
扉絵:シェリーさん作
カントー地方・北東部に位置する街・ハナダシティ。その朝はいつものように静かに始まった。だが、その静寂は絹を裂くような悲鳴で破られた。
「いやあぁーだぁーっ!!!」
悲鳴を上げているのは栗色の短い髪をした年の頃11,2にしてスタイル抜群の美少女だった。その目の前に立つのはオレンジ色のミドルヘアーに少女同様スタイル抜群のボディを持った美人だ。特に大きな胸が目を惹く。彼女が少女の母親なのだ。一目だけ見るとやや年の離れた姉妹にも見えるが。
「ずっと言ってるでしょ、あなたはハナダジム唯一人の子、いずれはジムリーダーにならなきゃならないのよ。うちのジムは世襲制!知ってるでしょ?だから立派なポケモントレーナーになってもらわなきゃ困るの。」
母親がなだめるように言うが少女は聞く耳を持たない。
「こっちだって何度も言ってるけどあたしはポケモントレーナーにはならない!たくさん勉強して学者とか弁護士とかになるんだから!!」
少女の名前はサトリ。ポケモンジムの子でありながらポケモンと関わるよりも頭を使う事の方が好きな女の子だ。だが、世襲制ジムに一人っ子として生まれたためにジムを継いでもらわなくてはと考える母によって小学校を卒業してから、いや小学生の頃からポケモントレーナーとなるための教育を嫌々させられていたのだ。
「そんなデカアタマみたいのになるなんて聞いたらおじいちゃんもおばあちゃんもショックで倒れちゃうわよ!」
母親の名前はサトミ。ハナダシティジムのリーダーである。これまで娘のためと信じてポケモントレーナーとしての教育を半ば強引に行ってきた。
「これだけ言っても嫌がるなら最後の手段だわ。マサラタウンのおじいちゃんのジムで修業してきなさい!送ってあげるから!」
サトミはモンスターボールを取り出して開いた。中から出てきたのはカントーからハルカ、いや遙か彼方のホウエン地方を主な生息地とする水鳥ポケモン、ペリッパーだ。ちなみにハルカとは世界に名を知られるポケモンコーディネーターの名である。
「いやよ、おじいちゃんのところなんか!おじいちゃんは大好きだけどジムはいや!何よりあそこのお風呂小さいから、絶対にイヤ!!」
「つべこべ言わないの、さあ、行くわよ!」
母親は逃げようとしたサトリをどこから取り出したのかロープで縛りつけ、彼女を抱えるとペリッパーにつかまった。
「ペリッパー、『空を飛ぶ』のよ!マサラタウンに向けてレッツゴー!!」
「ペリーッ」
ペリッパーが2人を乗せて飛び立った。針路は南西、マサラタウンだ。
「いやあぁぁーっ!!!」
第1話 美少女ポケモントレーナー・サトリ誕生!
カントー地方南西部に位置する田舎町・マサラタウン。大きな建物といえばポケモン研究所とジムぐらいしかない、のどかな場所である。2人がつかまったペリッパーはその2大建造物のひとつ、ジムの前に降りた。ペリッパーをボールに戻し、サトリをひっぱりながら母親がジムの中に入り、奥にあるバトルフィールドへ向かう。そこに入ると、最初に黄色い体に赤いほっぺたのポケモンが出迎えた。ねずみポケモン、ピカチュウだ。その体には無数の古傷が刻まれており、顔にはシワがたたまれている。
「ピガビ、ピッカヂュウ」
そのピカチュウはしわがれた声で誰かを呼んだ。その声の先にいたのは灰色…というよりも白に近い髪をした1人の老人だ。老人とはいえその顔は幾度のバトルを戦い抜いてきたポケモントレーナーの顔だ。
「どうしたピカチュウ?挑戦者かの?ん、おぉ、サトミにサトリ、久しぶりじゃのぅ」
「久しぶりね、パパ。」
サトミは老人に挨拶した。この老人こそサトミの父親、サトリの
祖父にしてマサラタウンジムの創始者にして初代リーダー・サトシである。若い頃はパートナーのピカチュウとともに数々の冒険を繰り広げ、ポケモンバトル世界大会での優勝をも成し遂げた名トレーナー。還暦を過ぎた今では老師と呼ばれているので、この物語の中でも基本的には老師と呼ぶことにしよう。
「あれ、おばあちゃんは?」
「ここのところ忙しくての。帰っておらんのじゃ。寂しくてならん。」
老師の妻、カスミもまたポケモントレーナーであり、ハナダシティの先代ジムリーダーでもあった。夫である老師とは人もうらやむほどのアツアツ夫婦なのだ。
「サトリもすっかり大きくなったのう、ばあさんの若い頃にそっくりじゃ。えーと、何歳だったかな?」
「11歳よ、あとひと月で12歳。ねぇ、大きくなったって背のこと?それともオッパイ?……んぐっ」
サトリがニッとしながら逆セクハラ質問をする。『うっ』と思ったサトミは慌ててサトリの口をふさいだ。
「コラ、サトリ!何て事聞くの!!ごめんなさいパパ、この子ったら……」
(両方じゃ………)「いいんじゃよ、ところで今日は何の用かの?」
サトミははっとした。一瞬本来の目的を忘れてしまっていた。
「そうそう、この子をここでトレーナー修業させたいの。いいかしら?」
「かまわんよ。だがその前にポケモンがいないとの。」
「ハイハイ、ポケモンがいないと修業できないよね、さっ帰ろう。」
サトリは一瞬やったと思い喜びを隠しながら言った。だが次の瞬間、その喜びはメガンテを受けたかのように砕け散った。
「オーキド博士の所でもらえないかしら?」
「そうじゃ、あいつがおった。」
「ピガヂュウ、ピッガァ。」
オーキド博士とは世界的に有名なポケモン研究者で、名はシゲル。今でこそ研究ひとすじに生きているが昔は老師とライバル関係ともいえる一流のポケモントレーナーだったのだ。また、今は亡き彼の祖父もまた優れた研究者であったという。
「ハァ…」
サトリはため息をついた。結局こうなるのか……とでも言いたそうな顔だ。さて、3人はオーキド博士の研究所へ向かった。
「ごめんくださーい」
サトミが呼び鈴を鳴らすとドアが開き、なかからしわくちゃの白衣を着た灰色ツンツン頭の老人が出てきた。彼がオーキド博士だ。
「あぁ、サァ〜トシくんか、何の用じゃ?」
「この年になってその呼び方はやめろと何度も言っとるだろうに!ラ・イ・バ・ルぅ〜っ!」
「まぁまぁ、わしとお前の仲じゃないか。」
2人は元ライバルであると同時にご覧の通り最良の友達でもあるのだ。
「おぉ、サトミさんにサトリちゃん、久しぶりじゃのう。ん?サトリちゃん、お母さんに似てキレイになってきたんじゃないのかい?」
怒る老師を無視し、博士は女性2人に挨拶をしていた。一見すると口説いているようにも見える。彼は若い頃かなりのプレイボーイだったらしい。
「まあ、博士ったら、お上手ですわ。オホホホ……」
サトミが恥ずかしそうに笑う。自分の事も言われているからだ。サトリは呆れた顔で母の顔を見た。だが、少し嬉しかった。自分の顔とスタイルの良さを十分知り、自身を持っているからだ。そんじょそこらのアイドルやグラビアモデルよりも上である。もちろんそこは母の血が色濃く影響しているのだ。一方の老師は面白くなさそうに博士の腕を引っ張る。
「おい!わしの娘と孫を口説くな!」
「冗談じゃって。で、今日は何の用じゃ?」
オーキド博士が聞くとサトリはハッと我に返った。
「この子がトレーナー修業を始めるのでな、初心者用のポケモンはおらんかな?」
老師がサトリの頭をポンポンと叩きながら言った。サトリは心の中でポケモンがいないことを祈った。が、その祈りは天にあと一歩のところで届かなかった。心の中だけで祈ったのがまずかったのか……
「う〜ん……ポケモンリーグから支給される初心者用ポケモンは今いないんじゃが……おぉ、そうじゃ、この間うちのカメックスに孫が産まれての、今モンスターボールを持ってくるわい。」
そう言うと博士はしばし奥の部屋に消えた。
「そうか、良かったのうサトミ、サトリ。」
「えぇ、やっぱり博士のところに来て正解だったわ。」
「うう…」(あたしにとっては不正解よっ……神さまのバカ!)
少しして、博士がモンスターボールを持ってきて開いた。中から出てきたのは産まれてまだ1ヶ月も経っていなさそうな小さなかめのこポケモン、ゼニガメだった。カントー地方・初心者用ポケモンのうちの1種だ。
「ゼニ、ゼニ」
「まあ、可愛い。ねぇサトリ?」
サトミは自分が貰うわけでもないのにどことなく嬉しそうだ。自分が初めてポケモンを貰ったときを思い出したようである。
(だったらママが貰えばいいじゃない……)「う、うん。」
サトリは心の中で思っていた。博士はゼニガメをボールに戻し、サトリに手渡しながら言った。
「どうじゃ?サトリちゃん、この子は気に入ったかい?」
サトリは気に入らなさそうな顔をしつつもとりあえずボールを受け取った。
(気に入らないなんてこの状況じゃあ言えないか……)「ま、まあね。かわいいし、あたしにはピッタリかな〜なんて……」
だが、次の母の言葉を聞いたサトリの堪忍袋の緒がプツッと切れたのだ。
「気に入ったわよね?サトリ。さすがはハナダジムの子。いえあたしの子。立派なトレーナーになってジムを継いで…」
言い終わらないうちにサトリは母に向かって怒鳴り始めていた。
「いい加減にしてよ!いつも自分の考え押しつけてさ!!あたしの気持ちはまるで無視じゃない。もう我慢できないわ!!」
「サトリ…でもそれはあなたの……」
言いかけたサトミを無視してサトリは怒鳴り続けた。目に涙がたまっていく。
「あたしのためって言いたいんでしょ?そんなの嘘よ、ママはうちのジムをつぶしたくないだけなのよ!」
「サトリ……」
「ピガ……」
「サトリ…あのね……」
「もういいよ!ママもポケモンも…みんな大っ嫌いだもんっ!!」
そう叫ぶとサトリは泣きながら研究所を飛び出した。
「うわああぁーん………」
「待って!サトリ……」
サトミは悲しかった。娘のためと信じていままでやってきたのに。自分のやり方は強引すぎたのかと思った。目を潤ませるサトミの肩を老師が軽く叩く。
「サトミ…サトリを捜しに行こう。わしも手伝う。……すまんのうシゲル。」
「いいんじゃよ。早く捜しに行ってやるんじゃ。」
博士に見送られ、老師とサトミは研究所をあとにした………
その頃、サトリは町はずれの草むらに寝転がっていた。さっきはちょっと言いすぎちゃったかな、ママとおじいちゃん怒ってるかな、などといった事を考えていた。
サトリはふと手に目をやった。モンスターボールが握られている。研究所を飛び出した時にそのまま持ってきてしまっていたのだ。
サトリはボールを開いた。
「ゼニィ!」
中からゼニガメが出てきた。ゼニガメはサトリの悲しそうな顔を見ると心配するように彼女の目を見つめた。
「ゼニ、ゼニガ?」
サトリをなぐさめているように見える。それを見たサトリは上半身を起こしゼニガメの方を見た。
「あんた…あたしをなぐさめてくれてるの?」
「ゼニ、ゼニ」
そうだよとでも言うようにゼニガメはうなずいた。サトリはゼニガメの頭をそっとなでる。
「ありがとう。そうだ、帰ってママ達に謝らなくちゃ。」
サトリの心はすっかり元気を取り戻していた。転がっていた石を蹴飛ばすと町の方へ駆けだした。だが石を蹴飛ばしたのがまずかった。その石は宙を舞い、気持ちよく昼寝をしていた小鳥ポケモン、オニスズメの頭に落ちたのだ。ただでさえ凶暴なオニスズメを怒らせてしまった。
「やばっ…」
サトリは石を蹴ったことを後悔した。だがもう遅い。後悔は先に立たないのだ。オニスズメは怒り狂い、仲間を呼んでサトリとゼニガメに向かってきた。2人(1人と一匹?)は逃げようとしたが取り囲まれてしまい逃げられない。
「ど、どうしよう……えっ?」
サトリはふとゼニガメの方を見た。ゼニガメはサトリを守るように身構えている。それを見たサトリは心を決めた。
(よし、やるわよ…ママに教えてもらっていたっけ、確かゼニガメは水タイプ。その代表的な技といえば…)「『水鉄砲乱れ撃ち』!!」
「ゼニィーッ!!」
サトリの声とともにゼニガメは回転しながら水を吹き出した。オニスズメたちは次々と地面に落ちていく。
「やった…やったよ……やったぁ!ゼニガメいい子!!」
「ゼニィ!」
サトリは安心して腰を抜かしてしまった。だが、オニスズメ達はまだ体力が残っていたようだ。むっくりと起き上がりサトリ達を睨みつける。
「うっ…ん……」
ゼニガメに指示を出そうにも声が出ない。ゼニガメの方もびびってしまい甲羅にこもってしまった。その時………
「ピカチュウ、『10万ボルト』!!」
「ピィーガーッ!!」
強力な電撃がオニスズメ達を襲う。さすがのオニスズメ達も濡れた体に電撃では耐えきれず、一匹残らず空の彼方に逃げ出していった。
「お、おじいちゃん!?」
「サトリ、無事だったかの?」
「うん、大丈夫。あの……ごめんなさい……」
自分の勝手をわびるサトリ。だが老師は怒っている様子はない。むしろ笑っている。
「ん?いいんじゃよ、ハッハッハ。ママも心配しておったぞ。」
と、そこへサトミが向こうから走ってきた。
「ママ!!」
「サトリ!!ごめんね…ごめんね……」
涙を流しながらサトリを抱きしめるサトミ。
「ううん、あたしこそごめんね…ママ……」
サトリの目にも涙が浮かんでいた。そして……
「ママ…あたし、トレーナーになるよ。立派なトレーナーになってジムを継ぐよ……」
「えっ…?」
サトミは一瞬耳を疑った。が、サトリの目を見るとその言葉が本当だとわかった。真剣そのものの目を。
「うん、わかったわ。なるからには必死でやりなさい!」
「うん、修業でもなんでもどぉ〜んとこいよアハハ!」
こうして、サトリはポケモントレーナーとして修業を始めることになる。だが、それがこれから始まる大冒険の序章にすぎないことを彼女はまだ知るよしもなかった………
第2話に続く。
改訂後記
ぼくの小説書きとしての処女作『ポケットモンスター エピソードF』改訂版のスタートです。
書き始めたのは2003年2月頃。Fレッド・Lグリーンはもちろんのことコロシアムも発売していない頃だから、ルビー・サファイアに登場しないポケモン達の特性や新技は改造ネタになってしまうため出しませんでした。ですが、改訂にあたってそれらの特性・技も少しずつ織り交ぜていこうと思っております。読んだことのある方ももう一度読んでみてはいかがですか〜なんて…(^^;)
[一言感想]
あぁ、僕なんてアクジェネの改訂前書いた時は、ルビサファすらありませんでしたから(待て)。
うちのナツキと負けず劣らずなスタイルを持つ(蹴)、サトリの物語スタートです。
オニスズメに襲われる素質は血継限界みたいなモンでしょうが(ぁ)、祖父ほどは苦労しなかったようですね。
トレーナーを目指す事にしたサトリの今後に期待です。
ちなみに、マサラタウンジムの存在がこちらの小説と被ったのは、全くの偶然です。
しかし万年成長しないと言われてた彼が、ジムを創設するまでに成長できたことは、喜ばしいことこの上ありませんね(笑)。