ネオロケッツカントー支部タマムシ分所………その日、男女2人の団員がそこの所長に呼び出しを受けた。
「一体何の用だろう。」
男(といっても少年に近いが)がつぶやいた。
「きっと任務よ!う〜んワクワクするぅ〜っ!」
女(といっても少女である)は1人で予想を立てて喜んでいる。
「おいおい、もし違ったらショックだからそれぐらいでやめておけよ。」
「そんなこと言わないでお兄ちゃん。前向きにいこうよv」
この2人は兄妹なのだ。兄の方は焦げ茶色の短髪に黒の団員服。妹はピンク色の髪を後ろで2つに束ね、同じく黒の団員服(女性用で下がスカートになっている)である。
「失礼いたします。タケル、ミコト、参りました。」
所長室に入った2人は所長に一礼し、その場で直立した。その所長はデスクに両ひじをつき、2人を見つめている。
「うむ。楽にしてよいぞ。」
2人が黙したまま『休め』の姿勢をとると、所長はゆっくりと口を開き始めた。
「実はつい先程カントー支部の方から君達宛に指令書が送られてきたのだ。早急に準備し、取りかかってくれ。」
「な、なんと…カントー支部が私達をご指名してくださったのですか…!」
2人は一瞬耳を疑った。無理もない。支部から名指しで指令を受けるなどそう滅多にあることではないのだ。
(よし!何としてもその任務、成功させてやる!うまくすれば兄妹そろって支部員に昇進できるはずだ!)
兄・タケルは姿勢を崩さぬまま心の中でガッツポーズをし、叫んだ。
妹・ミコトは更にその先も考えていた。
(昇進して、お給料が上がったら、憧れのアオプルコでバカンス!お兄ちゃんと2人っきりで、ウフフ……)
捕らぬタヌキの何とやらである………
第46話 お嬢さまと少年
緑豊かな大都市・タマムシシティ。その街中を1人の少年が歩いていた。サトリがライバル視する少年・カオルである。バッジを4つゲットし、勢いに乗る彼は5つ目のバッジをゲットすべくこの街のジムへと向かっているのだ。と、彼の進行方向からこちらへ向かってメイドらしき女性達がひとかたまりとなって走ってくる。
(な、何なんだ…)
疑問に思うカオルの目の前でその一団は止まり、彼に尋ねた。
「ぼうや、ちょっといい?この辺りで青いショートカットの髪をした女の人を見なかった?」
いきなり何だと思ったが、カオルはそれを顔に出さず正直に答え、更に自分の質問も彼女らにぶつけた。
「…見てないな。ところでタマムシジムはこの先だと聞いたが今は開いているか?」
態度のでかいこの少年に、メイド達はムッとしながらも笑顔で答えた。
「ご、ごめんね…今ジムリーダーがいなくなっちゃったのよ……それで私達も探しているんだけど……」
「早く見つけなくちゃ…」
「明日は大事なお見合いがあるんですもの!」
「ありがとうぼうや、それじゃあね!」
メイド達は口々に言い、再びひとかたまりになって走り去っていった。それを目だけで見送りながらカオルは頭の中で考えていた。
(…手分けして探した方がいいんじゃないのか……それはともかくジムリーダー不在か…どうしようか。……お見合い、ね………)
「ん?」
そばにあるビルの影に何かの気配を感じたカオルはそちらに振り向いた。人だ。大きめのトレーナーにジーンズ。頭にはキャップをかぶっていて一見すると男だか女だかわからない。だが、キャップから青い髪が少し出ているのが見えたため、カオルはすぐにその人物の正体がわかった。
「…なんで隠れてるんだ。」
「別に隠れてるわけじゃありませ…いや、ないよ。たまたまここにいただけさ。」
その人はカオルの方へやってきた。近くで見ると美しい顔をしている。
「今向こうに行った人達が探しているのはお前じゃないのか。青いショートカットの女……」
「偶然ですわ…だよ。青いショートカットなんて探せばいくらでもいる。わたくし…いやボクもその1人ってことさ。」
「話し方がたどたどしいな。……それとさっきから気になっていたんだがお前から香水の匂いがする。女物のな。」
何故カオルが女物の香水の匂いを知っているのかは置いておき、その人はハッとした。刹那、強い風が吹きキャップを飛ばしていった。風が止んでそこにいたのはまぎれもなく『青いショートカットの髪の女の人』だった。
「バレてしまいましたか…」
女の人はフーッとため息をつき、カオルに向けてニッコリと微笑んだ。カオルもそれに微笑み返す。
「フッ、男のフリをするならもう少し男の言葉遣いを練習してからするんだな。」
「あと香水の匂いも落としてから…ですわね。ウフフ……」
「そうだな。フフ…そういえば自己紹介がまだだったな。」
カオルはコホンと咳払いをし、右手を差し出した。
「オレはカオル。マサラタウンから来たポケモントレーナーだ。」
女の人も右手を差し出し、2つの右手は固く握りあった。
「わたくし、タマムシシティジム・リーダーのアオイと申します。試合でしたら喜んでお受けいたしますわ。」
「あーっ!!いた!見つけたーっ!!」
先程聞いた声がまた聞こえてきた。さっきのメイド達が戻ってきたのだ。アオイは思わずカオルの後ろに隠れたが、人1人隠すにはカオルの体は小さすぎる。
「見つけましたよお嬢さま!さあ、戻りましょう!明日のお見合いの………」
「イヤです!」
メイドの1人が言い終わる前にアオイはカオルの後ろから反論した。
「わたくしはお互いに愛し合えるような方と結婚したいのです!一度きりのお見合いなんかで決めたくはありません!」
「ですが現実として結婚相手はお見合いで決めるのがベストなのです。恋愛結婚なんてうまくいくはずありません。漫画じゃあるまいし。それにお見合いしてお気に召さなければお断りすればよいのですよ。さぁ、行きましょう。」
メイドの1人がカオルの後ろに回り込み、アオイの腕をつかんで強引に連れていこうとした。と、そのメイドの腕をカオルがつかみ、アオイの腕から引き離した。
「な、何をするんですかっ!」
「彼女がイヤだと言っているんだから無理に見合いなんかしなくていいじゃないか。しなけりゃ死ぬってわけでもないだろう。少しは彼女の意志を尊重したらどうだ。」
口数の少ないカオルにしてはよくしゃべっている。それはいいとしてアオイはカオルの後ろで顔を赤らめていた。
「な、何を言いますか!これはお嬢さまのためなのです!今はイヤでもそれでよかったと思えるはず!邪魔をなさるのなら容赦しません!このメイド長・タエコがね!」
そう名乗ったメイドはモンスターボールを手に取っている。それを見てカオルもボールを取り出した。2人の間には火花が散っているのがわかる。
「や、やる気ね…後悔しても知らないわよ。行くのよマリルリ!」
「後悔するのはそっちかもしれないぜ。行け、ニョロゾ。」
同属性対決となった。トレーナーの腕が試されるバトルである。
「マリルリ、『アイアンテール』!」
「ルリーッ!」
マリルリは跳び上がり、高質化した尻尾を激しくニョロゾに向けて振り下ろした。
「ニョロゾ、受け止めろ。」
そのマリルリの尻尾をニョロゾは片手で受け止め、更にその尻尾をつかんだ。当然マリルリは動きがとれなくなり地面に倒れてしまう。
「『地球投げ』。」
ニョロゾがマリルリの尻尾をつかんだまま跳び上がり、空中でハンマー投げのようにマリルリの体を回転させた。そして地面に向けてそれを投げ降ろすように尻尾から手を離した。
「あぁっ!マリルリ!」
マリルリは地面に落ちた衝撃で気を失っている。完全に戦闘不能だ。
「な、なんて強力な一撃…」
「メイド長がこうも簡単にやられるなんて……」
「あの子、見かけによらず強いわ!」
他のメイド達が口々に言う。タエコはマリルリをボールに戻し、一歩後ずさりしながらも戦闘姿勢を崩してはいない。
「ま、まだまだ!弱点を突けば……」
「どうしたのかね、みんなそろってこんなところで。」
その声がした方へ皆が振り向くとそこにいたのはスーツに身を包んだ格幅の良さそうなおじさんだ。メイド達はすぐさま直立しその男に一礼した。
「はっ、だんな様、実はかくかくしがじかで……」
「そうか…」
そう一言つぶやくと彼はアオイの方を向いた。
「お父さま……」
アオイが小声でそうつぶやくのがカオルには聞こえた。
「あんたがアオイさんの親父か……何故彼女が望まない見合いを強引にさせようとする。」
失礼な少年である。だがそんなカオルの態度にもアオイの父は穏やかだ。
「別に私は強引にさせようとはしていないが。しかしメイド達がそういった行動をしてしまったのは私の責任だ。それはわびておかなければならないな。アオイにも、そして君にも……そうだ。君の名は?」
「カオル……カオル・オーキドだ。」
カオルは無愛想に答えた。つくづく失礼な少年である(笑)。
「なっ……」
その場の全員が一瞬硬直した。カオルを除いて。カオルは何が何だかわからない。
「どうした。どうかしたのか?」
その一言で皆我に返ったが、誰もが動揺したような顔を見せている。
「い、いや何でもない。それよりカオル君。どうだね、今夜はうちに泊まっていかないか。色々と話がしたい。」
アオイの父がそう切り出した。その顔にはまだ動揺の色が隠しきれていないのがわかる。
「…わかった。お言葉に甘えることにするよ。」
少々不信感を抱きながらもカオルはそれを受け入れた。後ろにくっついたままのアオイもとても嬉しそうだ。
「まさかカオルさんがオーキド家の方だとは存じませんでしたわ。でもご心配なさらずに。お父さまは優しいお方です。」
(…どうなっているんだ?何が何だかさっぱり…)
カオルは頭がこんがらがったまま、アオイの家、もといタマムシジムへ案内されたのだった………
タマムシジム内・バトルフィールド………
「おい、いつまで待たせる気だ。アオイさんは一体どこに…」
「お嬢さまは準備をしていらっしゃるのです。しばしお待ちを…」
カオルをここまで案内してきたタエコが彼をなだめた。
「さっきからそればかりじゃないか……」
「お待たせいたしました。バトルを開始いたしましょう。」
カオルがつぶやいた次の瞬間、アオイがようやくバトルフィールドにやってきた。藍色を中心とした青系の色でまとめられた着物を着ている。まるで海を思わせるような美しさだ。さすがのカオルもこれには思わず目を見張ってしまった。
「…カオルさん、どうかされましたか?」
「…いや、何でもない。さあ、バトルを始めよう。」
2人はお互いのサイドについた。審判を務めるのはタエコだ。
「それではこれよりジムリーダー・アオイと挑戦者・カオルのジム戦を開始します!使用ポケモンはそれぞれ3体。ポケモンチェンジは挑戦者のみ可!では、バトルスタート!」
「行くぞ!まずは行けっ、ガーディ!」
「おてやわらかにお願いいたします。行ってらっしゃいませ、ベイリーフ!」
「ガーディ、『炎の渦』だ。」
ガーディの口から吐き出された炎が渦を巻き、ベイリーフに襲いかかる。
「ベイリーフ、『光の壁』ですわ。」
見えない壁が炎をシャットアウトし、ベイリーフはダメージをまぬがれた。弱点の炎技をまともに受けていたら大ダメージを受けること間違い無しだっただろう。
「続けて、『剣の舞い』!」
ベイリーフが激しく舞い踊り始めた。動くたびに空気の剣が周りで飛び回る。
「大技が来るぞ。ガーディ、『リフレクター』。」
ベイリーフと同じようにガーディも目の前に見えない壁を張り、敵の攻撃に備えた。
「『原始の力』ですわっ!」
ベイリーフの周りの土が持ち上がり、オーラに包まれて岩のように硬質化していく。それらの岩が全てガーディに向かっていった。
「よけろっ!」
ガーディは小刻みなジャンプを繰り返してかわし続けた。だがしかし、法則性なく飛んでくる岩を全てかわすのは難しい。その一つがついに命中した。しかも張っていたリフレクターを一撃で砕き、ガーディ本体にである。
「しまった!」
リフレクターのおかげでダメージは軽減され、ガーディはまだ動けるようだが、それでもかなりのダメージを負ったようだ。
「相性面で有利でも油断は禁物ですわよ。それをはね返す手段もあるのですから。」
アオイが上品な笑みを浮かべながら言った。カオルも笑みを浮かべるがそれは苦笑いだ。
(くっ……まさかここまでの威力になるとは…リフレクターを張っていなければ確実にアウトだった…なんとか反撃に転じなければ。隙を待て…)
ベイリーフはとどめをさそうと少しずつガーディに近付いてくる。果たしてこのバトルの行方は………
第47話に続く。
作者のうだうだ雑言
バトルは次回で終わりますが、このシリーズはもう少し続きます。果たしてアオイのお見合い相手とは?
さて、オーキド家は何をしでかしたのか?でも別に罪に問われるような事じゃありません(笑)。こればかりはゆずれないぼくの好みとだけ言っておきましょう。詳しくは次回で!
それはそうと、最初に登場した2人組、わかりましたか?(何が)
[アットの一言感想]
タケルとミコトは今後の注目キャラクターです(何)。
今回はカオルの話でした。
アオイの一家と関わりましたが、元々オーキド家とは何かがあるようです。
そしてジムリーダー戦、そしてアオイのお見合いの行方は……?