カイナシティでコスモ団の刺客ミラとアルゴルを退けたハルナ達。新たな仲間スパの故郷フエンタウンを目指して旅立った。その道中、一行は深い山道の中間に差し掛かっていた。


「この山道を抜ければ中間点のキンセツシティだ。そこから更に北上する。フエンに帰るのも久しぶりだな」

「フエンタウンって温泉郷だよね。楽しみかも」

(温泉……ハルナと温泉っ……!)


スバルの想像力が高まり、鼓動が早くなっていく。今、彼は頭の中に湯煙の中で自分に手を振るハルナの姿をはっきりと形作っていた。もちろん体にタオルなど巻いてはいない。殆どの温泉ではタオル着用不可なのだから。


「あれ、スバルくん顔真っ赤だよ?どしたの?」

「いや、何でもない……」


温泉と聞いて男の顔を赤くするものはたいてい想像がつきそうだが、ハルナは気付いていないのか。ふと、下の方で何か騒がしい物音が聞こえた。横道から見下ろせるかなり下の道で一人の女性が何かに襲われている。青白く長い体を持ち、小さな翼のような耳、首には水晶玉が付いていた。


「あのポケモンは、ハクリュー?この辺りに棲息してるとは聞いた事がないが……」

「という事はトレーナーが?」

「助けなきゃ!」


ハルナは横道に飛び込むと、一気に駆け下りていった。生い茂る草や木をよけながらあっという間に女性の元までたどり着く。とてつもないバランス感覚だ。男達はしばし黙ってその様子を眺めていた。


「……アニキ、ここ駆け降りて行けるか?」

「アニキって何だよ。ハルナの小さな体とあのバランス感覚だから何事もなく下りられたんだ。俺達だったら無事は保証できないな」


急いで駆け下りて大怪我したら洒落にならない。男達は安全に急がば回れコースをとる事にした。つまり道なりだ。かなり時間がかかりそうだ。


「ハルナっ無事でいろよ!」










ポケットモンスター コズミックファンタジー

7th 魔女とドラゴン










一足も二足も早く現場に到着したハルナは女性とハクリューの間に立ち塞がった。 トレーナーの姿は見えない。


「お願いだからおとなしくしてっ!」


だがハクリューはハルナの説得を聞く様子はなく、その鎌首をもたげた。


「やるしかないねっ!お姉さんは下がってて!」

「あ、うん……」


女性を下がらせ、ハルナはボールを取り出した。女性は手近にあった木の後ろに隠れる。


「お願いっヌマクロー!」


現れたヌマクローはダッシュでハクリューに駆け寄り、手に冷気を込める。龍は寒さを苦手としているのだ。ハクリューも龍=ドラゴンの属性を持っている為同様だ。


「冷凍パンチっ!」


冷気の拳でアッパーを繰り出したヌマクロー。ハクリューはもたげた首を後ろに倒しひっくり返って動かなくなった。


「やった!」

「あ、ありがとう……助かったよ」


女性がハルナのところへ歩み寄る。彼女は穏やかそうな顔をしており長い茶髪。ロングスカートで肩にストールを巻き付けている。


「大丈夫ですか?怪我は?」

「大丈夫だよ。それより君があんな高いところから駆け下りて来た事の方が驚きさ」

「いやー助けようと思って夢中だったから。スバルくん達遅いなあ。早く駆け下りてくればいいのに」


並の人なら夢中でも出来る事ではない。それに気付いていないらしい。改めて見上げるハルナ。下りて来た道が随分上に見える。


「友達かい?」

「はい!私はハルナです!セクシーアイドルトレーナー目指してます!」


ハルナは誘惑ポーズをしてみせた。女性は笑いながらその姿を見つめる。


「ふふ。ボクはソウコ。歴史研究家さ」

「研究家さんですかー。どういう仕事をしてるんですかー?大変ですかー?」


まるで社会科見学に来た児童が工場のおじさんにするような質問を投げかけるハルナ。ソウコはにっこり笑って答える。


「古文書を解読したり各地の遺跡を調査するんだ。大変だけどやり甲斐があるよ。皆が知らなかった事実が解明されたり、それまで正しいと思われていた事が覆ったりするんだ。本当にワクワクするよ」

「へえー……」


ハルナはただ口を開けたまま聞いている。興奮気味に話し続けていたソウコだが今度は少し表情を曇らせた。


「ただ……その事実を自分達の都合のいいように解釈して利用しようとする者達はいつの時代にも必ずいる」

「もしかして、コスモ団……?」

「コスモ団?……!ハルナ危ないっ!」


突然ハルナを突き飛ばすソウコ。それまでハルナが立っていた場所を狙って矢が飛んで来た。深々と地面に突き刺さる。


「ひっ……ひゃああ」


ハルナの背筋に悪寒が走り、顔に縦線が入る。ソウコが突き飛ばしてくれなければ射抜かれていただろう。恐る恐る矢の飛んで来た方向を見るとそこにフリルをちりばめたゴスロリ服を着た小柄な少女が立っていた。黒い髪をツインテールにし、右手に弓を持っている。右腕には腕章。模様は渦巻きだ。


「コスモ団っ!」

「私の弓矢……かわした……」


正確に言えばかわしたのではないのだがそんな細かい事は今はどうでもよかった。


「ハルナっ。この子だよ。さっきハクリューを使ってボクを襲ったのは」

「自分達の考えを全ての人々に押し付けようとする悪の組織!私達は奴らを倒す為に旅をしてるの!ソウコさんは下がってて!」


ハルナの言葉に少女はやや苛立った顔をしたようだが微かな変化だったのでわかりにくい。元から無表情なのだ。弓を背中にかけた。


「無謀にも少人数でコスモ団に戦いを挑んだ少女。こんなところで会えるとは。ハクリュー。やられたふりはもういいです。起き上がりなさい」


その場に倒れていたハクリューがむくっと起き上がった。ダメージもそれほど受けていないようだ。驚くハルナ。


「あっ、どうして……」

「うふふ。あなたに私は倒せません。後ろに隠れた彼女を渡しなさい」

「やだよ!やってみなきゃわからない!ヌマクロー、マッドショット!」


ヌマクローの口から泥の弾丸が打ち出されるがハクリューは紙一重の動きでかわしていく。


「水鉄砲!」


やはり同様に紙一重の動きでかわすハクリュー。攻撃が全く当たらない。


「わかりました?柳のようにしなやかな動き。敵の攻撃を紙一重でかわし、受けたとしても流れるように衝撃を最小限にやわらげます」

「これじゃあどんなに攻撃しても倒せない……」


ハクリューの防御能力に怯むハルナ。少女がうっすらと微笑む。


「ではこちらから行きますよ……!」


尻尾を腕のように振るい、ヌマクローにたたき付けた。テールナックルとでも言おうか。ヌマクローは両腕を交差させてガードするが、腕に強い衝撃が走る。


「あの細い体でなんてパワー……でも今なら当てられる!フロストクロス!」


ヌマクローの両腕が冷気を帯び始める。ハクリューの尻尾が直に触れている為これなら確実にダメージを与えられるはずだ。だが触れているだけでは大ダメージにはつながらない。


「フロストフラッシャー!」


腕に込めた冷気を一気に前方に放つ。冷気は輝く光線となってハクリューを撃ち抜いた。


(へえ……冷凍パンチの要領で両腕に冷気を込めてそれを光線にして放てるのか。でも……)


下がったところでハルナの様子を見ているソウコ。フロストクロス及びフラッシャーの弱点を見抜いたようだ。


「うふふ。確かに強力でした。でもそれだけの冷気を込めた腕にかかる負担も大きいはず。折れかけた腕はまだ使い物になるのかしら」


ハクリューの強烈なテールナックルを受け止めたヌマクローの両腕はその段階でかなりのダメージを受けていた。その状態でフロストクロスを使う事でヌマクローの腕は二重のダメージを負うことになったのだ。


「ごめんねヌマクロー。よけるように言っておけば……」


申し訳なさそうに歯を食いしばるハルナの方を向いたヌマクローは首を横に振った。どのみちあの勢いではよけられなかったのだ。


(ポケモンがトレーナーを自分から気遣うという事はポケモンとの信頼はかなりのものだね)

「でも、あの細い体にそこまでのパワーがあるなんてまだ信じられないよ」

「うふふ。知りたいですか?私のハクリューは既に次の進化形であるカイリューへの進化に耐えうる肉体を備えているのです。しかし進化してしまえばハクリューの時に可能だったしなやかな動きは失われてしまい、加えて小回りも利かなくなるのです。だから敢えて進化させずにいるのですよ」


親切に解説してくれた少女に合わせてハクリューが得意そうに体をくねらせる。進化出来るだけのパワーをその体に蓄えていたのだ。


「つまり、ハクリューの姿のままカイリューになってるって事?」

「少し違います。力を蓄えていてもパワーや最高飛行速度はカイリューより落ちますし」


それであの威力。カイリューの一撃だったらヌマクローの腕はへし折られていたかもしれない。


「おしゃべりはこれぐらいにしてそろそろ終わらせましょうか……!」


ハルナに歩み寄る少女。ハクリューもヌマクローににじり寄ってくる。腕を痛めているため防御体勢をとる事も出来ない。


「くっ……あなた達なんかに負けてたまるもんですか!人を殺して平和を作ろうなんて考えてる奴らに……!人間同士わかり合おうと思わないの!?」

「うふふ。何を言っているのですか?わかり合う事を拒んでいるのはあなた達ですよ。マトーヤさん」


追い詰められるハルナに対して少女の口から出た謎の言葉。ハルナの名前を間違えている……というわけではなさそうだ。


「わ、私そんな魔女みたいな名前じゃないよ」

「あなたの名前ではありません。あなた達の事です。元々この土地には我々ソクマが暮らしていた。それをあなた達が奪ったのです。彼女の研究資料があればその事実が明らかにされるのですよ」


また謎の言葉が出てきた。少女の言葉には怒り……というよりも憎悪がこもっているように感じた。だがハルナの方は身に覚えのない罪を宣告され頭の中がごちゃごちゃだ。


「たとえマトーヤでも理解のある人はまれにいるのですがあなたは違うみたいね。やっちゃいましょう」


少女が目を細めながら笑うとハクリューの体がヌマクローの体に巻き付き、逆さ吊りにして持ち上げた。


「この子を先になぶりものにしましょうか。うふふ」

「くっ……」


振りほどこうともがくヌマクローだが傷めた腕のせいで力が入らない。それを見ている事しか出来ないハルナ。だがふと何かに気付いた。


(これなら……きっと)「ヌマクローっ……」

「観念しましたか?ん……」


ヌマクローの脚に冷気が集まっていく。その脚を残った力を振り絞って思い切り突き上げたのだ。首もとの水晶にヒットしひびが入り、その衝撃がハクリューの喉を詰まらせ、力が抜ける。締め付けが緩んだところでヌマクローはそこから抜け出した。ダメージの溜まった体を押して何とか距離をとる。


「やった!成功だよ!」

「ハクリューの水晶が……砕かれた」


ガッツポーズをとるハルナを睨みつける少女。だがもう戦う意思はなかった。再び鎌首をもたげたハクリューを腕で制止したのだ。


「仕方がありません。ここは一旦退きましょう。ただし、近いうちにあなた達の繰り返してきた悪事は露見する事になります」

「だからわけわかんないって。さっきから頭ごちゃごちゃだよ」

「理解のない者でもいずれわかるようになります。また縁があったら会いましょう」


少女がハクリューの背にに飛び乗ると耳の翼が大きく広がった。羽ばたいて舞い上がり、空の彼方へと消えていく。その様子を見つめるハルナ。


「わからないよーっ!」

「ハルナ、大丈夫だった?」


空に向かって叫ぶハルナにソウコが駆け寄って来た。スプレーの付いたボトルを手に持っている。


「ありがとう助かったよ。これ消炎薬。使って」


ソウコからボトルを受け取り、ヌマクローの腕に薬を吹き付ける。かなり楽になったようだ。落ち着いたところでハルナが気になっていた事をソウコに尋ねた。


「あの子が言ってた事って本当なのかな。ソウコさんの資料でコスモ団が正しい事が証明されちゃうのかな」

「わからない。さっきも言ったけど都合のいいように解釈してるだけかもしれない。確かにホウエンには大昔にソクマ人と呼ばれた人々が住んでいて、そこへマトーヤ人が攻めて来たらしいんだけど、その辺りの資料はまだ見つかっていないしね。それに彼女の言っていたようにコスモ団がソクマの末裔とは限らない」


不確かな答えではあったが、ハルナは少し安心した。自分達のやろうとしている事は間違っていないとこの時は思えたのだ。だが大昔にそんな出来事があったとは知らなかった。


「でも、今はないんだよね。マトーヤもソクマもなくみんなホウエンの……この国に暮らす人達だよね」

「ハルナ……ん?」


遠くからハルナを呼ぶ声が聞こえてきた。その方向には男二人。ようやく追い付いたのだ。


「遅いなーもう!ハルナの活躍見せたかったのに」

「クス……早く行ってあげなよ。心配してるよきっと」


実際には二人が遅かったのではなくハルナが早過ぎたのだ。少女とのバトルがちょうど時間合わせになった感じだった。


「じゃあねソウコさん。気をつけてね!」

「ああ。ハルナ達もね」


二人の元へ走っていくハルナ。その姿を見送りながらソウコの口元が怪しく歪んだ。


「みんなホウエンの、この国の人達……か。クス……」

「甘いですわね。なくなったように見えても確かに存在しているのに」


後ろへ振り向くソウコ。そこには先程ハクリューに乗って飛び立った少女がいた。その後ろにはハクリューも。先程まで自分を狙っていた相手がいるというのにソウコは警戒する様子も見せない。


「お疲れ様。いいじゃない。そんな希望を持っていても」

「どうでした?彼女を近くで見てみたかったのでしょう?」


少女が尋ねるとソウコの目が細まり、口元が釣り上がった。ハルナと一緒にいた時の穏やかな顔つきからは想像もつかない。


「うん。いいよ。でもまだだ。もっと育つ。希望を栄養にしてね」


舌なめずりをするソウコ。その様子は獲物を目の前にした時の猛獣のようだ。だが猛獣と違うのは、彼女は獲物を育ててから食べる事を好んでいる事だろう。


「彼女が熟してボクの前に現れるか、それともその前に栄養が途絶えて枯れてしまうか、彼女次第さ。でも見てみたいよ。食べられる時にあの子の顔が希望から絶望に変わるのを」

「まあ、相変わらずグルメですわねソウコ……いえカストル様」


ソウコの事をカストルと呼んだ少女。その場に片膝を着き、取り出した腕章を差し出す。黒地に白い星のマークだ。それを受け取り左腕に着けるソウコ。その姿を見て少女が微笑む。


「嬉しそうだねヌシャバくん」

「はい。私も見てみたくなりました。彼女が絶望に堕ちるのを。さあ、戻って来る前に行きましょう」


その背に二人を乗せ、再びハクリューは飛び立つ。しばらくして先程起こった出来事を話しながらハルナ達がやって来たが既に二人は去った後。二人が実は仲間だった事など知る由もない。また、今回の出来事がハルナの心に微かな変化をもたらした事に彼女自身もまだ気付いてはいなかった。










7th 終わり










あとがきらしき文字の羅列……改め執筆後記

第7話をお読みいただきありがとうございます。さて、ここのタイトルを変更します。今のタイトルが長ったらしいというのが大きな理由です。

冒頭でスバルの頭の中に描かれたものは一行がフエンタウンに到着した際に高い確率で実際のものとなりましょう(ぁ)。入浴シーンを出さないと温泉郷に行かせる意味がありませんしね(修業は?)。

ハルナのちょっとした心境変化はもう少し後にするつもりだったのですが早めました。まあ、前倒しですな(ぁ)。

あ、今回は男どもの見せ場が殆どなかった。スバルが妄想したぐらいだ(それ見せ場か?)。

 

[アットの一言感想]

 スバルの妄想力が段々逞しくなってきました(オイ)。
 それが現実のものとなるのは、きっとすぐでしょう←

 ソウコ達はまだいずれ出会う時が来そうですね。
 その時にどうなるのか、楽しみです。

 

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