ヤマブキシティのポケモン大運動会に出場したサトリ一行。そこでまずポケモンと100メートル走に出場したサトリは惜しくも2位。更にピンポン玉運びリレーに出場したニャースのアクシデントもあり、一行のいる紅組はやや劣勢だ。だがそれでもサトリやコタロウ、その他の選手の頑張りによって必死に白組にくらいついている。そして今、逆転をかけた『ポケモンで借り物競走』が始まった。これにはサトリもコタロウも参加している。
「よーし、いくわよ!」
「ここで逆転だ!」
ではルールを説明しよう。まずはトレーナーが『借りる物の名前が書かれた紙』を取ってくる。それをポケモンに持たせて借りてきてもらう。借りてきたらそれを持ったままトレーナーとポケモンが一緒にゴールへ向かうのだ。
「よし!また紅組の人が勝ったわ。次はあたしの番ね。続かなくちゃ!やるわよニドラン!」
「ニド!」
サトリは勇んで紙を取りに行った。それをじっと待つニドラン。戻ってきたサトリは紙を開いて見てみた。
「えっと、なるほど!これは簡単だわ、もう決まってるじゃない!行くわよニドラン!」
なんとサトリはそのままニドランと一緒にゴールへと向かっていった。見る人達には何を考えているのかわからないだろうが彼女にはちゃんとした自分の考えがあったのだ。
「ゴール!1番よ!」
ゴールロープを切り、サトリはVサインをした。だが、係の人は………
「借り物をせずにゴールは認められません!よって失格!」
サトリも負けずに反論する。
「なによ!借り物はもとからあったのよ!しかも2つ!ホラ、紙を見てよ!」
その紙に書かれていた物とは………『可愛い女の子』。
第45話 魅惑の運動会!午後の部
「まったく!なんで認めてくれなかったのよ…あたしとニドランの可愛さを……」
昼の弁当を食べながらサトリはブツブツと文句をたれていた。結局失格にされてしまったのだ。『借り物が人やポケモンの場合はその時点で競技を行っている選手を対象にすることはできない』のだそうだ。
「アハハ、驚いたよ。いきなりゴールに向かうんだものな。何かと思ったぜ。」
コタロウも弁当を食べている。ちなみにニャースは今現在も保健室にいるそうだ。
「笑い事じゃないの!あ〜あ、もしそうだと知ってたらナツミさんでも連れてきたのに……」
実際に探してくるのはニドランなのでナツミを連れてくるとは限らないがそこはもう誰にもわからないので気にすることもないだろう。
「コタロウさんが借りてきたのは『モンスターボール』だったのよね。あたしもそういうのだったら1着になれたのに……」
「そうだね。フフッ…」
「そうよね。ウフフ…アハハ…」
ほのぼのとした笑いに包まれた明るいひとときである………
さて昼食が終わり、午後の部も進んでいった。
“さて、この運動会も残りわずかとなりました!次の競技は『ポケモンで騎馬戦』!!既に両チームスタンバイしております!”
通常の騎馬戦は人が3人で馬となり上に人を乗せて行われるが、この競技はその名の通りポケモンを馬として行うのだ。あとは通常の騎馬戦と同じである。また、技を使うこと、高さが1メートル未満及び3メートルを超えるポケモン、飛ぶことのできるポケモンの使用は禁止されている。
「コタロウさーん!頑張れーっ!!」
騎馬戦には出場しないサトリは選手席でコタロウを……いや、彼だけでなく紅組全体を応援だ。
「ぼっちゃま〜!負けるにゃ〜っ!」
聞き覚えのある声。ニャースである。腰の具合はもういいようだ。
「あ、あんたいつの間に?」
「たった今にゃ!おみゃー、わしがいにゃい間にぼっちゃまに手出ししてにゃいじゃろーにゃ?」
サトリは首を横に大きく振った。手出しはしていない。隣に座ったり一緒に弁当を食べたりしただけだ。
「にゃらいいのじゃにゃ。はっ、ぼっちゃま頑張るにゃ〜っ!!」
アーマルドに乗ったコタロウは次々と白組選手を倒していく。倒したと言っても帽子を取っただけだが騎馬戦ではそれが『倒した』事になるのだ。
“帽子を取られた選手、ポケモンから落ちてしまった選手は速やかに場外へ出てください!”
既に両チームかなりの選手が脱落している。残り時間もあとわずかだ。
「アーマルド、あと2人倒せば逆転だ。できるか?」
「ウォーン。」
アーマルドは低くうなると白組選手の方に向かっていった。そしてコタロウがまず1人の帽子を取る。同点だ。その時は以後からもう1人の白組選手が迫ってきた。絶体絶命のピンチ!
「あぁっ!コタロウさーん!!」
「ぼっちゃまーっ!!」
サトリ達は思わず目を閉じた。そして恐る恐る目を開けるとコタロウはその選手の帽子も見事に取っていた。少女と老猫はホッと安堵のため息。と、その時競技の終了を告げるピストルが鳴った。
“やりました!紅組が逆転勝利!!コタロウ選手、凄い早業!!”
「やったー!流石はコタロウさん!」
「心臓が止まるかと思ったにゃあ…動いてるよにゃ?生きてるし……」
ニャースは左胸に手を当てた。どうもハラハラのサスペンスシーンは年寄りの心臓に悪そうだ。『運動会を見ていて心臓止まって老ニャース死亡』なんて新聞の隅に乗るかどうかもわからない。おまけに死んでも死にきれない。ニャースの心臓は今も動いている。よかった。
“では次の競技、『ポケモンと1600メートルリレー』の選手入場です。”
選手入場が終わるのを見届けるとサトリはすくっと席を立った。
「どうしたのにゃ?」
「あたし、この後にやる最後の競技に出るから集合の前にちょっと作戦考えようと思って。コタロウさんには宜しく伝えておいてね。」
「わかったにゃ。負けるにゃよ。」
サトリはうなずくとニャースに向けて手を振りながら席を後にした。彼女の出る最後の競技でどちらが優勝となるか決まるのだ。負けるわけにはいかない。
(問題はどの子を出すかよね……素早いポケモンが有利だけど…でもパワー型で堅実にいくか……)
勝敗を分けるポケモンの選択。重要なだけになかなか決めかねるのも当然である。
「よし!決めたわ!あなたに決めた!!」
“さあ!今年の大運動会もいよいよ最後の競技となりました!!『バトル帽子取り』!これで全てが決まります!果たして優勝するのは紅組か、それとも白組か!?今!選手入場です!!”
サトリは紅組の一番最後となった。まさしくおおとりである。断じて勝たなければならない。ましてやみっともない負け方などできない。
(よし!相手が誰であろうと全力で戦い、そして勝つ!!)
“ではこの競技の説明をいたします。選手はそれぞれ自分のポケモン1体を使って相手トレーナーのかぶる帽子を奪いあい、先に奪った方の勝ちとなります。なお、トレーナーは白線で区切られた自分の陣地から外に出てはいけません。陣地の中は自由に動き回ってもよしとなっております。相手の陣地に入り込めるのはお互いのポケモンのみとなります!素早いポケモンで一気に決めるもよし!相手ポケモンを倒してから確実に奪うもよし!では最初の選手、前へ!!”
ついに始まった。このバトルで重要なのはトレーナーを守ろうとするポケモンの心。これは信頼関係なくしてはあり得ない。次にどう攻めるかの駆け引きである。速攻か、堅実か。その駆け引きは通常のバトル以上に難しいといえるのだ。
“おおっと!紅組のミノリ選手、速攻型のコラッタで白組、トシヤ選手のパワー型、ゴローンの攻撃をかわし帽子をゲットだーっ!!”
「やったわ!また紅組の勝ちよ!負けてられないわね。カメール、調子はどう?」
「カメーッ!」
サトリが選んだのはカメールだった。ロコンゲットの際に見せたパワー、硬い甲羅の守り、転がればスピードも出る。このバトルに最も適したポケモンかもしれない。
“白組も負けてはいない!ジュン選手のフォレトス、速攻できた紅組、コウタ選手のビリリダマを受け止めたーっ!ビリリダマはそのショックで『大爆発』!戦闘不能だァーっ!!”
刻一刻とサトリの番が近付いてくる。そうするとさすがに緊張してくるものである。サトリは深呼吸して気持ちを落ち着かせた。カメールも真似して深呼吸だ。
「フーッ!よし!いつでもこーいっ!」
「カメーッ!」
そしてついにサトリの番がやってきた。本当にこれで最後の最後である。向こうには彼女の相手となる白組の選手がいる。よく見るとそれはライバルと決めたナツミだった。
「ナ、ナツミさんっ!?まさかこの運動会で戦えるなんて!」
隣にはUFOに2本の腕が生えたような奇妙な姿のポケモンがいる。その腕は巨大で攻撃、防御どちらにも役立ちそうだ。サトリはどこにしまっていたのか図鑑を取り出した。
“メタング…鉄爪ポケモン。2つの脳を磁力の神経が結ぶことで強力なサイコパワーを生み出す。腕を後ろにまわし高速で移動することもできる。”
「へぇ…強そうね…でもあたしは負けない!絶対に勝つ!!」
サトリはナツミを指差し勝利宣言をした。ナツミもそれに気づきクスッと微笑み返した。
「可愛いわね…この運動会でどれだけ成長したかあたしに見せてちょうだい。全力でかかってくるのよ!!」
“おーっと!両選手ともやる気満々だーっ!!そういうことならさっそく始めよう!両選手、前へ!!”
2人とそのポケモン達はアナウンスに従いそれぞれの陣地へ歩み寄っていった。
“では、開始!!”
「行くわよカメール!」
サトリは帽子の鍔をつまんで後ろにまわした。彼女の祖父が若かりし頃よくやっていたことを真似したものだ。もちろんサトリ自身は見たことがない。祖父に聞かされたことがあるということである。
「帽子を狙うのよ!」
「カメーッ!」
カメールはナツミ(の帽子)に跳びかかった。だが、それをメタングが阻む。やはり簡単にはいかない。
「メタング、『メタルクロー』。」
「カメール、『からにこもる』のよ!」
メタングの爪がカメールを吹っ飛ばし、その体はサトリ側の陣地に叩きつけられた。もし『からにこもる』のが遅れていたら今の一撃で戦闘不能だったろう。
「やっぱり接近戦は無理か…カメール、『水鉄砲』よ!」
「メタング、『念力』で返すのよ!」
水鉄砲はメタングに届くことなく円を描いて見当違いの相手へ命中してしまった。それを放ったカメール自身に。
「ガメーッ!!」
「技がぐるっと一回転したにゃ!」
観客席のニャースもたまげた。だがそれは心臓が止まるほどの衝撃ではなく、少々ドキッとした程度にとどまった。
「押し返すのではなく起動操作して返すとは!超能力者はエスパーポケモンの力を最大限に引き出すというが、念力ひとつでそこまでできるのか…!」
コタロウもすっかり見入っている。2人の競艶にではなくバトルにだ。競技の方では今度はナツミが反撃に出た。
「メタング、サトリちゃんの帽子を奪うのよ!」
メタングはその腕をサトリ(の帽子)に向けて振り回してきた。しゃがんでかわしたもののもう片方の腕も帽子を狙ってくる。今度はよけきれない。その時、カメールがその腕に噛みついた。そのせいで腕の向かう方向が少しずれ、何とか帽子を奪われずにすんだ。
「助かったわ!ありがとうカメール!勝負はこれからよ!『転がる』のよ!」
「カメッ!」
カメールは頭と手足を甲羅に引っ込め、転がりながらメタングに体当たりをしかけた。
「凄い勢いね…メタング、『リフレクター』!」
メタングの前に見えない壁が出現、カメールの行く手を阻む…が、カメールはメタングの横を通り過ぎ、Uターンしてナツミの方へ向かっていく。これが狙いだったのだ。
「なっ…」
「考えたなサトリちゃん!攻撃と見せかけて相手を油断させた隙を突くとは!」
カメールはナツミの真後ろで跳び上がり、頭を出して帽子に食いついた。
“決まった!”
誰もがそう思った。サトリも勝利を確信した表情をしている。だが………
「『コメットパンチ』。」
ナツミの前にいたメタングが砂ぼこりを立てながら高速で後ろに回り込み、カメールに鉄拳をくらわせた。
「そ、そんな……」
「あたしの勝ちのようね。」
ナツミが言った。
「あなたがこれを狙ってくることは考えていたわ。だから油断したフリをして帽子を狙わせたわけ。…んっ?まだ帽子に噛みついたままっ!?」
カメールはコメットパンチをまともに受けながらもまだ必死に帽子にくらいついていた。
「カメールっ!」
「はっ、離れなさい!メタング、『サイコキネシス』!」
念の力によって強引に帽子から引き離されようとしているカメールだが、決して離すまいとこらえ続けている。
「にゃんと…」
「カメールはサトリちゃんのために必死に頑張っているんだ……」
ナツミは手で帽子を押さえつつ、サトリの方を見て言った。
「メタング!今のうちにサトリちゃんの帽子を!」
そうしようとメタングが念を解き、サトリの方へと向かおうとしたその時、ナツミは一瞬手をゆるめてしまった。帽子は手と頭の間からスルッと抜け、カメールとともに地面に落ちた。
“き……決まったーっ!!今度こそ本当に来まったーっ!!紅組、サトリ選手の勝利!そしてこの時点で紅組の優勝決定ーっ!!”
「あっ…?」
サトリは自分の頬を思いきり叩いてみた。
「痛いっ!」
夢ではない。赤くなった頬を押さえながらサトリはカメールの方を見た。カメールもサトリの方を見つめている。しっかりと地に足をつけて。
「カメール…よく頑張ったね…」
サトリはカメールに走り寄り、ぎゅっと抱きしめた。カメールの顔が赤くなり、顔がにやーっとしているのがわかる。そんなサトリ達を見てナツミは小さく口を開いた。
「負けたわ…」
「えっ?」
サトリがナツミの方へ振り返った。その手には何か光るものが握られている。
「いえ、あなたにじゃなくそのカメールの頑張りによ。その頑張りにプレゼントがあるわ。受け取って。」
そう言うとナツミは手に握っていた光るものをサトリに差し出した。それは金色に輝く丸いバッジだった。サトリはそれを見て目を丸くした。バッジよりも丸い。
「こ、これってまさか…?」
「そう。そのまさかのゴールドバッジ。あたしに勝った証よ。カメールの代理人として受け取りなさい。」
「は、はい…」
“あーっとサトリちゃん!勝っただけでなくバッジまでゲットしたーっ!ご覧の皆様、彼女とカメールに盛大な拍手をーっ!!”
会場が拍手に包まれる中、2人とそのポケモンは競技フィールドを後にした。そして拍手が終わる頃、アナウンスが流れた。
“ではこれより閉会式を行いますので、各チームごとに整列してください。………”
次の日の朝、ヤマブキシティ西側ゲート………
「見送りありがとう。」
「いいってことよぉvアハハ。」
「にゃはは。」
ナツミの笑いにつられてニャースも笑った。
「じゃあそろそろ行くね。楽しかったよ。ポケモンとの絆も強まった気がするし。これからも…」
言いながらサトリが右手を差し出すと、ナツミはそれを両手で強く握った。それこそ痛くなるほどに。サトリはドギマギしている。
「な、何……?」
「いいこと?これで終わりと思わずにポケモンとの絆を深めていくのよ。頑張って!」
「わ、わかった!」
2人は微笑みかわし、そしてサトリ一行は出発した。見送るナツミに手を振りながら。ナツミも負けじと(?)手を振り返し、投げキッスもおまけにつけた。
「またねぇーっ!」
「元気でなーっ!」
「次のサービスも期待しているのじゃにゃ〜っ!」
一行が完全に見えなくなってからナツミは心の中でつぶやいた。
(次のサービスって何よ……それは置いといて、あの子…サトリちゃん、凄いキレイな心をしてる。光ってるわ。今このカントーにひしめく闇を引き裂くような、そんな光を……)
中にポケモンの入っていない黒いモンスターボールを取り出し、手でもてあそびながらナツミはジムへと戻っていったのだった………
「えっと、次はどんな街?」
サトリがコタロウに聞いた。
「タマムシシティといって、ヤマブキに負けないくらいの都会だけど自然も多いキレイな街だよ。」
「へぇ…早く行こう!ねぇコタロウさん!」
サトリはコタロウの手を引っ張りながら駆けだした。それをニャースが追いかける。ぎっくり腰にならないよう気をつけながら。
「また手を握ってぇ〜っ!離すのじゃにゃ!」
「ああ〜〜〜っ!!」
突然サトリが何かを思いだしたように大きな声を上げた。コタロウとニャースの耳はそのためにキーンとしてしまった。ニャースに至ってはひるみの追加効果付きだ。
「どうした?」
「モンスターボールのこと…ナツミさんは黒いの使ってなかったのよ!そのこと話そうと思ってたのに忘れちゃった!あ〜もうっ!あたしのバカ!!」
サトリは両手で自分の頭を平手打ちし続けた。最初の挑戦の時は怒り心頭で聞いていなかったのだ。だがもう遅い。今さら引き返してそのことだけ聞くのはもっとバカみたいである。
「仕方ないわ!このままタマムシシティに行きましょう!」
「えっ?」
自分にとって最良の(?)選択を選んだサトリ。ナツミなら刺客など来ても楽に撃退できるであろう。と考えたのだった。そして2人と1匹はタマムシシティへの道を進んでいくのだった………
「やれやれじゃにゃ……」
続く。
作者のうだうだ雑言
小学校、中学校の頃の運動会(中学に入ってからは体育祭か)に持っていく弁当の中には必ずカツを入れてもらっていました。勝つという縁起をかついだ食べ物だから。でも、ぼくのいるチームは負けることの方が多かった。あてにならない!けどいいんだ(何が)。
ところでみなさん、弁当のおかずでは何が好きかな?ぼくは、卵焼き!母の作る卵焼きはとにかく絶品でした。今もだけどね(笑)。
さて、次回からちょっとしたシリーズものをやってみようと思います。前後編はわりとあったけどシリーズものはサトリとワカナのフルバトル以来……?
[一言感想]
そもそも借り物のテーマを『可愛い女の子』と書いた経営陣につっこみたい←
運動会の最後は、ナツミとの直接対決でした。
バトルとは違う形でジムリーダーに認めてもらい、バッジを得るというのも面白い展開でしたね。