ジム戦の朝を迎えたサトリ。体調もポケモンの調子もバッチリだ。
「くぅ〜っ…この日をどんなに待ち望んだか!では、シオンジムへいざゆかん!!………の前に朝ご飯…」
意気込むサトリの腹の虫が大きく鳴った。そしてサトリの向かった先はポケモンセンター内の食堂である。朝早いため人もまばらだ。
「腹が減ってはポケモンバトルもできないわ。さーてと、ご飯に味噌汁ーっと♪」
「オレ達も食事にしよう。サトリちゃん、あわてるなよーっ。」
そんなコタロウの言葉に耳も貸さずご飯を口内にかき込むサトリ。その次の瞬間……
「うぐっ…ゴホッゴホッ…喉につまった〜…」
「だ、大丈夫か!?」
大丈夫なわけはない。コタロウはすかさずサトリの背中をさすった。サトリは苦しそうにしながらもどこか嬉しそうだ。
「はぁ〜…こんにゃんでジム戦は大丈夫にゃのかにゃ〜…」
ニャースがため息混じりにつぶやいた。
第40話 シオンジム!待ち望んだバトル
「はあーー苦しかったーー…でもし・あ・わ・せv」
シオンジムへと向かう道の途中、サトリは幸せを顔全体で表している。朝食はあまり食べられなかったもののお腹はいっぱいだ。
「ところでサトリちゃん、あのレイカさんは相当の使い手だぞ。何か作戦は考えているのかい?」
「…う〜ん、それなんだけど…」
サトリの顔がシリアスモードに変化した。
「あのゲンガーを何とかしなくちゃ…あの『ファントムゾーン』を使われちゃったらどんな攻撃も効かないもの。使われる前に倒さないと!速攻作戦よ!」
「それって作戦といえるのかにゃ〜…」
シオンジム前……
「待っていたぞ!」
見覚えのある坊主頭の男がサトリ達に声をかけた。
「お、おみゃーは!」
「イワヤマ洞窟を案内してくれたシオンジムのトレーナー…」
「ホクシンさん!」
「…いちいち2人と1匹で言葉を振り分けるな…」
ホクシンは呆れ顔だ。
「まあいい。レイカ様から話は聞いた。だがこのジムのしきたりとしてレイカ様への挑戦権を得るにはまず大御所様にお会いせねばならぬ。」
「大御所様?」
2人と1匹が今度は口をそろえて言った。
「そうだ。大御所様は任を退いた先代ジムリーダー。現在はレイカ様のおばあさまがそれにあたる。では入るがよい。案内しよう。」
ホクシンがジムの扉を開けると中から何やら気配を感じる。前にも感じたことのある気配だ。
「これって、まさか…」
「さあ、行くぞ。」
中にはいるとそこは薄暗く、無数の球体がうごめいていた。ゴースである。
「や、やっぱり…『まさか』的中…」
「出たいのじゃにゃ…」
「心配するな。こいつらはジムに住み着いた野生のゴース。だが人に馴れているから襲いかかってきたりはしない。」
その言葉にニャースはホッと安堵のため息。だが……
「ゴ〜ス♪」
1匹のゴースがニャースに飛び掛かってきた。
「ギャニャ〜ッ!!にゃんで〜っ!?」
「気に入られたみたいだな。良かったなニャース。」
コタロウが笑い混じりに言った。だがニャースはそんな冗談の通じる状況ではない。
「ぼっちゃま〜っ、からかってにゃいで助けてくだされにゃ〜!!」
「そいつは気に入った者につきまとい、そう簡単には離れない。我慢するのだな。さあ、ここが大御所様のお部屋だ。そそうのないようにな。」
ホクシンはニャースを軽く突き放し、目の前にある黒塗りの扉に手をかけた。扉が重々しく開いていく。
「これまた大きな扉作っちゃってェ〜、大御所様ってそんなに凄いの?」
「そうとも。任を退いたとはいえその実力はレイカ様に勝るとも劣らない。」
「なるほど…」
扉が完全に開いた。薄暗いため見ただけでは誰かいるのかよくわからない。
「大御所様、挑戦者とその一行をお連れして参りました!」
するとうっすら灯りがともりはじめ、部屋の奥に黒ずくめの老婆の姿が確認できた。その姿を見たニャースは口をあんぐりと開けた。以前に会ったことがある老婆だったのだ。
「にゃ…にゃんであのばーさんがいるのじゃにゃ…?」
「知ってるの?」
「知ってるもにゃにもシオンの塔の話をした黒ずくめのばーさんじゃにゃ!」
老婆もこちらに気付いたようだ。よっこらせと腰を上げこちらに歩いてきた。
「おや、誰かと思えばあの時のにゃあちゃんじゃないかい。また会うとはね。」
「驚いたにゃ…まさかばーさんが大御所様とやらにゃのか…?」
「こら!大御所様に何という口の利き方だ!」
ホクシンがニャースを怒鳴りつけるが老婆がそれを止めた。
「おあめなさい。このにゃあちゃんはわしの友達じゃ。」
「はっ…申し訳ありません。では私はこれにて失礼いたします…」
老婆に向けて一礼し、ホクシンは部屋から立ち去った。彼の姿が見えなくなると、老婆はサトリの方に向き直った。
「お前さんがサトリちゃんかい。レイカから話は聞いているよ。それにしてもあのシオンの塔から何事もなく戻ってくるとは…ただ者ではないの…」
「にゃはは〜。わしがいにゃかったらやられていたにゃ〜。いわばわしの活躍にゃのじゃにゃ!にゃっははは〜♪」
サトリは少しムッとしたが当たっている部分もあるので文句は言えず、悔しさをこらえながら下を向いていた。
「ホウ、あんたがコタロウさんか、いい男だねぇ〜。どうだい今度いっしょにカラオケでも…」
老婆はコタロウの方に向いていた。そのコタロウは苦笑いを浮かべている。サトリはムカムカしてきた。
「あの、挑戦権を得るのに、何かテストとかあるんですかーっ!?」
サトリが大声で叫んだ。老婆は耳を押さえながら向き直る。
「何もそんな大きな声出さんでも…別にテストも質問もないよ。ただ、少し目を見せてくれんか?」
「へ?いいですよ?」
2人は目を合わせた。老婆の瞳は深い海の底のような、レイカの瞳とそっくりだ。
「はいおしまい。綺麗な瞳だねぇお前さん。こんな奥の奥まで綺麗な目をした人はそうはいないよ。さあ、この先がバトルフィールドだ。行っておいで。」
老婆が指差した先にまた黒塗りの扉がある。サトリ達が近付くと扉はまるでそれを待っていたかのようにひとりでに開いた。
「じゃあ、行ってきます!」
「ちょっと待った!!」
いざゆかんとしたサトリは老婆の突然の引き止める声にすっころんでしまった。
「いったぁ〜…何よぉ〜…」
「その先へ行けるのは挑戦者1人のみ!コタロウさんとにゃあちゃんはこの部屋で待つのじゃ!!」
声を張り上げる老婆の顔はわずかににやけている。
(…このおばあさん、男好き…?)
サトリは口に出さず、心の中でつぶやいた。
「アハ…そうだったの…じゃあ仕方ないわね。コタロウさん、ニャース、今回はあたし1人で戦うわ。大丈夫、勝ってくるから!」
「わかった。頑張れよ!」
「みっともにゃい負け方だけはするにゃよ〜!」
コタロウ、ニャース、そして老婆に見送られ、サトリはレイカの待つ部屋へと向かっていった…
シオンジム、バトルフィールド。その奥にある椅子に腰掛け、レイカは待っていた。肩にはムウマがちょこんと乗っかっている。
「…ようこそ、サトリちゃん…さっそくだけどバトルの説明をするわ…3対3の時間無制限。ポケモンチェンジは挑戦者のみ可。いいかしら…?」
「望むところよ!こっちは早くバトルしたくてウズウズしてるの!」
サトリは自分側のサイドについた。続けてレイカも椅子を立ち、ゆっくりとサイドに向かって歩いていく。2人がそれぞれのサイドにつき、お互いの1匹目のポケモンを繰り出した。
「行くのよっ、ピジョン!」
「…いでよ、ジュペッタ…」
レイカの繰り出したポケモンは何とも奇妙なものだった。綿を詰めた布の袋・・・ぬいぐるみのような外見をし、口がファスナーで閉じられているのだ。
「ジュペッタ…ぬいぐるみポケモン。ぬいぐるみの綿に呪いの力がしみついて生まれたと言われている。」
「なるほど…幽霊は軽いから風でよく飛ぶ!先手必勝よピジョン、『風起こし』!」
「ピジョーッ!!」
ピジョンの起こした風にジュペッタはあっさりと吹き飛ばされ、高く舞い上がった。意外とも言えるあっけなさにサトリも拍子抜けだ。
「あらら?でもチャンス!もう一度『風起こし』ーっ!」
ふと見ると舞い上がったはずのジュペッタの姿が見えない。目を下に向けてわかった。風の勢いを逆に利用しピジョンの背後に移動していたのだ。
「…『だましうち』…」
ジュペッタの一撃がピジョンの背中に打ち据えられた。だがタフさが自慢のピジョンのダメージはそれほどではないようだ。しかしこのままでは決定打がない分不利だ。
(やっぱりこのままじゃいつかはやられる!)
サトリもそれを理解したのかポケモンチェンジすることにした。
「次は…スターミー!!」
「…チェンジしても無駄よ…ジュペッタ、『電撃波』。」
ジュペッタの口のファスナーが開き、そこに集中した電撃のエネルギーが波動となってスターミーに向けて放たれ、直撃した。水タイプの苦手な電気技。効果は抜群である。
「…決まったわね……えっ…?」
レイカの予想に反し、スターミーはまだ倒れてはいなかった。その目の前には薄い防御壁が張られている。
「…なるほど、直前に『光の壁』を張り致命傷を免れたのね…」
「今度はこっちの番よ!スターミー、『自己再生』してから『水鉄砲』連射よ!!」
自らの傷を修復し、反撃に出るスターミー。水鉄砲の連射にジュペッタは押され気味だ。
「よーし、いい調子よ!」
「…そうはいかないわよ…『鬼火』……!」
ジュペッタが再び口を開き、今度は紫色の不気味な火の玉を連射しだした。水鉄砲にぶつけ、蒸発による威力相殺を狙ったのだ。
「…続けて『電撃波』……!」
全て相殺したところで、ジュペッタは強烈な一撃を放った。光の壁をも砕きそうな勢いだ。
「ええーい、波動には波動よ!スターミー、『水の波動』おぉーっ!!」
2つの波動がぶつかり合った衝撃がそれぞれの技を放ったポケモンにも及び、2対はほぼ同時に吹っ飛ぶ。スターミーはサトリの目の前に落下し、ジュペッタはレイカの真上を飛んでいき、まだ主のぬくもりの残る椅子に激突した。
「…あ、相打ち……」
ジュペッタは確実に戦闘不能である。そしてスターミーも倒れたまま起きあがらない。だがサトリがスターミーをボールに戻そうとしたその時……
「あ…スターミーが……起き上がったーーっ!!」
ボロボロの状態だが、スターミーはしっかりと起き上がり、そのコアを輝かせている。
「よし!凄いわスターミー!凄いタフさ!!この調子で残りの2体もいけるかも!!」
「…戻ってジュペッタ…やるわね……でもバトルはこれからよ…ムウマ…」
これまで常にレイカのそばを離れなかったムウマがふよふよと海に漂うメノクラゲの如く前にやってきた。
(このポケモン…!ただ可愛いだけなんて事はないはず…!でもあたしは全力で戦うだけよ!!)
「手加減無しよ、ムウマちゃん!!」
気合いを入れ直すサトリだが、彼女は気付いていない。ジュペッタの最後の力がスターミーにまとわりついていることを………
一方、その頃……
「ですから、オレ達は旅をしている身ですので、ここにとどまるわけには…」
「いーや、ぜひともわしと一緒に暮らしてくれい!!」
「にゃんだかにゃあ……」
コタロウは老婆に激しく迫られていた………
第41話に続く。
あとがきにかえて
ルビー・サファイアにまだ出てこないポケモン達がどんな新しい技を覚えるようになっているのかをぼくは知りません。なのでそんなポケモン達が多いぼくの小説では新技はそれを使えることがはっきりするまで使わせずに今までで使うことのできる技や自分で考えた技などをまぜてなんとかやっています。同じように特性もあまり知りません(技もそうだけど、他の方の小説を見たりして知ったものもある)。その場合は特性を考えずにやっていくのです。そういうのが載っているサイト様もあるらしいけど行ったことはありません。当然改造とかもするつもりはありません。まだ公式にも明かされていないことを先に知ってしまうのにはさすがに少し抵抗があるからです。金銀版のポケモンの多くは『ポケモンコロシアム』でスナッチできるというし、『ファイアレッド』、『リーフグリーン』も来春(2004年)には発売するし、今はただひたすら待つのみだぜ!
[一言感想]
意外なところで、ニャースが知り合ったお婆さんと再会。
……なかなか精力的な人のようです(ぇ)。
サトリの戦いは順調のようですが、ここから徐々にレイカの真価が発揮されそうです。
そして、コタロウは大御所の手から逃れられるのか!?←