ぴりりろろん♪


呼び出し音が鳴ったのは、ある意味よかったのかもしれない(夕希にとっては、だが)。


「…本部から…?………え?ええ、すぐに戻ります!」


その音が鳴ったのはミクリのポケギアだったらしい。
が、どうも慌てているように見える。


「どうしました?」


不思議に思った悠火がふと彼に問いかけていた。
それに対し、ミクリの返答は一言だった。


「挑戦者!」



「え、四天王全員倒されたんですか!?」


その返答に驚いたように夕希が叫ぶと、緩く否定する。


「いや、まだゲンジさんが残っている。今日私が出掛けている理由は知っているから、時間繋ぎはしてくれるだろうが…、ポケモンリーグのチャンピオンはこの私だからね。」


その言葉である程度は状況を理解したのであろう悠火はすぐにこう口に出していた。


「そういうことなら、引き留める理由は僕達にはないね。ね、翼架さん?」

「え、ええ。話すべきことは終わってるしね」


「俺達のことはいいから行ってください、ミクリさん」



「あ、ああ。君達から聞いた情報は必ず活用するから、気をつけて!」



最後に一瞬微笑むと、ミクリは慌ただしく外に出て行った。
その背を見送ってから、誰ともなしにこう言った。


「………とりあえず、用は済んだしこの部屋出よう?」






-A drop of starling sky‐34話「微かな月光の誘い」





「さて…これからどうしようか?」


ひとまずポケモンセンターのロビーに出てきた3人。
しばらくすると、軽く伸びをしつつ、悠火が訊ねた。

すると、夕希は少し悩む素振りを見せた後にこう言った、


「俺はカイナシティに行きます。………少し、気になることがあるので。」


「じゃあ、一旦ここで…」


別れようか…と言おうとしたところで、不意に悠火のモンスターボールの1つが激しく揺れた。



かたかたかた!!



「セイ?どうかしたの?」


少々驚いた様子で、彼がそのボールを手にすると、ガブリアスは言葉を出した。


お忘れの方のために説明すると、悠火が有する碧龍の護人の能力には、ドラゴンタイプとの対話を可能とする力もある。
それによって言葉が分かる状況なのである。
ただ、周りに干渉する能力ではないので聞こえてるのは悠火だけとなるが。


それは置いておいて、何やらセイは慌てているようだった。


『悠火さんっ!なんか、感じるの!きょーじゅのとこ行って!』


「きょーじゅ?………ソライシ教授のこと?」


『そう!特に用事ないんだったら行って!あいつらの気配、微かにした!』



………………あいつら?


それを聞いて、数秒逡巡した。
かと思うとすぐに傍にいる翼架と夕希にだけわかるように囁いた。



「2人とも、ちょっと付き合ってほしい。セイがソライシ教授の所で…多分悪意を感じてるんだ」


彼にしては珍しく、少し焦ったような…そんな表情だった。

そして、その危惧は…




「悪いっ、病院にいたんだっ!電源切ってた!」


『病院………?奏、どこか怪我でもしたのか?』


電話越しだから、顔は見えていない。わかっていても、彼は誰が見てもわかるように困った顔をしていた。
どう説明するべきかとしばらく考えていたが、ふと口にした。


「俺は…、なんともねーよ。蒼夜さんだよ、蒼夜さん!」


『…………今度は何やったのさ、蒼夜』


すると、心底呆れたような声で訊ねる別の声。
ああ、まだ近くにいたんだな。などと奏は思いながら、その声の主に声をかけた。


「2日前の地震、ご存知ですよね?………ちょうどその時、蒼夜さんはジム戦やってて、ジムリーダーの翌菜さん庇って…」

『あ、うん。やっぱりそっちが強かったみたいだね。………それで?動けそうなの?』


誰のことを悠火が言っているのかは聞くまでもなかった。躊躇なく奏は言いきっていた。


「少し前に気がついて、だけどすぐに寝てしまいましたよ。相当疲れているみたいだし、無理ですね」


『だったら、奏君だけでいい。………協力してほしいんだ』

「協力…?」


やはり悠火らしくない、早口の言葉だった。
そして、唐突でもあったので非常に困惑しているのであろう奏の心情を察したのだろうか。本題を夕希が簡潔に告げていた。


『グラン・メテオが無くなった。どちらかは分からない…どちらも、かもしれない。煙突山に向かうと言っていたってソライシ教授がな』



「…それで?協力するのはいいけど、今から行くのか?」


『それは…

『行くのは、明日の朝。ソライシ教授の自宅の後片付け手伝ってるのよ』


多分今、一番落ち着いている声を出しているのは彼女だろう。
その声に若干苦笑しながら、奏は言った。


「そういうことなら、後で落ち着いた頃に連絡ください。特に、悠火さんが…ね」


『ええ、また後で』


翼架のこの言葉を最後に、向こうの声が途切れた。先に切ったのだろう。
ひとまず、奏も切ったのだが、なんとなくおかしく思った。掛けてきたのは夕希のものなのだが、話していたのはほとんど他の2人だった。

一瞬だけ笑うと、直後、彼は不意に違和感を感じた。


「…………それにしても、あれからそんなに経ってないのに、こう立て続けに起こると…なんか、引っかかるんだよな?」


誰に言うでもなく、口に出たその感覚は、一体何なのだろうか…?





その日の夜---、嫌な夢を見た。



「夢、じゃない…。俺の、記憶………だけど…何か違う?」



うなされて、目が覚めた。
ふと窓の外を見れば、曇り空で月がほとんど見えなかった。

その時、近くの机に、何か紙が置いてあるのに気がついた。
昼間には見なかったものだと認識した彼はその紙を手に取った。


「何だ、これ…。っ!これは…」


その紙…ノートの1ページだろうか?
そこには、このようなことが書かれていた。


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蒼夜さんへ

 夕希達から、連絡があった。---グラン・メテオがなくなった、と。
 3人の話によれば、恐らく…というか、十中八九、マグマ団かアクア団…もしくは両方が関わっている。
 ソライシ教授ははっきりとは見ていないらしい。けど、聞いたそうだ。

 「煙突山」と。

 だから、俺も行ってきます。

 でも………、蒼夜さんはそこにいてください。
 これはあくまでも俺の推測に過ぎません。
 貴方はすぐに寝てしまうほどに疲れている。…それは、怪我じゃなくて、過去に心痛めているからなんじゃないかって。
 
 最も…、今は悠火さんに頼れるかもわからない。
 電話越しでも伝わるぐらいに焦っていたみたいだから。

 それでも、たとえ条件が悪くても、放ってなんかおけない。
 俺達はあいつらに関わってしまっているのもあるけど。
 

 〜追伸〜

 ごめんなさい、実は少しだけ悠火さんに何があったか聞いていたんです。推測っていうのも半分嘘です。
 
 とりあえず、何らかの決着をつけて戻ってくるつもりなんで心配しないでください。
 翌菜さんもいるし、頼ってもいいんじゃないですかね?………なーんて。


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「確かに今は、動きたくないな…。いや、無理だな…こんな、気分じゃ」



例えるなら、ちょうど今の空模様のような、曇で月光が遮られているような…そんな、気がする。

光よりもずっと暗い闇に、支配されそうになる。


忘れてはいない。

忘れるわけにはいかない記憶だけども。


「あの日の…あの時のことを夢で見るのはここに来てからは初めてだ…。なのに、今までで一番鮮明だった…っ」


いや、ホウエンに来てから、というよりは、はっきりと当時の記憶を夢で見たのは、本当に久しぶりだった。

その直後は毎日のようにと言っても言い過ぎではないぐらいの頻度で、見た。
だが、悠火と出会って以来、見ることは少なくなった。

ある意味では心の支えになっていたのだろう。


「………俺程じゃないにしても、あいつも闇を抱えていた…だからかな」


そんなことは関係なく、彼自身に何か惹かれるものがあったはずなのだが…。
忌まわしい記憶に、黒く塗り潰される感覚に陥るような錯覚が存在した。



「あながち、奏の推測も間違ってはいないんだよな………困ったことに。」



いっそ、思考が、感情がなかったら楽なのかもしれない。


そんなことも思ったが、今宵はそれを許してくれそうになかった。
いつも以上に強く、深く、『あいつ』の声が頭に響いていた。



「………まさか、な。こんなところにいるわけがないよな?」



そう言いたくなるほどに、酷く重く意識に張り付いた声が、離れない。


もし叶うなら、声を聴かせて。
優しく強い、貴方の声を。

もういないとは理解していても、それでも………今会えたら、とても気分が軽くなるのに。





■後書き■
迷ってた煙突山は結局出すことに。…それは、さておき。
いつもより落ち着きが欠け気味の悠火はどう影響するのか?そして、奏の感じた違和感とは?
………そして、不安に駆られる蒼夜。
『あいつ』というのは、因縁の相手---とでも言っておきます。
ちなみにこの後書きを書いてる今現在、まだそいつの名前、決まってません(蹴)
あれ?いつから星空ってシリアス多めになったわけ?誰か教えてください(ぇ)

 

[アットの一言感想]

 ところで「じっとしててください」と言われるのは、じっとしていないフラグだと思います(何)。
 グラン・メテオ騒動も気になりますが、個人的には四天王3人抜きした挑戦者が気になります。
 後になって、ミクリもボロボロに負けていたらどうしよう(ぇ)。
 ……これは新たなる強敵登場の予感!?←

 

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