今現在吹き荒れている雪とは別の冷気が、吹き荒れている。
 そんな中で、炎も共に町中のあちこちで飛び交っている。
 炎攻撃を繰り出しているのはマグマラシ。
 そして、氷の攻撃を繰り出しているのはマンムー。

 今、この町は2匹のポケモンの主たる二人の戦闘の場となっていた。
 とは言っても、マグマラシのトレーナー・マサシは既に呼吸のタイミングが短くなり始めていた。

「はぁ、はぁ…」

「ふ。いくらかポケモン達が強くなったと言っても、君自身この寒さが身に染みている事に違いは無い。だけど、僕にはこの程度何の影響も無い。そして、その為に君は勝ちを急ぎ、自ら自滅する」

「くそ、いちいち五月蝿い奴だ。まあ、俺が倒れる前に決着をつけるってのは合ってるが」

「無理だね。君が倒れる前に決着が着くなど在り得ない。否、それ以前に君如きが僕に勝つ事自体が不可能なのさ」

「あんまり自分の実力に自信を持ちすぎてると、足元を掬われるぞ」

 数日前、マスターリーグ開催の地方・ヨハロからやってきたと言うライナとのバトル。
 その時の事を思い返しながら、マサシは今の言葉を口にしていた。

「自信を持ちすぎてる訳じゃないさ。事実を言っているだけだよ。普通に考えても、僕のポケモンと君のポケモンでは、力量<レベル>に差がありすぎる」

「それが、自分に自信を持ち過ぎてるって事だ!!」


 ズドォッ!!
 マグマラシが発射した炎が、マンムーを吹き飛ばした。

 だが、マンムーはすぐに身体を起こして、反撃の氷エネルギーを集めた光線を発射してきた。
 それを、マグマラシは文字通り力一杯の炎を発射して対抗する。
 両者の攻撃がぶつかり合っている箇所でエネルギーが膨張し、弾け飛ぶ。
 その衝撃で、2匹はそれぞれ少々後ろに飛ばされた。

「さて…。いい具合に吹雪も強くなってきたね」

 ラムトが、周囲の空を見回しながら呟く。
 確かに彼の言うとおり、先程より吹雪の勢いが強くなり始めていた。
 マサシは既に片膝を地面につけてしまっていた。

「じゃあ、そろそろ『始めよう』か。この僕の、『白帝』としての戦いをね」






チャレンジ・オブ・マスターズ   ジョウト篇
第11話
激突 因縁の戦い再び






 吹雪が、強くなってきている。
 その影響で、ラムトのマンムーの特性:〜ゆきがくれ〜が発動。
 徐々にその姿を視認するのが困難になっていく。
 だが…。

「マグマラシ、まだマンムーは動いてない!今のうちに…」

 指示を出そうとした矢先の事。
 たった今迄動いていなかったはずのマンムーが、まっすぐ此方目掛けて突進してきていた。

「!」

 気付くのが一瞬間に合い、マグマラシは横に跳んで回避。
 だがその直後、再びマンムーの姿を見失ってしまった。

「こそこそ隠れながら不意打ちを仕掛けるのが、お前の戦い方か?」

「ふ、何とでも言えばいいさ。僕は、邪魔者の君を始末するだけなんだから」

「だったら、またこれで炙り出せばいい」

 そういうと、再び『バーニングストーム』を発動。
 ところが、今度はどれだけ攻撃の範囲を広げても、マンムーが引っ掛からなかった。

「同じ手は効かないよ。今のマンムーを捉えるのは、不可能だ!」

 マグマラシの右サイドから、先程と同じ冷気の光線が発射された。
 その攻撃を、マグマラシは身体を捩って回避した。
 そして、今光線が飛んできた方向目掛けて炎を放つ。
 …が、手応えは無かった。

 少し間を置き、マグマラシの足元の地面が僅かに盛り上がる。
 それに気付いたマグマラシは、咄嗟にその場を飛び退く。
 その直後、マンムーが地面を突き破って攻撃を繰り出してきた。

 この隙を狙って、ここぞとばかりに全力の炎を発射する。
 だが、マグマラシの攻撃が命中する前に再びマンムーの姿が見えなくなってしまった。

「消えた…!?」

「僕のマンムーを、普通のマンムーと思わない方がいいよ。僕のマンムーは特別でね、吹雪の中により溶け込みやすいのさ。普通の〜ゆきがくれ〜よりも能力はずっと上なのさ」

「(となると、やっぱり向こうが攻撃をしてきた際に、カウンター攻撃を決めるしかない。だが…)」

 再び、突如マンムーの姿が現れて突進してくる。
 そのスピードもかなり速く、回避するだけで精一杯だった。

「(向こうの動きを一瞬でも止められたら…。よし)」

 時間的に、そろそろ次の攻撃が来ると見計らっていたマサシは、ここぞのタイミングで指示を出す。
 マグマラシの背中の燃え盛る炎から、燻った黒煙が噴出した。
 その直後に、マンムーが姿を現して突っ込んできた。
 が、丁度黒煙を放ったタイミングで攻撃に転じたため、動きが止まる。

 そこに、マグマラシの炎が炸裂。
 今迄で最大のパワーを発揮した攻撃は、マンムーを思い切り吹き飛ばす。

「どうだ」

「…」

 何も語らない。
 ただ、無言で立ち尽くすのみだった。

「(…?何だ、こいつ)」

「ニューラ」

「がっ!?」

 突然だった。
 マサシの目の前を白い閃光が斜めに迸った。
 その直後、その閃光をなぞるように一筋の傷が出来ていた。

「言ったでしょ。僕は邪魔者を始末する事だって。ダラダラとポケモン同士に戦わせることが、始末する事とは言わないんだよ」

「(不意打ちだったとしても、今の攻撃…)」



―――全く、見えなかった…。



「ほらほら、休んでていいのかな?」

「…!」

 今度は、爪先を振り抜きながら細かい氷の塊を飛ばしてくる。
 見た目はそれほど圧迫感は感じないのだが、ニューラが凄まじい勢いで飛ばしてきているため、その攻撃力は絶大。
 しかもその攻撃は、直接マサシ目掛けて放たれていた。

 が、そこへマグマラシが割り込んでくる。
 マサシの目の前に立ちはだかり、飛来する氷の固まり全てを炎で溶かす。
 その後すぐにマグマラシは身体の周囲を炎で覆った。
 そして、一瞬。
 ニューラが、マグマラシの目の前に移動し、爪を突き立てていた。
 否、マグマラシの周囲を覆う炎の壁に、爪は阻まれていた。

「ぐっ」

 と、ここでマサシが更に身体をガクッと落とす。
 寒さに加え、先程のニューラから受けた傷が体力をどんどん奪っていた。

「(これは、本当に決着を急がないとまずいな…。このままだと、俺が先に倒れる…)」

 と、そんな折マグマラシがマサシの異変に気付いて駆け寄ってきた。
 寒さを少しでも和らげようと、近くで炎を発したのだった。

「ありがとうな、マグマラシ。だけど、お前は奴との戦いに集中しろ。これからは、一瞬の隙も見せるな。全身の感覚全てを研ぎ澄まし、敵の動きを見切れ」

 マサシのその言葉を聞いて、マグマラシは表情を変えた。
 そしてマサシの元から離れ、ニューラと再び向かい合う。

「わざわざ暖を取ってくれてたマグマラシを戦いに戻して良いのかな?このままだと、君の方が先に倒れるよ」

「問題ない。さっきまでこいつは、俺の事を心配して気遣っていた。だが、ここから先のこいつは戦いに全ての意識を向ける。さっきまでと同じだと思わない事だ」

「…。ふう、身の程知らずもここまで来ると呆れるね。もう、これ以上会話を続けても仕方が無いし、さっさと終わらせようか」

 再びニューラが動く。
 持ち前のスピードを利用して、消えるようにその場を移動した。
 ………。

 しかし、それ以降変化は起きなかった。
 否、そう思った直後に戦局が動く。
 ニューラが、マグマラシ右側面で姿が見える程度にスピードを落とした。
 そして右手の爪を正面に構えながら突進する。





 だが、マグマラシはニューラの動きを見抜いていた。
 姿を見せたその瞬間には、その方角を振り向いていた。
 そして、ニューラ目掛けて炎を放つ。
 タイミングは、完璧だった。
 ニューラの回避がギリギリで間に合わないこの距離。
 目の前に、炎が迫っていた。






「ふっ」

 ……だが、ラムトは笑みを浮かべた。
 炎が命中するその寸前、ニューラの身体が周囲の景色に溶け込むように消えてしまった。
 しかも、ニューラに命中するはずだった炎も空振りして、彼方の方角に飛んでいった。

「!?」

「残念だったね。僕のポケモン達は皆、特性:〜ゆきがくれ〜に準じた能力を持ち合わせているのさ。単純に攻めるだけじゃ、僕には勝てないよ」

「チィッ!」

 一瞬、マサシの背後で先程の細い閃光が迸る。
 マサシはそれに気付かなかった。
 だが、その直後に背後から攻撃をされたのに気付く。
 背中から痛みが走ったことで。

「ぐっ…?」

 遂に両手両膝を地面につけてしまうマサシ。
 そこを逃さないのが、ラムト。

「終わりだね。ニューラ、止めを刺せ!」

 吹雪の中に溶け込みながら、ニューラが密かにマサシ達に迫る。
 だが…。

「マグマラシ、今だ!!」

 突如として、マグマラシが炎を放つ。
 そしてそれが、巨大な渦の形状に変化した。
 ちなみにこれは、『ほのおのうず』と呼ばれる技ではないのであしからず(謎)。
 というより、マグマラシは『ほのおのうず』を覚えません(何)。

「そんなのは何の意味も無いよ。やれ!」

 一閃。
 ニューラの爪による斬撃で、炎の竜巻は縦に真っ二つに切り裂かれた。
 だが…。

「! いない?」

 炎が消えた時、マサシとマグマラシはその場から姿を消していたのだった。










 町から少し離れた場所に位置する雑木林。
 その中の一本の木に、マサシはもたれかかっていた。
 マサシの服が一部血で滲んできていた。

「(奴のポケモン全てが、〜ゆきがくれ〜と同じ能力を持っているのか…。確かに奴の言う通り、真っ向からぶつかっても勝ち目は無い…。あの様子だと、必中技さえもあたりそうに無いな…)」

 いつまでも考え込んでいるわけにはいかない。
 マサシは既に傷を負っているし、いつこの場所が敵に発見されるのかも解らない。
 かと言って、今ここで飛び出してラムトを倒せる算段も無い。
 この状況が徐々にマサシを追い込んでいた。

「せめて、この吹雪だけでも止めば…。 ! そうだ。まだ、可能性が…」

 何かを思いついたのか、マサシは一つのモンスターボールを取り出した。






 暫く静寂な時が流れ…。



 バキボキバキッ!!


 突然周囲から木が薙ぎ倒される音が聞こえてきた。

「…!」

 咄嗟に、マサシは身を屈める。
 その直後、今迄マサシがもたれかかっていた木が倒れた。
 否、その木は切り裂かれて倒れた。

「(もう来たのか…!だけど今は…)」

 いつまでもこんな所に居たら、倒れた木の幹に押し潰されかねない。
 傷で痛む身体を引きずりながら、何とかマサシは林の外へ向かっていく。
 彼の前をマグマラシが先行して、周囲を警戒していた。

 相変わらず、敵の姿は見えない。
 そして無差別に周囲の木々を切り裂き、倒していく。
 そんな中、マサシは強引に立ち上がる。
 痛みが全身を迸るが、今はそんな事など関係ない。
 今は、この林を抜け出して敵を迎え撃つ。

 そして、走り出す。
 次々と木が倒されていく中、マサシ達は無事に林を脱出する事に成功した。
 そしてそこで…。

「やっぱり林の中に隠れてたね」

 ラムトが、待ち構えていた。
 マサシの背後からニューラが跳ぶように現れ、ラムトの正面に立つ。

「ちょこまか逃げ回るなんて真似は二度とさせないよ。もう逃がさない。今ここで、死ね」

 空気が、重くなった。
 さっきより、ラムトの発する言葉が重く感じるようになった。
 しかし、それでも…。

「行くぞ、マグマラシ!」

「粋がっても無駄さ。君は僕の攻撃を見切る事は出来ないんだからね。ニューラ、止めだ」

 ニューラが、とうとうマグマラシに止めを刺そうと向かってきた。
 対するマグマラシは、周囲に炎を纏って防御しようとするが…。

「無駄だよ!!今更その程度の炎で、ニューラの爪を防ぎきれると思わないでよ!!」

 ラムトの言う通りだった。
 マグマラシが作り出した炎の壁など全くの問題外。
 ニューラの爪が炎を突き破り、マグマラシを捉えていた。

「やっと………、捕まえたぞ」

「!?」

 ニューラは異変を察知した。
 …抜けない。
 マグマラシに突き刺した爪が、何故か抜けなくなっていた。

「『炎壁の拘束<ヒートホールド>』。今、お前のニューラの腕はマグマラシの周囲に張っている炎で絡め取った」

 実際、そんな事出来るかどうか解らないけどね(何)。
 兎に角マグマラシの捨て身に近い行動で、遂に敵のニューラを捕える事に成功した。

 そして、一瞬。
 マグマラシの放った細い橙色の光線が、ニューラを貫く。
 それと同時に腕が開放され、ニューラは吹き飛んだ。

「くっ、貴様ぁっ…!! だけどこの程度で、僕のニューラを倒せるとは思わない事だね!」

 この攻撃で完全に頭に血が上ったのだろうか。
 今迄の静寂さを思わせる彼の口ぶりとは180度反転し、怒りを体現するかのような力強い口調になっていた。
 だが、現にニューラは立ち上がった。
 腕の部分と、先程の攻撃を喰らった部分に火傷を負ってはいたが…。

「多少のダメージは受けてしまったけど、君が圧倒的に不利である事に変わりは無い」

 一瞬、マサシは空を見上げた。
 そして一言。

「それは、どうかな…」


 マサシの言葉は、単なる強がりだと思った。
 だけど、あの表情<かお>。
 ………笑っている。
 何故だ?
 この状況で、何故笑っていられる?


「ラムト、勝敗は決したようだ」

「何…を」

 と、そんな時だった。


 ズガァァァァッ!!

 突然遠くの方から、物凄い音が鳴り響いてきた。
 更に音の発生源と思われる場所から、黒煙も立ち上っていた。

「なっ、あの場所は…」

 ラムトの表情が変わる。
 そう、今煙が立ち昇っているあの場所は…。

「き、貴様…!!」

 以前、マサシがこの町に来た時とほぼ同時期に仕掛けた氷の柱が設けられていた場所。
 それが今、破壊されたのだ。

「あの氷の柱がジョウトに氷の力を集め、雪を降らせている。だったら、それを破壊すれば…」

 氷の柱が壊された事で、徐々に変化が起こり始める。
 あれだけの勢いで吹き付けていた吹雪が、徐々に止んできていた。
 雪が降っていなければ、あの能力も役に立たない。
 マサシの狙いは、正にそれだった。

「だけど、幾らニューラの姿が見えるようになったといっても、このスピードに対処する事は出来ないよ。あんな能力に頼らなくても、君程度を捻る事なんて簡単なんだよ」

 ニューラが動いた。
 左右に大きく動き、此方に狙いを定めさせず、徐々に迫ってきていた。
 このままでは、倒されるのは時間の問題。
 ………かと、思われた。

「悪いが、姿が見えている以上お前にもう勝ち目は無い。アリゲイツ、行くぞ」

 今迄孤軍奮闘していたマグマラシを一旦戻して、相棒のアリゲイツを繰り出す。
 そして両手を前に向ける。
 すると、微かにではあるがアリゲイツの身体が青白く発光し始める。

「…?」

 相手の雰囲気に、一瞬警戒の姿勢を見せるラムト。
 だが、すぐにその姿勢を解く。
 『何をするつもりか解らないけど、発動する前に潰せばいい』。
 という結論に達したが故だった。

 その一方で、アリゲイツの準備は進んでいた。
 目の前に、雨粒サイズの小さい水玉が出現した。
 だが、それは急速な勢いでどんどん巨大化していく。
 まるで、風船の如く。
 やがて、アリゲイツの体躯の何倍もあるであろう巨大な大きさにまでその姿は変化した。

「これで、終わりだ」

 ふと、マサシが呟いた。
 その直後、巨大な水玉が全く同じサイズの渦潮に形状が変化した。

「…!?」

「『ハイドロストリーム』」

 技名を口にした事で、幕は下ろされる。

 その巨大な渦潮が、『ハイドロポンプ』のように発射された。
 渦の大きさをどんどん増しつつ、ニューラに牙を剥く。

「大きい!否、広い!! まずい、これだと避けきれ…」

 ニューラの必死の足掻きすらも嘲笑うかの如く。
 何事も無く、その渦はニューラを飲み込んでいく。
 そして…。

「うわ…、うわああああああっ!!!?」

 その巨大な渦に、ラムトも巻き込まれ…。
 そして…。


 ドバァァァッ!!


 最後には、その場所でとてつもなく巨大な…。
 噴水のような水柱が立ち上った。


続く


後書き
今回から、ジョウト篇の最終戦が開始です。
その緒戦が、今回のマサシVSラムトの戦いでした。
しかし、以前負けた相手に勝たせるように書くのって、意外と難しかったです。
普通に戦って勝てないから、色々と準備をこなしていく。
そうしてやっと倒せるようになるという構想『だけ』なら、出来てたんですけどね(苦笑)。
最後には、ずっと出そうと思っていたマサシの新技も使う事が出来ました。
最終決戦は、既に目の前。後少し、このジョウト篇にお付き合い下さい。
次回、ジョウト篇第12話『集結 近付く決戦の時』。
お楽しみに。

 

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