マサラジムの卒業試験に見事一発合格したサトリはメールによる母の提案でハナダシティまで旅をしながら帰ることになった。とりあえず試験の翌日は旅立ちの準備や町内見物をして過ごすことにしたのだが、ジムがあるとはいえマサラタウンは小さな田舎町。見物して楽しい場所なんてあまりない。ただ、自然がたくさん残されているので普通に歩いているだけでサトリにとっては十分楽しいのだ。

そして旅立ちの前の夜、サトリはいつもより早く布団に入った。が、眠れない。興奮してしまい眠れないのだ。明日は旅立ちである。なので朝早く起きるために早めに布団に入ったのに、こういう夜に限って眠れない。人間とはそういうものである。それに旅立ちの日、明日は3月12日、自分の誕生日だ。誕生日に旅立つと思うとますます興奮してきてしまい眠れないのだった。



………そして朝。外ではドードリオが鳴いている。早起きした老師がピカチュウを伴いサトリを起こしに部屋の前にやってきた。

「サトリ、朝じゃぞ。」
「ピィ〜ガァ〜」

ドアをノックする老師。しかし部屋の中からの返事がない。

(まだ寝ておるのかな…?)
「ピガ、ピガ?」

そう思った老師はドアを開けた。案の定サトリはまだベッドの上で寝息を立てている。老師が知るよしもないが、やはり昨夜なかなか眠れなかったのが原因だ。

「サトリ、もう朝じゃよ。起きなさい。誕生日おめでとう。おーい、サトリ!」
「ピガピ、ピガチュウ。」

老師はサトリに声をかけた。………サトリはスースーと寝息を立てながら眠っている。ピカチュウもつんつんとサトリの顔をつつくが反応はない。その寝顔があまりにも気持ちよさそうなので老師はそれがかわいくなってしまい起こすのをやめた。しかしそれがサトリに老師自身と同じ運命を与えてしまうことになる。



………それから何時間経っただろう。太陽は空の真上にある。窓から差し込むその光でサトリは目を覚まし、時計を見た。もう正午12時近い。完全に寝過ごしてしまったのだ。

「う…嘘っ……おじいちゃーんっ!!!」

悲鳴にも似たサトリの叫び声がマサラタウン全域に響き渡った………

 

 

 

第5話 旅立ち!……そして出会い

 

 

 

サトリは大慌てでいつもの服装に着替え始めた。
ではここで説明しよう。いつもの服装とは白のワイシャツに紺のセーター、チェック柄のミニスカート、そしてももまである黒のソックスだ。ちなみにソックス以外は小学校の制服をそのまま利用している。
着替え終わったサトリは前日に用意した荷物を持ち、ダッシュでジムを出ようとした。と、そこで彼女を呼び止める声が耳に入る。

「これ、慌ててはいかんよ。」

サトリを呼び止めたのは老師だった。

「お、おじいちゃん!なんで起こしてくれなかったのよぉ〜っ!?」

少し怒っているサトリに老師はなだめるように言う。

「お前の寝顔があまりにも気持ちよさそうでのう。起こしたら悪いかと思ったんじゃ。」
「でも…そうだ、カオルとアンちゃんは?」

困ったような表情でサトリが尋ねると、老師がピカチュウの頭を撫でながら答えた。

「あぁ、2人なら朝早くに出発したぞ。なに、気にすることはない。何を隠そうわしも旅立ちの朝に寝坊しての。そのおかげでこのピカチュウやばあさんに出会えたんじゃ。」
「ピガ、ピガ。」

ピカチュウもうなずく。サトリは気を取り直し老師に向けてお礼も含めたお辞儀をした。

「ふぅん……じゃあ、行くね。そうだ、お世話になりました。ありがとう。」
「少し待ちなさい、プレゼントがある。これじゃ。誕生日おめでとう。」

そう言うと老師はモンスターボール5個と何か長い箱をサトリに手渡した。跳び上がって喜ぶサトリ。慌ただしい中で誕生日のことなどすっかり忘れてしまっていた。

「わぁ、ありがとうおじいちゃん!ねぇ明けていい?」
「あぁ、いいとも。」

サトリは箱の包みをはがし箱を開けた。中に入っていたのはなにやら6つの金具が付いたベルトだ。そのバックルは透き通った水晶製で、ポケモンリーグのマークが刻まれている。

「これはポケモンリーグ公認の限定版トレーナーベルトじゃない。これどうしたのおじいちゃん?」

予想だにしなかったレアアイテムにサトリは驚きながら老師に聞いた。

「この前ポケモンリーグ本部から送られてきたんじゃ。わし宛じゃったがわしは自分のを持っておるからの。どうかな、気に入ったかい?」
「うん!!最高のプレゼントよ!ありがとう!!じゃあ、もう行くね。」

サトリは早業でベルトを締め、スニーカーを履いて外に出た。そこで老師が思い出したようにサトリを呼び止める。

「そうじゃ、オーキドの奴が来るように言っておったぞ。渡したいものがあるそうじゃ。ちゃんと挨拶するんじゃぞ。」
「うん、わかった。じゃあねおじいちゃん、元気でね!」
「ああ、ママにもよろしくな!」

手を振りながら、ジムをあとにするサトリ。老師とピカチュウはサトリの姿が見えなくなるまで手を振り続ける。そしてサトリはオーキド博士の研究所へと向かったのだった。



サトリはオーキド博士の研究所の前に着いた。入り口にはいつから待っていたのかオーキド博士が立っている。

「あ…こんにちは……ご、ごめんなさい博士、寝坊しちゃって……」

サトリは申し訳なさそうに頭を下げる。

「君も寝坊かい。やれやれ、血は争えんの。」

博士はサトリを見ながら呆れたような顔をして言った。サトリは訳が分からない。顔を上げて尋ねてみた。

「あの…どういうことですか?」
「君のおじいさんも、それは聞いたかな?それだけじゃない、君のお母さんも旅立ちの日に寝坊したんじゃよ。まあいい。そうじゃ、これを渡さなければ、ポケモン図鑑じゃ。詳しい機能はこの取扱説明書を読んでくれ。」

サトリは図鑑と取扱説明書、更に母の旅立ちの日の秘密を受け取った。あとは旅立つだけだ。

(ママったら、旅立ちの日に寝坊しただなんて一言も話してくれなかったじゃない……)「ありがとうございます!よーしっ、カオル達を追い抜いてやるっ!」
「ああ、気をつけてな。」

サトリは博士にお辞儀し、くるっと後ろを向くと急ぎ足で町はずれに向けて駆けていった………



町はずれに来たサトリ。ここから1歩出ればそこは国道1号、通称1番道路。サトリは大きく深呼吸をした。

「よーしっ、出発!」

サトリは1歩を踏み出した。いよいよ冒険の第一歩、ハナダシティを目指しての旅が始まるのだ。最初の目的地は北にあるトキワシティである。サトリは急ごうとダッシュで進んだ。その拍子に石を蹴飛ばしてしまう。その石は弧を描くように飛んでいき、近くで昼寝をしていたオニスズメに当たってしまった。しかも、マサラタウンに来た初日に出会ったあの時のオニスズメのようだ。頭には大きなこぶができている。

「ま、また…?あたしってオニスズメ運がないのかな〜……」

例によってオニスズメは仲間を呼んで追いかけてきた。この前よりも数が多い。

「ギャアギャアギャア!!!」
「ひえぇ〜っ!!でも、この前のあたしじゃない!行くわよっゼニガメ!!」
「ゼニィ!」

サトリはくるっと振り返りオニスズメ達の方を向き、ゼニガメを繰り出した。

「『水鉄砲乱れ撃ち』!!」

ゼニガメは次々とオニスズメを撃ち落としていく。が、何故か数があまり減っていない。それもそのはず、オニスズメは呼ばれたそばから次々と仲間を呼んでいたのだ。修業によって強くなっているゼニガメもそれだけの数が相手では水鉄砲を撃ちすぎて疲れてしまった。息があがっている。

「やばっ……ゼニガメ戻って!こりゃ逃げるしかないわ!!」

サトリはゼニガメを戻し、ダッシュで逃げた。囲まれていたがそれも強行突破だ。そんなサトリをオニスズメ達は容赦なく鋭いくちばしでつつき続けた。つつかれた部分は切り傷となり血がにじむ。手の甲、かわいらしい顔、スラッとした脚、次々と傷つけられ、色白の肌が少し赤く染まる。お気に入りの制服もソックスもボロボロになっていく。でもサトリは走り続けた。

「こんのオニスズメ達ィ…今世紀最後のセクシー系美少女の体を傷物にするつもりィ!?服も弁償してもらうからね!!」



その頃、サトリより少しトキワシティ寄りの方に1人の青年がいた。年は20代前半といったところか。服装は白のワイシャツにベージュの長ズボン。薄紫色の長い髪を後ろで束ね、老いたニャースを連れている。

「まったく…ぼっちゃまの冒険好きには参るのじゃにゃ。」

そのニャースはなんと人間の言葉を話した。相当の努力を積んだのであろう。

「またそのセリフか…ついてくるのがイヤなら荷物をまとめて帰れといつも言っているだろう。」

ぼっちゃまと呼ばれた青年はニャースに向かって言った。ニャースも言い返す。

「いえ、そうはまいりませんにゃ。わしはおじいさまやおばあさまからぼっちゃまの安全を守るようにと申しつけられているのでございますじゃにゃ。」
「そのセリフも耳にオクタンができるほど聞いたよ。まったく…おじいさまもおばあさまも心配性だなァ、オレは1人でも大丈夫なのに……ん?何だアレ?」

青年がマサラタウンの方角を見て言った。

「それはですにゃ…お二方はぼっちゃまがかわいくてしかたがにゃいから……にゃ?あれはにゃんじゃにゃ!?」

ニャースもそちらの方角を見た。空を覆い隠しそうなほどのオニスズメの大群がこちらへ向かってくる。

「ギャアギャアギャア!!!」

オニスズメ達はやかましい鳴き声をたてながら青年とニャースの前を通り過ぎていった。

「一体全体にゃんじゃったのにゃ?」

ニャースが首を傾げる。すると隣で青年が呟いた。

「女の子…?」
「にゃ?女の子ですかにゃ?あのオニスズメはみんにゃ♀にゃんですかにゃ?」

ニャースが真顔で尋ねた。

「バカ!女の子があのオニスズメ達に襲われていたんだ!見えなかったのか!?とにかく助けなくては!!」

青年はすぐさまオニスズメ達を追いかけた。ニャースも短い足で追いかけるが、あっという間に突き放される。

「ぼっちゃま〜っ、待ってくだされにゃ〜〜〜っ!」



サトリは死に物狂いで走った。こんなに長時間全力で走ったことは今まで一度もない。体中傷つき、血がにじみ、目も霞む。体力は限界に達していた。そしてついにサトリは力尽き、道の真ん中でうつ伏せに倒れた。頭の中で走馬燈が駆け巡る。

(はあぁ…だっさいなぁ…旅立ったその日におしまいかぁ……)

オニスズメ達は一瞬ニヤリと笑ったような顔をすると一斉に上空へ上がり、急降下してきた。とどめを刺す気だ。サトリは目の前が真っ暗になった………







それからしばらくして………

「おい、しっかりしろ!おい!!」

声をかけられ、体を揺すられ、ほっぺたを15回程叩かれてようやくサトリは気がついた。

「あれ…?あたし…生きてる?それとも天国?…なんちゃって……」
「フッ、この世だよ。オニスズメ達は追い払った。体中怪我をしてるな…大丈夫かい?」

青年がサトリを気遣う言葉をかけた。サトリは青年の顔を見つめる。自分の好みのタイプだ。胸がドキドキしてくる。

「え?…ええ、大丈夫。そうだ、あたしよりゼニガメ……疲れてるの。休ませる場所、ポケモンセンターに…」
「そうだな。トキワシティのセンターに行こう。街はすぐそこだ。ほら。」

サトリは起き上がり青年の指さす方向を見た。最初の目的地、トキワシティが姿を見せる。だがサトリの目に入ったのはそれだけではなかった。上空に何かいる。

「あ、鳥…?虹色の鳥……?」
「何?あっ、あれは……」

トキワシティの上空にいたのは虹色に輝く鳥だ。その鳥は西の方角、ジョウト地方へと飛んで行きやがて見えなくなった。

「あれは…ホウオウなのか………」
「ホウオウ…?そういえばおじいちゃんに聞いたことが……」

2人は西の空を見つめながらしばらくボーッとしていた。

「ぼっちゃま〜っ、コタロウぼっちゃま〜っ、わしを置いていかないでくだされにゃ〜っ。」

ニャースのダミ声が耳に入り、2人はハッと我に返りお互いを見つめ合った。

「そ、そうだ、早く行こう。オレが案内するから。」
「本当?あ、ありがとう……」



しょっぱなから大変な目に遭ったサトリ。だが、出会いも彼女を待っていた。果たしてこれから先、サトリに何が待っているのか。旅はまだ始まったばかりだ。



第6話に続く。



改訂後記
オニスズメ運のない一族やなあ…老師のパパやグランパがそうだったのかはわかりませんが、これが血脈によるものならば恐らくは……?それとも老師の代で運が変異し、それがサトリへと受け継がれた隔世遺伝なのか…しかし、老師にしろサトリにしろそのおかげで運命の人に出会えたのだから万々歳。『災い転じて福となす』とはこのことですよ(笑)。

 

[一言感想]

 何処まで祖父の血筋を、忠実に受け継いでいるのでしょうか(苦笑)。
 老師がホウオウをあれ以降目にしたのかは分かりませんが、サトリはどうなるのでしょうか。
 そして、待っていた運命の出会い(?)。
 ニャース……歳とったなぁ(ぇ)。

 

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