マサラタウンのジムリーダーである祖父、サトシ(老師)のもとで修業することになったサトリ。初めは乗り気ではなかったもののオーキド博士にもらったゼニガメと息が合い、ポケモントレーナーになる決心をするのだった。
老師に連れられてジム内のバトルフィールドへ向かうサトリ。近づくにつれ門下生達の声、ポケモンの鳴き声、技を繰り出す音が聞こえてくる。気になったサトリが尋ねた。
「ねえ、門下生の人達って朝はいなかったよね。今日は午後からなの?」
「そうじゃ、今日は午後からジムを開く日なんじゃよ。」
2人はフィールドに着いた。あちらこちらで門下生達がポケモンバトルをしている。練習試合のようなものだ。それぞれ区画分けされているようで、広くはない範囲を皆上手く使ってバトルしている。
「皆、整列するのじゃ!」
老師の一声で、練習試合をしていた門下生達は一斉にポケモンをしまい一同整列した。聞こえはあまり良くないかもしれないがまるで軍隊のような規律の良さだ。
「知っている者もおるかもしれんが皆に紹介しよう。わしの孫娘、サトリじゃ。今日からここで門下生として修業することになった。よろしく頼むぞ!」
「よ…よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!!!」
サトリが小声で挨拶すると門下生達は『ハイパーボイス』並みに大きな返事を返した。大音響がフィールド内に響き渡り、サトリは耳がつぶれそうになり、その後もしばらく耳がキーンとしている。
「皆、わしの孫だからといって遠慮はいらん、徹底的にしごいてやってくれ!」
「はい!老師!!!」
必要以上に大きな声がまた響き渡る。サトリは今度は気を失いそうになるが、すぐに気を取り直し、一歩前に出た。
「よ…よぉし、さっそくバトルだわ。最初にあたしの相手をしてくれるのは誰?」
門下生達はやる気満々のサトリに少々驚いているようだ。その中で1人の少年が名乗りを挙げた。ゆったりめのズボンとトレーナーを着た少年で、その茶髪は妙にツンツンしている。少し前に似た髪型の男を見たような…サトリはそんなことを思っていた。
「面白い。そこまでバトルしたいならオレが相手をしてもいいぜ。」
「よーしっ、いくわよ!」
第2話 ライバル登場!初トレーナー戦!!
「カオル?」
「カオルが自分から相手になると言い出すなんて珍しいぜ。」
他の門下生達が話しているのがサトリの耳に入ってきた。サトリはニヤーッとしながら少年のもとに近づく。
「へぇ、カオルくんね。あなた自分から戦うってあまりないんだ。なんでかなぁ?負けるのが怖いの?あたしが初心者だから勝てるって思って挑んできたのね?」
「…ベラベラとうるさい女だな……」
冷めた感じで言い返すカオル。その冷たさにサトリはムッとするが、すぐに言い返した。
「へぇ〜、図星なんだ。そうなんでしょカオルくん?」
そう言われるとカオルは冷めた目を上目づかいにサトリを見て言った。
「老師の孫だからって調子に乗らない方がいいぞ。血筋と実力は関係ない。」
サトリは今度はカチンときた。言葉の意味は理解できるがそのスカしたような態度が気に入らない。頭に血がのぼっていき、怒りのボルテージが上がっていく。
「ム・カ・ツ・ク奴ねぇ〜っ!さあバトル始めましょう!今言ったこと後悔させてあげるわ!!」
「そっちが後悔することになるかもしれないぜ。」
「待つのじゃ!!」
モンスターボールを構える2人を老師が止めた。カオルはフッと息をつくとボールをしまうが、サトリは気がおさまらず今にもボールを投げそうだ。カオル本人にボールをぶつけかねない。そんな彼女を老師がおさえる。
「離しておじいちゃん!あいつをブッ倒す!!」
「落ち着くんじゃサトリ!それではケンカと一緒じゃ!」
暴れ牛ポケモン、ケンタロスのように息を荒くするサトリを老師がなだめる姿はまさしくトレーナーだ。サトリは少しすると息を切らし、ようやくおとなしくなった。
「ハァハァ……じゃ、じゃあ…どうするの……?」
「公式ルールでバトルしよう。まずサトリは向こうのサイドへ行きなさい。カオルはあっちじゃ。審判はわしが務める!他の者は悪いがフィールドから出てもらえるかの。」
「はい!」
ポケモンバトル公式ルール…主にジム戦や公式大会でのバトルで用いられるルールである。両者の使用ポケモン数は同数で、バトルの際には原則として審判が立ち会うことになっているが、特にカントーのジム戦の場合審判なしで行われることも多い。
「うん…わかったわ!」
息を落ち着けたサトリと、初めから落ち着いている…というよりも冷ややかなカオル。両者はそれぞれの指示されたサイドに向かった。
それぞれのサイドで両者が睨み合う。老師は中間サイドに立ち、フラッグを両手に持っている。他の門下生達は空いたスペースで見学だ。
「それでは、ジムトレーナー・カオルとサトリのバトルを始める。使用ポケモンは各々1体で時間は無制限。それでは、始め!」
老師がフラッグを振ると、2人はモンスターボールを構えた。先にボールを投げたのはカオルだ。
「行け、フシギダネ。」
カオルの持つモンスターボールから現れたのはカエルのような姿をし、背中に種を背負っているその名の通りの種ポケモン、フシギダネだ。ゼニガメと同じくカントー地方の初心者用ポケモンとされている。
「よしっこっちも!行くのよ、ゼニガメ!!」
「ゼニィーッ!」
「先手必勝!ゼニガメ、『水鉄砲』よ!!」
ボールから飛び出したゼニガメの口から勢いよく水が発射された。だが、フシギダネはそれをカエル跳びのようにジャンプし難なくかわす。
「フシギダネ、『つるの鞭』」
「ダネフシッ!」
フシギダネの体からつるが伸びた。そのつるは真っ直ぐにゼニガメへと向かってくる。
「ゼニガメ、よけて!」
サトリは叫んだ。が、つるのスピードは速く、ゼニガメの遅い動きではとてもよけきれなかった。つるはゼニガメの目の前で突き上がるように動きを変化させる。
「ゼニィッ!!」
つるの鞭がゼニガメのボディにヒットし、跳ね上げる。ゼニガメの体は宙を舞った。このままでは床に叩きつけられて大ダメージは免れない。
「ゼニガメ!床に向かって『水鉄砲』よ!!」
「ゼ…ゼニィーッ!」
水鉄砲の勢いで落下速度が落ち、ゼニガメは大ダメージを免れた。カオルは少々驚いたような顔をする。
「初心者にしては少しは考えたようだな。だが『つるの鞭』によるダメージは受けているぜ。」
「言われなくたってわかってるわよ!バカにしないでよ!!ゼニガメッ、『体当たり』よ!!」
ゼニガメはフシギダネに向かって突っ込んだ。だが、これもあっさりとかわされてしまった。のんびりとした姿からは想像できない機敏な動きだ。
「そろそろいいかな……」
カオルがつぶやいたのをサトリは聞き逃さなかった。
「何がそろそろなの!?答えなさいよ!!」
「そろそろお前が負ける頃だってことさ。フシギダネ、『ソーラービーム』!」
「ダネーッ!!」
フシギダネの種の先端から目がくらみそうな閃光が走りゼニガメを直撃。次の瞬間、ゼニガメは黒こげになって床に倒れていた。
(えっ……?)
サトリは一瞬何が起こったのかわからなかった。
「教えてやろう。S・ビームは草タイプの中でも最高ランクの技だがそのエネルギー……太陽の光をチャージするのに時間がかかる。それをカバーするためにオレは戦闘に出たときにチャージを開始するようにこいつに教えているんだ。」
「そんなのありぃ!?………はっ!ゼニガメ!大丈夫!?」
サトリはあわててゼニガメにかけよった。戦闘不能状態なものの意識はある。
「心配するな。さっきのS・ビームの威力は通常の3分の1程度だ。ジム内で太陽の光は窓から射し込むもののみだからな。もしこれが屋外のバトルだったら産まれて間もないそのゼニガメはどうなっていたかわからないぞ。ん?どうしたフシギダネ?」
フシギダネの体が輝きだした。その輝きの中で背中の種が開いていくのがわかる。輝きが途切れ、フシギダネの姿が変化しているのがはっきりとわかった。目つきが鋭くなり、背中の種がつぼみになっている。進化である。種ポケモン、フシギソウだ。
進化…それはポケモンの神秘のひとつである。他の地球上の生物が何千年、何万年もかけて得てきたものをポケモンはわずかな期間で得ることができるのだ。
「おぉ!」
「進化したぞ!」
バトルを見ていた門下生達が言い出した。老師も続ける。
「ほぉ、修業を開始して1ヶ月で進化させるとは……さすがあいつの孫じゃ。」
「えっ!?おじいちゃん、あいつって?まさか……」
「そう、そのまさかだ。」
祖父と孫の会話にカオルが横やりを入れた。サトリは気分が悪そうにカオルの方を見る。
「そのあいつっていうのがオーキド博士。オレの祖父だ。」
「マジィ?このキザ男が?信じらんない、血筋と実力は関係ないとか言っておきながら自分も大した血筋じゃないのさ!」
ビシッと自分を指さすサトリの言葉にカオルは冷ややかに笑いながら言い返す。
「フッ、血筋で勝負が決まるのならバトルなんかする必要ないだろ。今回はたまたまお互いに『いい血筋』だっただけさ。あと、人を指さすのはやめてくれ。……さて、今日はもう帰らせてもらうよ。戻れ、フシギソウ。」
カオルは進化したばかりのフシギソウをボールに戻すとつかつかと歩いてフィールドを出ていってしまった。
「なーによあいつ、ムカツクーッ!!帰ってくんなーっ!!コンニャローッ!!」
サトリはじだんだを踏み、カオルの背に向けて暴言を吐き散らす。それが聞こえたかどうかはわからないがカオルは何の反応もせずに見えなくなった。老師はサトリの口をふさぐ。
「サトリ、やめなさい。」
「んぐっ…ごめんなはひ……」
サトリは息をつまらせながら謝る。
「おじいちゃーん……あいつ強すぎるよぉーっ。本当に1ヶ月まえから修業してたの?実は何年もいるとかない?」
思わず老師に泣きつくサトリ。泣きつくというよりも抱きつくといった感じだ。
(うっ、ムネが当たっとる……)「ほ、本当じゃ。だ、だがな…僅かな期間で強くなりすぎてしまい…ここのジムでは相手になる者がいなくなってしまっての、だから自分から戦おうとはあまりしないのじゃ。さ、最近は1人で練習しておるよ……」
「ピーガー」
「ふぅ〜ん。だったらここで修業するよりも旅に出た方がいいんじゃないかしら。ここで新参者いたぶるよりさ。」
サトリは老師から体を離し、あからさまにカオルに出ていってほしそうな顔をした。彼がこの場にいなくてよかった。もっともそのようなことを聞いたところで怒るような人ではないのだが。
(ばあさんの若い頃を思い出すのお…)「まあまあ、そんな顔をしたら可愛い顔が台無しじゃよ。このジムに入門した者はな、3ヶ月に一度の試験で合格して初めてこのジムを離れ旅立つことができるんじゃよ。」
顔を赤らめた老師が教えるようにサトリに言った。サトリも聞き返す。
「へぇ、試験なら得意よ。いつも学校の成績はトップだったから。今度はいつやるの?………それと、なんで顔を赤くしてるの?」
サトリの2つ目の質問に老師の心臓は一瞬ビクッと跳ね上がる。寿命が数秒ほど縮まったかもしれない。本当のことを言えばサトリはきっと怒るだろうと思い、はぐらかすことにした。
「いや、ちょっと風邪でもひいたかの……試験は来月の10日じゃ。あと、その内容はポケモンバトルの実技試験じゃよ。それまでによく自分のポケモンを鍛えておくのじゃぞ。とても厳しいものになるからの。」
「風邪…?気をつけてね。実技試験かぁ〜…ねぇ、筆記はないの?」
サトリはちょっと不満そうに老師に聞いた。
「実技だけじゃよ。『100の知識より1の経験』というやつじゃ。確かに知識も大事じゃがそれだけではバトルはうまくならん。実際にバトルしてこそ腕が上達するんじゃよ。」
「100の知識より……1の経験………」
サトリは老師の言葉を深く心に刻み込んだ。そして、大きく肩を回す。
「よーし、特訓開始よ!行くわよゼニガメ!!」
「ゼニ…」
ゼニガメはフラフラしている。そしてバタンと倒れてしまった。さっきの『ソーラービーム』だけが原因ではなさそうだ。
「あれ?どうしちゃったの?大丈夫?」
サトリはゼニガメを抱え上げて様子を見た。気を失っているようだ。だが何が原因なのかわからない。サトリは心配そうに老師に尋ねた。
「おじいちゃん、この子大丈夫かな?」
「大丈夫じゃよ。この子はまだ産まれてそれほど経っていないからさっきのバトルで疲れたのじゃろう。今日はゆっくり休ませておやり。」
「ピガ、ピガ。」
ピカチュウもそれがいいと言うようにうなずく。
「そうだね。お疲れさま、ゼニガメ。明日から頑張ろうね。」
サトリはゼニガメをボールに戻し、軽くキスをした。
「ゼニガメ、『体当たり』!!」
「ゼニーッ!」
ゼニガメの『体当たり』がフシギソウにヒット。体をフラつかせる。
「今よ、とどめの『水鉄砲』最大パワー!!」
最高出力の『水鉄砲』がフシギソウの体を向こう側の壁まで吹っ飛ばした。気を失っている。カオルはフシギソウをボールに戻し、悔しそうに片ひざをついた。
「やったぁーっ!思い知ったかカオルぅ〜〜っ!!………ふにゃ?」
……どうやら夢だったようだ。相当激しく動いたのだろう。掛け布団がベッドの下に落ちている。外では朝を告げる三つ子鳥ポケモン、ドードリオの鳴き声がする。ということはもう朝だ。
「よぉ〜し、いい夢見たことだし、朝ご飯前の練習にでもいくかぁ〜…」
まだ寝ぼけ眼のサトリ。そこへドアを叩く音が聞こえた。
「サトリ、朝じゃよ。朝ご飯の用意ができておるよ。開けていいかな?」
老師の声だ。可愛い孫を起こしに来たのだ。
「うん、いいよー……」
サトリがOKすると老師はドアを開けた。サトリはまだベッドの上に寝転がったままだ。老師はそのサトリを見ると顔をパッと赤くして後ろを向いた。サトリはなんだかよくわからない。
「おはようおじいちゃん。どうしたの?」
「す、すまん!」
なぜか謝る老師。サトリが寝転がったまま顔を上げて見回すと自分のパジャマの上が思いきりはだけていた。老師が赤面した理由をようやく理解したサトリ。気がつくと彼女は大声で叫んでいた。
「い……いやあああぁぁぁーーーっ!!!」
その声はマサラタウン中に響き渡り、ドードリオの声をかき消し、町中の人々は一斉に目を覚ましたのだった………
第3話に続く。
改訂後記
今回も前回に引き続きサービス割り増しでお送りしております(蹴)。
さて、『100の知識より1の経験』という言葉は、老師…サトシの性格をよく表しているように感じます。『小難しい理屈よりもまずはやってみよう』というそのココロ。老師に限らず、熱血漫画・アニメの主人公はほとんどそんな感じかなぁ…むしろそうじゃなきゃ熱血じゃない……か?(爆)
[一言感想]
しかし僕が好きになる漫画の主人公は、比較的『力属性』よりも『知属性』のが多かったりする(ぇ)。
いえ、サトシは好きですがね(笑)。
サトリの場合はやっぱり祖父の血を引くがゆえか、性格的には『力』っぽいですね。
いえ、学校成績が抜群ということを考えると、『知』なのかも知れませんが。
ちなみに、サガさんもお気に入りキャラと言ってくれる、こちらのフューチャー主人公ナツキの場合。
サトリとは真逆で、性格的には『知』っぽいけど実際成績がガタガタなので戦い方は『力』かな(ぁ)。
いずれにせよ、カオルは強力なライバルなので、今後サトリがどう乗り越えるか見物です。