―――侮る要素など微塵も無い。
―――あの程度の奴を相手に、二度も僕が仕損じを晒す事も無い。
―――今度こそ仕留めてやるさ。
―――『白帝』の二つ名の下に…。
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第8話
降雪 侵蝕する氷界
ジム戦から一夜が明けた。
荷物を整理して、マサシはポケモンセンターを出た。
だが、その直後マサシの頬に冷たい『小さい何か』が付着した。
「…」
マサシは、空を見上げた。
そしてすぐに、自分の頬に落ちてきたのが何なのかを理解した。
………雪だった。
ヨシノシティの時と同じように、このヒワダタウンにも雪が降り始めていた。
「また、雪…。ヨシノシティの方は、俺が滞在してた時よりも更に吹雪が強くなってとても生活できるような状態じゃ無くなったって話だが…」
―――少しずつあの吹雪の気候が、ジョウト地方全域に広がり始めているのか…?
―――そう言えばヨシノシティに居た時、R団が何らかの動きを見せていた。
―――まさか、この一連の異常気象はR団が発生させてて、それが『終焉の道標<エクストレーム>』と何か関係があるのか!?
「…」
「お〜い、大変だーー!!」
そんな時だった。
町の東側から、一人の少々年老いた男性が駆け込んできた。
「繋がりの洞窟付近一帯が凍り付いてて、洞窟の入り口が完全に塞がれていたんだ!」
「!?」
そんな男性と会話をするのは、同じくこの町に住む男性数人。
「そんな莫迦な!?昨日までこの町の近くは、雪が降りそうな天候じゃなかったんだぞ?仮に今朝降ってきたとしても、こんな短い間に凍りつかせるなんて、あり得ないだろ!?」
「でも、実際に凍り付いてるんだよ!!」
そんな会話のやり取りを、マサシは遠くから聞いていた。
「やっぱり、このジョウト地方で何かが起きている…。しかし、一体何が起きているんだ…」
何かが起きている。
しかし、今の自分には何も手の打ちようが無い。
その歯痒さが、マサシに圧し掛かっていた。
考えていても仕方が無い。
今の自分に出来る事は、このジョウト地方を回る事だけ。
そう結論を出して、ヒワダタウンの西に広がる樹海に向かって行った。
ここは『ウバメの森』と呼ばれる、ジョウト地方でも最大規模の樹海。
その森の奥深くには、伝説の『時渡りポケモン』、セレビィが姿を見せる祠があるという噂がある。
一歩森に足を踏み入れたマサシの視界に広がったのは、見渡す限りの緑の自然風景だった。
頭上に存在する葉っぱの合間から、陽光の木漏れ日が差し込んでいる。
それが、薄暗い森の中を照らす明りの役割を果たしていた。
「ここが、ウバメの森…。この森を抜ければ、コガネシティだな」
地図を確認しつつ、森の奥へ向けて歩き出すマサシ。
と、そんな時だった。
鳥ポケモンが羽ばたく際に生じる音が、付近に鳴り響く。
上を見上げると、一匹のピジョットがマサシのすぐ近くへ向けて降下してきていた。
「あれ、マサシじゃない?」
そのピジョットの背から、一人の少年が降りた。
黄緑色の髪の毛、茶色の瞳をした少年。
「お前は…、シュンだったな。何で、こんな所に…」
シュン。
それが、この少年の名前。
マサシがこのジョウト地方にやってきて、すぐに出会ったトレーナーでもあった。
「実は、ヒワダタウン近くでR団が変な動きをしているって噂が立ったんだ」
「そう言えば、ヒワダタウンで雪が降っていたが…。あれは、ヨシノシティで起きた事件と同じなのか?」
「ヨシノシティでもあったの!? 一体何の目的で、バラバラの地点で同じ事を…」
「おい、シュン。解るように話せ」
「あの日、君と別れた後僕達はフスベシティへ向かっていたんだ…」
「フスベシティ…?」
「別名、『竜の里』とも呼ばれるドラゴン使いの一族が住んでいる山間の小さい町だよ。だけど…」
「だけど?」
「…ヨシノシティは直接行った訳じゃないんだけど、多分そこと同じような状態だった」
「! 吹雪が止まない状態になっていたのか?」
「うん。それに、マサシってこのジョウト地方でジム巡りも兼ねてるんでしょ?リュックにジムバッジが付いてるし」
「まあ…な」
「だとしたら、その旅は一時中断せざるをえないよ」
「どういう事だ?」
「在るんだ…。今しがた説明した、フスベシティにもジムが…」
「!」
「僕達が着いた頃には、手遅れだった。既に町の全てが氷に支配されていた」
「しかし、一体このジョウト地方に何が起きているって言うんだ…!」
「これも、『終焉の道標<エクストレーム>』の計画の一つだよ」
「!」
「奴らがどういった理由でこんな事をしているのかは解らない。だけど、奴らの最終的な目的は、ルハドを復活させる事」
「ルハド…?」
「『終焉の道標<エクストレーム>』幹部、『八素統』の一人。『蒼固』の名を持つ、凍土を支配する者だよ」
「!」
一瞬、マサシの表情が強張った。
シュンの話を俄かに信じられなかったという気持ちよりも、驚愕の感情の方が強かったせいでもあった。
「『蒼固』ルハドとは、かつての戦いで、僕の兄ちゃんと相打ちになった男。だけど最近になって、そいつを復活させようと動いているって言う情報を貰って、ここにやってきたんだ」
「…もしそうなら、絶対に阻止しないといけないな。あの組織の幹部の強さは、想像を絶する物だ。今のままじゃ、絶対に勝てる相手じゃない」
そう呟くマサシの脳裏に、とある記憶が蘇っていた。
1年前、同じ『終焉の道標<エクストレーム>』の幹部でもある、ヒマザと戦った時の記憶が。
「とりあえず、ヒワダタウンに行こう。R団はあの町で、絶対に何らかの動きを見せる筈」
「俺、今さっきあの町から出てきたばっかりなんだが…(汗)」
「そんな事気にしてる場合じゃないよ。ミキだって、別の場所に向かっているんだ」
「別の場所?」
「エンジュシティ付近でも、やっぱりR団が動いてるんだ。それに、前にR団から聞きだした情報だと…」
「何だ?」
「あの吹雪は、このジョウトにやって来ている『終焉の道標<エクストレーム>』のメンバー、『白帝』ラムトと、『零姫』マニスの二人によって起こされているらしいんだ」
「何…!?」
「あの吹雪は、『氷の大樹<ドライ・ラシル>』を完成させた影響で発生してる物だって」
「ドライ・ラシル…?」
「何でも、世界中に存在する氷属性のエネルギーを集める為の物らしいんだ」
「そんな事をするのと、さっきお前の言ってたルハドって奴を復活させるのとどんな関係があるんだ?」
「解らない。ただ、氷の大樹<ドライ・ラシル>がジョウト地方の10ヶ所に作られた時、この地方の終焉が始まるって…」
「なっ…!?」
「急ごう。あいつ等の狙いが何であるにしても、碌でもない事を考えているのは間違いないんだから」
「…そうだな」
と、少々時間を使ってしまったが、二人はヒワダタウンへ向けて走り出す。
そこで、真実を目の当たりにする事になる…。
「やっぱり、さっきより寒いな」
ヒワダタウンに近付くのに比例して、辺りの気温がどんどん低下し始める。
次第に、彼らの吐き出す息が白く目に見えるほどにまでになってきた。
「これは、急がないと本当にまずいかもしれない…。マサシ、空を飛べるポケモンは持ってる?」
「フライゴンがいる」
「僕達が走っていくんじゃ、手遅れになる。力を貸してもらおう」
「解った」
シュンの提案で、マサシはフライゴン、シュンは先程のピジョットにそれぞれ乗り、空から向かう事になった。
やがて、上空からヒワダタウンが肉眼で確認できる位置にまで近付いた。
「…!!」
マサシは、上空からヒワダタウンの様子を見て、息を呑んだ。
つい先程までは、雪が降っているとはいえ普通の光景だった。
それが今では、町の大半が凍土に覆われていて、先程の町の光景は見る影も残されてはいなかった。
「何だ、これは…」
「遅かった…。やはり、近くで氷の大樹<ドライ・ラシル>が発動したんだ…」
「…?おい、あれ!」
ふと、マサシは地上で何かを見付けた。
ヒワダタウンの一角で氷タイプのポケモン達が闇雲に、周囲を凍結させている光景だった。
しかも、そのすぐ近くでR団の下っ端数名が様子を観察していた。
「R団…!奴ら、一体何を…」
「マサシ、何にしても彼らの企みは阻止しないと!」
「解ってる。フライゴン、頼むぞ」
フライゴンは軽く頷くと、R団の居る場所目掛けて急降下する。
その途中、いつの間にボールから出てきたのか、マグマラシがフライゴンの頭の上に移動した。
「マグマラシ!? お前、いつの間に…」
マサシが戸惑っている間に、マグマラシは背中から炎を噴き出す。
攻撃する意欲を見せ付けた。
「…よし、マグマラシ頼むぞ」
マグマラシの決意を、マサシも理解した。
指示を貰って、マグマラシは飛び出した。
そして、上空から『かえんほうしゃ』を発射して氷ポケモン達を薙ぎ払う。
「!?」
その異変にR団も気付き、上空を見上げる。
だが、その時既にマサシは次の攻撃に移っていた。
「な、何だ!?」
突然、下っ端の一人が声を上げる。
全員が後ろを振り返ると、そこには一匹のエレキブルが立ち塞がっていた。
バチバチバチィッ!!
そして電撃を放ち、その場にいたR団を全員気絶させた。
「マサシーー!!」
後から遅れて、シュンもその場にやってきた。
が、何やら慌てた表情をしていた。
「どうしたんだ?」
「たった今、ミキから連絡があったんだけど…。あっちの方で、氷の大樹<ドライ・ラシル>が完成しちゃったみたいなんだ」
「何…?」
「これで、残りの一箇所。つまり、ここでR団を食い止められなければ、最悪の事態になるよ!!」
「くそっ!!」
マサシは、フライゴンに促して再び上空へと飛翔する。
そして上空から、周囲を見渡す。
これだけの活動をしているのなら、必ず何処かで目立つような作業をしていると思っていた。
しかし、ヒワダタウンの周囲にはそれらしい大きな動きは発見できなかった。
「くそっ、一体あいつらは何処に居るんだ…!」
マサシも、徐々に焦り始めてた。
というのも、このヒワダタウンでも吹雪が徐々に強くなり始めていたのが原因だ。
と、そんな時だった。
林の中から放たれた一筋の光線が、フライゴンを撃ち抜いた。
「なっ…!?」
突然攻撃を喰らい、フライゴンは墜落していく。
その途中でマサシは飛び降りた。
幸い、雪のお陰で大事には至らなかった。
「今のは…、何だ!?」
フライゴンをボールに戻しながら、今の攻撃が放たれた方角に目を配る。
その方角から姿を見せたのは…。
「あら、どうやら私が当たりくじを引いたみたいね」
林の中から、一人の女性が現れた。
だが、シュンはその姿を見て顔を強張らせていた。
「最悪だ…」
「シュン?」
「こいつは、ルハドの側近でもある『零姫』マニス!」
「と言う事は、『終焉の道標<エクストレーム>』か!」
目の前に現れたこの女が敵だと判断した瞬間、マサシは新たにフローゼルを繰り出した。
そして、先程攻撃を加えたエレキブルとマグマラシも、マサシに合流して身構えた。
「威勢がいいのね。だけど、私には勝てない」
「…」
挑発には乗らない。
この強敵を相手に、冷静さを欠いては絶対に勝てない。
否。
挑発には乗らず、冷静さを保つ事が出来たとしても、勝てないかもしれない。
「…マグマラシ、『かえんほうしゃ』」
だが、慎重になりすぎていても駄目だ。
様子見目的で、マグマラシに炎で攻撃をさせてみるが…。
「無駄よ」
ザシュッ!!
彼女の目の前で、マグマラシの発射した炎が真っ二つに切り裂かれた。
その直後、彼女の目の前に一匹のポケモンが姿を見せた。
「マニューラ…か」
「行くよ。マニューラ」
マニスの声と共に、マニューラがその場所から姿を消した。
直後、マグマラシは後退する。
その刹那の差で、マニューラの爪がたった今までマグマラシが居た場所の地面に突き刺さっていた。
すぐに爪を地面から引き抜くと、今度は真正面からマグマラシに向かっていく。
それに対して、マグマラシは全身を炎で覆って迎え撃つ。
敵と同様、真正面から突進していく。
お互いに激突すると言う、その間際の事だった。
マニューラがマグマラシの正面の視界から消えたかと思うと…。
ズドォンッ!!
マグマラシの背中に、マニューラの爪が食い込んでいた。
そしてそのパワーで、地面に大きな亀裂を入れた。
「クッ…」
簡単に勝てる相手じゃないと言う事は解っていた。
だが、やはり絶望感を拭い去る事は出来ない。
……力の差が、大きすぎる。
「チルタリス!!」
マグマラシに爪を食い込ませていたマニューラ目掛けて、今度はシュンのチルタリスが飛来した。
急降下のスピードを利用した突進攻撃を仕掛けるが、マニューラは両爪で受け止める。
だが、その勢いでマニューラをどんどん押していく。
そんな状態なのに、マニューラは表情一つ変えない。
「ふふ、甘いね。マニューラ」
小さく頷くと、マニューラが動く。
突如、攻撃中だったチルタリスの顔面を掴むと…。
背負い投げの要領で、投げ飛ばした。
「今だ!!」
背負い投げを決められた状態でありながら、チルタリスは炎を放つ。
流石にあの状態から攻撃を繰り出されるとは想像もしていなかったのか、マニューラは直撃を喰らった。
「へぇ、中々やるもんだね」
「シュンのポケモンにばかり気を取られてていいのか?」
「!」
チルタリスが攻撃を仕掛けたその直後、マサシも動いた。
所々煙が立っているマニューラに、青白く輝く爪で一閃の斬撃を繰り出すポケモンが居た。
「決まったか。『フロウエッジ』」
今、マニューラに攻撃を仕掛けたのは、アリゲイツ。
マサシにとっての相棒だった。
何気に、このジョウト篇では初登場だったりする(何)。
「ふぅ、流石に二人相手は少し面倒ね。じゃあ、少し本気をださせて貰おうか」
「…!」
………悪寒がした。
なぜかは解らない。ただ…。
さっきまでとは、明らかに違う。
俺の全身を駆け巡る、言い様の無いこの寒気。
……気のせいなんかじゃない。
この女、俺の想像以上に強いかもしれない…。
ヒワダタウンで、マニスとの戦いが繰り広げられているのとほぼ同時刻。
町のすぐ近くに隠されていた、巨大な氷の柱。
その先端から、プラズマ状のエネルギーが北の方角へ飛んでいった。
それに呼応するかのように、他の場所に仕掛けられた氷の柱からもエネルギーが放出されていく。
発生源は、西はタンバシティ付近、東はシロガネ山。
まるで、このジョウト地方全域を囲むかのように仕掛けられていた。
そして放たれた全てのエネルギーの向かう先は…。
コガネシティのやや東。
事実上の、ジョウト地方中心地区。
そこには、予め設けられていた氷製の祭壇のような物があった。
ジョウト地方各地から飛来したエネルギーはここに集結し、祭壇に降り注ぐ。
その瞬間、一瞬世界が凍りついた。
………ジョウト地方終焉へのカウントダウンが、刻み始めた。
最強の存在が、蘇ろうとしていた………。
続く
後書き
正直、もう話数稼ぎの話を書くのにバテました(爆)。
なので、今回から一気に物語の中心に向けてシナリオを進めさせていただきました。
つっても、やっぱり書く事があんまり無い…。
まあ、ジョウト篇に入って初めて、1話で決着が着かなかったバトルになった…という事くらいかな、書く事(ぇ)。
まあ、とりあえず次回予告だけやって終了(投げやり)。
次回、ジョウト篇第9話『終焉 蘇る最強の氷王』。
お楽しみに。