ルハドの放った攻撃は、ナギサの眼前に迫っている。
彼女のポケモン達も、必死に阻止しようと動き出すが、間に合わない…!
ナギサも、咄嗟に顔を腕で覆った。
………。
だが、何とも無い。
恐る恐る腕を目の周辺から退かせると…。
彼女の目の前に、ボロボロの傷を負ったピジョットが居た。
そのピジョットが繰り出した風の刃で、ルハドのあの攻撃を切り裂いたようだ。
そして、そのピジョットの主とは…。
「シュン君!?」
「はぁ、はぁっ…。やっぱり、諦めずに頑張ってみるものだね…。本当にギリギリだった…」
ボロボロの身体で必死に顔を持ち上げ、笑みを浮かべた。
確かに、タイミングとしてはギリギリだった。
そして…。
最後の役目を終えたピジョットもまた、地面に倒れ伏す。
「シュン君、ありがとう…。助かったわ」
自分を助けてくれたシュンに礼の言葉を述べると、ルハドの方を振り向く。
だが、相変わらずルハドから溢れ出ている魔属性のエネルギーは健在。
形勢は、ナギサが不利である事に変わりは無かった。
だが、それでも…。
「…ッ! 行くわよ、皆…」
ナギサが其処まで言った所で、言葉を止めた。
急に、自分の立つ場所だけが暗くなった。
不思議に思って、上空を見上げると…。
一匹の、大きなポケモンが飛んでいた。
そしてそのポケモンは、竜巻にも似た衝撃波をルハド目掛けて発射する。
確かにそれは命中し、付近を粉々にした。
だが、ルハド自身は何とも無い。
全く効いていなかった。
「あのフライゴン…。まさか!」
ナギサ達が居る場所の上空を飛んでいたポケモン、フライゴン。
そのフライゴンに、ナギサは見覚えがあった。
何かに気付いたかのように、周囲を見回し始める。
その事はルハドも気付いていたようで、顔を俯ける。
「ふん。次から次へと…」
ルハドは、自分から見て左斜め前方の氷の壁を破壊した。
ナギサもその方角に視線を向けると…。
「! ………マサシ君」
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第15話
決戦−V マサシ&ナギサVSルハド
ルハドが破壊した氷の壁の向こうから、茶色い髪の毛の少年が歩み寄ってきていた。
その傍らには、マグマラシとアリゲイツが共に歩んでいる。
少年の姿を目にした瞬間、ナギサの表情に明るさが戻った。
希望が見えてきたと言う表情。
そしてシュンもまた、若干の安堵を見せていた。
これなら大丈夫だと、そう告げるような顔だった。
「マサシ君!」
ナギサは、少年・マサシの元に駆け寄ろうとする。
だがその前に、マサシはマグマラシに指示を出す。
ルハド目掛けて、自分の身体の何倍もの大きさを誇る炎を発射した。
それを今迄と同様に掌で防ごうとしたのだが…。
「…?」
確証など無かった。
だが、何となく違和感を感じた。
あの攻撃を喰らってはまずい…と。
ルハドは、向かってくる炎を横に跳躍してかわす。
かわしながら、マサシ目掛けて空中で精製した氷柱を飛ばしてくる。
「アリゲイツ!」
だが、それもマサシには通じない。
アリゲイツが、向かってくる氷柱を全て爪で切り裂いてしまった。
その隙に、マサシは二人の側に駆け寄る。
「マサシ君…」
「二人とも、結構苦戦してるみたいだな」
「僕はもう、戦えるような状態じゃないけどね…。あれだけ意気込んでたのに…。情けないよ…」
「…。ナギサ、お前はまだ戦えるか?」
「え?うん、まだ大丈夫だけど…」
「なら、しばらく休んで体力を回復してくれ。俺が代わる」
「え?マサシ君、私はまだ…」
「いいから、やらせてくれ。少し、気になる事がある」
「え…?」
何処か、マサシの雰囲気がいつもと違った。
そんなマサシの言葉に従って、ナギサは引き下がる。
視線を鋭くして、マサシはルハドと対峙する。
「…」
一方で、ルハドも先程の攻撃の違和感に対して疑問を抱いていた。
何故、あの瞬間あのような直感に近い判断をしたのか。
理解は出来ていなかったし、確証も無い。
ただ、『危ない』と思っただけだった。
だが、それは杞憂。
魔属性を以ってすれば、この程度の敵を倒す事は容易い。
ルハドは、魔属性を含んだ氷柱を作り出す。
その証拠に、その氷柱は今までとは異なり、若干紫色を帯びていた。
マサシもそれは見抜いていた。
「(あれは…、氷に魔属性を混合させたのか。だとしたら…)」
ルハドが仕掛ける前に、マサシが攻撃する。
マグマラシが先程と同等の大きさの炎を発射。
だが、その氷の氷柱に炎が触れた瞬間真っ黒に染まった。
その直後、跡形も無く消え去ってしまう。
それを見たマサシは、即座に横へ跳ぶ。
氷柱はそのまま、彼方の方向へ飛んでいった。
「マグマラシ、もう一度だ!」
懲りずにマサシは攻撃を続ける。
だが、やはりルハドに届く前に炎が黒に染まり、消え去ってしまう。
しかし、今回は黒く染まるのに若干時間が掛かった。
「…やっぱり」
「マサシ君…?」
「ここに近付いてからと言うもの、妙に力強さを感じていた。それに…」
マサシは、リュックの中から一つの道具を取り出した。
銀色の小さい真珠のような『珠』。
天属性の道具、『天紋<ファルマ>』だった。
「こいつが、最近微弱だが輝いている。そしてそれは、徐々にその輝きが強くなってきているんだ」
「…じゃあ、勝てるの?」
「前回、あれ程力の差を見せ付けられたって言うのに…。不思議と、負ける感じはしない」
「私も、出来るだけ頑張るわ」
「…?」
マサシが不思議そうな表情をしている間に、キュウコンが炎を放つ。
炎を発射する際、凄まじい轟音と衝撃が放たれ、マサシは一瞬息を呑んだ。
「っ!?」
だが、その攻撃はルハドの手によって簡単にかき消される。
しかしマサシは、ナギサのキュウコンのパワーの方に驚いていた。
その間にキュウコンは『でんこうせっか』を発動。
そのスピードでルハドの真上に跳躍すると…。
そこから、懇親の炎を発射する。
ドォンッ!!!
相変わらずの、発射の際の衝撃。
良く見ると、その衝撃を上手く使って発射の際の威力を上昇させているようにも見えた。
そこにマグマラシが発射した炎も合わさり、威力は爆発的に増大した。
「……。 …!」
気のせいではない。
ルハドは、そう確信する。
マグマラシ…、否、マサシのポケモンが繰り出す攻撃に少しずつ天属性の力が上乗せされている。
それに加えて相手の二人の同時攻撃。
…これを喰らうのは、少しまずい。
ルハドは後ろに軽く跳躍し、攻撃を回避。
直後、マサシの上空から巨大な氷の塊が落下してきた。
「!?」
だが、一瞬で冷静さを取り戻す。
マサシよりも少し早くフライゴンがそれに気付いていた。
その氷の塊を、フライゴンが破壊する光景が目に入った為だった。
粉々にされた氷の破片が降り注ぐ。
その中の一つが、マサシの脳天直撃(爆)。
「ぐふぅっ!?」
マサシ、ダウン(滅)。
それに追い討ちをかけるように、ぶっ倒れたマサシの上に次々と氷の破片が降り注ぐ(ぁ)。
戦いに参戦して早々、マサシは戦闘不能状態に…。
「誰が、倒れるかぁ!!」
…あ、起きた(爆)。
と言うか、最終決戦で何でこんなギャグみたいな展開に…(汗)。
とか、こんな下らない展開の間に、ルハドは右手に氷の属性エネルギーを集束。
そしてそこから、超高速の光線を無数に発射。
マサシも、咄嗟に横へ転げ跳ぶように回避する。
だが、ルハドの攻撃は執拗にマサシを狙い続ける。
回避しきれないと判断して、マグマラシに炎の壁を発生させた。
それに阻まれて、ルハドの光線は掻き消された。
「…またか」
今の攻撃にも当然、『魔』の属性を混ぜ込んだ。
普通の炎ならば、容易に打ち消す事が出来たはず。
にも関わらず、この男のポケモンが繰り出す技だけは、何故か『魔』属性が効き難い。
だが…。
「ならば、これはどうだ?」
自分の『魔』が効き難い事を判断すると、今度は2発の光線を発射。
しかしそれは、マサシを狙っていない。
「…!!」
2発。
マサシは、直感的に気付く。
後ろに下がっている、ナギサ達を狙っているのではないか?
マサシは慌てて二人の所へ駆け寄ろうとするが…。
駆け寄ろうとした瞬間、マサシの左右両側から先程の光線が飛んできた。
「なっ…!?」
マグマラシだけじゃ、両方は防ぎきれない。
即座にアリゲイツを側に呼び寄せて、2匹で攻撃を迎え撃つ。
しかし意外に攻撃力は低く、容易に相殺することが出来た。
「遠距離攻撃ばっかり仕掛けてくるな…。お陰で上手く近寄れない」
―――いや、仮に接近できたとしても…。
―――前回の戦いのときにも見た、足元から生えてくる氷柱。
―――あれがあるせいで、迂闊に近寄れない…。
だが、何かを決意したのかフローゼルを繰り出す。
そして水を纏って突進する技、『アクアジェット』を発動。
しかしルハドには向かっていかず、遥か上空目掛けて飛んでいった。
それからしばらくして…。
ルハドの真上に位置する上空から、フローゼルが攻撃を仕掛けてきていた。
フローゼル最大の攻撃技、『ハイドロインパクト』。
それを繰り出し、落下してきていた。
そしてそのフローゼルに攻撃をされないように、地上でマグマラシとアリゲイツが妨害する。
流石に両方に気を配る余裕は無いらしく、地上の2匹の相手だけで手一杯のようだった。
…だが、ここでマサシの予想外の攻撃が放たれる。
今迄、ずっとルハドの肩に乗っかっているだけだったユキワラシが、動いた。
上空から向かってくるフローゼル目掛けて、『ふぶき』を放つ。
しかもそのパワーは、進化系のポケモン達と比べても全く見劣りしない。
否、下手すればそれ以上のパワーかもしれない。
…だが、今更フローゼルの攻撃を止める事も出来ない。
ルハドの攻撃の対処をアリゲイツに任せ、マグマラシはユキワラシの攻撃を全力で阻止しに飛び出す。
大きくジャンプして、全力の炎を発射する。
しかしそれでも攻撃を打ち消す事は出来ず、僅かに威力を弱めただけだった。
だが、マグマラシは諦めない。
自分自身の限界を超えるかのような、先程の攻撃を更に上回る威力の炎。
これ程の攻撃をぶつけて、ようやくユキワラシの攻撃を打ち消す事が出来た。
「マグマラシ!大丈夫か!?」
地上に着地したマグマラシの側に、マサシは即座に駆け寄った。
限界を超えた超威力の炎を繰り出した為、心配になっての事だった。
マグマラシも、相当疲労の色を見せている。
…多分、これ以上戦うのは無理だと判断して、ボールに戻した。
その間に、フローゼルの懇親の一撃が炸裂。
強烈な衝撃と共に大量の水飛沫が周囲に飛び散った。
ドォォォンッ!!!
凄まじい攻撃だった。
ルハド自身も、軽く飛ばされる程の威力を発揮した。
「マサシ君!」
ここで、ナギサが再び戦闘復帰。
マサシの側に駆け寄るのと同時に、彼女のニョロトノが『ハイドロポンプ』でルハドをけん制する。
「ナギサ、大丈夫なのか?」
「うん。体力は何とか回復したから」
マサシとナギサ、二人が横に並ぶ。
そこで改めて、ルハドと向かい合う。
「じゃあ、行くぞ!」
マサシの声を合図に、二人は動き出す。
二人は左右それぞれ別々の方向に走り出す。
ある程度の距離を移動した所で、まずマサシが上空を飛ぶフライゴンに指示を出す。
…忘れてた人も居るかもしれませんが、フライゴンはずっと上空を飛んでいました。
うん、勿論僕は忘れてませんでしたとも(何)。
「…」
ルハドは、上空のフライゴンを見据える。
攻撃を仕掛けてくると思いきや、砂塵を含んだ竜巻を発生させ、それをルハドにぶつける。
「…。っ!」
だが、それすらも通じない。
ルハドの手によって『すなあらし』は一瞬で凍りつき、砕けてしまう。
その間に、ナギサのキュウコンが力を貯めて準備を進めていた。
九本の尾に炎を灯すと言う、今迄と同じ攻撃。
だが、今回尾に灯した炎を放つ際にも衝撃が発生。
そしてそれが9連続。
一つ一つが超級の威力を持った火球が9発放たれた。
だが、ナギサの攻撃に『天』属性の力は含まれていない。
よって、ルハドが生み出した紫色の氷に阻まれてしまう。
「やっぱり、私の攻撃じゃ…」
「ルハド!!」
後ろ側から、自分を呼ぶ声がした。
そこではマサシがアリゲイツを前に出し、巨大な渦潮を生み出していた。
「これでも喰らえ!」
ヨシノシティでの、ラムトとの戦い。
その時の決定打となった大技、『ハイドロストリーム』。
それが、ルハドに襲い掛かる。
「(こいつは、ラムトに決定的な一撃を決めた技だ。これなら、少なからず隙を作れるはず)」
だが、敵は甘くない。
アリゲイツの発射してきた渦潮を、苦も無く凍りつかせてしまった。
「…!」
驚愕だった。
この攻撃ならば、凍結させるのに若干の手間が掛かると思っていた。
が、ルハドはマサシのその予測を軽く超えて見せた。
この事態は実質、アリゲイツの現時点での最大技をあっさり破られた事に他ならない。
「く…そ…っ!!」
うろたえているマサシを余所に、ルハドは容赦なく攻める。
自分を中心とする全方向に、氷属性の衝撃波を放つ。
「ぐあっ!!?」
「きゃあっ!?」
二人は、成す術も無く吹き飛ばされる。
マサシは何とか立ち上がるが、ナギサは既に限界。
元々消耗した体力でここまで戦っていたのだから無理は無かった。
「はぁっ、はぁ…」
肩で呼吸をしているが、マサシの視線の鋭さは衰えない。
が、どう見てもギリギリの状態である事は明らかだった。
「俺は…。お前程度の奴に、こんな所で敗ける訳にはいかない」
「遺言か?それにしては笑えんな。この俺を、『程度』扱いとは」
「遺言じゃ…、無い。超えるべき壁の一つだと、言っているんだ…」
「…」
「お前達、『終焉の道標<エクストレーム>』を放っておけば、必ずこの世界は破滅する。それを阻止する為にも…、ここで倒れるわけにはいかない…!」
「粋がった所で、貴様は既に限界が近い。そんなボロボロの状態で、これからどうするつもりだ?」
「………。やっと、解ったんだ。何故、兄さんがこのジョウト地方へ行くよう俺に言ったのか」
「…?」
「この場所へ近付くのに比例して、『天紋<ファルマ>』から発せられる力が強くなっていくのを感じた。そしてそれは、今もどんどん強くなってきている」
そう語るマサシの道具袋の中から、銀色の光が溢れ出す。
それに気付いたマサシが、道具袋を漁る。
その中から、この光の源となっている道具を探し出す。
「天属性と魔属性は、それぞれ光と闇の上位属性。しかもこの二つは、数ある属性の中で最強ともいわれる上級クラスに位置する。そんな力を持った属性だ、もう片方が反応してもおかしくは無かったんだ」
「つまり、俺とこうして対峙しているからこそ、貴様の力が目覚めようとしている…という事か?」
「兄さんも、意地が悪いな…。お前を復活させると言う計画の事を、きっと何処かから入手していたに違いない…」
「…」
「そして今、俺はあの時、ヒマザとの戦いのときに消失した力の気配を感じている」
「…! 貴様が奴を退けたと言う話は、本当だったか。そして、あの時より力が落ちていると言う点だけが疑問だったが…。それは…」
「あの時は不完全だった、この力を使ったからだ。だが、今ならば使える!能力が消えると言う副作用を無くした、本当の意味での究極系が!」
「…!?」
マサシがそう呟いたのと同じタイミングで、更に輝きは強くなる。
それをマサシは強く握った。
その瞬間、『天紋<ファルマ>』は細かい光の粒子に分解され、マサシ自身に取り込まれていく。
「…ここからが、本番だ」
そう喋ったとき、全身が銀色の幕のようなエネルギーで覆われていた。
力は今、覚醒した。
続く
後書き
あははー、やっぱりここまで続くと長いと感じる人が大多数ですね。多分(ぇ)。
とりあえず、今回書こうと思ってた事は全部書きました。
つまり、最終決戦用の内容も大分消化できたと言うわけです。
と言う事は、そろそろ決着が近いと言う事です。
やっとここまで来れました…。
とりあえず、さっさと次回予告やって終わらせます。
次回、ジョウト篇第16話『決戦−W 覚醒<めざめ>る力』。
お楽しみに。