コスモ団を倒せる力を身につける為、スパの故郷であるフエンタウンにあるという修業場所を目指して旅を続けるハルナ達。その中間地点であるキンセツシティに到着した。
「結構大きな街だねー」
「東西南北に道が延びているからな。各方面から来る人達が集まって栄えた街なんだ」
「フエンタウンにはここから更に北上するんだ。ん?」
ふと壁に貼られた広告が目に留まった。近くこの街で開かれるバトル大会のものだ。皆そちらを見る。
「へえー。出てみたいかも」
「修業の一環だ。皆で参加してみようぜ」
「そうだな。……!」
広告を見ていたスパの目が一瞬点になった。
「どうしたんだ?」
「『キンセツの星・タマムシ大学卒フルドさん特別参戦』だって。スパさんこの人知ってるの?」
「ああ。前に一緒に旅をしていた事があるんだ。タマ大に合格したと言って別れたんだがな」
タマムシ大学とは、カントー地方タマムシシティにある超一流大学である。そのOBには数多くの優秀なポケモン研究者やエリートトレーナー、大学教授や大企業の社長、優れた科学者や有能な政治家もいるのだ。
「会ってみたいかも。早速選手登録しなくちゃ」
「ポケモンセンターで受け付けてるって書いてあるぜ」
早速ポケモンセンターへ走り出す二人。スパは一人広告を見つめ続けている。
「会わないうちに立派になっちまったな……」
ポケットモンスター コズミックファンタジー
8th キンセツ杯開催
ハルナ達に遅れる事およそ5分。スパもポケモンセンターに到着した。
「スパさん遅いよー」
「もう二人とも登録したのか?」
「うん!スパさんも参加するの?」
「ああ」
ハルナとのやりとりの後、スパがカウンターへ行こうとした時、入口のドアが開き、一人の青年が入って来た。眼鏡をかけたインテリそうな雰囲気だ。
「あーっ!フルドさんだ!」
「本当だ!」
あっという間にそこに人だかりが出来る。ハルナとスバルは少し離れたところからその様子を見ていた。
「……もっとかっこいい人想像してたかも。フグヤママサハルさんみたいな」
「現実なんてそんなものぜよ。エリートだから美形やイケメンとは限らんがじゃ」
ハルナは少しがっかりしているが、スバルは冷ややかだ。人真似口調はともかく言っている事は事実である。そんなフルドの周りに群がった人々は皆黄色い声を上げながら憧れの眼差しだ。
「サインしてー」
「ポケモンバトルのコツを教えてくださーい」
「ふっ。待ちたまえ。席に着いてからだ」
ミーハーなファン達に道を開けさせ席に着くフルド。それに合わせて人だかりも移動していく。
「すごい人気かも……」
「モテモテだな」
少し離れた席に着き、その様子を見学するハルナ達。遅れてスパもやってきた。
「……」
しばらくの間、フルドはファンへのサインに応じたり、質問に答えたりしていた。
「じ、じゃあ強くなるコツを教えてくださいっ」
勉強熱心そうな少年が質問をした。フルドは髪をかき上げながら答え始める。
「コンピューターを利用するのだ。私は自分のポケモンを大学にいながら育てるべき個体の選択から覚えさせる技や戦わせるポケモンも全てコンピューターの管理の上で育て上げた。各能力は完璧に近い数値が出たよ。ポケモンを強く育てたいのならポケモンゼミや一流大学に通い、その中で管理しながら育てるのだ」
ファンの間から驚きと歓声が上がる。今までにない新しいスタイルの育て方だ。しかしスバル達はあまりお気にめさないらしい。
「選択なんかしなくてもその個体にしかないものはあるはずだ。個性、つまりオンリーワンだよ。個人の好きだけどな」
「全部管理するなんてまるでポケモンが物扱いされてるみたい」
ハルナとスバルで会話をするが、小声で話していたため気付いてはいないようだ。また髪をかき上げるフルド。この仕草が癖らしい。
「大学やゼミの単位を取ればリーグ出場権も得られる。わざわざ危険が伴う旅に出る必要もなくなるぞ。誰でも安全に腕を上げられるのだ。近い将来、このやり方で鍛えられたトレーナーが全国、いや世界ランキングの上位を独占する事になる」
フルドが予言する。確かに旅には危険が付き物だ。安全という面では一理ある。そのやり方が一般的になればそれだけ上位に入る事も多くなるだろう。だが……
「俺は旅の方がいいな。旅の中でしか得られない経験がある」
「危険を乗り越える事でトレーナーもポケモンも成長するんだもんね。……あ」
声が少し大きくなってしまった。フルドがこちらを向く。今度は流石に聞き取られたらしい。しかしすぐに顔を戻して話し始める。
「頭の悪い奴らがいるようだがああいう奴らのようになってはいけない。経験は試合だけで十分積める。危険からは何も生まれないのだ」
直接は言わなかったものの確実にハルナ達の事を指している。カチンとくる二人。フルドの話はまだ続く。今度はトレーナーの心構えについてのようだ。
「常に頭も心も冷静でいる事だ。そしてタイプの相性を考え、常に戦略通りの戦いをする。理解出来るかな?スパくんとそのお友達諸君」
先程こちらを向いた時にスパの存在に気付いていたのだろう。ファンの方を向いたまま彼の名を呼ぶ。
「あの人フルドさんの知り合い?」
「その割にはなんだか知的じゃなさそうね。一緒にいる子達も馬鹿そうだし」
ファンの女性達がその言葉通り馬鹿にしたような顔でこちらを見る。先程の言葉でいらついていたハルナとスバルだが更に怒りを高める事になってしまった。
「まあ落ち着け二人とも。久しぶりだなフルド。タマ大に入ってから音信不通で心配してたぞ。しかしお前変わったな。冷めた感じがしてる」
二人の肩を軽く叩いて落ち着かせ、フルドの呼びかけに応じるスパ。対するフルドはニヤニヤしている。
「ふっ。恩師の教えのもとでポケモントレーナーやバトルのあるべき姿がどういうものかという事に目覚めたのさ。人間に必要な感情は冷静さのみ。達するべきは無我の境地よ」
ファンの間から上がる拍手と歓声。唇を噛むハルナとスバル。この場に居づらい雰囲気が漂ってきた。
「ではそろそろ行かせてもらおう。ゼミで特別講師を頼まれているのでな」
先に相手が立ち去る事となった。フルドが髪をかき上げ、席を立つと出口に向けて歩きだすが、出ようとしたところでスパが呼び止める。
「フルド。心は熱く頭はクールに。熱さしかなかった俺にお前が教えてくれた事だぞ」
だがフルドは髪をかき上げながらスパの言葉を鼻で笑った。
「馬鹿め。それが間違いだったのだ。バトルに熱い心など不要。気合いや根性だけでここまで来たお前の頭では理解出来ぬようだな。これ以上議論をする気はない」
「そーだそーだ!心なんて必要なーい!」
「あんた、頭悪いくせにフルドさんに意見しようなんて生意気よ!」
「自分の間違いに気付いてそれを認める事が出来るなんて流石フルドさんだわあ〜。あんた達も早く認めなさい!」
ファン達のブーイングが起こった。そのあまりの騒がしさにそれまでカウンターにいた受け付けのジョーイさんが駆け付ける。
「みなさーん!ケンカなら外でやってくださーい!」
まだケンカになったわけではないが、その一言にその場が一瞬静まり返る。フルドがそのうちにセンターを後にするとファン達もそれについて行き、黄色い声が遠ざかっていった。
「す、すいませんジョーイさん」
「あなた達から仕掛けたわけじゃないみたいだからいいけど、ここみたいにみんなが集まる場所で騒ぎは起こさないでね」
「わかってます。決着は今度の大会でっ!」
スバルは拳を握りしめる。その拳にはフルド達に対する怒りが込められていた。その怒りは彼だけでなくハルナも強い。
「どんなに頭良くたってあんな態度じゃ人として最低だよ!馬鹿にしたこと後悔させてやるんだから!」
リベンジに燃えるハルナ達。一方でスパはフルドが出て行った出口の方を見つめていた。
(フルドの奴どうしちまったんだ?タマ大にいた四年の間に何があったんだ……恩師?そいつがくせ者みたいだな)
大会が始まるまでの数日間、ハルナ達三人は自主トレーニングに励んでいた。一方のフルドは市内のゼミやトレーナー養成学校に呼ばれて特別講義の毎日だった。そして、ついに大会当日がやってきたのだ。
『さあ、キンセツシティ主催ポケモンバトル大会・通称キンセツ杯!キンセツ市営スタジアムからお送りしております』
スタジアムに特設された実況席から伝えるアナウンサーの隣には水色のサイドポニーテールに黄色い目のかわいい女の子が席に着いている。
『今回はゲストとしてキンセツシティジムリーダーにして今をときめく超人気グラビアアイドルのエクレアちゃんにお越しいただいております!』
『みんなこんにちはー!』
明るい笑顔で大きく手を振る女の子。あどけない顔立ちの割に相当の巨乳の持ち主だ。
『さてエクレアちゃん。今日は水着での登場じゃないんですねー』
『それじゃあ私がいつも水着着て暮らしてるみたいじゃないですかー』
バトルとも大会とも関係ない話から始めるアナウンサー。エクレアは困った笑いをしながら否定する。彼女には私生活も水着で過ごしているという根も葉も無い噂が流れているのだ。そこで大きな歓声が響き渡った。いよいよ選手入場だ。
『さあ、各地から腕に自信のあるトレーナー達が続々とこのスタジアムに入って来ます!』
『みんな頑張ってねー!』
瞬間、歓声がブーイングへと変化した。予想だにしていなかった事にエクレアは驚く。
『ちょっと!どういう事!?』
『えー、今情報が入りました。今入場しようとしている三人は大会の数日前にフルドさんに対して暴言を吐いたとインターネットの掲示板に画像付きで書き込みがあったそうです。すごい大炎上してるみたいですよ。当然の報いと言えましょう』
『そんな人達には見えないけどなー』
エクレアの視線の先にいた、もといブーイングの標的になっていたのはハルナ達三人だった。この前の言い争い未遂が原因だろうというのは三人とも感づいている。
「すごいブーイングだね……」
「この間のやりとりが曲がって広まったんだ。くそっ!」
「気にするな。そんなデマを真に受けてるのは一部の連中だけだ」
予測はしていたもののやはり腹が立つ。だが苛立ち気味の二人に対してスパは落ち着いている。と、ブーイングが再び大歓声に戻った。
『さあ!いよいよ今大会のスペシャルゲスト!キンセツシティ出身者初のタマムシ大学ポケモン学部卒業生!我が国のポケモンバトルの将来を担う存在!大天才フルドさんの入場です!!』
やたらと褒めたたえられている。他の選手達とは違う特別ゲートから現れたフルドは大歓声に対して何の反応も見せる事なくスタジアムの中央に設置されたマイクへと進んでいく。
「何あいつ?自分への歓声なのに無関心?クールぶっちゃって!」
『それでは選手宣誓をフルドさんに行っていただきましょう!』
大会を正々堂々と戦い抜く誓いの言葉だ。フルドはマイクを手に取る。だがしかしその口から出た言葉にハルナ達三人とエクレアは呆気にとられた。
「ふっ。いいか諸君。ポケモンバトルは理論だ」
フルドの話が始まると歓声は落ち着き、話に聴き入る。宣誓ではなく演説になっているが観客の誰もそれを指摘しない。
「理論的にゲットし、理論的に育て、理論的に戦う。私がこの大会で優勝し諸君らのバトルの手本となろう。いいか。優勝するのは私だ。100%必ずだ」
マイクを置くと再び割れんばかりの大歓声が巻き起こり、フルドコールが上がる。演説から今度は優勝宣言に変化していた。
『さあ、フルドさんの選手宣誓がかかり、盛り上がってきました!』
『え?どこが宣誓?ええ?』
『さあ、ここで大会のルールを説明させていただきます。参加者は三つのブロックに分かれて勝ち抜き戦を行い、各ブロック一人がベスト4に進出します。そこで特別シードのフルドさんを含めて決勝トーナメントが始まります』
『バトル形式は1対1の5分間。決着が着かない場合は審判による判定になりまーす。また、大会の間はバトル中のポケモンの技や能力による効果を除き回復させる事が出来ません。どのポケモンをいつ出すかも重要ね』(これって完全にフルド有利じゃん?)
ルールが書かれたボードを前に出しながらアナウンサーとエクレアが説明する。顔では微笑みながら心の中で密かに呟くエクレアだがその事実に気付く観客は誰一人としていない。
「私はCブロックでスバルくんがAブロック」
「俺がBブロック。見事にみんな分かれたな」
「好都合だな。この中の全員が決勝トーナメントに勝ち上がり、誰かがあいつを倒す!」
スタジアムの電光掲示板にアップで映っているニヤついた顔を指差すスバル。彼に有利なルールの中で勝利を掴む事を誓った。
『さあ、Aブロック第一回戦が始まろうとしています!そして実況席にはフルドさんをお迎えしています。よろしくお願いします』
『ふっ。解説してやろう』
アナウンサーとエクレアの間にでんと座っている。エクレアは笑顔だが心の中では既に彼を拒絶していた。
『よ、よろしく……』(やだなこの人……)
バトルの方はいきなりスバルの登場だ。やはりブーイングの嵐。対戦相手はフルドに似たニヤついた男だ。スバルが出したのはサボネア。男はオレンジ色の体に翼を生やした竜だ。尻尾に炎が燃え盛っている。
「……どうも今回はニヤついた奴と縁があるみたいだな」
「私はフルドと同じやり方を奴より先に実践していたのだ。奴を倒し私が奴に取って代わる。お前はその踏み台だよ。リザードン、オーバーヒートだ」
竜の口から激しく燃え盛る炎が吐き出された。サボネアはそれをギリギリまで引き付けてからジャンプしてかわす。
「オーバーヒートはもっと全身から力を振り絞って出すんだ。いくら名前だけ変えてもこの技は火炎放射だよ。まあ、威力は公式平均を上回ってるみたいだけど」
「な、なにを言うか。この技はオーバーヒートだ」
うろたえる相手トレーナー。サボネアが体を回転させながら両腕を振り上げた。リザードンの頭上に思い切り振り下ろす。
「仙人掌戦槌(カクタスハンマー)っ!!」
その腕がリザードンの脳天を直撃。脳震盪を起こさせた。その場に崩れるリザードン。気絶して戦闘不能だ。相手トレーナーは開いた口が塞がらない。
「ば、ばかな……」
『あーっと一撃!不利な相性を覆してスバル選手の勝利!』
『ガードの甘い脳天を狙い、更に落下の威力をプラスしたのね。それなら体格差も覆せるわ』
『サボネアの攻撃力で草タイプの技、それでリザードンを一撃など有り得んな。八百長としか思えぬ』
髪をかき上げながらの解説に唖然とするエクレア。実況席からその解説があっという間に観客席全体に広がった。四方八方からスバルに罵声が浴びせられる。
「この卑怯者ーっ!」
「八百長するなんてトレーナーの恥を知れーっ!」
「反則負けだーっ帰れーっ!」
しかし観客の言い分で結果は覆らないし、なにより八百長の事実は全くない。スバルは彼らに対して苛立ち気味のままサボネアをボールに戻し、足早にフィールドを後にした。
『しかし荒れた試合になりましたねーフルドさん』
『ふっ。捨てておけ。いくら八百長で勝ち上がっても私には通じぬ。断罪してくれよう』
荒れたのは試合そのものではなく試合後なのだが。しかし荒れようが何だろうが大会は続く。優勝するのは本人の宣言通りフルドとなるのか。それとも誰かが彼を打ち負かせるのか。
8th 終わり
執筆後記
第8話をお読みいただきありがとうございます。さて、今回はコスモ団との戦いから少し離れてシティ主催のミニ大会を開催しました。……実況とか解説とか入れるのめんどいです(こら)。
今回登場のキンセツシティジムリーダー、エクレアちゃん。グラドル並みの体型の子はたくさんいるけど正真正銘のグラドルは初めてですな(←どうでもいい)。ちなみに原作でリーダーだったテッセンさんとの血縁はありませんf^_^;
[アットの一言感想]
そう言えば本当に、このポケFや作品の世界内でのグラビアアイドルが登場する事は、あまり無いですね。
素質だけなら十分な娘ばかりですg(ry
旅が良いか、理論を学ぶのが良いかは、どちらも一長一短だと思います。
その意味では、ハルナ達も理論一本筋なフルドに否定的になるだけでなく、その強さも学びとってほしいですね。
少なくとも、相応に人気が出るだけの実力はあるみたいですし。