この付近で、一瞬だけ雨が降った。
街の外れで突如発生した、巨大な水柱が原因だった。
その水柱が発生した地点で…。
「はぁっ、はぁっ…」
マサシの大技をまともに喰らい、満身創痍のラムト。
彼のポケモン、ニューラは既にダウンしていた。
「はぁっ…! この、僕が…っ!ここまで追い込まれるなんて…っ!!」
それは、屈辱以外の何者でもなかった。
『終焉の道標<エクストレーム>』のメンバーである自分が、この程度の奴を相手に追い込まれている事に。
そしてこの屈辱が、彼にとんでもない選択肢を後に選ばせる事になる。
「この、様じゃ…。もう、組織には戻れない…!」
「…なら、どうする。『終焉の道標<エクストレーム>』を抜けるのか?」
「それは、あり得ないね。戻れないとは言っても、僕は最後の最後まで組織の為だけに存在する。 …そして、今の僕が組織の為に貢献出来るのは…」
ラムトは、そこで言葉を止めた。
その瞬間、凄まじい衝撃と共にラムトから銀色のエネルギーが溢れ返った。
「!?」
咄嗟に、マサシは一歩後退する。
捨て身に近い最大級の攻撃を仕掛けてくる事を警戒しての行動だった。
だが、ラムトの狙いは全く別の方向にあった。
「君達が、折角作った『氷の大樹<ドライ・ラシル>』を半分まで破壊してくれたお陰で、ルハド様の力の蘇生に大幅な遅れが出始めてるんだ。だから…」
そのタイミングで、更に勢いが強くなる。
エネルギーの輝きで、ラムトの姿が完全に見えなくなってしまった。
「僕の持つ、全ての氷属性のエネルギーをルハド様の為に注ぎ込む」
その声は最早、話しているとは言えなかった。
その輝きの中から、響いてきているという感じだった。
「莫迦な…!全部の力をルハドに…!? そんな事をしたら、お前は…!!」
言っただろう。僕は、最後の最後まで組織の為に存在する…って。今の僕に出来るのは、ルハド様に僕自身の力の全てを捧げることなのさ。ルハド様のお力をこの目で見れずに消えてしまうのは、ちょっと名残惜しいけどね
そんな言葉を残して、そのエネルギーは飛び去る。
その後、ラムトは死んだかのように倒れ伏してしまった。
つまり…。
「勝った…」
勝利。
だが、その余韻に浸る暇は無い。
今は一刻も早く全ての氷の柱を破壊して、皆と合流しなければならなかった。
丁度そんな時。
マサシの携帯に着信が入った。
「もしもし、俺だ」
『あ、マサシ!シュンだよ』
「シュンか。どうした?」
『今、エンジュシティに居るんだ。タンバシティを出て、途中のアサギシティの近くにあった氷の柱を破壊して、今さっきこのエンジュの近くの奴も破壊したよ』
「俺も、エンジュを出てからチョウジタウン、フスベシティの近くにあった氷の柱を破壊した」
『それで、マサシは今何処?』
「ヨシノシティだ。ついさっき、この街の近くにあった奴も破壊して、『終焉の道標<エクストレーム>』のラムトを倒した」
『え…、ラムトを倒したの!? それなら都合がいい。マサシ君、急いで合流地点に向かって欲しいんだ』
「何…?」
『ミキが…。ミキが…!!』
―――ミキが、危ないんだ…。
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第12話
集結 近付く決戦の時
ヨシノシティで、ラムトとの戦いに決着が着く少し前の事だった。
マサシ達が合流する場所として決めていたコガネシティで、ミキとマニスの戦いが繰り広げられていた。
…だが、マニスの強さはミキの想像以上。
そこそこ善戦するも、結果的にマニスに追い詰められていた。
そんな状態を電話で知らされたシュンが、急いでマサシに連絡したという次第だった。
『とにかく、急いで!このままじゃ、ミキが…』
「解ってる。俺も出来るだけ急いで向かうが、位置的にお前の方が先に到着する。二人で、何とか出来るか?」
『…出来る!』
「じゃあ、頼むぞ」
そう言って、マサシは電話を切った。
マサシは、右手を上に伸ばした。
すると、何処からか彼のフライゴンがこの場所に飛来した。
「さっきはご苦労だったな。氷の柱を探すのと、破壊する役目。良く果たしてくれた」
マサシの言葉を聞いて、フライゴンは一瞬笑顔を見せた。
…だが、事態は一刻を争う。
マサシの話を聞くと、彼を乗せて飛び立つ。
向かう先はジョウト地方最大の街、コガネシティ…。
そのコガネシティで繰り広げられていた戦い。
…既に、結末は見えていた。
マニス側は、まだまだ余裕を残している印象を与えている。
それに対してミキは、もうほとんど余力が残されていないように見受けられた。
周囲に、彼女の手持ちと思われるポケモン達が、無惨にも横たわっていた。
「まあ、結果はこれだよ。お前程度じゃ、私の相手にはならない」
「…っ」
「ラムトもやられたみたいだし、さっさと残りの連中も始末しないといけないしね」
戦いながらでも、マサシがラムトを倒した事は感付いていたらしい。
否、そんな事が出来るくらい余裕があった…と言った方が正しいだろうか。
「残った氷の柱はここ、コガネシティとシロガネ山の2箇所だけ。随分やってくれたものだ…。 !」
突然、何かに気付いたようにマニスが東の方角を向いた。
「莫迦な…、シロガネ山に設置した氷の柱まで…!?」
今、この瞬間、シロガネ山に設置したという一本が破壊された。
彼女らが知る由も無かったが、それは無論、偶然的に迷い込んだナギサの功労だった。
「これでは、残る氷の柱はこの街にあるのが最後の一つに…!」
「どうやら…、少しずつ状況が好転してきているみたいね…」
傷だらけの身体で、ミキがそう呟く。
事実、氷の柱を壊し続けた事がこの戦いの流れを変えてきていた。
「だが、今更お前一人に何が出来る?私に勝てないのは事実だ」
「…!」
「あれ?ここって…」
突然、この雰囲気をぶち壊す別の少女の声が聴こえてきた。
二人が声の聴こえてきた方角を振り向くと、緑髪ポニーテールの少女・ナギサが歩いてきていた。
彼女はシロガネ山で氷の柱を破壊した後、またしても特性の『超方向音痴』が発動した(爆)。
結果、彼女はこの町に姿をみせたのだった(ぁ)。
「貴女…、ナギサ!?」
「え…? ミキさん、大丈夫ですか!?」
傷だらけのミキをみて、ナギサは即座に駆け寄った。
そして、この状況からして、彼女の側に立つマニスの仕業だという事は安易に想像できた。
戦いの継続が、不可能である事も…。
「ミキさんは、下がってて。この人は、私が戦うから!」
「! だけど、貴女の実力じゃ彼女は…」
「大丈夫。勝つ自信は、あるから」
「…」
ミキは既に戦える状態ではなくなっていた。
だからここで、バトンタッチ。
ナギサがミキに代わって、マニスと向かい合う。
「随分自信があるみたいだね。なら、その愚かさを思い知らせてあげるよ。マニューラ!」
「キュウコン、お願い!」
ナギサが選択したのは、九本の尾を持つ狐のようなポケモン、キュウコン。
先日、偶然手に入れた炎の石によって進化したポケモンだ。
「相性だけじゃ私には勝てない。その事を教えてあげるよ」
「…今の私は、昔とは違う!その事を、今証明してあげる!!」
ナギサVSマニス。
コガネシティでの戦いが、幕を開けた。
ジョウト地方の中心から少し北東に位置する街、キキョウシティ。
何故かマサシはこの街の中を駆け抜けていた。
「(フライゴンは、これまでに結構体力を消耗してる。最後の決戦の為に、少しでも体力は温存温存させておかないと…)」
ほとんどの氷の柱を破壊したとはいえ、未だこのジョウト地方には大量の氷属性のエネルギーに満ちている。
そんな中を飛べば、ドラゴンタイプであるフライゴンは一気に体力を消耗するという事を想定しての行動だった。
敵は、ルハドとその配下マニスの二人だけだと思っていた。
だが、敵は意外な戦力を投入してきた。
「…!」
キキョウシティを抜けた辺りで、マサシは足を止めた。
マサシの行く手を阻むように、大量の氷ポケモン達が立ち塞がっていた。
しかも、そのポケモン達全て意識が無く、操られている様子が伺えた。
「(『終焉の道標<エクストレーム>』に何らかの方法で操られているのか…。時間が無いって言うのに…!)」
こんな所で時間を潰すわけにはいかない。
マサシは、エレキブル・アリゲイツ・マグマラシの3匹を繰り出すと…。
「…っ! 行くぞ!!!」
氷ポケモンの大群に、一人突っ込んでいった。
一見、無謀にも思えたこの戦い。
だが、この氷ポケモン達は単にルハドが時間稼ぎ目的で編成した者。
一匹辺りのレベルはそれほど高くなかった。
マサシの繰り出したポケモン達も、各々の広範囲に攻撃出来る技を上手く使い、次々と薙ぎ倒していく。
結果、そのポケモン達を全滅させるのに然程時間は掛からなかった。
「くそ、これ以上無駄に力を使ってる余裕なんか無いのに…。これ以上、出て来るなよ…)」
これ以上の敵が出てこない事を願いつつ、マサシはコガネシティを目指して進んでいく。
その一方で、シュンはマサシより一足早くコガネシティ近郊に辿り付いていた。
自分をここまで乗せて来てくれたエアームドをボールに戻し、進んでいく。
ここにいるのは、ルハドの右腕でもある『零姫』マニス。
今、この瞬間既に姉のミキがやられてしまっているのではないかという不安を抱えながら、走る。
だが、ここでまたしても…。
「氷ポケモン…?野生のポケモン達がどうして!」
ここでも、野生の氷ポケモン達が行く手を阻んでいた。
数は先程のマサシの前に現れた集団よりも多かった。
しかも、ポケモンの集団の中にはチラホラ進化系のポケモンの姿もある。
「街に近付かせないつもりなのか、ルハド…!今更、この程度で僕を止めようだなんて…。舐めるなぁ!!!」
シュンもまた、野生ポケモン達を退けるべく、立ち向かっていった。
そして、コガネシティで繰り広げられた戦い。
この戦いは、誰もが想像すらつかない結末を迎えていた。
…そう。
『零姫』マニスの完全敗北。
このジョウト篇で成長したナギサの前に、彼女は全く歯が立たなかったのだ。
「これで、終わりね」
寧ろ、ナギサには何処か余裕さえ見えた。
マニスほどの強敵を相手に、余力を残していたのだろうか。
「強い…!ナギサ、貴女一体…」
「私、少しでもマサシ君に近付きたい、少しでも助けになりたい。そう思って、このジョウト地方を旅してたの。あるとき、偶発的にも私はポケモン達の全力を発揮する事が出来たの」
そう語るのは、第5話の時の事。
あの時のことが引き金となり、少しずつ、確実に実力をつけていく事が出来た事など。
色々とあったようだ。
「そう…。それで、あれ程までの実力を身に付けることが出来たのね」
「うん。もう、今の私は昔みたいに弱いままじゃないから」
「おーい、ナギサ!ミキ!!」
と、遠くの方から声がした。
何と、時間的にシュンより後から来ると思っていたマサシが、先に到着した。
「マサシ君! 良かった、無事だったんだ」
「ナギサも、先に来てたのか。…ん?」
マサシはふと気付く。
ナギサの後ろに倒れているマニスの存在に。
「そいつは確か、『終焉の道標<エクストレーム>』の…」
「私が倒したのよ、マサシ君」
「ナギサが!?お前がこいつを倒し…、って、ええっ!?」
マサシ、思考回路半壊(爆)。
まさかあのナギサが、『終焉の道標<エクストレーム>』のメンバーに勝利する事が、予想外だったせいだ。
「お前、あの時別れてからどれだけ腕を上げたんだ!?」
「驚いた?マサシ君を驚かせられたんだったら、私も頑張った甲斐があったわ♪」
「…成長したんだな、ナギサ」
だが、マサシはすぐに冷静さを取り戻し、ナギサの成長を認識した。
「そう言えば、シュンは何処だ?あいつ、俺より先にここに来ていると思ったんだが…」
「シュンなら、まだ見てないけど…」
腰を下ろしているミキが、マサシの問いに答えた。
そしてその回答は、マサシに疑念を抱かせた。
「待て。それはおかしいぞ。あいつ、さっき電話してきたんだが、その時あいつはエンジュシティに居るって…。その時俺はヨシノシティに居たから、あいつの方が先にここに来てると思ったんだが…」
「どう言う事?」
「解らない。シュン、一体何処に…」
「もしかしてシュン、ルハドの居る場所に向かったんじゃないかしら…」
「え!?」
「もう、氷の柱を全部破壊するのなんて待っていられなくなって、それで…」
「まずいわ!ルハドって人、物凄く強いんでしょ?そのシュンって人だけじゃ、やられちゃうよ!」
「ナギサ、悪いが一足先にシュンの元へ向かってくれ。何とか二人で、ルハドを食い止めていて欲しい」
「マサシ君はどうするの!?」
「氷の柱最後の一つを破壊してからすぐに向かう。だからそれまで…」
「解ったわ。何とかして、止めて見せるから!」
「頼むぞ」
ナギサは、コガネシティを東から抜けていく。
ジョウト地方中心部にそびえる山脈を目指して。
「マサシ君、悪いけど後の事は任せていいかしら…。私、マニスとの戦いで結構やられちゃって…。多分、最後の決戦に参戦しても足手纏いにしかならないから…」
「ああ。任せろ。ルハドは俺が…、俺達が必ず倒す!」
力強い言葉を残し、マサシも飛び出す。
それぞれ、最後の戦いに向けて動き出す。
舞台は、ジョウト地方中心・ビスラ山脈。
決戦の時は、眼前に迫っていた。
続く
後書き
今回は最終決戦直前という事で、少々容量は控えめにしました(話が通じてない)。
と言うのは言い訳で、どうしても今回のナギサVSマニスの戦いを省略したかったんです。
ナギサの成長した実力は、最終決戦で初披露という形をとりたかったのが原因です(ぇ)。
なので、こんなに短めの話に…。−−;
まあ、次回からのおおよその展開は決まっているので、充実したバトルシーンを久々に思う存分書けると思います。
では、最後に次回予告。
次回、ジョウト篇第13話『決戦−T 絶望的な差』。
お楽しみに。