セキエイ高原・ポケモンリーグカントー支部・・・2人の支部員が何か話している。
「支部長の様子はどうなんだ?」
「1週間前に具合が悪いと言ったきり部屋から出てこない。」
「部屋には入れないのか?」
「ああ、誰も入れるなとおっしゃっていた。ドアには鍵がかけられている。」
「もしかして死んでるとかないよな?」
「まさか、縁起でもないこと言うな!」
2人が話している支部長とは、言うまでもなくカントー支部の支部長である。優れたポケモントレーナーでもあり、マサラタウンの老師と同等かそれ以上の実力を持っているとも噂されている。だが、この支部員たちの会話からわかるように、1週間前に体調を崩し、部屋で1人療養しているという。
「おい、支部長の容態が回復したとのことだ、さあ、挨拶に行かないか!」
2人とは別の支部員が現れ、2人に言った。
「おお、それは良かった!」
2人は同時に口を開き、支部長室へ向かった。そしてドアを明けた途端2人はぎょっとした。
「失礼しま・・・うッ・・・」
驚くのも無理はなかった。支部長の顔は漆黒の仮面で覆われていたのだ。そして血のように赤い瞳、笑っているのかはたまた怒っているのかよくわからない・・・と言ったら失礼だろうが、やはりそうとしか言いようがない顔をした仮面だ。2人は思わず尋ねた。
「支部長・・・一体その仮面は・・・」
「・・・病気によって顔が醜く崩れてしまったのだ。さすがに老いぼれのわしでもそのような顔は人には見られたくないのでな。」
支部長の声はとても重い響きがあった。まるで地獄の底から聞こえてきたような感じだ。2人はとにかく挨拶をした。
「御病気の回復、おめでとうございます。」
「随分と心配をかけてすまなかった。そうじゃ、少し待っておれ。」
そう言うと支部長は1つのモンスターボールを取り出した。それは全体がまるで黒いダイヤモンドのように輝き、渦巻きのような模様が浮き彫りにされ
ている。そしてボール全体から何か邪悪な気のようなものが発せられているようだ。支部長はそれを開いた。中から黒い光が放たれ、木乃伊(ミイラ)男のようなポケモンが現れた。手招きポケモン、サマヨール。そのひとつ目は支部長の仮面の瞳と同じ色をしている。2人は身震いした。
「2人とも、恐れることはない。さあ、こいつの目を見るのだ。」
言われるままに2人はサマヨールの目を見た。いや、心の中では嫌がっているが目は勝手に動いてサマヨールと目を合わせようとしている、と言った方が正しいだろう。その途端、金縛りにあったように体が固まった。そして意識が遠のいていく。
「うっ・・・これ・・・は・・・?」
遠のく意識の中で血の色だったサマヨールの目が妖しく紫色に輝いているのが確認できた。2人の意識はそこで完全に途絶えた。
「フッ・・・よくやった、邪悪なるサマヨール。」
そう言った支部長の口が仮面の下で妖しく歪んだ。
第9話 ニビジムのバトル(前)
一方こちらはニビシティのポケモンセンター。サトリ達は朝食を済ませていた。
「あたし、ニドラン抱いて散歩に行ってくるね。」
「ニド、ニド。」
サトリはニドランを抱っこしてポケモンセンターを出発した。
「待ってよ、オレも行く。」
「わしも行くのじゃにゃー。」
コタロウとニャースも後を追った。ニャースのぎっくり腰もすっかり回復したようだ。
「行ってらっしゃい、気をつけてね。」
ジョーイは2人と2匹に手を振った。
ニビシティは、シティという名称こそついているがカントー全体から見れば田舎の部類に入る。大きな建物は町の中心部にいくつか建っているのみ。
有名な産物は石であるが、現在は殆ど掘り尽くされている上に、現代社会において石を使うものなど墓ぐらいだ。だがしかし、この町は世界に誇るポケモンブリーダーを生み出した町なのだ。そのブリーダーは、かつてあのマサラタウンの老師達と共に各地を旅したこともある男であり、この町のジムの現ジムリーダーの兄に当たる。
そのようなことは知らないサトリは、ニドランを抱いて町内を歩き回っていた。コタロウとニャースも一緒だ。ニドランも怖がる様子を見せず興味深そうにキョロキョロしている。と、いかにも古そうな石造りの建物が彼女の目に入った。
「ニドッ、ニドッ!」
「どうしたの? あの建物がどうか・・・あっ!」
ニドランが反応した石造りの建物こそニビシティのポケモンジムだった。近づいてみると、外壁は石造りだが柱は鉄骨であるのがわかった。
ジムに辿り着いたことをサトリは歓喜した。
「なんてこと!トレーナーの宿命!? 何気なく散歩していただけなのにジムに辿り着いてしまったなんて!!」
どこかわざとらしく聞こえたが、サトリがここに辿り着いたのは偶然である。サトリはこの町に来たことはないし、地図も持っていない。
「どうしよう、ニドラン抱いたままバトルするわけにも・・・でも挑戦したいし・・・」
ウズウズしているサトリにコタロウが言った。
「なんならバトルしている間はオレがニドランを抱いていようか?」
「そう? ありがとうコタロウさん! じゃあ行きましょうか。」
「おみゃーの負けっぷりを見物してやるのじゃにゃ。」
「こら、何てこと言うんだニャース!」
コタロウがニャースの頭をポカリと叩いた。ニャースが頭を押さえながら言った。
「いてて、ぼっちゃま非道いにゃ〜、あっ、待ってくだされにゃ〜っ。」
ニャースが痛がっているうちにサトリ達はジムの入り口に向かって歩き出していた。ニャースも慌てて追いかける。が、いきおい余ってジムのドアに激突してしまった。
「や・・・やにゃ感じィ〜・・・」
そう言い残し、ニャースは気絶した。
「たのもーーーっ!!」
ジムの中に入ったサトリは大声で叫んだ。
「オイオイ、道場破りじゃあないんだから・・・似たようなものか・・・」
コタロウが苦笑いを浮かべる。確かに似たようなものだろう。違うところは勝ったとき貰うのがバッジか看板かということだ。
ジムの中は薄暗く、スタジアム上にはゴツゴツした岩が無数にある。その奥にヒトカゲ・・・ではなく人影があった。暗くてよくわからないがどうやら中年と老人の間のような男性のようである。
「あたしはこのジムに挑戦しに来た、今世紀最後のセクシー系美少女、ハナダシティのサトリ! ・・・あなたがジムリーダー!?」
サトリは男性に向けてアピール的自己紹介をした。すると男性も言葉を返した。
「ほほう、ハナダシティからとは珍しい。ここはマサラから来るトレーナーが殆どなのだ。今日も2人来た。ん、そこにいるのはコタロウ君か? 久しぶりじゃないか、この子は君の彼女かい?」
サトリは顔を真っ赤にした。オクタンといい勝負である。
「そ・・・そんなじゃ・・・」
「久しぶりですね、ジロウさん。この子はマサラタウンの老師の孫なんです。老師のところで修業を終えてハナダシティに帰るところでオレはその道案内ですよ。」
「なるほど、マサラのリーダーの孫か、私はこの町のジムリーダー、ジロウだ。では彼の元で修業したという君の実力を見せてもらおう! 2対2のバトルだ!!」
「わかったわ!コタロウさん、ニドランをお願いね。」
サトリはニドランをコタロウに預け、ジロウのいるスタジアムの向こう側に向き直った。
「頑張れよ!」
「ニドッ!!」
「よーしっ、じゃあ一番手、ポッポ!!」
「ポッポ〜」
サトリの一番手はトキワの森でゲットしたポッポだ。初バトルがジム戦とは、運がいいのか悪いのか・・・? そのポッポを見てジロウが言った。
「君はこのジムの主要ポケモンのタイプを知らないようだな、教えてやろう、君の出したポッポに対して有利な岩タイプ! 出ろっイワーク!!」
「グオオオォーン」
「お、大きい・・・」
イワークと比べるとポッポがまるで豆のように小さく見える。サトリはびびりつつ図鑑を開いた。
「イワーク・・・岩蛇ポケモン、地中を時速80キロで移動できる。」
「岩タイプ・・・でもタイプの相性を跳ね返すことだってできるはず、頭を使った戦いをすれば・・・」
「果たしてそう上手くいくかな?イワーク『体当たり』だ!!」
「グオオッ!!!」
イワークの巨体がポッポに向かってくる。向かってくるといってもイワークは体の下部を軸にして、まるでハンマーを横に振るように体の上半分を振り回してきただけだ。その巨体からは想像もつかないほどのスピードだ。
「ポッポよけて!何てスピードなのかしら・・・」
ポッポは間一髪かわした。イワークの体の上半分は大きく弧を描き回転している。
「よくかわしたな。だがいつまでもつかな? もう一度『体当たり』!!」
「グオオオォーン!!!」
回転の勢いがついて更にスピードが上がっている。スピードが上がればよりよけにくくなり威力も増大する。2度目の体当たりがポッポに襲いかかる。このまま命中すればほぼ確実に戦闘不能だろう。
「どうだ? そのポッポのスピードではこの体当たりはよけきれまい!」
が、サトリは慌てた様子はない。
「よけきれないなら・・・『電光石火』!!」
サトリは何を考えているのか、それは後編で!
第10話に続く。
あとがきにかえて
ニビジムのリーダー、ジロウはあのトップブリーダーの弟です。放送局の話でジムリーダーになりたがっていたので望みを叶えました(おぃ)。兄のようにお姉さん好きかどうかは定かではありません(笑)。
[一言感想]
仮面のつけた支部長がやたら怪しいですが……仮面をつけてて顔を確認できないので、摩り替わってる可能性もある?
老師が子供の頃に持っていたつながりを考えると、にやりとさせられるシーンの多いポケF。
今回はお姉さん好きジムリーダーの弟が跡を継いで、サトリの前に立ちはだかりました。
ちなみにあの彼だった場合、子供とはいえ色気たっぷりな体つきのサトリを見て、どういう反応を示したでしょうか……?