―――あれから、どれ位の時が流れた?

―――ほんの数日のような気もするが、とても長かった気もする。

―――だが、今となっては関係のないことだ。

―――俺が、この瞬間この場所に再臨したのだから。

―――終焉は、ここからが始まりだ。






チャレンジ・オブ・マスターズ   ジョウト篇
第9話
終焉 蘇る最強の氷王






 天候が、変化している。
 ジョウト地方の上空で、黒雲が渦を巻き始めていた。
 まるで、終わりの始まりを告げているかのごとく。
 不気味さだけが、空を覆いつくしていた。

 そして、先程プラズマ状のエネルギーが降り注いだ氷の祭壇。
 その場所に、一人の男が存在していた。
 今迄、このジョウト地方で暗躍していたR団の誰でもない存在。
 青色の髪の毛をした、氷のように鋭く、冷たい瞳を持った男。

「……」

 その男は何も語らず、何処かへ向かっていった。



















 その一方で。
 ヒワダタウンで戦いを続けていたマサシ達も、上空の異変に気付いていた。

「おい、何だあれ!?」

 マサシが北の方の空を指差して叫ぶ。
 その視線の先には、先程の黒雲の渦巻きが存在していた。

「何だろう…、とてつもなく嫌な感じがする…」

 シュンも、このジョウト地方で起きた『何か』に悪寒を感じていた。

「これで、ようやくだ」

 マサシ達が戦っていた敵、マニスが独り言のように呟いた。

「これで、あの方が蘇った。終焉への時は、刻み始めた」

「何っ…? どういう事だ!!」

「ルハド様は、命を落とした訳ではない。スバルとの戦いで力を使い果たした為に、眠り続けていただけ。そして今、氷の大樹<ドライ・ラシル>によって世界中から集められた氷の属性エネルギーが、ルハド様を再び目覚めさせた」

「…!!」

「そして、ルハド様がかつての戦いのときに失った全ての力が蘇るのも時間の問題。そうなれば、我々『終焉の道標<エクストレーム>』に敵は無くなる」

「何を…!」

「私は、事実を告げているだけ。あの方から見れば、お前達など赤子以下の存在に過ぎない」

「…」

 この女の言っている事は、偽りではない。
 かつて、幹部と戦った経験のあるマサシだからこそ、そう思えてしまった。
 だが、シュンはシュンでそう思わざるを得ない理由があった。

「(兄ちゃんと相打ちになった男…。確かに、僕達なんて…)」

 シュンも、兄であるスバルの強さは熟知していた。
 そんな兄と相打ちになったと言う記録だけで、相手の強さを推し量る事が出来たからだ。

「……クッ」

 だが、今此処で逃げるわけにはいかないのも事実だった。


 ジョウト地方の終焉が、近付いている。
 ルハドがその気になれば、一瞬でジョウトを壊滅させられる。

 マサシ達は、最低でもその程度の力は持ち合わせていると考えていた。

「だけど…」

 と、ここで話を切り出したのはシュン。

「だけど、ルハドはまだ完全じゃない筈。だったら、今のうちに何か手を打てばまだ奴を止められるかもしれない!」

「ふ、それをさせない為に私達がいるのよ。お前達のような危険因子を、排除する為にね」

「…!」

 二人は、咄嗟に身構えた。
 だがその瞬間、両者の中間の地点に一人の男が突如として姿を見せた。

「なっ!?」

「…」

 突如として現れたその男は何も語らず、ただマニスのほうに視線を配るのみだった。

「…お待ちしておりました。ルハド様」

 マニスは、現れた男・ルハドに対して、そう語りかけるのみだった。
 それを聞き入れて少し間を置き、今度はマサシ達の方に振り向いた。

「(ゾクッ) っ…!!」

 血の気が、引いた。
 それを己自身で理解できるほど、その男は異質だった。
 それに加えて…。

「(身体が…、動かないっ…)」

 恐怖。
 言い表し様の無いその男に対する恐怖感が、全身を強張らせていた。

「久しい感覚だ」

 一言、ルハドが呟いた。

「我等が宿敵、天属性をその身に宿す者か。それに…」

 今度は、シュンの方に視線を向けて、一言。

「その面影、知っているぞ。あの時、俺と互角以上の戦いを繰り広げた男、スバルだったか。奴と、貴様は似た面影を持っている」

「お前が…、ルハド…。お前がっ!!」

 今迄静けさを保っていたシュンが、突然感情を爆発させた。
 それと同時にシュンの瞳が緑色に変化し、チルタリスが炎に似たエネルギーを纏って、突っ込んだ。

「ユキワラシ」

 ルハドの肩の上に、いつの間にか雪笠のような物をつけている小柄なポケモン、ユキワラシがいた。
 それを確認した後、ルハドは正面に掌を向ける。



 ガンッ!!



 硬い何かに激突したような音だった。
 ルハドが掌を向けた先、その目の前に巨大な氷の壁が出現していた。
 今の音は、チルタリスがその氷の壁に激突した際に生じた音だった。

 …そしてそれは、シュンがルハドと絶望的な力の差を痛感する出来事でもあった。

「そんな…!今の攻撃を止めた!? しかも、全力を込めた訳でもなく、ごく自然に…」

「…無駄だ。貴様ら如きでは、俺に傷を負わせる事すら叶わん」

「舐める…、なぁっ!!!」

 と、このタイミングで強引に身体の硬直を振りほどいて、マサシが走り出す。
 アリゲイツとフローゼルを繰り出し、揃って突っ込んでいく。

 まず、フローゼルが先行して衝撃波を飛ばす。
 しかし信じられない事に、ルハドは片手を払うだけでその攻撃の軌道を逸らしてしまった。

「まだだ!!」

 フローゼルの攻撃が通用しない事など、最初から予測の範囲内だった。
 そんな考えを伺わせるかのごとく、マサシの攻めは用意周到だった。
 フローゼルの攻撃を逸らす際に、ルハドは左手を振り払った。
 そのせいで、ほんの一瞬の隙が生じた。
 完全にその隙を衝くタイミングで、アリゲイツの爪がルハドに迫る。

「甘い」

 だが、ルハドはマサシの予測よりも更に上を行っていた。
 突如として奴の足元から氷柱が生え伸びてきた。
 全く予測すらしていなかった場所からの攻撃に、アリゲイツは全く反応出来なかった。
 氷の棘を無数に浴びてしまい、あっという間に倒れてしまった。

「フローゼル!!」

 それでも、攻撃の手を休めるわけにはいかなかった。
 とにかく攻撃を続けて、僅かでもいいから隙を作りたかった。
 先ほどは繰り出した衝撃波を弾かれたフローゼルだが、今度はその衝撃波を無数に飛ばした。

「…」

 最早、語る言葉も無し。
 ルハドは、チルタリスを阻止した時と同じように氷の壁を生み出して攻撃を遮断。
 しかしその瞬間既に、フローゼルとマサシは右横に回り込んでいた。

「そこだ!!」

 ルハドは、一瞬マサシの方に視線を向ける。
 だが、ふと気付く。
 反対側に、シュンとチルタリスも回り込んでいたことに。

「挟み撃ちだ。フローゼル、行け!!」

「チルタリスも、行くんだ!!」

 『ハイドロインパクト』と『エクストラブースト』。
 両者のポケモンが一番自信を持つ技を持って、左右から同時に攻撃を仕掛けた。


 ズドォォォォッ!!


 2匹の同時攻撃が炸裂して、爆発が発生した。

「はぁ、はぁ…。これは、流石に少しは効いたんじゃないか…?」

 まだルハドは爆発の煙に包まれていて、状態は確認できない。
 だが、今の攻撃は少なからず効いたであろうと言う、微かな自信を持っていた。
 ……だが。

「…温いにも程がある」

「!?」

 突如として、ルハドの声が聴こえてきた。
 それだけで二人が硬直する意味は無いだろうと、普通は思う。
 だが、今回だけはそうならざるを得なかった。
 あれだけの攻撃を喰らったと言うのに、奴の口調が先程と全く変わっていなかったからだ。
 つまり…。

「無傷…だと!?」

「いや、それどころか僕達の攻撃を両方受け止め…」

 そう。
 ルハドは右手と左手それぞれで、フローゼルとチルタリスの攻撃を受け止めていた。
 そして…。


 先程と同じ、足元から氷柱が生えてきた。
 その巻き添えを食らって、フローゼルとチルタリスは吹き飛ぶ。
 ルハドは、容易にこの2匹を倒して見せた。

「む、無理だ…」

 とうとう、マサシの口からその言葉は零れ落ちた。

「こんなの…」

 必死に押し留めようとする。
 だが、今迄その言葉が出るのを我慢していたせいか、抑えが効かない。

「勝てる訳が…」

 そういうマサシの額から、冷や汗が滴り落ちる。
 それは、シュンもまた同じだった。

「嘘でしょ…。あいつはまだ、完全な状態じゃ無い筈なのに…。それでも、ここまで力の差が大きいなんて…」

「くっ、グレイシア…!!」

 既にマグマラシ、フライゴン、フローゼル、そしてアリゲイツがダウンした。
 現在ボールの外に出ているエレキブルも、戦闘能力としては他の4匹とほぼ同格。
 つまり、そのエレキブル1匹がどう足掻いても、奴を倒せる確証など何処にも無かった。
 マサシの、残り1匹のポケモンを除いては…。

「グレイシア…、もうお前しか残ってないんだ。頼む!!」

 トーホク地方の旅で、マサシの危機を何度も救ってきたグレイシア。
 そのグレイシアに、マサシはこの場に於いて全てを託した。

「…」

 ルハドも、マサシのグレイシアの力の底深さは感じ取っていた。
 それでいても、まるで関心無しといった顔をしていた。
 否、まるで相手にならないと思っている…と言った方が正しいだろうか。




 だが、奴がどう思っていようが関係ない。

 こいつを倒す。
 今のマサシは、その事しか頭に入っていなかった。

「グレイシア!!」

 マサシは、ただその名を叫ぶだけだった。
 その直後に、グレイシアが動く。
 地面を蹴り、目に見えないほどの超スピードを以ってルハドに突っ込む。

 だが、それすらもルハドにとっては今迄の敵の行動と同じに見えていた。
 氷の壁を作り出し、阻む。
 ただ、それだけだった。
 …だが、唯一誤算があった。


 ガシャァァァァンッ!!


「!?」

 グレイシアの現段階でのパワーが、想像以上であった事。
 そして、自分の作りだした氷の壁を砕かれると言う事が、予想外の事態として発生した。

 その様子を見ていたシュンは…。

「凄い…、あの氷の壁を打ち砕くなんて…。あのグレイシアが居れば、もしかしたら…」

 シュンは、マサシのグレイシアに一筋の希望を抱いていた。

「氷の壁を砕く…か」

 ルハドが驚いた表情を見せたのは、あの壁が砕かれた一瞬のみ。
 今では、すっかり冷静さを取り戻していた。

「少し驚いたぞ。スバル以外に、こんな力技で俺に立ち向かってきたのだからな」

「…」

「だが、ここまでだ」

 突然、ルハドの声が重くなった。
 そう喋った後、ルハドは右掌を空に向けた。



 直後。
 ルハドを中心として、吹雪による竜巻が発生した。
 吹き飛ばされそうな暴風の中、グレイシアは必死にルハドに近付こうとするが…。

「如何に力を持っていようとも、この暴風の中では無力だ」

 この暴風の中で、グレイシアは必死に踏ん張っているのだが…。
 やがて体力が切れてしまい、吹き飛ばされてしまった。

「グレイシア!!」

「終わりだ」

 グレイシアを吹き飛ばした暴風は収まる所を知らず、徐々に勢いと範囲が増大し始める。
 マサシ達も吹き飛ばされないように身を屈めるが…。

 人知を超えた強大な力を発揮するルハドを前に、それはあまりに無意味な抵抗だった。

「うわああああああっ!!!?」

 二人はそれぞれ、ジョウト地方の遥か遠くへと吹き飛ばされてしまった。









 その後、その場に残ったのはルハドのみ。
 否、ルハドとその配下にあたる女・マニスだけだった。

「行くぞ、マニス。まずは、俺の全力の力を蘇らせる。その後、組織を再興させる」

「ルハド様。その必要はございません」

「…?マニス、何の冗談だ。あの時、俺が倒れた時点で『終焉の道標<エクストレーム>はほぼ壊滅状態だったはずだ」

「確かに、あの時は壊滅寸前にまで追い込まれました。しかし、総帥さえ残っていれば何度でも組織は再生出来ます」

「…」

「そして、個人の能力も4年前とは比較にならないほど増大しました。現に、貴方と同格に位置する『赤熱』ヒマザ様が良い例です」

「…ヒマザだと?」

 ヒマザ。
 その言葉を聞いた途端、ルハドはマニスの首を鷲掴みにした。

「俺を、奴程度と同格などと良く言えたものだ。その事実を俺が嫌っている事、忘れたわけではあるまい」

「ぁっ…、う…」

「……」

 ルハドは、投げ捨てるようにマニスの首を離す。

「ゲホッ、ゴホッ。 申し訳ありません…」

「…まあいい。 それで、奴が何をした?『八素統』最弱とも呼ばれているあの男が」

「リュウイチに、勝利しました」

「!」

 予想外だった。
 マニスの言葉を聞いた途端、そんな表情を見せた。

「あの程度の男が、奴らの中でも最強レベルの実力者だったリュウイチを倒しただと…?」

「はい。ただ、その件に関して少々引っ掛かる事が」

「…何だ」

「そのヒマザ様が、先程貴方が戦ったリュウイチの弟に敗れたという話です」

「弟?あの茶髪の少年が、あのリュウイチの弟だと?」

「はい。ただ、如何見てもあの少年にはヒマザ様を退けられるような力を持っているようには感じられませんでした。天属性の力が目覚めている様子もありませんでした」

「…。マニス、あの戦いから4年が経ったと言ったな」

「はい」

「あの時散ったお前ともう一人の俺の配下、ジルの後釜は見付かったのか」

「はい。まだ参入してから日はそれほど深くはありませんが、ジルの穴埋めとしては十分すぎるほどの力を持っています」

「…先に、そいつに会っておくか。新しい部下の名も顔も知らないなど、最大の恥だからな」

「今頃は、貴方が復活した場所、ジョウト地方中心にそびえる山脈『ビスラ山脈』に戻ってきている筈です」

「…そうか」

 その後、ヒワダタウンに発生していた吹雪が一瞬強くなった。
 だがそれはすぐ元の勢いに戻った。
 その時既に、町の中から二つの人影が居なくなっていた。




















―――此処は…、何処だ?

―――俺は…。そうだ、あの時吹き飛ばされて…。

―――どれくらい時間が経ったか解らない。

―――身体の感覚が、少しずつだけど戻ってきた。

―――これなら、動かせる。







 目が覚めた。
 見渡せば畳が敷き詰められた部屋。
 掛け軸もある。
 見るからに、純和風が詰め込まれた部屋だった。

「ここは…」

 身体を起こして、周りを見渡す。
 畳10枚が敷き詰めらえている広い部屋。
 そしてこの中に、マサシ以外誰もいない。
 だが、襖の向こうから気配がする。
 布団から身体を起こして、その気配の主を待ち構えていると…。

「あ、目が覚めたんだ!」

「……ナギサ!?」

 何と、襖の向こうから登場したのはナギサだった。

「お前、どうして此処に…。いや、それ以前にここは何処だ?」

「ここは、エンジュシティよ。マサシ君、町の中で倒れてていたから驚いて…」

「エンジュシティ…か。随分、遠くまで飛ばされたな…」

「飛ばされたって…、マサシ君今迄何処に居たの?それに、いきなりこの町で雪が降り出したと思ったら、あんなに吹雪が強くなっちゃって…」

「『終焉の道標<エクストレーム>』の仕業だ…。今、このジョウト地方は終焉の危機に瀕している」

「ど、どういう事!?」

「実は…」

 マサシは語り始めた。
 ジョウト地方にやってきて起こった事、その全てを。
 この吹雪が『終焉の道標<エクストレーム>』の仕業であると言う事。
 そしてそれが原因で、幹部ルハドが復活した事。
 そのルハドに敗れたことなど、色々と。

「そんな…。マサシ君でも勝てないなんて…」

「それより、お前こそどうしてエンジュシティに居るんだ?」

「マサシ君がワカバタウンを発つ前にも言ったよね? 自分ひとりでどれだけ頑張れるか試したいって」

「ああ、そう言えばそんな事言ってたな」

「だから、私は一人でこのジョウト地方を回ってたの。お陰で、随分強くなれたわ」

「…そうか」

「あ、それとね。マサシ君をここまで運ぶのにもう一人手伝ってくれた人が居るの」

「…もう一人?」

「私よ、マサシ君」

「あんたは…」

 ナギサの後から部屋に入ってきたのは、シュンの姉・ミキだった。

「そういえば、シュンはあんたがエンジュシティに向かってるって言ってたか…」

「シュンに会ったの?」

「ああ。一緒に戦ったんだが、ルハドの復活を阻止できなかった」

「!」

「シュンの予測だと、奴はまだ完全に力が戻った訳じゃないらしい。それでも、全く歯が立たなかった…」

「そんな…」

「恐らく、今このジョウト地方で奴らに太刀打ちできるだけの力を持った奴は、居ない。それでも、俺達は奴を倒さなければならない」

「…だけど、どうやって?マサシ君でも勝てないような敵を相手に、どうやって戦えば…」

「ナギサ。お前はさっき、自分で随分強くなったって言ったんだ。もう、今の俺をサポートするには十分な実力は身に付いたと考えていいのか?」

「…ううん。1年前みたいに、私はマサシ君をサポートする訳じゃない」

「…?」

「マサシ君の横に並んで、一緒に戦うの。もう、昔みたいに弱いままの私じゃない事を証明したいの」

「…解った。とりあえず、先ずはシュンと連絡を取らないといけないな。それで、全員でやりたい事がある」

「やりたい事?」

「話は、シュンと連絡が付いてからだ」

 ふと、マサシがとある話を切り出した。
 それが、ルハド達に対する反撃への第1歩になる事は、彼自身薄々感付いていたのかもしれない。


続く


後書き
ラスボス降臨!!
今回の話を一言で表すなら、これしかありませんでした(ぇ)。
流石に、強すぎる奴を書くのは一苦労です。
今回もルハドがジョウト篇最強の敵だと言うのを上手く書けたかどうか自信が無いです(オイ)。
とりあえず、最終決戦はもうちょっと先送り。
次回マサシが話す内容を、行動に移さなければなりませんので。
と言う訳で、次回からジョウト篇は終盤に突入(早くないか!?)
では最後に次回予告。
次回、ジョウト篇第10話『反撃 砕かれる氷樹』。
お楽しみに。

 

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