明朝5時55分。

 このとき、オーレ地方でひとつの島が消滅した。

 しかし、この消滅は明日を運ぶと言う結果を残した。

 この功績を知る者は一部の者たちしかいない。

 ゆえに称える者も少ない。

 当たり前のことを持続させるというとんでもないことやってのけた者達を世界の人々は知る由もなかった。



 そんな誰も知らない大きな事件から、3日が経った。










 最終話 明日の記憶










 ロウソクの火がゆらゆらと揺らめいていた。
 何人かが集まり、その場で手を合わせて、その場を通り過ぎていく。

 鯨幕で覆われた悲しみの式。
 追悼するための儀式が行われていた。

「(……ハルキ……)」

「(バンの兄貴……)」

「(……ログさん……)」

 このオーレ地方の戦いで失った者は多かった。
 この悲しみに涙を流し、ショックを受けた者はそれ以上にいた。

 しかし、この場にユウナの姿はなかった。





「ログさん……僕らをもっと信用してくれてもよかったと思うんですけど……」

 全てが終わった後、リクはしょぼくれた様子でロビーにたたずんでうなだれていた。

「なんでお前はそんなにお人よしなんだよ!」

「……ジュンキさん……」

 ログの話に怒りをあらわにするのは影が薄い少年ジュンキ。
 流石に怒っていれば、存在感はあるらしい(ぁ)。

「あいつが裏切ってなければ、まだ展開は違っていたかもしれないんだぞ!?」

「それは……」

「俺はログが儀式に並んでいたことにすっごい腹が立っているんだ!こいつが裏切ったばかりに、ユウナが……!!」

「ジュンキくん、それは言わない約束ですよ」

 後ろから声をかけてきたのは痩せた美人さんのミライである。

「……っ。わかって、いるよ」

 目をつぶって、ジュンキはリクに八つ当たりをするのを止めて、さっさと行ってしまった。

「ジュンキさん……」

「リクくんはやさしいんですね」

「え……?」

「裏切ってもログくんのことを心配していたなんて、誰でも出来ることじゃないですよ」

「…………。悲しいじゃないですか。理由があるにしろないにしろ、みんなに恨まれて死ぬって言うのは。だから、僕だけでも理解してあげられたら……って」

 リクは不安な表情でミライの方へ振り向く。

「僕……おかしいですか?」

「いいえ。おかしくありませんよ」

 ミライはやさしく微笑んでリクにそういった。

「ミナミちゃんもジュンキくんもあんな感じで元気がないみたいですけど……でも、一番心配なのは……」

 そういって、リクは会場内にいるはずのある人を探した。

「あれ、いない?……まさか……ショックで…………探してきた方が……」

 慌てるリクをミライが掴む。

「大丈夫ですよ」

 と、彼女は微笑むのだった。





 最初はポツリポツリと小さな水滴だった。
 だがやがて、その小さな水滴たちは、後から落ちてくるにつれて大きくなり、更に大勢で落ちてくるようになった。

 式の外れに、公園にしてはやや大きい雑木林があった。
 そこの自然に倒れた木の上に彼女は座っていた。

「…………」

 しかし、チャームポイントであるツインテールは水を含んで元気なくしぼんでいる。
 傘を差していないために、雨が彼女の服にしみこんで行く。
 ぐっしょりと重さを含んでいる服と共に彼女の気持ちも別の重さを抱えていた。

―――「この場所も、次の世代も、そしてお前も俺が全て守ってみせる」―――



 ……ハルキ……

 私をずっと守ってくれるはずじゃなかったの……?

 ハレに……次の世代にバトンを引き継がせるために生きるんじゃなかったの……?

 こんなことになるなんて……私……私……

 ……ハルキ……あなたがいないと……



 突然、雨が止んだ。

「……?」

 いや、実際に止んだわけではない。
 前を見ればずっと雨は降り続いているし、水滴が自分の足元に弾け跳んできている。

「……風邪引いちゃうよ、カレンお姉ちゃん」

 水玉模様のやさしい色の傘。
 差し出したのは赤いバンダナに少々眠たげな目をした少年。

「……ケイ……くん……」

 ゆっくりと後ろを振り向いてから、彼女は少年の名前を口にする。
 雨か涙か、よくわからないが彼女の顔は濡れていた。
 それを見て、ケイはふと手を胸に当ててシャツを軽く握り締めた。

「……そんな悲しい目をしないで……」

「…………」

 ケイの言葉にカレンは目を逸らして黙り込む。
 言っているケイもカレンを見てはいないが。

「ハルキさんは命を賭けてカレンお姉ちゃんを守ったんだよ。それが今に繋がっている。約束を果たしたんだ」

 カレンは首を横に振る。
 しかし、それだけで何も言わない。

「僕……ハルキさんを凄く尊敬するよ……」

「褒めても、ハルキは戻ってこないのよ……」

 ケイに背を向け、俯いてカレンは手のひらを眼に当てる。

「もう無理よ。……私、今までハルキに頼りすぎていたってわかったの。これから一人でハレを育てていくなんてことはできない……自信がない……生きていく……自信が……」

「カレンお姉ちゃん……泣かないで」

 ケイの言葉も彼女の涙を止めることはできない。
 ただ、降りしきる雨の中、時間だけが流れていく。

 幾分後のこと。
 雨が再び降り始めた。

「……!」

 同時にカレンは暖かい何かに包み込まれたように感じた。

「(腕……)」

「泣くことを止めないと言うなら……せめて、僕の胸の中で泣いてよ……“カレン”」

「……! ケイ……くん?」

 水玉の傘が地面に投げ出されて、そして、風で飛ばされていく。
 ケイは傘なんてどうでもよかった。

「ハルキさんの代わりは勤まらないかもしれない。でも、カレンと2人が残した子供であるハレを僕は守りたいんだ」

「ケイくん……」

 右手でそっと、ケイの腕に触れる。
 その手はとても冷たかった。

「ダメだよ……私は……」

「僕がカレンの涙を弾く傘になる。守りたいんだ、あなたの笑顔を。悲しませたくない、ずっと笑顔でいて欲しいんだよ」

 カレンの言葉を聞きまいとケイは矢次に語りかける。

「僕はまだまだ弱い。今の僕じゃ、あなたに認めてもらえない」

 自然と彼の腕の力が強くなる。

「けど、これから強くなって見せる。あなたが望むならこの世界のどのトレーナーよりも強くなってみせる」

「……!」

 腕が離れていくのを感じ取るが、カレンは俯いたままでいる。

「だから、あなたに認められるそのときまで、僕はあなたに触れないよ。でも…………」

「(ケイくん……?)」

 声の感じが少し変わったと思い、振り向くと彼の顔もグショグショに濡れていた。

「でも……今日だけ……今日だけは……あなたの悲しみを僕にぶつけて欲しいんだ。お願い……僕の胸の中で…………」

 トスッ

 二人の影が重なる。
 その二人は降りしきる雨の中で泣いたのだった。










 ―――その一方でオートンシティのジム。

「それにしても、あの時、オッサンがいなかったらどうなっていただろう……」

 ジムの一室にある部屋に座って、一人思いに耽るのはこのジムのジムリーダーであるナルミだ。

「まさか、人間を5人も連れて泳いでアイオポートに戻るなんて化け物みたいな技を繰り出すとは思わなかったわよ」

 思い出しただけで、ありえないという気持ちとぞっとする気持ちの2つが沸き起こる。
 何はともあれ、彼女は生きてこの町のジムリーダーとして仕事を続けていた。

「(式には出たかったけど……結構ジムを空けちゃっていたし……仕方がないよね)」

 ナルミはそう言い聞かせて戻ってからのジム戦の業務をこなしていた。

「しかし、毎回思うんだけど、なんでジム戦はいつも全力じゃないんだ?」

「っ!! ちょ、ビックリさせないでよ!」

 後ろから声がして、ナルミは振り向いて構える。
 その声の主は、白衣とグラサンと言う妙な組み合わせの男だった。

「そんなジュンキが現れたみたいな反応するなよ。俺はさっきのジム戦からいたぜ?」

 グラサンをピンと額にあげて、ニッと笑う。

「本当に思うんだけどさ……トキオくん、グラサンは似合わないよ」

「ヒロトと同じことを言うなよ!」

 何年か前にも同じ事をヒロトにも言われているトキオ。
 しかし、それもそのはずで研究員にグラサンをかけるのは怪しい研究員くらいだろう。
 誰一人として、トキオのグラサンを肯定したものはいなかった。

「ミナミは似合ってるって言ってたぜ!」

「からかわれているだけじゃないの〜?」

「笑うなっ!」

 冗談で怒ったような口調でナルミに反論する。

「それで、何の用があってきたの?」

「特に俺は用があるわけじゃないけど」

 そういうと、部屋に一人の男が入ってきた。

「あいつがジム戦をやりたいってさ」

「バトルしてくれるか?ぜひともザンクスを倒したと言う力を見せてほしい」

「……ザンクスのことを知っている?……誰?」

 ナルミが頭にクエスチョンマークを浮かべるのも不思議ではない。
 何せ彼……カツトシが倒れてから、ナルミは動き始めたのだから(ぁ)

「ジム戦ね?いいわよ」

 そして、彼らはオートンジムのバトルフィールドである岩のスタジアムへ移動した。

「じゃ、私から行くわよ。チョンチー!」

「それなら俺はマスキッパだ!」

 二人のポケモンがフィールドに登場し、ぶつかり合う。
 冷凍ビームを打ち出すチョンチーに対し、マスキッパはパワーウィップで打ち破る。
 それに負けずにチョンチーは放電で対抗し、マスキッパを麻痺させる。
 しかし、最後はソーラービームがチョンチーをノックアウトさせた。

「やるわね」

「……これが本気ですか?」

「……? ええ」

「(嘘だ……こんな力でザンクスを倒せるはずが……)」

 ナルミは力を隠している。
 カツトシは確信していた。
 そして、ナルミがクチートを繰り出して、マスキッパが巻きつくで絡みついたそのときだった。

「あなたは邪魔ですYO」

「な!?」 「……!」 「この声は!?」

 チュド―――ンッ!!!!

 強力な電撃を拳に纏った何かが、ジムの中心へと落ちてきた。
 そこで爆発が起き、岩のフィールドの中心が窪んでしまった。

「雑魚はどいてなさいYO。この女は私が倒すんDA!」

「お前は……ザンクス!?」

「こいつがあの世界の破壊者と噂されているザンクス!?……そんな奴が何故ここへ……?……一体何が目的だ!?」

 トキオがサンダースを繰り出して、フィールドの中心へ素早く電撃を放つ。

「目的?決まっているじゃないですKA。ジムリーダーのナルミを倒しに来たんですYO」

 サンダースの電撃は間違いなくザンクスのポケモンに当たった。
 だが、それが間違いだった。

「……なっ!?」

 ゾッとして後ろを振り向くと、そのポケモンが技を構えていた。
 トラ柄模様の電気ポケモン、その名はエレキブル。

「特性は『電気エンジン』DA。もはや、そのポケモンでは私のエレキブルに付いては来れないYO!」

 ズドゴォンッ!!!!

 ギガインパクトがサンダースを吹っ飛ばした。

「ぐっ……」

「ダメだ……やっぱり勝てない……」

 トキオも自信のあるパートナーを返り討ちにされ、カツトシはザンクスの強さに戦意を失った。

「さぁ、次はナルミ……お前を倒してあげますYO」

「いいわよ」

「迷いも無く答えるのかよ!?」 「(即答するのか!?)」

 二人は同じようにツッコミをした。

「でも、ルールはポケモンバトル。ニケルダーク島で戦ったようなバトルロワイヤルはやらないわよ」

「FUFUFU……ここのルールと言うのなら従いましょうKA。だが、負けるのはお前DA!」

 素早さのあがったエレキブルに対して、ナルミはドータクンで攻撃を受け止めた。
 そして、その場に凄まじい衝撃を巻き起こしたのだった。



―――「しかし、毎回思うんだけど、なんでジム戦はいつも全力じゃないんだ?」―――

 トキオ……ジム戦は毎回全力でやら無くていいのよ。

 適度に勝って、そして、相手の力を認めたらバッジを渡せばいいの。

 ユウナやラグナがこの町に来てからは、私の実力も上がっていって、全力を出さなくても勝てるようになって行ったけどね。

 ジムリーダーは本当に楽しいわ!



 30分の激闘の末。

「……OYAOYA……私がまた負けるとはNE……。また出直してきますYO!」

 そういって、ザンクスはその場から姿を消したのだった。

「てか、あいつ、また来る気なのかよ」

 トキオは若干呆れたように呟いた。
 カツトシは不安そうにトキオとナルミの二人の顔を見る
 そして、ナルミは笑顔で答えた。

「大丈夫!また、返り討ちにするから♪」










 1週間の月日が流れた。
 オートンシティのショップ・GIAでは事件前と同じように毎日騒動が起こっている。

「……むー」

「てめぇの負けだ」

「あはは……」

 テーブルでトランプゲームをやっているのは、水色のワンピースの少女と黒衣の不良男とオーバーオールの少年だ。
 どうやらババ抜きをやっていたらしく、一枚だけ残ったカードを少女は手にして膨れている。

「俺はもう行くぜ」

「ダメ!」

「ぬおっ!」

 立ち上がったときに服の裾を引っ張られて不良男はすっこけた。

「アイが負けるはずないもん!絶対、おじさんがイカサマしたんだもん!」

「てめぇ……いちゃもんつけんじゃねぇよ!」

「ラグナさん、落ち着いてください!」

 怒るラグナを慌ててリクが止めに入る。
 しかし……

「じゃあ、イカサマじゃないって言うなら、もう一回やって証明してよ」

「バーカ。そんな挑発には引っかからねぇよ」

「イカサマ!イカサマ男!」

 言われ放題のラグナだが、無視するようにその場を去ろうとする。

「イカサマだって。まさか、ラグナがイカサマをするなんて思わなかったわ」

「……な!てめぇは俺がイカサマすると思っているのか!?」

 ロビーに入ってきたセミロングの秀麗な美女に言われて、ラグナはムッとする。

「していたとしたら、がっかりね。私のあなたへの評価が『一閃の覗き魔』から『イカサマのヘタレ男』に下がったわ」

「何だと!?ユウナ!俺のどこがヘタレだぁ!!」

「あら、イカサマは否定しないのね」

「っ! どっちもちげぇっての!」

「じゃあ、証明して見なさい」

「……畜生……やってやろうじゃねぇか!」

 みごとユウナの巧みな言葉で誘導させられ、ラグナは再び席についてカードを配り始める。



 この様子は本当にラグナが失踪する前とほとんど変わり栄えもない日常だった。
 ただ、そう感じていたのはユウナだけだった。

―――「なんで、ユウナにバンが死んだことを話さねぇんだよ?」―――

 リクとジュンキは必死にラグナを説得した。
 最終的にはバンが居たと言う事実を抹消することでリーダー的役割を担うユウナに苦しい記憶を蘇らせないことにした。
 ユウナは今、バンという人間以外のことをすべて思い出して生活している。
 それには、ショップ・GIA全員の協力が必要だった。

―――「うぃぃ。酒飲むか?」―――

 しかし、フウトだけは酔っ払って何もしなかったのだった(ぁ)



「はぁ……飽きた」

「……って、途中だろうが!」

 つまらなそうにカードを投げ捨てて投了するアイ。
 背もたれつきの椅子に抱きつくように座って、ガタンガタンとバランスを取って遊んでいる。

「ケライ……遊んでくれないんだもん」

「それなら僕が遊んであげていますよ」

「リクお兄ちゃんのことじゃないもん」

 不満そうに呟くアイ。

「それなら、ジュンキさんのことですか?」

「それって、誰?」

 アイはポカンとリクの顔を見る。
 その様子を見てラグナが爆笑し、ユウナは彼の頭をそばにあった辞書で叩いた。

 ちなみにこの場所にジュンキは本当にいない。
 現在、ミナミと一緒にトキオの手伝いのため、オウギ山へ行っているのだ。

「お兄ちゃん……毎日毎日、カレンお姉ちゃんのところへ行って遊んでくるの。たまにアイも行くんだけどね、二人のやり取りを見ていると、アイだけ取り残されたように感じるの」

「それって、ケイさん……カレンさんと付き合っているって事に……!?」

「カレンお姉ちゃんに聞いたけど、違うって言っていたもん!」

「なんだ、構ってもらえないからカレンに妬いてんのか?」

「違うもんっ!」

 アイが啖呵を切るとそのまま黙り込んでしまった。
 ラグナは面白いようにクククと笑い、ユウナが頭を撫でて宥めてやる。
 すると、そこへ……

「ラグナおじさまー、キトキがおねしょした!」

 赤ん坊を持って連れてきたのはおかっぱ頭の少女のカズミだった。



 結局赤ん坊のキトキは、カズミ同様にショップ・GIAで育てることになった。
 母親も父親もわからないというこの状況で、捨てておくということができなかったのである。
 しかも、ナルミやオトハの話によると、この赤ん坊は未来の世界から来たと言う話だ。
 ラグナやユウナは未来の世界に返してやりたいと思ったが、現状、未来に行く手段がない。
 一応、セレビィをケイ&カレンが持っているが、そのセレビィの力では指定した時間に行くことができないのだという。
 さらに、問題はそれだけではなく、赤ん坊がいつの時代から来たかもわからなかったのだ。



「てか、俺に報告するんじゃねぇ!俺にオムツを替えができるはずがねぇだろうが!」

「オーゥオーゥ、倅よ、そんなこともできねーのか?」

「……づっ!?」

 後ろから現れるラグナよりも更に巨体の男。

「クソオヤジ……まだいたのかよ!?」

「あら、昨日旅立ったんじゃなかったのかしら?」

 ラグナは明らかに不愉快そうな顔をし、ユウナは意外そうな顔で応対していた。

「ジョウチュシティまでいったんだが、スペシャルな忘れごとがあったんでな」

 コズマはそういいながらキトキのおしめをテキパキと変えていった。
 さすが一応父親だけのことはある。

「スペシャルな忘れ事だぁー?」

「あぁ」

 ドスッ!!!!

「ぐぷっ!」

 ラグナの親父……コズマの正拳はラグナの腹に一突きだった。
 そして、彼は一撃で気絶した。

「こいつを貰っていくぜ」

「ええぇぇ!?」

「ラグナおじさま!?」

 気を失ったラグナは、あっさりとコズマの肩に担がれた。
 リクとカズミは慌てて声をあげる。
 アイはふーんと興味なさそうに一瞥すると、そのまままた俯いてしまった。

「別に構わないけど、理由を聞いていいかしら?」

「アレだ。お見合いだ、お見合い」

「「「「「!!??」」」」」

 アイを含め、この場の者全員が驚いた。

「まー、俺様の都合上の政略結婚をさせるって奴だ。というわけで、達者でな!」

 コズマはそういうと嵐のように去っていった。

「政略結婚って、コズマさん……自分で公言していますよ……。アレっていいんですか?」

「いいんじゃないの?」

 ユウナの返事はそっけなかった。

「ラグナは胸が大きければ誰にでもOKを出すでしょ」

「あー……」

 リクは苦笑いを浮かべるしかない。

「ラグナおじさまが……ラグナおじさまが……」

 カズミは軽いパニックを起こしている。

「そんな……お見合いだなんて……冗談じゃなかったんだ……」

 線の細い美女もショックを受けて、その場に座り込む。

「あら、ミライ、いつからいたの?」

「カズミちゃんがキトキちゃんのオムツを誰か替えてって叫んで入ってきたときからです」

「そ、そう」

 ユウナは冷静に頷く。
 一方のミライは、かなり沈んでいた。

「……やっぱり、ラグナくんに振り向いてもらうには……胸を大きくするしかないのですね……」

「ミライ?」

「決めました。私、ショップ・GIAを出て、胸を大きくする旅に出ます」

「ちょっと、ミライさん!?」

「止めないでください」

 そう決心すると、ミライは急いで部屋へと戻ってしまった。
 彼女が旅に出るのは、この三日後のことである。

「本気みたいね」

「なんか、どんどん寂しくなっていきますね……」

 しみじみとリクは言った。

 アイは勝手に冷蔵庫の中からソーダを出して飲んでいる。
 キトキはカズミのおかしな表情を見て笑っていた。

「キトキにいいものをみせるよ」

 と、カズミはコズマから貰ったモンスターボールからポケモンのタマゴを出した。

「ポケモンのタマゴだよ!…………あれ?」

 びくっとタマゴが動いたかと思うと、ひしっとタマゴにヒビが入った。

「……え?まさか……」

「ポケモンの孵化ね!?」

 パリーンっとタマゴが割れる。
 すると、生まれてきたのは細めの可愛い炎ポケモンだった。
 カズミは目を輝かせて、ぎゅっとそのポケモンを抱きしめた。

「ヒノアラシですね」

「ラグナのお父さん、なかなかいい卵をカズミに渡したみたいね」

 生まれてきたヒノアラシを見て微笑むユウナ。
 アイも自然と駆け寄り、ヒノアラシを間近で見ようとする。

「生きていると別れだけじゃなくて、ちゃんと出会いもあるんですよね。僕、忘れていましたよ」

 そうして、リクも生まれてきたヒノアラシを見るために近づいていったのだった。










 ―――ジョウチュシティ。港の連絡船アズマオウ丸。

「う゛〜〜〜〜……」

 船が揺れる。
 そう、すでに船は出港している。
 そして、腹に一撃を受けて気を失っているはずのラグナだが、それでも船酔いの魔力からは逃げられないらしい。
 非常に哀れな様だった。

「それにしても、お前さんは本当にこれでよかったんかい?」

 コズマが疑問を飛ばす。
 その相手は白いロングスカートにピンク色のカーディガンを羽織った優しそうな女……オトハだった。

「ええ。これでよかったのです」

「柄じゃねぇが、俺様が後ろからドガッと!とくっつけてやることもできたんだぜ?」

「それは、流石に強引過ぎるのではないでしょうか……?」

 苦笑いでオトハはコズマの言葉を受ける。

「まー、お前さんが後悔していないならいいのよ。それじゃ、俺は一眠りしてくらぁ」

 そういって、コズマは自分の部屋に戻っていく。
 その様子をオトハは見守ってから、甲板で海の向こうを眺めていた。

「(大丈夫です。約束しましたから)」





―――「なんだ、お前さん、もう行くのか?」―――

 ニケルダーク島から脱出して、このときいる場所はアイオポートの外れの岩場。
 町の誰にも見つからないような場所である。

 彼女が意識を取り戻した時、荒っぽい男の声が聞こえて来たのだ。

―――「ああ。俺はまだ彼女に会うわけには行かないしな。……一応会う覚悟はあったけど……」―――

―――「(ヒロトさんの声?)」―――

 今まで一番会いたかった人の声が聞こえた時、バッと飛び起きた。
 2人は驚いて彼女の方を向く。

―――「探しました…………狭間の世界で……あなたが消えたときから…………」―――

―――「…………」―――

 やや複雑そうに顔を逸らすヒロト。

―――「まー、なんか事情があるようだな。俺様はあっちに行っているぜ」―――

 コズマは気を利かせて、まだ気絶しているナルミとキトキ、そしてケイを担いで離れていった。
 ヒロトとオトハは岩場に残された。

―――「久しぶりだな……オトハさん」―――

―――「……はい……」―――

 しばらく二人は黙って潮騒の音をバックに佇んでいた。
 そこに言葉はなく、自然のありのままの音が流れていた。
 キャモメが鳴き、メノクラゲがザッパンと波に揺られて浮いている。

―――「あのときの俺は……ヒカリの事で頭が一杯だった。死んだヒカリのためにこの世界を守ろうとしたんだ」―――

 二人が並んで岩場に座った時、ポツリとヒロトが語りだした。

―――「でも、夢の中で教えてくれたんだ。ヒカリの求めたものは俺の幸せだったんだって……彼女が愛した世界に生きていた俺だったんだって分かったんだ」―――

―――「…………」―――

―――「俺はこれからも世界の未来を守っていく。でも、それ以上に生きて幸せにならないとと思ったんだ……」―――

 その横顔をオトハは黙って見ている。
 ボーっと見とれていると言う目ではなく、彼女の目は真剣そのものだった。

―――「生きることを……俺はもう迷わない」―――

 立ち上がるヒロト。

―――「これからは、自分の幸せも見つけるために生きて行こうと思う」―――

 その言葉を聞いて、弾かれるように彼女も立ち上がった。
 いつもの服装ではなく、クロノに着せられた服装……すなわち、胸元が存分に開いているヒラヒラのフリルを存分と散りばめたドレス姿である。
 しかも、ぐっしょりと水がしみこんでいて、オトハの体のラインが鮮明に想像できる。

―――「!!」―――

 冷静にヒロトはそのことに今気付いた。
 遅いね(ぁ)

―――「その幸せを探す旅に……私もついて行っていいでしょうか?」―――

 真っ直ぐにオトハはヒロトの目を見る。
 互いに目を逸らさずに、見つめあい、二人は気恥ずかしくなってきたのか、頬が赤くなっていった。

―――「…………」―――

 視線を先に逸らしたのはヒロトだった。
 大きく息を吸って、落ち着かせるように深呼吸を一回した。

―――「頭ではわかっているんだ」―――

―――「え?」―――

―――「でも、心がまだダメなんだ。波立って納得してくれない。俺はまだ……弱い。ユウナから聞いたけど、君は俺よりも強いらしいじゃないか」―――

―――「そんなこと……ありませんよぅ……」―――

 謙遜ではなく、本当に心からそう思ってオトハは否定した。

―――「俺はもっと強くなる。オトハさん、2年後にポケモンリーグがある。それに俺は出るつもりだ」―――

 俯いていたオトハは、ヒロトの言葉に顔を上げた。

―――「あなたに出て欲しい。そこで俺はあなたに勝って見せる。そのときは……」―――

 しっかりとヒロトはオトハの目を合わせて言った。

―――「俺と一緒に幸せを見つけないか?」―――










 光は影を生み闇が生まれる。

 逆に光が生まれないと闇は生まれない。

 すなわち。どちらも生まれなければ、そこはただの無の世界。

 今、人々が息吹かしているのは、光と闇の両方である。

 その二つの力のおかげで、過去があって、現在があり、未来へと繋がっていく。



 これは他に例外などありえない一本道のお話。

 こうして、すべては繋がった。

 そして、時の足音は未来への時へと一歩ずつ歩みだすのである。










 アトガキ

 WWS(ワイドワールドストーリーズ)の最後の長編となるこのThe End of Light and Darknessもついに終わりを迎えました。
 何だかんだで色んな試みや展開があったシリーズになりました。

 もともと、このシリーズはユウナとラグナがそれぞれ別の話の主人公として作られるものでした。
 掲載先も別々の予定でしたが、都合により結局合体させてやることにしました。

 当初のユウナの話(1期&3期)は原本と変えませんでした。
 …………。
 嘘です、ゴメンなさい。
 1期のショップ・GIA全滅は想定していませんでした(ぁ)
 まー、正確には全滅していませんが、1期の主人公はほぼユウナだったので、ユウナが捕まった時点で切る様に考えていました。

 ラグナが主人公の2期は当初は、夢の世界の話と考えていました。
 ココロが出ることは完全に決まっていて、後はラグナが活躍するのをダーッと書いて行けばいいやと思っていました。
 最終的に全然違う未来の話になってしまいましたけどね(苦笑)

 3期は1期が終わってすぐの話なのですが、主人公はケイと言ってもいいですね。
 最後はヒロトがいいとこ取りしていますが(笑)
 ケイは1期にちょっと出ただけで誰だ?と思った人もいるでしょうが、一応彼はXDの主人公です。
 まー、性格は脚色していますけどね。
 ヒロトやラグナとは違ったタイプの男主人公を書けたんじゃないかなと思っています。

 今回の見所と言えば、1期と3期である現在と2期の繋がりでしょうか。
 読んでいれば、恐らくこれとこれが繋がるんだろうなとかこいつは未来で言うあいつなんだろうなと出てくると思います。
 中には大きく謎を残したキャラや内容も残っていると思います。
 しかし、それはどこかで明かされて行く予定です。
 ……いや、もしくはどこかで明らかにされていることかもしれません(ェ)

 ヒントを言えば、オトノやシノブ、レイタ、カナタにサニエル、エデン……これらは、誰かの子供や孫なんですよね。

 さて、語りたいこともまだまだいろいろありますが、長編の執筆はここで終わりにします。
 また、このWWSシリーズの続きの話があった時は、是非首を突っ込んで見てください。
 長々と90話も付き合っていただき、ありがとうございました。
 エピローグを用意したので、また下へスクロールしてご覧ください。



 ……あ、WWSシリーズを総計すると、200話を超えるのか?(ェ)




















 エピローグ

「あれからもう5年が経ちましたね」

「えっ?急にどうしたの?」

 突然の言葉に僕の奥さんは意表を付かれたみたいに、目を点にしていました。

「あ……ええとですね……」

 僕は相変わらず彼女のズイッと見つめてくる目に慣れません。
 もう、結婚して1ヶ月になると言うのに、その可愛らしい瞳で見られると恥ずかしくなります。

「あのニケルダーク島での事件のことです」

「……あー……そうね。もうそんなに経ったんだ……」

 彼女のポカンと遠くを見る横顔を僕は見つめながら言いました。

「あの時を境に、いろんな人がここから去っていきましたよね」

「……そうね……ログ、ミライ……それに……」

「……ハイ」

 言葉に出さなかった名前に僕は頷きました。

「それに多くのことがあったよね」

「そうだね。一番驚いたのは、カレンさんとケイさんの二人が結婚したことですね」

「ケイったら、3年前のポケモンリーグで優勝したら結婚して言っていったのよね。そして、決勝戦で準決勝でヒロトに勝ったエースに勝利して実現させちゃうなんて本当に思わなかったけど」

「1回戦でラグナさんと当たった時は、流石に難しいかなと思いましたが、互角の戦いの末に勝ちましたものね」

「私もラグナくんが負けるとは思わなかったなー……」

 と、どこか彼女は遠くを見つめていました。
 彼女は今でもラグナさんのことを想っているのでしょうか?
 そのことを僕は聞きだしたかったけど、怖くて聞くことができませんでした。

「でも、一番最低なのは、トキオくんよ!」

 先ほどとうって変わって、怒った表情に彼女はなりました。

「1年以上も前からミナミと浮気していたなんて、最低よ!飛ばされて当たり前だわ!」

 トキオさんのことは僕も驚きました。
 ヒロトさんのお姉さんのルーカスさんととてもいい関係を築いていたのにもかかわらず、ミナミさんとふしだらな関係にあったのです。
 その事が発覚したのは、ミナミさんが妊娠してしまったというのと、彼女のうっかりな発言……なのかどうかはわかりませんが……をしてしまったのです。
 当然、その事に激怒したルーカスさんは、トキオさんをあられもない姿にして、ジョウチュシティの海に放り投げました。
 あの時のルーカスさんの顔は忘れたくても一生忘れられません。

 ちなみに、トキオさんは現在元ポケモン総合研究所のあった土地で街づくりをしています。
 英雄の名前の頭を取って、アカハケシティという名前に決まったそうです。

「僕は……浮気なんてしませんよ!?」

「大丈夫。わかっているわよ」

 ふふっと微笑んで僕にそういいました。
 その笑顔にいつもドキッとさせられます。

「ただいまー!」

 いい雰囲気になりかけたとき、元気で可愛くおしゃれな格好をした女の子が帰ってきました。
 彼女の名前はカズミちゃん。
 5年前は幼くておかっぱ頭だった彼女も、10歳になって、快活なホットパンツに赤いシャツを着たカッコイイポケモントレーナーになっています。

「戻ったわ」

「ただいまぁー!」

 ユウナさんと一緒に5年前は赤ん坊だった小さな男の子、キトキくんも戻ってきました。
 3人はちょっとした買い物で外に出ていたのです。

「あら?お邪魔だったかしら?」

「え……いや、そんなことありませんよ!?」

 僕は狼狽して、ユウナさんに必死に言い訳します。
 その様子を見て、おかしいのか、彼女はくすくすと笑っていました。
 同じようにしてカズミちゃんとキトキくんも笑います。

 そのときのことです。

「よう、ユウナ、久しぶり」

 緑髪の男の人と会釈をして男の後ろから息を飲むような美人の女性が赤ん坊を抱えて入ってきました。

「ええ。久しぶりね、二人とも!」

「待っていたわよ♪」

 僕はユウナさんと愛すべき可愛い奥さんと共に幸せそうな家族を築いた彼らを迎えいれました。
 今日はみんなで楽しくバーベキューをします。
 その準備のために、近くに置いてあったタオルを取って、張り切って僕は頭に巻きました。

「今日は楽しんで行ってくださいね!」










 The End of Light and Darkness FIN

 

戻る