あれは…、そう。
コガネシティのすぐ近くで、立ち塞がる氷ポケモン達を全部退けた直後の事だった。
全部のポケモンを倒し終えた僕の目の前に…。
ルハドが居た。
今迄、この時の為に旅を続けてきた。
それと同時に、我を失わないように頑張ってきた。
頑張ってきた、……つもりだった。
だけど………。
無意味だった。
ルハドと改めて相対した瞬間、僕の感情は爆発した。
当然、軽く一蹴されてしまったけれど…。
その後、ルハドはまるで僕を誘うかのように何処かへ向かっていく。
今考えれば、あの時この誘いに乗るのはとてつもない危険を伴う事だったのかもしれない。
だけど、今となってはもう何もかもが遅い。
ルハドに誘い出され、僕はこの場所に居る。
…ジョウト地方中心地区、ビスラ山脈。
その頂付近に作られたルハド復活の場、氷の祭壇跡。
そこは、あの時降り注いだエネルギーの影響で粉々に砕け散り、辺りに氷の破片が散らばっていた。
何故かは解らなかったけど、このタイミングで僕は冷静さを取り戻す事が出来た。
そして、冷静さを取り戻した僕は改めて、ルハドと向かい合っていた。
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第13話
決戦−T 絶望的な差
辺りを砕けた大きな氷の破片で覆われた、全てを凍て付かせる場所。
そこで冷静さを取り戻したシュンが、改めてルハドと向かい合っていた。
…決着を、付ける為に。
「ルハド…!」
「あの状態から、冷静さを取り戻したか。どうやったのかは知らんが、大した物だ」
今でも、こいつに向けて飛び掛かりたい。
そんな思いを必死に抑え込んでいる様子が伺える。
もし、今このタイミングでもう一度暴走すれば、こいつには絶対に勝てない。
…必死だった。
「お前は確かに4年前、兄ちゃんと相討ちになった。だけど、兄ちゃんだけが戻ってこないままなんて事は、理に適わない。だから、もう一度お前を倒さなければならない」
「だが、貴様にそれが出来るか?トレーナーになってからの間、ずっとスバルから相手にされない程度の実力しか持たなかった貴様に」
「っ…!」
敵は、執拗に挑発してくる。
爆発しそうな感情を噛み殺しつつ、対話を続ける。
「確かに…。僕は兄ちゃんと比べれば全然だった。だけどルハド。お前の言う実力ってのは、いつの事を言ってるんだ?」
「…?」
「もう、僕は昔みたいに弱くなんて無い。まだまだ兄ちゃんに及ばないにしても、僕はお前を必ず倒す」
「前回、この俺に全く歯が立たなかったのを忘れたか?それも、貴様一人だけで戦っていたわけでもなかっただろう」
「あの時は、やっぱり僕が暴走してしまっていたのがそもそもの原因だ。その事は認めるよ」
「…」
「だけど、今は違う。今はあの時みたいに最初から暴走する事は無い。それだけでも、お前との実力差を大分埋める事が出来る」
「…そうかな?」
「…?」
「貴様は俺に到達する事すら出来ないまま、ここで滅びる」
「…どういう意味だ」
「俺の相手は、『こいつら』を倒してからと言う事だ」
直後、ルハドの目の前に二つの光の柱が天から降臨した。
その光の中から、それぞれトドゼルガとパルシェンが現れた。
「また何処かの野性ポケモンを操って…。僕を舐めない方がいいよ」
「そう思うのなら、さっさとそいつらを倒してみる事だ。昔とは違うと言うのならな」
「…っ!!」
一瞬の出来事だった。
シュンがモンスターボールを手に取り、その中からチルタリスが飛び出した事。
そしてそのチルタリスが、ルハドが呼び寄せた2匹目掛けて炎を放った事まで。
その全てが、1秒前後の僅かな時間で起きていた。
だが…。
「…どうした。その程度か」
「なっ…?」
…無傷だった。
ルハドが呼び寄せた2匹のポケモンは、全くダメージを受けていなかった。
「そんな…!?トドゼルガは特性の〜あついしぼう〜があるから仕方がないにしても、パルシェンまで…」
「この2匹は貴様の言う通り野生のポケモン。だが、そこらをうろついている野生のポケモンと同じだと思うと…、痛い目を見るぞ」
ルハドの言う通りだった。
まず、トドゼルガが自分の口元で水属性のエネルギー球体を作り、発射する。
上空を飛ぶチルタリスは、『りゅうのはどう』を発射して相殺しようとするのだが…。
…全くの無意味だった。
チルタリスの反撃などものともせず、水色の球体がチルタリスの目の前で炸裂した。
ズドォォォッ!!
その衝撃で吹き飛ばされるが、途中で翼を大きく横に広げる事で、飛ばされる勢いを抑え込んだ。
そこで改めて、敵を見据える。
「何だ、今のパワーは…。あんな攻撃力、ジムリーダー級…。否、四天王級にも匹敵する!?」
「どうした。その程度か」
「(これが、野性ポケモンのレベルなのか…!?だとしたら、一体何処にこんな強さの野性ポケモンが生息する場所が…!)」
結論は、見えない。
ならば今は、自分達の持てる力の全てを出しつくして戦うのみ。
「チルタリス、ここからは本気だ」
いつの間にか、チルタリスはシュンのすぐ側まで戻ってきていた。
シュンの呼びかけに対して頷くと、改めて敵を睨む。
「行くぞ。チルタリス!!」
独り言のような小さい声で呟くシュン。
その時既に、彼の瞳が緑色に変化していた。
その状態でシュンはチルタリスに手を添える。
彼の掌から発した淡い黄緑色の輝きが、徐々にチルタリスの全身に伝わっていく。
その後、心なしかチルタリスからの迫力が増したような気がした。
「…特定の属性を持つポケモンに力を与える能力。スバルも当然それは使っていたが、まさか貴様まで覚醒していたとは…」
「行け、チルタリス!!!」
今度は、今までとは違って大声で叫ぶ。
それを合図に、チルタリスは天高く飛翔する。
そこから、先程と同じように炎を発射する。
だが、相手は野生のポケモン。
相手の変化など解らないような様子のまま、迎撃する。
反撃を仕掛けたのは、先程とは異なって、パルシェンだった。
左右両側の硬い殻の突起のような部分からトゲ状の光弾を無数に発射した。
そして、激突。
だが、結果は敵サイドの予想通りにはならなかった。
…そう。
チルタリスの炎がパルシェンの反撃を飲み込み、そのまま攻撃を浴びてしまったのだ。
「どうだ!」
炎は、すぐに消えた。
その中から、所々に火傷の跡を残す2匹の姿が現れた。
どうやら、多少とはいえダメージを与える事が出来たようだ。
「この程度か。スバルならば、この程度のレベルのポケモンなら、一瞬で倒したぞ」
「(ギリッ)」
何かある度にスバルの名を口に出し、執拗にシュンを挑発してくるルハド。
今にも溢れ出そうな激情を、歯を食いしばる事で何とか抑え込んだ。
落ち着きを取り戻すと、今度はオオスバメを繰り出す。
そのオオスバメもまた、ボールから出た瞬間に黄緑色の輝きに包まれた。
直後、オオスバメは姿を消すように移動する。
そのままパルシェンを、勢いだけで吹き飛ばす。
そして狙いすましていたかのように、パルシェンはトドゼルガに激突した。
そんなパルシェンの硬い殻の突進を喰らったに等しいトドゼルガは、かなりのダメージを受けていた。
にも関わらず、トドゼルガは立ち上がる。
「本当に、こいつらは何者なんだ…!ただの野性ポケモンにしては、強すぎる…!」
「…そうだな。こいつらの正体位は教えておくか。それを知ったところで、どうにも出来ないだろうがな」
「…?」
「この2匹は、ヨハロに生息する野生ポケモンだ」
「ヨハロ…?」
「伝説の地…と言った方が、馴染みが深いか?」
「…! 伝説の地、確か、ポケモンマスターが決まると言う世界最高峰の大会、マスターリーグが開催される地!」
「その通り。そんな地方に住んでいるからこそ、レベルは高い。その中でも、組織の本部周辺に生息するポケモンは特にレベルが高い。この2匹はそこに生息していた」
「そう…だったのか。だったら…」
シュンは、そこで言葉を止める。
その瞬間…。
ズドッズドッ!!
2匹が、吹き飛んでいた。
「!?」
「手加減できる相手じゃないってわけだ。つまり、全力で戦って速攻で決着をつけるのが一番消耗を少なくさせる方法だよ」
「単純な考えだ。最低でも、この2匹はジムリーダー級の連中が使うポケモンのレベルなど軽く超えている。そう簡単に倒せるとは思わない事だ」
案の定、その2匹は立ち上がる。
だが、多少は攻撃が効き始めているのか、呼吸が僅かに乱れていた。
だが、そんな事は関係無いと言う事を思い知らされる。
先程と同じように、パルシェンがトゲ状の光弾を無数に発射してきた。
最初の時は良く解らなかったが、この光弾、凄まじいスピードを誇っている。
この距離では、相殺する技を繰り出そうにも間に合わない。
「くっ!」
ズドドドドッ!!
その光弾が刺さるように周囲の障害物を破壊していく。
シュンとポケモン達は必死に動き回って攻撃を避け続けていく。
だが、そんなタイミングでトドゼルガが牙を剥く。
巨大な波を発生させ、その勢いを利用して突っ込んできた。
「くっ…!」
目の前からは大波の壁。
そして後ろからはパルシェンの連射する光弾。
…挟まれた。
「チルタリス!!」
今、最も自分の近くに居たチルタリスを呼び寄せ、その背に乗る。
チルタリスがそれを確認して飛翔すると、2匹が繰り出した互いの攻撃を打ち消しあった。
だが、空へ逃げたからといって安心は出来ない。
執拗にパルシェンが追撃を仕掛けてくる。
だが、距離は開いている。
地上でギリギリ回避していた時とは違い、若干時間的な余裕が出来ていた。
…それでも、一瞬でも気を抜けば直撃を喰らって墜落は確実。
今は、逃げ回りつつ隙を伺うしか手は無かった。
しかし、敵はそれすらも許そうとしなかった。
パルシェンの攻撃が、変わった。
先程まで連射していたトゲ状の光弾。
それを一点に集中させて発射してきた。
あれを喰らったら終わる。
それを瞬時に悟る事が出来るほど、敵の攻撃は巨大だった。
「チルタリス!」
だが、ここで退くわけにもいかない。
チルタリスが懇親の炎を発射して、向かってくる光弾を打ち消した。
その後、シュンはエアームドを繰り出す。
「エアームド、辛い役目になるけど…頼むよ」
エアームドは頷いた。
シュンの意図を、理解しているようだった。
「よし…、行くよ!」
シュンが掛け声を上げると、彼を乗せたチルタリスと、そのすぐ前をエアームドが飛ぶ形で降下する。
それを見ると、再びパルシェンがトゲ状の光弾を連射してくる。
が、それは全てエアームドが受け止めている。
鋼属性を持つエアームドだからこそ、耐えることが出来た。
…だが、それも長くは持たない。
徐々にエアームドが苦しそうになってきているのを、シュンは見抜いていた。
「ここまで来れば大丈夫だ。エアームド、こっちへ!」
シュンはチルタリスの背から飛び出すと、エアームドの方に飛び移った。
シュンを下ろしたチルタリスは、そのまま炎にも似た高密度エネルギーを全身に纏う。
そしてそのまま、パルシェンに目掛けて突っ込んでいく。
それを阻止しようと必死に光弾を発射して応戦するのだが、チルタリスの周囲を覆うエネルギーに掻き消されている。
そして…。
ドゴォォォンッ!!
チルタリスがパルシェンに激突した瞬間、大爆発。
最大の一撃、『エクストラブースト』が炸裂した瞬間だった。
だが…。
「!」
…倒れなかった。
確かに大きなダメージを与える事は出来た。
それでも、パルシェンの体力全てを奪う事が出来なかった。
あの硬い殻が、邪魔になっていた。
「ふっ」
だが、シュンは余裕の表情。
まるで、何かまだ策があるかのような…。
「チルタリス、今だ!」
現在、チルタリスとパルシェンは組み合っている状態。
そんな姿勢で、チルタリスがパルシェンの殻の内側に炎を発射したのだ。
防御力の脆い殻の内側に攻撃を喰らってしまい、遂にパルシェンを撃破した。
「はぁっ、はぁ…。やっと、1匹だ…」
パルシェンを倒すだけで、エアームドは相当なダメージを受けてしまった。
チルタリスも最大の一撃を放ったせいで、随分と体力が低下していた。
「パルシェンを倒すだけで、力を使いすぎた…。残りはトドゼルガだけど、あのパルシェンと同じ位のレベルだとすると…。少し、まずい…」
そんな事を考えているうちに、トドゼルガが動く。
氷の地面と言う特長を生かし、スケートのように滑りながら此方に向かってきている。
シュンは再びエアームドと共に空へ逃れる。
だが、逃げ道を塞ぐようにトドゼルガが冷気の光線を発射する。
下から飛んでくる攻撃を次々と回避するエアームドだが、何しろ体力が限界に近い。
少しずつ、トドゼルガの攻撃が掠り始めていた。
その証拠にエアームドの左翼が端から少しずつ凍り始めていた。
「エアームド、もう少し頑張って!」
だが、シュンの言葉に反して、エアームドは急に上昇を止めた。
不思議に思って、シュンも上空を見上げると…。
「…なっ!?」
いつの間にか上空に巨大な氷の塊が完成していて、シュン達目掛けて落下し始めていた。
「(まさか、さっき無闇やたらと『れいとうビーム』を連射してるように見せかけて、本命はこっちだったのか!?)」
気付いた所で、既に遅い。
落下する氷の塊の巨大さに巻き込まれ、エアームドは墜落していく。
…そして。
ズゥゥゥンッ…!!
その氷の塊は、地面に激突した瞬間粉々に砕け散った。
「うっ、ぐぅっ…」
そんな攻撃を、シュンはエアームドと共に喰らったのだから一溜りも無かった。
エアームドは既に倒れ、シュン自身も身体を動かせなくなっていた。
無惨だった。
シュンは地面に這いつくばり、自分のポケモン達が次々とやられていく様をただ見ているだけしか出来なかった。
「(クソッ…。畜生っ!!何の為に…。何の為に今日まで頑張ってきたんだ…!!これじゃあ…)」
「やはり、貴様はスバルには遠く及ばなかったようだな」
倒れているシュンを目指して、ルハドはゆっくり歩み寄っていく。
―――このままあいつにやられるのを、黙って待っているしかないのか…。
シュンがそんな事を心の中で呟いていた。
だが、不意にルハドが足を止める。
「……?」
ルハドは、全く見当違いの方向に視線を向けていた。
その視線の先から、凄まじい轟音と共に強烈な炎が放たれてきた。
それをトドゼルガが防御しようとするのだが…。
ズドォォォォンッ!!
…無理だった。
特性の〜あついしぼう〜の炎攻撃ダメージ軽減を持ってしても、耐えられなかった。
それだけの攻撃が、放たれたのだ。
ルハドの視線の先に居る、一匹のキュウコンによって。
そして、そのキュウコンの横には、緑髪ポニーテールの少女が並んで立っていた…。
続く
後書き
はい、と言う訳で始まりました。ジョウト篇最終決戦!
しかし1話目にしてシュンは戦闘不能になってしまいました。
まあ、これは兼ねてより構想済みな展開だったんですが(待て)。
次回は遂に成長したナギサの実力を初披露です。
ルハドを相手に、何処まで戦えることやら…。
次回、ジョウト篇第14話『決戦−U 成長した仲間』。
お楽しみに。