シュンが苦戦していた、ルハドが呼び寄せたトドゼルガ。
それを、たったの一撃で倒してしまった。
…信じ難い光景だった。
シュンも、そしてルハドも。
トドゼルガを倒したキュウコンと、その主たる少女はすぐさまシュンの元に駆け寄った。
「き、君は…?」
「私はナギサ。マサシ君に頼まれて、先にここへ来たの」
良く考えれば、この二人は今回が初対面。
なので、ところどころ会話の噛み合わない所もあった。
だが、最終的に双方がマサシの知り合いだと言う事で納得した(ぇ)。
「シュン君は、そこで休んでて。マサシ君が来るまで、何とか頑張ってみるから」
「無理、だよ…。あいつはまだ、自分のポケモンを使っていないんだ…。奴自身がどれだけ強いかなんて、想像がつかない…」
「大丈夫。私も、そんなに弱くないから」
「…」
説得した所でこの少女は、決して戦うことを止めようとはしない。
そう判断したのか、シュンはそこで会話を止めた。
改めて、ナギサとルハドが対峙する。
「俺への第1の壁を容易く乗り越えるか。大したものだ。だが、先程のは単なる不意打ちによる偶然の産物に過ぎない。それを、教えてやろう」
そういうと、再びルハドの目の前に天から一つの光が降臨した。
その中から現れたのは、ジュゴン。
「私も…、教えてあげる。さっきのは、れっきとした私自身の実力だったと言う事を」
そう言うと、彼女はキュウコンと一緒に飛び出した。
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第14話
決戦−U 成長した仲間
相性だけで言えば、ナギサの不利は明確だった。
だが、このレベルの戦いともなるとそれすらも覆しかねない。
故に、どんな結末が待ち受けているのかなど、誰にも予測は出来なかった。
最初に攻撃を仕掛けたのは、ナギサ。
キュウコンの9つの尾の先端全てに炎を灯し、それを口から発射した炎と交えて攻撃する。
それだけで、周囲に凄まじい衝撃が拡散した。
「うわっ…!」
氷の壁にもたれかかる形で座っていたシュンは、その衝撃を防ぐ為に腕で顔を覆っていた。
そんな凄まじい攻撃を、ジュゴンは頭の角の先から発射した複数色に輝く光線で容易く打ち消した。
その瞬間、既にキュウコンは次の攻撃を仕掛けていた。
今度は、口から発射した炎が渦を巻きながら飛んできている。
その炎に飲み込まれ、ジュゴンは動きが困難になった。
…だが、水を纏って突進する技『アクアジェット』を使い、強引な脱出を図った。
「キュウコン、もう一回お願い!」
空中に飛び出したジュゴン目掛けて、再び炎を発射する。
一直線に飛ぶ、単純な炎の一閃。
だが、この攻撃もまた先程とは違っていた。
………。
防ぎ切れなかった。
キュウコンのパワーが、先程より格段に上がっていた。
それを警戒して、ジュゴンは防戦の姿勢を見せる。
そこに、大の字に形を変えたキュウコンの炎が襲い掛かる。
ドォォォォンッ…!!
その場所で巨大な火柱が立ち上ると同時に、ジュゴンが吹き飛ぶ。
だが、吹き飛ばされながらも小さな氷の塊を、数え切れないくらいの量で発射してきた。
だが、キュウコンは動じない。
最初の時と同じようにそれぞれの尾の先端に炎を灯すと…。
9つの火炎弾で、敵の氷の塊を全て打ち消してしまった。
「す、凄い…」
そんな光景を目の当たりにしたシュンの口から、そんな言葉が零れた。
確かに、この光景は凄い。
自分があれだけ苦戦を強いられたのと同格のレベルのポケモンを相手に、一歩も引いていなかったのだから。
「キュウコン、これで決めて!」
キュウコンが力を貯め始める。
それを終えると、今迄で最大の衝撃波と共に巨大な熱の塊が発射された。
炎系最強レベルの攻撃技、『オーバーヒート』だった。
そんな攻撃に、ジュゴンは吹き飛ばされる。
あまりに呆気なく、ジュゴンは気絶する。
その様子を見たルハドの表情が、一瞬変化した。
「あのポケモン達を、こうも簡単に退けるとは…。大した物だ」
その言葉の後、ルハドが歩き始める。
途中、『だが…』という言葉を最初に、再び喋り始める。
「今迄戦っていたのは、全て野生のポケモン。この俺の手持ちポケモンではない」
ルハドの言おうとしている事が、ナギサには理解できた。
これから自分が戦うであろうルハドのポケモン。
その強さは、今自分が倒したのとは比較にならない強さを秘めていると言う事が。
「ここからが、本番だ」
…ひしひしと伝わってくる。
ルハドの発する圧倒的な威圧感。
それに気圧されそうになるが、彼女は退かない。
「最も、俺の手持ちは1匹だけだがな」
「え…?」
「貴様達とは根本的に違う闘い方を、見せてやろう」
ルハドがそう言い放った瞬間、ユキワラシがその肩に乗る。
それを確認すると、ルハドは掌を正面に向ける。
するとそこから、無数の氷柱がロケットのような勢いで飛んできた。
「!!」
かわした。
目標を見失ったその氷柱は地面にぶつかる。
ズガガガガッ!!
その一撃一撃が、確実に地面を粉砕していた。
それだけで、今の攻撃のパワーを物語っていた。
「ニョロトノ!!」
相手の攻撃力が凄まじい事を悟ると、ナギサは次のポケモンを繰り出す。
全体的に緑色の体色が目立つポケモン、ニョロトノ。
そのニョロトノが、ボールから出た瞬間、自分の腹を太鼓のように叩き始めた。
自分の体力を犠牲にして、攻撃力を極限にまで引き上げる技『はらだいこ』。
こうでもしなければ、あのパワーに太刀打ちできないと考えていた。
…だが、このニョロトノの『はらだいこ』は、普通とは少し異なっていた。
『はらだいこ』の動作を終えると、攻撃に移る。
ルハド目掛けて、一発の巨大な水弾を発射した。
その水弾に、ルハドは右手の掌を向ける。
受け止めるつもりのようだ。
「愚かな。『はらだいこ』で上がる攻撃力は、打撃攻撃に対してのみ。そして、この技は特殊攻撃。初歩的なミスだ」
そんな事を喋っている間に、水弾がルハドの掌と激突する。
そのとき、ルハドは一つの違和感を覚える。
「何だ…、この威力。普通の『ハイドロポンプ』にしては、パワーが強い…!?」
「私のニョロトノの『はらだいこ』は、普通の同じ技より物理攻撃の威力を上げる事は出来ないの。だけどその代わり、その分特殊攻撃の威力も上げることが出来るのよ」
「くっ…」
必死で抑え込もうとするのだが、何分この攻撃が強い。
その威力に押されて、ルハドの腕が徐々にVの字型に曲がるまでに押され始めていた。
だが、これで攻撃が通用するほど、甘くは無かった。
「はぁっ!」
ルハドが掌に力を込めると、一瞬で水弾が凍りつく。
逆にそれを、ナギサ目掛けて打ち返してきた。
ドガッ!!
だが、その氷の塊をニョロトノが粉砕する。
現状では、ナギサは一歩も引けを取っていなかった。
「凄いよ、ナギサ…。ルハドを相手に、全く引けを取ってない…」
戦いを観戦する立場となったシュンの目から見ても、現状は互角である事ははっきりしていた。
だが、そんな調子がいつまでも続くはずが無かった。
突如、ルハドの足元から白銀色の光が溢れ出す。
その光は徐々に拡大していき、この場所全体を覆うほどに拡大した。
そして、一瞬の閃光が迸った。
「…っ。 …?」
だが、何も変化が無い。
しかし、さっきとは『何か』が違う。
ナギサはより一層、警戒心を強めていた。
「……」
警戒心を強める中、不意に『ピシッ』という音が耳に入った。
その音に即座に反応して、ナギサは辺りを見回す。
だが、何処にも音源らしき跡は見当たらない。
不思議に思っていた、その直後!
ガシャァァァッ!!
「!?」
突然、ナギサの足元が崩壊した。
先程のルハドから発せられた発光で、辺り一帯全てを氷に変えられていたのだ。
そしてその出来上がった氷の中で、ナギサの足元に当たる部分を崩壊させたのだ。
「…ッ!」
そんな様を見ていたシュンは、助けに動こうとした。
だけど、先程ルハドにやられた傷が痛んで動けない。
自分のポケモン達も全て倒されていて、助けに行かせることも出来なかった。
だが、ナギサは戻ってきた。
ずっと横に居たポケモン、キュウコンが彼女を連れて、崩壊する氷を飛び移りながらこの場所まで上ってきたようだ。
「びっくりした…。あんな事まで出来るなんて…」
しかし、ナギサは動こうとしない。
今の現象がもう一度起こる事を警戒していている。
だが、その警戒はすぐに解く事になる。
「心配するな。今のは相手の虚を衝くためだけのもの。警戒をされていては、そう何度も使えないからな」
信用は出来ない。
だけどとりあえず、ナギサは先程の攻撃に対する警戒を解く。
つか、ちゃっかり信用してるじゃん!(爆)
「これはどうだ」
いつの間にか、ナギサの周囲で氷柱が宙に浮いていた。
そしてその全ての氷柱の先端が、ナギサの方を向いている。
ナギサが考えるよりも前に、氷柱がナギサ目掛けて突進する。
全方位360度全ての方角から、飛来しているため逃げ場が無い。
「キュウコン!!」
咄嗟に、キュウコンが9本の尾の先端から火球を発射。
それで前方の氷柱を溶かすと、そこから一気に突破して攻撃を回避。
「危なかったぁ…」
回避に成功して、ナギサは安堵の表情を見せた。
その直後!
ドガァァァァッ!!
ルハドの背後の氷の地面が、粉砕した。
「!?」
その場所からナギサのニョロトノが姿を現し、『ハイドロポンプ』を放つ。
突然の背後からの攻撃で、ルハドは一瞬反応が遅れた。
先程とは異なり、今回は振り返りながらの防御。
巨大な水弾が、徐々にルハドの身体を押していく。
「キュウコン、今よ!」
水弾を防いでいるルハドの背後から、ナギサの声が聴こえた。
背後から、キュウコンの放った特大の炎が襲いかかる。
結果、ニョロトノとキュウコン。
この2匹からの挟み撃ち攻撃を喰らう事になり…。
ズドォォォォンッ!!
その強烈な二つの攻撃、両方の直撃を喰らった。
だが…。
やはり、ダメージは与えられない。
攻撃を受けたのが信じられないほどに、ルハドの身体は無傷だった。
「成る程。さっき、足場を崩した時か」
「(見抜かれてる…!?)」
そう、先程ルハドによって足元を崩壊させられた時の事だった。
キュウコンに助けられて戻る途中、ニョロトノを密かに回り込むように指示を出していた。
だが、相手の虚を衝く事には成功したが、大した結果を出す事は出来なかった。
「やっぱり、普通の攻撃じゃ通用しないみたい…。バラバラの攻撃じゃ、駄目。それなら…」
ナギサの意図を理解したのか、ニョロトノとキュウコンが横に並ぶ。
そして彼女が指示を出すと、2匹はそれぞれ炎と水弾を発射。
異なる2つの属性が混ざり合った攻撃が、ルハドに迫る!
「…」
だが、直後に起こった現象は信じられないものだった。
2匹が繰り出した攻撃が、ルハドの手によって一瞬で凍り付いてしまった。
その直後、いつの間にか距離を詰めていたルハドがこの2匹を蹴り飛ばす。
バキッ! ドガッ!!
「!?」
突然の攻撃をまともに喰らった2匹だが、すぐに姿勢を立て直して着地する。
だが、突如として地面から氷柱が次々と生え始める。
2匹はそれらを次々と後退しながらかわしていく。
しかし、それは…。
「大分、離されちゃった…」
分断された。
キュウコンとニョロトノも、何とかしてナギサの元に戻ろうとするのだが…。
そんな余裕はとても無かった。
次から次へと生えてくる氷柱を避け続けるので精一杯。
一瞬でも気を抜けば、直撃を喰らってしまいかねない。
それだけ敵の攻撃は激しかった。
そんな中、ナギサは一個のモンスターボールを空中に放った。
そのボールが開いた場所は、位置的にキュウコンが居る場所の少し手前の上空。
ボールから現れたのは、少々巨大な体躯のポケモン。
そのポケモン、ラプラスが空中からその巨体と体重を十分に活かした落下攻撃を繰り出す。
ズゥゥゥンッ!!
落下による衝撃は凄まじく、ルハドさえも一瞬バランスを崩すほどだった。
それにより、攻撃は止んだ。
だが、影響はそれだけにとどまらず、今迄発生し続けていた氷柱。
その全てを一撃で破壊してしまった。
この隙に、離されてしまった2匹を呼び戻す。
これで再び、ナギサの元にポケモン達が勢揃いした。
「はぁ、はぁ…」
ナギサも、大分体力が低下してきていた。
これだけ寒い中で、戦いが繰り広げられている。
疲れてこないほうが、おかしかった。
ナギサのポケモン達は、まだ体力的には余裕を見せている。
だが、ルハドとの戦力差はあまりにも大きい。
「…っ」
体力が相当使っている為、ナギサは近くの氷の壁にもたれかかるように座り込む。
その間にも、ポケモン達は果敢に挑んでいく。
だが、ルハドの身体能力の前に、一方的にやられていく。
苦し紛れに、キュウコンが渦を巻く軌道の炎を発射してルハドを飲み込むが…。
その炎の内側から、白銀の閃光で簡単に突き破られてしまった。
当然、火傷の跡など全く見当たらない。
そんな中、突如ラプラスが綺麗な声で歌い始める。
眠気を誘う作用のある歌声だった。
「うっ…」
流石に、押し寄せてくる眠気には抗えなかった様子。
ルハドが片膝を地面に付く。
ここに来て、初めてルハドに大きな隙を作り出す事が出来た。
「キュウコン、今よ!思いっきり、やっちゃって!!」
ドォォォォンッッ!!!
相変わらずの、炎を発射の際の衝撃。
それだけ勢いとパワーが強いと言う証拠だった。
そのパワーだけで見るなら、先程の『オーバーヒート』をも軽く上回っていた。
強大な炎の塊は、遂にルハドを吹き飛ばす。
「ぐっ、うおあああああああっっ!!」
ルハドを呑み込んだ炎はそのまま、近くにある大きな氷の塊に激突して爆発。
あれだけの大技を繰り出した影響だろうか。
キュウコンの体力が、大幅に減っていた。
「だけど、これで…」
だが、その直後。
一瞬…。
そう、ほんの一瞬だけだったが…。
ゴォォッ!
不可思議な音が響くと同時に、視界がほんの一瞬だけ真っ暗になった。
その直後、ナギサは全身に悪寒が走る。
「何…?この、悪寒…」
心当たりはある。
…ルハド。
今さっき吹き飛ばした方角に目を配ると、真っ黒な霧状のエネルギーのような物を立ち上らせながら、ルハドが起き上がる。
それを見た瞬間、ナギサの額から拭いきれないほどの冷や汗が流れ始める。
「何………、あれ!?」
『魔』。
ルハドが、『終焉の道標<エクストレーム>』の証とも言うべき力を呼び覚ました瞬間だった。
その力を初めて目の当たりにするナギサは、一瞬後ずさりした。
「恐い…。何なの、あれ…」
全身が震える。
その震えを何とか抑えつつ、ルハドの方に視線を向ける。
否、ルハドではなく、ルハドが発する真っ黒いエネルギーを。
「これが『魔』属性だ。最早貴様如きの攻撃は、俺には届かん」
「はぁっ、はぁ…」
既に、体力的に限界が近いナギサ。
この状況で、敵が本領を発揮しようとしている。
形勢が不利なのは、誰の目から見ても明らかだった。
「終わりだ」
そう呟くルハドの手元に、周囲の氷から細かい白銀のエネルギーが集まり始める。
やがてそれは、掌を中心に腕の部分までも覆うような白銀色エネルギーの球体となった。
「!!」
あれは、まずい。
今迄とはエネルギー密度の桁が違う。
直撃は勿論、掠るだけでも危ない。
そう判断して動こうとするが、既に遅かった。
ルハドは既に、ナギサ目掛けて『それ』を解き放っていた。
「…ナギサぁ!!」
ここでようやく、シュンの身体が動く。
咄嗟にナギサの所へ駆け出すが…。
どう考えても、タイミングは遅すぎていた。
続く
後書き
最終決戦2話目でした。
やっぱりここで終わらないとなると、流石に長いと感じ始めてくる人も出てくるでしょうね(苦笑)。
ですが、中盤戦は次回からです。つまり、もうちょっと長くなるということです。
というより、既に決着への話数は決まってます。 が、それは敢えて言いません。
読者の方の楽しみを奪うような事はしたくないので。
次回、ジョウト篇第15話『決戦−V マサシ&ナギサVSルハド』。
お楽しみに。