「・・・『過去と向き合う勇気』、か。」
P☆DAをいじりながら、不意にイオンはこんなことを言った。
傍にいたクレイン所長は不思議そうに彼を見た。
その視線に気がついたのか、イオンはくすりと笑みを見せながら答えた。
「レオさんが自分の過去を話してくれた時、あったじゃないですか?あの時に言っていたのを思い出しただけですよ。
・・・でも。自分では乗り越えたと思っていても、何かの拍子に再び囚われることもあるかもしれないとも思ってしまう。」
イオンの真意はいまいちはっきりはしない。
そうなることを恐れる危惧なのか、そうならないでほしいと思う願いなのか・・・。
しかし、少なくとも彼自身にはそのような過去はないはずだ。
彼の名前は、今でこそオーレ地方において知らない人はいないほどである。
もちろん、それは『第2のダークポケモン事件』の功労者の1人だったということが大きいのだが。
だが、彼がスナッチマシンを手にしたことは、偶然に偶然が重なった結果にすぎず、それ以前に彼自身の実績というものがさしてあったわけでもない。
だからこそ、余計に今の言葉が謎めいて聞こえてしまうのかもしれない。
それでもミステリアスな言動と様子をみせたのはほんの一瞬だけ。
次の瞬間にはいつも通りの態度に戻っていた。
「ま、何が起こるかわからないって言いたかっただけなんですがね?・・・さてと、送信完了ーっと」
イオンが手に持っているP☆DAの画面には、メールの送信済みを示す表示があった。
光の加減で反射して微かにしか見えなかったが、どうやら宛先は先ほど言っていた『レオ』らしい。
この時、イオンは知らなかったが・・・。
メールを送信する以前、クレイン所長が蒼夜と通信しているのと同じ頃。
レオもまた、新たなダークポケモンについて、知っていた。
「知ることができていた」といったほうが、いいのかもしれないが。
27話「恐れる現実。知りたい真実。」
蒼夜は壁にもたれかかっていた。
目を瞑り、思い出すのは過去の記憶。
「(・・・『あの日』・・・あの事件の直前に、俺は零哉さんとジム戦したんだっけ・・・?)」
胸にかけているペンダントを開き、そっと指で中に収めてあるインセクトバッジをなでる、
ずっと大切に持っているそれは、2年前にもらったものだ。
ジム戦をしていた時は、思いもしなかった。
自分が最後のジム戦の挑戦者で、そのバッジが最後にもらうものになろうとは・・・。
多分、考え込んでしまうのは先ほどの会話もあってのことだろう。
そうと自分でなんとなく気づきつつも、どうにも戻る気になれなかった。
そうして1人、自問自答をしていると不意に、悠火の言葉を思い出す。ついさっき聞いたばかりの言葉を。
『君の悪い癖なんじゃないの?無駄に責任を感じる。』
「・・・確かに、そうかもしれないな。俺も、気にしすぎなのかも・・・けど・・・」
気づくと思っていたことを、口に出していた。
蒼夜にとって幸運だったのは、周りに誰もいなかったことかもしれない。
何故なら・・・
言いかけて、一旦止めると同時に・・・泣いていたから。
「・・・わかってる、いつまでもこうやってるわけにもいかないことは。・・・だけど、さっ・・・そう簡単に割り切れることでもないんだ・・・っ!」
とすっ・・・!
いつの間にか、壁にもたれるために使っていた力が抜けていたようで、蒼夜はその場に滑り落ち、座るような状態になっていた。
だけど蒼夜にとってはそんなことはどうでもよかった。
気にしている余裕がなかったともいう。
「・・・俺には・・・ヒワダのみんなには零哉さんが必要だった・・・だから・・・・・・こそ、守りたかったのに・・・」
次第に大きくなっていく涙の粒にも構うこともできず、ただ呟く。
「仇を取りたいわけじゃない。だけど・・・あいつは必ず見つけ出す。そして、終わらせる・・・!」
2年前、ヒワダジム先代ジムリーダー、零哉が死んだ。
彼は町の住人に慕われていた。もちろん蒼夜もその1人だった。
そして彼もまた町を、町に住む人々を愛していた。
だから、あの日もただ、町を・・・町の人を守ろうとしただけだったのに。
突然に強靭に貫かれ、そのまま彼は・・・。
2年経った今でもその事件の犯人は捕まっていない。
蒼夜も、はっきりと顔を見ていたわけではない。しかし『聞いていた』。
現在の蒼夜の旅の目的の半分は、この犯人を見つけ出すこと。
それは零哉を特に慕っていた蒼夜だからこその行動ともいえるものだった。
・・・・・・しかし、実際対面してどうなるかは自身でもよくわからなかった。
2年前から探し続けている恩師の仇。
それとの対面は音もなく近づいていることを、この時の蒼夜はまだ知らなかった・・・。
だから、今の蒼夜にはこう言うしか他になかったのであろう。
「俺に・・・乗り越えて進む勇気をください・・・零哉さん・・・!」
それと同じ頃、奏は羽織っていたパーカーも脱ぎ去り、その銀色の右腕をさらけ出していた。
「さっき、見えてたと思うけど・・・これが今の俺だよ」
それは、以前から付き合いのある春華や、つい最近ポケモン交換から親しくなった夕希へ向けての言葉が少し強かった。
最もこの2人以外にも向けられているのだが・・・その中で悠火の表情だけが僅かに曇っていた。
「・・・ねぇ、奏君。それってアサギシティでの・・・」
悠火としてはぽつりと、言ったつもりだった。
だが、奏には聞こえたようで僅かに苦笑していた。
「友達を・・・柚葉(ユズハ)を庇った結果だから、そんなに気にしてもないんだよ。ただ・・・」
言いかけて少し考えるそぶりを見せた奏だったが、春華がどこか意外そうな顔をしていたのに気付く。
「柚葉君って・・・私の知ってる彼で間違いはないのよね?」
「・・・あぁ。・・・・・・でも今思えば、俺ももう少し落ち着いているべきだったのかもしれない・・・」
どうやら、柚葉というのは奏と春華の共通の友人であり、彼といっているところを聞くと男なのだろう。
周りで聞いていた面々もそれは察することができた。
そんな時、奏はある1つのモンスターボールを手にしていた。
一見するとただのモンスターボールのようだったが、なんとなく他と違う雰囲気が伝わってくるようなものがあった。
しばらく眺めていたかと思うと、不意にそのボールを奏は開いた。
すると、その中からは・・・
「ライ・・・コウ・・・?」
思わず、悠火は茫然とした様子でそう口にしていた。
最も驚くのも当然だが。何と言っても目の前にいるのは・・・ジョウトでは知らぬ人などいないライコウそのものだったのだから。
そんな悠火は気にせず、奏はライコウに軽く触れながら、言った。
「こいつは、ローウェル。・・・俺の・・・命の恩人・・・・恩人は違うか。まぁいいか。・・・こいつがいなければ、俺は今頃死んでたかもな」
もう1か月ぐらい前か。
俺はアサギに、ジム戦でもしようかと訪れていた。
そして、ジムへ行こうとした時、「あいつ」が傷だらけの状態で俺の前に現れた・・・。
あいつってのは潤って女だ。・・・まぁ一応俺のライバル。
「おいっ、潤!お前一体どうし・・・」
慌てて俺は声をかけたが、彼女の返事を得る前に何かを察知し、軽く左手で潤の体を後ろへ押しのける。
次の瞬間には手首に赤い筋が生じていた。
・・・それが血だと気付いたのは数秒後だったが。
「・・・ってぇ・・・・・てめえ何者だ?」
そう呟きながら目の前の茶髪の男を・・・ナイフを持った男を睨みつけた。
それと共に、1つのボールに手をかけていた。
「ピジョン!」
短く合図を送り、即座に電光石火で攻撃を仕掛けていた。
・・・が、この攻撃は奴に届くことはなかった。
ばしっ!!
「・・・ユンゲラー・・・。ピジョン、戻れ」
俺がユンゲラーを認識した、ピジョンがやられたと確認できた瞬間、奴の姿は消えかかっていた。
それがテレポートのせいだと気付いたが、すでに遅かった。
消えかかるその寸前、そいつは俺にこう言い残していった。
「もし、その気があるなら、町はずれの廃工場へ来な。・・・ただし、その時はエンジュのジムリーダーと一緒に来いよ?スペシャルゲストもいるからな・・・」
「・・・それで、その場所へ行ったの?」
奏の話が一旦途切れたのを見計らって翼架が口をはさむ。
数秒黙ったかと思うと、少しだけ眉間に皺をよせながら、奏はどこか淡々と続きを語り始めた。
「幸いと・・・言えるのかはわからない。けど、その後すぐにマツバさんには会えたんだが・・・」
「・・・まさか・・・いや、まぁいい。とりあえず行った方がよさそうだな」
あいつの話をした時、マツバさんの表情が曇った気がした。
それはともかく、俺達はその場所へ向かったんだけど・・・
・・・・・・・・・・「それ」を見た瞬間、俺はもう形振りに構う余裕すらなくなった。
「っ・・・キルリア!アリゲイツ!ヘラクロス!」
そこにいたのは、柚葉とミカンさん。・・・要するに、人質だった。
多分、マツバさんが横で静止の言葉を発していたとは思うけど、それがはっきりとわからないままに俺は行動を起こしていたんだろう。
平静でいれば、一気に3匹出すこともなかったはずなのに。
そして、気づけば俺は追い詰められていた。
傍にいるのはサンドパンのみ。
ぎりぎりの状態で攻撃を掠らせたりしていたけど、ふと横を見ると、柚葉にカイロスの斬撃が迫っていた。
その瞬間、俺は駆け出していた。
どんっ!!!
右腕を中心に全身に痛みが走った・・・。
そう、思えたのはほんの僅か。
「奏!!」
柚葉が俺を呼んでいることは認識できた。けど、どうしようもなかった。
柚葉を庇って強烈な打撃を食らったのは理解できた。
その威力は、廃工場の壁が壊れ、崩れるほどの・・・
最悪なことに、ピジョンはさっきアサギの町中で倒されたまま、テレポートが使えるキルリアもやられてしまっていて。
それに気がついたのが落ちながらだったのでどうしようもなかった。
それよりも・・・・・・だ。
攻撃を食らった直後からまったく右腕が動かなかった。
「(あぁ、これはどっかいかれたか・・・?)」
何故かこの時だけとても冷静に分析ができていた。・・・が、だんだんと地面が近づいてきていた。
落ちる、と思ったがそれは杞憂に終わった。
『………生きてるか?』
聞き覚えのない声、だけどどこか頼もしい声。
そう思って顔を上げた時。そこにいたのは…。
「ライ…コウ…だよな?俺を…助けてくれたのか…?」
意外だった。
本で見たことのあった、伝説と言われているポケモンの1匹であるライコウが、俺を助けるなんて。
さらに、ライコウは俺を驚かせた。
『確か奏だったか?………俺はできればお前と一緒にいてみたいんだが…』
「………どうして俺を選ぶ?」
ライコウはさも楽しそうな様子で言う。
『お前からは、強い森の力を感じるからな。それに…少し気になることも…』
やや引っ掛かるものはあったが、とりあえず俺はこう言ってみた。
「なら、………ローウェル。上に援護してきてくれないか?…サンドパンがまだ上にいるはずだし…頼む。」
ライコウは一瞬唖然とし、やがて僅かに口元を緩ませていたが声には厳しさが増した。
『構わないが…、今のお前を1人にするわけにはいかないだろうが!?』
それはそうだ。この時自分でわかる範囲だと、右腕は全く動かせなく、左手には切り傷を負っていた。
さらに5匹いる手持ちのうち4匹は体力をかなり消耗していて戦えず、残りのサンドパンはまだ上にいた。
そんな時、俺にとって聞き覚えがある声が聞こえてくる。
「潤の言ってた廃工場って…ここかしら?」
「…青乃(アオノ)…」
彼女は乗ってきたのであろうフリーザーにそう問いかけていたが、少しフリーザーは困っているようだった。
ローウェルもフリーザーに気がついたらしくひと鳴きした。
しばらく何事か話していたかと思うと、フリーザーは俺の傍へやってくる。
・・・といっても俺には聞こえてるんだが。
『おい、フリーザー。頼みがあるんだが』
『え、はぁ・・・しかし私にはマスターがいますし・・・。』
おーい、フリーザー困ってんぞローウェル。
と思ったのは心の中でだけだったが、それを知ってか知らずか会話は進む。
『ここにいる奏は俺が選んだ奴だ。・・・だがあいにくこの状態だ。上に残ってるはずのサンドパンを援護しにいきたいのはあるんだが・・・ほっとけねーし』
『・・・彼の他のポケモンは?』
『全滅だ、全滅。・・・サンドパン以外は』
うわぁ、事実だけどもっと言い方あるだろうよお前。
そんなことを考えていると流石に青乃も気がついたのか声をかけてきた。
「え・・・奏君!?・・・その怪我・・・」
「・・・ちょっと、あって。・・・それより、空のボール、持ってないか?」
微かに笑うだけでも、痛みがきてうまく笑えてなかった・・・と思う。
それはまぁ推測にすぎないんだけど・・・とにかく、俺はひとまずローウェルを本当に手持ちにしようと思ってそう口にしていた。
「えっと、そのライコウ。捕まえるの?」
少々困りながらも青乃は肩にかけていた鞄から1つモンスターボールを取り出して、俺の傍に置いた。
すると、ローウェルが自分でスイッチを押して入って行った。
かと思うと、すぐに出てくる。
『・・・すまない、フリーザー。少しだけ奏を頼む。』
『仕方、ありませんね・・・』
どうやらフリーザーが近くにいてくれるようだ。
が、青乃がものすごく困っている。
そりゃあ、フリーザーのトレーナーは青乃だから当然なんだが・・・
だから、俺は言った。
「青乃は、ローウェルと一緒に・・・行ってくれ・・・!上にはまだ柚葉も・・・!」
「え、フリーザーは・・・?」
「・・・悪い。ここにいさせてくれ・・・俺の手持ちは・・・サンドパン以外動けない。そのサンドパンも上・・・」
「その後、強い光・・・というより電気が放たれた・・・のは見えたけど、限界だったみたいで・・・」
一瞬、奏は言葉に詰まっていた。
その時にふと彼の表情を覗き込んだ悠火は思った。
「(やっぱり、最後まで戦いたかったの・・・かな。)」
微妙な悠火の表情の変化に奏は気がついてはいたが、話が終わっていないと思い、とぎれとぎれにだが口を動かす。
「2日後に・・・俺・・・教えられた・・・右腕のことと・・・・・・もう、1つ・・・」
言いながら、奏の肩は震えていた。
何かを怖がるように?
「奏・・・あのさ、言いづらいことならこれ以上言わなくても・・・」
夕希がそんな奏の様子を見かねて、そう言葉をかけたか、奏は首を横に振った。
「いや・・・言うよ。」
「けど」
夕希が再度奏に何か言おうとしたが、奏はそれを断り、震える声で呟く。
「なぁ・・・ロケット団のボスの子供だ・・・って突然・・・言われたら・・・どうす・・・る?」
「・・・え?今、なんて・・・」
悠火が思わず聞き返していた。
それほどまでに信じられなかったのだ。
「・・・確証があるわけでもない、けど考えれば考えるほど不安になって・・・真実を知るのが怖くて・・・。不安を振り切ろうとして髪を切ってみたり、リハビリも兼ねてシジマさんのところでバトルを見てもらったりしてみたけど、どうにもできずにジョウトを離れた!」
どこか自嘲気味な笑みで俯く奏に、どう声をかけたらいいか困惑していた一同だったが・・・動いたのは翼架だった。
奏の頭を軽く撫でながら、優しく語りかける。
「誰だって真実を知るのは怖いわ。それが自分に大きく関わることなら尚更・・・ね。だから、少しぐらい寄り道したっていいんじゃないかしら?」
奏もそれには驚いたのか、顔を上げた。
そして微かに微笑みを見せる。
「心配してくれてるんですか?」
「大丈夫。きっと・・・(そう、彩都さんも・・・)」
奏に笑みが戻ったのを見ながら、翼架は何故か彩都のことを思い出していた・・・。
〜後書き?〜
とりあえず待たせて申し訳ありませんでした!(土下座)
・・・さて気を取り直して後書き。
しょっぱな、何故かイオンがミステリアスな言動です。こいつこんなキャラじゃないはずなのに!?(ぁ)
ああ、レオに関する記述については「イオンと『銀の月』」最終話をご覧ください(何)
今回のメインとなるのは蒼夜の複雑な心境。奏の葛藤。
このあたりは少し前から続いてたあたりかな?
っと。ここで奏の話に出てきた名前を補足。
潤・・・は前回名前を出したからそちらを参照。読み方書いたっけ?(汗) 「ジュン」と読みます。
柚葉はアサギシティのトレーナーで、ミカンさんの弟。春華と奏の共通の友人。
青乃はカントーのトレーナーで、ジョウトを訪れています。手持ちにはフリーザーがいる。
奏は彼女のことをどう思っているのかはまたそのうち。
そしてもう1つ。
奏の手持ちはローウェル(ライコウ)を含んだ6匹です。
ホウエンにくるまでの一か月の間に進化したものもいますが、それはさておき。
何故ライコウにだけ名前がついてるか?・・・これは他と違うということを強調したかったので。
ちなみに元ネタは・・・わかる人だけわかってください(ぇ)
[一言感想]
たまに思うのは、伝説のポケモンって結構気まぐれが多そうだってこと(ぇ)。
割と各個人(人?)の気分で、人間に手を貸してくれたりとか。
奏のライコウも、そのパターンだったんじゃないかなと、読んでて思いました。