酷く目覚めの悪い朝だった。………あれから眠れなかったから、目覚めとは言わないかもしれないが。
ただ苦しくて苦しくて、怖くて。
その証拠であるような、脂汗も嫌だった。
こんな時、どうやって立ち直っていたかが…わからない。
-A drop of starling sky- 36話「新たな想い」
「……かさん…、悠火さんっ!」
「え、あ、何?」
呼びかけられているのに気付いていなかったのだろうか、驚いた反応を見せる悠火。
その様子を目の当たりにして、奏は深〜くため息をついた。
「何、じゃないですよ…。さっきから何度も呼んでたのに…!」
「ごめんごめん!ちょっと、考え事しててほとんど寝てないだけだから…!」
「寝てないって…。それよりも、どうするつもりです?」
「ああ…うん。それなんだけど…」
「………本当、珍しいですよね。悠火さんがぼーっとしてるなんて」
「…蒼夜君、かしら?」
一晩明けても心なしかぼんやりとしている悠火だが、やることはやっているらしい。奏に何やら説明していた。
その一方で、夕希は翼架の隣で珍しいものだと眺めていた。
「え?」
「ほら、あれ以上に怪我増えたって奏君が言ってたじゃない。それで、心配してるんじゃないかしら?2人、親友なんでしょ?」
翼架の言葉には、どこか納得できるものがあった。それと同時に、ふと夕希は思った。
「蒼夜さんのことだから、情緒不安定になっててもおかしくないんだよなあ…」
「思いつめそうなタイプよね、彼。………彩都さんとは違う意味で放っておけない………」
彼女としては、小さく言ったつもりだったが、流石に隣にいた夕希には聞こえたらしい。
「…翼架さん…?」
「と、とにかく!きっと、蒼夜君の傍にいてくれる人はいるわよ!」
「それは、どういう…?」
「女の勘…ってことにしておいてよね♪」
いまいちとはっきりしない物言いだが、あながち間違いでもない。
奏に聞くと、その予測が正しいものだともわかるだろう。
そんな時だ。
「それじゃあ、行こう!」
目の前の煙突山の山頂部を見上げながら、悠火が言ったのは。
「………どうしたの?」
朝一番に蒼夜の顔を見に来た翌菜の最初の言葉が、それだった。
憔悴しきった様子にただただ困惑していた。
直後、数回呼びかけた後、ようやく彼が反応を見せた。
「………たんだ…」
消えそうなぐらいか細い声。
出会ってそんなに経っていない彼女でもわかるぐらいに、彼らしくなかった。
それだけで何かあったのだと察するのは容易すぎた。
「夢を見たんだ…俺が守れなかった大切な人を…失う記憶の…!」
「蒼夜…何があったの?あたしができること、ない?」
彼女のその言葉に一瞬、蒼夜が酷く驚いた表情を浮かべた後、不意に真剣な光を目に宿して、呟いた。
「聞いてて楽しい話じゃない。それでも、聞いてくれるなら…聞いてほしい。」
静かで激しいものをその視線に感じた翌菜は、深く頷いてからこう口にした。
「全部、受け止めるから。楽しいことでも辛いことでも…!」
「………けど、どこから話すべきなのか…」
それっきり、蒼夜はしばらく視線を彷徨わせていたが、やがて1つのものに目が止まる。
その先にあったものには、翌菜にも見覚えがあった。
「これ、確かツツジさんと戦う前に、見せてくれた…?」
「開けても、構わないから」
それは、いつも大事そうに持っている彼のペンダントだった。
構わないと本人も言っているので、そっと蓋を開けてみる。
「ジム…バッジ?」
「形見みたいなものなんだ。そのインセクトバッジ」
「え…」
「俺が、ヒワダジムでジム戦をした、その日のうちに零哉さんは………殺された。俺が、最後の挑戦者になったんだ」
そこで一息つくと、次に蒼夜の口から出てきたのは意外な言葉であった。
「見えないだろうけど。俺、小さい頃は軽く人間不信的なことになっててさ…」
「………嘘」
「いや、これが本当のことで………、「生き物の心が読める」なんて、信じられるか?」
「心が、読めるって」
言ってから言わない方がよかったか?とも思ったが、受け止めると言ったのは彼女だ。
仕方なく、大きく深呼吸してから続きを言い始めることにした。
「母さんの家系が、なんというか、不思議な能力持った奴が多い家系でさ。まあ、その血筋なのか…。でも、俺の能力はどっちも中途半端だけど…」
「千里眼…とかもそういう類…になるの?ほら、ジョウトのジムリーダーにも…」
言いかけた翌菜を遮るように、静かに蒼夜が続けた。
「マツバ。………俺の従兄弟で、俺よりもずっと優秀な千里眼が使える奴だ。………マツバがいなければ、多分俺はいまだに他人を信用してないだろうな。」
「俺よりも…ってことは、蒼夜も…?」
「だけど、そう何回も使えるものじゃない。俺が使うと、一気に体力もってかれちまうし…。視心眼…さっき言った「読む能力」も、見る対象を選べない。だから、中途半端って言った…!」
自嘲的な笑みを微かに浮かべる彼を見ていると自然と翌菜の口から言葉が漏れた。
「選べないから…蒼夜は傷ついたの?」
「…簡単にいえば、な。読めたから、信用してた人の本心知っちまって…それが苦しかった。だから、普段は抑えてるんだよ、『これ』でな」
しゃらっ
それは、腕を痛めていても外さずにいたブレスレットだった。
一見すると普通の装飾品にも見えるそれは、特殊な石でできていた。
「けどさ、困ったことに千里眼も一緒に封じられてるんだよな、これ…。いや、完全には封じられてはないか…?」
まあどっちでもいいか。といった様子で嘆息すれば、つられて翌菜もくすりと笑んでいた。
だが、次の瞬間には再び蒼夜の表情は曇る。
「母さんが死んで、俺は父の住んでいるヒワダタウンに行くことになった。ヒワダの人達はみんないい人達で、すぐに俺を受け入れてくれた。ツクシや零哉さんが特にそうだった…」
「今のジムリーダーと先代…?」
「そうなるな。俺とツクシはよく彼の指導を受けていた。いわば恩師ってところかな、ポケモンバトルの」
「いい人、だったんだね。」
翌菜のその言葉で、抑えていたものが溢れたのだろう、伝い落ちるものが光った。
「いい人、だったよ。町を大事にしていた…そんな人がなんで…!何よりも、家族も傷つけられたのに、見ていることしかできなかった2年前の自分が悔しいっ」
「………その、犯人は…?」
恐る恐る、そっとした呟き。
彼女の声が妙に心地よい響きだった。だから、余計に雫が飛んだのかもしれない。
「まだ見つかってない・・・だけど、声を忘れたことはない。忘れてたまるかっ」
悲壮さを感じさせる、それでも折れまいと繋がれた心。
翌菜は蒼夜の顔を見ながら、ぽつりぽつり紡ぐ。
「蒼夜なら、絶対、見つけられる。絶対、勝てるよ…だから、前を向いて…笑ってよ…!」
「そうだな、泣いてる場合じゃ…ないか」
半ば無理矢理に、左手で涙をぬぐうと、それから蒼夜はぎこちなく微笑んだ。
精一杯の強がりだった。
「翌菜。」
「蒼夜………」
それでも、改めて決めたこともあった。
「さっき言ったあいつな。もしかしたらこのホウエンにいるかもしれない。けどな、俺は逃げない!」
「…!」
「俺は、必ずあいつと決着をつける!そして、その時は君に伝えたいことがある…待っていて、くれるか?」
「できるよ…蒼夜なら…っ!?」
不意に、蒼夜の手が翌菜の体を包み込む。
驚いて言葉を失くす彼女に、ただ、伝えたかった。
「想いは本物だから、今言うわけにはいかない。言うと決意、揺らいでしまいそうだから…!」
「それ、どういう…って蒼夜、離してよ…」
「(今はまだ言えないけど、少しぐらいこんなことしたって許されるって思いたい…!)」
そっと強く、抱きしめたのは、君を感じて、安心したいから。
声を聞いて、触れていると闇は確かに軽くなって。
俺の中での彼女の大きさを思うと、小さなものだったかもしれないけど、さ。
彼女の温もりと、自身の胸中に灯った火種。
消したくないもののために、俺は…!
■後書き■
気付けば蒼翌になってました。煙突山どうしたよ←
翌菜が蒼夜の過去を知りましたねー。(他人事!?)
決意を改めてする蒼夜が伝えたいこととは…まー言わなくてもいいでしょう(ぁ)
それにしたって、心底浮き沈みが激しくてやりにくいです蒼夜君(汗)
実は最初一気にくっつく所まで行こうかと思いましたが諸事情により後回し…というか元々の予定というか。
まあそんなこんなで今回は後書き終わりです。
[アットの一言感想]
蒼夜……実は、ちょっと久しぶりかも。
名前ではちょくちょく呼ばれていたりしたけど、なんだか過去の人化しつつあったから、出てきて良かったです←
蒼翌は今後も盛り上げていってくださいね(ぇ)。