―――あれから、どうなったのかは憶えていない。
―――あいつの攻撃にやられた所までしか、俺の記憶は残っていない。
―――悔しかった。
―――このジョウトに来て、立て続けにあんな強い奴らに敗けた自分の弱さが…。
―――渇望した。今よりも更に上の強さを。
目が覚めたら、俺はベッドの上に居た。
所々包帯が巻かれていて、明らかに『誰か』に傷の手当てを受けた事が伺える。
…外が明るい。
俺が気を失っている間に、夜が明けていたらしい。
身体を起こそうとするが、動かない。
全身が未だに悲鳴を挙げているかのように痛む。
ここは、何処なのか。
そして、誰が俺をここに運んだのだろうか…。
「あ、気が付いたみたいだね」
マサシが寝ている部屋の扉が開いて、一人の少年が入ってきた。
外見から察すると、マサシより少し年上っぽい印象を与えた。
緑色の髪の毛をした、少年だった。
「お前は…?」
「今朝、いつもの散歩道を通ってたら君が傷だらけになって倒れていたんだ。放っておくわけにもいかなかったから、ここまで運んだんだ」
「そういえば…、ここは何処だ?」
「ここ?ここは、ヒワダジムだよ」
「ヒワダジム…!?じゃあ、まさかお前は…」
「ヒワダジムジムリーダーのツクシだよ。よろしく」
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第7話
対決 虫使いのジムリーダー
あれから、3日程が過ぎた。
マサシの身体も、動く分には何の問題も無いほどにまで回復した。
彼は、兼ねてよりの目的を果たすため、ツクシに近付いた。
「…え?ジム戦?」
「ああ。俺は元々、ジムに挑戦するためにこの町に来たんだ。まさか、こんな事になるとは思ってもいなかったけどな」
「だけど、身体の方は…」
「問題ない。こうして普通に動く分にはな」
「…解った。じゃあ、挑戦者<チャレンジャー>マサシ。その挑戦を受けよう」
こうして、マサシVSツクシのジム戦が決定した。
そこは、建物の中とは思えない場所だった。
周囲には木々が生い茂り、地面には雑草の絨毯が敷き詰められている。
建物の中にいるということを忘れ、森の中にいるという錯覚まで起こさせそうな光景だった。
そんな場所に、マサシとツクシ、二人がやってきていた。
「凄いな…。建物の中なのに、本当の森の中に居るみたいだ」
「こういった環境の方が、虫ポケモン達は過ごしやすいんだ。さて、ここがこのジムのバトルフィールドだよ」
「虫使いなのか」
「うん。じゃあ、早速ジム戦を始めようか。君が勝てば、この『インセクトバッジ』は君の物だ」
ツクシの手には、キラキラと輝くバッジが置かれていた。
天道虫を模ったバッジだった。
「そして、このジムで使用するポケモンは3体ずつで固定。全部のポケモンが戦闘不能になったら終わりだよ」
「解った。じゃあ、俺からポケモンを出させてもらう。行け、エレキブル!」
「じゃあ僕は、コロトックだ!」
マサシはエレキブル、ツクシはコロトックを最初のポケモンに選んだ。
そして、戦いが始まる。
最初は、エレキブルが攻撃を仕掛けた。
単純に電撃を放つのみだった。
対するコロトックは、回避アクションすら起こそうとせず、ただ相手の攻撃を喰らう。
「(避けなかった…!? まさか、コロトックの特性:〜むしのしらせ〜を使った一発逆転を狙っているのか…?)」
〜むしのしらせ〜とは体力が少なくなった時、虫タイプの技の威力が上がる特性。
…って、今更こんなの書くまでも無いんだけど(爆蹴)。
「エレキブル、相手の反撃に気をつけろ!」
エレキブルに注意を促し、コロトックの方に視線を戻す。
だが、コロトックは相変わらず動く動作を見せようとしない。
相手が攻撃をする前に決着をつけさせようと、エレキブルが猛攻撃を仕掛ける。
持ち前のスピードを生かして、全方位から怒涛のパンチを浴びせた。
この攻撃は流石に堪えたのか、コロトックは身体を落とす。
「マサシ、攻めすぎたね」
「…? っ、まさか!」
「コロトック、『がまん』開放!!」
突如、コロトックの身体から光が放たれる。
それを浴びたエレキブルは、一気に体力を削られた。
そして一気に、コロトックと同じ状態に陥った。
「コロトック、『むしのさざめき』!!」
コロトックが、小さいながらも懸命に羽を羽ばたかせる。
それによって生じた音波と衝撃、その両方がエレキブルに襲い掛かってきた。
先程の攻撃でダメージを受けていたエレキブルは、満足に動きことが出来ず、結局そのままダウンしてしまった。
「流石ジムリーダーって所か…。強い」
「君も十分強いよ。後少し攻撃を喰らってたら、コロトックの体力も尽きていたよ」
「(なら、流れを引き戻す目的も含めて、次は…)」
マサシは何か考えを持ち、フローゼルを繰り出した。
その直後、フローゼルが水を纏いながら突進する先制攻撃技、『アクアジェット』を繰り出す。
既に体力の限界を迎えていたコロトックは、この攻撃でダウンした。
マサシが言葉で伝えずとも行動に移った辺り、マサシとフローゼルの信頼関係の強さが伺える。
「その顔、フローゼルの動きが想定通りって顔だね。トレーナーが指示しなくても思ったとおりの行動をする。熟練のトレーナーじゃなければ、それほどまでの信頼関係は生まれないよ」
「こいつとの付き合いは、もう1年近い。だから、今みたいな感じの連携はお手の物だ」
「じゃあ、次はこいつにするよ。行け、ガーメイル!!」
次にツクシが繰り出したのは、巨大な蛾を思わせる姿をしたポケモン、ガーメイルだった。
そしていきなり、翼から真空の刃をこちらに向けて放ってきた。
それに対して、フローゼルも自分の尾を振り抜き、その際に衝撃波を相手に目掛けて飛ばした。
二つの技がぶつかり、衝撃波と突風が周囲に拡散して消滅した。
「『ソニックブーム:アクア』!!」
今度は、フローゼルの尾を水が覆い始める。
そしてそれを、先ほどと同様に振りぬく。
すると今度は衝撃波に代わって、先程の水が三日月状に変形して飛ばしてきたのだ。
「ガーメイル、『ぎんいろのかぜ』!」
フローゼルの放った攻撃を、現在滞空していた場所から降下して回避。
そこからフローゼル目掛けて前進しつつ、翼を羽ばたかせて突風を巻き起こす。
更にそこへ銀色をした粉のような物を混ぜてきた。
その突風に巻き込まれながらも、フローゼルは足に力を入れて踏ん張り、吹き飛ばされるのを何とか堪えた。
「フローゼル、『ハイドロインパクト』!!」
此処で遂に、マサシは最強の攻撃を指示した。
『アクアジェット』をパワーアップさせた、文字通りフローゼル最大の一撃。
まだ発動すらしていないのに、フローゼルの周囲に水飛沫が拡散していた。
「ガーメイル、『むしのさざめき』から『ぎんいろのかぜ』!!」
ガーメイルも、持てる限りの全ての力を出して迎え撃つ。
羽を羽ばたかせる事によって発生した音波と衝撃波、それに突風までも組み合わせる。
そんな凄まじい攻撃の前に、フローゼルは成す術も無かった。
「フローゼル!?」
吹き飛ばされた勢いは強すぎた。
フローゼルが壁にぶつかり、その場所を中心に広範囲に亀裂が走った。
力無く地面に落下し、その時既にダウンしている事は、誰の目から見ても明らかだった。
フローゼルの元へ駆け寄り、無事を確認したマサシ。
彼の呼びかけに辛うじて答えるフローゼルだったが、やはり戦えない事に変わりは無さそうだった。
「(こっちからほとんどダメージを与えられなかった…。空を飛んでいて、あれだけ強力な特殊攻撃…。やっぱり、一筋縄で敵う相手じゃないな…)」
「マサシ、次のポケモンは?」
「ああ、俺はもう一度エレキブルで行く」
「…成る程、相性で来たね」
ガーメイルは、虫タイプ以外に、飛行タイプも含まれている。
相性ではエレキブルの方が優位に立っている。
「エレキブル、『10まんボルト』!」
初手はやはり、単純に電撃を発射するだけの攻撃。
だが、相手は空を飛んでいる。
ちょこまか飛び回っているせいで、何回も電撃を発射しているのに全く当たらなかった。
「ガーメイル、『むしのさざめき』!」
「(其処だ…!)エレキブル、『でんこうせっか』!!」
ガーメイルが空中で動きを止めて、羽ばたきによる音波攻撃を繰り出す。
だがその直後、ガーメイルが狙っていた先からエレキブルの姿が消える。
その刹那の時間で、エレキブルはガーメイルに掌を翳して、そのすぐ上に移動していた。
「(あの一瞬で、ガーメイルの上を取った…!?)」
「攻撃する瞬間だけは動きを止める。その瞬間の隙を衝くのは、エレキブルだからこそ出来る芸当だ」
マサシがそう呟いた直後、エレキブルの掌から強烈な電撃が閃光の如く放たれる。
バチバチバチッ!!
至近距離からの電撃を貰ったガーメイルは、全身焦げた状態で地上に落ちてきた。
「凄いな、君のエレキブル。そんなスピードを持ってるなんて驚きだよ。だけど、スピードだったら僕のこいつは一番だ。行け、ハッサム!」
ツクシが繰り出した最後のポケモンは、全身が真っ赤で両手が鋏のようになっているポケモン、ハッサムだ。
「スピード勝負と行こうか。ハッサム、『でんこうせっか』」
ツクシが技の指示を出した時点で、ハッサムは動いていなかった。
エレキブルが一瞬…。
そう、ほんの一瞬だけ瞬きをした。
それを終えた後、ハッサムの鋏がエレキブルの眼前に迫っていた。
「なっ…!?」
「『つじぎり』!」
ザシュッ!!
エレキブルに動く暇を与えないまま、ハッサムが高速の斬撃を繰り出した。
無論、防御する暇が無かった事は疑うまでも無かった。
そしてそのまま無抵抗にエレキブルは力尽きた。
「(あのハッサム、かなり速い…。相性で攻めるんだったらマグマラシだが、こいつにあのスピードに対抗する手段は無いし、あの攻撃力は一撃でも貰ったら終わりだ。だが…) 考えていても仕方が無い。ここは、お前に賭けるしかない!頼むぞ!」
悩んだ末に、繰り出したポケモンはマグマラシ。
だが、先程マサシも考えていた通り、相性がよくても決め手に欠けた状態だった。
「ハッサム、『つじぎり』!」
「(こうなったら…)マグマラシ、『えんまく』!」
突如、マグマラシの背中の炎の部分から燻った煙が噴出した。
その煙の中に紛れて、マグマラシはハッサムの攻撃を回避することに成功した。
そして…。
ゴォォォォッ!!
煙の中から飛び出してきた、槍の如く鋭い一筋の炎がハッサムを襲った。
だが、相手はジムリーダーのポケモン。
この程度の攻撃で倒せるほど、弱くは無かった。
即座に突風を巻き起こして煙を振り払う。
マグマラシは、煙が充満していた場所で、ハッサムの方に身構えていた。
「ハッサム、『シザークロス』!」
ツクシが指示を出した直後、ハッサムの姿がその場から消えた。
「こうなったら、これしか…。マグマラシ、あの技だ!」
マサシの指示を受けて、マグマラシが行動を開始した。
最初に、自分の身体の周囲を覆うように炎を発生させた。
一般的な『かえんぐるま』と違いは無かった。
この段階までは…。
その直後、マグマラシは地表ギリギリの位置で超高速で横回転運動を始めた。
それによって生じた風の渦が、マグマラシを覆う炎によって熱されていく。
結果、高温の熱を含んだ巨大な竜巻が完成した。
「これは…!?」
「『バーニングストーム』。『かえんぐるま』で炎を纏い、超速横回転をして熱風による竜巻を発生させる技だ。悪いが、この技の攻撃射程は360度全方向だ。そして、攻撃範囲も桁違い」
マサシが言葉を繋げているうちに、ハッサムが熱風の竜巻に巻き込まれていった。
必死に抜け出そうと抵抗している様が伺えるが、そこは想像を絶する高熱の世界。
炎系が最大の弱点であるハッサムにとって、そこは地獄に他ならなかった。
「そして、これで終わりだ。『マッハバーニング』
マサシが技名を口に出した直後、ツクシは警戒の姿勢を見せた。
だが、そのタイミングですら遥かに遅すぎた。
その瞬間、既にマグマラシが繰り出したであろう細い一筋の火炎が放たれていた。
そしてそれは、的確に未だに渦中でもがくハッサムを捉えていた。
やがて、熱風の竜巻も止んだ。
それと同時に、ハッサムも解放された。
だが、それはこの戦いの結末を迎えたという合図でもあった…。
#ヒワダジム玄関口
「見事だったよ、マサシ。さっきの試合は、君の勝ちだ。じゃあ、約束どおりこの『インセクトバッジ』を君に与えるよ」
そう言って、ツクシの手から先程のバッジが手渡された。
「これが、インセクトバッジ…。ジョウト地方で、二つ目の…」
「これから先は、もっと厳しいと思うけど頑張ってね。マサシ」
「……ああ」
こうして、マサシはヒワダジムを後にした。
そして一先ず、ポケモンセンターに戻ってきた。
「さて、明日はコガネシティへ向けて出発だ。今日は早めに休むか」
そう言うが早いか。
マサシはさっさと眠ってしまうのだった。
そこは、形作られている物全てが氷という、不思議な場所。
そしてその氷は、祭壇と思われる形を作っていた。
場所は、周囲を一望できるとある山の山頂地点。
そこに一人の女性が立っていた。
透き通った空色のロングヘアーの女性だ。
「……集まっている。確実に復活の為の力は集まっている。そしてそれは…」
「ジョウト地方終焉への始まり。でしょ?」
その女性の独り言のような呟きを遮る存在があった。
先日シュンと戦った『終焉の道標<エクストレーム>』のメンバー、ラムトだった。
「あら、随分遅かったわね。始末する事は出来たの?」
「いいや。…それよりもっと面白い事が解ったんだよ、マニス」
マニス。
それが、この女性の名前のようだ。
「僕らの事を嗅ぎ回っていた連中、『あの男』の弟だったよ。4年前の戦いで、偉大なる僕達の率先者でもあったルハド様。あの方と相打ちになった、あの男のね」
「スバルの弟!? あの男に、弟が居たって事?」
「そう。だから僕としては、さっさと儀式を終えて、あいつに絶望を味わわせてやる方が効果的だと思うんだよね」
そう語るラムトの口元には、笑みが浮かんでいた。
だが、その表情からは悪寒がするほどの邪悪な表情が浮き彫りになっていた。
「それは私も賛成。だけどラムト。あんた、この間一つ仕損じがあったよ」
「え…?」
「ヨシノシティで戦った、リュウイチの弟。あいつ、ピンピンしてるよ」
「なっ…!?あの時確かに、雪で埋めた筈! 何で…」
「理由はどうでもいいのよ。問題は、あの少年がまだ生きていると言う事。天属性の力をもつ彼が私達の計画に気付けば、最大の障害になりかねないわ」
「それは心配ないよ。あの時は仕留め損ねたけど、実力の方はまるで駄目だった。僕どころか、R団連中でも十分なレベルだったよ」
「あんたの悪い癖はそこよ。一度勝った相手を見下す所。あいつが、現実に『八素統』の一角を退けたと言う現実を認めなさい。その力が万一にでも発揮されたら、私達では到底及ばないのだから」
「要は、使わせなきゃいいんでしょ?問題ないよ。今度こそ、見せてあげるよ」
―――この僕の…。
―――終焉の道標<エクストレーム>のメンバー、『白帝』ラムトの真の実力をね。
続く
後書き
マサシに勝ち星を与えたいと言う、苦し紛れの目的の為だけに執筆した第7話でした(爆)。
今回は語ることが殆ど無いんですけど…、マサシのジム戦でした(そのまんま)。
ツクシの手持ちポケモンに関しては、僕が勝手に変更させていただきました(ぁ)。
とりあえず、マサシを勝たせることが出来て良かったです。
さて、次回からこのジョウト篇の物語は急加速。
展開が速くなると思うので、ご期待ください。
次回、ジョウト篇第8話『降雪 侵蝕する氷界』。
お楽しみに。