今、1つの戦いが始まる。


「さぁ、いっくわよー!」


「(大丈夫だ、行ける!)・・・・・風乃(カゼノ)」


1つは紅く、1つは蒼く・・・。
戦いの幕は、今開く・・・!




29話「冷静と情熱の間」



「火炎放射!」


「っ・・・!水遊び」



ボールが開ききる寸前に、すでに指示は出ていた。


勢いのある炎に向かうは、水の流れ。
ぶつかりあい、少しずつ炎の威力を弱めていく。

やがて、ある程度弱まると上へ1匹は逃れる。



「その子、あの時のアメタマ?」


避けられたかぁ、と軽く呟きながら、翌菜は笑いながら言った。

蒼夜も戦いの構えはそのままに、軽い調子で言った。


「進化したんだよ。それと、風乃っていう名前も決まったしな。・・・さてと、風乃!水の波導!」


突然の、試合再開だった。
蒼夜の声を合図に、再び動き出す。

だが、そこは流石ジムリーダーといったところか。翌菜もすぐに対応していた。


「マグカルゴ、光の壁!それから・・・」


翌菜の指示は最後まで聞こえなかったが、蒼夜は不穏なものを感じてアメモースに後退の指示を出した。

そんな、時だった。


がらがらがら!!


アメモースの上から大量の岩が降ってくる。

指示こそ早めに出したものの、すべては避けきれず、1・2発掠ってしまう。
それだけで、岩タイプには弱いアメモースには、致命的だった。


「岩雪崩・・・っ!・・・風乃、戻れ!」


まだ戦えはしたが、あまり動けるようには見えなかったため、蒼夜はアメモースをボールに戻す。
代わりに選んだボールを開く前から、指示を出していた。


「・・・・・・・波乗り」


ばしゃん!!


開かれるとともに、そんな音が響き渡る。


強烈な水流が消えた後、そこには倒れたマグカルゴがいた。
その前には、サニーゴが立っていた。




「俺の2匹目・・・、サニーゴの浪香(ナカ)。」




「(そういえば、サニーゴ持ってるって言っていたような・・・?)・・・なら・・・」


一瞬だけ考え込んだか思うと、翌菜が次に出したのは・・・



「バクーダ、噴火!」



火山のような背中を持つそのポケモンは、出てきてすぐに強烈な炎を噴出する、



「ここはなみの・・・・・・いや、冷凍ビーム!」


対する蒼夜は、全体攻撃ではなくあえて一点集中の技を指示していた。


うまく炎をかいくぐり、冷気はバクーダの大きな体に命中する。

が、噴火という技の範囲は広い。
炎のいくつかはサニーゴの小さな体にも降りかかる。

しばらく黙って見ていた蒼夜だったが、不意にサニーゴをボールに戻す。


翌菜は、そこで気がついたようで、攻撃を止めるようにバクーダに言った。


「追加効果で火傷させたけど、サニーゴの自然回復には無駄ってことかな?」


そこまで言うと、蒼夜が不敵に笑ったように・・・彼女には見えた。



「そういうこと。・・・っと」


そんなことを言いながら、1つのボール・・・フレンドボールに手をかけていた。


それを見て、翌菜は警戒を強めて小さな声で指示を出す。


「バクーダ、相手が出てきたら、マグニチュード」


その指示が聞こえていたのかどうかはわからないが、蒼夜もまた何かを口にしていた。

その直後、持っていたフレンドボールを前方へ投げた。


開ききったと思った途端、フィールドが揺れる。


やや砂煙があがったかと思うと、黒い小さな球体が連射されていた。




「火影・・・頼むぜ!」



砂煙が晴れると、そこに・・・バクーダの正面に立っていたのは1匹のロコン。

それだけのことだったのだが、炎使いである翌菜にはそのロコンは相当な力をもっているとすぐに理解できた。




「バクーダ!もう一度!!」



どごごごご・・・・・・!



どうやら、先程のマグニチュードは威力が低めだったようだが、今回はなかなかの高威力が出たようだ。

音からして相当の威力のようだが、蒼夜は冷静だった。



「火炎放射で上に飛べ!」



それは、以前にも使った手であった。(カナシダトンネルでの戦い参照)





ふわり




軽やかに炎を利用し、浮かび上がると、再びシャドーボールの構えになった。

先程と違うのは、小さなものをいくつも作り出すのではなく、大きなものを作り出そうとしているところだ。


その状態のまま、蒼夜はしばらく何か考えていたようだが、ふと思いついたものがあるらしく叫んでいた。





「火影!!「あれ」を試すぞ!」





直後、ロコンは集約させていたエネルギーを尻尾に纏わせ、上空からたたきつけるように尻尾を振り下ろす。




ばしゅ!!




見ていても強力な攻撃であると思えたのだが、蒼夜は苦笑いを浮かべた。



「駄目か、倒しきれない」



そうは言うものの、バクーダに与えられたダメージが小さいというわけではなく、後数発で倒れそうな状態だった。

だが、そこで諦めるのは翌菜はしなかった。


「・・・岩石封じ」



先程の、岩雪崩とはまた別の岩攻撃で翌菜は迎撃した。

咄嗟に蒼夜は回避させる。


「いきなりかよ・・っと、穴を掘る!」



ロコンが砂の中へ潜るのを見た翌菜は即座に別の技を指示していた。



「(今よ!)マグニチュードっ!!」



3度目のマグニチュード。
だがこの状態で使えば、威力は更に大きくなる。


各地のジムに挑戦してきている蒼夜だったが、今回は少しそのことを失念していたようだ。

はっとした表情を見せると、慌てて指示を出す。



「すぐに上がってこい・・・っ!(何で忘れてたんだっ・・・!)」



幸い・・・と言っていいのかはわからないが、早めに気づいたため、倒れるほどのダメージではなかったようだ。

だが、遠目から見ても少し足元がふらついていた。




「その状態でも穴を掘るは当ててくるんだ・・・バクーダ戻って」




ただ火影も黙ってやられていたわけではなさそうだった。
どうやら砂から抜け出すと同時に攻撃は当てていたようで、倒すまでに至っている。




「・・・一旦、戻れ」



蒼夜の表情には焦りが見え隠れしていた。
そんな様子のまま、手に持った2つのボール・・・フレンドボールとルアーボールを見比べていた。


・・・いや。彼が今考えているのはこのバトルのことだけではない。

集中できない理由は、目の前の彼女にあった。



「(ジムの前で名前を見てから・・・さっき再会してからか?翌菜のことばっかり・・・何でだ?)」



心を落ち着かせようと、バトルが始まる前からずっと思っていた。
いつもなら、それだけでどうにかなるのだが、何故か今回はできないのだ。



「それよりも・・・まだバトルは終わって」



なんとか、バトルへ意識を戻した蒼夜だったが・・・





ごごごごごごごご・・・・・・




「な・・・!」



一瞬何があったのかを判断できなかったが、蒼夜は即座に地震の揺れだと判断した。

咄嗟に翌菜を見ると、その頭上の天井が剥がれ落ちそうになっていた。




「(声をかけるか?いや・・・多分それじゃあ間に合わない!・・・どうする?)」




その答えが出ないままに、蒼夜は気づけば駆け出していた。


そして、彼女を、翌菜を庇うように押し倒した・・・その時。




ぱき・・・

ぱき・・・・ばきっ!!




「そ、蒼夜・・・!?ちょ・・・」



翌菜は突然のことに動揺していたが、そんな様子に気づいているのかいないのか。

ただ、彼女には破片などが当たらないようにとしているだけだった。



この時、蒼夜は気付く余裕もなかったが・・・持っていた2つのボールのうちの1つ・・・ルアーボールが壁に僅かに空いていた穴から外へ出てしまっていたのだった。










「そ、う・・・や?」



彼が、蒼夜が自分のところへ来た直後に何かが落ちてくる音はしていた。

しかし翌菜はそれが何なのか見れなかった。
蒼夜が隠すようにしていたから・・・。


そして、それから蒼夜の反応がない。

恐る恐る、といった様子で翌菜は呼びかけていた。

すると・・・



「ぐ・・・う・・・だ、大丈夫だった・・・か?」



苦しそうな声であったが、なんとか蒼夜は翌菜の声に応える。

それによって彼女はますます混乱する。


「え?え?大丈夫って・・・何が!?」



「地震で、天井が剥がれてきた・・・で・・・俺は・・・」



その言葉でようやく翌菜は状況を理解できた。
それでも・・・ある疑問が浮かんだ。


「蒼夜、でもどうしてあたし・・・」


言いたいことは分かったのか、できうる限りの笑顔で蒼夜は言っていた。



「自分でもわから、ない。けど、考えるよりも先に動いてた・・・んだろうな」



そのせいで怪我増やしたかな、などと呟いていると、翌菜は慌てて言う。



「怪我・・・してるの?それだったら早く手当しないと!」



「・・・そうも、いかないんだよな・・・この状況」


「え?」


しかし蒼夜はそれを遮ると、言う。



「外に出られなくはない。けど翼渡は・・・エアームドはジムトレーナー戦で結構ダメージ受けてて飛べるほどじゃない。それと、もう1つ・・・」


「もう・・・1つ?」



「今、俺が退くと・・・翌菜まで、怪我すると思うんだけ・・・ど?」



それは蒼夜なりの気遣いだったのかもしれない。
だがそうは言うものの、彼自身が大丈夫とは言えなかった。

そんな状況の時、翌菜は気付いた。


「ね、ねぇ・・・蒼夜のポケモンって6匹・・・よね?」


「それが・・・どうか」


「・・・1つないの」



そんなことを考えていなかったのか、慌てて蒼夜は動く左手でボールに触れる。
すると、確かに1つ足りなかった。

が、そこで思いついたように蒼夜は口にしていた。



「でも、もし外へ出た・・・ってなら好都合かもしれない」


「・・・え?」


翌菜もそんな言葉は予想外だったようで思わず聞き返していた。

すると蒼夜は口元を僅かに緩めつつ、言った。


「今、このフエンには俺と一緒に来た奏がいるんだ。あいつなら・・・ポケモンの気持ちを知れるから・・・」








そして、そんな蒼夜の考えは的中していた。

ジムの近くへ来ていた奏の足元に、ルアーボールが転がってきた。


「・・・ルアーボール・・・いや、でもこの気配って」


それからは少し前まで一緒にいた青年の気配が感じられた。

何かあったのでは、と思った奏は慌てて拾い上げた左手に意識を集中させる。
以前と変わらず、淡い青色の光を纏ったかと思うと、驚いた顔をし、すぐに駆け出していた。



「早く、行かないと・・・蒼夜さんのところへ!ジムに・・・!」







■後書き■

バトルシーンはなかなか長さ伸びない・・・!(ぇ)
とりあえず蒼夜がまた怪我してます。
次回は、蒼夜が翌菜への感情が何かを知る気がします。



〜技紹介〜

・シャドーテール→シャドーボールのエネルギーを尻尾に纏わせたたきつける攻撃。アクアテールのゴースト版?
         蒼夜が「試す」と言っていたのは威力が安定していなかったため。

 

[一言感想]

 蒼夜、某小説の主人公属性がつかないかが心配です←
 結局、決着はつかず終いでしたが、蒼夜と翌菜の仲には進展がありそう(ぇ)。
 にしてもこのジム、耐震強度は大丈夫なのかな……。

 

戻る