予選内ランキング第10位、クニヤチームが出場チーム一覧から消滅。

 その事実は、瞬く間に大会出場者の間に広まった。

 まだ先の騒動が終わっていなかった事、そして予選内ランキング上位のチームがやられた事により、動揺が広まっていた。

 その波紋が、徐々に敵の勢いを加速させていく事になる…。







COM マスターリーグ編
第31話
激突 前兆編−U







 Phase.114 動揺





「予選内ランク第10位、クニヤチームの名前が消去されている…」

 端末の予選内ランキング表を見ていたマサシが、その事実に気付く。
 その言葉を聞いて、アヤとユキヤが歩みを止めてマサシの傍に集まる。

「既にあいつらの手に掛かった犠牲者が…。しかも、第10位のチームだなんて…」

「このクニヤチームの3人とは、前に一度会ってるんだ。あの、チルナと戦った時に」

「「!」」

 マサシの発言に、2人が同時に反応する。
 が、言葉を発する事はなく、マサシの言葉に耳を傾ける。

「あの時、一瞬だけだがリーダーであるクニヤの戦いを見たんだ。相手の急所を見抜き、そこを正確に狙う精密な攻撃。それに加えて、相当なレベルの戦闘能力…。正直、あの3人が負けるなんて信じられない…」

「どうやら、前よりも遥かに強さが上の敵を呼び寄せたようだな。一昨日戦ったあのミオンといい、一筋縄で敵う相手では無さそうだ」

「そうね。私達も、あのエンスチームとの戦いで新しい力を手にしたけど、それでも油断は禁物ね」

「行こう。今は一刻も早く、ラジルシティに向かわないと」

「うん」

 マサシの号令で2人が頷き、再び歩き始める。
 ラジルシティは、今居る地点から後半日ほどの距離にまで迫っていた。







 それとほぼ同時刻、ヨハロ地方南西エリアと北西エリアの境目に当たる、とある山脈地帯。
 ゴツゴツとした岩の上に、とある出場チームが腰掛けていた。

「予選内ランク第10位のクニヤチームが消えたか…。はっ、チームメイトと一丸になってとか生温い事言ってるからこんな事になんだよ」

「ミ、ミノルさん…。その、そんな言い方はあんまりだと思うよ。戦いの手段なんて、人それぞれなんだし…」

「うるせえ!雑魚の癖にこの俺に口出しすんじゃねえ!」

 ミノルと呼ばれた男が激を飛ばした先には、深緑色髪の毛をした小柄な少年が居た。

「ミノル、言い過ぎだ。お前はどうしてそうも乱暴なんだ」

「手前に口出しされる覚えはねえぞ、マサヒコ。どんな風に振舞おうと、俺の勝手だろうが」

「その勝手に、フルカを巻き込むなと言っているんだ」

「……ちっ、一々鬱陶しいくらい口出ししやがって。大体予選が始まったあの時にな、手前らがさっさと他のやつとチームを組んでいれば、今の俺はこんなに苛々せずに済んでたんだよ!」

「おい、ミノル!」

 マサヒコと呼ばれた男が、今の発言に対して怒りを込めた言葉をぶつける。

「あんまり好き勝手な事を言うなよ。これはチーム戦だ。リーダーのお前がそんな調子だと、今までお前が散々見下してた奴と同じ末路を辿る事になるんだぞ」

「ならねえよ。元々手前らなんか戦力にも数えてねえ。俺一人でも十分だがな、数合わせのために『仕方なく』チームを組んでやってるんだ。それだけでもありがたく」


 ズドォッ!!!
 その発言で完全に頭に血が上ったのか、マサヒコはミノルを力いっぱい殴り飛ばす。


「本当なら、お前とは今すぐにチームを解散したい所だが…。チーム戦である以上、お前の元を離れるわけにも行かない。今の一発で済ませてやる」

「はっ、結局1人じゃ何も出来ねえ奴の台詞じゃねえか」

「…もういい。お前の意見が正しいのか、お前が否定する考えが正しいのかは何れはっきりする。今は、残る最後の一つの証を手に入れる事だけを考えろ」

「手前に言われるまでもねえよ。俺達はこれまで、リーラシティ・マクヌタウン・ラジルシティに居た奴らを倒してきた。最後の一人は、今俺達がいるヨハロ地方北西エリアの何処かにいるはずだ」

「わ、解ったよ。それじゃあいつまでもこんな目立つ場所に居ても仕方ないし、早く出発しようよ」

 自信を持てないような感じの弱々しい口調で、フルカが話を切り上げる。
 他の2人もその場を立ち、下山するのだった。





 下山した所で、3人は北西エリアに広がる草原地帯に足を踏み入れる。
 そこは奇しくも、予選が始まった時マサシチームが最初に飛ばされてきた場所だった。

「み、ミノルさん。あっち…」

「あ?」

 ふと、フルカがミノルに呼びかけてとある方角を指差す。
 その先には、何故か平原のど真ん中に小さな山脈が出来ており、そこから断続的に爆発音が響いてきていた。

「誰かが戦ってるみたいだよ?」

「あの規模からすると、相当レベルの高い連中だな。予選内ランクの1ケタ台のチームか、最後の証を持ったトレーナーか。どっちにしたって都合がいい」

 それだけ喋ると、ミノルは堂々とその場所へ向けて歩き出す。
 残りの2人もその後を追って走っていくのだった。







 Phase.115 トウクVSレクト







 山脈地帯へ近付くにつれて、爆風と地響きが激しくなってくる。
 それ程の戦いが、この先で繰り広げられていると言う事なのだろう。

 弱腰なフルカは、早くもこの段階から身体の震えを隠せずにいた。
 そんなフルカをマサヒコが宥める。

「安心していい。お前だってここまで戦い抜いてきた実力者なんだ。もっと自信を持っていい」

「だ、だけどこの戦いは…」

「戦いたくねえならそこで待ってろ。俺は一人でもこの先へ行くぜ」

「おい待て、ミノル!」

 マサヒコが静止するのも聞かず、ミノルは奥へ進んでいってしまう。
 それでも、フルカの身震いは収まらない。

「何だろう…。マサヒコさん、何だか凄く嫌な予感がする! この先で、何かとんでもない事が起きてるんじゃないかって…」

「君の直感は大体当たる。この2ヶ月間、君のそれが外れた事は殆どなかった。そんな君がそこまで言うとなると、やはりミノルが心配だ」

「行こう、マサヒコさん。何があるのか、確かめなくちゃ」

「無理はしなくていいんだ。君は、安心して俺の後ろを歩いてくればいい」

「ごめんなさい…」

「気にしなくていい。じゃあ、急ごうか」

 身体が震えながらも、先に進もうという意思を持ったフルカ。
 そんな彼を守る約束をしながら、マサヒコもミノルの後を追うように移動を始めるのだった。







 そして、ミノルチームの3人が進んだ先では、彼らの推測どおり壮絶な戦いが繰り広げられていた。
 だが彼らの推測と異なっていたのは、出場者チーム同士の戦い、或いは証を持ったトレーナーとの戦いではなかったという事。

 そこで繰り広げられていた戦いは、4つの証を持ったトレーナーの一人、トウク。
 対するは、この一連の騒動の偽りの黒幕として活動していたレクト。
 この2人の戦いは、既に2日以上続いているのだが、未だに決着は見えてこない。

 証を持つトレーナーである以上、トウクは相当な実力者。
 だが、魔属性の力を得ているレクトはそんな彼に拮抗するほどの力を持っていた。

 否…、少しずつではあるが、トウクが劣勢になり始めていた。

「ヘラクロス!!」

 現状、残りポケモンの数で言えば、トウクは後2匹、レクトはまだ4匹が残っている状態。
 だがそれ以上に、2日間に渡って戦いを繰り広げていた為、トウクの疲労は限界に達しようとしていた。

「リーふスとーム=c…!」

 カタコトな発音ながら、メガニウムに指示を出すレクト。
 メガニウムからあふれ出す魔属性の力が、大量の葉っぱが螺旋を描いて誕生した竜巻を包み込む。
 その竜巻が、トウク目掛けて襲い掛かる。

「最大パワー、ブレイクホーン=I!!」

 それに対して、トウクはヘラクロスの全てのエネルギーを自慢の一本角に集中させて迎え撃つ。
 その大量のエネルギーによって、ヘラクロスの角は一回り大きなサイズの輝きを発している。

「…っ!!」

 そして、激突。
 結果は、トウクのヘラクロスの勝利。
 一点のみに力を集中させた事が幸いし、メガニウムの放った竜巻を突破し、最大の一撃を叩き込む事に成功した。

「はぁ、はぁ…」

 メガニウムを撃破したタイミングで、トウクは眩暈に襲われる。

「(まずい…、立っているのも辛くなってきた…。けど、このまま奴を逃すわけには…)」

 だがそんなトウクの様子などお構いなしに、レクトは次なるポケモンを繰り出す。
 そのポケモンはボールから出ると同時に加速し、ヘラクロスを吹っ飛ばす。

「…な!」

 眩暈で反応が遅れ、吹き飛んだ後で声を発した。
 今レクトが繰り出したポケモンは、ドクロッグ。
 このポケモンが使った技、バレットパンチ≠ナヘラクロスは倒されたのだ。

「くっ、サワムラ…」

 最後のポケモンであるサワムラーを繰り出そうとしたのだが、そこでトウクは足元がふらつき、倒れてしまう。

「くそ、体力が…」

 しかしトウクは、最後の力を振り絞り、サワムラーをボールの外へ出す。
 咄嗟の事で状況を把握し切れていないサワムラーだったが、トウクがレクトと戦うように指示を出した事で、奴と向かい合う。



 数秒の間、この場は静寂な空気に包まれた。
 だが、この山脈の上の方から小さな岩が落下していたのを合図に、その静寂は破られる。
 ズドォォォォォッ!!


 ドクロッグのバレットパンチ≠ニ、サワムラーの伸縮自在の蹴りが巨大な衝撃波を撒き散らす。
 それによって2匹は吹き飛ばされ間合いが開く。
 だがサワムラーにとってそれは全く意味のない事で、再び足を伸ばしてのメガトンキック≠繰り出す。
 しかしそれをドクロッグは腕を横に薙ぎ払い、弾いて攻撃をかわす。

 それならばと、サワムラーは縦回転の遠心力を加えた強烈な蹴りを、ドクロッグの頭上から仕掛ける。
 その圧迫感に危機感を覚えたドクロッグは、咄嗟にその場を離れる。
 標的を失ったサワムラーの蹴りは、そのまま広範囲の地面を粉砕する。
 ドゴォォォォォンッ!!





「派手にやってやがるな。お陰で場所ははっきりしてるし、これだけの戦いなら勝った方もボロボロの筈だ。俺の近くでこんな戦いをした手前らを恨むんだな」

 一方で、山脈地帯を突き進むミノル。
 トウク達の戦いの轟音を頼りに、先を目指して進んでいた。



 一方でミノルチームの残り2人、フルカとマサヒコは山脈の中腹辺りを進んでいた。

「爆発はあっちの方から発生してる。そっちの方に、ミノルはいる筈だ」

「こ、怖い…」

 フルカは、今歩いている場所の高さに怯えきっている。
 何しろ、ちょっと身を乗り出せば崖下に転落してもおかしくないような場所を歩いているのだから。

 高さで言えば、大体10mくらいの所だろうか。

「ここしか道がなかったんだ。ミノルは結構身軽な奴だから、結構飛び飛び進んでるに違いない」

「うぅ…」

 そんな怯えているフルカを励ましつつ、二人は先を急ぐ。
 そうしている間に、戦いの轟音はいつの間にか小さくなっていた。
 それは即ち、戦いに決着が付いたということ。

 それを確認し、2人も出来るだけ急いでその場所へと向かうのだった。







 Phase.116 ミノルVSレクト







 ラジルシティを目指して旅を続けているマサシ達。
 ふと、マサシが端末に備えられているマップを見ているうちに足を止めた。

「マサシ、どうしたの?」

 端末から目を逸らし、周囲を見渡すような素振りを見せるマサシ。
 それに疑問を持ったアヤが、マサシに歩み寄る。

「この辺りは…、最初に俺達が飛ばされてきた場所に結構近い場所だ」

「最初って、マスターリーグが開会宣言の後にケーシィに飛ばされた場所の事?」

「確かに、位置的にはあそこからそう離れてはいないだろうな」

 ユキヤも、マサシの発言に同意する言葉を発する。

「最初に俺達が飛ばされたのは、ヨハロ地方の西の方だった。そして今俺達は、アロナシティを出発してやや北西に向かって進んできた。地理的に考えれば、自然と最初の場所に近付くだろう」

「ああ。現に、この端末のマップ機能には最初に飛ばされた場所がマーキングされてる。ここは、その場所から南へ数kmの地点だ」

「そっか…。何だかんだ言って私達、実質このヨハロ地方を一周してきたのよね…」

「今思い返せば、あの時グレマタウンの方向に向かうんじゃなくて、ラジルシティの方に向かえば少しは違ったのかもしれないな」

「今更あの時の事なんて思い返しても仕方ないでしょ。もうラジルシティは目の前なんだから、さっさと行くわよ!」

「おいおいアヤ、あんまり1人で先に進みすぎるなよ」

 1人で走り出したアヤをなだめつつ、残りの2人も後を追うのだった。







 戦いの轟音が無くなってから数分、ミノルが二人の戦っていた場所に到着。
 その場に立っていたのはレクト。
 ドクロッグもまだ戦闘不能にはなっていなかった。

「何だ?チーム同士の戦いじゃなくて1VS1の戦いだと?」

 ここに来る途中で模索していた可能性のどれとも違うこの現状に、ミノルは一瞬頭を悩ませる。
 が、レクトの顔を見た事でその迷いはすぐに吹っ切れる。

「ああ、どこかで見た顔だと思えば。手前は俺達を殲滅しようとした奴じゃねえか」

「…」

「んで、懲りもせずにまたやらかそうって訳か。はっ、自力で優勝も狙えない弱小物の考えそうな事だな」

「…!!」

「おっと」

 今のミノルの発言に反応したのか、ドクロッグに指示してバレットパンチ≠繰り出す。
 だがそれを、ミノルは必要最低限の動きで回避する。

「向かってくるのなら丁度いい。手前みたいな奴がいると鬱陶しいんだ。ここで始末してやる」

 そう言い放ち、ミノルはトリデプスを繰り出す。
 そのポケモンの姿を見て、レクトも技を変えてくる。

「あ?」

 ドクロッグは、拳に凄まじい闘気を集中させる。
 そしてそのまま殴りかかってきた。

「ばくれつパンチ≠ゥ。確かに岩・鋼のトリデプスにゃそれが一番手っ取く倒す方法だが。逆に言えば、それしかまともなダメージを与える手段が無ぇって事だ。弱点を突かなきゃダメージを与えられないような脆弱な奴が、俺に勝てると思い上がる事が間違いだと教えてやろうか?」

 ミノルがそんな事を喋っているうちに、ドクロッグの拳がトリデプスに炸裂する。
 その凄まじい衝撃は、爆発にも似た現象を引き起こす。
 それ程のパワーを持った弱点属性の技を食らったトリデプスは…。

「はっ、その程度かよ」

 何故か、殆どダメージを受けていなかった。
 その様子に、レクトとドクロッグも焦りの色を見せる。

「ドクロッグなんざ使ってる時点で、物理攻撃主体なのは見え見えだ。てっぺき≠使って、手前の攻撃を弾いたんだよ」

 その言葉を聞いて表情を険しくし、次の攻撃に移ろうとする。
 だが…。

「そして俺に攻撃した時点で手前らは終ってる。食らえ、メタルバースト=I」

 トリデプスから放たれる、相手から受けたダメージを増大して反射するカウンター攻撃。
 その巨大な鉛色の光線を、ドクロッグは真正面から受け止める。

「言っただろ、もう手前は終ってるんだよ。ラスターカノン=I!」

 メタルバースト≠ノ、ラスターカノン≠フ威力が上乗せされる。
 トリデプスの強力な技の二重攻撃を前に、ドクロッグは全くの無力だった。
 元々トウクのサワムラーとの戦いで消耗していたのもあるだろうが、実に呆気なく、ドクロッグは倒れ伏す。

「ジらーチ…」

「何…」

 レクトがマスターボールを手に取り、その中に収まっているであろうポケモンの名を口にした事で、ミノルの警戒心が急激に強まった。

「ジラーチだと? そんな伝説上のポケモンがこんな奴の手元に…」

 ミノルが喋っているそばで、レクトはマスターボールを放った。
 その中から現れたのは、紛れも無い本物のジラーチだった。

「いる筈…が……」

 ジラーチの姿を確認した事で、ミノルは言葉を失う。
 あのジラーチから感じる途方も無い威圧感は、とても偽者などではないと。
 そう感じざるを得なかった。

「…ハガネール!」

 だがそんなジラーチに臆することなく、ミノルはハガネールを繰り出す。
 その巨大な蛇のような体躯から繰り出される、尻尾を使った薙ぎ払い攻撃。
 ジラーチはどちらかと言えば、非常に小柄なサイズ。
 ハガネールの尻尾に弾かれ、岩壁に激突する。

 だがミノルは気付いていなかった。
 ハガネールで攻撃をする前に、ジラーチが放った光が天空目掛けて飛んでいった事を。

「ハガネール、かみくだく=I!」

 そしてジラーチが激突した箇所へ、口を大きく開いて突撃する。
 だが突如、ハガネールの巨体が地面に押し付けられる。

「ぐっ…!」

 そしてミノルもまた、急激に体重が増加したかのような感覚に襲われる。

「じゅうりょく≠セと…!? ちょこざい真似を!」


―――ミノルは、先ほどの光を見ていなかったからそう考えていただけ。

―――だが、ジラーチの真の狙いは…。


「何だ…!」

 突如、空が明るく発光した為、反射的に上を見上げた。
 そこには、無数の鉛色のエネルギーが隕石のように落下してくる姿が映し出された。

「は、はめつのねがい≠セと!? これは、メタルバースト≠カゃ反射出来ねえ!!」


―――ジラーチの真の狙い、それは…。

―――時間差によって発動する己の技、はめつのねがい≠、じゅうりょく≠ノよって落下速度を増加させる事だった。

―――それによって更なるパワーアップを果たしたはめつのねがい≠ェ、辺り一帯を吹き飛ばすような大爆発を引き起こすのだった。




 ズドォォォォォォォォンッ!!!
 その大爆発は巨大な地響きとなり、それがフルカ達のいる地点にまで伝わってくる。

「い、今の爆発は!?」

「恐らくあれだ!」

 ふと、マサヒコが地上のとある場所を指差す。
 そこにはボロボロになって倒れるミノルと、レクトの姿。
 その光景を目にした瞬間、フルカは…。

「(あ、あれは…)」

 その瞬間、今2人のいるその場所で、鈍い音が響き渡った。







 Phase.117 魔属性拡大






 はめつのねがい≠ヘ、ミノル達に甚大なダメージを与えた。
 だが、鋼タイプの強靭な耐久力を持っているため、まだ辛うじて立ち上がる余力を残していた。

「ちっ、やってくれたじゃねえか。時間差で攻撃してくるはめつのねがい≠ノ、メタルバースト≠フ反射は通用しない。まさかこんな攻撃をしてくるとはな」

 身体の所々に焦げ目を残しつつ、ハガネールがその巨体を起こす。
 トリデプスは、最初にドクロッグと闘った時に受けたダメージもあったため、戦闘不能となっていた。

「さて、仕返しさせてもらうぜ。随分思いっきりやってくれたからな」

「…」

「いくぜ、アイアンテー…」

 ズドッ!!
 突如、ミノルの背後から鈍い衝撃が迸る。
 突然の攻撃に、ミノルは無抵抗のまま地面に倒れる。

「ぐっ…!?」

 後ろを振り向くと、そこに立っていたのはフルカ。
 しかも彼は、ボロボロの姿となったカズヒコを引き摺っていた。

「フルカ!? 手前、何を…」

「レクトがいるんだし、動かないわけ無いじゃないか」

「あ?」

「まだ気付かないの? 僕はレクトの仲間だって言ってるんだよ」

「はっ、言うじゃねえか。この大会中ずっとビクビク震えてた手前が」

「あれは芝居だよ。そんな事にも気付かないなんて、君はよくその程度でここまで上り詰めてこれたね。予選内ランキング、第4位にまで」

「だがな、手前に今この場で俺を倒す力があるとは思えねえけどな。俺はまだ、ハガネールと残り4匹のポケモンが残ってるんだぜ?」

「君こそ、本当に僕を倒せると思っているの? 僕にだって、この力があるんだよ?」

 そういうフルカは、懐から黒い結晶のような物を取り出す。
 大きさこそレクトが持っていたものより二周りほど小さいが、それは間違いなく魔属性の結晶体だった。

「それに、僕だけじゃなくてレクトもいるんだ。冷静になって状況を見るんだね。本当に、君に勝ち目があると思うかい?」

「…っ!」

 ここに来て、ミノルはようやく己の置かれた状況を理解する。

「はは、今まで散々威張り散らしてたくせに思った以上に間抜けじゃないか。こんな無様な最期を遂げる事になるんだからね」

「クソが…」

「さようなら。グラエナ、シャドー…」

 『ボール』と言葉を続けようとした瞬間だった。
 突如、彼の横を掠めてサワムラーの伸縮自在な蹴りがグラエナを襲う。
 ズドォッ!!


「な…!?」

 無論そのサワムラーはトウクのポケモン。
 ミノルがレクトと戦っている間に、最低限の戦いが出来る程度に回復させていたようだ。

「君、今はこの場を離れるんだ! この状況では勝ち目が無い!!」

 最後の力を振り絞り、サワムラーがフルカにも蹴りを入れる。
 その衝撃で、引き摺ってきたカズヒコから手を離してしまう。

「今だ!」

 そのままサワムラーはカズヒコを手元に引き寄せると、ミノルを諭しながらこの場からの脱出を図る。

「逃さな…」

 そんな時だった。
 突如崖の上のほうから、強烈なかえんほうしゃ≠ェ飛んでくる。
 咄嗟にそれをかわし、フルカは反射的に攻撃が飛んできたほうを見上げる。

「やっと、見付けた…」

 そこに立っていたのは、緑色のポニーテールの少女。
 その横に立つキュウコンと共に崖の上から飛び降り、2人と向かい合う。

「レクトさんと、もう1人…。魔属性の力があるって事は、貴方も敵みたいね」

「君は誰だい? 君みたいなトレーナー、マスターリーグの出場者一覧には居なかった筈だ。それに、どこでこの力の事を知った」

「…」

 フルカの質問に対して、少女・ナギサは黙り込む。
 それならばと、フルカは早速攻撃を仕掛ける。

「黙ってるなら力ずくだ。グラエナ、シャドーボール=v

「ミルタンク!」

 フルカの攻撃に対し、ナギサはノーマルタイプのミルタンクで防御する。
 相性の関係上、ミルタンクはノーダメージだった。

「ころがる=I!」

 そして自身をボールのように回転させ、グラエナに突撃。
 その勢いにグラエナは回避が間に合わず、直撃を食らい、そのままダウンする。

「…ちっ」

 今の舌打ちは、グラエナがやられた事に対する事ではない。
 ナギサとの攻防の合間に、ミノル達を逃してしまった事に対する反応だった。

「折角の標的をみすみす逃してしまったんだ。誰だか知らないけど、僕の邪魔をした罪は大きいよ」

「私だって、貴方達みたいな人は許しておけない。マサシ君達のためにも、必ずここで止めてみせる!」

 かくして、戦局は一変。
 ミノル&トウクVSフルカ&レクトから、ナギサVSフルカ&レクトへ。
 この大会の行方を左右する戦いが、人知れず幕を開けようとしていた…。







 平原地帯と進んでいたマサシ達が、足を止めた。
 その視線の先には、とても収まりきらないほどの巨大な都市が聳えていた。

「やっと到着したな…」

「…ええ」

「ここで、4人目の証を持ったトレーナーを探す。場合によっては、他の出場チームから力ずくで聞き出す事も考慮に入れておけ」

「解ってる。もう時間がそんなに無い以上、手段を選んでいられないもの」

「いくぞ」

 マサシチーム3人、ラジルシティ到着。








 To Be Continued

 

[アットの一言感想]

 何気に裏方で活躍するナギサ。
 彼女もなんだかんだで実力が上がってるので、1対2とはいえ善戦を期待したいです。

 

戻る