少年は、無残にもうつ伏せで石畳の地面に倒れ伏していた。
降り頻る雨の中、彼は…。
COM マスターリーグ編
第14話
災禍週間(6)
Phase.48 新たな力の鼓動
言葉を発する事も出来ないまま、視界は真っ暗になった。
マサシは、雨が降り頻る町の中で、無残にも斃れ伏していた。
「ふぅ。今までの敵と比べて、少し手強かったけど…。これで、終わりね」
斃れるマサシに背を向けて、チルナは町の外へ向けて歩みだす。
「……!」
だが、そんな彼女に攻撃を仕掛ける存在があった。
マサシが斃れて尚、ボールから出た状態だったグレイシア。
不意を衝く形で、背後からチルナに突っ込んでいく。
まさかトレーナーの指示も無く、単独で行動するとは思っていなかったのだろう。
この攻撃に全く反応が出来ず、エンペルトが吹き飛ぶ。
ドゴンッ!!
「…へぇ。トレーナーの指示なしでここまでやれるなんて、流石ね。でも、今更貴方1人じゃ何も出来ない。カイオーガ、止めを刺しなさい!」
グレイシアの背後から姿を現す、カイオーガ。
先程マサシを吹っ飛ばした時と同じように、水系最強の技しおふき≠放つ。
天空から無数に降り注ぐ、強大な力を持つ水飛沫がグレイシアに襲い掛かる。
だがそれを、グレイシアは一回のふぶき≠ナ全てを凍結させる。
「え…!?」
俄かには信じられない光景だった。
今のカイオーガは、めいそう≠フ効果によって特殊攻撃力が最大レベルにまで高められている。
それをいとも容易く凌いでしまったのだから。
「…だけど」
しかしチルナは、すぐに落ち着きを取り戻す。
視線をグレイシアに向けると、汗だくで呼吸も荒っぽかった。
あれだけの攻撃を凌いだ直後、流石のグレイシアでも相当疲労が溜まっていた。
「…フフ。流石にそろそろ体力が切れたみたいね。普通のグレイシアと比べて、遥かに高い能力を持っていたけど…。ここまでよ」
集中力が途切れかけていたのか、一瞬反応が遅れた。
カイオーガの放った、ハイドロポンプ≠まともに喰らってしまった。
その小さな身体が宙を舞い、無残に地面に転がり落ちた。
「ふぅ、最後まで驚かせてくれたけど…。トレーナーが戦闘不能じゃ、ここでお終いね」
今度こそ、これで本当に終わりと思った。
だが、それが甘い考えであった事を、チルナはすぐに理解する事になる。
「…え!?」
目の前で、我が目を疑うような出来事が起こった。
奥でうつ伏せに倒れているマサシから銀色の光が溢れ出し、それがグレイシアに流れ込んでいく。
その光が、グレイシアの全身を覆った瞬間…。
ドゴォォォォンッ!!!
「…!!!」
天空に向けて、グレイシアの全身を覆ったのと同じ色の光の柱が上り詰める。
地上でもその光がドーム状に膨張し、町全体を眩ませるほどの眩い光を放つ。
「これは…!?」
やがて、光は収まった。
チルナが目を開けると、そこにいたのは、先程の光と同じ色をした身体。
まるであの光と一体化したかのような、神々しい光を放つグレイシアの姿だった。
「何…?この力…!」
さっきまでとは、明らかに違う。
まだ戦ってすらいないのに、あのグレイシアから感じる力の圧迫感は全くの別物。
一体、何が起こったのか…?
「…!?」
そして、またしても信じられないような光景が目の前で起こった。
グレイシアの光が、先程とは逆にマサシに向けて流れ始めた。
全身をその光に包まれ、一瞬目を瞑るほどの発光現象を起こす。
そして、その向こうにあったマサシの姿とは…。
「…!」
先程あれだけ与えた傷が、完全に回復していた。
理屈はよく解らないが、今の光がマサシの傷を完全に治癒させていたのだ。
「……ぅっ」
うつ伏せ状態から、弱々しいが声を発しつつ起き上がる。
チルナは、咄嗟に身構える。
「今のは………!? あんた、一体…」
「さあな…。正直なところ俺自身…、何が起こったのか把握しきれてない」
傷は治っているものの、言葉遣いがまだ弱々しいマサシ。
体力だけは、元に戻っていないせいなのだろうか。
「それでもはっきりしてるのは、今ならお前を斃せるという事だ」
マサシは一旦、そこで言葉を止めた。
直後、一瞬、巨大なグレイシアの姿が向かってくる錯覚を感じたチルナ。
その錯覚を感じた直後、カイオーガの巨体が宙を舞う。
「え…!?」
見ると、銀色の一閃を残す動きを見せるグレイシアが、カイオーガに突っ込んでいたのだ。
そしてグレイシアは、氷のエネルギーを集めた光線をカイオーガ目掛けて発射する。
…そう、グレイシアは今までと同じ力加減で発射した。
にも関わらず。マサシ達の目の届く範囲の海原が、完全に凍結してしまったのだ。
「な…っ!?」
その出鱈目なまでの攻撃に、呆然とするチルナ。
そんな彼女の横で、ふらふらな足取りながらも、漸くマサシが立ち上がる。
「何よ…、これ……」
うろたえるチルナをよそに、マサシがグレイシアに呼びかける。
指示したのは…。
「アブソリュートスペイザー=c……!」
やはり最後は、グレイシアの持つ最強の技。
だが、このスペイザーもまた以前のものとは異なっていた。
以前までのスペイザー≠ヘ、能力回帰による天属性エネルギーを前面に収束させ、発射するものだった。
だが今回は、そのエネルギー収束現象が起こらず、グレイシア自身がそのエネルギーを光線として発射していたのだ。
当然、その威力は如何に伝説のポケモンと言えど全く寄せ付けないレベル。
グレイシアの光線がカイオーガを完全に飲み込んでいき、大爆発!
その爆風は猛烈な寒波となり、周囲を凄まじい勢いで氷で閉ざしていく。
「そんな…、まさかカイオーガが…!?」
当然、その爆心地に居たカイオーガは一溜まりも無かった。
恐らく、ほんの一瞬で今の状態になった筈。
カイオーガの全身が、分厚い氷の層で覆われている状態に…。
「俺の、勝ちだ」
決着の後、マサシが一言だけ囁いた。
Phase.49 一時の安息
カイオーガが斃れたのを目にすると、チルナの膝が地面に付く。
全身から力が抜け出していた。
「はぁ、はぁ…」
グレイシアの能力回帰が解除された途端、マサシにも途方も無い疲労感が襲い掛かる。
体力だけは完全に回復していなかったらしく、すぐにその場に崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ…」
―――何が起こったのか良く解らないが、助かった。
―――今までよりも更に1ランク上の力を発揮していた…。
―――だが、奴がまだ何か力を温存していたとしたら、本当に負けていたかもしれない…。
雨が降り頻る中で休むわけにもいかず、マサシは一先ず雨宿りの出来る場所を探して移動を始めた。
だが、その直後。
「あんたに…、あんたなんかにこの私が!!!」
「…!」
先程グレイシアが斃した筈のエンペルトが、再び起き上がった。
そして疲労し切っているマサシに、懇親の一撃を放つ。
「(ヤバイ、身体が…)」
グレイシアも、すっかり体力を使い果たしている。
他の手持ちポケモンを繰り出そうにも、タイミング的に間に合わない…!
「ハッサム!!」
ドゴォンッ!!!
だがそこに、突然の乱入者。
突然の奇襲に、エンペルトは成す術も無くダウンさせられる。
「誰!?」
「この前の、報復戦って所かな」
声は、近くの廃屋の上から聞こえた。
そこに立っていたのは数日前、チルナ自身が始末したと思っていたクニヤチームの3人だった。
「あんた達、生きて…」
「ついさっき、気が付いたばっかりなんだけどね。さて、続きといこうか」
「………」
戦闘姿勢を見せているのに、チルナは一向に動きを見せない。
クニヤはそれを警戒し、少しずつチルナとの間合いを詰めていく。
「続きは…、無いわ。ここで、お終いよ」
「!!」
その言葉に、咄嗟に周囲を警戒する3人。
だが、周りには何も無い。
落ち着きを取り戻し、もう一度視線を戻すと…。
「今あんたが斃したエンペルトが、私の最後のポケモン…。他は全部、そこに居る奴に斃されたわ」
「…! 彼は…」
チルナの指差した先に居た人物、マサシにクニヤは見覚えがあった。
マスターリーグ開幕直後、偶々近くで行われていたバトル、その片方のチームのリーダーだったからだ。
まあ、詳しくは第3話を参照してください(爆)。
「(あの時のトレーナー…、確かマサシ君。彼が、このトレーナーを追い込んだ…?)」
あの時のバトルを見て、クニヤはマサシ達を『話にならないレベル』と語っていた。
そしてその程度のレベルと見積もっていたマサシが、自分達を斃したトレーナーを追い込んでいる。
驚きを隠せなかった。
「どっちにしても、これで私のポケモンは全滅…。無様ね、こんなあっさりと敗れ去るなんて…」
その言葉を最後に、彼女の足元がふらついた。
そしてそのまま、彼女の背後に広がる崖から、海に落下していった…。
カイオーガの影響は消え去り、何日かぶりにヒダシティに日光が差し込んだ。
マサシは壁に凭れ掛かったままだが、クニヤチームの3人と向かい合っていた。
「さっきは助かった」
結果的に、先ほどはこの3人に助けられた形になる。
なのでマサシは最初に、クニヤ達にお礼の言葉を述べた。
「それにしても、驚いたわ。私達で斃せなかったあの女を、たった一人であそこまで追い込んだんだから」
クニヤの左側に立つ女性、リミカ。
彼女もやはり、マサシの実力に驚きの表情を見せていた。
「どうやら、以前見た時のバトルでは全く本気を出していなかったと言う事ですね」
「以前?何の話だ」
「…ううん、こっちの話。そんな事より、自己紹介がまだだったよね」
「そう言えば、そうだったな」
クニヤの言葉で、まだ互いに挨拶を交わしていないことを思い出し、フラフラな足取りながらもマサシは立ち上がる。
「そっちは俺の事を知ってる感じだが、一応挨拶しておく。俺はマサシ。中断時点での予戦ランキングは、22位だ」
「よろしく、マサシ。僕はクニヤ。それと、僕のチームメイトのダイシとリミカ。予戦内ランキング第10位のチームだよ」
クニヤに名前を紹介されて、二人は軽く挨拶する素振りを見せた。
「とりあえず俺達の情報だと、さっきのチルナっていう女が現時点で最大級の実力を持っていたって話だ。つまりあの女が斃れた以上、敵の戦力は大幅に落ちる筈だ。後は、黒幕を大会側が見付け出すのを待つだけだが…」
丁度そんな時だった。
マサシの携帯に、着信を知らせる音が鳴る。
「もしもし」
『マサシ、俺だ』
「ユキヤ! 一体どうしたんだ」
『こっちも、伝説のポケモンを操る敵を撃破した。奴らは、チルナと言うトレーナーの配下だった』
「チルナ…だって!? そいつなら、たった今決着が付いた所だ」
『お前が無事と言う事は…、勝ったようだな』
「結構ギリギリだったけどな(汗)」
『…そうか』
「…ところで、何で俺に連絡を寄越してきたんだ?そんな事を伝える程度で、お前が態々俺に連絡はしないだろ?」
『無論、今からが本題だ。俺達にとって、良い報せと悪い報せがある』
「…悪い報せ? 一体、何があったんだ?」
『アヤが、やられた』
「な…!? 馬鹿な、アヤがそんな簡単にやられる筈が…!」
『その相手が、もう一つの本題だ。奴の戦った相手…、それがこの一連の騒動の黒幕の可能性が高い人物だ』
「…!」
ユキヤからの発言に、マサシは一瞬呆然となる。
しかし数秒の間を挟んで、肝心の事を聞き忘れていたのを思い出し、我に返る。
「そうだ、アヤは!? あいつは、無事なのか!?」
『ナリサが偶々アヤを見付けて、リーラシティに運び込んだそうだ。この話は、目覚めたあいつから聞いた』
「…それで、アヤが戦ったって言う敵は何者なんだ?」
『それは、リーラシティで合流した後話すと言っていた。俺は先に、あの町に戻る』
「……解った」
会話を終えると、マサシは携帯電話をしまう。
「俺の仲間が、この騒動の黒幕と思しき奴と戦ったって言う連絡だった。一先ず、俺は合流地点に向かう」
「…解ったよ。まだこの騒動も片付いたわけじゃないから、気をつけてね」
「お互いにな」
マサシは3人に別れを告げ、兼ねてより約束していた合流地点・リーラシティに向けて歩みだすのだった。
Phase.50 合流
以前はあれほど猛威を振るっていた敵の勢いが、今ではすっかり衰えている。
やはり、大会参加者総出で敵の討伐を行った結果が、今になって出てきたのだろうか。
あるいは、マサシが敵の中で最大レベルの力を持ったトレーナー・チルナを斃した事の影響なのだろうか。
いずれにしても、辺りを見回しても大会参加者が襲撃を受けている光景は見受けられない。
既にこのヨハロ地方から逃げ出したか、或いは身を潜めたのか…。
黒幕の疑いのあるレクトもまた、アヤとのバトルを最後に消息を絶った。
アヤの証言を頼りに、レクトの行方を捜索したのだが、結果は出なかった。
それから、およそ2週間が過ぎた。
#リーラシティ
リーラシティのポケモンセンターにて、無事に合流を果たした3人。
マサシもまた、アヤの戦った敵の正体を聞いて、愕然としていた。
「俄かに、信じられないな…。俺の知るレクトさんは人当たりが良くて、とても優しかった人だ。ましてや、昔なじみのあるアヤに本気で攻撃をしてくるなんて…」
「そりゃ、私だって最初は信じられなかったけど…。私にあんな容赦の無い攻撃を仕掛けてくるんじゃ、嫌でも認めるしかないじゃない…」
アヤは、椅子に座りながら顔を俯けている。
マサシもまた、顔の半分を左の掌で覆い隠していた。
「しかし、よりにもよって一番厄介な人が敵になったものだ…。あの人は、俺達3人総がかりでもそう簡単に斃せる相手じゃない…」
「どれ程の実力を持っている?」
「あの人は、兄貴がマスターリーグから帰って半年くらい経ってからの頃だったか…。その時期旅から帰ってきて、兄貴とバトルをしたんだ…」
「…結果は?」
「勿論、兄貴が勝った。だけど、かなりギリギリだったんだ。俺も、まさかマスターリーグを優勝した兄貴が、あそこまで苦戦するとは思わなかったんだ…」
#6年前(マサシが最初に旅立つ2年前)
その日は、いつもと変わらない平凡な一日だった。
マスターリーグを優勝したリュウイチの祝いも、すっかり遠い昔の出来事のように流れた頃。
トーホク地方フヅカタウンで、大きいようで小さな事件が起こる事になる…。
町の南側で、1人の男性トレーナーが佇んでいた。
パッと見た感じ、身長はおよそ180cm前後。
そして肩辺りまで伸びている、紅色の髪の毛。
その男性は町を視界に入れるなり、一言呟いた。
「……久し振りだな」
その一言を呟いて、そのトレーナーは町の中に足を進めた。
「変わっていないな、この町も」
町を散策しつつ、光景を眺める男性は、独り言のように言葉を漏らす。
そんな中、水色のショートヘアーの少女がその男性に駆け寄ってくる。
背丈こそ低いものの、その少女は紛れも無いアヤだった。
顔立ちにも、今の彼女の面影が残る。
「レクトさん! 帰ってきたんだ!」
レクト、それがこの男性の名前。
アヤやマサシを始め、この町の少年少女にとって頼れる兄貴分のような存在だった。
「やあアヤちゃん、久し振りだね。マサシは一緒じゃないのかい?」
「マサシは…、旅行に行ってるの。だけど、今日帰ってくるって連絡があったの」
「そうなのか…。あ、そうだ。リュウイチさんに会えるかな?まだ、マスターリーグ優勝祝いの言葉をまだ掛けてないからね」
「リュウイチさんは…。何かここ暫く、家に閉じこもる事が多いのよ。マスターリーグを制覇してから、何か考え込む事が多くなったみたいなのよ」
「…じゃあ、気分転換にでも誘ってみるよ」
「うん…。お願いね」
レクトは一旦自宅に旅の荷物を置くと、リュウイチの家に駆け足で向かう。
#リュウイチ宅
ピンポーン。
玄関の横に備え付けられている、呼び鈴のボタンを押した。
数秒の間を挟んで、玄関の扉が開く。
「久し振りだね、リュウイチ」
「レクトか…!今帰ってきたところなのか?」
「ああ、そうだよ。 それよりも、風の噂で聞いたよ。マスターリーグ優勝、おめでとう」
「ああ、ありがとう。それで、わざわざお礼の言葉を言う為にここに来たのか?」
「いいや、アヤちゃんが何か考え込んでいるみたいだって言ってたからね。気分転換に誘おうかと思って」
「…成る程。そういう事か」
リュウイチは、レクトを見て何をしようとしているのかをすぐに把握した。
レクトはモンスターボールを片手にとり、リュウイチに突き出していた。
つまり、ポケモンバトルを挑まれたという事だった。
「まあ、気分転換には丁度いいか」
リュウイチはテーブルの上に置かれていたボールを手に取る。
そしてレクトに誘われ、家の前の広場で対峙した。
「まあ、バトルといってもシンプルに1対1でやろうか。その方が、気分転換としては丁度いいだろうしね」
「ああ、解った」
2人がバトルに使うポケモンの入ったボールを手に取り、今まさにバトルが始まろうというところ。
丁度そんな瞬間だった。
「あれ?兄さん、レクトさんも」
「マサシ!」
先程アヤから聞いたとおりだった。
マサシと母親が、シンオウの旅行から帰ってきたのだ。
「やあ、マサシ。久し振りだね」
「これから2人で、バトルするの?」
「あ、そうだ。マサシ、俺達のバトル見るか?お前も将来トレーナーになった時、参考になるだろう」
「うん、見る見る。兄さんのバトル、すっごく面白いから」
当時は、まだ子供だったマサシ。
だからこそ、無邪気な心持でリュウイチ達のバトルを観戦するのだった。
Phase.51 リュウイチVSレクト
リュウイチは、マスターリーグ優勝を果たしたとはいえ、ポケモン達との鍛錬を怠った事は一度も無い。
故に、今のリュウイチの実力は優勝した時と同等、或いはそれ以上かもしれない。
にも関わらず、レクトは何処か余裕を見せている。
だが、今はその事を深く考えず、このバトルに集中する事にした。
「お前とのバトルも久々だな。行け、カメックス!」
「本当、何時以来かな。俺は、こいつで!」
リュウイチのカメックスに対して、レクトが繰り出したのはボーマンダ。
ボールから飛び出して早々、カメックスに向けて雄叫びをあげる。
特性の『威嚇』だ。
「生憎だが、俺のカメックスの技は特殊攻撃がメインだ。その特性は、無意味だったな」
「それは、どうかな?」
「…? どういう意味だ」
「戦ってみれば解るよ。ボーマンダ、りゅうのはどう=I」
レクトの指示で、ボーマンダは青と銀を混ぜたような色のエネルギーを発射する。
だがそれを、カメックスは首と両手足を甲羅の中に引っ込め、高速回転しながら突破する。
「こうそくスピン=c!リュウイチのカメックス、攻防一体の得意技だったね。昔より、更に威力は上がってる」
ボーマンダの攻撃を突破して、カメックスは敵の目の前に飛び出す。
そして、甲羅にある砲門の中に青白い光が集まり始める。
「れいとうビーム=v
至近距離からの、氷のエネルギー光線の発射。
氷属性を大きな弱点とするボーマンダにとって、これは致命傷だった。
…普通の、ボーマンダなら。
「甘いよ、パワー不足だね。ボーマンダ!!」
攻撃直後の隙を衝き、ボーマンダが爪を振るう。
それが容赦なく、カメックスの胴体を切り裂いた。
「な…!?」
リュウイチは、驚きを隠せない表情を見せた。
氷タイプを弱点とするボーマンダが、れいとうビーム≠至近距離から喰らって、平然と反撃をしてきたのだから。
しかも…。
「今のは、電気を纏った爪…か?」
「そう。元々ボーマンダは、かみなりのキバ≠ニいう技を覚えられる。それはつまり、ボーマンダに電撃を操る資質があるということだ。俺のボーマンダはそこを徹底的に伸ばし、牙だけじゃなく、身体の様々な箇所に雷撃を纏わせた攻撃を可能にしたんだよ」
「成る程、変わった育て方をしたものだ」
「ふっ」
「それに、さっきの『威嚇』も普通のものより数段能力が上だな。カメックスの物理攻撃だけじゃなく、特殊攻撃の威力まで数段ダウンしている」
「気付いてたの!?」
「明らかに普段より威力が落ちていたからな…。それで、ボーマンダを一撃で落とせないことにも納得がいった」
「でも、気付いたところでどうにもならないさ。今のカメックスは、物理・特殊共にボーマンダよりパワーが劣っているからね。さあ、どんどん行くよ!」
そこからは、ほぼ一方的な試合運びになった。
カメックスの弱点となる、雷撃を全身の至るところに張り巡らせたボーマンダの攻撃を、凌ぐので精一杯。
防御能力には自信のあるカメックスなのだが、次第にダメージが蓄積し始めていた。
だが、頃合を見計らってリュウイチが反撃に転じる。
「ハイドロポンプ=I」
咄嗟の反撃で、ボーマンダを吹き飛ばす事に成功。
その後立て続けに、猛烈な寒波をボーマンダに叩き込む。
この連続攻撃に、ボーマンダも疲れの顔色を見せていた。
「特性の『激流』が発動する頃合を見計らっていたのか…。それに加え、氷系最強の技ふぶき=cか」
「カメックス、今だ!」
「まだだ!!!」
そしてお互いのポケモンが、決着をつけるべく更に攻撃を繰り出す。
カメックスの繰り出した2発の水の弾丸と、ボーマンダの発射した紅色の光線。
互いの攻撃が力を打ち消しあって爆発。
その煙で視界を遮り、互いに相手目掛けて突っ込んでいた。
そして煙の中で、互いに猛烈なまでの打撃の応酬を繰り広げた。
「はぁ、やっぱり無理だったか…」
結末を見るまでもなく、レクトはその場に腰を落とした。
煙が晴れ、そこでボーマンダが斃れ伏していた。
カメックスも、相当呼吸が荒くなっていた。
「やっぱりリュウイチは流石だね。ボーマンダの『超威嚇』を使っても勝てなかった」
「まあ、お陰で気を晴らすことは出来たさ。態々俺のために、済まなかったな」
「気にするなって。俺とお前の、間柄だろ?」
その後、2人は互いに笑いあうように言葉のやり取りを続けた。
Phase.52 今後の方策
#現在
「相手の全能力を大幅に下げる、『超威嚇』。それが、レクトさんが兄貴と対等に戦えた秘密だ」
「確かに厄介な能力だ。が、能力変化というものはバトルから下げ、時間が経過すれば回復する。それ程厄介な能力には思えないが?」
「…否。あの能力は、相手の手持ちポケモン全体にまで影響する。つまり、ボールに戻しても殆ど意味がない」
「…」
「ところで、これからどうなるのかしら?」
チルナを撃破してから、およそ2週間が経過した現在。
レクトも行方を晦まし、すっかり元の大会の雰囲気が戻ってきていた。
そんな彼らの会話に割り込むかのように、ナリサがこの場に姿を見せた。
「ナリサさん!」
「さっき、大会本部のほうから通達が来たわ。敵の勢力は粗方排除する事が出来たそうだから、2〜3日もしたら予戦を再開するそうよ」
「漸くか…。やっと、再開するんだな」
「黒幕と思われるレクトは、私達のほうで行方を追っているわ。だから貴方達は、これからの事に集中していいわ」
「これからの事…か。なら、大会に戻ったら真っ先にやる事があるな」
マサシのこの発言に、意図せずとも残りの2人も首を縦に振る。
そして3人揃って、ナリサに視線を向ける。
「!」
「大会が再開したら、俺達が真っ先にやるべき事。それは、貴女から予戦通過の為の証を奪い取る事だ」
「挑戦状…という訳ですか。では、受けて立ちましょう。私は、このリーラシティ東の山で待機します。私を見つけ出し、バトルで私を打ち倒して見せなさい」
「やってやるさ…。俺達は、まだまだこんな所で脱落するわけにはいかないからな…!」
ナリサに挑戦状を叩きつけ、やる気を振り絞るマサシ達。
予戦突破に必要な証、その2つ目をかけた戦いが幕を開けようとしていた…。
ヨハロ地方の某所。
何処かの海岸線付近で、1人の男性が佇んでいた。
肩辺りまで伸びている紅色の髪の毛。
その男性は、大海原の彼方を眺めていた。
「こんな所に居たのか、レクト」
そんな彼の背後から、声を掛ける別の男性が1人。
灰色の髪の毛が、腰辺りにまで伸びている姿をしている。
声のトーンも、見かけより随分と低かった。
「レノム…。俺のこの醜態を、笑いに来たのかい?」
よく見ると、レクトの右腕周辺がボロボロになっていた。
「いや、話をしに来た。第1次大会出場者殲滅計画は、失敗に終わった」
「! それじゃあ…」
「既に次の準備は進めている。が、それには結構な時間が掛かりそうだ。お前は既に大会側に顔が割れてしまっている。暫くは身を潜めることだ」
「…そうだね。あの時…、アヤちゃんの最後のあの足掻きは想定外だった…」
レクトの脳裏に蘇るのは、ボーマンダで正に止めを刺そうとした瞬間の出来事。
あの時、唯一彼女の手持ちの中で無事だったエーフィが、アヤとボーマンダの間に割って出た。
だが突如として、エーフィの全身に橙色の発光現象が起こる。
その光に阻まれて、ボーマンダの爪は弾かれてしまう。
「これは…!?」
「『サンライトヴェール』。日光の指す場所に居る限り、エーフィの体力を回復させ続け、同時にエーフィの身を守る盾よ」
「…!」
「そして、これが私の最後の足掻き…。この『サンライトヴェール』は、太陽光をエネルギー源にしている。つまり、このヴェール自体に相当の熱を持っているということ。それを…」
アヤの言葉に呼応し、エーフィが力を貯め始める。
貯めているのは、エーフィ得意のエスパー攻撃のエネルギー。
「サイコキネシス≠ニ一緒に、このヴェールのエネルギーをぶつけてあげる…!!」
「…!!」
「行っけーーーー!! サイコキネシス=I!!!」
エーフィの放ったエスパーの衝撃波が、橙色の光を発しながらレクトに襲い掛かっていった。
「……あの最後の一撃が、あそこまで強烈だとは思わなかった。ボーマンダも、随分とダメージを受けてしまったよ」
「だが、もう完治しているんだろう?」
「……まあね」
その証拠にと、レクトがボールを開く。
中から、何の異変もないボーマンダが姿を見せた。
「それなら、心配は要らないな。それと、ここからが本題だ。今回の事態を見て、とうとう動き出すそうだ」
「…! まさか」
「そうだ。俺達の『リーダー』が、直々に動き出す」
「…そういえば、連中は俺が全ての黒幕だと思い込んでいるそうだ。あの方らしいな、俺を隠れ蓑にするつもりか」
「準備が出来たら、また知らせる。その時は適当に大会参加者の前に姿を見せろ。お前が斃れれば、連中も油断する。そこを一気に叩く心算だ」
「つくづく、損な役回りだな…。まあ、今更嘆いたところで仕方の無いことか」
今後の計画のないように嘆きながらも、レクトは行動を開始する。
大会に紛れ込んだ悪意は、一旦は身を潜めた。
だがそう遠くない未来、その悪意は更に強大なる力を従えて再び芽吹く事になる。
無論、そんな事を大会出場者達が知る由は無かった…。
To Be Continued
後書き
はい、という訳で漸く区切りのいいところまで話を持ってくることが出来ました。
しかし、今後の展開に関する伏線を思いっきり残しちゃったなぁ…(汗)。
まあいいけど。
とりあえず次回から、元通りマスターリーグ予戦編が再開されます。
が、序盤の頃同様グダグダなシナリオ展開にならないかどうかが一番の不安材料なんですが…(笑)。
まあ、何時までも長々と作者の愚痴を聞きたい人はいませんね。
という訳で、そろそろ後書きを終わろうと思います。
それでは、次回をお楽しみに。
[アットの一言感想]
チルナとの戦いに、ついに決着がつきました。
前回の展開からして、正直勝てないもんだと思ってました(ぇ)。
そして、かつて繰り広げられていたリュウイチvsレクトの話と、現在のレクト&レノムの話が描かれてましたが……。
2人にはまだ上なる存在がいるようで、まだまだ気を抜けない状況が続きそうです。