今まで、こんな事は一度も無かった。
俺がここまで熱くなり、血が沸き立つような興奮を味わったのは。
もう、バトルの勝敗以前に感謝している。
…ありがとう。
俺にとって、初めての好敵手!
COM マスターリーグ編
第28話
VSエンスチーム−Y
Phase.100 祝・Phase100到達(本編とは一切関わりはありません)
爆発と共に、銀色のエネルギーが渦を巻いている。
その所為でマサシの姿を確認する事はできない。
それでも、はっきりと伝わってくる。
今までに無い程の、マサシの底知れない力の波動。
それを肌で感じているからこそ、エンスは思わず身震いしていた。
「(俺が身震いするとはな…。本当に、どれだけ成長すれば気が済むんだよ。なあ、マサシ)」
この戦いの中だけでどんどん成長しているマサシに対して、若干顔色を悪くしたエンス。
それなのに、エンスの顔には笑みが浮かんでいた。
やがて、エネルギーの流れは収まり始め、徐々にマサシ達の姿を目視できるようになる。
「…!」
究極段階<エクストラレベル>発動時は、全身から神々しい銀色の輝きが溢れだしているような状態だった。
だが今は、それよりも更に上…。
余りにもその輝きが強すぎて、マサシの肌・衣服・その全てが銀色に塗り潰されているような状態となっていた。
無論それは、彼の手持ちポケモン2匹も同じ状態だった。
「…こりゃ、想像以上に…」
エネルギーの奔流が止んだ後、マサシはゆっくりと、一歩一歩エンスの方に歩んでいく。
ただ歩み寄ってきているだけなのに、エンスは冷や汗が止まらない。
しかしそれと同時に、ここまでの力を発揮するマサシに対する闘争心も湧き上がってきていた。
「はは、やっぱり俺の目に狂いは無かったな。マサシ、お前はやっぱりとんでもない奴だ。この俺を、ここまで昂らせるんだからな…!」
「!」
そう言い放ち、エンスは5匹目のポケモンを繰り出す。
中から現れたポケモンは、ドンカラス!
「あやしいかぜ=v
エンスの指示で、ドンカラスは漆黒の突風を巻き起こす。
「…?」
だがその突風は、マサシ目掛けて放たれているわけではなかった。
ドンカラス自身の周囲を囲うように吹き荒んでいた。
「俺のドンカラスの特殊能力、やみのいでんし=Bゴースト・悪タイプの技を受けるとドンカラスの戦闘能力がアップする」
「自分で自分を…。いや、それだけじゃない」
「そうだ。元々あやしいかぜ≠ノは、使ったポケモンの全能力を上昇させる効果もある。無論、それを任意で発揮する事など朝飯前だ」
「…」
だが、エンスの初手でマサシは気付いていた。
今までと違い、ここまで極端に自身のポケモンの能力アップを図った事。
それはつまり、今の状態のマサシを最大限に警戒していると言う事に他ならない。
「つじぎり=I」
そしてドンカラスは己の翼を刃のように振るい、攻撃を仕掛ける。
狙いは、グレイシア。
「れいとうビーム=I」
対してマサシは、グレイシアの目の前に氷の壁を精製させる事で対抗。
ドンカラスの攻撃をいとも簡単に防いだ。
「フロストウィンド=v
まるで嘲笑うかのように。
出来る限りのパワーアップをしたドンカラスを、いとも容易く吹き飛ばす。
それだけでなく、この平原その物を完全に凍結させてしまう。
「…っ!!」
その余りに凄まじいパワーに、咄嗟に腕で顔を覆ったエンス。
攻撃が止むと同時に、エンスは冷や汗と共に、声に出して笑い始める。
「は、はは…」
最初は独り言のように小さな声だった。
だが、次第にその声は大きくなり、辺りに響き渡るほどの大声にまで発展する。
「ははははははは!! 本当に、何処まで俺の見立て以上の力を発揮するんだ! 本当に初めての経験だ、ここまで闘争心を滾らせるのは!」
「初めての事…?」
「マサシ、お前には感謝している。俺を、ここまで熱くさせる戦いをしてくれたお前にな」
「…」
「俺が今まだ戦った相手の中で、お前は間違いなく最強レベルのトレーナーだ。 …否、戦った中にはお前以上の奴らなんて幾らでも居た。だけど…」
「?」
「だけどな、俺の気持ちをここまで昂らせた奴は1人も居なかった。お前の兄、リュウイチも含めてな」
「!」
「お前にはまだ未来があり、無限の可能性を秘めている。俺はその可能性に興奮したのかもしれないな」
「無限の可能性…」
「ああ、実際戦ってよく解る。お前には、まだまだ強くなる可能性を秘めている。この俺ですら、底が見えないほどの可能性がな」
「…」
そこまで喋ったところで、深呼吸して落ち着きを取り戻すエンス。
そして空を見上げ、己の額に掌を乗せた。
「清々しい気分さ。一つの物事に対してここまで熱中するなんて、やっぱりポケモントレーナーになって正解だったかもな」
「エンス…」
―――昔を考えると、今の俺は考えられなかったかもしれないな…。
―――そうだ、あの頃を思い返せば………。
「さて、いよいよ俺の残りポケモンは1匹。後が無くなった訳だが、お前もそんなに余力は無いだろう。ここまでの戦いで、その2匹の体力は限界に近付いている筈だ」
エンスの指摘に反応はしなかったものの、実際その通りだった。
オーダイルもグレイシアも、エンスチームとの戦いに於いて、序盤から奮闘していた。
しかも後半戦になって、戦えるのがこの2匹だけになった辺りから、体力の消耗も激しくなっていた。
しかもマサシは、エンスチームの圧倒的な実力差に対抗する為、常にグレイシアを頼りに戦い続けてきた。
故に、グレイシアの消耗はオーダイルとは比較にならないほどだった。
「さあ、ラストバトルの幕開けだ!!」
そう言い放ち、エンスは最後のポケモン、ニドキングを繰り出した。
Phase.101 最終決着(1)〜ファイナリティ・エンデ〜
「パニッシュメント=I!」
初手からいきなり、大技を指示するエンス。
遥か天空から、複数の落雷を束ねた強大なる雷撃が襲い掛かる。
「瞬間連射10連:ハイドロカノン=I!」
相手の攻撃を迎え撃つべく、マサシも10発のハイドロカノンを瞬間発射して対抗する。
互いの技の威力は全くの互角で、天空で爆発すると共に技の威力を掻き消した。
「…!」
その直後、マサシは気付いた。
足元…、地面から光が発せられていた事に。
以前レクトとの戦いでエンスが披露した、特殊攻撃の威力を最大まで強制発揮させる領域、アルティメットゾーン=B
どうやら先ほどの技は、これを発動する為の陽動だったらしい。
しかも、今回の領域の広さは以前とは比べ物にならない。
少なくとも、彼らが戦っている平原全体にまで及んでいる事は確かだった。
「こんなに巨大な陣を、あの短時間で…」
「カタストロフ=I」
陣を展開したところで、早速エンスが大技を仕掛ける。
何の前触れもなく、広範囲に地面の下から橙色のエネルギーを放出する。
余りに突然の攻撃に、マサシ達は反応出来ずにまともに喰らってしまう。
「ぐっ…!」
全身に痛みが走るものの、そこまで大きなダメージではない。
また技を繰り出される前に、オーダイルが一瞬でニドキングとの間合いを詰める。
「瞬間連射10連:ハイドロカノン=I!」
そして至近距離から連続でハイドロカノンを浴びせる。
度重なる衝撃に、どんどんニドキングの身体は遠方へ弾かれていく。
攻撃を喰らった直後は身体をくの字に曲げていたのだが、難なく身体を伸ばす。
「! 効いてない訳じゃない。でも、そこまで大きなダメージになってない…!!」
「アブソリュート・ゼロ=v
「! グレイシア!!」
狙いが自分である事を直感したマサシは、咄嗟にグレイシアに防御を指示する。
と言っても、どんな攻撃が来るのか全く予測が出来ない以上下手に身動きが取れなかった。
「…? 何か、少し冷えて…」
微妙に、体感温度が下がっていることに気付いたマサシだったが、その直後!
バキィィィィィィッ!!
「な…!?」
余りに突然の出来事だった。
何の予兆もなしに、突然巨大な氷柱が出現し、グレイシアをその中に閉じ込めてしまったのだ。
「くっ、オーダイル!!」
遠くでニドキングと向かい合っていたオーダイルを咄嗟に呼び戻す。
そしてすぐに氷を砕いてグレイシアを救出するのだが…。
「元々の消耗に加えて、今の攻撃で限界に達したのか…。 本当に、頑張ってくれた。ありがとう」
一目見ただけで、戦闘不能だと言う事は判断できた。
今までの頑張りに対する労いの言葉を掛けつつ、マサシはグレイシアを戻した。
「マサシ、攻撃が止んだからって安心してていいのか?」
「!」
エンスの呼び掛けで、マサシは咄嗟に周囲を見渡す。
いつの間にか、マサシを囲うように巨大な銀色の光球が無数に発生していたのだ。
「これは…!?」
「俺のニドキング最強の技だ。最上級クラスの威力を持つ特殊攻撃の技を、最低でも3つ以上発動する。そうすれば自動的にこいつが発動する。この…、ファイナリティ・エンデ≠ェな!!」
「!!」
エンスが呼称した、ファイナリティ・エンデ≠フエネルギーは、いつの間にか接近してきていたニドキングに集中する。
「これは…! 複数の属性のエネルギーが集約するこの攻撃……! 4年前に、兄貴が使った技と似ている!!」
「マサシ、こいつを耐え切れるかな?」
「…!」
エンスのニドキングから感じる、嘗て無い程の強大な力。
覚醒した今のマサシ達にも全く劣らないほどの、圧倒的なエネルギー。
「食らいな。ファイナリティ・エンデ=I!!」
膨大な力を持った、ニドキングの放ったエネルギー波。
マサシ達はその圧倒的な力を前に身体が硬直してしまい、身動きが出来ない。
そしてそのまま、エネルギー波による爆発に飲み込まれてしまうのだった。
爆発の規模は凄まじく、数キロ離れた地点からでもそれをはっきりと確認できる程だった。
「(俺がここまで全力を出せるような相手…。そんな奴と戦える日が来る、それが俺の願いだった…)」
一方でエンスは、その爆発を眺めながら脳裏に過ぎる昔の記憶を思い出していた。
切欠など、無かった。
エンスは最初から、他と隔絶された才能を持っていたのだから…。
エンスは元々、何の変哲も無い家系で生まれ育った子供だった。
普通に家族と談話し、時に兄弟姉妹と喧嘩しつつ…。
至って平凡な生活をしていた。
だが一つ違う所があったとするなら…。
『近所の友達』というのが、1人も居なかった事。
エンスは生まれつき、あらゆる面において天才的な才能を持っていた。
運動も然り、勉学も然り。
全てに於いて、完璧としか言い様の無い才能を持っていた。
故に、彼は常に独りだった。
最初は何事にも積極的に、熱意を持って様々な事に挑戦していた。
が、その有り余る才能は次第に彼の周囲から人を遠ざけててしまう。
そのせいで、エンスは物事に対する熱意を完全に失ってしまったのだ。
そんなある日、エンスは新しい事を始めようという些細な理由からポケモントレーナーへの道を進み始めた。
ポケモントレーナーになれば世界中を旅をすることが出来るし、強豪が集う大会に出場する事にもなるだろう。
そうすれば、自分と渡り合うことの出来る強敵に巡り合えるかもしれない。
その微かな希望に賭けて、エンスは旅に出るのだった。
Phase.102 最終決着(2)〜エンスの軌跡〜
ポケモントレーナーとして旅に出て、世界各地を回っていた。
無論、その過程で幾つもの大会に出場したりもした。
しかし、やはりエンスは以前と同じ感覚を拭えずにいた。
大会で戦うトレーナーや、旅をしている途中で戦ったトレーナー達。
その何れもが、一切の例外なくエンスの圧倒的な力を前に平伏す事しか出来なかった。
そして、一体幾つ目なのかを数えるのすら諦めた頃だった。
ある日の大会を制覇した後日、エンスの前に1人の男が現れる。
その男こそ、マサシの兄であるリュウイチだった。
各地の大会を次々に制覇する凄腕のトレーナーがいると言う噂を聞いて、リュウイチが会いに来たのだ。
圧倒的な力を有する、『終焉の道標<エクストレーム>』に対抗できるだけの力を持つ仲間を集める為に。
「『終焉の道標<エクストレーム>』…。 そいつらを倒すために、俺の力を借りたい?」
「ああ。エンス、あんたの事は結構有名になっている。突如現れて、その圧倒的な力を持つことから、次のマスターリーグの優勝候補とまで言われている」
「俺はそんな事に興味は無いんだがな…。けど、マスターリーグってのは世界最強のトレーナー連中が集まる大会なんだろ?」
「ああ。実質、その大会で優勝したトレーナーが世界最強ということになる。この俺も、次のマスターリーグに出場するトレーナーの1人だ」
「お前も…? 言っちゃ悪いが、そんな強そうには見えないな」
「……そうだな。噂ばっかりで、俺もあんたの実力はサッパリだ。そしてあんたにも俺の実力を理解して欲しい」
「………バトルをしてもいいんだが、一つだけ頼みがある」
「何だ?」
「せめて…、すぐに倒れるようなことにだけはならないでくれよ!」
かくして、リュウイチVSエンスの戦いに発展していくのだった。
「(ここまで全力を出して戦うと、初めてリュウイチと会ったあの時を思い出す。あの時も、今と同じくらい全力を出して戦ってたからな…)」
昔の事を思い返しているうちに、ファイナリティ・エンデ≠フ爆発が縮小する。
煙の中で、銀色に輝くマサシとオーダイルは何事も無かったかのように立っていた。
「…! オイオイ、あの技をまともに食らって無傷かよ。流石に驚いたぞ」
「防御特化<シールドシフト>≠セ。これのお陰で持ち堪えられた…」
「成る程、そんな事も出来んのか…」
「………こうそくいどう=I」
マサシが技の指示を出した直後、オーダイルは動き出す。
若干身体を屈めながら、ニドキングの目の前に瞬間移動したかのような錯覚を与える。
「れいとうパンチ=I」
そして相手がオーダイルに気付いて反応する前に、右拳に冷気を纏わせて殴りつける。
しかしギリギリで身体を大きく仰け反らせる事で回避。
更に拳を振りぬいた事による隙を狙い、雷撃を纏わせた拳で反撃してくる。
「……っ」
その状態から強引に身体を捻って、直撃だけは辛うじて回避する。
しかし、拳に纏われていた雷撃を若干食らってしまう。
そしてその状態から即座に姿勢を戻し、アクアテール≠叩き込む。
ドゴンッ!!
打撃を貰い、その衝撃で吹き飛ぶが然程問題ない様子で着地して勢いを相殺する。
「ニドキング相手に打撃戦を挑んでくるとはな。毒状態になったら勝ち目がなくなるぜ?」
「その心配は無い。俺も昔はニドキングを手持ちに入れていたことがあってな、その所為かどの辺りを攻撃すると『どくのトゲ』を食らうのかが大体解るんだ」
「何だそりゃ…、そんな細かい部分にまで手が行き届いてんのかよ…」
今のマサシの発言に、最早呆れ果てているような表情と口調で返したエンス。
だがそんな雰囲気とは逆に、バトルは激化の一途を辿る。
「おおおおおお!!」
トレーナーの雄叫びと共に、どんどん大きな力を発揮していくポケモン達。
オーダイルとニドキングは、共に真正面から相手に突撃し、拳を突き出す。
ドォォンッ!!
共に強大な力を宿しているが故に、激突と共に凄まじい閃光や轟音と共に大地が激しく振動する。
「(至近距離からの瞬間連射10連≠ナも、ほとんど効かなかった…。なら…、瞬間連射ももっと…、もっと上の領域に…っ!!)」
「ハードクラッシュ=I!」
そしてエンスがここで指示を出したのは、最初のドサイドンが猛威を振るった大技。
あれだけの大技を、このニドキングも習得していたのだ。
「11…、12…」
だが、ドサイドンと違って技を繰り出すのに若干の時間が掛かっていた。
その僅かな時間の間、マサシは何やら秒読みのようなカウントを始めていた。
「ニドキング!!」
だが、そうこうしている間にニドキングが動き出す。
何かの準備中らしきマサシめがけて、容赦なくその拳を振り下ろす!
「15…! 瞬間連射『15連』…………!!!」
「…!!」
その鋭い眼光と気迫に、流石のエンスも一瞬慄いた。
マサシの指示の元、今まで以上の手数の瞬間連射≠繰り出す。
ドドドドドドドッ!!
発射した水弾がニドキングに命中し、爆ぜる音が連続して鳴り響く。
それが周囲に反響するのだから、実際に戦っている者以外は何発繰り出したのかすら認識できない。
それ程の、攻撃速度を発揮したのだ。
明らかに今までのマサシを遥かに上回っていた。
「15連には驚いたな…。まだそんな力があったのか」
エンスの傍で、膝を落としているニドキング。
どうやら、今の攻撃はニドキングに相当なダメージを与えられたらしい。
「しかし、流石はあいつの…。リュウイチの兄弟って所だな。何処までもそっくりだ」
「何?」
「どんな状況でも挫けず、その鋭い眼光を俺に向けてくる辺りなんかそのまんまだよ」
そう。
エンスは過去にあったリュウイチとのバトルと、今現在のマサシのバトル。
バトルを繰り広げている最中の2人の姿が、エンスには重なって見えていた。
―――7年前の、リュウイチとの戦いの時もそうだったっけな。
―――どう見ても勝ち目が無い状況に陥っても、その鋭い眼光だけは最後まで失わなかった…。
そして、再びエンスの脳裏にリュウイチとのバトルの記憶が蘇る…。
バトルの終結に近付いていた。
リュウイチもエンスも息を切らし、互いに残っていたポケモンは1匹ずつ。
そして両者の周囲の地形はすっかり荒れ果てていて、この二人の戦いの凄まじさを物語っていた。
「はぁ、はぁ…」
リュウイチの残る最後の1匹はカメックス、エンスの残る1匹はニドキングと言う状況。
相性面ではカメックスが有利だったのだが。
ニドキングは多彩な属性の最上級技を駆使してリュウイチを追い詰めていた。
「リュウイチ…。お前は変わった奴だ、俺が今まで出会ってきたトレーナーの誰とも違う」
「何だ?唐突に」
「これだけの実力差があるにも関わらず、何で諦めようとしないんだ。普通のトレーナーなら、とっくにその戦意は失っている筈だが」
「単に俺の諦めが悪い…、ってだけじゃないだろうな。俺は最初に言った通り、マスターリーグの優勝を目標にこれまで頑張ってきた。その過程で、どう足掻いても敵わないようなやつに出くわす事も想定していた」
「それが何だってんだ…?」
「もし絶対敵わない相手だとしても、それだけで勝負を投げ捨てるような事をしたくないからだ。もしそうすれば、自分の今までの頑張り全てを自分で否定する事になるからな」
「自分の頑張りを…、自分で否定する…」
「エンス、あんただって何れは俺のこの考えを理解できるようになる。そして勝負は、最後まで諦めさえしなければ決して負けることは無い。俺はそう信じて戦ってきた」
「…、悪いな。やっぱり今の俺には理解できない」
「少しずつ理解していけば良い。俺に出来るのは、その切欠をお前に与えてやるくらいだ」
「…?」
「カメックス」
リュウイチの合図で、カメックスが頷く。
すると、カメックスの甲羅にある砲門に銀色のエネルギーが集中し始める。
「…!」
エンスも気付いた。
これからカメックスが繰り出そうとしている技、その威力を。
今の自分、全力を持って迎え撃たなければ消し飛ばされる…と。
「ファイナリティ・エンデ=c…!!」
文字通り、お互いの全力を賭けた一撃。
両者の死力を尽くした攻撃は、途轍もない規模の大爆発を引き起こした。
ドゴォォォォォォッ………!!
その爆発の果てに、地面に倒れ伏したのは…。
「……」
エンスは、言葉を失っていた。
今まで一度も体験した事の無い光景が、目の前に広がっていた。
彼の最後のポケモンが、倒れていた。
「リュウイチ…。お前の言う事も、何となくだが解ってきた気がする。最後の攻撃は、間違いなく全力を尽くした物だった。それでも、まだお前を倒すには至らなかった…」
「…」
「確かに、一度負けて大人しく引き下がるような事なんて出来ねぇよな。いや、それは勝負の後に気づくんじゃなくて、戦いの中で感じ取ればいいんだよな」
「今はそれで充分さ。この先、お前も全力を賭けて戦うに値するトレーナーがきっと現れる」
「そう願いたいもんだ」
そこで、エンスの回想は途切れた。
Phase.103 最終決着(3)〜全力の戦い〜
ドォォォォォンッ…!!
凄まじい轟音と衝撃波が、遥か遠方にまで響き渡る。
轟音が鳴り響くたびに、大地が激しく振動する。
マサシのオーダイルと、エンスのニドキングが激しい格闘戦を繰り広げていた。
「カタストロフ=I!」
だが突如エンスが、特殊攻撃を繰り出す。
先ほども一度披露した、広範囲の地面から膨大なエネルギーを放出する技。
足元から攻撃が来る為に、回避する事は不可能に近かった。
「ぐっ…!」
だが、オーダイルはそこまで大きなダメージにはなっていない。
しかしマサシが気にしているのは、そこではなかった。
「(さっき俺も、ハイドロカノン≠フ瞬間連射を使った。その所為で、水属性のエネルギーが蓄えられた。後一つ特殊攻撃が繰り出されれば、またあのファイナリティ・エンデ≠ェ飛んでくる…)」
先ほどは、辛うじて持ち堪えたエンスの最強攻撃。
その発動条件が、もうすぐ満たされようとしている。
だからこそマサシは焦り始めていた。
「こうそくいどう=c!」
そしてここで、更にスピードを上げる。
最早エンスですら目で追うのが不可能なほどのスピードに達し、まさに一瞬の出来事のようにニドキングを吹き飛ばす。
吹き飛ばされながらも空中で姿勢を持ち直し、マサシの方に視線を向けるニドキング。
だがそのとき既に、オーダイルはニドキングの頭上から水を纏わせた尾を振り下ろしてきていた。
それを見た瞬間、エンスとニドキングの顔が引き攣った。
とても回避が間に合わないタイミングで、尚且つ防御をしても受けきれないような圧迫感を感じたからだった。
ドゴォォォォォォンッ!!!
轟音と共に更に大地が激しく振動し、巨大な水柱が立ち上った。
「ぅ…、ん…」
そんな壮絶な死闘の最中、弱々しい声が一つ。
彼らの戦う場所から少し離れた場所で倒れていたアヤが、意識を取り戻す。
うつ伏せの状態から身体を起こし、周囲の様子を探る。
「私、あの後意識を失って…。 そうだ、バトル! 決着は!?」
バトルの事を思い出した直後のアヤの完全に広がった光景。
それは、どちらもが常識を逸した膨大な力をその身に宿して戦う2匹のポケモンの姿。
そしてそれらのポケモンを指示している、マサシとエンスの姿。
そのどちらからもひしひしと感じ取れる、凄まじい気迫。
その光景に、アヤは息を呑む事しか出来ない。
「何、これ…。何なのこの戦い…」
「どうやら……、マサシもまた更なる力を手にしたようだな」
そんなアヤの背後から、ユキヤの声。
彼もまた、彼女より少し遅れて意識を取り戻したようだ。
「奴から感じるあの力は、今までとは比べ物にならないほど強く、そして今までよりも異なっている」
「異なっている…? それって、どういう…」
「気付かないか。マサシをよく見てみろ」
「…」
ユキヤに促され、アヤはマサシの方に気を集中する。
マサシは呼吸が激しく乱れ、全身汗だくになっている。
パッと見ただけでも、マサシ自身にも大きな負担が掛かっている事は容易に想像できた。
「あれは恐らく、『何か』が切欠でマサシ自身の天属性の力がオーダイルに分け与えられた状態だ。それによってオーダイルは今まで以上の力を発揮しているが、その分マサシの疲労が大きくなるようだ」
「つまり、長期戦になったらマサシは負けるって事!?」
「万全の状態ならまだ解らなかっただろうな…。だが今は、最初のヨコウ達とのバトルからずっと戦いっぱなしだ。あの力を発動した時点で、既に体力は限界に近かっただろうな」
「でも、今の私達には何も出来ない…。手持ちポケモンが全部やられちゃったし…」
「後は全て、奴に任せるしか無いということか」
「…」
ユキヤの推測は、ほぼ的中していた。
バトルが長引くたびに、マサシの顔色がどんどん悪くなっている。
「(くそ、これ以上長引いたら…。ハイドロスペイザー≠撃とうにも、まだ確実に直撃させられるだけの隙が作れない…。外したら、その時点で終わる…)」
「悪いな、マサシ。そろそろ決めさせてもらうぜ。アブソリュート・ゼロ=v
「! しまった」
咄嗟に超スピードで突如出現した氷の柱は回避することが出来た。
しかし、今の攻撃で条件が整ってしまった。
「ファイナリティ・エンデ=B今度こそ、終わらせる」
「…。!」
この極限状態の中で、マサシは閃いた。
何故こんな無謀な事を思いついたのかは解らない。
ただ、ハイドロスペイザー≠直撃させるだけの隙を作るには、もうこれしか無いと思った。
「…っ! 『攻撃特化<ブレイクシフト>』…!!」
「何…!」
その行動は、エンスも想定していなかった。
てっきりエンスは、また防御に回ってこの技を凌ぐと思っていた。
だが今回は、徹底的にこの技と向かい合う姿勢を見せていた。
「面白ぇ…。リュウイチでも相殺に持ち込むのが精一杯だったこの技、お前に凌げるか!!」
周囲から銀色のエネルギーがニドキングの元に集結する。
そして膨大な力を持った銀色のエネルギー光線を、マサシ目掛けて発射する。
「…っ。 うおおおおおおおおおおお!!!!!」
マサシの雄叫びと共にオーダイルはファイナリティ・エンデ≠ノ真正面から突撃する。
そして、全力を込めた一撃でこの技と真正面から激突するのだった。
後編へ続く
[アットの一言感想]
項番号が3桁に届いた今回、マサシの成長はエンスの心をも熱くさせたようですね。
いよいよ決着の時のようです。