ロズ山西側を中心に繰り広げられる、大会出場トレーナーとそれを殲滅しようとする敵との戦闘。
西側よりこの山を突破しようと試みた6人は、2人ずつ3グループに分かれて行動を開始。
南側方面を迂回するユキヤ&ミノルは、待ち構える敵集団を前に苦戦しつつもその場を突破。
中央部を突破しようとするマサシ&カズヒコは、レックウザを操るトレーナー、レノムを辛うじて撃退する。
そして北部を迂回し、一番先にロズタウンに乗り込んだアヤ&ナギサ。
自分達は取るに足らない相手だという敵の不意を衝き、奇襲を仕掛ける。
だがそこへ、マサシとの戦いから戻ったレノムが立ちはだかる。
そんな折、ウラグが『δ』と呼ばれる切り札の準備を進めていた。
戦いはますます混迷への道を辿っていく。
だが、それでも…。
このロズ山で勃発する戦い全体から見れば、今までの戦いは、ほんの前哨戦に過ぎなかった。
COM マスターリーグ編
第37話
総力戦−V 未知なる敵 δ種の脅威
Phase.137 ロズ山攻防戦E
ズドォォォォォンッ!!!
先ほどの爆発で発生し、吹き荒れていた突風がようやく止んだ。
それほどまで、両者の攻撃は凄まじいパワーを秘めていた。
「晴天下で撃った、ブーバーン最強の技なのに。それをこうも簡単に相殺するなんて…」
「やっぱりこの人、物凄く強いよ」
アヤとナギサ、二人揃って険しい表情を見せながらレノムと対峙する。
対するレノムは、まだまだ余裕そうな表情を見せ佇んでいる。
「カバルドン」
レノムはユキノオーを一旦ボールに戻し、カバルドンにチェンジする。
ボールの外に飛び出した瞬間、カバルドンを中心に砂塵の竜巻がロズタウンを襲い始める。
「ポワルン」
更にレノムは、4匹目のポケモンとなるポワルンを投入。
天候によって姿を変えるポワルンだが、砂嵐の影響下ではその姿は変化しない。
そう。 それはあくまでも、『普通の』ポワルンならという話。
「…え!?」
砂嵐の最中に飛び出した事で、ポワルンの身体が輝き始める。
そして徐々に、ポワルンの姿が変化し始める。
「嘘…! ポワルンは砂嵐の中では岩タイプになったりしないはずなのに…」
口元を手で覆いながら、ナギサは喋る。
普通ではありえない光景に、思わず息を呑んでいた。
やがてポワルンの身体から光は消え、その姿が明らかとなる。
身体のサイズこそ元のときと大差ないが、黄土色にゴツゴツとした体系。
さながら、小さな岩がそのまま空中に浮いているような形態となっていた。
「でも、岩タイプなら水系の技で弱点を狙える。ニョロトノ、ハイドロポンプ=I!」
相手が岩タイプだという事を即座に見抜いていたナギサは、相性の良いニョロトノで速攻を仕掛ける。
「ポワルン、10まんボルト=v
しかしナギサは失念していた。
如何にポワルンの姿・相性が変化しようとも、ポワルンの使う技は変化しないという事を。
岩タイプとなったポワルンが、水タイプのニョロトノに強力な電撃を発射。
「!」
当然この予想外の攻撃に反応できる筈も無く、いとも容易くニョロトノの攻撃は押し戻された。
そのまま電撃をまともに浴びてしまい、ニョロトノは戦闘不能となる。
「電気技があるんだったら草タイプで…!」
ポワルンが電気技を使えることを確認したナギサは、今度は草タイプのメガニウムで攻撃を仕掛ける。
無数の葉っぱが渦を巻き、竜巻と化して攻撃する技リーフストーム=B
しかしそれすらも、レノムのポワルンには通用しない。
「だいもんじ=@そしてふぶき=v
レノムは一度に二つの技を指示。
最初に発射した大の字型の炎で攻撃を相殺。
そして後から放った吹き荒ぶ寒波で、メガニウムを攻撃した。
「…っ!!!」
その寒波は、無数の石を投げつけられたかのような衝撃がナギサを襲う。
そこまでの力を持った攻撃に、メガニウムは耐え切れるはずも無くダウン。
「つ、強い…」
「怯んでる暇なんか無いわよ! エーフィ、サイコキネシス=I!!」
「避けた後、ねっとう=v
ナギサに代わって、アヤがエーフィで巨大な念力による衝撃波を放つ。
しかしそれを難なく回避し、水蒸気の立ち上る水流をエーフィ目掛けて発射する。
「エーフィ!!」
敵の攻撃を迎え撃つべく、もう一度サイコキネシス≠発動。
だがポワルンのパワーは想像以上に強く、アヤのポケモンでも相殺に持ち込むことすら出来なかった。
「っ!!」
ポワルンの放った水をまともに浴びてしまったエーフィ。
しかも所々、火傷の跡が見られる。
「な、火傷してる…!? どうして」
「今の技はねっとう≠ニ言って、高温の水を相手に放つ技。水属性でありながら相手を火傷状態にする効果を持つ」
「高温の水…。だから…」
エーフィの身体を起こしながら、アヤは納得する。
「そして状態異常にかかった今、そのエーフィは終わりだ。ポワルン、たたりめ=v
レノムの指示の元、ポワルンの周囲に小さな黒い球体が無数に出現。
一見するとシャドーボール≠ノも見えるが、明らかに違っていた。
そしてそれらは、火傷でヘトヘトのエーフィを容赦なく襲う。
ズドドドドドドッ!!!
「え、エーフィ!?」
全くの未知なる技に対処が追いつかず、ただ名前を叫ぶ事しか出来なかった。
攻撃で吹き飛び、そばへ駆け寄ったとき、ようやく戦闘不能だと言う事を把握する事が出来た。
「さっきから私達の知らない技をどんどん使ってくるわね。たぶん、ユキヤの言うイッシュ地方の技なんだろうけど…」
「技の効果とかがわからなくちゃ、私でも相手の調子を狂わせるた戦い方はうまくいかないわね」
「全く…。水タイプなのに火傷にする技とか、今までの私達のバトルの常識を悉く打ち崩してくれるわね」
「アヤちゃん、この人が他にもイッシュ地方の技を多く使えるポケモンを持ってるとしたら、私達だけじゃ分が悪いよ?」
「確かにそうだけど、折角ここまで来て逃げるってのも問題外よ?それにまだ、あいつは魔属性の力を欠片も使っていないのよ?」
「せめて、ユキヤ君がここに辿り着くまで何とか持ち堪えられないかな?」
「難しいわね。仮に私達が持久戦に持ち込んだとしても、あいつほどの実力者からどれだけ時間を稼げるかどうか…」
「…」
「けど、やるしかないわ!」
ナギサを励ましつつレノムを睨むアヤだが、顔色は良くない。
単に実力差があるというのもあるが、敵が自分達の知らない技を次々使ってくる不安感が大きい。
形勢は、圧倒的にアヤ達が不利な状態だった。
Phase.138 ロズ山攻防戦F
「ナギサ。戦いながら、少しずつあいつを南側に誘導できる?」
「どうして?」
「ユキヤ達は最初に南側の方へ向かったでしょ。そうすれば向こうが私達に気付いてくれるかもしれないから」
「成る程ね…。じゃあ、その方法でやってみようか」
「アブソル、頼むわよ!!」
ちょっとした作戦を立て、早速実行に移す。
アブソルを繰り出し、得意のスピードでポワルンに接近する。
「ウェザーボール=v
それを迎撃する為、ポワルンは茶色のエネルギー球体を精製し発射。
だがアブソルのスピードを捉える事は出来ず、懐への接近を許す。
否、懐に飛び込むのではなくレノムのすぐ脇を通り過ぎていった。
だがそのすれ違いざまに、額の角(?)でポワルンを切り裂いていた。
「…」
そしていつの間にか、アヤ達もアブソルのすぐ横に移動していた。
恐らく今のアブソルと一緒に移動したのだろう。
「ブーバーン、だいもんじ=I!」
「ハイドロポンプ=v
先程から、ポワルンは多彩な技を駆使して悉くアヤ達の技を打ち消してくる。
それだけでなく技自体も相当なもので、此方の攻撃を打ち消した上で攻撃をポケモンにまで届かせてくる。
「アブソル、つじぎり=I!」
敵が攻撃をした隙を狙い、アブソルが急接近。
先ほどと同じようにポワルンを切り裂いた。
「ライチュウ!!」
今のアブソルの攻撃でポワルンはよろめいたので、そこをライチュウの電撃で追い討ちをかける。
「ライチュウ、かみなり=I!」
「ユキノオー!」
しかしそれを、レノムはユキノオーで受け止める。
草タイプを持つユキノオーに、電気はほぼ無力化されてしまった。
「忘れてもらっては困るな。俺のポケモンは、ポワルンだけではない」
「…っ」
ユキノオーが出現した事で、天候は砂嵐から霰状態に変化していた。
それに伴い、ポワルンも氷タイプの時の姿に変化していた。
「だったらこれで! バクフーン、ブーバーン!!!」
「キュウコンも行って!!!」
レノムのポケモン2匹とも共通して炎に弱いので、ここぞとばかりにアヤ達は炎タイプの技を一斉に放つ。
「ユキノオー、ウッドハンマー=v
それでもレノムは余裕を崩さず、ユキノオーに懇親の力で地面を殴らせる。
その影響で地面が隆起し、それが壁となってアヤ達の攻撃を防御する。
「地形が隆起するなんて…。どんな馬鹿力してるのよ…!!」
桁外れの破壊力を目の当たりにしても、アヤは怯むことなく攻撃を続ける。
少しでも逃げ腰になれば、そこにつけ込まれてあっというまにやられかねなかった。
「2匹とも、『バーストブレイク』よ。ここは一気にケリをつけて、南の方へ撤退するわ」
「うん」
「私が突破口を開くから、追撃は任せたわよ」
アヤの指示で2匹は火力を最大限に高め、そのエネルギーを全身に纏う。
そしてその纏ったエネルギーを再び内側に取り込み、2匹の放出する炎が青色に変色した。
「ブーバーン、バクフーン。かえんほうしゃ=I!!」
先程出来た隆起による壁は、パワーアップしたアヤ達の攻撃で容易く突破される。
レノムはユキノオーとポワルン、2匹のフルパワーで迎撃する。
「ふぶき=I!」
強大な技と技がぶつかりあい、噴水の如く寒波と炎が周囲に飛散する。
やがて激突箇所から光のドームが形成され始め、それが爆発すると同時に互いの攻撃を打ち消した。
「押し戻せない…!?」
レノムは、今のアヤの攻撃の破壊力に驚きを見せていた。
今までとは桁外れの破壊力に、初めて動揺を見せた。
「まだまだ、あんなのがフルパワーだと思ったら大間違いなのよ!!!」
「!!」
アヤの声が聞こえると同時に、彼女のバクフーンから先ほどより更に巨大なエネルギーが感じられた。
その状態から放つ攻撃技があるとすれば…。
「ブラストバーン=I!!!」
極度に圧縮された、青白い炎を発射。
パワー勝負では勝てないと判断したレノムは、ニョロトノを繰り出す。
そしてあまごい≠発動した訳でもないのに、何故か雨が降り始める。
「何でニョロトノが出ただけで雨が…!? けど、今更雨乞い程度で受け切れる威力じゃないわよ!」
「みずあそび=v
更にニョロトノは周囲に水をばら撒き、更に炎技の弱体化を図る。
「これで仕上げだ」
そう言いながら、レノムは青く輝く小さい欠片のような物を取り出す。
そしてそれを投げ、ポワルンは受け取った。
「ハイドロポンプ=v
仕上げと言った後に、攻撃技を発動。
最初は己の体躯に匹敵する大きさの水流を発射したのだが、途中で先程渡した欠片が光となって水流に溶け込んだ。
すると、その大きさと勢いが1ランク上昇し、バクフーンの技と互角の威力を発揮する。
「な…、『バーストブレイク』状態のバクフーンと互角!? いくら天候変化とみずあそび≠ナ火力が落ちてるからといって…」
「今俺が投げたのは、『水のジュエル』。本来ポケモンに持たせる事により、一度だけ水タイプの技をパワーアップさせる道具だが、俺達はこれをポケモンに与える事でその効果を発揮できるようになった」
「…一度だけって事は、使い捨てって事でしょ?」
「確かにその通りだが、今の俺の手元には…」
そこで一旦言葉を止め、懐から小さい道具袋を取り出す。
袋の中には、複数の色をした欠片がぎっしりと詰まっていた。
「この中には、全17属性の技を強化するジュエルが10個以上は入っている。これを与えるタイミングは、俺が決めることが出来る」
「今みたいにどうしようもない時や、一気に決着をつける時なんかに使うって事?」
「その通りだが、今の攻撃は、『水のジュエル』による強化だけでは防ぎきれないと判断した。だからあまごい≠ニみずあそび≠ナ貴様の攻撃を弱体化させ、こちらの攻撃をより強化させた」
「普通だったら、あれだけの破壊力に圧倒されて対処が1〜2歩出遅れてもおかしくないのに…。こいつ……」
「生憎だったな、俺をそこらのトレーナーと同格だと思ってもらっては困る」
「…(ナギサ)」
レノムに聞こえないよう、アヤは小声でナギサに呼びかける。
「(作戦通り、一度ここから撤退するわ。私達だけじゃ、あいつ1人に勝てるかどうかも怪しいわ)」
「(うん。ここは生き残る事を優先に考えなくちゃね)」
互いに顔を見合わせ、頷く。
そしてバクフーンで再び攻撃を仕掛ける。
「最大火力、ブラストバーン=I!!!」
あまごい≠ニみずあそび≠フ影響を受けているにも関わらず、今のバクフーンの火力は影響を受けていない時と何ら違わない威力だった。
レノムは再びポワルンに『水のジュエル』を与え、先ほどと同様に迎え撃つ。
が、今回はアヤのバクフーンの方がパワーは上。
ポワルンの攻撃を徐々に押し戻し、炎がポワルンに届きそうというタイミングで互いの攻撃が打ち消され、大爆発。
爆発で山が激しく振動し、土砂崩れが発生した。
「ポワルン! ……限界か」
アヤ達を逃すまいと追撃しようとするが、ポワルンの体力が限界なのを見抜いて断念した。
どちらにせよ、爆煙と土砂でアヤ達の姿を完全に見失い、追撃は不可能な状態だった。
「レノム!外がすごく騒がしかったけど、何かあったの?」
戦いが終結した直後、ポケモンセンターからウラグが出てくる。
レノムは敵がここに攻撃を仕掛けてきたこと、そして即座に撤退した事を告げる。
「ふ〜ん、じゃあその敵はまだそんなに遠くへは行ってないんだね」
「そうか。お前の方も準備は出来たか」
「うん、バッチリ。さ〜て、『δ』軍団参戦だ。敵さん、どんな反応を見せてくれるのか楽しみだな〜」
「…お前が直接動き出したのなら、このロズ山は心配無さそうだな。俺はフジヤの方へ向かうぞ」
「任せて〜。多分あいつらは、こっちの1人にすら勝てないと思うから」
「確かに前知識が無ければ、俺でも『δ』には苦戦するからな。存在自体を知らない奴らに、お前の配下がやられる道理は無い…か」
「そういう事だから、ここは僕に安心して任せていいよ〜♪」
レノムは軽く『フッ』と笑うと、ロズ山山頂方面へ向けて去っていく。
そしてウラグは麓方面を見下ろし、残されたこの町にいる集団に指示を出す。
「さて皆、いよいよ出番だよ。『δ』の脅威を奴らに見せ付けるんだ!」
Phase.139 ロズ山攻防戦G
マサシ達は、山の中腹辺りで、頭から土砂の中に埋まっていた。
と言うのも、先程アヤ達の戦いで発生した土砂崩れに2人は巻き込まれていたのだ。
「ぶはぁっ!!!」
即座に頭を引っこ抜き、思い切り呼吸をするマサシ。
軽く咽ながら、同じく埋もれたままのカズヒコを救出する。
「カズヒコ、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。しかし驚いた、いきなり土砂崩れが発生するとは…」
「さっき上の方で物凄い爆発音が聞こえた。多分それが原因で土砂崩れが発生したんだろう」
「やっぱり、僕達のうちの誰かがロズタウンに…」
「ああ、あの爆発の大きさは間違いなくアヤの技だ。 全く、周りの事を考えずに大技を使うところは相変わらずだな…」
「あははは…。普段からそんなに派手なんだ、彼女」
「リーラシティで最初にナリサさんと戦った時も酷い目に遭ったからな…。あいつ、全然懲りてないな」
「まあまあ、今この場に居ない人を怒るより、今は一刻も早く目的地に到着する事が大事だろ?」
「そうだな。それじゃさっさと…」
歩み始めようとした矢先、マサシの表情が変わる。
「マサシ?」
「また敵か」
マサシの言葉を聞いて、カズヒコも山頂方面を見上げる。
確かに彼の言う通り、トレーナー2名が此方目掛けて滑り降りてきている。
「…!」
そんな中、敵の1人が先制攻撃を仕掛ける。
リザードンを繰り出し、二人に迫ってきた。
「オーダイル! 瞬間連射10連:ハイドロカノン=I!」
相手を見極め、相性の良いオーダイルで迎え撃つ。
だがそこで、敵は今までのマサシ達の常識を覆す攻撃を仕掛けてくる。
「リザードン、10まんボルト=I」
「な………!!?」
何と、炎タイプである筈のリザードンが、本来覚えないはずの電気技を使ってきたのだ。
単に電気技を使っただけでなく、そのパワーも本物。
何らかの手段で強引に使わされていると言う感じでもなく、紛れも無く自身の能力としてその電撃を操っている。
「どういう事だ…!何でリザードンが10まんボルト≠!?」
「マサシ、もう1人来た!!」
リザードンは、向かって左斜め前方から飛来した。
対して次の敵は、右斜め前方から突撃してきた。
手にしたボールから現れたポケモンは、アリアドス。
「虫タイプなら、こっちはゴローニャ!ロックブラスト≠セ!!!」
カズヒコはゴローニャを繰り出し、無数の岩の弾丸をアリアドス目掛けて発射。
しかし敵のアリアドスもまた、常識を覆す技を放ってくる。
「ラスターカノン=I」
「また…!!」
目の前のリザードンを相手にしながら、またしても本来覚えないはずの技の発動に、動揺は広がる。
マサシは、今自分達に狙いを定めている敵が今までの常識が通じない相手であることを即座に悟った。
「(今までの常識を捨てろ…。相手の使ってくる技を冷静に見極めて、対処しろ)」
一度深呼吸をして、ある程度落ち着きを取り戻す。
そして自分の目の前に立ち塞がるリザードンを睨む。
「フライゴン!!」
戦う決意をしたのはいいものの、現状マサシの状態はあまり良いとは言えなかった。
先ほどのレノム戦でフローゼルとマニューラを倒され、マサシ自身も相等ダメージを受けている。
これ以上戦いが長引けば、手持ちが全て倒されるのも時間の問題だった。
だからこそマサシは、今まで以上に慎重かつ冷静に、この場を乗り切ろうとしていた。
「「りゅうのはどう=I!」」
上空で、フライゴンとリザードンが同時に同じ技を放つ。
黄緑色のエネルギーの塊が激突し、花火のように爆発を起こす。
「普通に覚える技も使えるわけか…。それなら」
マサシはここで、能力回帰を発動させる。
フライゴンは先ほどの戦いで、『究極段階<エクストラレベル>』を発動している。
なのでここは、『第5段階<フィフスレベル>』を発動。
最も目の前の敵は、先ほどのレノムと比べて戦闘能力は遥かに劣るので、これで十分かもしれない。
「『速度特化<アクセルシフト> 』 ドラゴンクロー=I!!」
能力回帰の力を、スピードに集中させて戦うフライゴン。
普通に移動するだけでも敵の視界から姿が消えるほどの動きを見せ、それを利用して敵を様々な角度から連続で攻撃する。
が、スピードに特化している分他の能力は些か不足してしまう。
現に、先程から何十発とフライゴンの爪で切り裂かれているにも関わらず、リザードンは然程ダメージを受けていない。
しかし、マサシにとってはそれだけで十分だった。
「今だオーダイル!!瞬間連射15連:ハイドロカノン=I!!」
最初からフライゴンの攻撃は、ダメージを与える事ではなく敵の動きを最小に抑える事。
その状態ならば、オーダイルの15連の瞬間連射を確実に命中させられるという算段だった。
更に言えば、水タイプ最強の技を瞬間的に15発も食らうとなれば、炎タイプのリザードンでは受け切る事は出来ないと考えていたのだ。
そんな考えを張り巡らせながら、15発のハイドロカノン≠ェ全てリザードンに命中する。
大量の水が飛沫となって、雨のように地上に降り注ぐ。
この攻撃でリザードンを倒したと信じ込み、一呼吸入れる。
だが、その瞬間。
「リザードン、かみなり=I」
降り注ぐ水飛沫を伝って、リザードンが放った特大の電撃がマサシ達に襲い掛かる。
「がああああああああああああああっ!!!?」
まさかリザードンがまだ倒れていないとは予想だにしていなかったのか、マサシは想像以上のダメージを受ける。
そしてそのまま、うつ伏せに倒れこんだ。
「な…。15連は確実に決まった筈、なのに何故まだ倒れない…」
「電気技を使えるという時点で気付くべきだったね」
いつの間にか、リザードンのトレーナーがマサシのすぐ近くに降り立っていた。
「このリザードンが、電気技を完璧に自分の力として操ってると言う事に気付いた時点でね」
「…どういう意味だ」
「君ほどのトレーナーなら知ってるだろう?ポケモンは、本来己が持つ属性の技は扱いに長けているが故にその威力が上がる事を」
「そんなのは、ポケモントレーナーとして当たり前の…。 ……まさか」
自分の言葉で何か気付いたのか、一気にマサシに同様が広がる。
「まさかそのリザードンは…!!」
「そう。このリザードンは炎タイプじゃなくて、『電気』タイプなのさ。他に鋼タイプも持っているけどね」
「電気タイプの、リザードンだと……? そんなポケモン、聞いた事…」
「いるよ。このリザードンだけじゃなく、あっちのアリアドスも。そしてまだまだ、このロズ山にいるトレーナーの一部が、このリザードンと同種のポケモンをね」
「…!!」
「通常種とは異なる属性を持ち、また本来覚えない技を自力で習得する特別なポケモン。それが『δ種』」
「カズヒコ……」
傷ついた今の状態で、カズヒコの戦っている方に視線を向ける余裕は無い。
ただ、無事を祈る事しか出来なかった。
「くものす=v
アリアドスのトレーナーが指示を出し、あたり一面に己の吐き出した糸を張り巡らせる。
その上を器用に動き回り、カズヒコを一方的に弄っていた。
「ゴローニャ、ストーンエッジ=I!!」
ゴローニャは、は鋭く研ぎ澄まされた岩を周囲へ無差別に乱射する。
この攻撃で、アリアドスの張った糸を切ってしまおうという狙いだった。
「無駄だよ」
だがその作戦すら、全く意味を成さない。
アリアドスの糸の弾力性に岩の弾丸は簡単に勢いを止められてしまう。
逆に、その反動で全ての弾丸がカズヒコ達に襲い掛かる。
「がっ、ぁ…」
全身のあらゆる箇所に岩の弾丸を叩きつけられ、カズヒコは呆気なく地面に倒れる。
そんな主の事を心配しつつ、必死にアリアドスに攻撃を仕掛けるゴローニャだったが…。
「ラスターカノン=v
先ほどと同様に、岩の弾丸は張り巡らされた糸によって弾き返され、更にアリアドスの攻撃も合わさって、ゴローニャを一気に戦闘不能に追い込む。
「(強い…! フジヤの配下には、これ程の実力者がどれだけ…)」
マサシ達2人は、あっという間に身動きが出来ないほど追い詰められてしまう。
そんな彼らに、敵は無慈悲に近付いてくる。
「ここまでやれば十分だろう。さて、後は…」
リザードンのトレーナーが、マサシの道具袋を漁り始める。
そしてその中から、チームリーダーの証である端末を取り出す。
「これを破壊すれば、お前のチームはこの大会からリタイア。さよならだ、マサシチーム」
「バ……、−ン…」
「ん?」
最後の力を振り絞って、マサシは一つのモンスターボールを手に取る。
その中から、バクフーンが飛び出す。
バクフーンはボールから飛び出すと同時に、男の手元を霞め通った。
「!」
そして直後に気付く。
今の今まで自分が持っていた端末が無くなっている。
その端末は、バクフーンがしっかりと握り締めていた。
「いいぞ…。バクフーン」
「最後の悪足掻きか。今更無駄だってのに。リザードン、バクフーンごとあの端末を破壊しろ!」
指示を受けたリザードンが、バクフーン目掛けて特大の雷撃を放つ。
迎え撃つべくバクフーンも炎を発射するが、攻撃が徐々に押し戻されていく。
「ラスターカノン=I!」
更に、もう1人のトレーナーがアリアドスで攻撃を追加してくる。
2匹の攻撃を流石に防ぎ切ることは出来ず、バクフーンは思い切り吹き飛ばされる。
「さて、いい加減諦めはついたか?この状況、お前達に逆転するだけの手段は無い」
「…っ」
マサシにはまだグレイシアが残されているものの、そのグレイシアをボールから出すだけの余力が無い。
必然的に、このバトルはマサシ達の敗北と言う形で決着を迎えてしまったのだ。
相手からすれば、後はただバクフーンの持つ端末を破壊すれば済む話。
どう考えても、マサシ達の敗北は確定的だった。
「ナイトバースト=I」
…最も、それはマサシ達に味方する者の増援が無ければの話だったが。
「!」
突如、別の方角から漆黒のエネルギー波が放たれてきた。
リザードンは咄嗟にその攻撃を電撃で相殺するが、その反動で闇が辺り一帯に広まってしまった。
その所為で、敵はマサシ達の姿を見失ってしまう。
「くそっ!! おい、アリアドスの感知はどうした!!」
この場にもう1人いるトレーナーに怒鳴りかける。
先ほどの戦いで辺り一面に糸を張り巡らせていたため、全く感知されずに姿を眩ます事は不可能だと考えての発言だった。
「駄目だ、全く反応が無い。奴ら、どうやって…」
「そんな事はどうでもいい!問題なのは、奴らに増援が現れたって事だ。フジヤさんの予測よりも遥かに速い…。一度戻って、ウラグさんに報告するぞ」
「わかった」
2人は、既にマサシ達がこの場にいないと考え、今しがた攻撃してきた敵の事を報告するべく去っていった。
だが、実際はマサシ達はこの場から一歩も動いてはいなかった。
視界を眩ませる事で敵が逃げるであろうと言う、相手の心理の裏をかいた作戦。
それほど巧みな事が出来るのは…。
「はぁ、はぁ…。助かった…」
「危ない所だったね。トウクが連絡を他の3人にも回してくれたお陰で、何とか間に合った」
「そうか、あの人が…」
まだ身体を動かすことはできないが、当面の危機が去った事でマサシは息を撫で下ろす。
「何はともあれ、本当に助かりました。ありがとうございます、ウェイガさん」
To Be Continued
今回登場したδ種の元ネタは、ポケモンカードです。