今、この事態は一端の終局を迎えようとしている。

 今現在この地方に潜むトレーナーの中で、最大の力をもつトレーナーの1人と、マサシが挑む。

 伝説のポケモンを操る嘗て無い強敵との、壮絶な戦いが始まろうとしていた…。






COM マスターリーグ編
第12話
災禍週間(4)







 Phase.41 マサシVSカイオーガ





 ドゴォォォォッ!!
 海上でフローゼルとキングドラが真正面から激突、凄まじい衝撃波が全方向に吹き荒れる。
 その衝撃波の影響で、水面でも大きな波が発生する。

「どうやら、さっきのルンパッパとは訳が違うようだな」

「それを一瞬で見抜いたあんたの洞察力は、大したものね。だけど」

 互いに真正面からぶつかり合うパワー勝負を続けていたのだが、突如フローゼルが吹き飛ばされた。

「私のキングドラを倒すことなんて不可能よ。キングドラ、ハイドロポンプ=I」

 相手が技の指示を出したので、咄嗟に防御の姿勢を取るマサシ達。
 だが、キングドラは技を出す前にその場から姿を消した。

「…! しまっ」


 ズドォォッ!!
 突然背後から、膨大な量の水を圧縮させた弾丸がマサシ達を襲った。
 一瞬早く気付いたとは言え、殆ど不意打ちに近い形で攻撃を喰らってしまった。
 浜辺に着地するが、背中がズキズキと痛んできた。

「キングドラの特性も、フローゼルと同じ『すいすい』だったな。この天候で、それを利用しない筈も無いか…」

「ねえ、そんな低いところに居ていいのかな?」

「…!?」

「カイオーガ、やりなさい」

 今度はカイオーガに指示を出すチルナ。
 すると、またしても巨大な津波を発生させてマサシを飲み込まんと襲い掛かってきた。

「フライゴン!!」

 咄嗟にフライゴンを出すと、マサシとフローゼルを拾って上空に飛び立った。

「な〜んだ、空を飛べるポケモンを持ってたんだ」

「(迂闊だった…。敵はあのキングドラだけじゃない、カイオーガも居る。実質これはキングドラとカイオーガを同時に相手にするダブルバトル。だが…)」

「カイオーガ、しおふき≠諱v

 空を飛ぶフライゴンを攻撃するべく、カイオーガに更なる指示を出し、海水を勢い良く上空に噴き上げさせた。
 咄嗟にフライゴンがはかいこうせん≠発射して攻撃を食い止める。
 だが、その隙にキングドラがれいとうビーム≠ナフライゴンを攻撃してくる。

「…ッ!!」

 弱点の氷技をマトモに喰らってしまい、フライゴンは力をなくして墜落する。
 咄嗟にマサシは飛び降りるが、その下でキングドラが待ち構えていた。
 当然のように、キングドラはマサシ目掛けて攻撃を仕掛けてくる。

 しかしそれは、ボールから繰り出したオーダイルによって阻止される。
 そしてそのまま落下しながらの打撃が、キングドラに炸裂した。
 ドンッ!!!

「ただの打撃じゃない。今のは、れいとうパンチ≠セ」

 着地して、姿勢を伸ばしてからマサシが語る。
 確かに、今オーダイルの打撃を喰らった箇所が凍結していた。

「水・ドラゴンタイプのキングドラに、氷系の技は普通のダメージにしかならない。だが、『究極段階<エクストラレベル>』発動中のオーダイルなら話は別だ」

「…!?」

 見た感じは、ごく普通のれいとうパンチ≠セった。
 にも関わらず、チルナのキングドラは瀕死寸前になるほどのダメージを受けている。
 それだけ、今の攻撃が強烈だったらしい。

「成る程ね。属性相性で大きなダメージが見込めない場合は、攻撃力でカバーするという訳?」

「まあ、そういう事だ」



―――と言ってもこれは、アヤ<あいつ>の受け売りだけどな…。

―――マスターリーグをここまで一緒に戦っているうちに、自然と身に付いてた。



「カイオーガ、遠慮しなくていいわ。全力で叩き潰しなさい。ハイドロポンプ=I」

 最早キングドラが当てにならないと判断したチルナは、いよいよカイオーガと共に自ら攻撃を開始する。
 初撃から繰り出されたのは、先程キングドラも繰り出した、水を極度に圧縮した弾丸。
 しかし、その破壊力は全く比較にならないほど強かった。

「究極段階<エクストラレベル>:ハイドロカノン=I!」

 迎え撃つべく、オーダイルも自身の最大レベルの技で応戦する。
 両者の攻撃が海上でぶつかり合い、膨大な量の水飛沫と衝撃波が拡散する。

「…ッ!」

 この衝撃波は、双方にダメージを残す結果となった。
 だが…。

「くっ…」

 マサシが膝をつく。
 先ほどのぶつか合いで、思った以上のダメージが発生してたのだ。

「幾ら水系最強の技を持ち出してきたとしても…。結局勝敗を分けたのは、素の攻撃力の差だったわね」

「チィッ…」

 チルナの言う事は、正論だった。
 オーダイルは水タイプながら、物理攻撃の方が得意なポケモン。
 対するカイオーガは、特殊攻撃能力が極めて優秀。
 根本的な能力差が露になっていた。

「それならエレキブル、かみなり≠セ!」

「な…!」

 マサシが次に繰り出したのは、エレキブル。
 そして上空から膨大なエネルギーを秘めた雷が、カイオーガを貫いた。
 ズドォォォンッ!!

「そんな…!エレキブルを持っているなんて、聞いてないわ…」

「お前がカイオーガを使ってくるって言う情報があったから、前もって手持ちのポケモンを入れ替えておいただけの話だ」

 …そう。
 実は前回の冒頭に訪れていた町で、ミサカからカイオーガを使うトレーナーがいると言う情報を得ていた。
 だがここで、もしも戦いになった際、決定打を与えられるポケモンが居ないことに気付いた。
 そこで、急遽手持ちのマニューラとエレキブルを入れ替えたのだった。

「エレキブル、もう一度かみなり≠セ!」

 そして先ほどと同じく、天から強烈な閃光と共に雷が降り注ぐ。
 雷撃がカイオーガに命中し、眩い発光と共に爆発が発生。
 電気系最大レベルの大技の2連発、マサシ自身も相当な手応えを感じていた。

「…どうだ」

 爆発の際に生じた煙の中から、カイオーガの姿を確認できるようになってきた。
 そこにあったカイオーガの姿は…。

「…!」

 所々に傷跡はあるものの、思っていたほどのダメージを与えられていなかった。
 カイオーガの全身がうっすらではあるが輝いており、それがダメージを軽減したようにも見える。

「まさか…、めいそう=I?」

「そうよ。幾ら伝説のポケモンと言えど、かみなり£の大技をそう何度も喰らっては危ない。だからその対抗策はちゃんと取ってあるのよ」

「めいそう≠ヘ特殊防御だけじゃなく、特殊攻撃の威力も上昇させる技…か」

「そうよ。何の強化もしてない状態の攻撃すら受け切れなかったあんたにして見れば、これは絶望的状況でしょ?フフ」

「…チッ」

 舌打ちをするが、現実は変わらない。
 現に先程、オーダイルが水系最強の技で勝負を挑むが、パワーは此方が負けていた。
 その上で更なる攻撃力の強化。
 傍から見ても、マサシの劣勢は明らかだった。

「だが、それでも俺は…!!」

「そろそろ終わりよ、あんたも。カイオーガ、やりなさい」

 カイオーガは止めを刺すべく、再びハイドロポンプ≠発射。
 最早マサシでは受け切れない程の威力を持った、水の弾丸が迫る。
 そして命中する寸前、チルナの表情に笑みが浮かんだ。

 …だが。

 パキィィンッ!!

「!!?」

 突然だった。
 カイオーガの放った巨大な水の弾丸が、一瞬にして氷の塊に変貌したのだ。

「な…!?」

「勝ち誇るのはまだ早いな。俺にはまだ、最後の手持ちポケモンが残っている」

 気が付けば、マサシの横にグレイシアが姿を現していた。
 そのグレイシアの発射した氷のエネルギーを持った光線が、凍りつかせたのだ。

「何よ、そんな抵抗をしてもそっちが負けるのは時間の問題なのに」

「それはどうかな。伝説のポケモンの力に頼っているからこそ、お前には隙が出来る。現に…」

 意味深な箇所で、マサシは言葉を一旦止める。
 チルナがそれを不思議に思った瞬間…。
 ドゴォンッ!!


「!!?」

 突然、足元が大きく振動した。
 否、カイオーガが突然悶えるほどの強烈な打撃を受けたのだ。
 良く見ると、先ほどのグレイシアがカイオーガに懇親の力を込めた打撃を喰らわせていた。

「だから言っただろう。今みたいな隙があるからこそ、俺はお前に勝てる」

「思ったよりもやるのね。これは少し、梃子摺りそうだわ」

 マサシVSチルナの、壮絶な戦い。
 これはまだ、嵐が到来する前の静けさに過ぎなかった。
 今よりも更に壮絶な全力の激突は、まだ先の話だった。







 Phase.42 伝説の3鳥





 ヨハロ地方中心エリアにある巨大な街、ベルスシティ。
 今この町も、炎に包まれていた。
 火の海と化したこの町の上空が、今や戦場となっていた。

 戦っているのは、カントー地方に伝わる3匹の伝説の鳥ポケモン、サンダー・ファイヤー・フリーザー。
 その3匹と相対するのは、身軽に町の高層ビルの屋上を飛び移る紫髪の青年トレーナー・ユキヤ。
 が、相手は自由自在に空を飛び回っているため思うように戦うことが出来ずにいた。

 戦いの最中、ファイヤーが動き出す。
 全身から眩い輝きを発しながら、ユキヤ目掛けて突進してきた。

「…」

 それに対してユキヤは、最初に攻撃させたバンギラスを再び繰り出す。
 そして攻撃を受け止める体勢を取った。
 ズガァッ!!

 ファイヤーが突っ込んだビルの屋上付近が崩壊する。
 煙が立ち込める中、ファイヤーが思い切り吹き飛ばされてきた。
 それと同時に、ユキヤが大きく跳躍して煙の中から脱出した。

「どうした!?」

 サンダーの背の上に立つ男が、ファイヤーの背の上に立つ女性トレーナーに問い掛けた。

「し、信じられない…。彼、バンギラスだけで私の攻撃を受け止めてた…!」

「馬鹿な…。幾らバンギラスと言えど、真正面からゴッドバード≠受け止めるなんて事が出来る筈…」

「おい、余所見をするな!危ない!!」

 会話をしていたから、反応が一瞬鈍っていた。
 その一瞬で間合いを詰めてきたグライオンの攻撃に、一瞬反応が遅れが出た。

「…っ!!」

 間一髪、微かに掠る程度で攻撃を避ける事が出来た。
 そしてグライオンが飛び出してきた煙の中で、ユキヤは立っていた。
 何事も無かったかのように。

「どうやら、一筋縄じゃいかない相手みたいだね。彼、相当な実力者だ」

「…うん。正直、舐めてた。けど、もう大丈夫。あんな不意打ちは二度と貰わない」

 不意打ちを喰らったものの、敵3人もすぐに体制を立て直し、改めてユキヤと対峙する。
 そんな折、今までずっと傍観していたフリーザーの背の上に立つ男が動く。

「僕が行く。あのグライオンさえ斃せば、多分彼に空を飛ぶ能力を持つポケモンは残らない。それに、グライオンと僕のフリーザーとの相性は最悪。負ける要素はないからね」

 それだけ言い残すと、フリーザーが3匹の中で一番前に出る。
 そしてグライオン目掛けて、氷のエネルギーを持った光線を発射。
 だがそれも、呆気なく阻止される。
 グライオンの背後から突如飛び出したサンドパンが、爪を一閃して光線を弾いた。

「やるね、この程度の氷技を防ぐのは造作も無いようだ。それじゃあ、ふぶき≠セ」

 攻撃が防がれるのを見ると、今度はその青い優雅な翼を羽ばたかせる。
 突風と同時に冷気が吹き荒び、グライオン達に襲い掛かる。

「サンドパン、すなあらし=v

 だがそれすらも、ユキヤには通じない。
 サンドパンが砂塵を含んだ竜巻を周囲を囲むように発生させ、フリーザーの攻撃を完全に遮断していた。

「この程度か」

「それはどうかな」

「…!?」

 その言葉で、ユキヤは初めて異変に気付く。
 竜巻の内部にいる2匹の身体が、少しずつ凍りつき始めていた。

「フリーザーによる直接の攻撃は、そのすなあらし≠ナ防がれている。だけどこの技に乗せられていた冷気は、少しずつそのすなあらし≠冷気で覆い始めているのさ」

「…サンドパン」

 ユキヤの指示に、サンドパンは軽く頷いた。
 そして先ほどと同じように、爪を縦に振り下ろす。
 結果、自分達の周囲を囲っていた竜巻が消し飛び、フリーザーの攻撃をも吹き飛ばした。

「ダイヤモンドダスト=I」

 その瞬間、事態は動く。
 たった今サンドパンが消し飛ばした砂嵐の砂塵一つ一つが凍りつき、空中に無数の氷の塊が出来上がった。
 そしてそれが、再び放たれた冷気の突風と共にグライオンに叩きつけられたのだ。

「…!」

 予想外の攻撃に、一瞬ユキヤの表情が変わる。
 直後、サンドパンがユキヤの目の前に着地。
 フリーザーの攻撃を喰らう前に、ギリギリで退避することが出来た。
 だが、グライオンは最大の弱点である氷タイプの直撃を喰らい、墜落していった。

「…」

 グライオンが戦闘不能となった事で、一気に形勢が不利になった。
 最早ユキヤの手持ちに、空を飛ぶポケモンは居ない。
 それに加え、手持ちの大半がフリーザーが得意とする氷攻撃に弱い。

 更に言えばそのフリーザーと同格の実力を持つポケモンが、2匹も残っている。
 ユキヤは次のポケモンとして、ガブリアスを繰り出す。

「フリーザー、ダイヤモンドダスト=I!」

 そこで再び、フリーザーが攻撃を仕掛けてくる。
 今度は空気中の水分を凝結させ、無限に氷の塊を撃ち出してきた。

「はかいこうせん=v

 そこを背後からバンギラスが援護する。
 ガブリアスに向けて飛んでいった氷の塊が、バンギラスの一撃で消滅した。
 その間にガブリアスが、ファイヤーの眼前に到達した。

「…!!」

「破壊爪<デストラクションエッジ>=v

 そしてユキヤお得意の、破壊爪<デストラクションエッジ>。
 それが、地面に向けて振り下ろす形でファイヤーに炸裂する。
 ドゴンッ!!!

「くっ、ぅ…!ファイヤー、持ち直して!」

 ファイヤーに指示を出すが、反応が無い。
 そのままファイヤーは地上に墜落。
 ファイヤーに乗っていた女性トレーナーも、気絶してしまった。

「…! まさか、あの時のグライオンの攻撃!? あれは、どくづき≠セったんだ!」

「今頃気付いたか。本当ならフリーザーに喰らわせるつもりだったが、距離的に届かなかった。だが、結果として貴様らのうちの1人を堕とした。十分だ」

「…っ」

 驚いていた。
 まさか仮にも伝説のポケモンの1匹として数えられるファイヤーを、こうも簡単に斃された事に。
 それと同時に感じていた。
 それ程の事を易々とやってのける彼、ユキヤの実力を。

「サンダーと一緒に仕掛けるよ。どうやら単独で戦っても、勝ち目は薄そうだ」

「解った!」

 こうして、2匹の鳥ポケモンは同時に動き出す。
 狙いを絞らせないよう、バラバラになり、規則性の無い動きで徐々に接近していく。
 ユキヤはそれに対し、フリーザーの居る方にボスゴドラ、サンダーの居る方角にサンドパンを配置した。
 そして、それぞれのバトルが始まる…!







 Phase.43 調査





 ヨハロ地方の某所に存在する、大会出場者の現状を逐一監視している大会本部。
 今ここではこの騒動の黒幕たる人物の調査が行われていた。
 現在の時点で、生き残っているトレーナーは24チーム、72名。
 必ずこの中に黒幕は紛れ込んでいると踏んで、必死の調査が行われていた。

 そんな中、この場所に入ってくる人物が1人。
 マスターリーグ開幕当初、マサシ達が戦った証を持つトレーナー:トウクだった。

「駄目でした…。僕の担当した区画に、それらしい不穏な行動を取っている大会参加者は見当たりませんでした」

 沢山並べられた机がある部屋で、その一番奥に佇むスーツ姿の老人。
 雰囲気から察するに、かなりの地位を持つ人物なのだろう。

「そうですか…。先日、ナリサからも連絡が届いていました。彼女の担当区画でも、それらしい行動を取っている参加者は居なかったようです」

「僕の担当は、ヨハロ地方北西エリア。そして彼女の担当が、北東エリア…。となると、自然とヨハロ地方の南部に黒幕が居る可能性がありますね」

「ヨハロ地方の南部を調査しているのは、ジグサ君とウェイガ君だったかな。彼らの報告を、待つ事にしましょう」

 今、大会参加者も含め、予戦突破の為の証を持つトレーナー4名も事態収拾に向けて動いている。
 4人がそれぞれ広大なヨハロ地方を4つに区分し、調査を続けていた。
 が、今のトウクが話したとおり、未だに進展は無い様子。

「とりあえず今は、少しでも敵の数を減らす事が優先です。他の3名にも、そのように通達してありますが…」

「今のところ被害が大きいのは、ヨハロ地方の南東エリアのヒダシティですね…。あの街は、既に水没したと聞いています」

「うむ。あそこには、伝説のポケモン・カイオーガを操るトレーナーが留まっていると言う情報もあるのじゃ。既に、何名もの大会出場者が返り討ちに遭っていると…」

「それに聞いた話によると、大会参加者の中に、連中のスパイが紛れ込んでいると言う事です。尚の事、黒幕の発見には時間が掛かりそうですね」

「トウク君。君は担当していた北西エリアの調査を打ち切って、ジグサ君かウェイガ君のどちらかと合流して協力して調査に当たってくれ。ナリサにも、別地区の調査を通達しておこう」

「お願いします」

 その老人に一礼すると、トウクは部屋を出て行った。
 老人は顔を床に向けて、一言呟いた。

「偶然……、では無いのだろうな。嘗てのマスターリーグに於ける、闇に葬られた歴史を知る者の復讐なのか」







 各地を転々としつつ、情報収集を続けているアヤ。
 彼女が今居るのは、チミスタウンのある森林地帯を抜けて、南西に進んだ先にある小さな集落。
 フジヤ達と別れた後、再び宛ての無いまま各地を転々としていたのだ。

「ふぅ…。ここ数日、ずっと動きっ放しだったから、少し疲れちゃった…」

 疲労の顔色を見せていたアヤは、簡易な宿泊施設の備わっている建物で休む事にした。
 ここはとても町と呼べるほどの機能は持っておらず、ポケモンセンターすらも存在していなかった。

「流石に、ちょっと休まないと…」

 アヤは限界が着たのか、入った部屋のベッドの上で横になると、そのまま眠りに落ちていった。





 どれ位の時間が経っただろうか。
 窓から見える空は、既に橙色に染まっていた。
 随分と長い間眠っていたらしい。

「…いけない、こんな所で眠ってる場合じゃ無かった…。マサシ達だって必死に頑張ってるのに、私だけ…。 !?」

 咄嗟にアヤは、口を閉ざした。
 と言うのも、窓の外から会話をする声が聞こえてきたからだ。
 それなら言葉を途中で止める必要は無いのだが、途切れ途切れに不穏な言葉が聞き取れた。



”調子………。 始末……、数…”

”問題無い。このまま、全員…”



―――抹殺…。




「…っ!!」

 身を隠しながら、会話をする2人の様子を伺うアヤ。
 見た感じ、会話をしているのは共に男性。
 しかもその内の1人は、マサシが持っているのと同じ端末を持っていた。

「(こっちからじゃ、顔が見えない…)」

 運の悪い事に、端末を持つ男は、アヤに背を向ける形で会話をしていた。
 そのため顔を確認する事が出来なかった。
 しかもさっきの途切れ途切れの言葉から推察するに、あの男はこの騒動の黒幕だと言う事を匂わせている。

「(数は2人…。だけどあの後ろ姿、どっかで見た覚えが…)」

 その男の身長は、およそ180cm前後。
 そして髪の毛の色は紅色で、肩ほどまで伸びる長さ。
 過去の記憶を掘り返し、今に至るまでの道筋を今一度思い返す。

「………。……、っ!」

 …思い出した。
 しかし彼女の表情は、焦りに満ちていた。
 どうやら、彼女にとって信じられない現実を知った様子だった。

「(嘘…。何で、あの人が…!? こんな事をする人には見えなかったのに…っ)」

 彼女の記憶の中に残るその人物と、今目の前にいる同一と思われる人物とのギャップに驚きを隠せない。

「(どうしてなの…? どうして、レクトさんが!?)」

 レクト。
 彼の姿を最後に見たのは、今から6年ほど前になる。
 彼もまた、マサシやアヤと同じくトーホク地方のフヅカタウンから旅立った者だった。





 レクトは、年代で言えばマサシの兄であるリュウイチよりも少し下。
 マサシ達がトレーナーになる2年前、彼もまたトレーナーとしての旅に出ていた。
 記憶の中にある彼の姿は、とても穏やかで優しく、誰にでも対等に接する人柄のいい男だった。

 …それが何故、今このマスターリーグで起こってる騒動の黒幕と成り果てているのか?
 アヤも彼と優しく接してもらった事があり、その記憶が余計に動揺を大きくしていた。

「(話を聞いてたような素振りで出て行ったら、怪しまれちゃう。 ここは…)」

 何らかの考えを持ち、意を決してアヤは彼らの前に出る。

「レクト…さん?」

 恰も、偶然この場に居合わせたかのような口調で彼らの前に姿を見せる。
 しかし内心、先ほどの話を盗聴していた事を気付かれていないかどうか、冷や冷やしていた。

「その声…、まさかアヤちゃんかい?」

 口調は、記憶の中にある彼と同じ。
 見た感じの雰囲気も、然程変わらない。
 だが何故か、彼に対する恐怖心が蔓延っている。

「レクトさんも…、今回のマスターリーグに出てたんだ。知らなかった…」

「はは。そりゃ前回の開催が、リュウイチさんが優勝した時だから、自然とこの大会で一緒になってもおかしくは無いよ」

「ところで…、そっちの人は?」

 アヤは、見るからに怪しい衣服を身に纏う男に視線を配り、質問をぶつけた。

「ああ、キスクは俺のチームメイトだよ。見た感じがこんな風だから、ちょっとビビったか?」

 アヤをからかうように笑いながら、レクトは質問に答えた。
 そんな態度のレクトに釘を刺すように、キスクと呼ばれた男が語りかける。

「………レクト」

「…うん、解ってる」

 一瞬首を傾げるアヤだったが、直後に全身が震え上がった。
 レクトの繰り出したメガニウムが放ったはっぱカッター≠ェ、彼女の衣服を掠めるように飛んでいったからだ。

「レクト…さん?今は、大会は中断している筈よね?何で…」

「ねえ、アヤちゃん」

 ここまでは、記憶の中にある通りのレクトだった。
 だが…。



―――さっきの俺らの話、何処から聞いてた?




「―――っ!!」

 咄嗟にバックステップで彼らとの間合いを取る。
 その瞬間、アヤの全身から夥しい量の冷や汗が流れ落ちていた。



 目の前にいる彼に対する恐怖心が、一気に爆ぜた。

「気付いて……、いたの?」

「俺は何となくだったけど、キスクは完全に察していたみたいでね。自然に会話をしながらも、君の事を伝えてくれたのさ」

「それじゃあ、偶然この場に居合わせたような振りをした私に、自然に応対したのは…」

「より確実に君の口を塞ぐように、不意を衝くための芝居だよ」

「…」

 警戒心を剥き出しにしていたアヤだったが、突如全身から力を抜く。
 その態度の変化に、レクトも一瞬戸惑いを見せた。

「……レクトさん、一体何があったの…?」

「…?」

「旅に出る前のレクトさん、凄く優しかった…。こんな事をするような人には見えなかった…!」

「! アヤちゃん」

 俯けていた顔を、再びレクトに向ける。
 そのときの彼女の瞳からは、雫が零れ落ちていた。

「一体、あの優しかったレクトさんに何があったの!? こんな事をするのが貴方の本性だなんて思えない! 昔の、あの頃のレクトさんはどうしちゃったの…?」

「アヤちゃん、確かに君の記憶の中にある俺は、紛れも無い本心だった。だけど、今のこの状態を引き起こしている俺もまた、俺の本心だ」

「…!?」

「旅を続けていくうちに、人間ってのは変化するものだよ。俺も、旅を続けてこの大会に辿り着いたからこそ、今の俺がある」

「……」

「悪いけど俺の為に、消えてくれ。アヤちゃん」

 そこで言葉を止めて、メガニウムにハンドシグナルで指示を出す。
 メガニウムは頷くと、首元にある花に光を集め始める。

「ソーラービーム=v

 メガニウムの集めたエネルギーが、光線となって発射される。
 そしてそれは砲弾の如き勢いでアヤに命中し、大爆発を巻き起こした。

「済まないね。長い旅の果てに辿り着いた君のマスターリーグも、ここでお終いだ」

「……やっぱり、本気なのね。レクトさん…」

「!」

 たった今攻撃を仕掛けた方角から、アヤの声が聞こえた。
 再確認の意味も含めて、レクトはその方角に視線を向ける。
 そこには、アヤの盾となるような形でバクフーンが立っていた。

「今の攻撃で、漸く決心を付けられた…。本気で、私を潰しに来ていると言う事を理解できたから!」

「…」

「もう、貴方を前にして戸惑うことは無いわ。今度は…、私の番!」

 アヤがその言葉を発した時には既に、バクフーンが力を蓄え、攻撃する準備を完了させていた。
 そして、途方も無い熱がバクフーンから発生する。

「この一連の騒動の黒幕、レクト!貴方は、私が斃す!オーバーヒート=I!!」

 戸惑いを振り切り、アヤは戦う決心を固めた。
 そしてその決意を象徴するかのような、バクフーンの強烈な炎技が発動。
 その巨大な炎はレクト達に向けて放たれ、一瞬発光すると巨大な爆発が発生。
 レクト達を、その巨大な爆発が覆い込んでいった…。







 To Be Continued






後書き
うわ〜、解ってた事だけどやっぱり1話でバトルを収め切れなかった…。
次回辺りで全部を終わらせるのは……、難しいなぁ(汗)。
まあ、次回も全体的にバトルシーンばっかりになりそうな予感(滅)。

そんな訳で、色々と大変な流れになったわけですが、何とかやっていこうと思います。
では、次回をお楽しみに。

 

[一言感想]

 マサシvsチルナ、結構互角な戦いになりそうです。
 ユキヤvs伝説三鳥、どうやら裏ではそれを操る者がいるようです。
 アヤvsレクト、知り合いた敵にまわっていて、彼女にとってはショックな展開かも。

 

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