今、マスターリーグ予選は大きな波紋が広がろうとしている。

 予選開始から常に第1位に君臨し続けていたエンスチームの敗北。

 そして彼らを破ったマサシチームの3人に、世間の注目は集まっている。

 無論、彼らを狙う輩が増えたのもまた事実だった。



 マスターリーグ予選開始から2ヶ月。

 彼らの、後半戦がここに始まる。







COM マスターリーグ編
第29話
動き出す狩猟者達







 Phase.107 集中砲火





 現在マサシ達は、相当疲弊していた。
 というのも、アロナシティ出発から3日ほど過ぎたのだが、その間敵チームに狙われる回数が以前とは桁外れに多くなっていたからだ。

「これで終わりか!?」

「うん、そうみたい」

 マサシ達の周囲には、彼らを襲ってきたトレーナー達、ざっと15人ほど倒れていた。
 彼らのランキングはトップ10にも入っていないような雑魚ばかりだったが、やはり数が多くて苦戦したようだ。

「ユキヤ、この近くに町は無いか? 流石に、これ以上は限界がある」

「ここから南へ少し進んだところに小さな町がある」

「とりあえずそこで一旦休憩だ。ポケモン達の体力も流石に持ちそうに無い」

「マサシ君!」

 上空を飛んでいたエアームドが反応を示したので、それをマサシに伝えたナギサ。
 どうやら、近くに敵が居ないかどうかを監視してくれていたようだ。

「まだいるのか」

「ううん。まだ随分と距離が離れてるけど、動く様子が無いみたい。こっちの様子を伺ってる感じ」

「…まあ、向こうが動かないなら早く移動するに越した事はない。さっき言ってた、南の方にある町へ急ごう」

 マサシ達は、やや急ぎ足でこの場を南へ向けて去っていくのだった。





 それから数分経過し、先程ナギサの言っていた『監視者』がこの場に現れた。
 金色のロングヘアーに整った顔立ち。
 一見すると思わず見惚れてしまいそうな美人だった。

 だが、何故かその女性の目は尋常ではないほどに血走っていた。

「うっ、流石に強い…」

「おい」

「!」

 倒れていたトレーナーの1人が、その女性の存在に気が付いた。

「ミオン様…?」

「あんな屑共を相手に何やられてんだ! お前達はこの高貴な私が自ら厳選した優秀な出場者討伐の面子! なのに、そのざまは何だ!!」

「申し訳ありま…」

 ドゴッ!!
 そのトレーナーが謝るのも聞かず、ミオンと呼ばれた女性はそいつを足蹴にする。
 否、やりすぎとも思えるほどの暴行を加えている。

「屑にやられるような屑以下のゴミ野郎が、この高貴な私と口を聞くじゃないよ! 汚らわしくて仕方が無い!!」

 今の会話内容から察するに、マサシ達が倒したトレーナー集団は、例の出場者殲滅を目論む一味だったらしい。
 しかも大会出場者として紛れ込んでいる側だったようだ。

「屑野郎共の癖に、随分と舐めた事をするじゃないか。屑野郎なんてさっさと消えちまえばいいのさ。奴らは真っ先に潰す。この私の顔に泥を塗った屑共、覚悟するんだね」

 マサシ達の向かっていった方向を、血走ったままの眼で眺めるミオン。
 その表情には、醜悪なる笑みが浮かんでいた。





 先ほどの地点から南へ数km進んだ地点にある小さな町。
 マサシ達は一先ず、そこのポケモンセンターで腰を落ち着けていた。

「ふぅ、とりあえず町中なら危険も少ないだろ…」

「皆、大丈夫?」

 汗だくで椅子に凭れ掛かるマサシ達。
 あれだけの大人数を相手にして、疲れないほうがおかしい。

「大人数……か」

「マサシ君?」

 凭れ掛かりながらも、マサシは先程の事を思い返していた。

「考えてみれば、何で奴らはあんなに都合のいいタイミングであんなに集まってたんだ?しかも、奴らは俺達『だけ』に狙いを定めていた」

「それが、どうかしたの?」

「もしかしたら、この間エンスの言ってた通り…。また出場者を殲滅しようとする奴らが活動を再開したのかもしれないな」

「! そうか。最初にコルカのチームに紛れ込んでた2人みたいに…」

 ハッとした反応を見せてアヤが喋る。
 それをマサシは、無言で首を縦に振る。

「つまり、出場者の中に紛れ込んだ『狩猟者』がまた動き出す頃という訳か」

 ユキヤも腕組みをしながら、会話を続ける。

「となると、さっきナギサが言ってた監視者。あれは、あの場にいた連中の総指揮を執っていた奴だという可能性もあるな」

「そいつがどれだけの実力者かは解らないけど…。今までのことから考えると、伝説級のポケモンの1匹は持っていると考えて間違い無さそうね」

「そうだな。幸いオーダイル、バクフーン、サンドパンの3匹だけは小さなダメージで済んだから回復も早かった。もし連中がこの町に直接攻撃してきても、それを迎え撃つ事は可能だ」

「確かにそうだ。奴らは平然と無関係の奴らも巻き込む。それだけは…」


 ズドォォォォォォォンッ!!!!!
 まさにそんな時だった。
 建物の外から、物凄い爆発による轟音が聞こえてきた。







 Phase.108 VSミオン(1)





 爆発音が聞こえたので、マサシ達は慌ててポケモンセンターの外に飛び出す。
 そこで目にしたのは、この町全体が火の海になっているとい衝撃的な光景だった。

「って、そんな事を話し合っている傍から…。早速仕掛けてきやがったか」

「ポリゴンZ はかいこうせん≠セよおおおおおおお!!!!」

 半分奇声のような指示で、傍にいるポリゴンZに指示を出すトレーナーが1人。
 金髪のロングヘアーの女性、ミオン。
 充血した眼で町中を見渡す。

「出てきなよ、屑共! 出てこないんだったら、何千というゴミ共を焼き払ってでも誘き出してやるうううううううううう!!!!!」

 ポケモンセンターから程遠く離れた建物の屋根の上に立ち、叫び声を上げているミオン。
 彼女の指示で上空に浮上したポリゴンZが、巨大な極太の赤い光線を発射。
 地上を…、町を焼き払っていく。

「ほらほらほらほらほらほら!!! 出てこないなら、こっちも遠慮なくここを焼き払っちゃうよ!!!!!」

「ブレイククロー=v

「!」

 突如背後から聞こえてきた、男の声。
 それに即座に反応し、振り向くと同時にバックステップでサンドパンの攻撃をかわす。

「ぎゃっはっははっはっはっはははああああああ!!! やーっと出てきてくれたねぇ、ゴミ屑ちゃん。お前達を潰したくて、うずうずしてるよおおおおオオオオ!!!!!!」

「耳障りな奴だ。そこまで声を荒げるな」

「あん? ゴミ屑がこの私に言葉を吐くんじゃないよおおおおおお!!!!!」

 完全に血が上っているかのような反応で、ポリゴンZにはかいこうせん≠指示。
 至近距離から彼…、ユキヤに襲い掛かる。
 ズドォォォォォォッ!!!


 町の上空を、巨大な赤い光線が横切った。

「あははははははは!!!! こんな簡単に消し飛ぶなんて、やっぱりゴミ屑野郎だったねえ!!!」

「どこを狙っている」

「!」

 またしても声が背後から聞こえた。
 そこには、確かにたった今消し飛ばしたはずのトレーナーの姿。

「はっ、屑の癖に生意気な奴だね!」

「虚勢だけの小物か。大した事無いな」

「ああん!? 屑の癖に何て言った今!!!!!?」

「隙だらけだ」

 冷静さを失ったミオンに、冷静な口調でユキヤは警告する。
 最も、それですら警告は遅すぎたようだが。

 ドゴンッ!!!
 ユキヤの警告の直後、鈍い音と共にポリゴンZに強烈な一撃が叩き込まれた。

「破壊爪<デストラクションエッジ>=@『刹那』」

「マルマイン!!!」

 最早形振り構わず、ミオンはマルマインを直接放り投げてくる。
 それが意味する事を瞬間的に察したユキヤは、咄嗟にバックステップで距離を取るのだが…。

「だいばくはつ=v

 ミオンの指示が飛んだ直後。
 町の上空で、花火のような爆発が発生するのだった。





「! ユキヤ!?」

 一方でマサシ達は、町の救援に向かっていた。
 マサシとナギサは手持ちの水ポケモンで火を消し、アヤは逃げ遅れた人たちの捜索。
 それぞれ役割を分担し、町を救おうとしていた。

 そんな中、今の爆発に反応したマサシが、ユキヤの身を案じていた。

「さあて、ゴミ屑ちゃん達何か頑張ってるみたいだけど。そら、行くんだよお前達!」

 そういってミオンが放り投げたのは、またしてもマルマイン。
 しかも数は1匹だけでなく、軽く10匹以上は数えられた。

「! マルマインの大群!? あんな数を纏めてだいばくはつ≠ナもさせられたら…!!」

「大丈夫だよ、マサシ君。私がいる限り、あのマルマイン達は爆発できないから」

 落ち着いた口調で、マサシの背後から前に歩み出すナギサ。
 そして彼女の傍にはニョロトノの姿。

「ニョロトノ、ハイドロポンプ=I!」

 そして彼女の指示の元、飛来した全てのマルマインを攻撃する。
 どうやら1匹1匹の能力はそれ程高くないらしく、一撃で撃破する事が出来た。

「何いいいいいいいいいい!!? あの屑、一体何をしやがったああああああアアア!!!!!!!」

「ナギサの傍に居たのはニョロトノ。そいつが貴様の企みを阻止したんだよ」

「!」

 そして気が付けば、今度はマサシがミオンの傍に立っている。

「ニョロトノだってえええ!? あんなゴミ屑が扱うポケモンが、どうやってこの私の邪魔をしたって言うんだ!!!」

「簡単な話だ。ナギサのニョロトノの特性が『湿り気』だったというだけの事だ」

「!!」

「お前はさっきから散々でかい声で叫んでくれていたからな、居場所はすぐ解った」

「ポリゴンZ! さっきのあんなヘナチョコな攻撃でへばってないだろうね!?」

 ふらふらと空中を漂いながら、ミオンの前に出るポリゴンZ。
 そして前面に、赤いエネルギーを集中し始める。

「はかいこうせん=I!!!!!!!」

「瞬間連射15連:ハイドロカノン=I!!」

 相手の攻撃に反応し、即座にマサシも攻撃を繰り出す。
 先日のエンスとの死闘で更に進化した瞬間連射を発動し、真正面から迎え撃つ。
 ズドォォォォォォォォンッ!!!



 再び町の上空で爆発が発生。
 爆煙の中から弾き飛ばされた人影が一つ。
 マサシが、煙の中から弾き出されていた。

「(何だ、今の破壊力…。普通のはかいこうせん≠カゃないのか…!?)」

 地上に着地して、マサシは先ほどの激突の瞬間の事を思い返していた。
 15連発ものハイドロカノン≠、有無を言わさず押し返すほどの破壊力。
 いくら此方が『能力回帰』を使っていないにしても、その破壊力は尋常ではなかった。

「さあさあさあさあさあ!!!!! 一気に焼き払ってやるよおおおおおおお!!!」

「チィッ!!!」

 相手は上空からお構い無しにはかいこうせん≠ナ地上を薙ぎ払う。
 光線で削られた地面から、巨大な火柱が立ち上る。

「妙だな、何でさっきからはかいこうせん≠オか使わない。オーダイルを倒すなら、他にも色々技はあるはずなのに…」

「マサシ君! 大丈夫!?」

 落下に気付いたナギサが、咄嗟にマサシの元に駆け寄ってきた。

「大丈夫だ」

「…ねえ、マサシ君。もしかしたらだけど、私ならあの人のポリゴンZを無力化出来るかもしれない」

「! 本当か!? 一体どうやって」





 無論、彼らの作戦のやり取りはミオンの耳には届かない。
 が、彼女はそんな事はお構い無しにまたしてもはかいこうせん≠発射しようとする。

「これで、消し飛びなああああああああああああああ!!!!!!」

「キュウコン!!!」

 相手の攻撃が繰り出されたのを見計らい、キュウコンを前面に繰り出すナギサ。
 その瞬間、キュウコンの全身から怪しい紫色のオーラがあふれ出す。
 直後、容赦無くポリゴンZの光線がキュウコンを飲み込んだ。
 ズドォォォォォォォンッ!!!!

「ぎゃーーーっははははははは!!!! やはりゴミ屑じゃこの私の相手になんてなる筈無かったね!さあ、これでとどめだ!!」

 だが、ミオンが指示を出したのに、ポリゴンZははかいこうせん≠発射しない。

「おい、何をしてるんだ! さっさとあのゴミ屑共を消し飛ばすんだよ!!!」

「無理…よ。そのポリゴンZは、もう完全に無力化したから」

 爆発の衝撃で負った怪我を引き摺りながら、ナギサがミオンを見上げながら喋り始める。

「無力化した…だって!!? 一体何をした!!!」

「さっきから貴女は、攻撃技をはかいこうせん≠オか使ってなかった。ううん、『使えなかった』んだよね。そのポリゴンZ、『こだわりメガネ』を装備してたんでしょ?」

「…!」

 ミオンの表情が引き攣った事で、ナギサは推測が当たりであることを確信した。

「だから私は、キュウコンに指示を出しておいたの。おんねん≠」

「ッ……!!!!」

 ミオンの表情が更に引き攣る。

「う…っ、ぎゃああああああああああああああ亜阿アアアアアアああああああ!!!!!」

 突然苦悶のような叫び声を上げると、ミオンはこの場から逃げ出す。
 それを見たナギサが、咄嗟に後を追おうとするのだが…。

「ナギサ! お前はこの町を頼む、俺が後を追う!」

「マサシ君…。うん、わかった! こっちの事は任せておいて」

 そういい残し、マサシもまた屋根の上を飛び移りながら逃走したミオンの追跡を始めるのだった。







 Phase.109 追跡





「そうだ! ユキヤ君を探さなきゃ」

 マサシの姿が見えなくなった後、最初の爆発以降姿が見えなくなっていたユキヤの事を思い出す。
 早速、町中で捜索を始める。

 とりあえず、爆発のあった場所を中心に探索するのだが、影も形も無い。
 なのでそこから、手持ちのポケモンも総動員して捜索範囲を広げていく。

「ナギサー!」

 ユキヤを捜索している途中で、アヤが合流した。
 どうやら町の住人達の安全は確保できたらしい。

「アヤちゃん! ユキヤ君見なかった?」

「まだ見てないけど…。さっきの爆発で何処かに飛ばされたの?」

「そうだと思う。まだ、この町の近くにいるとは思うんだけど…」

「ところでマサシは?」

「マサシ君なら、あの女の人を追跡してるよ。大丈夫、今のマサシ君だったらそんな簡単には負けないよ」

「そうね。こっちも、急いでユキヤを見つけなきゃ」

 アヤとナギサは、それぞれ手分けしてユキヤの捜索を開始。
 既に町中は粗方探しつくしたので、2人は町の外へ捜索の範囲を広げていた。

「ユキヤ、一体何処にいっちゃったのよ…。あの時の爆発はそんなに大きくなかったから、そこまで遠くに飛ばされたってことは無い筈だけど」

 丁度そんな時だった。
 アヤの背後から、とてつもなく冷たい気配を感じ取る。
 感じ取った瞬間、全身が身震いするほどの悪寒に襲われる。

「…!(ゾクッ)」

 咄嗟に背後を振り向くと、彼女から少し離れた距離を横断する1人の男の姿。
 灰色の髪の毛が腰辺りにまで伸びている、異様な圧迫感を周囲に与えている。

「…」

 一方でその男も、アヤの方に一瞬視線を向ける。

「水色のショートヘアーのトレーナー…。成る程、お前が先の騒動でレクトが戦ったトレーナーか」

 見た目と違い、その男のトーンはかなり低い。
 それが彼女の表情を強張らせていた。

「レクトさんを知ってる…。あんたも出場者を潰そうとする連中の仲間なのね。さっきのあの女の手伝いに!?」

「あの女…、ミオンの事か。奴は頭に血が上りやすくて、すぐに暴走する。それを静止しに来ただけだ」

 今目の前に敵が居る以上、このまま黙って見過ごすことは出来ない。
 が、今の彼女の手持ちはバクフーンのみ。
 幾らなんでも、この状況で彼を倒すことなど出来る筈も無い。

「レクトから、お前は形振り構わず突っ込んでくる奴だと聞いていたんだがな。意外と冷静な面も持っているようだ」

「…っ」

 彼女との会話をそこで途切ると、再び歩みだす。
 あの男の圧迫感から持ち直すのに、彼女は数分を要したという。







「あ、居た!!」

 一方、別の方角で捜索を続けていたナギサは、遂にユキヤを発見する。
 所々服が焼け焦げているものの、ユキヤ自身にそこまで大きなダメージは見当たらない。

「ユキヤ君!」

 ナギサの呼び掛けで目を覚まし、即座に立ち上がる。

「起きて大丈夫なの?」

「心配無い。爆発の瞬間、サンドパンの力で衝撃を軽減した」

「よかった…」

「それよりも、状況はどうなっている」

「町の人達は避難出来て、あの女の人はマサシ君が追跡してる」

「そうか。なら、すぐにでもマサシの後を追うぞ」

「その前にアヤちゃんに…」

「合流する時間も惜しい。すぐに行く」

「せめて連絡だけでもさせて」

「移動しながらだ、行くぞ」

 ナギサとユキヤは、マサシの追跡を開始。
 道中、ナギサが携帯電話でアヤにユキヤ発見とマサシ追跡を始めた事を報せるのだった。







「私が…、この私がゴミ屑相手に追い込まれている……!? 嘘だ、嘘だ…! 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ………!!!!!」

 町からの逃亡の最中、ミオンは1人狂ったように頭を掻き乱している。
 呼吸が激しく乱れ、先ほどのマサシ達との攻防が何度も脳裏で繰り返される。

「私はゴミ屑などとは違う…!なのにそのゴミ屑に追い込まれている私は何だ…! 私がそのゴミ屑以下の存在…!? 有り得ないいいいいいいいいいいい!!!」

 そんな時だった。
 背後から突然、高度に圧縮された水の弾丸が飛んできた。
 それはミオンの袖元を掠る程度で済んだが、ミオンは反射的に後ろを振り向く。

「逃すか…!!」

「あいつ……!!」

 だが今のミオンには、マサシと戦えるだけのポケモンは残っていない。
 爆撃用に持ってきたマルマイン達も、全て使い果たしてしまった。
 唯一の戦闘用に持ってきたポリゴンZも、先程ナギサに無力化された。

 つまり、今のミオンには逃げることしか出来なかった。

「『速度特化<アクセルシフト>』…!!」

 追跡の最中、オーダイルが『能力回帰:第2段階<セカンドレベル>』を発動。
 そしてスピードに特化した状態となり、一瞬にしてミオンとの距離を詰める。

「!」

 『速度特化<アクセルシフト>』によって瞬時に距離を詰め、ミオンを殴り飛ばす。
 バキィッ!!

「ぐっ…!!」

 衝撃でフラフラしながらも、ミオンは立ち上がる。
 だがそのすぐ目の前で、マサシが立ち塞がっていた。

「生憎だが、もう俺はお前ら相手に容赦する気は無くなっている。お前達は色々と派手にやりすぎるからな」

「だから何だ!! ゴミ屑共がどうなろうとも、私達には何の関係もないんだよ! あっはっはっはっはっははははは!!!!」

「…だから俺は貴様らに対してイラつくんだ。ハイドロ…  !」

 ミオンに攻撃を仕掛けようとした瞬間、別の気配を感じ取る。
 咄嗟にオーダイルを傍に呼び寄せ、周囲を警戒する。
 その直後だった。
 フッ…!

「!!」

 突然マサシの眼前に、緑色の何かのポケモンの尻尾らしき物が出現。
 それがマサシ目掛けて振り抜かれている。

「オーダイル!!」

 咄嗟の反応でオーダイルがガードするのだが、その強すぎる衝撃でマサシ共々弾き飛ばされる。

「ぐっ…!!」

 即座に身体を起こし、今攻撃してきた敵を凝視する。
 灰色の髪の毛が腰辺りにまで伸びている男。
 そしてその男の上に、巨大な緑色の龍のような姿をしたポケモン。

「また別の敵か…!!」

「レノム…! 何のつもりだ!?」

「ミオン、お前の監視だ。お前はすぐに頭に血が上り、見境無く破壊衝動を撒き散らすからな」

「別に関係ないじゃないか! この世界にいるのは、どいつもこいつもゴミ屑以下の連中ばかりなんだから! 別にどうなろうと関係ないだろ!?」

「黙れ」

 その発言の瞬間、レノムと呼ばれた男から背筋が凍りつくような気配が発せられる。
 そんな彼を前に、ミオンは言葉を失い息を呑む事しかできない。
 そしてそれは、マサシにとっても同じ事だった。

「(何だ…、こいつ!? 直接向かい合ってる訳でもないのに、この悪寒は…!!)」

 だがその直後、マサシは『ある事』に気付く。
 レノムが発している威圧感に、紛れ込んでいた力の事を。

「お前…、その力は…!!」

「ん?」

 マサシの呼び掛けで、初めてレノムはマサシと向かい合う。
 向かい合った時、マサシは眼を凝らす。
 そこで初めて、それは確信に変わる。

「魔属性の力を…! お前も、レクトさんの仲間の1人か…。それに、あのポケモンは…!!」

「レクトの言っていた、お前がマサシか。成る程、聞いたとおりだな」

「レクトさんは魔属性の力を得て、あれほどの暴走を起こしたというのに…。お前は……」

「俺とレクトでは格が違う。あんなヘマをするつもりはない」

「能力回帰…」

 咄嗟に戦闘態勢に移るマサシだが、レノムはそれを静止する。

「ミオンがやられた以上、放っておく事も出来ん。この場は退かせてもらう」

「逃すと思うのか! ハイドロスペイザー=I!!」

 今のままでは、『究極段階<エクストラレベル>』を発動する余裕が無い。
 なので、若干威力に不安はあるものの、『第2段階<セカンドレベル>』でのスペイザーを発射。

 だが案の定、ハイドロスペイザー≠ヘレノムの操るポケモンの尾で弾かれてしまう。

「…っ!」

 そのまま、ミオンを連れてこの場から去っていったのだった。







 Phase.110 再び芽吹く悪意





 その後、後から合流したアヤ達に、今起こったことを報告したマサシ。
 そのポケモンについて心当たりがあるとアヤが言ったので、一度先ほどの町に戻ることになった。



「それで、マサシの言っていたポケモンなんだけど…」

 そこでアヤが最初に語ったのは、あのポケモンの名前。
 あれは、先の騒動で戦ったグラードンやカイオーガと同じ、ホウエンに伝わる伝説のポケモンであるという事。

「あのポケモンの名前は、レックウザ…。昔、ホウエンで起こったグラードンとカイオーガの争いを鎮めたと言われてるポケモンらしいの」

「あれだけの力を持った2匹の争いを、鎮めた……?」

 そう喋りつつ、マサシは先の騒動の時の記憶を掘り返す。
 あの時は辛うじて勝つ事が出来たものの、そのどちらもが人知を超えた力を持っていた。
 それだけの力を持った2匹を鎮めるともなると、果たしてどれ程の能力を持っているのか。


 ………想像することが怖くなってくる。

「それにしても、とうとう動き出したな。先の騒動でだいぶ戦力を削られたらしいが、この間エンスの言っていたアロナシティに寄港した船に乗っていた連中。 仲間を呼び寄せたみたいだな」

「仮に、またあいつらが表沙汰に活動を始めたら…。また大会が中断 なんて事になるのかしら?」

「…いや、まだこの事実を知っているのは俺達とエンスチームだけだ。大会側は、レクトさんさえ捕らえれば全てが解決すると思い込んでいるはずだ」

「そうなったら、敵に思い切り隙を見せる事になっちゃう。そんな事になったら…」

「間違いなく、出場者達は全滅する。そうなれば、奴らの思惑通り…。果てには、『終焉の道標<エクストレーム>』の計画を進行させる事になってしまう」

「…マスターリーグ予選終了まで、もうそんなに日数が無いこの状況で、レクトさんのほうにまで手を回す余裕は無いが…」

 やらなければならない事が多い現状、どれから手を付けるかで完全にマサシ達は立ち往生していた。
 そんな中…。

「心許ないが…。ここから先、俺達3人とナギサで別々に行動しようと思う」

「ちょ、マサシ本気!? ナギサを一人で行動させたら、それこそどこに行っちゃうのか解らないわよ!?」

「こまめに連絡を取り合うようにするさ。それに、今も言った通り俺達にはもう時間が無い。レクトさんの事をナギサに任せる方が、ずっと効率的だ」

「そりゃ、そうだけど…」

「大丈夫だよ、皆。私も、ずっと皆の役に立ちたいって思ってたから」

「だけど…」

「そんなに心配する必要は無いさ、ナギサはもう充分に強い。いや、もしかしたらある意味、俺達4人の中で一番強いかもな」

「…そりゃあ、3年前にマサシに勝ったって言うくらいだから、実力面では心配して無いけど…」

「だったらもう少しナギサを信用してやれよ、アヤ。こいつだってこいつなりに今まで俺達の役に立とうと頑張ってきてたんだから」

「………、そうね。解ったわ、ナギサ。レクトさんの事はナギサに任せるわ」

「うん!」

「さて、そろそろここを発つか。早いところラジルシティに行かないと」

 マサシの言葉で、4人全員がその場を立った。
 そして町の出入り口で、マサシ達3人は一旦ナギサと別れた。
 マサシ達3人はラジルシティ、ナギサはレクトの抑止という目的を持って。

 新たにヨハロ地方に芽吹いた悪意は、まだ微々たる物に過ぎない。
 だがしかし、何れこのヨハロ地方全域を襲う悪意に成長するのは、そんなに遠い未来の話ではない。
 マスターリーグ内に漂い始めた黒い気配に戸惑いつつ、マサシ達の旅は続いていく…。










 広大な平原のど真ん中に不自然に存在する山岳地帯。
 マスターリーグ開始直後、マサシチームとリコナチームが戦いを繰り広げた場所。
 今この場に、2つの気配が近付いていた。

「……ぅぅ」

 低い呻き声をあげながらふらふらした足取りで移動するのは、全身から邪悪な真っ黒い霧のようなエネルギーを溢れ出させている男。
 そんな彼の後を追ってきたかのように、その背後に立つ男性が1人。
 マサシ達が最初の証を勝ち取る際に戦ったトレーナー、トウクだった。

「とうとう見付けたよ、大会出場者殲滅活動の首謀者レクト。お前はここで、僕が捕縛する」

 マサシ達の願いも空しく、大会運営側のトレーナーであるトウクとレクトの邂逅。
 この戦いの勝敗に関わらず、事態は次第に最悪の方向へと向かっていく………。





 マスターリーグ予選終了まで、後27日。







 To Be Continued

 

[アットの一言感想]

 そうか、まだ予選だったか←
 とはいえ、いよいよ後半戦に差し掛かったようで、話が新しい展開に移ったようです。
 ……今回の暴走女は、また立ちはだかるのだろうか(苦笑)。

 地味にナギサは、重要な戦力になってますね。

 

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