祭りを終えて次の朝、サトリ達はポケモンセンターで朝食をとっていた。
「やっぱり朝はご飯に味噌汁が一番よねーっ。」
サトリには和食派なところもあるようだ。
「健康的な食べ物だよね。」
コタロウが納豆をかき混ぜながら言った。彼も案外和食派なのかもしれない。
「そして漬け物はにゃす!茄子にゃのじゃにゃ〜。」
「茄子はいやー・・・」
そう言うサトリの目の前に茄子をつかんだニャースの箸が突きつけられた。
「ほ〜れほ〜れ、茄子じゃにゃ〜。」
「いやーっ!食べさせないでーっ!!」
「ニャース、品がないぞ。」
コタロウの制止も聞かずにニャースは続ける。テーブルを乗り出しながら続けていると突然腰がピシッと音を立てた。
「や、やばいのじゃにゃ・・・少しも動けにゃいのじゃにゃ・・・動いたら激痛じゃにゃ〜・・・」
「ホラ見ろ、言わんこっちゃない。」
「ふーんだ、いい気味よ。」
2人の言葉がグサリと突き刺さる。だが事実なので言い返せない。そうこうしているうちに2人は朝食を食べ終えた。
「ごちそうさまでした。」
2人は同時に言った。ニャースは相変わらず動けないままだ。
「痛みを我慢して動いたら?」
サトリの言葉にニャースは猛反論する。
「にゃにを言うにゃ!おみゃーにはあの激痛がわからにゃいからそんにゃことが言えるのじゃにゃ!」
「だからといって永遠にそこでそうしているわけにもいかないぜ。ジョーイさんを呼ぶか?」
「そうね、それがいいわ。」
サトリもコタロウの意見に賛成し、ジョーイを呼びに行った。もう少しの辛抱だ。やがてサトリが戻ってきた。
「ジョーイさんは今忙しいからラッキーが代わりに来てくれたよ!」
「ラッキー。」
「助かったのじゃにゃ・・・にゃ?」
ラッキーはニャースの腰をつかみ、思いきり引っ張った。その瞬間ニャースの腰に電撃が走・・・らなかった。腰を動かさないように引っ張ったからだ。さすがはプロの看護婦、ラッキーである。
「ほっ・・・助かったのじゃにゃ・・・」
ニャースはホッと安堵のため息をついた。が、ラッキーはニャースをかついだまま行こうとする。治療室に連れて行くつもりなのだ。
「わしはもう大丈夫にゃのじゃにゃ!ぼっちゃまお助け〜・・・」
「いいじゃないか、診てもらえよ。」
ニャースの助けを呼ぶ声もむなしく、そのまま治療室へと連れて行かれてしまった・・・
第36話 サトリ、初デート?
「いやー、一時はどうにゃるかと思ったけど今はとても調子がいいのじゃにゃ〜。」
ニャースが背伸びをしながら言った。
「でもしばらくは無理するなよ。わかったか?」
「わかっておりますじゃにゃ。」
今度はコタロウの注意をちゃんと聞いた。さっきのぎっくり腰がいい薬になっている。
「さーて、そろそろジムよ。今日こそバッジをゲットするんだから!」
が、今日もそれができないということをサトリは数分後に知ることになる。
「ま、まだ閉まってるーっ!?」
そう叫ぶとサトリは目眩を起こしたのかフラッと倒れそうになった。コタロウが慌ててそれを支える。
「大丈夫かサトリちゃん。しっかりしろ。」
「だ、大丈夫・・・それにしても何でジムがまだ休みなのかしら・・・」
「う〜む、私用って祭りの事じゃにゃかったのか・・・」
ニャースが決まらない推理ポーズをしながらつぶやく。
「まー仕方ないわ!今日は散歩でもしましょ。そうだわ、シオンの塔に行こうか!町のシンボル、シオンの塔に!」
急にサトリが開き直ったように言った。あまりの切り替えの早さにコタロウもニャースも目を丸くしている。
「そ、そうだな、行こうぜ。」
「うん!さっそく出発ー!」
「わしは遠慮しておくのじゃにゃ。」
ニャースは背中を向けた。サトリとコタロウは今度は目を点にしている。
「きっと幽霊が出るのじゃにゃ!昔この町の別の塔に入ったときに散々な目にあったのじゃにゃ!しかも町で一番古い建物にゃんて・・・最強の幽霊が出るに決まっているのじゃにゃ!!許してくれにゃ!!」
そう言い残し、ニャースはダッシュでもと来た道を戻っていった。2人は目を点にしたままだ。
「ニャースって恐がりなのね・・・」
「この町で昔いやな事があったらしいな・・・仕方ない、2人で行こうぜ。ニャースはポケモンセンターに戻るんだろう、心配いらないさ。」
『2人で行こうぜ』この言葉にサトリの胸は高鳴った。2人できり行く=デートの公式がサトリの頭の中でできあがっていく。
(コタロウさんとデート!初デート!やった!)
サトリがさりげなく手を差し出すとコタロウがその手を握った。それによってサトリの胸の高鳴りは更に増していく。
(神さまありがとう・・・サトリは今幸せです・・・)
2人は手をつなぎながらシオンの塔へ向かった・・・
シオンの塔、入り口・・・
「間近で見るとますます大きく見えるわ・・・」
「昔の人も凄いものを立てたものだな・・・」
2人は塔を見上げながらつぶやいた。塔はまさしく天を突き刺さんばかりに一直線に立っている。ずっと見上げていると首が痛くなりそうだ。
「じゃあさっそく塔内見学といきましょうか!」
塔を見上げていた首を降ろし、サトリは駆け足で塔の中へ入っていった。コタロウもそれを追いかける。その時、コタロウは一瞬何かの気配を感じた。塔の中からだ。
(むっ・・・何だこの気配は・・・幽霊か、ポケモンか・・・いずれにしろこの塔には何者かがいる!)
「コタロウさーん、早くーっ。」
「あ、ああ。今行く。」
コタロウの感じたように、この塔には住人がいる。しかも1人や2人ではないようだ・・・
その頃、ニャースは・・・
「はぁ・・・2人とも追いかけてこにゃいのじゃにゃ・・・まさか本当に塔に入っていったんじゃあるまいにゃ・・・」
本当は1人で淋しかった。
「でも考えようによっては心配にゃーす。あの2人だったら幽霊にゃんかあっとゆー間にやっつけて戻ってくるのじゃにゃ。」
「ちょっとそこのにゃあちゃんや。」
「にゃ?ぎゃっ!」
ニャースが振り向くとそこには全身黒ずくめの老婆がいた。びびるのも無理はない。
「なにが『ぎゃっ!』じゃ!まあええ、ところでにゃあちゃん、今『塔に入った』とか言っておったがまさかシオンの塔に入ったのかい?」
「わしは入ってにゃいのじゃにゃ。怖いからにゃ。ぼっちゃまと小娘は入ったかもしれにゃいにゃ。でもあの2人はとても強いから今頃幽霊をやっつけてるのじゃにゃ・・・」
ニャースは仲間自慢を始めた。延々と話し続け、終わった頃には老婆は欠伸をしている。
「もう終わりかい?じゃあ今度はこっちの話だ。毎年この季節になるとシオンの塔で恐ろしいことが起こるのじゃ!」
「恐ろしい・・・ことにゃ・・・?」
ニャースはつばをごくんと飲み込んだ。老婆が話を続ける。
「そうじゃ。塔に入った者が消息を絶ち、しばらくすると裏手の墓地で見つかる。じゃがそいつらは皆自分の恐ろしい物を見てひどいときには発狂してしまう者もいるのじゃ。」
「は、発狂〜・・・?」
ニャースの背筋に悪寒が走る。あの2人なら心配ないと頭ではわかっているがもしかしたらという恐怖がどうしてもぬぐい去れない。
「ぐぐっ・・・ぼっちゃま〜・・・!」
ニャースは戻ってきた道をまた引き返し走りだした。
「待ちなされ、どこに行くつもりじゃ!・・・まさかシオンの塔へ!?自殺行為じゃ!!」
老婆は慌ててニャースを引き止めようとするがニャースは首を横に振った。
「たとえ自殺行為でも・・・ぼっちゃまのピンチを見て見ぬふりにゃんてわしには出来にゃい!!ばーさん、教えてくれてありがとうにゃ!あんたのことは一生忘れにゃいのじゃにゃ!!」
老婆の制止を振り切り塔へ向かうニャース。その姿にはいつもの情けなさは微塵もない。
「はあはあ・・・ぼっちゃま・・・待っててくださいにゃ〜!うっ!」
ニャースの腰に電撃が走る。無理のしすぎだ。いつもならここで叫び声を上げるところだがニャースは歯を食いしばって耐えた。
「ぐぐ〜っ!這ってでもぼっちゃまのもとまで行くのじゃにゃ〜っ!」
一方、こちらはシオンの塔1階。サトリとコタロウが見学を楽しんでいた。
「意外としっかりした造りになってるのねー。」
「古代人の技術は相当のものだったんだな。ん?」
コタロウが一瞬足を止めた。背後に気配を感じたのだ。
(この気配・・・塔に入る前に感じたものと同じ!)
だが振り向くと何もいない。気配も消えている。
「きゃあ!!」
「どうした!?」
サトリの悲鳴を聞いてコタロウが向き直ると、今度はその姿をハッキリと捉えた。黒い球体状のボディに目と口を持ち、ガスのような瘴気に包まれたポケモンだ。
「こいつは幽霊ポケモン、ゴース!」
「・・・ゴース?」
サトリは恐る恐る図鑑を開いた。ゴースは何が楽しいのかニタニタ笑いながらそれを見ている。
「ゴース・・・ガス状ポケモン。光化学スモッグから発生した、異次元の世界からやってきたなど諸説あるがいずれも仮説にすぎず未だその実体は不明。」
「ケケケ・・・ゴォースゴォス!」
図鑑の説明が終わるとゴースは天井に吸い込まれるように消えてしまった。サトリは混乱している。
「て、天井に入っちゃった!?どーなってんのよぉ!!いきなり現れたり消えたり・・・わけわかんない!!」
「いや、恐らく通り抜けて上の階へ行ったんだ。幽霊ポケモンにとっては造作もないことさ。」
気配の正体が幽霊ポケモンだとわかった今、コタロウは落ち着いている。だがサトリは未だに混乱が解けていないようだ。
「きゃーっ!逃げましょぉ〜っ!!」
・・・と言うが早いか入ってきた方へ走っていった。そのサトリをなだめようと追いかけるコタロウ。
「サトリちゃん落ち着いて・・・」
「きゃーっきゃーっ・・・えっ!?」
サトリはふと我に返った。出口がどこにもないのだ。
「えっ・・・?出口はどこよ!?」
「何っ?出口が消えている・・・馬鹿な!」
この塔は一本道。逆に走れば確実に出口にはたどり着けるはずなのだ。
「もしかして・・・幽霊ポケモンの仕業?」
「恐らく・・・」
「と、閉じこめられた・・・」
サトリはがっくりと肩を落とした。そのサトリに沸々と怒りがこみ上げてきているのが感じられる。
「許さないーっ!その張本人をゲットしてやるんだから!!」
「そうだ、そうすれば出られるようになるかもしれないな。」
「そうと決まればぜんは急げよ!2階に行きましょう!!」
サトリはケンタロスの如くもと来た道を走りだした。コタロウもそれを追いかける。2人は階段を駆け上がり、2階へと駆け上がった。
「ボスーっ!出てらっしゃーい!!ん?」
「どうした・・・むっ!?」
2階に入った瞬間、2人は妙な違和感を感じた。思わず辺りをキョロキョロと見回す。
「どういうことだ、階段を上ってきただけなのに何故か別の場所に入り込んだような違和感を感じるとは・・・なっ!」
「コタロウさんも?・・・あっ!」
まわりには気絶したゴースが一面に転がっている。その視線を少し上に上げていくと見覚えのある少年の姿があった。
「カ、カオル!?」
第37話に続く
あとがきにかえて
この塔は言うまでもなく若き日の老師が入ったものとは別のものです。アニメでは1話しかシオンタウンの話はなく、確認できる建物がポケモンタワーしかなかったけどそれとは別にこんな建物を考えてみました。電ピカのシオンタウンの話で『創世記に名を残す・・・』というくだりがあったので古代人の造った塔なんかあったら面白いかなぁ・・・と(笑)。
[一言感想]
シオンタウンで幽霊騒動はもはやデフォですね。
でも、サトリは初デートを満喫できて、幸せなようです。
カオルは今回、久々の登場。
ハナダの老婆と行動を共にしたシーン以来でしたっけ?