今、どれほど緊迫した雰囲気に包まれているであろうか…。

 それは、今この場にいるものにしか体感する事は出来ない。

 マサシ達は今、息が詰まりそうな緊迫感の中、敵と対峙する。

 マスターリーグ予戦内ランクの頂点に立ち、そして嘗てのリュウイチの仲間だったエンス。

 嘗て無い程の強敵を相手に、想像を絶する死闘が始まる…。






COM マスターリーグ編
第23話
VSエンスチーム−T







 Phase.82 死闘の始まり





「様子見は無しだ! マニューラ、でんこうせっか=I!」

 これ程の敵を相手に、今までのように出方を伺う余裕は無かった。
 マサシは内心焦りながら、マニューラのスピードで突撃する。
 狙いは無論、チームリーダーのエンスだったのだが…。

「カイリュー!」

 だがそれを阻むのが、エンスのチームメイトであるテンロ。
 彼がカイリューを繰り出して、マニューラの突撃を食い止める。

「どけえええええ!!!」

 アヤの受け売りである、力技での強行突破を試みるマサシ。
 当初はカイリューの巨体を押し始めたのだが、カイリューもまた力を入れて抵抗する。
 その結果、周囲に強烈な衝撃波が拡散した事で拮抗状態になる。

「はかいこうせん=I」

 否、拮抗状態になったのは一瞬の出来事だった。
 カイリューが至近距離からはかいこうせん≠発射したのだ。
 凄まじい爆発で、マニューラの姿を見失う。

「テンロ、当たってない! マニューラはあそこだ!!」

 直後にマニューラが回避していた事に気付いたのが、もう一人のチームメイトであるヨコウ。
 彼が指差した方向、噴水の天辺にマニューラは立っていた。

「マサシ、落ち着いて! 真正面から向かって勝てる相手じゃないでしょ!?」

「…!」

 アヤの呼び掛けで、マサシは我に返る。
 どうやら、少しは落ち着きを取り戻したようだ。

「悪い、アヤ。相手が相手だから、どうしても落ち着きを保てないんだ…」

「(マサシがここまで焦るところなんて、初めて見る…)」

 トレーナーになって以来、マサシのことはよく知っているアヤ。
 そんな彼女の記憶でも、今回のように落ち着きが無いマサシは前例が無い。
 つまり、今回の相手はそれ程の強敵ということだった。

「大丈夫だ、少しは落ち着いた」

「ならいいけど…」

「もう一人で突っ込んだりはしない。いつも通り、俺達3人で連携して戦っていこう」

「うん!」

「ああ」




 一方で、マサシチーム3人の様子を伺うのがエンス。

「あいつら3人、互いに気が知れた仲のようだな。かなり打ち解けている」

「…って、エンスさん。呑気に見物してないで戦ってくださいよ! 今回の対決を言い出した張本人でしょ!?」

「ああ、そうだな」

 そう言って、エンスが一歩前に出る。
 それだけでマサシチームの緊張が、更に張り詰める。

「(もう動くのか…! その前に…)」

 マサシの表情が険しくなり、また無茶な突撃をするんじゃないかという不安に駆られたアヤ。
 だが…。

「心配するな、さっきみたいに闇雲に攻めるわけじゃない」

 とだけ言い残し、攻めに出る。

 とは言え、最初の動きは前と同じ一直線に超スピードでの突撃。
 カイリューが迎撃の姿勢を取った瞬間、マニューラの姿がカイリューの視界から消える。

 だがその直後、カイリューは左側に気配を感じ、左方向へパンチを繰り出す。
 案の定そこにマニューラの姿があったのだが、その直後に反対側…、即ち右側からもマニューラの姿があった。

「え…!?」

 トレーナーであるテンロも、驚いていた。
 だが更にマニューラの姿は増える。
 カイリューの左右だけでなく、前後にもマニューラが姿を見せた。
 前後左右、全方位から漆黒に塗り潰されたマニューラの爪の斬撃を浴びた。

「ゴウカザル、マッハパンチ=I」

 攻撃直後のタイミングを狙って、ヨコウが仕掛けてくる。
 ゴウカザルが今のマニューラに劣らないスピードで、パンチを打ち込んできた。

 だがそれは、横からの乱入者によって阻止される。
 アヤのバクフーンがフレアストライク≠ナ突っ込んで、カイリューごとゴウカザルを吹き飛ばした。

「アヤ、流石だな。マニューラの攻撃でビクともしなかったあのカイリューを…」

「話は後! マサシは早くあいつを!」

「解った。マニューラ、来い!!」

 マサシはマニューラを呼び戻すと同時に駆け出す。
 目指す先は、敵チームのリーダー・エンス。

 しかしそれを阻止しようと、ヨコウ・テンロの2人が新たなポケモンを繰り出す。

「メタグロス、ガブリアス!!」

「キノガッサ!!」

 これだけのポケモンが立ちはだかっているというのに、マサシは全く臆さない。
 ボソッと、一言だけ呟く。

「ここは任せたぞ、二人とも」

「任されたわ!」

「行け」

 その2匹のポケモンの前に、アヤとユキヤが割り込む。
 アヤはムクホーク、ユキヤは相手が繰り出したのと同じポケモンで対抗する。

 それらのポケモンに足止めされている間に、マサシはこの場を突破する。
 エンスのところまで、邪魔をする者は誰一人としていない。

「バクフーン、おにび=I!」

 だが、この瞬間が敵の隙となる。
 この場を突破したマサシが突然振り返り、バクフーンを繰り出す。
 そして紫色の炎を敵の3匹全てに命中させた。

「何っ!?」

「後ろから…!?」

 無論、突然の事に2人は動揺を隠せない。
 そこを狙い、アヤとユキヤが一気に攻撃を仕掛けた。

「ムクホーク、ブレイブバード=I!」

「破壊爪<デストラクションエッジ>=v


 ズゴンッ!!!
 それぞれの懇親の一撃が炸裂し、鈍い音が響き渡る。
 そのまま3匹のポケモンは地面に倒れこむ。

「…」

 相手の3匹が倒れたのを確認すると、マサシは視線を後ろに向ける。
 マサシの背後で、エンスも準備を整えている姿があった。

 そしてマサシは、視線を前に戻す。
 たった今攻撃を喰らわせた3匹が立ち上がってきた。
 懇親の一撃だったにも関わらず、大してダメージを受けてる素振りが見当たらなかった。

「…っ」

 エンスだけでなく、仲間の2人も相当な実力者だと悟った。
 が、今更助けに向かうわけにもいかない。
 歯を噛み締めつつ、マサシはエンスに立ち向かっていく。

 それぞれ敵と向き合い、このバトルは本番を迎える。
 しかし、バトルの波が更に大きくなるのは、それよりも更に後の事であった。







 Phase.83 マサシVSエンス(1)





「マニューラ、こおりのつぶて=I!」

 自分の肩に乗っているマニューラに指示を出す。
 高く跳躍すると、そこからエンス目掛けて細かい氷の塊を無数に撃ち出す。

「ストーンエッジ=I」

 だがそれも、無数の尖った弾丸を発射するドサイドンによって阻止される。
 しかしその間に、大量の水を尾に纏わせたフローゼルがドサイドンの頭上にいた。

「アクアテール・スクリュージェット=I!」

 だが今までと違うのは、単純にその尾を相手に叩き込むだけではなかったということ。
 自身の身体をスクリューのように回転させ、突進しつつ叩き込んだのだ。

 言うなれば、今まで使っていたハイドロインパクト≠ノアクアテール≠フパワーを上乗せした感じだろう。
 だがそれ程の大技でさえ、ドサイドンはビクともしなかった。

「…っ! ドサイドンの特性『ハードロック』か。この新技でさえ、殆ど効いていないのか」

「ドサイドン、ハードクラッシュ=I!」

 エンスが技の指示を出した途端、ドサイドンから凄まじい圧迫感が溢れ出す。
 それは今までより息が詰まりそうなほどに、空気が張り詰める。

「…! フローゼルっ!!」

 その威圧感に怯んでしまったせいで、反応が遅れた。
 咄嗟にフローゼルに指示を出すものの、ドサイドンの巨体から繰り出される拳をまともに喰らってしまう。
 その勢いで、フローゼルは目にも留まらぬほどのスピードで吹き飛ぶ。
 吹き飛んだ先、噴水に激突してそれが粉々になり、ようやくストップした。

 漏れた水を頭から被りながら、立ち上がろうとするフローゼル。
 だが、途中で事切れて倒れこむ。

「フローゼルが…。一撃…」

「アームハンマー=I!」

 そして今度は、マニューラに狙いを定める。
 マニューラの真上から、フローゼルをKOした拳を振り下ろす!

「………能力回帰!!」


 ドゴォォォォォォンッ!!!
 ドサイドンが拳を振り下ろした事で、石畳を敷き詰めた地面が粉々になる。
 その衝撃で砂煙がこの周辺一帯を覆いつくす。

「避けたか…」

 咄嗟に能力回帰を発動したことで、辛うじて一撃KOだけは避けたマニューラ。
 にも関わらず、呼吸をする感覚がとても短くなっていた。

「今のを回避するとは流石だな。やっぱり俺の目は節穴じゃなかったようだ」

「よく言うな。攻撃力も防御力も、お前の方が遥かに上だろうが…」

 険しい表情と冷や汗を流しつつ、反論をするマサシ。

「お前だってまだ本気じゃねえだろ。前にレクトと戦った時のあの力、まだ引き出してないだろ」

「初心に帰ってるんだよ。ここ最近、初っ端からあれを使うことが多かったからな」

「成る程な。高みを目指す為には初心に帰る事も大切 という訳か。その辺の事は色々と解ってるようだな」

「さっきフローゼルがやられたのも、単純な俺のミスだ。初っ端から、新しい技なんかで突っ込んだからだ」

「自分のミスを即座に認識し、最善の策を練りだす。本当、鏡に映したかのようにリュウイチそっくりだな」

「…。マニューラ、もう一度こおりのつぶて≠セ」

 エンスの言葉に若干顔を俯かせ、指示を出す。
 最初の時と同じように、無数の細かい氷の塊をドサイドン目掛けて飛ばす。

「ハードクラッシュ=I!」

 先ほどフローゼルを一発KOした技を再び発動。
 地面にぶつけた際の衝撃だけで氷の塊を全て粉砕する。

「ほぅ? ハードクラッシュ≠フ隙を狙って突っ込んでくると思ったが…」

 エンスはマニューラに突撃させると思っていた。
 だが予想と反して、こおりのつぶて≠セけを放つだけでマサシの攻撃は手が止まっていた。

「(接近できない…。迂闊に近付けば、あのハードクラッシュ≠セけで全滅する…)」

 最初の一撃だけで、充分すぎるほどの恐怖心をマサシに植え付けていた。
 だが、それでもマサシは光明を見出しつつあった。

「オーダイル、瞬間連射7連:ハイドロカノン=I!」

 遠距離から7発のハイドロカノン≠発射。
 だがそれも、ドサイドンのがんせきほう≠ノよって、いとも簡単に押し返されてしまう。
 しかしその間にオーダイルはドサイドンの死角に回り込み、再び瞬間連射を発動。

 ドサイドンはまだ反応出来ていない。
 


―――捉えた…!!



 その一瞬だけ、マサシは心の中で呟いた。

「捉えたと、思ったか?」

 だがその心中の言葉すら見透かしたかのような、エンスの発言。
 その言葉を聞き、マサシの表情が一気に青ざめた。

 エンスが喋った瞬間、ドサイドンの姿がその場から消えた。
 否、オーダイルの背後に移動していたのだ。

「な…!?」

 よく見ると、ドサイドンの身体が練磨されたかのように磨きがかっていた。
 たった今見せたスピードとの関係を、マサシはすぐに見抜いた。

「ロックカット=c……!」

「ハードクラッシュ≠ルどの大技を見せれば。接近戦を挑んでこないことは丸解りだ。そしてドサイドンの欠点だと思っていたスピードの無さを的確に衝いてくる事もな」

「敢えてロックカット≠フ存在を隠して、スピードが無いという事を俺に誤認させた…!?」

「ドサイドン、とどめを刺せ!」

「バクフーン、おにび≠セああああああ!!!!」

 心臓の鼓動が早くなり、焦りが最高潮に達した。
 しかしそんな状況下でも、的確にポケモンを選択して技を指示する。

 焦りに満ちたマサシに動揺しつつも、バクフーンはドサイドン目掛けて紫色の炎をぶつける。
 その一瞬が隙となり、オーダイルはドサイドンと距離を取る事ができた。

「はぁ、はぁ…」

 今の攻防だけで体感してしまった。
 相手のポケモンの強さが、今の自分よりも一回りも二回りも上だという事。
 そして、どれだけ最良の手を打ったつもりでも、相手は確実にその上を行く。

 自分の中でくみ上げていた、最大限の警戒レベル。
 それをエンスは、いとも容易く打ち破って見せた。

 この死闘は、早くもマサシ達に不穏な雲行きを見せ始めていた…。







 Phase.84 アヤ&ユキヤVSヨコウ&テンロ





 戦いは平行して続いていた。
 マサシがエンスに想定以上の力の差を見せ付けられていた時から、数分ほど前。
 互いの残りのチームメンバーが、それぞれ戦いを繰り広げていた。

「アブソル、つじぎり=I!」

「甘いよ。キノガッサ、きあいパンチ=I!」

 此方は、アヤVSテンロの戦い。
 攻撃力には自信のあったアヤなのだが、さっきから悉くテンロのポケモンに真っ向勝負で押し負けている。
 唯一の取り得であった攻撃力を封じられて、早くも劣勢に立たされていた。



 ドドドドドドドッ!!!
 一方、ユキヤとヨコウの戦いは現状互角だった。
 ガブリアスVSガブリアス メタグロスVSメタグロスの同族対決。
 互いに打撃技の応酬で、先ほどから凄まじい轟音と衝撃が飛び交っていた。

「ガブリアス、りゅうのはどう=I」

 ここでヨコウが、戦い方を変えてくる。
 今まで打撃技のみで戦っていたのに対し、特殊攻撃をメインにし始めたのだ。

「…。…っ!!」

 殆ど直感だったが、あの技の内包する破壊力を感じ取った。
 即座に2匹にその場から下がるように指示を出す。

 そのまま相手の攻撃は誰もいない場所へ着弾したのだが…。
 ズドォォォォォォンッ!!!


 その場所を中心に、途轍もない爆発と光の柱が天目掛けて立ち上った。

「…っ」

 危なかった。
 もし今の攻撃で直撃を喰らったら、一溜りも無かった。
 今までの打撃戦の応酬は、奴からすれば云わば遊び。

 奴の本領は、特殊攻撃を使った遠距離戦闘。


 今の攻撃を一目見ただけで、ユキヤはその事を把握した。

「ならば」

 距離を取らせず、強引に接近戦で戦わせるしか道はない。
 ユキヤのガブリアスが相手のガブリアスに爪で攻撃を仕掛ける。
 無論それは防がれてしまうのだが、ガブリアスはお構い無しとばかりに相手のガブリアスを押し始める。

 そのまま近くの建物の壁にめり込ませた。
 逃げ場の無いこの状況では、最初の時と同じ打撃戦しか相手には選択肢が残されていない。
 そしてその打撃戦に於いて、ユキヤは相手と互角に渡り合っていた。

「破壊爪<デストラクションエッジ>=v

 先ほどまでの戦いで、ユキヤはこの技は使っていなかった。
 つまり、これを使うことによって完全に打撃戦では圧倒出来ると考えていた。
 …だが。
 ドゴォンッ!!


「…!」

 破壊爪<デストラクションエッジ>を発動したにも関わらず、ガブリアスが吹き飛ばされた。
 つまり相手は、接近戦に於いてもユキヤ以上の強さを持っているということだった。

「甘く見ないでよ。仮にも僕らは、この予戦内ランクの頂点のチームのメンバーだ。そう簡単に勝ちは譲らない」

「…っ」

 分が悪いと判断し、ユキヤは2匹を呼び戻して相手との距離を取った。
 丁度そんな時、彼の背中に『何か』がぶつかった。

「ユキヤ…! そっちも、苦戦してるみたいね」

 彼の背中に当たったのは、アヤの背中だった。
 アヤも形勢が悪化し、一旦バックステップして距離を取っていたのだ。

「この2人は強い。強さだけでいうなら、『究極段階<エクストラレベル>』のマサシにさえ匹敵する」

「チームリーダーのエンスだけじゃなくて、仲間のこの2人も相当な実力だとは思っていたけど…。まさかここまで…」

「正直、俺達2人あいつらを相手にするのはきつい。マサシを先に行かせたのは失敗だったか…」

「そうね…。いくら相手チームのリーダーを戦闘不能にさせれば勝利とは言え、あのエンスの実力は私達全員よりも更に上…。マサシ一人で勝てる相手じゃない!」

 お互い背中越しで話し合いつつ、マサシの戦っている方角に視線を向ける。
 アヤの言葉通り、エンスの圧倒的な強さを前にどんどん追い詰められているマサシの姿があった。

「どうにかしてエンスの動きを止めて、その間にこいつらを3人で片付けるしかないわね」

「だが、どうやってそれを実行するつもりだ」

「それを今考えてるんじゃない!」

「! 話は後だ」

「…っ」

 悠長に作戦を考えるだけの時間すら与えてくれない。
 相手チーム2人の猛攻に何とか応戦するものの、やはり此方が一方的にやられている。
 正直、絶望的な状況だった。

「私が戦ってるテンロって奴、攻撃力が桁外れなのよ…。バクフーンのバースト・ストライク°奄フ威力が、通常攻撃ってレベルだし…」

「俺の相手は遠近両方の戦いで全く隙が見当たらない。どちらも、今の俺より遥かに上だ」

「しかもあの3匹って、さっきマサシがおにび≠ナ火傷状態にしてるのに、まだこれだけのパワーを…」

「だが逆に言えば、あそこでおにび≠浴びせていなければ、俺達はとっくに終わっていた」

「一つ、試してみたい事があるんだけど…」

「…。勝算はあるのか」

「今よりはマシになると思う。だけどそれには少し時間が掛かる上に、あの2人を同時に足止めする必要がある」

「…今の状況ではまず無理ということか」

「だから、さっき話したエンスの足止めとマサシの呼び戻しを実行するしかないのよ」

「だが、どうするつもりだ」

「それは…」





 ズサァァァァッ!!
 エンスのポケモンによって、マサシとポケモン達は地面の上を滑るように吹き飛んでいた。

「ぐっ…」

 途中で上半身を起こし、適当な場所にしがみ付いて勢いを止めた。
 だがその段階で、既にエンスのドサイドンが眼前に迫っていた。

「グレイシア!!」

 だがそこで、自分の頭の上に乗っていたグレイシアに指示を出す。
 至近距離から、グレイシアが全力のれいとうビーム≠喰らわせる。
 ダメージこそ大して与えられなかったが、ドサイドンの全身を凍らせる事に成功した。

「はぁ、はぁ…」

 ふらつきながらも身体を起こし、エンスのほうに向けて歩き出そうとする。

「マサシーー!!」

 突如、上空からアヤの声がした。
 ムクホークに乗り、急いでマサシの元に駆けつけたのだ。

「アヤ…。そっちの様子はどうだ?」

「駄目、まるで歯が立たない…。私達3人で協力して戦わなきゃあの2人には勝てないわ」

「だが、その間エンスはどうする?向こうが、黙って待っているなんて考えは論外だぞ」

「要は、暫く参戦できないようにすればいいのよ。だから、エンスのボールを凍らせるか何かしちゃえばいいのよ」

「…成る程。それならエンスが参戦するまでの時間は稼げるか。よし、それで行こう」

 マサシ達の作戦はエンスの耳には届いていないが、何か企んでいる事は読み取っていた。
 そしてマサシ達の傍にいるドサイドンに視線を向ける。
 完全に凍結していて、今のままでは戦える状態ではない。

 だから、別のボールを既に準備していた。

「エルレイド、サイコカッター=I!」

 ボールから出したエルレイドに指示を出し、マサシ達に攻撃を仕掛ける。
 このエルレイドもまた尋常ではないスピードを発揮し、瞬きするほどの一瞬でマサシ達に詰め寄る。

「…!」

 マサシは咄嗟にボールを手に取った。
 そのボールから出てきたマニューラが、爪でエルレイドの念の刃を受け止める。
 ガキィンッ!!


 エルレイドの刃とマニューラの接触している箇所から火花が散り、力勝負にもつれ込む。
 だがそのままでは埒が明かないと判断し、2匹は同時に後ろへ跳んで距離を取る。
 距離が開いたと思った一瞬の後、マニューラがエルレイドの眼前に迫っていた。

 どうやら、ようやく本気を出し始めたらしい。

「マニューラ…?」

 それは、トレーナーであるマサシすらも驚く動きだった。
 何しろ能力回帰は、今までと同じ『第2段階<セカンドレベル>』のまま。
 にも関わらず今の動きは、明らかに1ランク以上速いスピードだったのだ。

「やっぱり、負けたくないという気持ちはマサシの手持ちポケモンも一緒みたいね」

 マニューラの戦う姿を見たアヤが、そう語る。
 今ボールの外に出しているポケモン達の表情も、同じような事を訴えていた。
 あの男には負けない、どうしても勝ちたい…と。

「(今の調子なら、マニューラでもあのエルレイドの相手は少しは務まるか。だが、余り長持ちしない事も確かだ)」

 現状、マニューラはスピードを活かして相手のエルレイドを掻き乱す戦い方を続けている。
 だが、いつまでもその戦い方が続くとは思えない。
 早めに作戦を実行する必要があった。

「俺は別に手を出すつもりは無いぜ?ヨコウ達のバトルにはな」

「…っ!」

 まただ。
 また、エンスに此方の作戦を読まれた。
 しかも今度は、圧倒的な余裕を伺わせる発言だった。

「随分と余裕を見せるんだな」

 いつも通りの口調で誤魔化してはいるが、マサシの顔色は悪い。
 目元まで影で黒くなり、冷や汗が滴り落ちている。

「マサシ、あいつ…」

「さっき1VS1でやってた時もそうだが、俺の考えの一枚上を行っていた。恐らく、どんな小細工もあいつには通用しない。が、今は奴の余裕が幸いしたな。今のうちに、チームメイト2人を片付けよう」

 アヤが無言で頷くと、ユキヤが孤軍奮闘している場所へ向けて走り出す。
 その途中、エルレイドと戦い続けていたマニューラを呼び戻した。


  エンスチームとの戦いが始まって数分が経過したのだが、いまだに大きな戦局の流れは起きていなかった。







 Phase.85 実力(ちから)の差





 ドガガガガガガガッ!!
 最初と違い、相手トレーナー2人を一手に引き受けているユキヤ。
 手持ちポケモンを総動員して戦いを繰り広げるも、基礎戦闘能力に差がありすぎた。
 あっという間に、彼は追い込まれていた。


「チッ、ボスゴドラとメタグロスが…」

 だが、ここまで戦いが長引いて戦闘不能になったのが2匹だけというのは、不幸中の幸いと言えた。
 4匹もポケモンが残っていれば、これからの反撃への余力が残るからだ。

「フライゴン、りゅうせいぐん=I!」

 丁度そんな時、マサシの声が聞こえてきた。
 彼らから向かって左方向から、マサシがフライゴンと共に近付いてきていた。
 そして彼の上空を飛んでいるフライゴンが地上のヨコウ達目掛けて、隕石に似たエネルギー球体を連続で発射する。

 2人の視線がマサシに向いている隙に、ユキヤはりゅうせいぐん≠フ範囲外に下がった。
 ズドドドドドドンッ!!


 フライゴンの発射したエネルギー球体が連鎖的に爆発を引き起こし、凄まじい破壊力を生み出した。
 相手チームのポケモン達も爆煙の中から飛び出し、各々のトレーナーの元に戻った。

「ユキヤがお前が戦っていたポケモンは3匹か。メタグロス、ガブリアス、そしてキノガッサ…」

「その2匹だけじゃないよ」

「…!」

 気付けば、今言葉を発したヨコウの隣にカイリューとゴウカザルの姿があった。

「あの2匹、最初にアヤが打っ飛ばしたポケモンか…。やっぱり、まだ戦闘不能になっていなかったか…」

「でも、あの時の一撃は見事だよ。不意を衝かれたとは言え、ダメージの回復にこんな時間が掛かったからね」

 ヨコウの言う通り、その2匹には先程の攻撃によるダメージは見当たらなかった。
 どうやら、時間経過でダメージが回復するような類の能力が備わっているらしい。

「ここから先は、目まぐるしい混戦になるな…。出来るだけ連携していきたいが、そこまで手が回らないこともあるかもしれない。2人とも、くれぐれも気をつけてくれ」

「…解ってる」

「…」

 アヤもユキヤも、いつもみたいな強気な発言はしなかった。
 否、それだけの事をする余裕が無かったのだ。

「相手は5匹…。現状手持ちを多く出してるヨコウの方に、少し戦力を多く向けるべきか…」

「だったら、それは私とユキヤでやるわ。ヨコウはかなりバランスの取れた戦闘能力だし、尚更ね」

「それに、あのテンロってやつの方は真っ向勝負は自殺行為だから…か?」

「うん、私には真っ向勝負しか芸が無いから…。そこは、色々な戦い方で掻き乱せるマサシの方が適任だと思うから」

「解った。じゃあ行くぞ!」

 その言葉を合図に、激闘は再開する。
 まず、マサシの足元で待機していたマニューラがテンロ目掛けて突撃。
 それをキノガッサが迎え撃つのだが、最初の時と同じようにスピードを利用した同時多方向から攻撃。
 まけじとキノガッサも反撃するのだが、それを紙一重で次々とかわしていく。

「(一撃でも貰ったら終わりだ…。スピードで掻き乱せるマニューラがやられたら、いきなり辛くなる…) マニューラ!!」

 マサシの指示で、一旦キノガッサとの距離を取る。
 とりあえず距離を取っていれば、スピードで勝るマニューラなら相手の打撃を貰う事は無いと考えていた。

「キノガッサ、たねばくだん=I!」

 否、それですら甘かった。
 キノガッサが種のような物をどこからか取り出すと、それを投げつけた。
 そして…。
 ドゴンッ!!


 種が着弾した途端、爆弾のように破裂したのだ。

「物理技の遠距離攻撃!? そんな技まで…」

「キノガッサ、マッハパンチ=I」

「…っ、だが真正面から来るんだったら!!」



―――カウンターのチャンスだ!



 マサシの狙い通り、キノガッサの拳を回避し、その胴体に冷気の爪を叩き込む事が出来た。
 だが、それは相手の罠だった。

「タネばくだん=v

 先程の技を、今度は零距離で直接叩き込んできた。
 炸裂した衝撃でマニューラは吹き飛び、その先でダウンした。

「――――っ!!」

 言葉を失った。
 否、喋ろうとしたのだが上手く言葉が出て来なかった。
 まさか捨て身の覚悟で攻撃してくるとは思ってもいなかった。

 マサシは、相手チーム全体との絶望的なまでの実力の差を感じずにはいられなかった。





 アヤとユキヤは、数で優位に立っている点を活かし、上手く連携して戦う。
 ヨコウはカイリューとメタグロスをボールに戻し、ゴウカザルとガブリアスの2匹で応戦していた。

「エーフィ!!」

 アヤが指示して、エーフィに念の衝撃波を発生させる。
 相性の関係でゴウカザルは大きく吹き飛んだのだが、ガブリアスはびくともしなかった。

「サンドパン!」

 その吹き飛んだゴウカザルを追撃する、ユキヤのサンドパン。
 地面に足が着いておらず、体勢も立て直していないままサンドパンの爪の直撃を喰らった。

「よし…」

 今の一撃に手応えを感じたユキヤ。
 現に、ゴウカザルは起き上がる力すら残っていないほどのダメージを受けていた。

「今よ! アブソル、エーフィ! ガブリアスに集中攻撃!!」

「グライオン、こおりのキバ=I」

 ボールの外に出しているポケモンが1匹になった事で、アヤ達は集中攻撃を仕掛けた。
 だが、ヨコウは余裕の姿勢を崩さず、たった一言だけ呟いた。

「―――げきりん=v


 ドゴゴゴゴゴォンッ!!
 突然ガブリアスが、我を失ったかのように暴れ始めた。
 その凄まじい攻撃の中に自ら突っ込んで行った3匹は、あっという間に戦闘不能。
 たった一つの技で瞬時に3匹ものポケモンを沈め、圧倒的な力の差を見せ付けた。

「そんな、私達のポケモンが、一気に…!?」

「予想以上だ…」

 いつしか、3人の表情は曇っていた。
 ただ、相手チームとの桁外れの実力差を痛感する事しか出来なかった…。







 To Be Continued

 

[アットの一言感想]

 今回も敵の強さは半端無いようです。
 これまでの激戦を潜り抜けてきたマサシ達ですが、今回は果たして?

 

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