シオンタウンジムリーダー・レイカを探しにイワヤマ連峰洞窟の奥にある聖域に入ったサトリ達。守り神のイワークに襲われながらも何とかレイカに会うことができた。
「自己紹介がまだだったわね。あたしはサトリ。ジムに挑戦したいの!」
「・・・そう、わかったわ。・・・こちらの男性と老ニャースは・・・?」
明るく挨拶するサトリとは対照的にレイカの返事は暗い。この洞窟の闇に溶け込んでしまいそうな声だ。
「オレはコタロウ。サトリちゃんと一緒に旅をしている。」
「わしはニャース!コタロウぼっちゃまのお供じゃにゃ!!」
「そう・・・じゃああたしも改めて自己紹介するわ。シオンタウンジムリーダー・レイカ。そしてこの子はあたしのポケモン、ムウマ。」
「ムゥ〜・・・」
レイカがムウマの頭を撫でると、ムウマは軽く会釈をした。
「あっ、可愛い〜。」
「ムウマ・・・夜鳴きポケモン。夜中に突然鳴き声を発して人を驚かすのが好き。」
サトリは図鑑を閉じ、ムウマを撫でようとするとそのムウマはレイカの後ろにささっと隠れてしまった。
「あらら、恥ずかしがり屋さん?でもそこがまた可愛い〜v」
サトリはすっかりムウマを気に入ってしまったようだ。と、その時後ろに別の人間が現れた。建設作業員風の男だ。
「見つけましたよレイカさん。今日こそはこの洞窟を我々に譲っていただきます!!」
第39話 魔の発電所!聖域を守れ
「な、何なのよあんたは!」
突然の怪人物の登場にサトリは驚きをあらわにしている。そんなサトリを尻目に男はレイカに向けて何やら紙を差し出した。
「さあ、この契約書にサインを!さあ!さあ!!」
「・・・この話はきっぱりとお断りしたはずです。お帰りください。」
ただ暗いだけだったレイカの言葉に今はハッキリと変化が表れているのがわかる。怒りの念がこもっているようだ。だが男はなおも引き下がらない。
「いえ、サインをしていただけるまで帰れません!こんな危険な場所まで来たのだからそうでなければチーフに合わせる顔がない。」
「・・・そうですか・・・でしたらこうするよりありません。ムウマ。」
ムウマは男の方を向き、目をカッと見開いた。すると男の体は宙に浮き、回転を始めたのだ。
「な、何をするんです!」
男は体をジタバタさせるが回転は止まるどころかますます速度を上げていく。
「サイコキネシスか!」
「何て力なの!?」
「凄いにゃ!」
やがて回転は止まり、男は尻餅をついて落下した。すぐに起きあがろうとするが目が回って思うように立つことができない。
「くっ・・・まだフラフラする・・・仕方ありません。残念ですがあなたの意志をそのままチーフに伝えます。ご覚悟を。」
男は捨て台詞を吐くと千鳥足でその場を立ち去った。
「な、何よあいついきなり現れてあの偉そうな態度!ムカツク〜!!」
サトリの驚きは怒りに変化している。そのサトリをなだめつつコタロウがレイカに尋ねた。
「まあまあ・・・ところであいつは何者なんです?洞窟を譲るようにとは一体・・・?」
「・・・イワヤマ発電所の改修工事をしている者の1人です。水力発電に必要な水をこの洞窟の底にある水源から得ようとしているのです・・・」
レイカが語りだした。
「この洞窟の地下には大昔から無尽蔵とも言える量の地下水が眠っています。ここにある泉もそこから湧き出ているの・・・」
「イワヤマ発電所?」
「・・・ここのちょうど裏にある発電所です。長い間使われていなかったのですが最近になってポケモンリーグカントー支部から名を変えた組織、ブラック・サンが買い取り改修工事を始めたのです。何の目的かはわかりませんが・・・」
サトリ達は目を丸くしている。話の内容もさることながらさっきまでのレイカとは別人のように話し続けているからだ。
「・・・もしここを彼等に譲り渡せばここは破壊され水の底に沈んでしまう・・・この聖域を守る義務があたしにはあるのです・・・」
「でもさっきの男のあの様子じゃ強行手段に出そうじゃない?そうなる前に奴らをやっつけましょうよ!あたしも手伝うから!」
サトリが提案した。が、レイカは首を横に振る。
「・・・そんなことをすればあなたは組織のブラックリストに載ってしまいます。身に危険が降りかかるのかもしれないのよ?旅のトレーナーにそんなことにはなってほしくない・・・」
「だからといってこのままでは奴ら何をするかわからないぜ?よし、オレが行こう。そう簡単にはやられないさ。」
コタロウの発言に今度はサトリが首を横に振った。
「いえ、あたしも行くわ。あたしだってそう簡単にはやられないもの!」
「わしも微力にゃがらお手伝いしますにゃ〜!」
ニャースも行く気まんまんだ。それを見たレイカはクスッと微笑む。
(フフ・・・この人達、何て熱い魂を持っているのかしら・・・この人達ならもしかしてあの方を止められるかもしれない・・・)
「・・・わかりました。あたしも行きます。あなた達だけにやらせるわけにはいかないもの。」
「レイカさん・・・ありがとう!」
イワヤマ発電所・工事現場・・・
「そうか・・・レイカさんからまた断られたか・・・」
「はい。申し訳ありません。」
男が深々と頭を下げるとチーフはニッと笑って言った。
「まあいい。これは彼女の我等ブラック・サンに対する反逆行為ととることもできる。それを会長にご報告すれば彼女の討伐許可も下りよう。洞窟を崩すのは彼女を始末してからでも遅くはあるまい。」
「はっ・・・それとレイカとは別の奴が・・・」
その時、突然サイレンが鳴り響きだした。向こうから作業員の1人がやってくる。
「チーフ!侵入者です!男1人女2人ポケモン2匹!」
「なにい!追い払え!」
「はっ!」
侵入者とは言うまでもなくサトリ達である。この辺りの地理を知り尽くしたレイカがいるので辿り着くのにわけはなかった。
「行けーっ!イシツブテ!ディグダ!」
作業員達は作業用のポケモンを次々と繰り出した。だが実戦経験のないポケモン達がバトルを繰り返してきたサトリ達のポケモンにかなうはずはない。
「ナゾノクサ、『葉っぱカッター』!!」
「ナゾーッ!!」
「ギャラドス、『竜巻』!!」
「グオォーッ!!」
サトリ達に襲いかかるポケモン達は一瞬のうちに倒されていく。
「うわーっ、逃げろーっ!」
「逃がしはしにゃいのじゃにゃ〜!老練にゃ『乱れ引っ掻き』を受けてみるにゃ〜っ!」
逃げようとした作業員達はニャースの爪の洗礼を受け、その場に崩れ落ちた。
「安心せい。みねうちじゃにゃ。」
・・・乱れ引っ掻きにみねうちがあるかい・・・?ただのかっこつけである。
「チーフとかいう奴の居場所を聞き出しましょう!」
「・・・いえ、聞き出すまでもなさそうですよ・・・」
そう言うとレイカはふっと明後日の方向を指差した。その指の先にはさっきの作業員風の男ともう1人、黒い太陽のマークがある腕章を付けた男がいる。
「おや、侵入者が誰かと思えば裏切り者のレイカさんに見知らぬ小娘、それにハンサムボーイか。」
「チーフ!こいつらです!レイカと一緒にいた奴は・・・」
男はサトリ達をビシッと指差して言った。サトリはムッとした顔をする。
「なっ・・・こいつらとは何よー・・・」
「・・・裏切り・・・?それはあなた達の方です。あたしが会長の配下に下る条件は聖域には手出ししないということのはず。お忘れになったのですか?」
レイカの表情にはさっき以上の怒りがこもっている。その表情もその大人しそうな顔からは想像もつかないほど厳しいものだ。
「約束・・・ですか?わたしは聞かされておりません。わたしはただ会長直々にその聖域とやらを水源にこの発電所を改修せよとのご命令を受けただけですので。」
その言葉を聞くと、レイカの中で何かが切れた。
「・・・わかりました・・・ではあたしの方も今限りで会長の配下から抜けさせていただきます。・・・そして、聖域を破壊しようとする者には容赦なく制裁を加えます・・・!」
「フッいいでしょう。では会長にご報告するまでもない。ここで消えてもらいます。このブラック・サン開発部長、アイゼンの手でね!」
そう言うが早いかアイゼンは自らのモンスターボールを手に取り、瞬時に放った。出てきたのは黄色い体に黒い稲妻のような模様のある二足歩行型のポケモンだ。
「エレブー・・・電撃ポケモン。強い電気が大好物で発電所にしばしば現れるが捕獲例は少ない。」
「よーし、じゃああたしが・・・」
サトリが図鑑をしまい、ボールをかまえるがレイカの手がそれを止めた。
「・・・あたしにやらせてください。あたし自身で彼等を倒したいのです。」
「えっ・・・そうね、わかったわ。」
サトリは素直に退いた。これはレイカがすべき戦い、そしてこの戦いでレイカの実力を見ることができる。そう考えたからだ。
「よろしいのですか、後悔しても知りませんよ。」
アイゼンが嘲笑うかのように言うと、レイカは人差し指を立て、彼に向けた。
「・・・その言葉、そのまま返させてもらいます・・・出よ、ゲンガー。」
レイカの体から紫色のオーラが放たれ、手にしている黒いモンスターボールが砕け散った。その中から現れたのは黒と紫の中間のような色をした体に手足の生えたポケモンだ。その目は血のように赤く、口は大きく裂けている。
「ゲンガー・・・シャドーポケモン。ゴーストの進化形。その生態の多くは謎。」
「なんですって・・・あの強かったゴーストが更に進化したポケモン・・・信じられない!」
「どちらにも強さには定評のあるポケモンだ。激しいバトルになるぞ!」
コタロウがお互いのポケモンを見ながら言った。サトリとニャース、そして敵の部下も同じように見つめながらバトルの開始を待っている。
「忠誠の証である黒のボールを砕くとは・・・どこまで我等が会長を侮辱するか!エレブー、『10万ボルト』!!」
「エレーッ!!」
「・・・ゲンガー、『10万ボルト』。」
「ゲェーン!!」
お互いの放った電撃がぶつかり合い、中心ではじけ飛んだ。相殺である。10万ボルトの威力は全くの互角だったのだ。
「なるほど、同じ威力とは・・・これではお互いにもう『10万ボルト』は使えませんね。しかし勝つのはこのわたしです。エレブー、『電光石火』!」
アイゼンが一声叫ぶとエレブーはかがみながらゲンガーに向けて突っ込んでいく。
「何っ!?ノーマルタイプの物理攻撃はゲンガーには通じないはず、それを何故・・・むっ、まさか・・・」
突っ込むエレブーの右腕に電気が集まっていくのがわかる。そしてエレブーはゲンガーの足下に来ると、その右腕を一気に振り上げた。
「『ライジングサンダー』!!」
まっすぐに伸びる電撃を帯びた右腕がゲンガーを真っ二つに裂いた。ゲンガーはそのまま空気に溶け込むように消えていく。サトリ達は声も出ない。
「驚くことはありませんよ。」
アイゼンが言った。
「この技は『雷パンチ』をアッパーカットで繰り出したものです。アッパーカットはボクシングでも最もKO率の高いパンチのひとつ。それに電撃の威力が加わればご覧の通り。さて、次のポケモンを出しますか?レイカさん・・・」
その問いにレイカはクスッと微笑みながら答えた。
「いえ・・・だってゲンガーはまだ健在ですもの・・・」
「なにっ!」
見るとエレブーの後ろにゲンガーがいる。その下半身はエレブーの影と同化しているではないか。
「ええーっ!?」
「ホラーじゃにゃ・・・」
「ゲンガーは影に入る能力があるんだ。しかし目にも止まらぬ速さだ。あのゲンガー、相当の実力だぞ!」
ゲンガーは影から離れ、もといた場所に着地した。
「馬鹿な・・・エレブーが引き裂いたのは残像だったのか・・・ならばもう一度受けてみるか!エレブー、『電光石火』・・・何、どうしたエレブー!?」
エレブーはその場から動こうとするものの足が動かない。体の他の部分は動くが足だけはどうしても動かないのだ。
「な、なにい・・・どうしたことだ・・・」
「『シャドーフリーズ』。もうエレブーはそこから一歩も動けません。さあ、あなた達の真の目的を話しなさい。」
「フッ、いいでしょう。あなた達はいずれにしろ消えるのですから。」
アイゼンは強がるように言いながらも額には冷や汗が浮かんでいる。
「会長がカントー中のジムに渡した黒いボール。それはいわば子機。親機からの電波がなければただのモンスターボールだが、電波を受信すればたちどころに中のポケモンは会長の支配下に置かれるのです。」
一同は唖然としながら聞いている。アイゼンは更に続けた。
「そしてこの発電所を使って親機からの電波をカントー全土に発信することこそ我等の目的!カントーは会長のもとで平和な独立国家として生まれ変わるのですよ。さて、お話はここまで。消えてもらいましょうか。」
突然ゲンガーに電撃が浴びせられた。だがエレブーが攻撃を仕掛けた様子はない。見るとエレブーを中心に大きな電撃の輪が広がっている。
「『エレクトリックサークル』!この中に入った者は電撃の洗礼を受けます。人間も例外ではない。わたしを除いてね。さあ、もっと広げますよ。我々に牙を向けたことを黒こげになって悔やむが良い!」
「・・・悔やむのはあなただと言ったはずです・・・この技は使いたくありませんが仕方ありません・・・」
レイカの体から再び紫色のオーラが放たれた。アイゼンは思わず後ずさりしながらも言い返す。
「何を負け惜しみを・・・なっ、これは!?ゲンガーのまわりに円形のオーラが取り巻いている!!」
そのオーラはレイカの体から放たれるオーラと同じ紫色をしている。
「・・・『ファントムゾーン』。強力な霊能者と心を通わせたハイレベルの幽霊ポケモンだけが使える幻の奥義です。」
ゲンガーのゾーンはどんどん広がり、エレブーのサークルをも飲み込んでしまった。
「なっ・・・だからどうだというのだ!エレブー、『雷』だ!!」
エレブーが雷を呼ぶが、それはゲンガーに命中することなく分散しゾーンに吸い込まれていった。
「ば、馬鹿な・・・このゾーンは究極のバリアだとでもいうのか・・・」
アイゼンにはもはや強がりを言う余裕もない。ふとゲンガーを見ると何かのエネルギーをためているように見える。
「・・・邪悪な野望のために山を切り崩し、我々の聖地をも侵そうとするあなた達の行為・・・許すわけにはいきません・・・!!受けなさい、『ゴーストハリケーン』!!」
ゲンガーが大きく口を開けるとそこからためていたエネルギー=霊気が渦を巻きながらエレブーに向かっていく。
「エレーッ!!」
エレブーはアイゼンと部下の男を巻き込んで飛ばされていく。
「チーフゥ〜っ!なんでわたしまで巻き添えにィ〜!」
「その場にいたお前が悪い!くっそぉ!これで勝ったと思うな、必ず戻ってく・・・・・・」
そう捨て台詞を吐き、アイゼン達は空に消えていった。サトリ達はそれを呆然と眺めている。
「な、なんて威力なの・・・」
「とてつもない・・・」
「腰が抜けたのじゃにゃ・・・」
レイカは普通のモンスターボールを取り出し、ゲンガーの額に当てた。ゲンガーは吸い込まれるというよりも自分の意志で入っていったような感じだ。
「・・・やっぱりこっちのボールの方が居心地はいいようね・・・さあ、シオンタウンに戻りましょうか・・・」
シオンタウンへと戻る山道で・・・
「レイカさんはどうしてあの洞窟にいたんですか?」
サトリが尋ねた。
「・・・半年に一度聖域を見回ることにしているの。そして見回りを終えた者はあの泉で身を清めるというしきたりがあるのよ。」
レイカの話を聞いているとニャースの顔がだんだんとにやけていく。
「身を清めるのか・・・いいにゃ〜・・・」
何を想像しているのかは各自でお考え下さいませ(笑)。
「・・・何かやばそうなことを考えていそうね・・・まあいいわ、ジム戦やりたいって言ってたわね、サトリちゃん・・・だっけ・・・?帰ったら開けるからどうぞいらっしゃい・・・」
「わかったわ。・・・やったー!ついにジム戦ができるわーっ!!」
サトリは跳び上がって喜んだ。それをどれだけ待ち望んだことか・・・
「よかったなサトリちゃん。でも今日は体を休めて明日挑戦しに行ったらいいんじゃないか?」
「そうね、今日は疲れたし・・・」
コタロウの一言でジム戦を明日にすることにしたサトリ。ゆっくり休めば調子も万全だ!
第40話に続く。
あとがきにかえて
新技を考えるのに“ネーミング”を重視しています。できる限り『○○パンチ』とか『△△キック』とかはしないようにしてます。一見するとどんな技だかわからなくなることもある・・・かも?
考えるときは色々な単語を頭の中に思い浮かべ、それを2つ3つくっつける・・・というのが常套手段。
今までの話に出てくる技でお気に入りなのは『クレセントアッパー』、今回出てきた『ライジングサンダー』、『エレクトリックサークル』など。思いついた技でまだ出てないのも結構あるからお楽しみに?
[一言感想]
ついにレイカの実力が披露されました。
それにしても、ブラック・サンの不審さが徐々に表に現れてきましたね。
レイカが抜けたことで、事態はどう動くのか?
……けど、このままだと、今後も他に抜けていくジムリーダーがいそうだなぁ。