アオプルコでのバカンスも終え、ハトバポートで連絡船を待つサトリ達。
「連絡船で乙女ヶ崎に行くとそこからジムがある2つの街に通じているんだ。ヤマブキシティかシオンタウン。サトリちゃんはどっちに行きたい?」
コタロウが尋ねた。
「そうねー・・・どーちーらーにーしーよーかーなー・・・決めた!シオンタウンにするわ!」
「シオンタウンには幽霊が出るのじゃにゃ〜」←体験したことがある奴。
ニャースがおどろ〜っとサトリの目の前に突然現れた。次の瞬間、ニャースの頬には赤い手形がついていた。
「まっさかー・・・でもいいんじゃない?もうすぐ夏も終わりだし。」
「そうだな、夏のラストをシオンタウンで締めくくるのも悪くない。お、連絡船が来たぞ。」
サトリ達は連絡船に乗り、出航を待った。やがて船は乙女ヶ崎へ向かいゆっくりと動き出した・・・
第34話 連絡船上のネオロケッツ
船内の機関室・・・胸に『NR』の文字がある服を着た男達がいた。ご存知ネオロケッツだ。
「よし、うまく忍び込めましたねイッサ先輩。」
下っ端らしき男が小声で言った。
「作戦中だぞ、隊長と呼べ。まあいい、お前達は乗客を大人しくさせろ。私とライデンは操縦室に向かう。」
先輩と呼ばれた男が立ち上がると隣にいた大男も続けて立ち上がった。
「よし、行くとするか。むっ!」
「そこにいるのは誰だ!」
見回りに来た船員の声がした。
「ちっ、しかたあるまい。ライデン、やれ。」
「おう!」
「わ・・・何をする・・・」
ライデンと呼ばれた大男は船員を片手で持ち上げ、軽く振り回すと機関室の壁に投げつけた。船員は壁に強く叩きつけられ気を失った。
「相変わらず恐ろしい怪力だなライデンよ。では今度こそ行くぞ!」
イッサとライデンが操縦室前にやってきた。ライデンは腕をボキボキと鳴らしている。
「さて、ドアをぶっ壊すとするか。」
「うむ。それにしても古い船よな。警報装置どころか監視カメラもないとは。」
「よし、遠慮なくいくぜ、おらあ!!」
ライデンがドアを殴りつけるとそのドアは見事に操縦室側に倒れた。殴られた部分は拳型にへこみ、亀裂が入っている。突然の出来事に中の航海士達は目を丸くするよりない。
「あ、ああ・・・」
2人の侵入者はズカズカと操縦室に入り込み航海士達に挨拶した。「こんにちは。ネオロケッツの者です。今からこの船は我々が乗っ取らさせていただきます。」
イッサは笑顔でそう言った。だが笑顔といっても冷たい、まるで氷のような笑顔である。
「言うことを聞けば何もしない。だが妙な真似をすればこうしてやる!」
ライデンは壁を思いきり叩いた。その部分にボッコリと穴が空いている。航海士達は逃げるに逃げられない。逃げようとすれば自分たちもそこの壁のようにグシャグシャにされてしまうだろう。
「さて、下っ端どもはうまくやっているかな・・・」
その頃、下の船内は大パニックに陥っていた。突然5人の男達が現れその1人ひとりがグラエナを1匹ずつ出したのだ。
「こいつら・・・ネオロケッツ!」
「動くな!静かにしろ!」
団員の1人がサトリに向けて言い放った。もう1人の団員も続けて叫ぶ。
「この船は我々が乗っ取った!!!」
乗客達は団員達の必要以上に大きな声とグラエナの『威嚇』に怯え、うずくまっている。その中にはニャースも入っている。いつもながら情けない。だがその中で1人立ち上がったままの男がいた。コタロウだ。
「この船を乗っ取ってどうするつもりだ。」
「随分と度胸のある奴だな、いいだろう、教えてやる。この船の乗客を人質に今までつかまった我らが同志の釈放を要求するのだ。」
「おっと、我々を倒そうなんて思うなよ。いくら我々が下っ端といってもそんじょそこらのヘボトレーナー以上の実力はある。」
団員達は乗客達を見下すように言った。ここにいるトレーナー達は誰ひとり自分たちにはかなわないと思っているのだ。
「面白い。だったらその実力を見せてくれ。」
「えっ」
コタロウの突然の発言に団員達は目を点にした。自分たちの実力発言にびびって引き下がると思っていた彼等にとって予想外のことだ。コタロウが話を続ける。
「どうした。ここはトレーナーとしてバトルしようと言っているんだ。お前達が勝てばオレはお前達の言うとおりにする。だがオレが勝ったらお前達は素直にお縄につくんだ。どうだ?実力はあるんだろう?」
(上手い挑発ね・・・下手に小馬鹿にして相手を怒らせるよりも自分のペースに乗せて有利な方へ持ち込もうとしている・・・)
サトリはひとまずホッとした。以前、幹部相手に互角以上のバトルをしたコタロウの実力なら下っ端団員なんかに負けるはずはないと信じているからだ。
「よ、よし!わかった!我々が負けたらお縄につくと約束しよう。だがお前も負けたら約束は守れよ。いいな!」
「わかっている。オレは約束は必ず守る主義だ。」
交渉成立だ。だが他の団員達は納得がいかない。
「おい!勝手に約束なんかするなよ!」
「もし負けたらどうするんだ!」
「心配するな。返り討ちにしてあいつの自信を打ち砕いてやる!行け、グラエナ!」
コタロウがボールを手に取る前に1匹目のグラエナが跳びかかる。サトリは思わず叫んだ。
「相手がポケモンを出す前に攻撃を仕掛けるなんて卑怯よ!」
「うるせーっ!これがオレ達のバトル。トレーナーをやっちまえば勝ちなんだーっ!!」
団員がサトリに向けて怒鳴っている間にもグラエナはコタロウに迫っていく。
「危ない、コタロウさーん!!」
サトリは一瞬目をつぶった。恐る恐る目を開けると、そこには倒れたグラエナと何ごともなかったかのように立っているコタロウ、そして燕ポケモン、オオスバメがいる。
「一体何が起こったの・・・?」
サトリと同じことを団員も思っていた。
(どうなっているんだ・・・やったと思った瞬間あのオオスバメが出てきて目にも留まらぬ速さでグラエナを倒しやがった・・・)
「くっ・・・オレはとんでもない約束をしちまったのかもしれねえな・・・だが負けるわけにはいかねーんだ!残りのグラエナ達まとめて行けーっ!!」
4匹のグラエナ達が一斉にコタロウめがけて跳びかかった。だが次の瞬間には4匹が4匹とも最初のグラエナと同じように倒されていた。
「何て凄い技なの・・・一瞬のうちにあのオオスバメの翼がまるで刀を振るったように横一閃されていた・・・」
何が起こったかわからない乗客達の中で、サトリだけが起こったことを見抜いていた。そしてその場にいる乗客全員が理解したこと、それはコタロウが相当の腕を持つトレーナーだということである。
「さあ、約束通りお縄についてもらうぜ。」
大きな口をたたいたわりにあっけなく倒された団員達はコタロウの言葉を前に言い争いを始めた。
「お前があんな約束するから!」
「お前だって同意しただろ!・・・フッ、まあいいさ。オレはこんな凄い男と戦えて本望だぜ。」
「カッコつけるなーっ!」
「どっちみち隊長やボスに知れたらオレ達クビじゃ済まないよ・・・」
そんなことを言い合っているうちに乗客達は次々と立ち上がり、彼等を取り囲んでしまった。立場逆転である。
「よくも楽しい船旅を邪魔してくれたな!」
「誰かロープ持ってこーい!こいつら縛るから。」
「ひいいーっもう二度としないから許してーっ!」
団員の1人が泣いて許しを乞うがそんなことで許されるなら警察もGメンも必要ない。
「何言ってるんだ!約束したのはそっちだろーっ!」
「いや約束したのはオレじゃなくこいつ・・・ぎゃーっ縛るならもっと優しく・・・」
5人の団員達は乗客達の手によってあっという間に縛られた。
「よーし、これで終わりだ。乙女ヶ崎に着いたらこいつらを警察に突き出そう。」
「・・・いや、まだ終わりじゃない・・・!」
コタロウが呟くのを聞いたサトリはふと窓の外を見てハッとした。
「・・・っ!船が停まってる!?ということは・・・!」
「そうだ、操縦室の方にも敵がいるはずだ!そいつらも倒さなくては・・・!むっ!?」
コタロウが刺すような視線を感じて振り向くと、今までいなかった別の団員がそこにいた。綺麗な顔立ち、鋭い目に流れるような銀髪、背の高い男だ。
「おーっ、隊長ーっ!助けてくださーいっ!」
下っ端達はその男、イッサ隊長に救いを求めるが、その返事は冷たいものだった。
「下が騒がしいと思ってきてみればそのざまか。お前らのような間抜けはネオロケッツに必要ない。」
それだけ下っ端に言い放つとイッサは再びコタロウの方を向いた。コタロウもモンスターボールを手に取り、彼を睨みつけている。
「やる気か、面白い!やってやろう、行けっザングース!」
体中に古傷が刻まれたイタチのようなポケモンがコタロウに襲いかかる。
「行け、サンダース!」
サンダースは前足を突きだしてザングースに立ち向かう。
「馬鹿め、爪の勝負でザングースに勝てるか!何っ!?」
電撃を帯びたサンダースの爪はザングースの腕を直撃した。ザングースはとっさにかわしたが少し痺れているようだ。
「相手の一番の武器を封じる・・・はじめからそれが狙いだったのか・・・戻れザングース。フッ、まさか君のような凄腕トレーナーがこんな船に乗っていたとはな。今回は身を退こう。」
そう言うとイッサはトランシーバーを取り出し、上のライデンと交信を始めた。
「私だ。ライデン、引き上げるぞ。当初の計画通り自分のポケモンを使ってだ。」
“了解。”
交信を終えるとイッサはデッキに向けて走り出した。それをコタロウとサトリ、ついでに今までずっと震えていたニャースが追いかける。
「待て!逃げる気か!」
「逃がさないんだから!」
「楽しい船旅をだいにゃしにしやがって〜!慰謝料払ってもらうのじゃにゃ〜っ!!」
「フッ、待てと言われて待つ者がいますか!」
デッキにたどり着くとイッサはモンスターボールを放り投げた。中から出てきたのは太古の翼竜を思わせるポケモンだ。
「何っ!あのポケモンは・・・」
「さらばだ!縁があったらまた会おう!」
翼竜はイッサを乗せ、あっという間に飛び去っていった。空にはもう一体、大男を乗せた赤い翼を持つドラゴンポケモンもいる。
「あいつがライデンとかいう奴か!」
「あばよ!」
ライデンはそう言い残し、ドラゴンは飛び去った。サトリ達はデッキに立ちつくしている。
「結局逃げられちゃったね・・・」
「だがもしまた会うようなことがあればその時は倒す!」
「慰謝料もいただくのじゃにゃ〜っ!!」
ニャースの叫び声を放ちつつ、船はゆっくりと動き出した・・・
1時間後シオンタウンへと通じる道をサトリ達は歩いていた。ふとサトリがつぶやく。
「はーあ、漂流にシージャック・・・あたしって船旅運ないのかなー・・・」
「そんなに気にすることはないさ。偶然だよ。」
「そうかなぁ・・・」
サトリは不安をぬぐい去れない。そこへニャースが間の抜けた声を放つ。
「それにしてもあのネオロケッツの下っ端達ったらにゃかったにゃ〜。座ったまま引きずられて警察に着く頃にはズボンの尻がやぶけてたしにゃ〜!真のロケット団にはあんにゃにゃさけにゃいことにゃどあり得にゃいのじゃにゃ〜。」
どうでもいい話だが、聞いているサトリの顔には笑顔が戻ってきた。ニャースの顔に笑ったのだ。
「クス・・・嫌なこと忘れちゃった。そうよね、色んな事乗り越えて立派なトレーナーになるのよね。ニャース、ありがと。」
サトリはニャースの頭をポンと叩いた。
「にゃ・・・わすは別ににゃにも・・・まあいいかにゃ〜・・・」
大変な船旅を経験したサトリ達。この道をまっすぐ行けば次の町、シオンタウンだ。
第35話に続く
あとがきにかえて
船には詳しくありません。話の中では操縦室といっている場所ももしかしたら別の名前があるかもわかりません。知ってる人教えて・・・(蹴)
さて、今回登場したネオロケッツ団員、イッサとライデンの名前の由来を説明します。イッサは江戸時代の俳人、小林一茶。ライデンは勝率1位という今も破られていない記録を持つ江戸時代の力士、雷電為右衛門(この字であってる・・・と思う)からとりました。気付いたかな?(何)
[一言感想]
なんだかんだで、これまで表立ってなかったコタロウの実力が垣間見える回でした。
これには、サトリにも高ポイントだったかも?
サトリの船運は、遺伝的なものが強そうだから仕方無いとも言える^^;