「こっ・・・これは・・・」
サトリは地面に落ちたニドランの髭を見つめながら呟いた。
「何を驚いてるの?そら、もう一発!」
再びエビワラーが拳を繰り出す。が、その拳はニドランのいる方向から大きくずれている。にもかかわらずまたニドランの髭がはらりと落ちた。今度は左の髭である。
「そうか・・・鎌鼬(かまいたち)現象ね!?高速の拳で空気を切って真空状態を作り出す。そこに空気が勢いよく流れ込むことで敵を傷つける刃物になるワケね。」
サトリは誰に向かってでもなく起こったことを説明した。漫画にはよくあるシーンだが果たして小説では・・・?と、説明を聞いていたのかワカナが拍手をしている。
「ビンゴ!よくわかったわね。そう、高速の拳で鎌鼬を起こして攻撃する『ウインドシザー(空気のハサミ)』。エビワラーだからこそ出来る技なのよ。」
“凄い!凄いぞエビワラー!なんて凄い技を持っているんだーっ!!もはやサトリちゃんの敗北は必至かーっ!?”
「馬鹿なこと言わないでーッ!!」
サトリは実況席に向けて怒鳴り声を叩き込んだ。だが、実況の言ったとおりエビワラーの凄さは半端ではないこともわかっている。どうすればいいのかサトリは考えた。
(近付けばパンチや鎌鼬が来る。でもエビワラーは飛び道具系の技は使えないはず・・・一定の距離を保っていれば攻撃は届かないわ・・・!)
「ニドラン!エビワラーから離れるのよ!」
第24話 フルバトル!サトリVSワカナ:4 リングにかけろ
“おっとニドラン、エビワラーから距離をおいたぞ。接近戦は不利と見たか!?”
「ニドラン、『毒針』よ!」
「距離をおけば勝てると思った?甘いわよ!エビワラー、『連続パンチ』!」
エビワラーの繰り出す拳が毒針を次々と砕いていく。目にも止まらぬスピードでまるで拳がいくつもあるように見える。
「エビワラーが接近戦しかできないと思ったら大間違いよ。見せてあげるわ、受けてみなさい、『エレクトロキャノン』!!」
「エビーッ!!」
“あーっと!電気の砲弾がエビワラーの右拳から放たれたーっ!!一直線にニドランへと向かっていくーっ!!”
「ニドランよけてっ!」
先にニドランに届いたのはサトリの声ではなく電気の砲弾だった。ニドランの体は吹っ飛ばされ宙を舞う。
「とどめよ、ニドランが落ちてきたところに『マッハパンチ』!」
“エビワラーがとどめにいったーっ!!”
エビワラーの拳を受けたニドランはサトリのすぐ目の前まで吹っ飛ばされた。当然気絶している。
「ニドラン戦闘不能!エビワラーの勝ち!」
校長がワカナ側のフラッグを挙げるとしばらく静かになっていたはずの観衆がまた騒ぎ出した。
「よっしゃーっ!このまま次のポケモンもノックアウトだーっ!」
「そうだーっ!ワカナちゃんの勝ちは決まったぜーっ!」
「ワ・カ・ナ!ワ・カ・ナ!」
またまたワカナコールがグラウンドを埋め尽くす。サトリはうんざりしていた。一体何度これを聞いたのか・・・
「ニドラン戻って・・・。あたしのポケモンもあと1匹ね・・・ん?」
ふと耳をすませると聞き覚えのある声が聞こえた。サトリはその声が聞こえた方向をちらっと見た。
「ママ・・・!」
そこには自分の母、サトミがいた。隣には愛するコタロウもいる。
「サトリーっ、あたしが来たからには負けて帰るなんて許さないわよーっ!!」
「君なら絶対勝てる!今までの修業の成果、見せてくれーっ!」
「わしも店長の許可をもらってきてやったのじゃにゃー。今回は特別に応援してやるから負けたら承知せんのじゃにゃーっ!」
背が低いため見えないがニャースもいる。サトリは思わず涙腺を緩ませた。
「みんな・・・来てくれたんだ・・・このバトル、負けられないわ!行くのよっ、ピッピ!」
「ピッピー!」
“サトリちゃんの出したポケモンはピッピ!相性の悪さをどう跳ね返すかーっ!?お互いに残るポケモンは1対1、泣いても笑ってもこれがラストバトルだぁーっ!!”
「相手にとって不足はないわ。エビワラー、まずは『ジャブ』よ!」
ジャブとは腕を伸ばし小刻みに打つパンチのことである。威力自体は低いので主に相手を牽制(けんせい)するときに使われる。
「ピッピ、かわして『メガトンパンチ』!」
“おーっと、ピッピが後ろに回り込む。しかしエビワラーも素早く向き直ったぞ!”
「『マッハパンチ』!」
ピッピがパンチの構えに入る前にエビワラーの拳はピッピに炸裂した。ピッピは空中に跳ね飛ばされたがすぐに空中で体勢を立て直しエビワラーに拳を向けて突っ込んでいく。
「フッ、それじゃあ狙ってくださいと言ってるようなものよ。これで終わりにしてあげるわ、『エレクトロキャノン』!」
“出たーっ!エビワラーの必殺ブロー!!ピッピはよけようがないーっ!!”
ピッピにピンチが迫っているというのにサトリは余裕の表情を見せている。
「使ってきたわね、この技を待ってたのよ。見て驚きなさい!」
何と電気の砲弾はピッピにあと少しでぶつかるというところで逆にエビワラーへと向かい始めた。
「何ですって!?」
“あーっとエビワラー、自分で放った技を自分で受けたーっ!これはどうしたことかーっ!?”
実況も観衆も、審判を務める校長も何が起こったのかわからなかった。ただサトミとコタロウだけは理解できているようだ。
「凄いわ!修業の成果ありね!」
「ええ、拳の周りをサイコキネシスでコーティングするなんて。いわば『サイコパンチ』。考えたなサトリちゃん。」
「わしにはさっぱりわからんのじゃにゃ〜・・・」
「はぁ〜さっぱりさっぱり」
何かが後ろを通り過ぎたような気がした。一方ワカナもワケがわからない人の1人だった。
(どういうこと!?拳1つでエレクトロキャノンを返すなんて・・・何が何だかわからない!)
「はっ、しまった!」
技を返されたことに動揺していたワカナはピッピ本体のことを忘れていた。気付いたときは既に遅く、ピッピの拳はエビワラーの頬に命中していたのだ。
「くっ!でも反撃のチャンス!エビワラー、『メガトンパンチ』!」
「しまった!あれを受けてダウンしないなんて・・・」
至近距離のためかわすことも出来ず、ピッピはエビワラーのパンチをまともに受け、逆にダウンしてしまった。
“ピッピがダウーン!起きあがれるのかーっ!?”
「ピッピ、立ってーっ!立つんだジョー・・・いや、ピッピーっ!!」
呼びかけるサトリの顔が何故か眼帯をしているように見えた。ピッピはそのサトリの呼びかけに応えようと立ち上がろうとしている。その前髪は何故か伸び、黒く見えた。
「無理よ、あんな至近距離でモロにパンチを受けたんだもの。えっ!?まさか・・・」
“立ったー!クララが・・・じゃなくてピッピが立ったー!!信じられないタフネスだーっ!!”
ワカナは自分の目を疑った。そんなバカなとでも言いたそうな顔つきで。
「だったら立ち上がれなくなるまでやってやるだけ・・・!?エビワラーっ!?」
何とエビワラーが片膝をついている。先程のピッピのパンチが予想以上に効いていたのだ。
「お互いに体力は限界に近いみたいね。次の一撃で勝負を決めるわよ!」
サトリがワカナを指差していった。ワカナはこくんとうなずく。
“さあ、次の一撃で勝負が決まる!果たして勝利の女神はどちらに微笑むのかーっ!?”
「行くわよ!エビワラー、『マッハパンチ』!!」
エビワラーの高速拳がピッピに迫る。次の瞬間、ピッピの体が沈んだ。
「!?パンチを受ける前に体力が尽きたの!?いいえ違う!沈んだピッピの体がまるで三日月を描くように昇ってくる・・・この技は何なのっ!?」
「『クレセントアッパー』ーッ!!!」
“決まったーっ!!ピッピの強烈なアッパーカットがエビワラーを吹っ飛ばしたーっ!!”
エビワラーは宙を舞いながら既にダウンしていた。
「エビワラー戦闘不能、ピッピの勝ち!よって勝者・・・君は何処の出身かな?」
「ハナダシティです!ハナダシティのサトリ!」
校長の問い掛けにサトリはニッコリしながら答えた。
「そうか、では改めて勝者、ハナダシティのサトリ!!」
次の瞬間、この上なく大きな歓声がグラウンドを埋め尽くした。
「いいバトルだったぞー!!」
「感動した!!」
「ワカナちゃんも惜しかったぞーっ!!」
その中にはさっきまでワカナコールを続けていた者もいる。
「調子いいんだから・・・あっ、ワカナ!」
サトリはワカナの方を向いた。満足げな顔をしながらサトリの方へ近付いてくる。
「負けたのは悔しいわ。だけどこんないいバトルをしたのは生まれて初めてよ。ありがとう。」
ワカナが右手を差し出すとサトリもそれに従い2人は握手を交わした。するとグラウンドは大きな拍手に包まれた。
「サトリ!流石あたしの娘!」
「サトリちゃん!凄いよ!」
「小娘!見直してやるのじゃにゃー。」
2人と1匹がサトリに駆け寄り祝福の言葉を投げかけた。それを聞いたサトリの涙腺がまた緩み出す。
「みんな、ありがと・・・」
「サトリ!次にバトルするときは負けないわ!」
とワカナ。校長も続ける。
「ポケモンリーグの試合でもこれほどの名試合は滅多に見られません。名試合とは良きトレーナー、良きポケモンから生まれます。あなた達のトレーナーとしての将来が楽しみですよ。次にバトルするときもぜひ私が審判を務めたいものですな。」
「い、いやーそんな・・・」
サトリとワカナは一緒に照れながら頭を掻いた。
「で、あたしとのジム戦はどうするの?」
家への帰り道でサトミが尋ねた。
「もう少し時間くれる?」
「いいわよ。1ヶ月でも1年でも待ってあげる。」
「そんなに待たせないって!」
「にゃはは、もっと待たせたりしてにゃー。」
ニャースがサトリをからかった。すぐさまサトリの拳骨(げんこつ)がニャースの頭に落とされ、漫画によくあるような大きなこぶを製造する。
「ニャース、あんまりサトリちゃんをからかうなよ。そういえば今日は招き猫修業はもういいのか?」
「はっ!しまったにゃ!終わったらすぐに戻るように言われていたのじゃにゃ!早く行かにゃければ特訓が追加されてしまうのじゃにゃー!」
ニャースは慌てて駆けだした。3人の笑い声が夕陽に木霊(こだま)していた。
第25話に続く
あとがきにかえて
今回のサブタイトルにある「リングにかけろ」ってなんじゃいってな人のために・・・「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」で世界的な絶賛を浴びた巨匠、車田正美先生の初期の頃の作品です。ボクシングものですが色々な必殺技があったりして少々現実離れしています。それはさておき、車田先生の漫画は面白いです。美形キャラが多いためかバトルものが殆どなのにもかかわらず女性ファンが多いのも特徴です。ただ、矛盾点なども結構あるためそういうのが嫌な人にはあまり向かないかもしれません。理屈や多少の矛盾は気にしない。そんな人にはお勧めです。・・・今回は漫画家の宣伝だけか・・・。
そうそう、今回は色々な漫画やアニメの真似事してるけど、わかるかな?見事全て当てた人には・・・何もないです(蹴)
[一言感想]
フルバトルにもついに決着の時が訪れ、サトリが勝利をつかみましたね。
ワカナコールの中で、精神的にも辛かったでしょうが、頑張りました。
そして、いざバトルが終わってみれば、わきあいあいとしたものでした。
……で、ニャースの修行は一体いつまで?(ぁ)