リーラシティで、ナリサとの激闘に敗れて数日。
マサシ達は町を離れ、久々に3人での旅を再開していた。
そして今、彼らは先日の大騒動を生き残った大会出場者とバトルに入っていた。
だが、今のマサシ達は以前とは何かが違った。
気迫というべきか、勢いと言うべきか…。
いずれにせよ、マサシ達はナリサとのバトルを通じて何かを得た。
それが、今の彼らの強さに繋がっているようだ。
「(まだまだ俺達は弱い。もっと…、もっと俺達は上を目指せるはずだ!)」
心の中で更なる成長を決意しつつ、マサシはバトルに挑む。
そのバトルに決着が付くのに、10分と掛からなかった。
COM マスターリーグ編
第18話
旅の再開
Phase.63 惨劇の爪痕
バトルを終えて、マサシは手持ちの端末を確認する。
その画面に表示されてるマサシチームのランクが、22位から17位にまで上昇していた。
「よし、終わりだな」
「これで、ランキングは第17位。だいぶ上に上り詰めてきたわね」
「だが、ここより上のランクの相手は一筋縄ではいかない筈だ。油断するな」
「解ってるさ、ユキヤ。だけど、敵が居ない今のうちから気張ったって特は何も無い。そこまで気負わずに行こう」
「…、そうだな」
ひとまずこの場を後にし、旅を再開。
地図を確認すると、ここから少し離れた所に町があるので、そこに向かうことにした。
マサシ達が辿り着いたのは、ヒリノタウン。
そこそこ大きな建物が立ち並ぶが、どちらかと言うと田舎っぽい印象の強い町だった。
そして、この町もまた…。
「この町も、だいぶ荒れてるな…」
先日の、伝説のポケモンを率いて大会出場者を一掃しようとしていた事件。
その集団は影を潜めているが、ヨハロ地方のいたる所にその爪あとを残していた。
町を挙げての復興作業が行われているものの、町の住人達の間には暗い影が残っていた。
「リーラシティも結構やられたけど、ここは相当だよな」
「でも、これでもまだマシな方だよ。彼女が、この町を守ってくれなかったら…」
ふと、マサシ達に歩み寄る青年が居た。
「君達、マスターリーグの参加者だよね。あの大騒動の時、このヒリノタウンも襲撃されたんだ。だけど、たった1人のトレーナーがこの町を守ってくれたんだよ」
「たった1人…だと? 仮にも、伝説のポケモンを従えるほどの敵を相手に」
「2人とも。もしかしてそのトレーナーって!」
「ナリサさん達と同じ、証を持ったトレーナーの可能性が高いな」
「それで、そのトレーナーは騒動の後何処に向かったか解る?」
「僕は解らないけど…。町の中の誰かなら、知ってるんじゃないかな?」
「有難う。 さて、一通り町を回ってみるか」
3人は一度解散して、手分けして町の散策に当たる。
見渡す限り、主だった建物は殆どが崩壊していて、住人達はテントを張って生活している。
「ここの人達は強いな。ここまで町が破壊されてるのに、すぐに立て直そうとしてる…」
そんな光景を眺めながら、マサシは一言呟いた。
「やっぱり、この町だけじゃなくて、ヨハロ地方のあちこちがここと似たような状態みたいね」
「! アヤ、いつの間に」
いつの間にか、アヤが隣に立っていた。
「ここ最近、この町に沢山の旅人が訪れてるみたいなの。そうしたら、この地方のあっちこっちが荒れ果てているっていう話が出たらしいのよ」
「…そうか。だが、そうなると少し妙だな…」
「何が?」
「ヨハロ地方全体で暗躍するほどの規模を持った敵だ。なのに連中の動きが途絶えたのは、俺がチルナを斃したのとほぼ同時期だ。奴より実力が上のトレーナーなんて、まだまだ幾らでもいたっておかしくない筈」
「まだ…、何か起こるかもしれないって事?」
「相変わらず、レクトさんの行方は大会本部が追っているらしいから、心配は無いと思うが…」
「そうね。私達はそっちの事は気にせず、大会のほうに集中しよう」
「ああ」
再び2人は散開して、色々と聞き込みを始める。
その結果…。
「どうだった?アヤ、ユキヤ」
「そのトレーナーらしき人物の話、少しは集まったわ。何でも、南のほうに向かったって」
「俺が聞いた話も同じだ。どうする」
「今は予戦ランクを上昇させる事に集中したいが…。数少ない手掛かりを掴んだ以上、それを放っておく事も出来ないな」
「それじゃあ!」
「そのトレーナーの後を追おう。南へ向かうぞ!」
マサシ達の次の進路は、以外に早く定まった。
だがしかし、この道を進んだ先で、彼らは思いがけない人物と遭遇する事になる。
Phase.64 意外すぎる遭遇
ヒリノタウンを出発してから、早3日が過ぎようとしていた。
近くに町が見当たらない為、3人はこの場所に野営を張っていた。
だが、今ここで少々問題が発生していた。
「このメンバーだと、こういった野営だとまともな食べ物口に出来ないな…」
「う…。それを言わないでよ、自覚はしてるのに…」
マサシの言葉を聞いて、アヤが肩を竦めた。
彼女自身料理が途轍もなく下手で、マサシがそれで過去に酷い目を見ているらしい。
とかいうマサシ自身もそういった経験は皆無。
とてもではないが、まともな料理は期待できなかった。
「ユキヤも…、やっぱり駄目か?」
「無理だ」
「即答か(汗)」
「そういう貴様はどうなんだ、マサシ」
「俺も駄目だ。経験なんて全くないからな…」
「…ねぇ、何で携帯用の食料とか町で買っておかなかったのよ!」
「だって、こんな事になるなんて思わなかったんだから仕方ないだろ。 まさか、俺達3人揃って料理スキル0だなんて…」
「…はぁ、今日のところは我慢するしかないわね。朝一番で、近くの町へ朝食食べに行こうよ」
呆れ果て、弱々しい口調でアヤが明日の方針を決めた。
流石に、こんな状況で口論する余裕があるはずもなく、マサシとユキヤもすぐに頷いた。
その日3人は、空腹が満たされないまま夜を明かすことになるのだった。
#翌朝
まだ空が白み始めるくらいの時間帯。
マサシ達は早くも片づけを始めていた。
「空腹の所為で、満足に眠れなかったな」
「その事はもう言わないでよ…。余計に疲れが出てくるわ」
愚痴を零しながら、作業をするマサシとアヤ。
「だが、今後は昨日の事を考慮する必要がある。なるべく、野営は避けるべきだな」
そんな中で、冷静に述べるのがユキヤ。
ユキヤの発言に、2人は若干顔を俯かせた。
「…そうね。流石に今回の事は不慮の事故だったけど、今後同じ事だけは避けないとね」
「近くの町で朝食ついでに、昨日の話に出てたトレーナーをそこで聞き込みしてみよう」
そんなこんなで無事に片付けは終わり…。
3人は改めて、旅を再開した。
「予戦経過日数は、今日で丁度一ヶ月…か」
端末の画面を確認しながら、マサシが呟いた。
「え…。もうそんなに経過してるの!?」
「ああ。途中のあの事件をカウントから外しても、既に昨日の時点で30日が経過してた」
「既に予戦期間の3分の1が過ぎた…という訳か」
「ああ。現時点で俺達の持つ証は一つで、ランキングもベスト8以内までは程遠い。ペース的に考えて、このままじゃ予戦を突破できない」
「…ねえ、マサシ。確か最初に証を獲得したトウクさんが居た町って、このヨハロ地方を4つに区分して北西のエリアだったわよね?」
「…ん? そういえばそうだな。それに、ナリサさんが居たのはヨハロ地方の北東方面のリーラシティ…。 そうか! 4つの証をもつトレーナーは、このヨハロ地方を4つに区切られたそれぞれのエリアの何処かに1人ずつ待機していると言うわけか!」
「その可能性は高いな。尤も、今の俺達の目的は例のトレーナーの足取りを追うことだ。それがハズレだった場合、この付近でまた情報集めからやり直しだ」
ふとした機転で、証を持ったトレーナーに関する秘密に気付いたマサシ達。
だが今の目的はユキヤの言う通り、ヒリノタウンを訪れたと言うトレーナーの行方を追うこと。
地図を確認し、近くの町を目指して歩き始めるのだった。
幸いにも、3人が野営を張った場所から少し離れた場所に町があった。
だが地図にも載らないほど小さな町で、名前すら無かった。
3人はその町のポケモンセンターに足を運び、まずは空腹を満たした。
「ふぅ、生き返ったぁ〜〜」
食事を終えたアヤが発した第一声がそれだった。
マサシ達も一息ついて、この町の探索を始める事になった。
「じゃあ、また3人散らばっての探索だな」
「この町はそんなに広くないし、そんなに時間は掛からないかもね」
「そうだな。30分経ったら、センター前に集合って事で」
「解ったわ」
「ああ」
3人は散らばり、町の探索にあたる。
前述の通りこの町は然程面積が広くない。
そのため、たった3人の探索でも数分で終わるほど。
マサシは、路地裏方面を中心に探索していた。
町の主な部分は他の2人に任せているため、こっちの方にやってきていたのだった。
マサシがとある細い曲がり角に差し掛かったところで…。
ドンッ!!
「痛っ!!」
「痛い!」
曲がり角で、出会い頭に反対側から来た人物とぶつかってしまい、尻餅をつく。
額を掌で摩りながら立ち上がるのだが、妙な違和感を覚えていた。
「今の声、何処かで聞いたような…。 えっと、すまない。大丈夫か?」
「うん、大丈夫…って、あーーー!!!」
「…ん?って、お前!!」
激突した両者が、顔を合わせた途端互いに驚きの声を上げるのだった。
Phase.65 迷い込んだ者
「え〜っと…。何処から話を始めるべきか」
マサシは他の2人に召集をかけて、センターに戻ってきていた。
そこにはマサシ達3人の他に、先ほどマサシと激突した人物が混じっていた。
「とりあえず色々と聞きたい事があるんだが…。 何でお前がこんな所に居るんだよ、ナギサ!!!」
その人物…。
マサシがよく知る仲間の1人、ナギサに向けて怒鳴り声をあげる。
ナギサは肩を竦めつつ、質問に答える。
「道に迷っちゃって…。3年前からずっとワカバタウンで生活してたんだけど、2週間くらい前に、『ちょっとだけ』外出したの」
「ちょっとだけの外出で、この時期寄港する船が限られてるヨハロ地方に迷い込んでたまるかーーーーーーっ!!!!!」
先ほどからずっと、マサシはナギサの経緯に関してツッコミを入れっ放し。
そりゃ、何の脈絡も無い彼女の言動を聞けば、誰でもツッコミを入れたくなるのは当然の事だった(ぇ)。
「…(じー)」
そんな中で、アヤは無言でナギサに視線を向けていた。
「…?アヤちゃん、どうかしたの?」
「ううん、何でもない」
彼女は咄嗟に視線を逸らす。
逸らしたところで、アヤは自身の手を胸元に添える。
ナギサの方を、横目でちらつかせながら(ぁ)。
「…まあ、この際細かい事は置いておく。ナギサ、お前に聞きたい事がある」
「…? 何?」
「ここ数日、凄腕のトレーナーが立ち寄らなかったか?」
「凄腕のトレーナー? それだけじゃ、ちょっと解らないよ」
「ここから少し離れた所にある、今は崩壊した町。そこで戦ったトレーナーを俺達は追っている」
マサシの説明不足を、代わりにユキヤが補った。
「…それ、多分私の事だと思う」
「……………。 え?」
数秒の間を挟んで、気の抜けるような声でマサシが疑問の声を出す。
そんなマサシをよそに、ナギサは話を続ける。
「実は数日前の話なんだけど…。無差別に町を攻撃してる人達が居たから、咄嗟に飛び出しちゃったのよね。その相手のトレーナーが、伝説のポケモン・エンテイを使ってきたのには凄く驚いたんだけど…」
「エンテイ…。やっぱり、奴らの仲間だな。そして、そいつらを斃したと言うあの町の人の話…。冗談にしては笑えない話だぞ、これは…」
「…? どうしたの?」
「折角掴んだと思った手掛かりが空振りで、よりによってナギサの事だったなんて…」
溜息をつき、ガックリと肩を落とすマサシ。
今一全体の話が見えていないナギサは、首を斜めにするばかりだった。
「ナギサ。貴女が戦った敵は、私達マスターリーグの参加者を殲滅する目的で放たれた敵の1人よ。黒幕はまだ追跡中なんだけどね」
ここで、アヤが会話に復帰。
ナギサに今までの状況を、出来るだけ簡潔に説明した。
「それじゃあ、最初居た180人の出場者の中の誰かが、優勝を確実な物にする為にあんな事を…!?」
「そういう事だ」
「酷い…」
ナギサの脳裏に、数日前の戦いの時の記憶が甦る。
敵は容赦なく町に火を放つ。
逃げ惑う人たちを嘲笑うかのように、行動がエスカレートしていく。
炎に包まれて泣き喚く子供達、その襲撃によって大きな怪我を負った住人達…。
そんな光景が、今ではナギサの脳裏から離れなくなっていた。
「たったそれだけの事のために、あそこまで酷い事をするなんて…」
「今でこそあの騒動は鎮静化しているが、あの惨劇の爪痕はヨハロ地方の各地に残っている。俺達も、優勝の為だけにこれだけの騒動を起こしたレクトを赦すことは出来ない。あの人に、どんな事情があろうともな」
「そのレクトって人、マサシ君とアヤちゃん…。ううん、フヅカタウンの子供達全員にとってのお兄さん的存在だったんでしょ? そんな人と戦うなんて、二人は辛くないの?」
「そりゃ、私だって最初は戸惑ったわ。あんなに優しかったレクトさんが、何でこんな事をしてるんだろう…って」
顔を横に向け、どこか影を落とすような表情でアヤは語る。
このヨハロ地方でレクトと再会した時の事を思い出しながら、彼女は喋っていた。
「でも、彼は本気で私を潰すつもりで襲い掛かってきた。だから、あの人に対する迷いを振り切れた」
「凄いんだね、アヤちゃん」
「でも、正直辛く無いといえば嘘になるかな…。優しかった頃のレクトさんをよく知っているからこそ、余計にね。だから、今度戦う時はあの人を問い詰める。何があったのか、全てを聞き出してやるわ」
「そういう事だ。俺もアヤも、あの人と戦うことに関する迷いは無い。俺達はあの人を斃す。必ずだ」
「ところで、3人はこれからどうするの?」
「こんな所でお前に会ってしまった以上、放っておく事もできないからな…。どこか適当な場所まで送っていく」
「マサシ。適当な場所って言っても、一体何処に…」
「アロナシティまで連れて行く。ここからなら、丁度ヨハロ地方の南東エリアを横断する形になる。その途中で、証を持ったトレーナーの情報が手に入れられるかもしれない」
「解ったわ。じゃあ、そのルートで行こう。ユキヤも、問題ないわよね?」
「ああ」
「それじゃ、行くか」
かくして、マサシ達は一時的にナギサを仲間に加え、旅を再開することになるのだった。
当面の目的地は、初めてヨハロ地方に上陸した場所であり、マスターリーグ開始の宣言がされた町。
『新たな伝説が始まる町』アロナシティ。
Phase.66 再会と激突
ヨハロ地方全体を4つに区分した中の南東エリア。
見渡す限り緑の絨毯が敷き詰められた大草原を、マサシ達4人は進む。
彼らは3角形に並び、その中心にナギサをおいているため、彼女を見失う事もない。
「さっきの町を出た後は、当分町は無いからな…。今日中に別の町に辿り着くのは無理…か」
「ねえ、また夕食が抜きになるわよ?」
「心配するな。さっきの町で、弁当を買い溜めしておいた。昨日みたいな事にはならないさ」
「そう、良かった」
「それよりナギサ、もしこの先バトルになったらお前は下がってろよ。出場者じゃないお前が戦いに出たら、ルール的にどうなるか解らない」
「…うん」
ナギサは、内心残念な感じだった。
少しでもマサシの手助けをする為に、3年前からずっと腕を上げた。
なのに、成長した自分の実力を活かす機会が無い事に。
「…ナギサ、どうかしたの?」
何処か暗い表情をしているナギサを見て、アヤが言葉をかけた。
「…ううん、何でもない。大丈夫だよ」
「そう? それならいいけど…」
これ以上追求しても、ナギサは自分からは何も語りそうに無い。
そう悟ったアヤは、会話を区切って再び前を向いて歩き出す。
「どうしたんだ?」
後ろを歩くナギサ達の様子がおかしかったので、マサシが振り向いて言葉を投げかけた。
ナギサはそれに笑顔を作って『大丈夫だよ』と返答した。
アヤ同様、マサシもどこか無理して笑っているような錯覚を受けたが、どうしようもないと言う事で追求を諦めた。
アロナシティを目指して旅を続けている最中、一行の前を川が横切っていた。
川底は浅く、普通に歩いて渡れる程度の深さだった。
とはいえ、所々急激に深くなっている場所もあるため、常に足元を確認しながら歩かなければならなかった。
「滑らないように気をつけろよ」
マサシが転倒しないように注意を促す。
確かに足元は水浸しだし、しかも水が流れている。
そのため、転ぶ危険性が非常に高かった。
「おい、周囲の警戒も怠るな」
「解ってるよ、ユキヤ。こういった場所でこそ、敵の襲撃を受けやすいからな」
「ああ。 ………ん?」
そこで、マサシは些細な違和感を感じとった。
「マサシ、どうした」
「…」
気のせいだろうか。
川を渡り始めた頃より、勢いが激しくなってきていないか。
そして水量も、徐々に増してきている。
「…っ! 皆、急いで空へ逃げろ!!」
「え? 何?」
「早くしろ!!!」
凄まじい剣幕でマサシが叫んだため、反射的に全員が空を飛べるポケモンを繰り出して退避。
その数秒後、上流方面から濁流が流れ込んできた。
今までマサシ達が歩んでいた場所は、いとも簡単に水底に沈んでしまった。
「マサシ君が叫ばなかったら、私達も飲み込まれてたね…」
地上の様子を眺めながら、ナギサがふと呟いた。
「水系ポケモンを主軸にしてるマサシだからこそ、気付けたのかもしれないわね」
「…ああ。気付くのが後少しでも遅れたら、危なかった」
「マサシ、今のをどう思う」
「濁流の発生するタイミングが不自然すぎるな。俺達が川の中間辺りに差し掛かったところで発生してたからな」
「マサシ、それじゃあやっぱり!」
「狙われているな。流石にここまでランクが高くなると、狙われる確率もかなり高くなってくるな…。相手のランクがどれ位なのかは解らないが、用心に越したことは無い」
4人は川を渡りきった地点で地上に降りた。
そして即座にお互いに背中を合わせて周囲を警戒する。
いつ、何処から攻撃を仕掛けられても反応できるように。
「警戒はしなくて良い。今みたいな奇襲はもうしないよ」
「! あんたは…、フジヤ」
相手の顔を見て、一番最初に反応を見せたのがアヤだった。
自分が顔を知っている相手だったこともあるのだが、それ以前にもう一つ。
「どういうつもりなの?あんたのチームは私達のチームよりランクが上。私達に攻撃してくる理由なんて無い筈よ?」
「それは、私がフジヤ君に頼み込んだからなの」
フジヤの背後から、赤と黒を混ぜ合わせたような色の髪の毛をした少女が歩み出る。
「チズサ…?あんたが頼んだって、何を?」
「だって、せっかく同郷の大会優勝者がこのマスターリーグに出てるって話を聞いたんだもん。折角だし、バトルしてみたかったの。どれ位の実力を持ってるか、気になっていたから」
「同郷?チズサって言ったか。お前も、トーホクの出身なのか?」
「うん、私はシズキタウン出身のチズサ。4年前のトーホク大会は、毎日テレビで見てたわ。そのときのマサシ君、凄く格好良くて…。あんな風に大舞台に立ちたいと思ってたの」
「成る程…。俺もいつの間にか目標とされるほどの域に達していたと言うわけか…」
「マサシ君、仮にも1大会を優勝する程の実力者なのに、そういう自覚無かったんですか!?」
「敬語は止めてくれ。年齢的に、お前と俺達は殆ど差が無いだろう」
「え、でも…」
「いいんだ」
「それなら、普通に話すね」
何処か肩の力が抜けたような口調になり、チズサがマサシと話し始める。
「それで話を戻すけど、マサシ君ってそういった自覚は無かったの?」
「正直に言えば、お前と会うまでそんな自覚は全く無かった。俺の兄貴がマスターリーグ優勝者だから、その位になって初めて1人前 という志で旅を続けてたからな…」
「………。マサシ君の強さの秘密が、何となく解った気がする」
「?」
「マサシ君は、小さな地方の大会で優勝した程度で慢心する程心が弱くなかった。だからマスターリーグでここまで勝ち上がって来れたんだね」
「そうかもな。まあ、俺の目標とする人物の影響が大きかった…というのも理由の一つだろうな」
「さっき話してた、マサシ君のお兄さんの事? 確か…」
「リュウイチ 俺の兄貴の名前だ。兄貴のトレーナーとしての力量は身近で生活してた俺が一番良く知ってる。だからこそ、俺にとっての一番の目標になったわけだ」
「それも、マサシ君の強さの秘密の一つって訳だね」
「さて、と。話が大分逸れたが、バトルはどうする?」
「フジヤ君、マサシ君とは私が戦わせて」
「ふぅ、やれやれ。珍しく我侭を言うわね、チズサ?」
「御免なさい、ラエナさん。だけど私、どうしてもマサシ君と戦ってみたい!」
他人からもはっきり見て取れるような闘志をその瞳に宿し、マサシを睨むチズサ。
そんな彼女の表情を見たマサシは、軽く笑みを浮かべる。
そして。
「やれやれ、ここまで闘志を剥き出しにするとはな…。アヤ、ユキヤ。このバトル、手は出さないでくれないか?」
「マサシ、いいのか?敵はかなりの実力者だ」
「いいんだ。チズサ<あいつ>は、俺を『トーホク大会優勝者』という存在として見ている。つまりあいつは、俺から見れば挑戦者という訳だ。そんなバトルに水を差すほど、お互い野暮じゃないよな?」
「…そうね。じゃあ残りの2人は、私達が相手するって事で」
「ああ。それで頼む」
お互いの話も纏まり、3人は横並びに向かい合う。
マサシVSチズサ
アヤVSラエナ
ユキヤVSフジヤ
それぞれの敵と向かい合い、戦いが始まる。
Phase.67 VSフジヤチーム
「エーフィ!!」
「ヨルノズク!」
最初にバトルを開始したのは、アヤとラエナと呼ばれた女性。
それぞれのポケモンの名を呼びながらボールを投げ、戦闘を開始。
ボールから飛び出すと同時に、いきなり強力な念波をぶつける。
ぶつかった際の衝撃波が突風となり、互いのトレーナーを容赦なく吹き付ける。
「っ! 何の、この程度!!」
相手のパワーにも全く怯まず、アヤは更に攻撃の勢いを強める。
次第にヨルノズクの身体が勢いに押されて後退し始める。
「…っ、まだです!」
だが相手も更に攻撃の手を強める。
互いの攻撃エネルギーは膨張し、暴風となって弾け飛ぶ。
その瞬間、互いのトレーナーは腕で顔を覆って風を凌ぐ。
「パワーでエーフィに喰い付いて来るなんて、やるわね…」
若干顔色を悪くして、相手を睨みつけながらアヤが呟く。
だが、顔色が悪いのはラエナも同じだった。
「そちらこそ、どれだけの破壊力を秘めているんですか…。耐久力のある私のヨルノズクが、ここまで…」
「耐久力に自信があるの?その程度で? 馬鹿にしないで!」
「…!」
アヤの気迫が増して、ラエナは一瞬怯んだ。
それに応じるかのように、アヤの視線が鋭くなる。
「その程度の耐久力なんて、あの人の…。ナリサさんの手持ちポケモンの耐久力に比べれば、豆腐みたいな物よ!!」
アヤが喋っている間に力を貯めていたエーフィが、サイコキネシス≠発動。
その猛烈な破壊力を前に、ヨルノズクは為す術も無く倒されていった。
ユキヤは、相手チームのリーダーであるフジヤと対決。
耐久力のあるボスゴドラを繰り出し、フジヤのエテボースを迎え撃つ。
だが、相手のエテボースは大した攻撃力は持っていないはずなのに、一撃貰うごとにかなりのダメージを受けている。
「ギガインパクト=v
ボスゴドラが拳に紅く輝くエネルギーを集結させ、エテボースの真上から振り下ろす。
だが相手は身軽な動きを得意とするポケモン。
大振りからの攻撃がそんな簡単に当たる筈もなく、いとも簡単にかわされてしまう。
その代わり、ボスゴドラの拳を打ち付けられた箇所を中心に、地面が広範囲に渡って崩壊した。
「エテボース、ダブルアタック=I!」
攻撃の反動が全身に来ているボスゴドラの背後に、エテボースが姿を見せる。
そして2本の尾を巧みに操り、2連続の打撃をボスゴドラに浴びせる。
この攻撃を受けた途端、ボスゴドラは地面に倒れ伏した。
「メタグロス」
「…!」
ボールから出て早々、その途轍もなく重い拳をエテボース目掛けて放つ。
その一撃が、先程のボスゴドラと同等の力を秘めていると直感で悟り、回避。
そこから軽い身のこなしで、一旦間合いを開いた。
だがメタグロスは、スケートをしているかのような素早い動きでエテボースに急接近。
コメットパンチ≠ナ攻撃を仕掛け、エテボースがダブルアタック≠ナ迎え撃つ。
だが、メタグロスの技の破壊力と勢いに圧倒され、吹き飛ばされた。
「…ッ、一撃の破壊力が途轍もない…!」
「ボスゴドラを呆気なく沈めた事、何かネタがあるようだが…。 気にするまでも無い、全てを叩き伏せれば済む話だ」
「…」
ユキヤの発言に、表情を若干険しくするフジヤだった。
「正直なところ、私は凄く緊張してる。ずっと戦いたいと願っていた、マサシ君が私の目の前に立っているから」
「…」
「マサシ君、知ってる?私達の住んでるトーホクのポケモンリーグは、田舎地方でレベルが低いって世間から蔑ろにされてきたんだって」
「それは知っていた。トーホクの旅を終えた後、よその地方へ旅に出た俺は、特にな」
「実は、マサシ君の出場したあの大会以降、世間のトーホク大会への見方が変わったんだって」
「…変わった?」
「うん。あの時マサシ君の戦ってた相手…、あそこで戦ってるユキヤ君だけど…。あの時の試合、トーホクのリーグの歴史上、あのリュウイチさんの試合に勝るとも劣らない戦いだったって言う意見が沢山出たの」
「…!」
「今迄、レベルの低い地域と思われていたトーホク地方であんな激しい戦いが繰り広げられたから、世間の見方も変わったみたいなの」
チズサの話を聞いていくうちに、マサシは若干顔を落とす。
「そうか。俺達の試合が、そこまで故郷に影響を及ぼしていたとは…」
「だから私も、マサシ君みたいになりたいって思った。このマスターリーグで勝ち抜いて、トーホクのトレーナーだって充分世界に通用するレベルだって言う事を、証明したかった」
「充分証明できているんじゃないか?現に、お前の居るチームは、この予戦内ランキングは既に6位なんだろ?」
「私なんて、まだ大して活躍できてないよ…。ほとんど、フジヤ君とラエナさんだけで終わっちゃってるから…」
そう語る彼女の口調は、若干弱々しかった。
「…つまり、お前は自分に自信を取り戻したいという意味も含めて、俺と戦いたいと言う事だな?」
「…うん」
返事をしたチズサの表情は、決意に満ちていた。
それを見届けたマサシは、一瞬息を零す。
そして。
「じゃあ、そろそろ始めるか。結構長く喋りすぎたからな」
一言そう呟くと、モンスターボールを1個手に取る。
チズサも既に、準備は完了していた。
「お願い、チルタリス!」
「フライゴン。行け!」
両者が繰り出したのは、共に飛行能力を持ち、ドラゴンタイプを持つポケモン。
そして両者が最初に選択した技は、共通していた。
「「りゅうのはどう=I!」
お互いに、ドラゴン属性のエネルギーを持った衝撃波を発射する。
互いの攻撃が激突する場所から光の球体が膨張し、大爆発を引き起こすのだった。
To Be Continued
後書き
初めてまともな旅らしい旅の話を書けた気がします。今まで、本当にバトルとかが多かったからなぁ…(苦笑)。
それと、つい調子に乗ってナギサを第3部に登場させちゃいました(殴)。いい加減、シリアス具合を少しでも緩和したかったので…(ぇ)。
正直なところ、この後の話は殆ど定まっていません。どんな風に話を進めたりするのか考えたりしなければいけないので、またペースが遅くなるかも。
では、次回をお楽しみに。
[アットの一言感想]
最近、ナギサ分が足らなかったので(謎)丁度良かったです。
お気に入りキャラなので、大会参加者とは違った視点からであっても、活躍に期待したいです。
……にしても、相変わらず波乱に満ちた迷子道中を行く娘です。
失踪の届け出とかが出されてないか、微妙に心配だったりもする(苦笑)。