フエンタウンに到着したハルナ達は修業場を預かるジムリーダーのカルラから使用許可を得る事が出来た。彼の案内で修業場に向かう二人。フエンから煙突山の山頂へと延びる通称デコボコ山道を登っていく。足場が悪く険しい道を進むと巨大な岩壁に行き着いた。自然の創造物のそれに明らかに人工的に造られた重々しい扉がある。
「これが入口だ」
幾重にもかけられた鍵を外していくカルラ。最後に扉を両手で引くとハルナ達も感じられる程の気が溢れ始めた。
「こ、これは……」
「入るぞ」
カルラを先頭に中に入るとそこはバトルフィールドと同じぐらいの広さだった。そこへ凄まじい高温と圧力が彼等を襲う。
「ひゃっ……!」
「立っているだけでも一苦労だな……」
「ここは太古の時代、犯罪者や部族間の争いで捕らえた敵を拷問する為に使われた牢獄だ。この山にいくつもある洞窟の中でも山の中心にあるここには何らかの力によるエネルギーが常に充満していてこの高温と高圧を生み出している。それをそのまま修業場として代々利用しているのだ。ジムの管理のもとな」
その中でも何事もないようにしっかり立ったまま話し始めるカルラ。彼もかつてはここで鍛えていたのだろう。
「並大抵の者なら入って一時間もしないうちに音を上げる危険な場所だ。それに邪な心を持つ者に使わせるわけにはいかない。だから使用するのにリーダーの許可を必要としているのだ」
確かにこのような場所を誰にでも開放するわけにはいかないだろう。フエンタウンのジムリーダーはジムだけでなくここを守る責任も背負って来たのだ。
「この中で外と変わらないようなバトルが出来るまで慣れれば今の全力が2割ぐらいの力で出せるようになるはずだ。コツは自分達で掴め」
「わかりました。始めようハルナ!」
「うん!」
奥へと足を進める二人。だがその歩みは遅い。ガニマタというか四股を踏んでいるようになってしまっている。男はともかく女の子のそれはあまり想像したくない。
「くっ……」
「まずはこの環境に慣れないとね……」
この場所は言ってみれば自然の矯正ギプス。耐えきれれば大幅なパワーアップに繋がるはずだ。
「完了したら降りて来い。期待しているぞ」
そういい残したカルラは修業場を後にし、扉を閉めた。残された二人は改めて気合いを入れ直す。
「よし、始めるぞ!」
ポケットモンスター コズミックファンタジー
17th 狙われた美少女
カルラがジムの敷地内にある自宅に戻って来るとスプリが駆け寄って来た。
「おかえりなさーい」
「ただいま。スパはどうした?」
「一人で練習するって行っちゃったよ。もうちょっとゆっくりおしゃべりしたかったなー」
そんな事を言うスプリの表情は満足げだ。本当はたくさん話をしたのだろう。と、そこで音楽が鳴る。男の渋めの歌声だ。
「メールか」
自分のポケモン図鑑を取り出して開くカルラ。その受信メールボックスを開く。
「ねえリーダー。メール着信音変えようよ。アニソンがいいなアニソン。魔法少女マドンナ☆マジかのOPとEDがいいんだよー」
「何で俺の着信音をお前好みに変えなきゃならんのだ。俺はナカブチのままがいい。いい曲なら自分で落とせ」(魔法少女でマドンナ?しかもマジだと?どういうアニメなんだ……)
スプリの提案を退けつつ届いたメッセージに目を通す。
「なんだったの?」
「知り合いからだ。久しぶりに会いたいと書いてある。流星の滝で、か……」
流星の滝はホウエン地方の北西に位置している。太古の時代が今に残る自然の遺産なのだ。
「明朝早く出るからな。留守を頼むぞ」
「はーい。お土産はマドンナ☆マジかのDVDがいいなー」
「またそれか。アニメショップに行くんじゃないんだぞ」
流星の滝にはアニメショップはない。それどころか他の店もない。自然のままに残されているのだ。
「そうだスプリ」
「なーに?」
カルラが思い出したように取り出したモンスターボールをスプリへと放り投げた。
「お前のポケモンだ。ジムのフィールドは自由に使っていい。学校から帰ったら練習をしているんだぞ」
スプリはまだ9歳の小学三年生。本来はポケモンを持てるのは10歳を迎え、小学校を卒業してから(ちなみにこの国の小学校は四年制である)。だがしかし例外があるのだ。
「はーい。あたしも再来年にはユースからトレーナーかー」
ユースとは言わばトレーナー練習生だ。まだ自分のポケモンを持てない年齢でもジムリーダーなどの門下で学んだ上で(もちろん小学校に通いながらだ)、リーダーの責任で所持を認められるというもの。ただし持てるポケモンは初心者用の一体のみで世話以外は基本的にリーダーが預かる、他のポケモンをゲットしてはいけない、バトルするにもリーダーの許可が必要でありそれも原則ジム内である事等の規則があるのだ。数年前に始まった制度で、早くから経験を積ませる事でトレーナーレベルの底上げに繋がると期待されている。
「俺が帰って来たら稽古をつけてやろう。それまでしっかりやってろよ」
「はーい」
その翌朝……
「戸締まりオッケー。行ってきまーす」
誰もいないジムに挨拶し、鞄を持ったスプリは学校へ向かう。服のポケットの中には先日カルラから受け取った自分のモンスターボールも入っている。自分の責任でポケモンの世話もしなければならないのだ。
「おはよー」
「あ、スプリちゃんおはよー」
道中で友達やクラスメイトと挨拶を交わし合いながら学校へと急ぐ。
「おっはよーモモカちゃーんっ!」
ピンク色で軽くソバージュがかかったセミロングの髪をした女の子の肩を叩くスプリ。振り返った女の子のカチューシャがキラリと光る。相当な美少女だ。
「あ、スプリちゃん。おはよう……」
急に肩を叩かれて驚いたような表情を見せた彼女だったがスプリの顔を見ると笑顔に変わる。彼女はスプリの友達の中でも一番仲のいい親友なのだ。
「一緒に行こっ!」
「うん……」
並んで歩き始める二人。ところがその途中でトラブルに遭遇する。通りかかった男がすれ違い様にモモカに絡んできたのだ。
「ねーモモカちゃーんお兄さんと遊ばない?」
実はこのような事は初めてではない。モモカはその上品な容姿やおとなしそうな印象から学校内外を問わず人気があり、中にはストーカー紛いのファンまでいるのだ。
「あ、その……でも、これから……学校……」
「先生にはちゃんと言っておくからさー。行こう?」
しかも彼女は気が弱く、なかなか拒否の態度を示せない。その間に割って入るスプリ。
「ちょっと!モモカちゃん嫌がってるでしょ!」
「うるさいチビだなーお前に用はないんだよー。ねーモモカちゃーんv」
「あ、う……」
スプリを振り払い、強引にモモカの腕を掴んで連れて行こうとする男。その時、彼の脚の間に衝撃が走った。
「うぷっ……」
スプリのハイキックが男の股間に炸裂したのだ。そこを押さえてうずくまる男。
「痛えー痛えよー」
「さ、行こう!遅刻しちゃうよ」
「う、うん……」
うずくまったままの男をその場に残し、二人は学校へと足早に向かうのだった。
いつもより少し遅れたものの遅刻は免れた二人。教室で先生の到着を待つ。
「あー朝から疲れたなー」
「あ、スプリちゃん……さっきはありがとう……」
「いやー、気にしないで!」
顔を赤くしながらお礼を言うモモカにスプリも照れてしまう。と、そこでドアが開いた。
「はーいみなさーん席に着いてくださーい」
可愛らしい声と共に出席簿を持った女の子が入って来た。ピンク色の髪をカールのかかったツインテールにしている。顔はモモカにそっくりだ。その彼女が教壇に立つ。後ろに踏み台が設置してあるらしく、小柄な彼女でも上半身まで出ている。なければ頭のてっぺんしか見えないだろう。
「起立ー、礼ー」
「「「おはようございまーすモコちゃん先生ー」」」
「はーいみなさんおはようございまーす」
日直の号令と共に児童達が一斉に挨拶する。この女の子、もとい小柄な女性がこのクラスの担任なのだ。小さいなりにタイトスカートにストッキングと若い女性教師らしい格好をしている。だがスカートは短く、ストッキングを留めているガーターベルトが覗くのが微かな色気だ。
「お知らせがありますー。今朝、うちの学校の子が怪しい男に声をかけられて連れ去られそうになる事件が起こりましたー」
教室内がざわつく。その連れ去られそうになった当人であるモモカは縮こまりおどおどしている。
「最近はこの辺りでみんなぐらいの歳の女の子がさらわれる事件もたくさん起きてますー。怪しい人を見かけたらすぐに逃げてくださいねー。防犯ブザーも忘れちゃメッ!ですよー」
「「「はーい」」」
念を押すように指を立てて話すモコちゃん先生。真面目なのだがその仕草は見た目の幼さの為可愛らしく見えてしまう。
「では一時間目の授業ですー」
特に何事もなく授業は進み、放課後を迎えた。みんな帰り始めている。
「モモカちゃーん一緒に帰ろ!」
「うん」
モモカに声をかけるスプリ。と、そこへモコちゃん先生が近付いてきた。
「モモカちゃん今朝は大丈夫でしたかー?」
「あ、モコちゃん先生」
「モモコおねえちゃん……」
そっくりな顔で気付かれた方もいるだろうが、彼女はモモカの姉だったのだ。並ぶと双子に見えなくもないが、先生の方がやや背が低い。ちなみにモコちゃん先生とは彼女の愛称で、こう呼ばれるのが一番嬉しいらしい。
「モモカは大丈夫……スプリちゃんが守ってくれたから」
照れ臭そうに頭をかくスプリ。モコちゃん先生がニッコリと笑う。
「それはよかったですねー。安心ですー」
「これから一緒に帰るんだよー」
「そうですかー。私はこれから職員会議があるのでこれで失礼ですー」
屈託のない笑顔をしながらこちらへ手を振り、教室を出るモコちゃん先生。それを見送ると二人も教室を後にした。
「でね、あたしのポケモンをリーダーから預かってるんだ。帰ってから練習するんだよ」
「そうなんだ。ポケモントレーナーかー……おねえちゃんもトレーナーだけど……」
会話を楽しみながら並んで歩く二人。その時だった。後ろから近付いて来た車が二人の横で急停車し、中から黒いジャケットにヘルメット姿の男が跳び降りて来た。その手に握られたスタンガンの電気がパチパチと音を立てる。
「あ、危ない!」
そう叫んでモモカとの間に飛び込もうとするスプリだが、それより早く男のスタンガンがモモカの首筋を捉えていた。
「モモカちゃん!」
防犯ブザーを鳴らす間もなく、気を失い崩れ落ちるモモカ。その小さな体を抱えると男は再び車に乗り込もうとする。
「こ、こんのおーっ!」
スプリは必死に男の足にしがみつき、彼と一緒に車の中に飛び込んだ。そしてそのまま車はその場を走り去る。
「あ、た、大変だ……」
その様子を見ていた下校途中の男の子は慌てて学校に引き返す。
「誰か助けて!誘拐だーっ!!」
話を聞いた教師達の代表としてモコちゃん先生、いやモモコが現場に駆け付けた時、既にジュンサーをはじめとする警官隊が到着していた。男の子の叫び声を聞いた人や同じように目撃した人が通報したのだろう。
「あなたは?」
「フエン第一小学校の教師、百本 桃子(モモモト・モモコ)です。さらわれた二人は私の児童で、うち一人は私の妹なんです」
学校でのふわふわ感が全くない口調で話すモモコ。その為かジュンサーさんも彼女を子供とは見ない。
「そうですか……心中お察し申し上げます。目撃者の話によるとあっという間の出来事だったようで、手口から最近この辺りで起きている少女連続誘拐事件と同一犯と思われます」
「女の子ばかりを何人も……性的嗜好?だとしたら早く助けないと危ない!私も行きます!」
モモカが目を覚ますと見覚えのない場所に横たわっていた。恐らくはアパートの一室だろう。カーテンがかけられており薄暗い。変な臭いも漂っている。
「起きたみたいだぜ」
「寝顔も可愛かったけどな」
自分を取り囲むように二人の男が立っている。体を縮こまらせ警戒するモモカ。後ろ手に縄で縛られている。
「怯えた顔もやっぱ可愛いじゃん。楽しみだな」
「あ、スプリちゃんは?どこ……?」
親友の名前を呼ぶモモカだが返事はない。それが不安と心配を膨らませる。
「心配いらないよ。この家の中にいるからさ。あの子は勝手にくっついてきたおまけ。今は本命のキミでお楽しみさ」
男の一人がカメラ付きのノートパソコンを開き、その先に付いたレンズを磨く。
「先に道具を選んでおきなよ」
「じゃあまずどれにしようかね」
そう言った男が手をかけた先の壁には角棒や鞭、焼きゴテなどの凶器が並んでいた。男がまず手に取ったのは鞭だ。モモカの顔が恐怖に歪み、目に涙が浮かぶ。
「あ、や、助け……」
17th 終わり
執筆後記
第17話をお読みいただきありがとうございます。さて、今回からサスペンスもどきをお送りします。サスペンスといっても推理ものではありませんので謎解きなんてややこしいものはありません(おい)。
そうそう、今回は見ての通りバトルシーンがありません。これまでは一話に一回は入れていましたが初めての試みです。
……ただ話の流れ的に入らなかっただけなんですけどね(駄)。
[アットの一言感想]
サスペンスというか、なんか予想を反してアブない展開に……果たして助けはやってくるのでしょうか?
しかし、スプリ強いなぁ、9歳なのに←
普通のケンカなら大抵の相手には勝てそうで、何とも末恐ろしい子です。