ヨハロ地方各地で、未だに激闘は続いている。

 伝説のポケモン・カイオーガを相手にするマサシ。

 カントー地方に伝わる、伝説の3鳥を相手にするユキヤ。

 …そして、この騒動の黒幕でもあるレクトと対峙するアヤ。

 このヨハロ地方全域にも及ぶ事態も、一時の収束に向けて流れ始めていた…。






COM マスターリーグ編
第13話
災禍週間(5)







 Phase.44 旧友との死闘





「オーバーヒート=I!!」

 アヤの、戸惑いを振り切った一撃が放たれる。
 バクフーンの放った炎は、巨大な球体となってレクトに襲い掛かる。
 ズドォォォォンッ!!!


「…!」

 攻撃は確かに直撃した。
 ダメージを与えた手応えも感じられた。
 なのに、何故…。

 何故か、アヤの全身から冷や汗が滴り落ちていた。

「…っ、予想以上の攻撃力だね…。驚いたよ」

 外見では、確かに傷跡がある。
 ダメージを与えたと言う事を、改めて実感する事も出来た。
 だが、それでも相手からすれば些細な出来事だったという態度。

 …今の攻撃は、紛れも無く懇親の力を込めて放ったもの。
 それをまともに喰らって、あの程度で済ます。
 必然的に、敵との実力差を自分から露にしてしまった事に他ならない。

「今度はこっちの番だ。この攻撃、耐えられるかな?」

「…!」

 メガニウムから、無数の葉っぱが宙に飛び出し、舞った。
 そしてその葉っぱ全てが円を描くように動き出し、一つの巨大な竜巻を巻き起こす。
 その竜巻を、アヤ達目掛けてぶつけてきた。

「何よ、単なるリーフストーム≠カゃない。 ライチュウ、ひかりのかべ=I」

 相手の攻撃を咄嗟に判断して、それに対応した防御技を展開した。
 だが…。

「…っ!!?」

 ひかりのかべ≠ナ特殊攻撃の威力をある程度落としたにも関わらず、全員が吹き飛ばされるほどの衝撃を喰らった。
 上半身を起こしながら、アヤは信じられないと言う表情を見せていた。

「(そん…、な!?リーフストーム≠ヘ特殊攻撃だから、ひかりのかべ≠ナ威力は落ちた筈なのに!?)」

「どうしたんだい、この位の攻撃も防ぎきれないのかな?」

「…っ!」

 レクトの挑発に促されるかのように、アヤとポケモン達は身体を起こす。
 すると、レクトは再び先ほどの技を撃つ準備を始める。

「やっぱり防御は私の性に合わないわ。相手の攻撃は、それ以上の攻撃で打ち消す!」

 アヤの前に立つのは、バクフーンとライチュウ。
 向かってくる葉っぱの竜巻に、バクフーンが全力の炎を発射して迎え撃つ。
 だが、バクフーンの炎はメガニウムの技の前に簡単に打ち消される。

「(相性が良い炎タイプの技をぶつけてるのに…! やっぱり、さっきのオーバーヒート≠フ影響が痛いわね…)」

 オーバーヒート≠撃った事で、バクフーンの火力は低下していた。
 それが、メガニウムの攻撃を阻止できない理由の一つでもあった。
 だが、それ以上に…。

「あのメガニウムが強い…! 特殊攻撃で防げないなら…、バースト・ストライク=I!」

 アヤは、いきなり最強の技を繰り出すことを判断した。
 膨大な熱とエネルギーを持った炎を全身に纏い、突進する姿勢に入る。
 そして…。
 ダッ!

 地を蹴り、バクフーンは走り出す。
 橙色の炎の球体と化したバクフーンが、メガニウムの攻撃を真正面から迎え撃つ。
 お互いの攻撃が激突した瞬間、強烈な発光と共に凄まじい衝撃と炎が辺り一帯に四散していく。
 ドゴォォォッ……!!

「っ…!」

 凄まじい衝撃だったので、アヤとレクトは腕で顔を覆っていた。
 時間の経過と共に衝撃波は勢いを弱めていき、やがて完全に静寂を取り戻した。
 そして2人は、状況を確認する為に目を凝らす。

「どうやら、今度は私の攻撃が勝ったみたいね」

 爆発の際に生じた白煙の中から現れたのは、ダメージを受けて身体を低く落とすメガニウムと、悠然と佇むバクフーンの姿。
 しかもバクフーンは、最大レベルの技を繰り出したにも関わらず、まだ体力に余裕があるような態度を見せている。

「(私も、このマスターリーグに来てから何もしてなかったわけじゃない…。今まで、これはここぞと言う時にだけ使う切り札的な技だった…。だけど、ここではその切り札を頻繁に使えるようじゃないと、とても勝ち抜けなかった…)」

 アヤが思い返すのは、暇を見つけてはバクフーンの特訓の光景。
 少しでも負担を減らす為の微妙な力加減、基礎的な体力の向上などだった。

「(お陰で、今では休み無しでも何回か使えるようにはなった。これなら行けるけど…)」

 心の中での思考を一旦中断し、アヤはバクフーンに呼びかける。

「バクフーン、一度下がって休んでて。さっきのオーバーヒート≠ナ落ちた攻撃力を回復させて」

 アヤの言葉に頷くと、バクフーンは一度ボールの中に戻った。
 そして代わりに、彼女はムクホークをボールから繰り出す。

「ブレイブバード=I!」

 そして先程のバクフーンと同様、出だしから最大レベルの大技を指示。
 水色の光を放つ高密度のエネルギーを全身に纏いながら、上空からメガニウム目掛けて急降下する。

「甘い!」

 だがそれも、メガニウムの攻撃によって阻止される。
 無数の葉っぱの渦を巻く動きによって生じた竜巻に、吹き飛ばされる。

「敵はムクホークだけじゃないわよ!ライチュウ、10まんボルト=I!」

 ムクホークに意識が向いている隙を衝き、ライチュウが電撃を発射する。
 だがそれも、素早い反応により難なく阻止される。

「メガニウム、ハードプラント=v

 メガニウムが雄叫びをあげると、突如としてメガニウムの足元から、太い蔦が無数に生えてきた。
 そしてその蔦がライチュウの電撃を遮り、アヤ達を纏めて吹き飛ばす。
 バキィッ!

「くぅっ…!(さっきの攻撃で相当なダメージを受けている筈なのに、このパワー……)」

 辛うじて身体を起こすアヤだが、あのメガニウムの底知れない攻撃力を前に、勝機を見出せずに居た。

「特性の……、『しんりょく』が発動してるみたいね…。だとすれば、あとちょっとで斃せるって事ね」

「リーフストーム=I」

 これで何度目だろうか。
 渦を巻いた葉っぱと共に、竜巻がアヤ達目掛けて襲い掛かってくる。

「バクフーン!!」

 アヤは、ここぞというタイミングで再びバクフーンを繰り出す。
 そして…!

「ブラストバーン=I!!」

 炎タイプ最強の技を指示。
 バクフーンの放った巨大な炎の塊が、メガニウムのリーフストーム≠真正面から迎え撃つ。

「無理だね。見た感じ、このブラストバーン≠謔閧烽ウっきの技の方が威力が上だ。それに加えて、こっちは特性の影響で威力が増大している。君に勝ち目は無いよ」

「それはどうかしら?この技のぶつかり合い、私の勝ちよ」

「!?」

 結果は、アヤの宣言どおりだった。
 メガニウムの攻撃を完全に抑え込み、逆にバクフーンの攻撃を真正面から浴びてしまった。
 この攻撃で、遂にメガニウムは崩れ落ちた。

「リーフストーム≠ヘ、草タイプの中ではかなりの大技。その反動で、さっきのバクフーンみたいに攻撃力が低下しても不思議じゃなかったのよ。私は…、こういった大技の扱いを頻繁に行う以上、こういったリスクの事も自然と把握しちゃうのよ」

「…成る程」

「それと、今までずっと貴方が指示していたリーフストーム≠焉Aただの技じゃなかったんでしょ? 多分、はっぱカッター&モりと混同して攻撃してた。だからライチュウのひかりのかべ≠ナ防げなかったのよ。はっぱカッター≠ヘ、物理攻撃だからね」

「良く見てるね…。だけど、ここまではただの前座に過ぎない。本番はここからだ、マスターリーグを優勝した頃のリュウイチさんとも対等に渡り合った俺の真の力を、見せてあげるよ」

「(ここからが、本番…!!)」

 未だに底の知れない、レクトの実力。
 その本領が、少しずつ露になる…。







 Phase.45 マサシ、散る!?





 時は、アヤがレクトと戦っている集落に到着した頃にまで遡る。
 ヒダシティに於いて、マサシとチルナの激闘は未だに続いていた。



 バキバキバキィッ!!
 ヒダシティ海上を、猛烈な寒波が吹き荒ぶ。
 海面一帯を凍結させながら、カイオーガにもその強烈な冷気が襲い掛かる。

「…っ!!」

 カイオーガは凍結こそ免れたものの、マサシが新たに繰り出した一匹のポケモンの登場で、一気に形勢は傾き始めていた。

「グレイシア、もう一度ふぶき≠セ!!」

 マサシの繰り出したグレイシアを前に、伝説のポケモンであるカイオーガでさえも、防戦一方となっていた。
 何とかカイオーガの負担を減らそうと、チルナは新たにミロカロスを繰り出す。

「ミロカロス、ハイドロポンプ=I」

「ミラーコート=I!」

 ミロカロスが発射した水の弾丸を、グレイシアは敢えて避けなかった。
 だがその代わり、グレイシアの全身を包むように放たれていた光が、同じように弾丸となってミロカロスを撃ち抜いた。

「カイオーガ、しおふき=I!」

「…チィッ!!」

 グレイシアは、ミロカロスの攻撃を返したばかりで、カイオーガの攻撃にまで手が回らなかった。
 よってマサシ達は、カイオーガの攻撃をまともに浴びる事になる。

「くっ…。だが、ミロカロスは後一撃で…」

「じこさいせい=v

「…!」

 だが、少しでも休息を取ればミロカロスは回復に回ってしまう。
 結果的に、少しずつではあるがマサシ達に疲労が蓄積していく事になる。

「それなら…。エレキブル、ミロカロスにかみなり=I!」

 ドゴォォォンッ!!
 エレキブルが呼び寄せた天から降り注ぐ雷が、ミロカロスを捉えた。
 凄まじい光の中で、ミロカロスは水で形作られた輪を自身を囲うように停滞させていた。

「アレは…!」

 良く見ると、その輪からエネルギーがミロカロスに向けて注がれていて、それがミロカロスのダメージを回復させていた。

「アクアリング≠ゥ…!」

「そう、ミロカロスの強さはこの体力回復効果を持つ技の豊富さ。このミロカロスを前に、持久力勝負をして勝てる相手は居ないわ」

「それなら集中攻撃で一気に撃破する!エレキブル、10まんボルト=I グレイシア、ふぶき=I!」

 マサシが繰り出している2匹のポケモンが、ミロカロスに集中砲火を仕掛ける。
 それに対して、ミロカロスは自分の周囲を囲っていた水のリングをアクアテール≠ナ此方目掛けて打ち出してきた。

「構うな、全力で攻撃しろ!!」

 マサシはあの攻撃が単なる足掻き程度と判断して、躊躇わず攻撃を続行する。
 だが…。

「掛かったわね、それはただの攻撃じゃないわ」

「…何っ!?」

 よく見ると、打ち出されたアクアリング≠ノエレキブルの電撃とグレイシアの冷気が吸収されていた。
 否、そればかりか吸収したエネルギーをも我が物として、逆にマサシ達に強烈なダメージを叩き込んだのだ。

「ぐぅっ…!!」

 顔を引きつらせて、膝を落とすマサシ。
 グレイシアはまだある程度余裕を見せているが、エレキブルは既に限界が近付いている様子だった。

「さっきから、大技のかみなり≠連発していたからか…。エレキブルは一旦下がれ」

 多少でも体力の回復を見込んで、マサシはエレキブルを一旦バトルから下がらせた。
 そして、先程ミロカロスの繰り出した技に対して思考を始める。

「ただの攻撃じゃない…。こっちの攻撃を吸収し、その威力を上乗せする…か。だが、あの手の技は打撃に弱いのが定石だ。だったら、フローゼル!!」

 そこで、メンバー中随一の打撃攻撃力を誇るフローゼルを再び繰り出す。
 そして初っ端から最大技であるハイドロインパクト≠繰り出す。
 膨大な量の水を纏い、猛烈な勢いでミロカロス目掛けて突進する。

「ミロカロス、あのフローゼルも返り討ちにしなさい!」

 チルナの指示で、ミロカロスは圧縮された水の弾丸を発射して迎撃。
 これでフローゼルの突進は食い止められてしまうが、その隙を衝いてグレイシアがミロカロスの頭上に回りこむ。
 そして至近距離から、強烈な寒波を浴びせた。

 結果、ミロカロスは全身が凍りつき、海中に落下した。

「油断したな。フローゼルは、単なる陽動だ」

「フフ、意外ね。私と同じ事を考えてたなんて」

「何…?」

「あんたがミロカロスの相手をしていた間、カイオーガはめいそう≠ナ攻撃力を最大レベルにまで高めさせてもらったわ」

「…!!」

「流石にもう手が付けられないんじゃないかしら?」

「試してみろ!フローゼル、ハイドロインパクト=I!!」

 ミロカロスに向けて繰り出したのと同じ、膨大な水を纏った猛スピードの突進。
 それをカイオーガは、たった一発の水の弾丸で吹き飛ばす。
 バシィッ!

「なっ!?」

 しかもその距離が尋常ではなく、目算で町の外まで吹き飛ばされたのは確実だった。

「これで解った?もうあんたに、このカイオーガに対抗できる手段は残されていないって事。カイオーガ、しおふき=I」

 カイオーガが天空に向けて吹き上げた海水が、水飛沫のように広範囲に降り注ぐ。
 最大限に高められた攻撃力で繰り出されたそれは、飛沫の一つ一つが地面に大穴を開けるほどの威力。
 それが山ほど降り注いできたのだから、堪らない。
 マサシも、思い切り吹き飛ばされ、廃屋の一つに背中から飛び込んでいった。
 ドガンッ!

「ぐふっ…」

 目の前が、霞んできた。
 今の一撃で、相当強いダメージを受けてしまった。
 意識を保つのでさえ、困難になってきた。

 敗因は、単なる自分の不注意。
 ミロカロスにばかり目が行き過ぎて、カイオーガへの注意が散漫になったこと。
 尤も、今更それを悔いたところでどうにかなるわけでもなかった。

「(やっぱり、早いうちにカイオーガを何とかするべきだった…。あそこまでの攻撃力を持たれると、流石に手に負えるレベルじゃない…。それに…)」

 試しにマサシは、身体を動かそうとしてみる。
 だがその瞬間、全身を猛烈な痛みが襲う。

「(吹っ飛ばされた時、何処かやられたな…。この廃墟郡に潜んで、少しでも回復しないと…)」

 敵はまだ、海上にいる。
 それにカイオーガは、水上及び海中でしか活動が出来ないポケモン。
 海面から程離れたこの場所なら、多少は危険性も下がる。

 身を隠すには、絶好の場所だった。

「少し…、甘く見てたか…。こんな事なら、さっさと…」

 意識が、朦朧としてきた。
 目の前に広がる景色も、少しずつ黒一色に染められていく。
 そして…。


 完全に、視界が闇に閉ざされた………。







 Phase.46 陥落





 ベルスシティ上空で、2匹の鳥ポケモンが旋回してる。
 その2匹をビルの屋上で見据える、ユキヤ。
 現在、ユキヤはボスゴドラ・サンドパンを繰り出し、それぞれフリーザー・サンダーと戦っている。
 …が、相手は空を自由に飛び回る事ができる為、思うように戦うことが出来ずにいた。

 サンドパンはその身軽な身体能力を駆使し、空中でも何とか戦えるのだが、巨体ゆえの重量を持つボスゴドラはその戦い方は出来ない。
 それを相手も見抜いているからこそ、わざと打撃系の技を使わずに、遠距離から攻撃してくる。
 次第に、ボスゴドラだけが一方的にダメージを蓄積していく…。

「…すなあらし=v

 ユキヤの指示は、ボスゴドラへのものだった。
 指示を受け、ボスゴドラは周囲に砂塵を含んだ竜巻を発生させる。
 だが…。

「忘れたのか?さっきその技のせいで、フリーザーのダイヤモンドダスト≠ナ手痛い目に遭ったことを」

「行け、ボスゴドラ」

 更にユキヤは続けて指示を出す。
 考えを理解したボスゴドラは、右腕に力を集め始める。
 サンドパン達が使う、破壊爪<デストラクションエッジ>≠ニ同質のエネルギーだった。
 そのエネルギーを込めた右腕を、力いっぱい振り抜く。

「…!」

 振りぬいた際に生じた衝撃波が、ボスゴドラの周囲で発生していたすなあらし≠も巻き込み、砂塵の突風と化した衝撃がフリーザー達に襲い掛かった。

「くっ、こんな攻撃が…!?しかもこれは、遠距離に範囲の及ぶ物理攻撃…!」

「破壊爪<デストラクションエッジ>=v

 そして今の攻撃で怯んでいた隙を狙い、サンドパンが空中に飛び出す。
 ほんの一瞬でフリーザーとの間合いを詰めると、得意の超威力の打撃を叩き込む。
 ドゴンッ!!!


 攻撃自体は、先程ファイヤーに繰り出したのと同じもの。
 だが、違う点が2つ。
 一つ目は、繰り出したポケモンがガブリアスではなく、サンドパンだったこと。
 そしてもう一つが…。

「……っ!!?」

 さっきのガブリアスの攻撃を見た感じでは、自分ではまだ何とか持ち堪えられそうな威力だった。
 なのに、このサンドパンの攻撃力は、その予測を遥かに上回っていた。
 その打撃と共に遅い来る衝撃が、フリーザーを凄まじい勢いで吹き飛ばす。

「がっ…!!」

 その猛烈な勢いの中、意識を持っていかれそうになる。
 が、フリーザーの身体にしがみ付きながら辛うじて意識を保っていた。

「終わりだ」

 尤も、その行動すら全く意味が無くなる。
 既にサンドパンが上空で、次なる攻撃の姿勢に入っていた。
 止めの一撃として、上空から地上目掛けて殴りつける。
 ドンッ!!

「ぐああっ!!」

 地面に叩きつけられた衝撃で、フリーザーの背の上から投げ出された。
 トレーナーは勿論、フリーザーも既に戦闘不能となっていた。
 これで、残るはサンダーのみ。

 尤も…。

「ぅ、ぁ…」

 相手に、戦意が残っていればの話………だが。
 サンダーの背の上に立つトレーナーは、相性の悪さとユキヤとの実力差を前に、完全に戦意を喪失していた。
 最早、勝負はついた。







「貴様達は、このヨハロ地方に紛れ込んだ連中の中で、最大級の力を持っていたと聞いていたが?」

 撃破した3人を捕らえ、ユキヤは話を伺っていた。
 とは言っても、はっきりと意識があるのは、サンダーの主だったトレーナーのみ。
 他の2人は、ユキヤにやられてまだ意識が戻っていなかった。

「もう、伝説系を持つトレーナーも殆ど斃されたよ…。そういう情報は、すぐに全員の下に届く事になってるから…」

「まだ、生き残っている奴は居るのか」

「僕達は、ある人の配下だった。その人がやられたっていう情報は、まだ届いてない…」

「それは、誰だ」

「…それは」

 その男が、口を開く。
 そして同時に聞かされる。
 彼ら3人の上に立つトレーナーこそ、今このヨハロ地方に居る伝説系を操るトレーナーの中で、最強を誇る存在…。

 その人物の名は、チルナ。
 カイオーガを操る、マサシを追い詰めつつあるトレーナーの名前だった…。
 無論、ユキヤにはマサシが生死の境に瀕している事など、知る由も無かった。

「チルナ様は……。ヒダシティ付近で、活動してるよ。あの人に勝てる奴なんて、居ない…」

 その言葉を最後に、すっかり黙り込んでしまった。



 ユキヤは、少し前の出来事を思い出す。
 それは、マサシが敵の情報を掴んだと言う事を報せてきた時のこと。
 その時マサシは、ヒダシティに向かうと言っていた。
 つまり、ユキヤの中で自然とマサシとチルナが激突するという構図を作り上げさせた。

「(アヤからは、連絡が無いままか…。何が起こっている)」

 敵の数は、徐々に減りつつある。
 にも関わらず、心のどこかで不安を感じていた。







 Phase.47 満身創痍





 発光と共に爆発が発生し、烈風が吹き荒れる。
 その衝撃に、少女1人は軽々と吹き飛ばされる。
 否、少女だけではなく、彼女のポケモンも共に。

「うっ…、く…」

 その少女は、水色の髪の毛をしていた。
 衣服はあちこちが擦り切れていて、顔にも傷が目立つ。

 そして彼女の前に立つバクフーンもまた、相当な傷を負っている。

「はぁ、はぁ…」

 彼女、アヤは未だに戦意を失っていなかった。
 だがこの状況、敵との力の差は圧倒的だった。

 敵のポケモンは、バクオング一匹だけ。
 だが、そのバクオングの放つ鼓膜を破りそうなほどの大声。
 それが強烈な衝撃となり、歯向かう敵を悉く平伏せていく。

「っ…、ぅ…」

 既に、アヤのポケモンは殆どが戦闘不能。
 辛うじて戦うだけの体力を残しているのは、バクフーンとエーフィだけだった。

 この2匹が、同時に攻撃を仕掛ける。
 バクフーンが、特性の効果も加わった巨大な火炎。
 エーフィが、それに全く劣らないパワーを持ったエスパーの衝撃波。
 だが、これ程の攻撃を敵のバクオングの叫び声による音波で、容易に掻き消す。
 否、それどころかその余波だけで2匹を吹き飛ばした。

「(強い…。あのバクオングに、半端な攻撃じゃ通じない!バースト・ストライク≠ナも通用するかどうか解らない…。だったら、もっと攻撃力を…。何者にも決して防げないような、究極のパワーを…!)」

 アヤの思考を理解しているのか、バクフーンも力を貯め始める。
 今の自分の持てる力、全てを次の一撃で出し切る勢いで…。

「違う…。ただ単純にパワーを高めるだけじゃ、あの人には通じない…。せめてバースト・ストライク≠、これと同等の威力の技を同時にぶつける感じじゃないと…」

 必死に、色々な考えを張り巡らせるアヤ。
 両目を閉じ、思考を張り巡らせる事に集中する。

 その状態を続ける事、およそ数十秒。



 ……何かが、アヤの中で閃いた。

「………、ぶっつけ本番だけど…。やってみるしかないわね」

「…?」

 この状況において、アヤは未だに戦う意思を消さない。
 単なる悪足掻きに過ぎないと思っていたのだが、アヤは何故か笑みを浮かべていた。
 トルクも、一瞬背筋に悪寒が走った。
 …何か、途轍もない事をやらかすのではないか…と。

「行くわよ、バクフーン!!」

 その言葉を待ってたと言わんばかりに、バクフーンは橙色の炎を全身に纏う。
 バクフーンは、前屈みになって攻撃の準備を整えた。

「バクフーン、解ってるわね?この技は、タイミングが命。一瞬でもタイミングがずれたら、この技の破壊力は発揮できないわ!」

 『解っている』とでも語ろうとするかのように、バクフーンはアヤの方を振り向いて頷いた。

「これで…、勝負よ!バーストストライク・ツインブラスト=I!!」

 技名こそ変わっているものの、攻撃自体は先ほど繰り出したのと全く同じ。
 膨大な熱を持った炎を全身に纏った、一直線の突進攻撃。
 だが、先ほどとは異なっている点があった。

「…これは!?」

 突進しながら、バクフーンは更に炎のエネルギーを集め始めていた。
 バースト・ストライク≠ニは別の…。
 そう、敵目掛けて発射するためのエネルギーを別に貯めていたのだ。

「教えてあげるわ。バーストストライク・ツインブラスト≠チて言うのは、バクフーンの持つ技の中で最大レベルの威力を持った2つの技を、ほぼ同時に相手に叩き込む技。一つは、見ての通りバースト・ストライク=Bそして、もう一つが…」

「ブラストバーン≠ゥ…!!」

 アヤの攻撃を理解したところで、今更何が出来る訳でも無し。
 バクフーンは、既にバクオングのすぐ目の前にまで迫っていた。
 咄嗟にハイパーボイス≠ナバクフーンを食い止めようとするのだが…。

「無駄よ!今更その程度!!」

 バクフーンの持った膨大なエネルギーに、それは全く意味を成さなかった。
 そして…。
 ズドォォォォォンッ!!!!!



 バースト・ストライク≠ナバクオングに激突したと同時に、今まで別に貯めていた炎エネルギーをも解放。
 2つの強大な炎技が連鎖して、途轍もない規模の大爆発を巻き起こす。
 その爆発は、2人が今戦っていた集落の家屋全てを吹き飛ばすほどに凄まじかった。

 最早、二人の建つ場所は、何も存在しない更地と化していた。

「…!!」

 バクオングは、立っていた。
 ダメージを与えた手応えは、確かにあった。
 にも関わらず、その結果が目の前の光景だった。

「失敗した…。タイミングが、まだ完全じゃなかった…」

 アヤは、悔しさのあまり歯を噛み締める。
 折角の起死回生の一撃ともいえる技が、不完全なまま終わってしまったのだから。



 …そして。

「ふぅ、流石に今のは危なかった…」

 一瞬焦りの表情を見せていたレクトだったが、今はすっかり落ち着きを取り戻している。

「バクフーン…」

 アヤの元に戻ってきたバクフーンだが、呼吸が荒い。
 あれだけの大技を発動した直後、体力の消耗が半端なレベルではなかった。

「そんな…」

 残りのアヤの手持ちは、エーフィのみ。
 だが、そのエーフィとて既にかなりの力を消耗した状態。
 敵の手持ちの数が解らない以上、この状況は絶望的だった。

「さて…と。これで、万策尽きたようだね。それじゃあ、そろそろ終わらせようか」

 そう喋りながら、レクトは新たなボールを手に取る。
 その中から現れたポケモンは、ボーマンダ。
 それを見た瞬間、アヤの表情から光が消えた。

 …もう、勝ち目が残されていないという、絶望に満ちた表情だった………。

「ボーマンダ、ドラゴンクロー=I」

 完全に戦意を失ったアヤに、容赦なくボーマンダの爪が振り下ろされていった…。







 危機に瀕しているのは、ヒダシティで戦うマサシも同じだった。
 カイオーガの強烈な一撃をまともに喰らってしまい、一時は意識を失っていた。
 そして今、何とか意識を取り戻す事は出来たものの、身体を満足に動かせない状態。

「…っ」

 マサシは今、意識が戻ったばかり。
 だからこそ、一瞬気付くのが遅れてしまった。

「見〜つけた」

「…!」

 壁に凭れ掛かるマサシの目の前に、チルナの姿があった。
 彼女は、ボロボロのマサシを悠然と見下ろしている。

「くっ…」

「まだ意識があったのね。本当、無駄にしぶといわね。 …でも」

 そこで一旦言葉を止めて、チルナは更に別のポケモンを繰り出す。
 中から現れたのは、エンペルト。

「(エンペルト……だと?)」

「流石のあんたでも、これ喰らえば終わりでしょ。エンペルト、アクアジェット=v

 壁に凭れ掛かっているマサシに、容赦ない攻撃が襲い掛かる。
 水を撒き散らしながらの猛スピードの突進が、マサシの身体にめり込む。

「ぐふっ……」

 その後…。
 マサシの視界は再び暗闇に閉ざされる。
 そしてマサシの身体も、前のめりになりつつ、うつ伏せに斃れ伏していった………。







To Be Continued





後書き
今回の話…。ぶっちゃけ前回と比べてほとんど進展無くない?(ぁ)
こうなる事だけはどうにかして避けようと頑張ったつもりだったんだけど…。あ〜あ(何)。

とりあえず、次回で何とかして終わらせたいですね。そしていい加減大会路線に戻さないといけないから(汗)。
次回もまたバトルシーンばっかりになりそうな予感がするけど…。こればっかりは仕方ないかなぁ(滅)。

とりあえず次回もお楽しみに。

 

[一言感想]

 バトルシーンばっかりになる時は、予想外なことを用意してやると盛り上がる事はありますね。
 あとは、3つのバトルを同時に進めようとするより、1つずつ消化していく方が見やすくはなるかも。
 物語の核心に迫るようなネタ明かし等があると、面白いかも。

 

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