戦いは始まった。

 大会参加者を殲滅しようとする集団と、それに抗う者達との戦い。

 それは、この広大なヨハロ地方の各地で始まりつつある。

 そして今また、伝説の力を従えた強敵との戦いが始まろうとしている…。






COM マスターリーグ編
第11話
災禍週間(3)







 Phase.37 激突への予兆





 ズドォォォンッ!!
 ヨハロ地方のとある街中で、爆発が発生した。
 その中心に立つのは1人の青年。
 茶色い髪の毛のその青年の隣に、オーダイルが並んで立っていた。

 そして周囲には、無残に倒れ伏す集団。
 どうやら、またしてもマスターリーグの出場者を狙う敵と戦っていたらしい。

「…ったく、しつこいにも程がある。大会が一時中断状態の今、そこまでして排除に拘る理由があるのか…?」

 その青年、マサシは独り言のように呟いた。
 リーラシティでアヤ達と別れて数日、彼はヨハロ地方の東部を転々としていた。

「お疲れ様」

 マサシの背後から、女性の声が聞こえた。
 その声の聞こえた方角から、3人組のトレーナーが歩いてきた。

「こっちは終わった。そっちの方は?」

「うん、こっちも何とか終わったよ。それにしても…」

 3人の中でリーダー格と思われる女性が、周囲の状況を眺めた。
 声からして、先程マサシに語りかけてきたのも彼女だろう。

「さすがね。これだけの数を相手に、あっさりと勝っちゃうんだもの」

「…まあ、今まで俺が戦ってきた連中と比べればな…。それよりミサカ、さっきの話は本当なのか?」

 ミサカ。それが、彼女の名前。
 マサシ達と同じマスターリーグ出場者の1人であり、ここまで敵の攻撃を凌いできた実力者。
 因みに予戦内ランキングは、第15位。

 そして2人は、会話を続ける。

「ええ。今から2日位前かしら。ここから南にずっと進んだところにあるヒダシティが、大洪水でほぼ壊滅したって言う話よ。しかもその際、伝説のポケモンであるカイオーガの目撃情報があったのよ」

「カイオーガ…か」



―――アヤの話じゃ、この前戦ったグラードンと対とされる伝説のポケモンだったな。

―――海を作り出すと言われるほどの伝承を残している程だ、不思議じゃないが…。



「とりあえず、今は敵の勢力を削る事が優先だ。俺は今から、そのヒダシティと言う町に向かう」

「解ったわ。その間私達は、まだ無事でいるトレーナーを探して上手く連絡を取り合えるようにするわ」

「頼む」

 一通り必要な会話のやり取りを終えたところで、彼女は町から去っていく。
 しばらく間を挟んで、マサシも歩き出す。
 先程彼女から聞いた話を頼りに、南へと足を進める。

「そうだ」

 マサシは何を思ったのか、道具袋の中から携帯電話を取り出す。
 そして何処かに電話をかけた。

「もしもし、俺だ」

『あ、マサシ。どうしたの?』

 電話の相手は、アヤだった。
 リーラシティで別れてから、時々こうやって情報のやり取りを行っていた。
 そして丁度、気になる情報を得たため連絡をしたのだ。

 そしてマサシは、先程得た情報をアヤに伝えた。

『カイオーガ…。 まあ、グラードンが出て来た時点である程度予測は出来てたけど…』

「カイオーガの能力について、何か知らないか?戦いになった際、攻略の鍵になるかもしれない」

『私も詳しい事は解らないけど…。カイオーガは水タイプで、バトルに出ると天気を雨にする特性を持っている と言う事くらいしか…』

「解った。それだけでも大分参考になる。助かった」

『こっちは相変わらずね。マサシと同じようにあちこちを回りながら、敵を駆逐してるけど…。これじゃ、埒が明かないわ』

「黒幕を突き止めるまでの辛抱だ。他の大会参加者達と上手く連携して、スムーズに事を運びたいところだ」

『そうね。こっちも今までに2〜3組のチームと出会って、情報交換をしたの。まあ、あんまり大した情報は得られなかったけどね』

「…そうか」

『じゃあ、そろそろ切るわね。また何かあったら、連絡して』

「ああ」

 アヤとの会話を終えて、マサシは携帯を道具袋の中に戻した。
 そして気を入れ直し、走り始める。
 目的地は、ヒダシティ。







 携帯電話の音が、鳴っている。
 が、この携帯はマサシの物ではない。
 鳴っている場所は、マサシの目的地であるヒダシティ沖。
 そしてその電話の持ち主は…。

「もしもし?」

 カイオーガの主である、大会参加者殲滅を目論む敵の1人・チルナ。
 その電話の相手からの話を聞いて、彼女は顔色を変えた。

「デキラがやられた?何の冗談?」

『冗談ではない。先日、奴の消息が途絶えた。場所はリーラシティ周辺だ』

「あいつには、グラードンを持たせてた筈でしょ!? まさか…」

『グラードン諸共、斃された。やったのは、予戦内ランク第22位のマサシと言う奴のチームだ』

「信じられない…。だって彼、私と殆ど互角の実力だった筈よ!?それに私だって、この前第10位の奴をやったけど、てんで大した事無かったわよ?」

『油断してたのだろう。奴はお前と違い、グラードンしかバトルに出さなかったらしい。それならある程度の敗北要素は揃っていても不思議ではない』

「…解ったわ。彼の不始末は、私が拭っておくわ」

『そのチームのリーダーであるマサシだが、そっちの方に向かっていると言う情報がある。『あの方』からの通達だ』

「チームで行動してるんじゃないの?」

『否。デキラを斃した後、3人バラバラに行動をしている。既に此方側にもかなりの被害が出ているが、その4分の1近くがこのチームの仕業だ』

「ふ、ふふふ…」

 電話の相手から話を聞き、チルナは気味の悪い笑みを浮かべる。

「面白いわね、そのチーム。それに、そのチームのリーダーが此方に向かっているなら丁度いいわ。今まで私達が受けてきた借りを、全部返済してあげるわ」

『油断はするな。そのマサシと言う男、マスターリーグ優勝者の中で歴代最強と謳われた、リュウイチの弟だ。いくらお前でも、油断をすれば…』

「心配ないわよ。私は誰が相手でも決して手は抜かない。今の私の持つ最高の戦いで、彼を始末してあげるから」

『…期待しているぞ。チルナ』

「さっさとそのマサシって言う奴を斃した報せを、あんたに聞かせてあげるよ。レノム」

 話が終わり、チルナは海上から既に壊滅状態の町を見渡す。
 そして…。

「カイオーガ!」

 海中からカイオーガを呼び出すと、来るマサシとの戦いに向けて準備に取り掛かるのだった。







 Phase.38 各々の動向(ユキヤ編)





 マサシチームの3人は、現状似たような状態だった。
 各地を転々とし、虱潰しに敵を斃していく。
 マサシがヨハロ地方の南東方面、アヤが北東方面に向かったのに対し、ユキヤは中心部方面に向かっていた。

 ユキヤはユキヤで敵の主力と思しき存在の情報を得たらしく、そこに向かっている。
 向かう先は、娯楽都市:ベルスシティ。
 ヨハロ地方の中でも、かなり大きい方に分類される町。

「…」

 道中、ユキヤは内心色々と思考を張り巡らせていた。
 これだけの規模で活動をする敵、それだけの事を実行できる連中のリーダーの事。
 ヨハロ地方到着からマスターリーグ開催までの数日間、ユキヤはアロナシティで何人もの大会出場者と顔を合わせていた。
 が、その間不審な行動を取っていたトレーナーに覚えはない。

 単に、あの時自分が偶然接触してなかっただけなのかもしれない。
 が、連中の黒幕を捜し当てるのは大会側の仕事。
 今の自分の為すべき事は、少しでも被害を食い止める為に敵を斃す事。

「…あそこか」

 ユキヤの視線の先には、広大な面積を持つ一つの町があった。
 あそここそ、ユキヤの目的地であるベルスシティだった。







 ベルスシティ。
 娯楽都市という名の通り、街中には溢れるほどの娯楽施設が充実している町。
 そして一日を通してネオンなどで町が灯されており、眠らない町と言う異名もある。

 そんな、ヨハロ地方の中で5指に入る大都市に、ユキヤは足を踏み入れた。

「…相変わらずか、この町は」

 以前にも語ったとおり、ユキヤは元々このヨハロ地方出身のトレーナー。
 よその地方へと旅立つより前に、この町を訪れた事があった。
 活気に満ちているこの町の光景を見て、ユキヤは内心苛立ちを募らせていた。

「…、いい気なものだ。何も知らん連中は…」

 苛立ちを抱えながら、ユキヤは両目を閉じる。
 その間、脳裏に蘇るのは彼の幼かった頃の記憶…。



 『あの光景』を始めて目にしたのは、彼が5歳の頃。
 ユキヤの近所に住む、ずっと彼を弟のように接してくれていた少年が、家族との別れの挨拶をしていた所。
 ユキヤは、突然の別れに動揺してたが、その少年は一言だけ言葉を残していった。

「心配しなくても、きっとまた逢えるよ。ユキヤも、僕と同じ歳になればきっとね」

 その言葉を最後に、彼はユキヤの前から姿を消した。
 後で知った事なのだが、彼はヨハロ地方の慣わしでトレーナーとなった後ヨハロ地方の外へ修行の旅に出たという。
 それが、今から11年前の話。



「…」

 昔の事を思い返しつつ、ユキヤはとある派手な明りで彩られた建物の前で足を止める。
 と言っても、実際は唯のポケモンセンター。
 が、この町はヨハロ地方の各地から多くの人々が集まるため、それだけ情報も集めやすい。

 周囲を警戒しつつ、ユキヤは人混みに紛れ込んだ。
 この近辺に敵がいると言う情報は、予め入手していた。
 後は、その敵が姿を見せるのを待つだけだった。


「行くよ」

 案の定、敵は即座に行動を開始した。
 町から少し離れた所でユキヤの姿を確認すると、3匹の鳥ポケモンとともに空から町に向かっていく。
 そして…。
 ドゴォッ!!



「…ッ」

 突然の爆音とともに、地響きが発生。
 これが、敵の攻撃である事はすぐに理解できたのだが、それ以上に…。

「(こんな町中に、平然と攻撃を仕掛けてくるか)」

 人が大勢居るにも関わらず、無差別攻撃を仕掛けてくることに、内心動揺していた。
 ユキヤは敵を迎え撃つべく、センターの屋上に飛び出した。
 そこで目にしたのは…。

「あれは…」

 町の上空を旋回しながら攻撃を続ける3匹の鳥ポケモン。
 ユキヤはそれに見覚えがあった。

 1匹は、翼がそのまま炎のようになっている橙色のポケモン。
 もう1匹は、黄色い身体と鋭い嘴が特徴のポケモン。
 最後に、誰でも思わず見惚れてしまいそうなほど美しい姿をした、青い身体のポケモン。

「サンダー、ファイヤー、フリーザー…」

 カントー地方を旅していた時、噂で聞いた事があった。
 それぞれが電気・炎・氷を得意とする3匹の伝説の鳥ポケモンの話。

 そしてその伝説の鳥ポケモンが今、目の前にいる。

「…ん?」

 町を攻撃しているサンダーの背の上に立つ1人のトレーナーが、ユキヤの姿を確認する。

「はかいこうせん=v

 屋上でユキヤはバンギラスを繰り出すと、膨大な破壊のエネルギーを凝縮した紅い光線を発射。
 上空を飛んでいた3匹のポケモンは、寸前のところで攻撃を回避した。

「この辺りに貴様達が潜んでいると言う情報は掴んでいたが…。町に無差別攻撃を仕掛けてくるとは思っていなかったな」

 ユキヤの語り掛けに対し、ファイヤーの背に立つ橙色の長髪の男性が返事をした。

「これだけ大きな町の中で、大会参加者を探すのは面倒なんだよ。だから町そのものを攻撃した方が手っ取り早い。それだけの事」

「………そうか」

 相手の答えを聞くと、今度はガブリアスもボールから出す。
 そして目の前にいる敵との戦闘に突入していく…。







 Phase.39 各々の動向(アヤ編)





「全く、とんでもない奴が現れたものね。他の参加者をこんな風に抹殺してまで優勝を?ぎ取ろうとするなんて…。マスターリーグを何だと思ってるのかしら」

 一方で、此方はアヤ。
 リーラシティから東方面に向かい、現在はとある森林地帯に差し掛かっていた。
 気を紛わす目的で、今このヨハロ地方で暗躍している集団に対する愚痴を零していた。

「(だけど、マサシは大丈夫かしら…。さっきの話だと、カイオーガと戦うことになりそうだけど、相手の能力は正直言って未知数だから…)」

 次第に不安だけが募り始めていたので、首を横に振って強引に気分を紛わせた。

「あいつの事を今心配しても、何にもならないわね。マサシなら大丈夫、私は私でやるべき事をやらないと」

 そんなアヤが現在向かっているのは、この森林地帯の中ある『深緑の町』チミスタウン。
 そのチミスタウンに、伝説のポケモン『レジスチル・レジアイス・レジロック』を操るトレーナーが現れたと言う情報を得ていた。

「伝説のレジ系ポケモン3匹…。カイオーガ、グラードンと同じようにホウエンに伝わる伝説のポケモンの一種。こんな辺境にまで現れるなんて…」

 アヤは、この情報を得た時点で確信した。
 やはり敵は、このヨハロ地方に蟻の這い出る隙間も無い程の網を張っていると。
 何処に身を潜めようとも、何れ必ず見付かってしまう…と。

「(今の段階で、既に大会参加者の半数近くが斃れてる。このまま黙ってたら、誰とも解らないこんな卑怯な手段を取って来た奴にポケモンマスターの座を明け渡す事になっちゃう。そんな事だけは…!!)」

 歯を食い縛り、拳を強く握り締めるアヤ。
 やはり、このような事態を起こした『敵』に対する苛立ちを募らせていた。

「(こんな事を起こすような奴に、絶対ポケモンマスターの座は渡さない…!絶対に見つけ出して、私が)」

 しかし、今のところ主犯の手掛かりは全く無い。
 逸る気持ちを抑え、今は各地で暗躍する敵を斃す事に集中するしかなかった。

「(今は、チミスタウンに居るって言う奴を斃さなきゃ)」

 本来の目的を思い出し、足取りを速めるアヤ。
 焦るかのようにそのスピードを速め、森林地帯を奔走していった。



「………え?」

 チミスタウンに到着して、アヤは我が目を疑うような光景を目の当たりにした。
 情報どおり、確かにレジ系3匹を操るトレーナーはこの町に居た。
 だが、今はそのトレーナーが窮地に立たされている。

 咄嗟に、レジ系3匹と対峙するトレーナー達に目を配る。
 戦っている相手は、3人組のトレーナー。
 しかもマサシと同じ端末を持っていることから、大会参加者である事は間違いない。

「止めだ、ダブルアタック=I」

 戦っているのは、2本の長い尾を手足のように自在に操るポケモン・エテボースだった。
 その2本の尾を同時に、残っていた最後の1匹、レジアイスに叩きつける。
 ドンッ!! ドンッ!!

「なっ…」

 見た感じは、唯のダブルアタック≠セった。
 だがしかし、伝説のポケモンとして知られるレジアイスをこんな簡単に沈めるなど、俄かには信じられなかった。

「…ん?」

 レジアイスの相手をしていたチームの1人が、アヤの存在に感付いた。
 一瞬警戒するが、アヤが大会参加者だと言う事を悟ると、すぐに打ち解ける事ができた。

「それじゃ、アヤもあいつの事を知ってこの町にきたの?」

 3人の中で、年齢的にアヤと近かった女性が、アヤの横に座り会話をする。

「うん。だけど、まさか戦いが終わる直前だなんて思わなかった。ちょっと、ショックだった」

「悪かったな、折角こんな辺境にまで足を運んだのに、無駄足にさせちゃって」

 アヤは一瞬不貞腐れてそっぽを向くが、すぐに表情に笑みを戻して3人の方に向き直った。

「僕はフジヤ。マスターリーグの予戦内ランキングじゃ、第6位のチームだよ」

「第6位! そんなにランクが上だったんだ…」

「アヤちゃんのチームって、確か第22位だったよね」

「ええ…。チズサも私と同じトーホクの出身だって言ってたわよね」

「うん。私、シズキタウンの出身なの。アヤちゃんから最初、フヅカタウン出身だって聞いた時、嬉しかった。同じトーホク地方の出身者で、このマスターリーグに登ってこられたトレーナーに会えたから」

「私のチームリーダーも、トーホク出身なの。と言うか、私の幼馴染」

「…ねえ、ひょっとして、そのチームリーダーってマサシって人?」

「え?何で解ったの!?」

「んっとね。私、4年前のトーホクのポケモンリーグをテレビで毎日見てたの。それで、優勝したのがマサシっていう人だったのを覚えてたから。もしかしたら…って思ったの」

「…うん、そうよ。確かに私達のチームリーダーは、マサシ」

「凄い!トーホク大会の優勝者と同じチームなんだね!」

「私から見れば、フジヤのさっきの攻撃の方が凄かったわ。さっきのあれ、ただのダブルアタック≠フ威力じゃなかったわ」

「確かにね。あれは、エテボースの特性:『テクニシャン』と、ちょっとした工夫を加えた攻撃なんだ」

「『テクニシャン』って、確かもともとの威力が低い技のパワーを上げる特性よね?それに、ある工夫って?」

「気付いてなかったのかい?さっきの攻撃、2撃とも全く同じ箇所に攻撃を加えていた事に」

「!」

「それに、さっきのトレーナーは気付いていなかったみたいだけど、1回の攻撃を加えた際、5発分くらい追加で攻撃をしてたんだよ」

「!!」

 全く気付かなかった。
 今まで色々なトレーナー達とバトルをしてきたけれど、あんな攻撃は見た事が無かった。
 それに、全く気付かなかった事の方がショックが大きかった。

「全く同じ箇所に、目で追えないほどの攻撃を無数に繰り出していたって事?確かにそれなら、伝説系を難なく斃した事もある程度納得できるけど…」



―――それでも、私が全く気付けなかったなんて…。

―――やっぱりこのマスターリーグ、出場者はとんでもないレベルのトレーナーばっかりね…。

―――どうやら、まだまだ上を目指す余地は残っているみたい。



「とりあえず、お互い何か解ったら情報を交換できるようにしない?今は少しでも早くこの騒動を終わらせないといけないから」

「そうだね。とりあえずお互い、無事でいよう」

「ええ」

「アヤちゃん、また色々と話をしたいな。だから、気をつけてね」

「そっちも気をつけてね。多分これから先、強い敵はどんどん出てくると思うから」

「心配ないよ。僕たちは、半端な連中には負けたりしないから」

「じゃあ、武運を」

 アヤとフジヤ達3人は互いの無事を祈りつつ、それぞれ別々に行動を再開した。
 …そして、ヨハロ地方各地で大会参加者同士の協力で次々と敵の数を減らしていく一方で…。

 現段階で、かなりの力を有するチルナの留まるヒダシティで、大きな戦いが幕を開けようとしていた…。







 Phase.40 決戦の胎動





「風が強くなってきたな…」

 ヒダシティへ向けて、広大な大地をひた走る1人の青年・マサシ。
 彼が向かっている方角より、先ほどから強い風が吹き付けてきていた。
 それと同時に、塩の匂いが満ちていた。

「いくら海が近いからといって、こんなに風が強いのはおかしい。それに…」

 先ほどから、マサシの肌に細かい水滴が無数に付着する。

「(風に混じって、雨まで降ってきてる…。やっぱりこの先のヒダシティに、カイオーガが出現したって言う情報、間違いじゃなかったらしい)」

 気を入れなおすと、マサシは更に走るスピードを早めた。
 やがて、視線の先に壊滅状態となったヒダシティが見えてきた。

「…」

 遠目から見ても、既に人が生活できるような状態でなくなっていることはすぐに理解できた。
 だから思わず、マサシは足を止めてしまう。
 その想像以上の惨状を目の当たりにし、言葉を失ってしまうのだった。

「…ッ!」

 だが、次第に怒りの感情が芽生えてくる。
 何故大会参加者を殲滅する為に、町を壊滅させる必要が…。
 そして何の関係も無い人間まで巻き込む必要があるのか…!

 それは、先のグラードンとの戦いでも爆発した感情なのだが、それが再びマサシの中に再発していた。

「…今回は、お前を一番に出す。最初から、全開で行く!」

 その瞬間、落雷が発生した。
 そのせいでマサシが、どのポケモンを繰り出したのかは解らない。
 だがしかし、そのポケモンが膨大な白銀色のオーラを纏ったのは見て取れた。


「―――『能力回帰:究極段階<エクストラレベル>』発動 行くぞ!」

 マサシは繰り出したポケモンと共に、壊滅したヒダシティに突入した。







「………来たわね」

 海上で、カイオーガの頭上に佇む女性・チルナ。
 どうやら彼女は、この町に入ったマサシの気配に感付いたらしい。

「また1人、無謀なバカが来たようね。レノムが言ってた、マサシって言うトレーナーかしら」

 姿はまだ確認できないが、先手を打つチルナ。
 感じ取った気配を頼りにして、手持ちポケモンを総動員して向かわせた。

「さあ、雨の中でこそ真価を発揮する私のポケモン達を倒して、ここまで辿り着けるかしら?ふふふ」



 マサシは既に、ヒダシティ市街地に突入していた。
 だが、既に街は廃墟と化し、水浸しとなったこの町に人の気配はない。
 代わりに、マサシの元に向かってくる人間ではない気配が複数。

「来たか!」

 マサシも気配を感じ取ると、後方に一歩下がる。
 するとマサシの目の前に、2匹のルンパッパが立ち塞がった。

「(敵がカイオーガを使う以上、敵の手持ちメンバーも水系がメインだと言う事は予測できたが…)」

 マサシは、先程ボールから繰り出していたポケモンを前面に出す。
 そのポケモンは、フローゼル。
 このフローゼルもまた、雨天の時に更なる力を発揮できるポケモン。

「フローゼル、スピードでかく乱しろ!」

 マサシの指示で、フローゼルが動き出す。
 元々相当なスピードを持ち合わせていたフローゼルなのだが、この雨天で特性の『すいすい』も発動していた。
 これでフローゼルのスピードに更なる拍車がかかり、残像を彼方此方に残すほどの凄まじいスピードを発揮した。

「ソニックブーム=I」

 そしてそのスピードを活かし、360度全方位から無数の衝撃波を発射。
 あの動きに戸惑っていたルンパッパ達は避ける事ができず、全ての攻撃の直撃を喰らった。

「…妙だな。あのタイミングなら、何かしらの防御策を取ってもおかしくない筈…」

 その時、マサシはある事に気付く。
 2匹のルンパッパの身体に付いた傷が、身体に付着した雨粒が発光すると同時に治癒していった。

「特性の『あまうけざら』か! それにしても、通常のポケモンと比べてダメージ回復の量が桁外れだ。ソニックブーム≠ンたいな小技で勝負してもすぐに持ち直される。 …だったら」

 フローゼルは、膨大な量の水を纏いながらフローゼル目掛けて突っ込んだ。
 マサシのフローゼル得意の技、ハイドロインパクト≠セ。

「『究極段階<エクストラレベル>』の攻撃だ。喰らえ!!」

 ズドォォォォンッ!!
 フローゼルの最大級の攻撃が炸裂し、強烈な爆発にも似た衝撃波が周囲に拡散した。
 その勢いで、敵のルンパッパ2匹は吹き飛んだ。

 吹き飛んだ2匹はすぐに体勢を立て直すと、緑色のエネルギー球体を発射した。

「ソニックブーム=I!」

 しかしマサシは、難なくこの攻撃を相殺する。
 が、この攻撃を打ち消している間に2匹のダメージはほぼ完治していた。

「ほんの数秒しか間が空いてないのに、殆どダメージが残っていない…。それなら…!」

 マサシは新たに自分の相棒である、オーダイルを繰り出す。
 そしてフローゼルとそれぞれ、別々のルンパッパと向き合わせた。

「さっきは2匹纏めて攻撃する事に意識が向きすぎて、直撃していなかった。だが、今度は…!」

 フローゼルが向かって左のルンパッパ、オーダイルが右側のルンパッパに攻撃を仕掛けた。
 無論ただで攻撃を喰らう筈もなく、先ほどと同じくエナジーボール≠それぞれ発射する。
 だが、今のマサシのポケモン達に大したダメージは与えられず、結果的にそれぞれ懇親の一撃を喰らう事になる。

「よし、片付いた。行くぞ!」

 敵2匹の戦闘不能を確認すると、マサシは再び市街地を駆け抜ける。
 カイオーガを操るトレーナーは恐らく、海にいる。
 そう考えたマサシは、一直線に海岸線に向けて走っていた。

 そして…!

「見付けたぞ」

 ヒダシティの海上に、カイオーガの姿。
 そしてその上に立つ女性、チルナ。

「思っていたよりも早かったのね。あの2匹じゃ、前座も勤まらなかったようね」

「お前がカイオーガのトレーナーか。この町の状況を見る限りじゃ、随分派手にやったみたいだな」

「そんな事を気にする暇は無いわよ。あんただってすぐ、この町と同じ末路を辿るんだから」

「…試してみろよ」

「…?」

 伝説系を目の当たりにしながら、全く臆する気配を見せないマサシに、チルナは一瞬動揺する。
 そして、マサシの発する言葉に、異様な圧迫感を感じていた。

「こんな酷い手口を使ってまで優勝しようとする奴の手先程度の奴に、俺は敗けるつもりは無い」

「随分と大口を叩くのね。予戦内ランク第22位程度のチームリーダーが」

「そんなランクの事など関係ない。俺は、お前達を潰す。ただそれだけだ」

「あ、そう。じゃあ、噂に聞くあのリュウイチの弟だって言うあんたの実力、とくと見せてもらおうじゃない。マサシ君?」

「………フローゼル!!」

「キングドラ、さっさと片付けなさい」

 ヒダシティの海上で、フローゼルとキングドラが真正面から突っ込む。
 それぞれのポケモンの背後で、対峙するトレーナーの2人。
 海を作り出したと言われる伝説を持つポケモンを相手に、嘗て無い激戦の火蓋が切って落とされようとしていた。







 To Be Continued





後書き
そろそろ今の流れを変えたかったので、結構展開を早くしてみました。
いい加減、マスターリーグの予戦を再開させたかったので(汗)。

今回はチャレンジの一環として、バトルシーンを極力排除する事に挑戦してみました。
まあ、その代わり会話のシーンばかりで読み難いなんてことになってたら元も子もないです(苦笑)。
その分、次回からバトルシーンが増えるかもしれないですね。元の大会編に軌道修正する意味合いでも、次回かその次でこの流れを一旦断ち切りたいですね。
そういう意味合いでも、このバトルは長くなる予感がします。ある程度長くならないよう努力はしますけどね(笑)。


それでは、次回をお楽しみに。

 

[一言感想]

 マサシ達、3人個別に行動中ですね。
 マサシの方では、究極段階(エクストラレベル)状態での戦闘開始。
 しかし、今度もかなりの強敵のようです。

 

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