サトリ達はアオプルコ行きの船に乗っていた。
「わーっ、いい眺めーっ。」
「絶景かにゃ絶景かにゃ〜。」
「天気にも恵まれてよかったな。」
出航前のデッキから外を眺める2人と1匹。それをどこからか見つめる者がいた。
「!」
「どうしたサトリちゃん?」
サトリはあたりをキョロキョロしだした。
「今誰かの視線を感じたのよ。」
「わしかぼっちゃまの視線じゃにゃーか?」
「いえ、確かこっちの方から感じたもの。あっちの方・・・あっ!」
サトリは視線を感じた方向を指差した。そこには岩場があり、その上に誰かが乗っている。
「釣り人じゃにゃーすか?」
「いや、ポケモンだ。白い体の・・・まさかあれは!?オツキミ山の・・・」
コタロウの思ったとおりであった。白い体と刀のような角を持つポケモンである。
「コタロウさんが調べていたポケモン・・・」
「ああ、現れるところに災いが起こると言われるポケモン、アブソル!」
視線の主、アブソルは海に向かい鳴き声を発するとそのままどこかへと跳び去っていった。
「ま、まああまり気にしないで航海を楽しみましょ・・・」
サトリの一言で気を取り直し、船内に戻る一行。だが自分自身に大きな災難が降りかかろうとはこの時思ってもいなかった・・・
第31話 災いの航海
船内にあるバトル場でサトリはバトルに興じていた。
「ナゾノクサ、『葉っぱカッター』!」
「ナゾーッ!」
葉っぱカッターが相手のポッポを撃ち落とした。
「くそっ!戻れポッポ!」
「やったー、これで5連勝♪」
サトリはナゾノクサを上手く使いこなし勝利を重ねている。
「この前ゲットしたばかりのナゾノクサをここまで上手く使いこなせるにゃんてにゃかにゃかのバトルセンスじゃにゃ。」
「ああ。それに成長速度もかなり速い。」
コタロウとニャースが話しているとバトルを終えたサトリがやってきた。
「ふーっ、体が火照っちゃった。プールとかないのかしら?・・・ないか。」
「豪華客船じゃにゃいんじゃからあるわけにゃいのじゃにゃ。」
「やっぱ・・・」
サトリは少し気を落とした。すると近くにいた船員が声をかけてきた。
「ご希望とあらばご用意いたしますが。」
「え、本当?」
「はい、無料サービスとなっております。準備がお済みになりましたらデッキの方にお越し下さいませ。」
そう言うと船員は行ってしまった。サトリは喜んでいる。
「プール用意してくれるって!あたし準備してくるね!」
「わかった。オレ達は先にデッキに行ってるよ。」
「わしはおみゃーの手伝いをしてやるのじゃにゃ・・・うぐっ」
ニャースがサトリについていこうとしたがコタロウがそれを引き止めた。
「下心見え見えだぞニャース。」
「別にそんにゃ・・・」
ニャースはコタロウに引きずられながらデッキへと向かった・・・
10分後、水着に着替えたサトリがデッキにやってきた。
「お待たせー。」
「待ったにゃー。にゃ?にゃははは!にゃに着てるのじゃにゃ〜。小学生じゃあるみゃーし・・・にゃはは!」
ニャースはサトリの水着姿を見て大笑いしている。何故かというとその水着が地味な紺色のワンピース形だったからである。スクール水着と間違えたのだ。・・・スクール水着のようなものだが(汗)。
「おい、何を笑って・・・」
コタロウに注意されるニャースの背後に殺気が迫る。コタロウもその殺気を感じ取った。
「小学生で・・・悪かったわね・・・!」
大きな音が雲の少し出てきた空にこだました。
「さて、プールはどこにあるのじゃにゃ?」
頭に大きなこぶのできたニャースが言った。
「はい、今ご用意いたします。」
船員は輪形に繋がった浮きを海に放り投げた。それを見たサトリ達は目を点にしている。
「お、おい・・・」
「まさかこれがプールとか言わないわよね・・・」
「そのまさかです。船とは繋がっておりますのでどうぞご安心を。」
サトリの言葉を船員は間髪入れずに返した。
「にゃんて安上がりにゃ・・・」
「それに繋がっているとはいえ鎖梯子1本じゃないか!」
「いくら無料サービスだからって手抜きすぎるわ!」
みんな口々に愚痴をこぼすが船員は冷ややかに言った。
「そんなこと言われても仕方ありません。これでも今まで事故が起こったり苦情が来たことは一度もないんです。」
それを聞いた2人と1匹は同時に思った。
(今まで一度もこれを出したことがないだけじゃ・・・)
そんなことを思いながらもサトリが言った。
「ま、まあいいわ!水着に着替えちゃったし入らなきゃ損よね!」
「ご利用ありがとうございます。ではこの鎖梯子からどうぞ。」
サトリは一歩一歩慎重に梯子を下りていった。風が吹くたびに梯子がガタガタと揺れる。サトリは少し怖くなってきた。
(あたし、何でこんなことしてんだろ・・・風も強くなって雲も出てきたし、戻ろうかなぁ・・・)
そう思った頃、ようやく超安上がり海水プールにたどり着いた。海面はかなり波打っている。
「せめてちょっとぐらいは入っていこっと。」
サトリが浮きにつかまりながら海に入ったその時だった。浮きと梯子を繋いでいた金具がスポッと取れてしまったのだ。
「え、ええーっ!?」
慌てて梯子を掴もうとするサトリだが、梯子が風で揺れるため上手く掴めない。そうしているうちにまた強風が吹き、もう一つの金具も取れてしまった。
「サトリちゃん!助けなくては!頼むぞギャラドス・・・」
コタロウがモンスターボールを投げようとした瞬間、まるで狙ったような強風が吹き、船が大きく揺れた。その拍子にボールはコタロウの手から落ちてしまった。
「しまった!」
風はますます強くなり、雨まで降ってきた。これではサトリを助けるどころか船も動けない。
「ああ〜っ、にゃんてことにぃ〜・・・」
「と、とにかく中に入りましょう。風邪をひいてしまう・・・」
船員はそう言うと自分だけさっさと行ってしまった。2つの睨むような視線を背中に受けながら。
「にゃんて奴じゃにゃ!でもこの状況ではにゃにもできにゃいのも事実じゃにゃ・・・」
「くっ・・・ニャース、お前も中に戻れ。オレはサトリちゃんを助けに行く。」
コタロウはギャラドスの入ったボールを拾い、海に向かってかまえた。
「にゃっ・・・そんにゃ無茶にゃ!?」
「確かに無茶だが一刻も早くサトリちゃんを助けなければ!」
ニャースの制止も聞けないほどコタロウは冷静さを失っていた。だが無理もない。旅の仲間、しかも自分を慕っている少女が遭難したのだ。冷静でいられる方が不思議である。
「ぼっちゃま!落ち着くのじゃにゃ!!」
ニャースは爪を立ててコタロウの顔を引っ掻いた。男前の顔に3本の爪痕がつき、血をにじませる。
「・・・っ!ニャース!何をするんだ!」
「ここでぼっちゃまにまでにゃにかあったらわしはおじいさまやおばあさまにどんにゃ顔をすればいいのじゃにゃ!!!」
コタロウはハッとした。ニャースはいつになく真剣な目つきでコタロウを見つめている。
「あの小娘は無事に決まってるにゃ。きっと『あいつ』の孫にゃんじゃからにゃ・・・ヒンバスにゃみにしぶといに決まっているのじゃにゃ。」
「・・・わかったよニャース。すまない。」
コタロウはボールを小さくし、ポケットに戻した。それを見たニャースがニッコリと微笑む。
「雨もいつの間にかやんでるのじゃにゃ。さーっ、作戦会議じゃにゃ!!」
一方その頃、サトリは小さな島の入り江に流れ着いていた。
「う、うう〜ん・・・」
目を覚ましてあたりをキョロキョロした。見たことのない場所だ。遠くにラプラスの群れが、更に遠くには船が見える。サトリが乗っていた船かどうかは遠すぎてわからない。
「何とかしてコタロウさん達にあたしの居場所を伝えないと・・・そうだ、ピジョン・・・あっ!?」
ピジョンを出すことはできなかった。モンスターボールも含めた荷物は全てコタロウに預けてきたのだ。
「そうだった・・・どうしよう・・・コタロウさん達がこの場所にいるって気付いてくれるのを祈るだけか・・・」
サトリはその場に座り込んだ。その光景はアイドルのグラビア撮影のワンカットのようでもあった。
場所は戻って船の上。サトリの遭難の話はあっという間に船内に広まった。
「手抜きサービスで女の子が遭難したんだって。」
「やだー怖〜い。もうこの会社の船には二度と乗りたくないわ〜。」
乗客達は口々にそのようなことを言っている。
「ああ・・・何てことだ・・・私はクビだ、あああ・・・」
全ての原因である船員が頭を抱えている。一方ではコタロウとニャースがサトリの流された方角の特定を急いでいた。
「あの時風は確かアオプルコ側に向けて吹いていた。だから流れ着いたとしたらこの辺りの小島の可能性が高い。」
「よーし、捜索開始にゃ!にゃ?あれはラプラスの群れじゃにゃ!」
ニャースが小島のある方向を指差して言った。
「そうか、あのラプラス達が何か知っているかもしれないな。行こう!ニャース、通訳の腕の見せ所だぞ!そうだ、アオプルコにも連絡を入れておくように船員の誰かに頼んでおこう。」
「はいにゃ!」
連絡依頼を済ませたコタロウとニャースはギャラドスに乗りラプラスの群れに近付いた。
「頼むぞニャース。」
「任されたのじゃにゃ!ちょいとそこのラプラスさん。聞きたいことがあるのじゃにゃ。さっきの嵐の時に流されていく髪の短い小娘を見にゃかったかにゃ?」
突然の訪問者にラプラス達は一瞬戸惑ったがコタロウ達に敵意のないことがわかるとニャースの問い掛けにラプラス語で答えた。
「キュ、キュー、キューン。」
「ふむふむみゃるほど。どうやらあの小島の方ににゃがれていくのを見たと言っているのじゃにゃ。」
ニャースはその能力をいかんなく発揮し、ラプラスから有力情報をゲットした。この能力が役に立つのはオツキミ山以来である。
「よし、行こう。ありがとうラプラス達。」
「感謝するのじゃにゃ〜っ。」
小島へと向かう1人と2匹をラプラス達は歌を歌いながら見送った。航海の無事を祈る歌を・・・
再び小島の入り江、しゃがみこむサトリの目にこちらへ向かってくる影が見えた。
「あ、あれは・・・」
近付くにつれてわかってきた。コタロウ達である。サトリは立ち上がり手を大きく振った。コタロウ達にもそれが見えたらしく手を振り返している。
「よかった、無事みたいだ!」
「あ、コ、コタロウさん・・・っ!」
上陸したコタロウにサトリは飛びついた。目から熱いものが流れ落ちる。
「嬉しい・・・絶対来てくれるって信じてたよぉ・・・」
「ああ、無事でなによりだ。」
「さーっ、感動の再会はそれぐらいにして船に戻るのじゃにゃ!」
ニャースが2人を引き離すように言った。が、サトリはコタロウにくっついたままだ。
「にゃにいつまでもくっついているのじゃにゃ!!」
「もうちょっとぐらいいいじゃないの、誰も見てないんだし。ねーコタロウさん。」
そう言うとサトリはコタロウの胸に自分の胸を押しつけた。コタロウの顔がオクタンのように真っ赤になる。
「はぁ〜見てらんにゃいのじゃにゃ・・・ま、たまにはいいかもにゃ。」
ニャースとギャラドスは顔を背けた。これで本当に誰も見ていない。ように見えるが・・・
「ミャーーー」
上空からキャモメが見ていた・・・そして作者とその妹も含む読者の皆様にも見られていることにサトリは気付いていない・・・
第32話に続く。
あとがきにかえて(今回は長い)
この話はネタ募集していたときにいただいた内容に少し手を加えたものです。クチバの海で遊んでいたサトリが海に流されコタロウが海に住むポケモンの協力を得て探していく・・・という内容でしたが、話の進行に合わせるため少々内容を変更しました。
余談ですが海に投げ出されてそのまま流されていったら生還できる可能性はかなり低いですよね・・・多分。テレビでやるようにうまくはなかなかいかない。自然の前に人間は無力だよなぁ・・・
もうひとつ。何故カントーなのにキャモメがいるのか!?海鳥だから海のそばには多分いる・・・と思いましたので(赤緑青黄でも海鳥ポケモンの話が出てきますし)。恐らくカントーも含めた北の地方で生まれたキャモメが暖かい南のホウエンに渡ってそこでペリッパーに進化するのでしょう(弱)。
最後に。今回の地味水着は軽く水浴び等するときのためのもの・・・という設定です。アオプルコではもっと別のを着せますので次回をお楽しみに(殴)。
[一言感想]
……と言っても、キャモメがポケモンとして数えられたのはルビサファ以降。
それまでキャモメの存在が確認されていなかったのか、ただの動物という扱いでポケモンにはカウントされなかったのか。
どっちだろう(苦笑)。
船旅における悪運の強さは、もはや遺伝の成せる業ですね。
そしてちゃんと生還出来る辺りに、悪運の強さを感じます。
コタロウは役得でした←