フエンタウンへ向かう旅の途中キンセツシティで開催されるバトル大会に参加したハルナ達。そこにはスパのかつての旅仲間だったというフルドも特別シードとして参加していた。それぞれ別のブロックに分かれたハルナ達は決勝進出を目指して激しいバトルを繰り広げる。そしていよいよベスト4が決まろうとしていた。










ポケットモンスター コズミックファンタジー

9th リベンジャーたち










『Bブロック最終戦!超高速のテッカニンをコータスが一歩も動かず狙い澄ましたのしかかりで一撃撃破!スパ選手の勝利でベスト4進出です』

『36点。タイプで有利なのに弱点を突いていない』


鳴り止まないブーイングの中、オレンジの体に黒い甲羅のカメ型ポケモンの腹の下に黒光りする体のセミ型ポケモンが目を回して倒れていた。










『Cブロック最終戦もいよいよ佳境!水を呼んで波を起こしたニョロボン!波乗りで突撃だーっ!』


腹部に渦巻き模様を持ち、青黒い筋肉質の手足を生やしたオタマ型ポケモンが波の上からサニーゴに迫る。


「サニーゴっ、今だよ!」


足元から珊瑚が突き出し、サニーゴを乗せて上まで運んでいく。そして波の上に跳び移った。


「体当たり!」


ぶつかった勢いでニョロボンは波から突き飛ばされ、地面に落ちて気絶した。あべこべにサニーゴが波に乗ってはしゃいでいる。


『決まったー!Cブロックからはハルナ選手がベスト4進出!』

『23点。相性というものを考えないポケモン選出。これは相手が弱点を突かないという指示ミスによる勝利だ』

『点数付ける意味あるの?』


バトルシーンこそカットされているものの既にスバルもベスト4進出を決めている。狙い通り三人とも勝ち残ったのだ。


『いよいよベスト4ですが、フルドさんに暴言を吐いた人達が全員残りました。それについてはいかがでしょう』


バトル中の実況は公平だったがその合間の会話はフルド寄りだ。だがフルドの態度は変わらない。髪をかき上げるお決まりの仕草を見せる。


『だから何だというのだ?誰が相手だろうと優勝するのは私だ。100点のバトルを見せてやろう』


フルドの優勝と100点宣言に観客席は大きく沸き上がり、またフルドコールが鳴り響く。


「今に見てろよ。あのニヤついた顔を泣き顔にしてやるぜ」

「ふふーん。それはハルナにお任せだよv最初にあいつと当たるのは私だからね」


ニッコリ笑いながらVサインをするハルナ。一方でスバルはスパに向き直る。


「カイナでは負けたが、今回は勝つからな」

「よし!全力で来い!」


こっちはこっちで火花を散らしていた。スバルはカイナのバトル施設で負けた事がよほど悔しかったのだろう。


「ハルナだってまだ二人に勝ってないんだからねっ!リベンジしたいのは同じだよ!」

「どっちが勝ってもハルナはリベンジマッチか。あんな奴に負けるなよ」

「うん!」


三人はお互いの手を重ね合い、健闘を誓った。まずは準決勝第一試合。スバルとスパのバトルだ。










鳴り止まないブーイングの中、フィールド上では激しいバトルが繰り広げられていた。スバルのイーブイとスパのブースター。同族対決だ。


「イーブイ、連打だっ!」


突き出された前脚の素早い連打をブースターは掌で受けていく。


「今だっ!アイアンテール!」


硬質化した尻尾の横一閃がブースターを捉える。しかしそれも体をすり抜けるようにかわされてしまう。


『イーブイ渾身の一撃をブースターはまるで幽霊のようにすり抜けたーっ!』

『席から離れててよく確認出来ないけど、見切りに近い技かしら。フィニッシュまで誘ってカウンターを狙ったのね』

「やっぱり当たらないか……」


以前のスバルとのバトルでも見せていた謎の防御術。あの時はかわされた直後の反撃でヘイガニは大ダメージを受けてしまったのだ。


「隙を作るなイーブイ!そのまま後ろに跳ぶんだ!」

「ブイッ!」


振りを止め、すぐさま後ろに跳ぶイーブイ。かなりの瞬発力だ。スバルのイーブイは人の言葉を話す事が出来る。もちろん既にスパにも教えてあるのだが、人が大勢集まる場所では話さない。珍しさから騒ぎになるからだ。特に今回はスバルが悪者になっている事もありどんな言い掛かりをかけられるかわからない。


「ブースター、炎の渦で逃げ道を塞ぐんだ!」


口から吹き出された炎が渦を巻き、それがいくつにも分かれてイーブイの背後に回り込んだ。


「くっ……これじゃ距離を置けない」(流石だなアニキ。カウンターを狙える一撃をこちらが放つしかない状況を作りだそうとしている)

「さあどうする?」


ブースターがじりじりと距離を詰めてくる。左右も後ろも炎の渦だ。


『イーブイ万事休す!』

「イーブイ!上だ!上に跳び上がれっ!」


逃げ道は一箇所しかなかった。高く跳び上がるイーブイ。だがそれがスパの狙いだったのだ。


「狙い撃ちだ!火の粉!」


空中では地上のように自由な動きでよける事は出来ない。火の銃弾がイーブイを狙い撃つ。










その頃、ハルナは控え室のテレビから試合の様子を見ていた。と、ドアを叩く音がする。


「だ、誰?」

「私だ。開けよ」


フルドの声だ。突然の来訪に警戒するハルナ。席を立たない。


「あ、開ける理由なんてないよ」

「ふん。スパに似て馬鹿な奴だ。ならばここから伝えよう」


声色からして機嫌を悪くしたようだ。勝手に来て拒まれてそれはないよとハルナは思ったが口には出さなかった。話がややこしくなるからだ。


「悪い事は言わん。私との試合、棄権しろ」

「は?」


ハルナは耳を疑った。まさか対戦相手の控え室に棄権を要求しに来る者がいるとは。


「何言ってるの。棄権なんてするわけないじゃない」

「物分かりの悪い女だ。理由を教えてやろう。いいか。貴様は私には100%勝てぬからだ。一方的に負けて恥をかく前に棄権すべきと忠告してやっているのだ。その優しさがわからぬのか」


わからない。人を罵倒する言葉と高圧的な物言いにはどこから考えても優しさのかけらすらハルナは感じ取る事は出来なかった。


「もうひとつ。私の女にならぬか」


反論しようとしたところで次に来た一言にハルナは言葉を失った。驚きより呆れの方が大きかったが。


「私はこの大会での優勝を足掛かりにランキングを上げ、世界大会の出場権を得る。もちろんそこでも優勝だ。わかるか?私と恩師のバトル論で世界大会を優勝する事すなわちそれが世界一だと証明される事」

「へえー」


わざと間延びしたような言い方で反応するハルナ。フルドの話はまだ続く。


「そうなれば誰もが我々のやり方を始めるだろう。世界一のやり方をな。コンピューターの管理の元でポケモンを育て上げ、旅に出る事なく大会に出場するようになる。従って各地のジムもリーダーもなくなる。トレーナーの新しい時代の幕開けだ。まずはこのキンセツの者達よ」

「そう簡単に変わるかなー」


本当にそうなれば確かに時代は変わるだろう。それまで当たり前に存在していたものがなくなるのだから。だがそれが本当になくなるのかハルナは懐疑的だ。そんなハルナの心の中など知る事なく続くフルドの話。


「そしてそれまでの古い考えを貫こうとするトレーナーは淘汰されいなくなる。スパもあの八百長男も時代遅れと後ろ指を差されながら消えていくのだ。消えるとわかっている中に留まる理由はあるまい。お前には見所がある。だから声をかけてやった。トレーナーの歴史が変わるところを見ようではないか」

「馬鹿言わないで。私はあなたのやり方には賛成できないし、ましてあなたと結婚するつもりなんてないよ」


きっぱりと断りを入れるハルナ。例え新しいやり方が生まれてもそれに乗るかどうかかは本人次第なのだ。第一好きでもない男と結婚なんて考えられなかった。


「勘違いするな。結婚ではない。お前はペットだ」


ハルナは再び自分の耳を疑った。聞き間違いではないかと。だが次の言葉で聞き間違いなどではない事がはっきりした。


「私が結婚する相手はタマ大理事長の孫娘だ。間もなくまとまる。私の優れたDNAを次の世代に引き継ぐにはそれぐらいの女でないと釣り合わぬ」


DNAを引き継ぐ為……その為の結婚か。彼にとって女とはそれだけの存在なのだろうと呆れたハルナの心に次の言葉が深々とナイフを突き刺す事になる。


「見所とは別にお前のトレーナーとしての実力ではない。体だよ体。お前のような田舎娘にはそれしか価値がないではないか。私は全てを手に入れるのだ。地位も、栄誉も、金もだ。そんな私に飼われるのだぞ。光栄に思わぬか牝豚」

「お、思わないよっ!地位とか栄誉とかお金とか、そんなもので私の心は動かない!私もスバルくん達も、自分のやり方でトレーナーを続ける!」


度重なる傲慢な態度に加えて最後の一言が決定打となった。とうとう怒りが爆発し、腹の底から叫ぶハルナ。女としてのプライドを傷付けられたのだ。だが対するフルド自身にその自覚はないらしい。


「ふっ。もう少し理解があると思っていたがな。後悔するぞ」


ドアの向こうから足音が遠ざかっていく。ハルナは思い切り叫んだ為息遣いを荒くしている。呼吸が落ち着いてきた頃、歯を食いしばり拳を強く握りしめる。


「くっ……」


そして一気に力が抜けた。心に深々と突き刺さったナイフが食い込んで抜けない。


「痛い……痛いよ……」










舞台は再びバトルフィールド。空中に跳び上がったイーブイにブースターの火の粉が迫る。命中と思われたその時……


「イーブイ!ムーンサルトだ!」


イーブイは体を反り返らせ、風をまとって勢いよく回り始めた。それにより起こされた風で火の粉を弾き飛ばす。


『イーブイ危機一髪!何とか火の粉を防ぎましたーっ!』

『あれだけの回転を維持できるなんて凄い身体能力だわ』

「そのまま突っ込め!」


まるで空中を転がる車輪のようにイーブイはブースター目掛けて突き進む。その一撃はまたすり抜けてしまうかに見えた。だがお互いが交差した瞬間、イーブイは微かな手応えを感じたのだ。


(当たった?)


地面に着地し、ブースターに向き直るイーブイ。見るとブースターの頬に僅かながら切り傷が出来ていた。


「かすり傷程度でダメージにもなっていないが、当たった!」

「流石だな。防御術”陽炎”を突き抜けた相手は久しぶりだ」

「やはり見切りの一種か」


頷くスパ。先程のエクレアの推測は正しかった。見切りは相手の攻撃を最小限の動きでかわす技だ。ブースターの放つ熱のゆらめきによってすり抜けるように見えるところから陽炎という名を持つのだ。


「完全に打ち破ったわけじゃない。今のはまとった風が見切りの動きを僅かに上回っていただけだ」

「この技はフエンの修業場で血の滲むような特訓を重ねて体得したんだ。簡単に打ち破られるわけにはいかないさ」


スバルの不利は変わらなかった。高速連打なら見切る時間を与えずに当てる自身はあるがそれでは決定打にはならない。先程もブースターに受け止められていたのだ。重さを乗せた一撃でなければ相手は倒せない。


(俺が勝つには……この前みたく真っ向勝負しかないっ!)

「だが今回はもう使わない。イーブイに敬意を表して真っ向勝負だ。どっちが勝っても恨みっこなしだぜ」


スバルの心を読み取ったのか、スパの方から真っ向勝負を持ち掛けた。頷き、勝負を受けるスバル。


「わかった。いくぞ」

「おう!来いっ!」


睨み合いながら飛び出すタイミングを見計らうイーブイとブースター。観客席から響き渡るブーイングの中、バトルフィールドは沈黙に包まれていた。


「行けっイーブイ!」

「突っ込めブースター!」

『両ポケモン同時に飛び出したーっ!!』


地面を蹴って突き進む二体。お互いが近付くにつれて右前脚を突き出した。それが相手を倒すフィニッシュブローなのだ。


「「行っけえーーっ!!」」


激突と同時に拳圧により砂埃が上がり、どちらの拳が先に命中したのかよく見えなかった。


『勝ったのはイーブイか?ブースターか?決勝でフルドさんに敗れるのはどちらかーっ!?』


砂埃が少しずつ晴れていく。そこにはお互いの右前脚を相手の頬に打ち込んだまま動かない二体がいた。お互いにニッと笑う。


(ボクの完敗だ。ギリギリのところで届かなかった)

(だがお前のポテンシャルはとても高い。次やる時はわからねえな。あのヘイガニといいお前の主は腕がいい)


ポケモン同士の言葉で讃え合ったところでイーブイの体がぐらつき、地面に倒れた。気を失い戦闘不能だ。


『イーブイ、ダウン!決勝でフルドさんに敗れる栄誉を得たのはスパ選手だーっ!』

『え、栄誉?』

「イーブイ、頑張ってくれたな。俺だけじゃなくお前とヘイガニ。どちらもあいつにリベンジさせないとな」


フィールドの中央まで足を運び、倒れたイーブイを抱き上げるスバル。ブーイングが鳴り止まない。



「八百長小僧はここまでかーっ!フルドさんが断罪するまでもなーい!」

「ズルとまぐれでここまで来たのに運が尽きたなー!」

「勝った方の奴も次で終わりだーっ!」



侮蔑の言葉が浴びせられる中、スバルはイーブイを抱き抱えたままフィールドを後にした。










「うわあああーーっ!!」


ハルナの絶叫と共に猛攻を仕掛けるヌマクロー。対するフルドのポケモンは椰子の木に脚が生え、三つの実が顔になっている。動きは鈍く、ヌマクローの攻撃を避ける事なく受けている。


『ハルナ選手が激しく攻めています!しかし我等がフルドさんのナッシーは動じない!当然です!フルドさんが負けるはずがありませーんっ!』

『あの子どうしたのかしら。試合前に何かあったんじゃ……』


これまで試合中の実況はほぼ中立を保ってきたアナウンサーだったがフルドが出て来たら途端に彼寄りに傾いた。エクレアはハルナの様子がこれまでと全く違う事に気付く。


「ふっ。あまりの実力差に絶望したか。知性のかけらもない目茶苦茶な戦い方だ」


「弱い奴は帰れーっ!」

「そうだーっ!いなくなれーっ!」



フルドの声に呼応するように観客席からも野次が飛ぶ。だがそれを吹き飛ばさんばかりの大きな声でハルナが叫ぶ。


「ヌマクローっ!!フロスト……」

「ナッシー、ギガドレイン」


ナッシーの体から放たれた緑色のエネルギー体がヌマクローを貫き、弧を描いてナッシーの体に再び吸い込まれる。エネルギー体がヌマクローの生命エネルギーを奪い取り、ナッシーのものとしたのだ。膝を着くヌマクロー。


『草タイプの技は水と地面タイプのヌマクローには効果は超抜群!これで決まったー!』

『いえ、まだよ!』


膝は着いたものの、ヌマクローの腕はまだフロストクロスの体勢を崩していない。ナッシーを狙い定めている。


「馬鹿な。何故倒れん」

「フロスト……フラッシャーっ!!」


冷気の光線がナッシーを貫く。寒さを苦手とする草タイプのポケモンには抜群の効果だ。だが倒れない。見た目通りのタフさだ。


「あんたなんかにっ!絶対負けないからっ!!」

「ナッシー、ギガドレイン」


再び緑色のエネルギー体がヌマクローを貫く。今度は仰向けになって倒れた。観客からも大きな歓声が上がる。


『今度こそ完全に終わりでしょう。フルドさんの決勝進出です!』

『いえ、まだ立つわ!』


ふらつきながらも立ち上がるヌマクロー。フルドは顔には出さないが苛立っている。先程のやり取りでわかった苛立った時の声と同じ声だったからだ。


「何故だ。何故立てる。草タイプの技に対して弱い二つのタイプを持つ場合ダメージは四倍になるはず。しかもナッシーのタイプとも合って六倍だ」

「そんな、そんな数字じゃバトルはわからないよっ!」


ハルナが叫ぶ。だがその叫びにもフルドは髪をかき上げながら嘲笑うだけだ。苛立っていてもそれは忘れない。


「馬鹿め。バトルを測る物は何か教えてやろう。それは理論的なバトルを行える頭脳。それを実行できる冷静さ、そして全てのポケモンを数値と記号に置き換えて見られる目だ。この世に存在するありとあらゆるものは数値と記号で説明できるのだからな」


「そうだーっ!この世は数値と記号が全てだーっ!」

「お前も早く認めろー!」

「みーとめろ!みーとめろ!」



観客席の一角から始まったコールはあっという間に観客席を一周し、全体に広がった。会場が共鳴しているのが感じ取れる。


『フルドさんの素晴らしい知性に観客席全体から認めろコール!これはハルナ選手認めるしかないでしょう』

『これはきついわね……』

「ハルナ……飲み込まれるなよ」

(今まではブーイングだけだったが今回は加えてフルドも責めてくる。精神的に追い詰められてしまわなければいいが……)


スバル達も心配そうに見守る中、ハルナは頭を抱えた。共鳴したコールが頭の中に流れ込み、心を無理矢理飲み込もうとする。


「どうした。早く認めろ。そうすれば楽になる。ブーイングからも解放されるのだ。私に対する数々の無礼も許してやろう。これが最後の誘いだ。私を認め、共に来い」


ニヤつきながら手を前に差し出すフルド。それをじっと見るハルナ。目が合った。


「う、う、う……認めるっ……」

『ついに認めましたーっ!』

「ハルナ……!」


唇を噛むスバル。ニヤつくフルド。だが次の瞬間。


「……わけ、ないじゃない!!」


フルドの目をまっすぐ見ながらハルナは叫んだ。同時にヌマクローが地面を蹴って走り出す。


『ハルナ選手まだ逆らう!なんと強情な人でしょう!』

『まあ、強情と言えば強情ね』(いい意味でね。この雰囲気の中で飲まれずに自分の意思を貫けるのは大したものだわ)

「信じていたぜハルナ」

「よく耐えた」


ホッと胸を撫で下ろすスバル。もはや確実に飲まれるだろうと思っていたフルドは不満そうに軽く舌打ちをする。初めて目に見えた不快感だ。


「認めぬというのか」

「人の考えは強要されたり流されたりして認めるものじゃないもの!」


ジャンプしたヌマクローがナッシーの胴体目掛けて力いっぱい頭突きをくらわせる。フルドは表情こそ大きく崩さないまま更に不機嫌になっていた。


「愚かしい。万死に値する。ナッシー、ギガドレイン」


苛立ちに声を荒くして指示を出すフルド。三たび緑色のエネルギー体がヌマクローを貫く。だが倒れない。息を荒くしながらも両足を地面にしっかり着けて立っている。


「さっきからギガドレインばっかり。それしかできないの?」


吹っ切れたのか挑発する余裕さえ見せるハルナ。だがフルドは乗らない。髪をかき上げて切り返す。


「馬鹿め。いいか。ナッシーは素早さの数値が低い。先手を取られる事が殆どだ。他にもエナジーボールやリーフストームなど強力な草タイプの技はあるが敢えて威力こそやや落ちるが体力を吸い取るギガドレインを選択したのだ。相手の攻撃に耐えた後に体力を回復出来るようにな。これがポケモンの能力値まで入れた理論的思考というものだ」

「私は信じない。私は信じないっ!まるでロボットみたいに、ポケモンの心まで数値で測れたりしないものっ!!」


二人の信念の応酬だ。お互いに一歩も譲らない。だが観客は大多数がフルドに同意しているのは火を見るよりも明らかだ。



「俺はフルドさんに賛成だ!」

「私もよ!タマ大卒のエリートが間違った事を言うはずないもの!」



有名大学を出たエリート中のエリートと、アイドル志望の田舎娘。履歴の差でここまで支持は分かれるものなのか。勝ち誇るように髪をかき上げるフルド。


「ふっ。多数決だ。お前の負けだよ」

「ヌマクロー……マッドショット!」


一瞬で放たれた泥の弾丸はナッシーのすぐ横をかすめていった。


「ふっ。残念だったな。だがたとえ当たったとしても地面タイプの技はナッシーには効果はいまひと……ぶっ」


ナッシーから外れた泥の弾丸はフルドのニヤついた顔に見事に命中した。


『あーっとこれはアクシデント!フルドさんの顔に泥が……』

『あらまあ……』(偶然にしちゃ出来過ぎだわ)

「……ギブアップ」


突然の出来事に観客達さえも静まり返る中、ハルナが呟く。それを聞くが早いかまた観客達は騒ぎだす。



「あいつフルドさんに屈したぞー!フルドさんの勝ちだー!」

「泥に汚れたフルドさんのお顔を拭いてさしあげたいわー!」


『ここでハルナ選手ギブアップ!最初からわかりきった事ですがフルドさんの決勝進出でーす!』

『賢明な選択ね。今のあの子の状態じゃ勝てないでしょうし』


観客席全体が浮き上がるような感覚に包まれ、歓声とフルドコールが上がる。それには目も耳もくれずナッシーをボールに戻したフルドは黙ってバトルフィールドを後にした。


「ハルナ……」


立ち尽くしたままのハルナを心配そうに見つめるスバル達。ヌマクローが歩み寄っていくのが見える。


「うっ……くっ……ヌマクロー……」


ハルナを励ますように彼女の体を叩き、ガッツポーズをして見せるヌマクロー。ハルナの顔が緩み、徐々に笑顔が戻ってくる。


「ありがとうヌマクロー。負けたのは悔しいけどお前も一緒だよね。次は絶対に勝とう。勝とうねっ」


ヌマクローを抱き上げ、頬を寄せるハルナ。その様子を見てスバルはほっとする。


「負けたけどよく頑張った……一時はどうなる事かと思ったよ。さ、ブーイングが戻ってくる前に引き上げようぜ」


バトルフィールドに背を向けたハルナに手招きするスバル。それを見ながらスパは考え込む。


(フルドはあんな風に相手を精神的に追い込むようなやり方はしなかった。やはり変わり過ぎている。あいつの言っていた恩師とは一体……?)










控え室に戻ったフルドは、両手で壁を思いきり叩いた。これまで観衆に見せていたのとはまるで違う怒りに震える表情だ。


「くうう……何故だ。何故あのような無礼者にてこずらねばならぬ。許さぬ。許さぬぞ」

「クク……人間に必要な感情は冷静さのみ。怒りにかられてはいけません」

「誰だ。鍵のかかったこの部屋に一体誰が……」


鬼の形相でフルドが振り返った先には一人の男が立っていた。黒いヨレヨレのスーツを着てボサボサで肩にかかる程の白髪。頬はこけており肌は蒼白。大きな目に小さな瞳の三白眼が不気味だ。


「元気でしたか?フルド君」

「あ、あなたは……我が恩師、マゼラン教授?」










9th 終わり










執筆後記

第9話をお読みいただきありがとうございます。さて、キンセツ杯の二回目。後半の二つのバトルはどちらも同じテーマを軸にして書きました。同じ相手に二連敗したくないスバルと先輩として負けるわけにはいかないスパ。気持ちを大事にするハルナと理論こそ全てのフルド。どちらも”ぶつかり合い”です。ぶつけるものは違いますが。


合間に入れる実況と解説が相変わらず面倒です。加えて観客からの野次も多いので前回以上に大変でした。せっかく登場させたのにエクレアちゃんも目立たなくてごめんなさい。


黒白発売前に今回の話を書き上げるつもりだったのがあれこれと手直しをしているうちに発売されちった。ゼクロムかっこよすぎでベルかわいすぎでもーっ!(何)
それはさておき着地点がぶれない程度に新ポケモンもちょろちょろ出すかもしれません。攻略本が出回り始める頃から、ね。

 

[アットの一言感想]

 大丈夫。更新遅いせいで、すでに白黒攻略本発売されてます!
 ……ごめんなさいorz

 スバルとハルナはどちらも敗退のようです。
 ハルナが我を忘れてポケモンに無理させ過ぎないかが心配でしたが、きちんと引き際は見極めたようですね。
 次回はいよいよ、スパvsフルドの決勝戦。
 そしてフルドの恩師なる人物も登場し、何やら雲行きは怪しい様子。

 しかし、そんなに理論的なバトルをしてるなら、女ももっと理論的に口説けば良いのに←

 

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