失うのが怖くて少しだけ距離をとった。
でも、多分俺は………
28話「彼女のホントウ」
「俺はこれからフエンに行くから。」
そう蒼夜に声を掛けられたのは、ついさっき。
少しだけ困惑していた悠火に代わって反応を見せたのは意外にも奏だった。
「あの、俺も一緒に行っていいですか?………少し聞きたいこともあるんで…」
流星の滝の騒動から数日。そこそこ疲れの取れた蒼夜達はひとまず旅を再開することにした。
蒼夜と奏はフエンタウンに。
春華は…キンセツシティに行くと言っていた。
悠火と翼架、そして夕希は調べたいことがあるみたいで、もうしばらくハジツゲタウンに留まるんだという。
「え?潤がそんなこと言ってたのか?」
蒼夜は隣を歩く奏に思わず問い返していた。
完全に立ち直った、というわけでもなさそうだが、表情にはいくらか明るさが見える。
それでもやはり治りきっていないからなのか、時折右腕を気にしているようだった。
「そ。たまには連絡してほしいって。・・・にしてもまさかホウエンに来た直後に会えるなんて・・・」
「・・・このホウエンの旅が終わったら、帰るかな・・・?ジョウトに・・・。」
ぽつりと蒼夜が呟くと、奏は同意しつつも前を示す。
「あ、フエンタウンってここじゃないですか?」
「だろうな。あー、とりあえず伝言ありがとな。」
どこか苦笑しながらも蒼夜はそれに答え、町の中に入って行く・・・。
しばらくした後、ひとまず入ったポケモンセンターのロビーで2人は話していた。
「俺は、回復が終わったらジムに行くつもりだけど・・・奏はどうするんだ?」
蒼夜はどうやらこの後ジム戦をしにいくようである。
しばらく考え込んでいた奏だったが、やがて口を開く。
「ちょっと適当に町を散策して・・・みようかな?と」
「・・・わかった。じゃあしばらく別行動、だな」
やがてポケモンの回復も終わり、蒼夜はポケモンセンターを一旦出ようとした。
「あっ・・・そうだ、蒼夜さん・・・!」
「ん?何だ?」
そんなところで奏に声をかけられた。
立ち止まり、顔だけを奏の方に向けると、奏から近づいてくる。
「さっき聞いたんですけど・・・ジムリーダーは炎使いなんですって」
「・・・ああ、それ教えようと思って止めたのか?」
一瞬驚いた表情をしていたが、ふと納得したように
「ま、そんなもんです。頑張ってください」
「(炎使い、か…)」
奏とポケモンセンターで別れてしばらく。
ジムを探していた蒼夜は、そんなことを思っていた。
「っと…!見つけた…!」
辺りを見渡していると、蒼夜の目にジムの看板らしきものが映った。
そのまま入ろうとしていたが、ふと看板に小さく書かれた文字が目に留まる。
気がつけば、その文字を蒼夜は口にしていた。
「フエンジム…ジムリーダー………翌菜?…アスナ…って読めばいいのか?」
そこまで言ったところで、不意に蒼夜は1人の少女を思い出す。
「アスナ・・・そういえば、あの時カナズミで会ったあの娘の名前もそうだったっけ」
あの時とは、蒼夜がカナズミシティでジムを探していた時のことである。
そんな時に出会った女の子の名前がアスナだった。(詳しくは以前のお話参照)
何故、彼女のことを今思い出したのか。
それを蒼夜はしばらく考えていたが、答えは出なかったようで、やや首を傾げつつ本来の目的がジム戦であると思いなおし、ジムに足を踏み入れた・・・。
「・・・翼渡(ヨクト)!ジェットスター!」
ずばっ!!
蒼夜の鋭い声がしたかと思うと、疾風のごとき流星がドンメルを切りつける。
その一撃でドンメルは倒れるが、倒れる直前に火炎放射をエアームドにも当てていた。
「ちっ・・・結構減らされたか・・・」
翼渡、と呼んだエアームドを戻しながら、蒼夜は僅かに表情を曇らせた。
そんな彼に声をかけるのはつい今までドンメルで戦っていた男である。
「ここは炎ジム、それなのにどうして君はエアームドを・・・?」
確かに普通なら、炎タイプ相手にあえて鋼タイプなどで挑まないだろう。
だが、蒼夜の場合は・・・
「あ、それか。これでも俺はジョウト、カントーのジムを3匹で回ってたんだよ。ま、トキワジムのバッジは持ってないけど。・・・翼渡は、そのうちの1匹だ。」
もちろん、経験だけの問題ではないだろうが、そこは作戦でもあったのだ。
蒼夜は口元に笑みを浮かべながら言った。
「それに、切り札は温存しとくべきだろ?水タイプはいるけど、できるだけ体力減らしたくはないからな」
彼が蒼夜の言葉を聞いたのはそこまで。
蒼夜はそれだけ言うと、次のフロアへと進んでいたからだ。
一人残された、次の挑戦者を待つべきジムトレーナーは、思わずこう呟いていた。
「・・・それにしたって、エアームドとジュプトル以外ほとんど出してないのはどうなのか・・・?」
そういえば、疑問に思う人もいるだろうが。
蒼夜は一体いつ手持ちに名前をつけたのかと。
・・・・・・思い返せば、ハジツゲじゃなかったんだね!姓名鑑定士(微妙に違います)!
ま、いいや。
流星の滝騒動の後の数日でつけたんでしょ。
というかゲームの設定にこだわる必要ここはないしねー。
「・・・おい、そこっ!真面目に」
・・・あ。蒼夜には聞こえていましたか。流石はツッコミですね。
ともかく、先へ先へと進みながらも、蒼夜は繰り返し彼女のことを考えていた。
「(もし、あの娘がここのジムリーダーだとすると、風乃(カゼノ)の『あの戦法』はそんなに通じない・・・)」
戦法から始まったはずのことだが、次第に別のことを思っていた。
「そうだとしたら、って・・・俺は何であの娘のことばっか考えてるんだ?」
違う、違う、そういうことじゃない・・・となんとかそのことから離れようとしていたが、どうやら意味はなかったようだ。
何故なら気づいた時にはジムリーダーの部屋の目前まで来ていたのだから。
「・・・・・・結局、俺はどうしたいんだ?」
そう呟くと表情上は冷静に、モンスターボールを確認して、軽く息を吐いて・・・扉を、開けた。
その頃、扉の前に人が来たのを感じたジムリーダーはというと。
「あ、挑戦者かな?・・・・・・・でも、この感じ・・・知ってる人?」
そんなことを、扉を背にして呟いていた。
ぎいいい・・・
扉を開けた蒼夜の目に映ったのは、美しい赤。
蒼夜には背を向けたまま、彼女は言った。
「挑戦者が来たってのは聞いたけど・・・意外に早かったみたいね。・・・・・・でも、あなたなら必ず来ると思ってた」
そこで一旦言葉を切ると、彼女は振り向いて、笑った。
「そうでしょ?・・・・・・・・蒼夜」
その姿は、以前カナズミで出会った時と変わらなかった。
それに関してはある程度蒼夜も予測はしていたのだが、僅かに驚いた顔をしていた。
ある程度落ち着いてきたところで、蒼夜が口を開く。
「・・・どうして、あの時はジムリーダーということを隠していた?」
蒼夜のその問いをされることはわかっていたらしく、翌菜はいたずらっぽく笑った言った。
「知った時、どんな反応するか、ちょっと楽しみだったってのもあるけど・・・・・・・・・・その、ま、また会いたかったし・・・・」
後半の声が小さくなっていたため、蒼夜には聞こえなかった。
そのためか、少しだけ呆れたような表情になると、次いで微笑んだ。
「ま、とりあえず久しぶり。翌菜。」
そうしてしばらく和やかに会話をしていたのだが・・・
「・・・そろそろ、やらないか?」
蒼夜がこう言うと、翌菜の表情が変わる。少し、残念そうに。
「そう、だよね。あたしはジムリーダーで、蒼夜は挑戦者。バトルはしなきゃいけないもんね」
しかし、そんな表情をしていたのはほんの僅か。
翌菜は気を取り直して、蒼夜に言う。
「ルールは、カナズミジムの時と一緒でいい?」
「あぁ。・・・言っとくけど、知り合いだからって手は抜くなよ?」
どこか茶化すように蒼夜がこう言うと、翌菜はむっとした顔に少しだけなる。
「しないわよ、そんなこと!・・・それよりも、始めよ?」
■後書き■
翌菜再登場!!・・・今回は、これに尽きます。
ジム戦の行方は?蒼夜の気持ちとは?
そんな感じで次回に続く!
〜技紹介〜
ジェットスター:スピードスター+エアカッター。 物凄いスピードらしい(ぁ)
[一言感想]
蒼夜、ついにフエンジムへと到達す。
ヒロイン(?)との再開がそのままバトルっていう展開、実は自分的にはかなり好きなシチュエーションです(ぇ)。
翌菜がジムリーダーである事を知り、彼はどんな心境でバトルをするのか!?