オーダイルの懇親の一撃は、確実にルハドを捉えた。
ルハドを呑み込んだ光はそのまま山脈の端まで到達し…。
…弾けて、消え失せた。
その光が消え失せた場所で、ルハドはまだ生きていた。
それでも、身体の至る箇所に傷跡が目立つ。
それに、先程まで全身から溢れ出ていた邪悪なエネルギー。
最早、微かに残っているのみだった。
「はぁっはぁっ…」
相当に消耗しているにも関わらず、未だに戦意は衰えず。
マサシも、何とも言えない微妙な表情をしていた。
「今の攻撃で倒しきれなかったのか…。間違いなく、全力の一撃だった筈だが…」
「貴様自身、見誤っていたようだな…。オーダイルの水属性の技と混合して撃ち出したため、天属性本来の力を十分に発揮しきれなかったようだな」
「…だが、最早お前に何が出来る?それだけのダメージを受けていては、例え『終焉の道標<エクストレーム>』の幹部だろうと、俺以外の奴でも十分倒せる」
「…まだ、俺は全てを出し切っていないと言った筈だ。そしてそれは、今も同じ」
「!? さっき、フライゴンと相討ちになったあの攻撃。あれが、フルパワーじゃなかったのか…!?」
「それは、貴様の勝手な思い込みだ…。確かにあれだけの攻撃、全力の一撃と見られても仕方のない事だ。だが、俺にはまだ上がある!」
そう喋っているうちに、ルハドは両足で立ち上がる。
そして、右掌を天に向ける。
「このジョウトに集いし力よ、この俺の元へ来るがいい!!」
「…!?」
異様な光景だった。
先程あれだけ集めたにも関わらず、更に大量の氷属性エネルギーが集まり始めている。
それは光の粒子のように、ジョウト地方の全域から集結している。
更に、この決戦の場ともなっていた氷も徐々に砕け、周囲から集まってきているのと同じ光の粒子に変わっていく。
「…!」
光の粒子はルハドの掌の先に集う。
やがて、掌のサイズにはとても収まりきらない、巨大な光球が完成した。
その光球から発せられるのは、かつてない威圧感。
「これだけの力を、残していたのか…!!」
「これで最後だ。マサシ、貴様との戦いに決着を着ける」
チャレンジ・オブ・マスターズ ジョウト篇
第17話
決戦−X 氷王の末路
あの攻撃は…。
中途半端な攻撃では打ち消す事は出来ない。
今の自分のポケモン達の力を最大限に発揮した技を一斉にぶつけて、初めて押し留められる。
そんな考えを起こさせるほど、あの攻撃は強大だった。
マサシも、無意識のうちに全てのモンスターボールを手に取っていた。
今の自分が信頼するポケモン達。
その全ての力を一斉に解き放つ決意を固めていた。
だが、そんな時不意に…。
マサシの手に取ったボールのうちの一つが、勝手に開く。
そこから現れたのは…。
「マグマラシ、またお前か(汗)」
またしてもマグマラシだった(爆)。
そして必死にマサシに訴える。
『あの攻撃は、自分が何としても喰い止める』…と。
「無茶だ…!あれは、お前一人でどうにか出来るレベルの攻撃じゃないぞ…!」
だが、マグマラシは引き下がろうとしない。
まるで、あの攻撃の先に何かを見据えているかのように。
「(…! まさか、こいつ)」
マサシもまた、マグマラシが見据えているものに気付く。
微かにだが感じた。
今は遠くの地方を旅しているであろう、幼馴染の少女。
彼女の相棒とも呼べるポケモン。
そして、このマグマラシの親…。
マグマラシは、この攻撃は『彼女』の相棒ならば打ち破れると確信していた。
そして、その力が自分にも受け継がれていると信じていた。
それを必死にマサシに訴えかけていたのだ。
「解った。お前、親を超えたいんだな?」
マサシの問いかけに対して、『勿論』とでも言いたげに頷くマグマラシ。
そして、マサシと同時に相手を見据える。
「お前の持てる力を、全て出し切るんだ。そうしなければ、俺達は負ける。お前も、こんな所で負けたくは無いだろう?」
マグマラシは、力強く背中から炎を放つ。
自身の決意を形にするかのように。
「マグマラシ、『究極段階完全形態=ャGクストラレベル・パーフェクトエディション>』発動」
そして、マグマラシに力が宿る。
それを確認すると、マグマラシは文字通り自分の全てを賭けた一撃を放つべく、力を貯める。
「(このマグマラシはあいつの…。アヤの相棒、バクフーンの子供だ。それなら、あのバクフーンのパワーも受け継いでいるんだろう?今こそ、それを解き放て!)」
炎のエネルギーが、集まっている。
マグマラシを中心として、とてつもない熱が発揮され始めている。
それがエネルギーに転換され、橙色のスパークのような現象が起き始めた。
「炎属性版スペイザー、『バーストスペイザー』だ。マグマラシ、準備は出来たな?」
マグマラシは頷く。
そして、今迄貯めたエネルギーを炎に転換して一気に発射!
その際とてつもない轟音と衝撃波が周囲を襲う。
「…っ!!?(まさか、ここまでのパワーが…!?)」
そのパワーは、主たるマサシの予測をも上回っていた。
それほど、マグマラシのパワーは凄まじかった。
「おおおおっ!!」
一方でルハドも、その氷エネルギーの集合体とも言うべき光球を放つ。
そしてお互いの攻撃が激突した瞬間、かつてないほどの衝撃が発生。
マサシ達全員が、それで吹き飛ばされる。
「うわっ!!」
それでも、マグマラシは踏ん張る。
今ここで自分がやられたら、大変な事になる。
そんな思いを、胸に秘めて…。
膨張したエネルギーは逃げ場を求めて、天空に飛び立つ。
遠くから見れば、橙と銀色の柱が立ち上ったように見える事だろう。
そんな現象が発生しながらも、尚衝撃波は留まる所を知らない。
マグマラシが頑張っているのに、自分だけリタイアするわけにはいかない。
マサシも、何とか吹き飛ばされる所を踏みとどまっていた。
マグマラシは、思っていた。
自分だったらまだ、上を目指せるはず。
親を超えるだけの道を、まだ進みたいと。
その為にもここで、負けるわけにはいかない…と。
そんなマグマラシのひたすらな思いが…。
「…え?」
新たな力を、呼び覚ました。
「これは…!?」
これだけの状況の最中であるにも関わらず、マグマラシの全身が発光し始めた。
…そう。
この輝きは…。
「進化…」
マグマラシは、新たな姿となった。
即ち、バクフーンへと進化を遂げたのだ。
※タイミングが良すぎないか?というツッコミは受け付けません(蹴)。
とにかく進化したことでマグマラシ…じゃなかった、バクフーンのパワーは大幅に上がっていた。
圧倒的な破壊力を誇っていたルハドの攻撃を、完全に抑え込んでいた。
「…っ、馬鹿…なっ!? たかだか、進化した…、程度で……っ!!」
一瞬、お互いの攻撃が激突している箇所が発光した。
それを見た瞬間、マサシは咄嗟に地に伏せた。
その直後。
ズドォォォォンッ!!!!
今、マサシ達の居るこの山を吹き飛ばしかねないほどの大爆発。
咄嗟に伏せた事で、マサシ達は難を逃れていた。
「バクフーン、大丈夫か?」
マサシは即座にバクフーンの元に駆け寄る。
流石に全力を出し切ってしまったのか、疲労を隠しきれていなかった。
そんなバクフーンを、マサシはボールに戻した。
一言、『お疲れ様』と告げて…。
「まさか…、この攻撃さえ破るとは…っ!」
ルハドは、まだ倒れていなかった。
だが、今度こそ奴の全てを込めた攻撃を破った。
…そう、破った筈だった。
だが、マサシは何処か違和感を覚えた。
あれだけの攻撃を仕掛けたにもかかわらず、ルハドにはまだ余力があるように見受けられた。
「気付いたか。そう、今の攻撃に『俺自身の力』は、一切使っていない」
「やはり…。まだ本気じゃなかったか」
「早く出す事だ。貴様も残しているだろう。最強の力を」
「…」
ルハドに促され、マサシはやむなくボールを手に取る。
中から現れたのは、グレイシア。
正真正銘、マサシの最後の切り札となっていた。
グレイシアも状況は理解しているようで、即座に身構える。
「行くぞ、グレイシア」
そう呟くと…。
グレイシアに、最強の力が宿った。
それは、ルハドに勝るとも劣らない猛烈な氷のエネルギーを周囲に放ち始める。
それ程までに、グレイシアの『究極段階<エクストラレベル>』の力は凄まじかった。
だが、ルハドは更に凄まじい。
とうとう、自分自身が持つ氷属性の力を完全解放する。
その衝撃で、ルハドの足元を中心としてどんどん足場が崩壊し始める。
「まさか、全力がここまでの力とは…。これが、『終焉の道標<エクストレーム>』の幹部…!!」
「今度こそ、最後だ。この攻撃で、朽ち果てろ」
「……ああ。これで、俺も本当に最後の一撃になる。グレイシアの『究極段階<エクストラレベル>』、一度も試した事は無いが…。お前を倒すだけの力は持っている筈だ」
「…ならば、試してみるがいい」
「…っ!!グレイシア、行け!!」
マサシの声を合図に、グレイシアは解き放つ。
最強の攻撃、『アブソリュートスペイザー』。
それは、周囲の大気を凄まじい勢いで凍結させつつルハドに迫っていく。
対するルハドも、己の全ての力を込めた氷属性の光線を発射する。
その力は、先程バクフーンが打ち消した攻撃とは比較にならなかった。
そして、今…。
マサシとルハド、両者の正真正銘最後の、最大の一撃が激突する…!
「…っ!!」
閃光。
激突の瞬間、その場が強烈な光に包まれた。
だが、まだ両者のせめぎ合いは続いている。
「グレイシア………っ!まだだ!!」
このタイミングで、マサシが声を荒げた。
それに呼応するかのように、グレイシアのパワーが上昇していく。
そしてそれは、徐々にルハドの攻撃を呑み込み始める。
「…っ!? 一体、奴の何処に…、こんな力が……っ!!」
「ルハド…。これで、最後だ!!!!!」
マサシは、叫び声を上げた。
グレイシアの攻撃はとうとう、ルハドのフルパワーの攻撃を取り込んでいた。
それによって更にパワーアップしたグレイシアの一撃が、ルハドを呑み込んでいく。
「ぐおおあああああああっ!!!!!」
ルハドの姿は、グレイシアの発射した光線の中に消えていった。
そして。
ドガァァァァッ!!
爆発。
それと同時に、天属性の力がジョウト地方全域に拡散していく。
その力は、『終焉の道標<エクストレーム>』によって氷に閉ざされていたジョウト地方に降り注ぐ。
元々が『魔』の属性によって起こされた現象。
そこに、その力を唯一相殺する事が出来る天属性の力が降り注いだ事で全てが元に戻っていく。
最後の一片まで、このジョウト地方を閉ざしていた氷が、跡形も無く消え去っていた。
その後、マサシは地面に倒れ伏していく。
全ての力を出し切った、グレイシアもまた然り。
否、戦いが終わった事に対する安堵感からなのかもしれない。
「終わった…」
辛うじてマサシはその言葉を口に出す。
そのとき、マサシが発していた天属性のエネルギーは消え去っていた。
「マサシ君!」
後ろから、声が聴こえた。
この場に居合わせ、マサシが到着するまでルハドと戦っていた仲間・ナギサの声だった。
そのすぐ後ろから、シュンも足を引き摺るように此方に向かってきていた。
「これで、終わったんだよね…?」
「ああ…。ルハドは、倒した。これでようやく、全ての能力を取り戻す事が出来た…」
「マサシ、お疲れ様。結局、僕じゃルハドを倒せなかった…。今迄、頑張ってきた事が水の泡になっちゃったよ」
「まあいいじゃないか。結果として、ルハドを倒せたんだし」
「…!!」
突然、二人の顔が強張る。
不思議に思い、マサシも二人の向いている方角に視線を向けると…。
「…っ!?」
奇怪な目元を隠す仮面をつけた人物がその場に立っていた。
しかもその人物は、今さっき倒したルハドを抱えていた。
「誰…、だ」
「こいつは驚いたよ。まさか、アタシが来た時すでにルハドが負けちゃってたんだからねぇ」
「女…!?」
素顔は解らない。
だが、その人物の発する声からその人物が女性である事だけは判断できた。
「お前は…、『終焉の道標<エクストレーム>』なのか…!」
「そうサ。アタシは終焉の道標<エクストレーム>幹部、バゾア」
「クッ…!まさか、二人目の幹部が現れるなんて…!こっちにはもう、余力なんて無いのに…!」
「安心しな、ボーヤ達。今回アタシがここに来た目的は、ルハドの回収だけサ。ボーヤ達の相手は指令の中に含まれていないのサ」
「…」
「信用できないって顔だねぇ。まあ、ついで程度に少しだけ相手をしてあげるよ」
既に限界を超えている状態だが、マサシは最後の力を振り絞って立ち上がる。
そしてグレイシアも、最大の一撃を放った直後で消耗が凄まじい。
「…っ!」
グレイシアが、突進した。
が、忽然とバゾアと名乗った仮面の女の姿が消えてしまう。
「…!?」
「こっちサ」
いつの間にか、その姿はマサシの背後にあった。
そしてマサシに指一本を向けると…。
パァァンッ!!
突然の衝撃に、マサシとグレイシアは軽々と吹き飛ぶ。
何が起きたのかすら、全く解らないままにやられてしまった。
「ぐっ…、ぁっ…」
元々無理して身体を動かしていた。
そんな折に敵からの攻撃をまともに貰ってしまったのだから。
もう、とても動けるような状態ではなかった。
「満足したかい?」
「…っ」
「さて、さっさと戻るとしようかねぇ。早いところ本部に帰還しないとね」
独り言のように呟くと、奴はこの場から姿を消した。
マサシが倒した、ルハドと共に…。
あの女が去った事で、マサシは命を繋ぎとめたかのような表情をしていた。
「助かった……。これ以上戦う羽目にならなくて…」
「え?」
ナギサが、怪訝そうな表情を見せた。
「あの女、俺が今迄戦った幹部とは、桁が違った…。仮に万全の状態だったとしても、今の俺じゃあの女には勝てない…」
「そんなに、強いの?あの人」
「ああ…。さっきの奴は全然力を出していない…。今の俺がどう足掻いた所で、とても太刀打ちできるようなレベルじゃなかった」
「…『終焉の道標<エクストレーム>』は、やっぱり一筋縄じゃいかないみたいね」
「だけど今は、幹部の一人を戦闘不能にさせる事が出来たんだ。それで、良しにしようよ」
「…だな」
とりあえずこの場は、シュンの言葉で締め括られた。
3人は一先ず、コガネシティへと戻っていった。
真っ暗な空間の中に、平行して並ぶ炎の灯り。
その最奥部に、一つの気配。
その場所を目指して歩み寄る1人の人物。
衣服、髪、瞳。
その全てが漆黒の色で統一された不気味な男。
彼の進む先から、声が聴こえてくる。
ルハドは、回収できたのか
とてつもなく重い声だった。
この空間全てを、その一言だけで押し潰しかねないほどのプレッシャーを放つ。
「はい。ですが、バゾアの到着した時点で既に戦闘不能となっていたようです」
…ルハドが敗けたのか。信じられんな
「バゾアの話では、その場に居合わせたのはリュウイチの弟マサシ、スバルの弟シュン、そして少女1人の、計3人だと言う話です」
たったの3人にやられたのか。だが、まぁ…
暗闇の向こうから聞こえてくる声は、そこで一旦詰まってしまう。
「はい。リュウイチの弟がいたとなれば、強ち嘘ではないかと」
忌々しい事だ。あれから4年の月日が流れて尚、我らの前に立ち塞がるのか
「心配には及びません。ルハドはまだ、目覚めたばかり。まだ、本調子ではなかったのでしょう。それに、個々の能力では我々の方が遥かに上です」
…。『深闇』ルドア
ここで初めて、その場に立つ男の名を口にした。
彼もまた、『終焉の道標<エクストレーム>』幹部のようだ。
若干の狂いはあったが、ルハドの回収には成功した。次の計画は、3年後だ。それまでに、準備を済ませておけ
「お任せください。その為の準備は、着々と進めています」
後の事は、任せるぞ
そこで、声は途切れた。
ルドアと呼ばれた男は、その空間から抜け出すと、回廊とも呼べる場所を歩いていた。
すると、向こうから…。
「よぉ」
炎そのものを思わせるような髪型。
かつてマサシと戦った、『赤熱』ヒマザだった。
「何の用だ」
「何、次の計画の準備はどうなのか気になってな。あれは、テメェの管轄だろ?」
「貴様に心配される謂れは無い。準備は確実に進んでいる。3年後には、全てが整う」
「へっ。3年後か…。マスターリーグ開催も、確か3年後だったな。計画の事は良く知らねぇが、それと何か関係があるのか?」
「…、貴様には関係のない事だ」
それだけの言葉を返すと、ルドアはそのまま去っていった。
この場所に残されたのは、ヒマザ1人。
「まさか、あの時のガキがルハドを倒すとはな…。面白ぇ…」
―――今度また戦うときが、楽しみだぜ。
続く
後書き
最終決戦が決着しました。
…が、完全撃破には至らずでしたが…。−−;
今回、新たに『終焉の道標<エクストレーム>』の幹部を二人登場させました。
正直な所、この二人はとてつもなく強いです。
ヒマザやルハドなんかよりも、ずっとです。
まあ、彼らの戦う機会はずっと先なんですけどね(苦笑)。
さて、ジョウト篇の完結まで後僅かとなりました。
ちょっとまた展開が速くなるかもしれませんが、ご了承ください。−−;
次回、ジョウト篇第18話『挑戦 目指し続けた存在』。
お楽しみに。