついていった。

「オイコラ」

 ガシッ

「ちょっ!」

「ふぁ……?」

 コズマは2人に追いついて、2人の首を片腕ずつで締め上げた。

「俺様の話を聞けよ!クロノは俺様が倒してやるって言ってんだろ。嬢ちゃん坊ちゃんはただの見学だ」

「あー、もうわかったわよ……だから放して!……って!」

 呆れたナルミは、両手でコズマの腕を解こうとするが、いかんせん力が強い。
 ところが、隣を見て、ナルミは驚いた。

「ケイくんが!ケイくんが!」

「あん?うぉっ!?」

 ケイの意識がなかった。
 あわてて、コズマはケイを降ろしてやる。

「大丈夫!?ちょっと!ケイが窒息しちゃったじゃない!」

「…………。いや?」

 コズマは冷静に見た。

「こいつ、寝てるだけみたいだぜ」

「え?」

「……zzz……」

 どうやら、ケイはほんとに何処でも寝れるらしい。

「紛らわしいのよ!(汗)」

 ……と、3人が現在いるフロアは、あちらこちらにマグマの川があり、橋のかかっているフロアだった。
 とりあえず、マグマの足場の面積より岩の足場の面積の方が広いため、ふざけていたり、突然の襲撃がなかったりすれば、大丈夫のはずである。

「どうしてこんな暑い中で寝れるんだろう……」

 ナルミは苦笑するしかない。
 そのとき、コズマがモンスターボールを取った。

「!!」

 ナルミたちに向かって飛んで来たのは、『エナジーボール』。
 しかし、その攻撃をあっさりとコズマのサンドパンが切り裂いた。
 爪に空気を纏って引き裂く『真空斬』だ。

「ようやく敵さんのお出ましか?」

 コズマはサンドパンをすぐに戻してふと斜め上を見渡した。
 すると、そこには三つのシルエットがあった。

「何これ?」

 ナルミが怪訝な顔を浮かべると、シルエットが青、緑、赤の三つの色を映し出した。

「今ここで喜びの歌を歌おー!」

「今ここで慈しみの歌を歌いましょう」

「今ここで悲しみの歌を歌いなさい」

 それと同時にそれぞれ赤、青、緑の色の服を着た女の子達が映し出された。

「喜びが心を弾まして」

「慈しみが世界を和ませて」

「悲しみがすべてを沈ませる」

 三人はまるでアイドル歌手のように、くるりと動き回って振り付けをする。

「3つの歌がすべてを超越して」

「あなた達の心へと届くように」

「私らは鎮魂歌<レクイエム>を送ります。その名前は……」

 光が消えて彼女達の顔が見えるようになる。

「アンカラ!」

「ソフィアです」

「ティラナ」

 名乗りを挙げた3人は、モンスターボールからそれぞれのパートナーを繰り出す。

「この世に光があるかぎり、」

 アンカラと名乗った赤い服の女がゴウカザルに後ろから抱きつくようににっこりと笑う。

「この世に闇があるかぎり、」

 緑色の服のティラナが、青い服の女を押し飛ばして、無関心な表情でドダイトスの背中に乗る。

「わったしたちは歌い続けるのです……キャッ!」

 最後に押し飛ばされたソフィアがエンペルトにしがみつこうとして倒れながらセリフを言った。
 こうして、三人の背後で赤、青、緑の三色の煙が、某戦隊モノの爆発シーンのようにボーンッ!となった。

「『エリアルドライブ』!!」

「「「え!?」」」

 チュドーンッ!!!!

「うわぁ……(汗)」

 コズマの容赦ない先制攻撃に同情を覚えるナルミ。

「さぁ、おっぱじめるぞ。俺様と戦うのは誰だ?」

「『ハイドロカノン』です!!」

 コズマのドラピオンが、究極の水攻撃を受け止める。

「(……いっ!)」

 しかし、ドラピオンで攻撃を抑えることはできずにコズマも吹っ飛ばされてしまう。

「(やべっ!?)」

 空中に投げ出され、落下地点がマグマであることを悟り、別のモンスターボールを手に取るコズマ。
 だが……

「え!?おっさん!?」

 ふっと、その場からコズマが姿を消したのだ。
 ナルミはその現象を見て目を見開いた。

「アンカラちゃん、ティラナちゃん。私があのおじさんを倒します!」

 そういって、ソフィアと名乗る雌牛呼ばわりされている女の子は、エンペルトと共にコズマが飛ばされていった方向へジャンプした。
 そして、姿を消した。

「一体なんなの!?」

「ワープポイントだよっ!」

 ナルミの背後から仕掛けるのは赤い服を着たトレーナーアンカラ。
 ポケモンはゴウカザルだ。
 慌ててナルミはダイノーズを繰り出すものの、コズマと同様に吹っ飛ばされた。

「きゃっ!!」

 そして、ナルミもその場から姿を消してしまう。
 だが、違うのはナルミはコズマと別の方向に吹っ飛ばされ、違う位置のワープポイントに触れていた。

「あたしがさっきの女の子を倒すから、ティラナもがんばれよー」

 アンカラと言う女の子が消えると、このマグマフロアには、2人しかいなくなった。
 のだが……?

「……zzz……」

 ケイは未だ眠っていた。(爆)

「……なんで寝ているの? まぁいいわ。今のうちにロープで縛り上げて起きましょう」

 ティラナはサイドバックから長く粗い縄を取り出し、両手に持って近づいていく。

 どうして、ティラナがこんなものを持っているかは……ソフィアにいつもしていることを考えれば想像つくでしょう(ェ)

 ズバッ!!

「ぐっ!?何!?」

 両手に握っていたロープがいとも簡単に裁断した。
 ティラナは慌ててケイとの間合いを取る。

「ガバイト……!?まさか、不意打ちを狙っていたというわけなの!?」

 ティラナはケイの様子をうかがう。

「……zzz……」

 しかし、本気で寝ているようだ。
 よく見ると、ガバイトのモンスターボールの開閉スイッチが偶然ケイの寝返りでオンになったようだった。
 そのガバイトは、ケイを揺すってやる。

「……もう少し……」

 だが、ガバイトは容赦しなかった。

「ふぁ?」

 ケイが意識を覚醒させた時、彼は何故か宙を舞っていたからだ。
 その要因は、ガバイトが竜巻を起こしてケイを上空へと吹っ飛ばしたのだ。

 何て無茶な(汗)

「ちょっ!?」

 ドゴーンッ!!

 そして、ケイはティラナの上に落下した(オイ)

「…………」

「ふぁ?みんなはどこ?」

「ひゃぁっ!!」

「……ふぁ?」

 なんかよくわからないけど、ケイがティラナを押し倒す図が出来上がった。
 しかも、なんか大変なところに触れているようで。

「ど……どこ触っているのよっ!!」

 顔を羞恥の色に染めて、ティラナが手を挙げようとする。

「ふぁ!?ご、ゴメン?」

「ちょ、動か……ひゃっ!?」

 一部カットでお送りいたしました(待て)

「よ、よくもやってくれたわね……ドダイトス!!」

「ねぇ……ナルミさんとコズマさんはどこに行ったの?」

 あくまでマイペースなケイ。
 その性格に遂にティラナは切れた。

「一緒に地獄に落ちろっ!!」

 ひとたび、ドダイトスが地響きを起こすと、周りのマグマがドバッとケイに襲い掛かってきた。

「ウソッキー!」

 ドバッ!!

「なんですって!?」

 ケイのウソッキーはドダイトスとまったく同じ動きをして、ドダイトスの攻撃をマグマで相殺したのだ。

「ナルミさんとコズマさんがどこに行ったかと、クロノの場所を教えてよ!」

「…………。私に勝ったら教えてあげるわよ」

 いよいよ、ニケルダーク島での戦いの火蓋が切って落とされた。










 第80話 混沌のニケルダーク島@ ―スナッチャーケイvs悲哀のティラナ― 終わり










 実はコズマは○○は嫌いらしい。

 第81話へ続く。

 

[アットの一言感想]

 ナルミ、とうとう君もそんな位置づけになってしまったか……。
 ソフィアと気が合うかも知れません(何故)。
 コズマは結局酔うものがあるらしい。

 

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